それは・・・あまりにも唐突過ぎる展開だった。       

        気が付くと見知らぬ戦艦に乗っていた。

         そして、なにもかも忘れてしまった。

                  俺は何者か・・・

               なぜ,ここに来たのか・・・

               どうやって来たのか・・・

             わからない・・・なにもかも・・・

                  不安だった。

            そんな俺を仲間として暖かく迎え入れ、

            そして、新しい名前を与えてくれた。

          今にして思えば、彼らに出会えた事によって、

        かつて自分が見失った・・・取り戻す事の叶わなかった

                 

                  大切な何かを

             再び、取り戻す事が出来た・・・。

 

                 カイト・アムネジア

      

  

   

           機動戦艦ナデシコ                   

                       ”AからBへの3年間”                    

                     −記憶亡き『来訪者』− 

 

         第1話  彼の名は『アムネジア』中編

ブリッジ

 お気楽な艦長の発案で、戦争終結(といえるかどうか疑問だが)のお祝いをかねたカイトの歓迎会の準備が進められていた。ウリバタケの指示によってテーブルなどの会場の設営をする整備班。そのテーブルに運んできた料理をならべるアキトとホウメイ・ガールズ、会場の飾り付けは、ユリカ達ブリッジや,生活班の女子。一方主賓のカイトはというと・・・一緒になって準備を手伝っていたりする。なんでも、

「皆忙しいのにじっとしているのは悪いから。」

だそうである。ブリッジ上段でその光景を暖かな目で見つめるのは、プロスペクターと、フクベ・ジン提督。そのよこでゴートがなにやら難しい顔をしていた。ま、この人の場合、元からだが。ちなみにアカツキとエリナは,ネルガル本社と連絡を取っている為,ここにはいない。

ゴートが、プロスペクターに話し掛ける。

「よろしいのですか?彼をこのままにして。」

「いやいや、心配はいらないでしょう。もし、何らかのリアクションをするとしたら、もう既にやっているでしょうし,わざわざ見つかるような事もしないでしょう。それに、もうこの艦に進入しても何の得にもなりませんし。それに・・・何より彼は,このナデシコクルーとしての第一条件をクリアしていますから。」

「第一条件?」

「その第一条件とは何だね。」

ゴートとフクベ提督が聞き返す。すると,プロスペクターは、にやりとしながら答えた。

「人格に問題あっても腕は超一流です。」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

三人の会話はそこで途絶えた・・・。

 

1時間も経過しないうちに,準備が出来たようである。

「それじゃあメグちゃん、待機中の皆さんを放送で呼んじゃってください。カイト君は私と一緒にきてください。あなたの部屋を用意しましたので、案内します。ウリバタケさん。彼の荷物のほうは?」

ユリカがウリバタケに問い掛ける。

「おー、車ん中にあった荷物のほうはすでに部屋に運んどいた。カイト、中のほう確認しといてくれ。」

「荷物?そんなのあったんですか?」

車の中に身分を証明する物が無いと聞いていたのでてっきり何も無いと思っていたカイト。

「そっちのほうは部屋に着いたら見て下さい。こっちこっち。」

そういってユリカに引っ張られていくブリッジを出て行くカイト。

その光景を見ていたヒカルとイズミがアキトとリョーコをからかう。

「ねーねーアキト君。艦長、カイト君連れてっちゃったよ〜」

「ま、ユリカも結構面倒見がいいからなあ。」

「にぶいな〜アキト君は。仮にも若い男女が一つの部屋に入ってだよ〜」

「そのまま不倫いっちょくせ〜ん」

イズミが不気味にアキトに擦り寄っていく。

「どああああっっっ!!だっ・・・大丈夫だよ。あ・・・あっ・・あっ・・あいつなら。」

そう言いつつも動揺してドモリまくるアキト。そこにリョーコが突っ込むが・・・

「あいつならそんなことしねーよ。」

「とかなんとかいって〜ほんとはそうなるのを望んでたりして〜そうすれば、アキト君にアタックかけるチャンスだもんね〜」

「艦長と二人きりのカイトが切れる事とかけて、グOコの洋菓子をかける・・・・その心は・・・ぷっちん不倫・・・」

「だあああああっ。何言ってんだ!!イズミ!!」

キレかけるリョーコ。そこへ

「記憶喪失さんはそんなことしませんよ〜」

と、近くにいたミカコがそういってやってきた。

「「そ・・・そうだよな、あははは・・・」」

渇いた笑いをしながらアキトとリョーコが言う。するとミカコが一言。

「ところで・・・不倫って、なんですか?」

「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」

沈黙する一同。

・・・・・知らずに言ったんかい!!あんたは。

 


