機動戦艦ナデシコ
〜例えばこんな日〜




My dear sister



トーキョーシティ・某駅前


(遅いなぁ…)

現在時刻は10:20。
待ち合わせの約束は10時。
既に20分も過ぎている。
男は腕時計から視線を上げるとキョロキョロと辺りを見回した。
だが、待ち人は一向に姿を現さない。
溜め息をついて男は手近なベンチに腰掛ける。
何気なく空を見上げてみると、僅かにそよぐ風には秋の気配がした。

(ん〜、気持ちいいな〜)

男はベンチにもたれかかり目を閉じた。

(…ま、のんびり待つとしますか。
遅刻はしても約束を破る人じゃないし…)

そしてふっと睡魔に襲われる。
連日のバイトと屋台で身体は疲れていた。

(寝ちゃ駄目だ…)

そう自分に言い聞かせるが、
絶え間なく訪れる睡魔にあらがう手段を男はもっていなかった。
やがて男は睡魔に身を任せ、うとうとし始めた。
そしてしばらくして。

「…ぉ〜ぃ…」

どこかで誰かの呼ぶ声がする。
男は閉じていた目をゆっくりと開いた。

「…ごめんね、大分待たせちゃったみたいだね?」

目の前には男の待ち人の女性が申し訳なさそうな表情で立っていた。
青みがかった長いを持つ女性である。

「はは、いい睡眠補給になりましたよ。
 …じゃ、行きましょうか、"ユリカさん"」

男−カイトはベンチから立ち上がる。

「うん!
 今日はよろしくね、"カイトくん"」

女性−ユリカはニッコリと微笑むとカイトの左腕に自らの右腕を絡ませる。

「ユ、ユリカさん!?
 な、な、何をっ!?」

「デートする時は腕を組まなきゃダメなの!
 前にも言ったでしょ?」

慌てる様子が面白いのかユリカはいっそうカイトの腕にしがみつく。

「確かにそんな事は言ってたような…」

「ね!
 …それともカイトくん、私と腕組むのイヤなの…?」

ユリカは目を伏せてポツリと呟いた。
悲しげなユリカの表情がカイトの視界を過ぎった。
カイトは慌てて首を振る。

「いえ!
 そんな事ないです!
 光栄っす!!
 ああ、ユリカさんと腕が組めるなんて、ぼかぁ幸せだなぁ!!!」

カイトは身振り手振りを交えてオーバーに喜びを表現する。

「…ククッ…」

「…?」

見ればユリカの肩が僅かに震えている。

「ユリカさん…?」

カイトが恐る恐る尋ねるとユリカがパッと顔を上げる。

「フフフッ、引っ掛かった♪」

ユリカは満面の笑みを浮かべていた。

「…」

騙された事に気付いたカイト。
苦笑いするしかなかった。

「フフッ、それじゃ行こう?
 今日はいっぱい遊ぼうね♪」

ユリカは腕を組み直すとカイトを引っ張って街の喧噪の中へと入っていった。


「ん〜、カイトくんはどっちがいいと思う?」

ユリカは両手に持ったイヤリングを掲げてみせる。
デザインは大きく異なるものの、どちらもユリカにはよく似合いそうなものだった。
当然といえば当然というべきか、ユリカの服装やアクセサリーのセンスはかなり良い。
名家であるミスマル家で育っただけあり、物を見る目が肥えているのだろう。

「どっちもユリカさんには似合いそうですけど…」

迷ったカイトがそう告げるとユリカはプッと頬を膨らませた。

「も〜、それじゃダメだよ!
 女の子がこう聞いてきた時はどっちか選んであげないと!」

「…はぁ」

どちらも似合うと言うのは紛れもないカイトの本音だったが
それではユリカのお気に召さないらしい。
改めてイヤリングを見比べるカイト。

「…こっちですかね?」

カイトが選んだのは鈍い輝きを放つ金のイヤリングだった。

「そう?
 じゃあ付けてみるね」

そう言うとユリカはカイトの選んだイヤリングを付ける。

「どうかな?」

「…」

良く似合っていた。
だがカイトは素直にそういう事ができなかった。
そのイヤリングをしたユリカには何故か違和感があった。

「カイトくん?」

ユリカに名前を呼ばれ我に返るカイト。

「えっ…?
 あ、ああ、良く似合ってますよ?」

「そう?
 ありがと、カイトくん♪」

一瞬"しょうがないなあ"といった表情を浮かべた後、ユリカは笑みを浮かべた。
カイトが答えるまでに何故間があったのか。
なんとなくその理由がユリカには分かるような気した。