居住区の廊下

とある一つの部屋の前でユリカが立ち止まり、カード・キーをスロットに挿す。そのキーをカイトに渡してユリカはいった。

「この部屋を使って下さい。」

案内された部屋は、なかなか広く,机やベッドだけでなく、バス,トイレは勿論、乾燥機つき洗濯機や、ソファなどの応接セットまであった。

「あの〜もっと質素な部屋でいいですよ。私にはもったいないです。」

カイトは恐縮しながらそう言うが、ユリカは・・・

「とんでもない。カイト君はお客様ですから。気にしないで下さい。それに今、空いているのもこの部屋だけなんで。」

実は案内された部屋はムネタケ提督が使っていた部屋だった。カイトは応接セットの机とソファにおいてあった荷物の中身を確認しはじめた。荷物は、ボストンバック(ご丁寧にスカイラインのロゴ入り)と背広を入れるハンガー付きのバッグが一つ。ボストンバックには洗面道具、歯ブラシ、ブラシ、ヘアムース、ボタンダウンのYシャツが2枚、Tシャツが4枚、Gパンが1本、トレーナーが1枚、パンツが計4枚(トランクスとビキニパンツが各2枚)靴下が4枚と手ぬぐいとバスタオルが2枚ずづ、と2〜3日の旅行を想定した内容で、背広の袋には、ダークグレーのスーツ一着とダークブルーのネクタイが入っていた。そして、その脇には車の取り扱い説明書と、改造個所と整備要領の記されていた大学ノートが置いてあった。

「これで全部・・・ですか・・・。」

「なにか・・・思い出せましたか?」

カイトが荷物を確認し終えるとユリカが聞いてきた。

「いえ・・・なにも・・・・」

カイトはうつむいたままで言う。

「それじゃあ戻りましょうか。あと、ルリちゃんも呼んでいきましょう。」

暗い表情を察したユリカは、それを払拭するように笑顔で言いながらカイトの袖を引っ張り、部屋を出た。

 


ルリの部屋。

バスルームの湯船につかり、物思うルリ。

(・・・・・なんだろう・・・・・この感じ・・・・・)

部屋に戻ってからのルリはどこか心ここにあらずと言った状態だった。そして、湯船からあがり,備え付けの鏡に写った自分の全身を見つめる。

「・・・・・・・やっぱり・・・見せられる程の体ではないですよね。・・・・・・・ほんと・・・・ばか・・・・。」

そう呟きながらバスルームを出た。バスタオルで体を拭いて,そのタオルをおいたとたん・・・

「ルリちゃ〜ん。迎えに来たよ〜」

突然ひらくドア。おどろいたルリはドアの前で、硬直した。しかも一糸まとわぬ姿で・・・。ドアをあけたユリカの横で、そのあられもない姿を見たカイトもまた・・・・・・顔を真っ赤にしてフリーズしていた。かと思うと突然・・・

「う゛っ・・・・・・・・・」

壁に寄りかかり、痙攣しながら、床にへたり込んだ。

「カイト君どうしたの?」

「カイトさん、大丈夫ですか?」

裸なのにも関わらず、うずくまるカイトに駆け寄るルリ。それに驚くユリカ。

「だ・・・大丈夫・・・・ルリちゃんの今の姿が美しかったから・・・、その・・・・具合が悪くなったわけじゃなく・・・気持ちよくなった・・・ってあ・・あわあわわわわ・・・・」

顔を上げ目の前にルリが(しかも全裸で。)いる事に気付き・・・慌てまくるカイト。もっとも、動揺しているのはカイトだけではなかった。

「え?・・・・・・あ・・・・・あの・・・・いま・・・なんて・・・・・」

ルリはカイトに突拍子も無い事を聞いてきた。

「具合が悪くなったわけじゃ・・・・」

「いえ、その前にです」

「え・・・そ・・その・・・ルリちゃんの姿が美しかったから・・・・」

その一言で、ルリは、真っ赤になってフリーズした。

「う・・・美しかった・・・・・・・・・・あたしが・・・・・・・」

「ル・・・ルリちゃん・・・風邪引くよ。」

そう言ってカイトはルリを抱え上げ、部屋の中へ運んだ。

「あ・・・・・。」

そして,ベッドに降ろして部屋を出て,唖然としているユリカに、

「ルリちゃんに服、着させて下さい。彼女,まだ動揺してるみたいですから。それと,私もちょっと部屋にもどってシャワーを浴びたいんですが・・・。」

「え・・・でも・・・すぐに済むんで・・・」

ユリカは反論しようとするがルリが制した。

「ええ、ゆっくりしてきて下さい。そのにおいがしてるとまずいですから。」

「え゛・・・ええ。有難う。ルリちゃん。なるべく早くブリッジにいきますから。」

慌てながらその場を離れたカイト。ドアがすぐに閉まった。

その場にいたユリカが両手をついてルリに謝った。

「ごめん。ルリちゃん。コミュニケに応答が無かったからつい・・・」

「いえ、事故ですから。過ぎた事を言っても始まりません。それに艦長とカイトさんしか居ませんでしたから。他の人まで居たらさすがに・・・」

「あ〜っ。ルリちゃんもしかして〜」

「それより艦長。カイトさんの様子、気付かなかったんですか?」

「ほぇ?カイト君?痙攣してたけど・・・」

「健全な男性の生理現象が起こったんです。テンカワさんだって,艦長に裸で迫られたらきっとああなります。」

「ル・・ルリちゃん・・・・・」

ルリの少女らしからぬ発言に引くユリカ。

「私だって年頃の少女です。それ位の知識、昔、習いました。」

ルリの気迫に押されまくるユリカ。彼女はその雰囲気を変えようと脱衣かごの制服を取りだすが・・・。

「下着・・・・やっぱり変えたほう、いいよね。」

(ルリちゃんやっぱり・・・・・)

「・・・・当然です。・・・・・・・・・・艦長。」

かえって状況が悪くなり、冷や汗全開のユリカ。

「い・・今の事・・・3人だけの秘密・・・だよねえ・・・」

「はい。あとは私ひとりで大丈夫です。先に戻っててください。」

「わ・・・わかりました〜」

すごすごと退却を余儀なくされる、ユリカだった。

ルリは制服を着ると部屋を出て,・・・ブリッジと反対方向に歩いていった。

 


 カイトの部屋

「はあ・・・・・・・・俺って少女愛好趣味・・・無いんだけどなあ・・・・・・でも、ルリちゃん、綺麗だったのも、体が無意識に反応したのも事実・・・・。」 

カイトは服を脱ぎながら、呟いた。そして、最後の一枚も脱ぐとため息をついた。

「はあ・・・いくら事故とはいえ、こんなにしてしまうとは・・・・いかんいかん。」

シャツとパンツを洗濯機にいれ、シャワーを浴びた。そして、浴び終えて、服を着て部屋を出ると,そこにルリが居た。いつものポーカーフェイスとは少し違い、微笑みながら彼女は言う。

「お待ちしてましたカイトさん。まだ、艦内に慣れてないでしょうから。」

カイトはいきなり土下座して一言。

「申し訳無い。事故とはいえ、乙女のあられもない姿を見てしまって。」

カイトの突然の行動に面食らうルリだったが、一言,

「じゃあ,責任とって、一緒に、お風呂、入ってください。」

「い゛い゛――――――――っ!!」

突拍子も無いルリのセリフに驚くカイト。でも、

「冗談ですよ。責任を問われるとすれば、この場合、艦長です。貴方が気に病む必要はありません。それに・・・。

私の裸・・・凄く綺麗だって言ってくれましたから。その一言で十分です。」

ルリはそういってカイトを見つめていた。カイトは照れながら

「で・・でも・・・ふつう、嫌じゃない?年頃の女の子が裸・・・見られるの・・・」

というが、

「勿論です。いやらしい考えで見られるなら。でも貴方は違った。」

「違う・・・とは言い切れないよ・・・現に・・・・その・・・・・しゃ・・・だああ少女の前でそんな事いえない」

カイトは反論しようとするが、上手く言えず苦悩する。するとルリは、

「カイトさんがああなったのは私の裸,見たからですよねえ。つまり、それだけ、私に魅力があった。子供としてではなく一人の女性として見てくれた。そういう事ではないでしょうか。生意気な事を言うようですが」