「あ!
 ねえねえ、カイトくん!
 次はこっち!」

そしてユリカはイヤリングを外して元の場所に戻すと
ネックレスの売り場へカイトを引っ張っていった。


ひとしきりウインドウショッピッングを終えたユリカとカイトは
ファミレスのテーブルで向かい合って座っていた。
ユリカは満面の笑みを浮かべてエビグラタンを頬張っている。

(美味しそうに食べるなあ…)

カイトはユリカを見て微笑んだ。

「…ん?
 どーかしたの、カイトくん?」

カイトの視線に気付いたユリカが顔を上げる。

「…!
 な、何でもないですよ」

カイトは慌てて首を振った。

「…そう?
 …あ、わかった!
 カイトくん、私のグラタン欲しいんでしょ!」

「へ?」

唐突で、全く的外れなユリカの指摘に目を丸くするカイト。

「もう、始めからそう言ってくれれば良かったのに。
 おねーさんはそんなにケチじゃないぞ?」

エッヘンと胸を張るユリカ。
グラタンを掬うとカイトの目の前にスプーンを突き出してくる。

「はい、あ〜ん♪」

「…!(///)」

カイトの頬が一瞬にして紅潮する。

(こ、これって…。
か、間接キス…!?)

狼狽するカイトを見て首を傾げるユリカ。

「…食べないの?」

「…食べます」

僅かな逡巡の後、カイトは意を決してスプーンをくわえた。

「美味しい?」

「…モグモグ…はい、美味しいです」

嘘だった。
気恥ずかしさが先にきて、味なんか分かるはずもなかった。

「じゃあ私もカイト君の一口貰うねっ!」

言うが早いかユリカはカイトのハンバーグドリアを掻っ攫っていく。

「…あ」

カイトがチマチマと食べていたハンバーグを豪快に削り取って。

「こっちも美味しいね♪」

だが、無邪気に笑うユリカを見ていると
それぐらいはどうという事はないカイトであった。


食事を終えるとユリカは化粧直しに席を立っていた。
普段は余り化粧をしないユリカだが、社会人の嗜み程度には化粧をしている。

(もともと綺麗だし、必要ないと思うけど…)

やはり朴念仁なカイトである。
だからいつもルリにデリカシーがないと怒られるのに気付いていない。
ともかく手持ち無沙汰なカイトは食後のコーヒーを飲みながら
三日前の夕方の出来事を思い出していた。



「ふ〜、疲れた〜」

アパートの階段を登りつつ、伸びをするカイト。
近所の食堂でのバイトを終えての帰宅である。

(今日は忙しかったなぁ…)

だが、疲れているひまはない。
もちろん今夜も屋台は出る。
僅かでも体力を回復させなければならない。
それには睡眠を取るのが一番だったが、
4畳半一間のテンカワ家では中々手足を伸ばしては眠れない。
特に押入れを普段の寝床とするカイトには。
だが、カイトの足取りは軽かった。

(みんな出てるから、畳の上で寝られる…♪)

この時間ならアキトとルリは買い出しに、ユリカは軍に出勤しているはず。
押入の寝床特に不満がないとはいえ、やはり畳の上の方が気持ちいい。
そんな事を考えながらドアに鍵を差し込む。

(…あれ?)

ドアノブを引くが鍵がかかってしまった。

(…アキトさん、無用心だなあ…。
確かに盗られるようなものなんてないけどさ)