「う・・・・・・・・・・・・・」

カイトは真っ赤になって黙りこくってしまった。

「今回の事、誰にも言わなければ、私はそれでいいです。行きましょう。主賓が居なければパーティ―は始まりません。」

「はい。」

カイトはだまってルリについていった。

 


ブリッジ

主賓が来るのを今か今かと待ち受けていた一同にルリは一言

「カイトさん、連れて来ました。」

その一言が開幕の合図となった。ブリッジ上段のジュンがマイクをもって一言。

「あー、あー、マイクテスト、マイクテスト、それではナデシコ艦長ミスマル・ユリカより一言」

ユリカがマイクを奪って一言

「えっへん。このたびは私ミスマル・ユリカとアキトのお陰で火星の遺跡もどっか遠くへ飛んでっちゃってもらいました。ねえねえ、これで良かったんだよねえ,ルリちゃん」

「なにが良かったんだか・・・」

呆れながらルリは言う。

「そして、新しくできたあたし達の仲間、カイト・アムネジア君の歓迎も含めて。」

ユリカがカイトを手招きし紹介する。

「それでは,皆さんパーっとやっちゃいましょう!!」

「おお――――――――っ」

 

その掛け声が合図となって大宴会が始まった。

圧倒されるカイト。横にいたユリカがカイトに向かって言った。

「これでカイト君も、ナデシコの一員です。思いっきり楽しんじゃって下さい。それではテンカワ・ユリカ,デュエットしま〜す。お〜いし〜お〜いし〜あ〜きと〜のご〜はん〜さあアキトも歌って」

「ンなことしらねえよ。だいだいテンカワってまだ結婚してねえだろ。」

「そうよ〜ユリカさんまだ勝負はおわってないわよ」

「サユリさんまだ諦めてないんですか?」

またも始まりそうな夫婦漫才にサユリが横槍をいれ、

「リョーコちゃん、まだチャンスあるわよ。さあさあ」

「な・・・何言ってんだよアキトはもう・・・」

「だ〜いじょうぶだって、艦長をカイト君とくっつければ〜」

と、ヒカルがチャンスとばかりにリョーコを焚き付ける。すると、

「ざ〜んねんでした。ヒカルさん。カイト君はルリちゃんのものだから〜」

何気に爆弾発言するユリカ。

「「な・・・何言ってんですか・・・艦長」」

カイトとルリが見事にハモる。

「だってさっき〜・・・・・・」

「艦長・・・・・」

「う゛っ・・・・・・」

ルリの笑顔に背筋に冷たい物を感じ、黙り込むユリカ。その二人のやりとりを横目にみたカイトは、ミナトの様子がおかしい事に気付く。

「どうしました?ミナトさん?」

「・・・・・その白い制服・・・・・・」

「・・・・・・・・・ミナトお姉ちゃん」

「大丈夫よ。ただ・・・ちょっと懐かしいなあって,そう思っただけだから・・・。あはっ、ごめんなさいね、せっかくのパーティーなのに。」

「い・・いえ・・・」

「渡しね・・・貴方と同じその制服を着ていたある人のこと、好きだったの。白鳥さんっていって、すごく純粋なひとでね・・・でも・・・死んじゃった・・・」

ただならぬ雰囲気を感じたカイト。意を決して尋ねる。

「この・・・私が着ている白い制服・・・これって・・・」

「その制服はさっきの話にも出た木連優人部隊のもので、選ばれた人だけしか着ることが出来ない物なの。それにゴートさんやアカツキさんをあっという間に捻じ伏せたことやさっきの戦闘での的確なナビゲーション。あなた、戦闘経験かなり長けてそうだし・・・」

ミナトの横にいたユキナがそう答える。沈んだ雰囲気になるが・・・思い起こしたようにアキトが話し出した。

「・・・でも・・・もう,これ以上、周りのひとが死んでいく事なんて、無くなるかもしれない。」

「・・・アキト君。」

「地球連合や、ネルガル、そして、木連はボソンジャンプのシステムともいえる火星の遺跡を求めて・・・そして、奪い合ってた。そのお陰で、俺たちの家族や、たくさんの火星の人たちがその犠牲になった。」

「・・・・・・・・・・・」

その場の誰もが、静かにアキトの話を聞き入っていた。アキトの話は続く・・・

「遺跡を宇宙のかなたに飛ばして、それでこの戦争が終わるかどうかなんておれにはわからない。でも、それは、自分達が守るべき、大切な物のためにやった事なんだ。」

「そう。アキトの言う通り。この艦は、私たちが私たちらしく居られる場所。だから、私たちの思うようにしたいの。」

ユリカが続けてそう言った。そして、メグミが

「最初はナデシコを自爆させて遺跡ごと爆破しようって言ってましたけどね。」

、と突っ込む。

「そ・・・そうだったっけ?・・ははっ・・・」

渇いた笑いのユリカ。するとこんどはルリが突っ込む。

「でも、ボソンジャンプするのに、ほんとにキスする必要・・・あったんでしょうか?」

「それはー・・・もう、ルリちゃんまで・・・」

むくれるユリカ。

「うふふっ。あんなこと言ってるけどほんとはルリちゃん、すごく感謝してるはずよ。このナデシコに乗ってから今まで勝ち取ってきた思い出、壊されずにいられたんだから。でもキスまでする事無いのにねー。ルリちゃん。」

メグミのセリフに微かにうつむくルリ。ほんのり頬が赤い。

「ルリルリにはちょっと早かったかしら?」

ミナトの言葉に回りの雰囲気も和らぐ。

「私達の居る場所、自分で勝ち取った思い出・・・か・・・・」

天を見上げ、寂しそうに呟くカイト。だが、すぐに和らいだ表情で皆に向き直り

「ほんと、不思議な艦ですね。ナデシコは・・・。ここにいると、ほんと、全宇宙規模での戦争をしているとは思えませんから。」

「そう焦る事はないさ。世の中、知らない方がいい過去だってあるんだしさ。この艦にボソンジャンプしてきたのも、きっと、きっと、チャンスを与えてくれる為だったかもしれないし。」

アキトがカイトの肩に手を乗せながら言う。すると、アキトがカイトの胸ポケットにあるものに気付く。

「ありがとう。」

「おい、胸のポケットになんか入ってるぞ」

「え?」

そう言いながらポケットを探るカイト。そのポケットの中から出たのは一枚の写真。写っているのは、一人の女性。

その写真によってその場が騒然となる。

「そのこは・・・あの時の・・・」

「新入り!!」

リョーコが叫ぶ。するとカイトは狼狽して二人に問い詰める。

「知ってるんですか!!この人!!誰なんです、このナデシコのクルーですか!!」

カイトの剣幕に圧倒される二人。

「以前、地球で、俺が降ろされた際、入れ替わりでナデシコに配属された、エステのパイロットだよ。・・・ルリちゃん彼女のデータ、調べてみてくれる?」

たじろきながらもルリに検索を頼むアキト。

「わかりました。オモイカネ・・・お願い・・・・・・・でました。

カザマ・イツキ 2181年生まれ、国籍、日本。2196年地球連合付属高等学校日本分校入学。2197年6月、ネルガル重工月面研究所にエステバリスパイロット候補生として出向、半年間の訓練を経て同年12月、カワサキシティにてナデシコの正規パイロットとして配属。同場所に出現した敵木星トカゲ迎撃に出動。戦闘中、敵ボソンジャンプに巻き込まれ、現在に至るまで消息不明。・・・・・記録上、殉職。以上です。」

ナデシコの皆、表情が暗くなる。実質的に、このナデシコのクルーのなかで、唯一の戦闘中の殉職者だからだ。特にアキトとリョ−コの二人は守りきれなかった自責の念にかられている。そして、カイトは写真を持つ手を震わせながら呟く・・・

「彼女が・・・・知っている・・・・・・・・・・・俺の過去を」

「知っていたんだ。の間違いだとおもいます。」

ルリが、力のこもった口調で答えた。そんなルリを見るカイト。その表情は、怒っているようで、哀しんでいるような、やりきれない。そんな表情だった。

「あっ・・・・ご・・・ごめんなさい。そうですよね・・・まだ、死んだと決まったわけではありませんでした。」

「ううん・・・こちらこそ・・・・」

(メグミさんルリちゃんが自分で勝ち得た思い出を大切にしたいって言っていたし・・・自分の過去に、何か、秘めたる事があるんだろうな・・・)