最後に出掛けたであろう部屋の主にして義兄に軽く毒づくと再び鍵をひねる。

「ただいま〜」

「あ、お帰り」

「ふぇ!?」

誰もいないはずの部屋から返事が返ってきた。
間の抜けた声を上げるカイト。
だがそこは4畳半の狭い部屋。
声の主はすぐそこにいた。

「ユリカさん、早かったんですね」

「あんまり気乗りしなかったからお仕事、ジュン君に全部任せてきちゃった」

そう言ってユリカは微笑んだ。
いつもの天真爛漫な笑顔と違い、どこか憂いを秘めた笑顔。

「…何かあったんですか?」

「ん〜、あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったなあ…」

「??」

まるで禅問答である。
ユリカが何をいいたいのかいまいちわからなかったカイトだったが、
一つだけわかった事がある。

「…何か悩み事なら相談して下さいね。
 力にはなれないかもしれませんけど…話を聞くくらいなら僕にも出来ますから」

ユリカにはいつも笑っていてほしかった。
だからカイトは心からそう言った。

「ありがと、カイトくん♪
 じゃあ、早速相談させて貰おうかな?」

そう言うとユリカはカイトに向き直った。

「あのね、アキトは私の事、どう思ってるのかなあ、って」

「…?
 アキトさんはユリカさんの事が大好き、じゃないんですか?」

「うん、それはそうだよ。
 でもアキトってよく"くっつくな〜"とかいうでしょ?
 腕もなかなか組んでくれないし…」

確かにそれはそうだ。
カイトは頷いた。

「私にとってアキトは昔から"王子様"だったけど、
 私はアキトの"お姫様"じゃなかったの。
 だからなのかな?」

ユリカは寂しそうな顔で呟いた。

「そんな事ないですよ。
 アキトさんは照れてるだけです。
 ユリカさんの気にしすぎですよ」

「照れてる…?
 そっか、そうだよね!」

カイトの言葉を反芻し、笑うユリカ。
その笑顔はカイトの好きなユリカの笑顔だった。

「ありがと、カイトくん!
 あ、そうだ!
 お礼にカイトくんのいう事何でも聞いてあげるよ!」

「別に…」

"そんなのいいですよ"

そう言いかけて、その言葉を飲み込んだ。

「…じゃあ、一回だけ僕とデートして下さい」

気付けばそんな事を言っていた。
ユリカはポカンとカイトを見つめている。

(…な、何を言ってるんだ、僕は!?)

カイトは自らの思わぬ言葉に狼狽する。

「あのっ!
 今のはじょうだ…」

「いーよ♪」

「ふえっ?」

これまた思わぬ返事に間の抜けた声を上げるカイト。

「いいよ。
 デートしよう?」

「…いいんですか?」

「うん!
 皆に秘密で内緒のデートだね!
 フフッ、ドキドキするなあ…♪」

僅かに頬を赤らめて笑うユリカにカイトは何も言えなかった。
そして銀の髪の少女の事を想うと…少しだけ心が痛かった。


「お待たせ、カイトくん…って今日は待たせてばっかりだね、私」

たはは、とユリカが笑う。
つられてカイトも微笑んだ。

「それじゃ、行きましょうか?
 もうすぐ映画の時間ですし」

カイトが伝票を持って立ち上がる。
だが、ユリカはその伝票をカイトから取り上げた。

「私が払うよ」

「いいですよ。
 誘ったのは僕ですし」

カイトはユリカの手から伝票を取り戻そうとする。
が、ユリカはそれを後ろ手に隠してしまう。

「確かカイトくん、今月ピンチじゃなかった?」

「…ぅ」

ユリカの言葉に黙り込むカイト。

「ね?
 ここはおねーさんに任せなさい♪」

笑ってレジへと向かうユリカ。
カイトはその後をトボトボとついていった。
ちなみにテンカワ家では日々の生活費や家業の屋台の維持費、
食材の仕入れ等々の出費は家族が共同で負担している。
収入も無い、貯金も無い、戸籍も無い、ついでに記憶も無い。
無い無い尽くしのカイトは当初この負担から外されていたのだが、
バイトに出るようになると負担し始めたのだ。
カイトのささやかなバイト代の大半はここに消えていく事になる。
アキトやユリカは今の半分でいいと何度も言っていたが
カイトは頑として聞き入れなかった。
理由は簡単だった。
ルリも負担しているのである。
今は定職を持たぬルリだが、元はナデシコのオペレーター。
かなりの高級取りであった。
さらに時折、ネルガルでオモイカネシリーズの開発を手伝っているが、
その時支払われる時給は1時間でカイトの1日分の給料に匹敵する。
つまりカイトとは収入も貯金も段違いのレベルにあった。
カイトとてそんな事は百も承知だったが、
彼の"漢"としてのプライドが甘える事をよしとしなかった。
もっともアキトとユリカの相談により、
カイトの負担の半分は彼名義の口座に貯金されていたが。
それゆえカイトのガマグチではいつも閑古鳥が鳴いていた。