カイトはそう考えながらルリに笑顔を向ける。ルリは顔を赤らめながら、

「あ・・あと・・・それと・・・・カイトさんの車の登録ナンバーなんですけど、検索結果が届いてました。えっと・・・・・・・・・え・・・・・・・」

とたんに表情が暗くなるルリ。

「どうしたの?」

カイトが怪訝な顔をして、聞く。

「そんなバカな・・・・オモイカネ、間違いないの?」

「はい。何度も確認しました。残念ながら、事実です。」

「わかりました・・・・。カイトさん。驚かないで下さい。カイトさんの車のナンバーが本物だとしたら、既に存在しない物なんです。」

ルリは信じられないと言った口調で、静かに話し出した。

「登録番号 湘南35 す 28-00・・・・この車は1998年4月30日付けで、登録が抹消されています。」

この言葉に一同騒然とする。ただ、カイトだけは冷静だった。

「ルリちゃん。この車の所有者とか、ほかのデータはわかる?」

「いいえ・・・残念ながら、解ったのはそれだけです。もっとも、200年もまえのデータですから・・・これだけわかったのも、ある意味奇跡ですけど・・・・それと、もう一つ。抹消の理由ですが、当該車両の滅失、とだけ、書いてありました。滅失・・・ということは車がなくなった、ということです。ただ・・・盗難による物でないことだけは確かです。」

「そっか・・・それじゃあ仕方ないよね。」

「ごめんなさい。」

「ルリちゃんのせいじゃないから、気にしないで。それより、ありがとう。せっかくのパーティですから、パーッとやりましょう。」

「そうですね。今まで色々あったけど、私たちの戦いはこれで終わりです。今夜は楽しみましょう。」

ユリカのその一言で再び賑やかになるブリッジ。お祭り騒ぎは、遅くまで続いた・・・・。

 

Post Script

Morry:「たいへんおまたせしました。中編。イツキの事と、車の事について、やっと語る事が出来ました。さて、今回のゲストはすちゃらか艦長ミスマル・ユリカさんで〜す」

ユリカ「ど〜も〜艦長のミスマル・ユリカで〜す。ぶいっ!!」

Morry:「(すこしは否定しなさいって。)どうも〜ユリカさん。相変わらず、引っ掻き回しますねえ。」

ユリカ「え〜そんな事無いもん。ぷんぷん。ところで、イツキさんのプロフィール、ゲーム版と変わってるけど何で?」

Morry:「基本的においらの考えた設定、ってのもあるんだけれどまず、名前は日本国籍ということを考えて。次に、地球連合付属高等学校日本分校入学ってのがあるけどこれはイツキが優等生タイプで高校生くらいの年齢と言う事を考えてのこと。解りやすく言えば軍士官学校の付属高校といったとこかな。イツキは、軍人であるとともに、学生でもあったと。ちなみにユリカとジュンもここから大学に進学して二人とも飛び級で卒業したって事になってます。ちなみに入学するにもかなりハイレベルの高校です。次に火星研究所を月面研究所に変えたのは、年表を見て、なんとなく、ちょっと辻褄が合わないかなって思ったから。そして、ゲームでも、火星でアキトがボソンジャンプした直後の状況で助かると思えなかったため。2196年の6月にしたのは、ネルガルと、連合軍が、合同戦線を本格化したのがそのくらいかなと思ったから。その為に生産ラインにはいったエステバリスの量産型の先行テストを兼ねて訓練していたと。そういう事。」

ユリカ「ふ〜ん。で、カイト君の車なんだけど、なんで、1998年で抹消されてんの?」

Morry:「それが、この物語のキーパーソンだから。そして、あえて、最新型のR34型GT-Rや、フェアレディ350Zでは無くR32型のGT-Rを登場させた理由。もっともR33型GT-Rでも良かったんでないのって言われるかも知れないけど。もちろんこの作品の原案にもなった"The Brank of 3years"が発売された年にちなんでもいるけどね。なんで抹消された車があるのかは、いえないけど、想像は・・・つくでしょ。」

ユリカ「ところで、カイト君とルリちゃんの関係はどうなんのかな〜?裸みられたのに駆け寄ってるぐらいだから・・・」

Morry:「それは今後の展開しだい。」

ユリカ「ほんとはそこまで考えて無かったりして。」

Morry:「(ぎくっ・・・)そ・・そんな事ないよ。それでは、後編でお会いしましょう。もしかしたら、リレー小説の方が先になるかもしれませんが。よろしくお願いします」

ユリカ「まったね〜」

 

 

 


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