「映画代もだそうか?」

ファミレスを出たところでユリカがそう尋ねてきた。
この申し出に心が動いたカイトであったがさすがにそれは断った。

「それはちょっと…」

「そう?
 今日は私が全額払うつもりでいたんだけどな…。
 なんたって私はカイトくんの"おねーさん"だし♪」

ユリカはニッコリと笑う。

「…弟だからって甘えっぱなしっていう訳にはいきませんよ」

カイトは苦笑いしながら答える。
その表情には僅かな曇りが見て取れたがユリカがそれを悟る事はなかった。

「あ!
 カイトくん、時間!」

その時、ユリカが素っ頓狂な声を上げる。
カイトが慌てて時計に目をやると映画の時間まであと僅かになっていた。

「急ぎましょう!」

カイトはユリカの手を取ると走り出した。

「うん!」

ユリカもカイトの手を握り返し、後に続いて走り出した。
二人の頬が紅潮していたのは走っているからだけではなかっただろう。


二人の見た映画は20世紀半ばに撮影された古典映画だった。
某国の王女が平民の新聞記者と一日だけの恋をする。
切なくも美しい、そして儚いピュアな愛の物語。
そんな内容の映画だった。
初演から200年以上たった今でも根強い人気を誇る映画だけあって、
カイトとユリカも感動していた。
帰路についた二人の話題はもっぱら映画の批評にあてられていた。

「でもやっぱりラストは納得いかないよ!
 私だったら全てを捨てても好きな人と一緒にいたいよ」

『ラーメン屋とお嬢様の恋』を成就させるべく奮闘中のユリカらしい言葉だった。

「…なかなかそういう訳にはいきませんよ。
 世界中の人が全部ユリカさんみたいに思える訳じゃないですし」

カイトは映画の二人にアキトとユリカを重ねていた。

「でもあの二人、カイトくんとルリちゃんみたいだったね?」

「…僕とルリちゃんに…ですか?」

ユリカはカイトとルリを重ねていたようだ。

「そう!
 ピースランドのお姫様と記憶を失った謎の男!
 あの映画の現代版だね!」

余談ではあるがルリは王位継承権と王族の身分を放棄している。
要するに今は一民間人になっているのである。
とはいえ、その話を最初に聞いた時のカイトのショックは推して知るべしである。

(身分違いの恋…か)

ふとカイトは隣を歩くユリカを見る。
映画館を出た時、どちらからともなく繋がれた手。
何故、ユリカと手を繋いでいるのか。
何故、ユリカは拒絶しないのか。
カイトには分からなかった。
ただ、はっきりしていることがひとつだけ。
この温もりを離したくない。
手の平に感じる温もりを離したくない。
だが、この温もりはアキトのものなのだ。
今、自分はそのおこぼれに預かっているに過ぎない。
そう思い、カイトは握る手に少しだけ力を籠めた。

「…カイトくん?」

それに反応したユリカ。
カイトの顔をそっと覗き見る。

「…いえ、なんでもありません。
 もうアキトさんとルリちゃんも帰ってるでしょうから…急ぎましょう」

カイトはユリカから視線を外し、そう言うと繋いでいた手を離した。
そして、角を曲がると彼らの住むアパートが見えた。
窓には明かりが点いている。
既に家族がが帰ってきているのだろう。
カイトとユリカは無言でアパートに歩いていった。
そして、運命の夜が来る。



その夜・トーキョーシティ某所


テンカワラーメンはいつも通り盛況だった。
時刻は午後11時過ぎ。
そろそろ人通りも途絶え始めた。

「ルリちゃん、後何玉くらい残ってる?」

「3玉です」

アキトがルリに麺の在庫の確認をとる。

「あー、それだけかー。
 …カイト、スープはどうだ?」

テンカワラーメンではスープの残量で閉店時間が決まる。
麺の買出しに行くかを決める為、
アキトはスープを見ていたカイトに声を掛ける。

「…」

だが、カイトは心ここに在らず、といった感じで返事をしない。

「カイトさん?」

「…え?」

ルリがカイトの調理服の袖を引っ張るとようやくカイトが気付く。

「どうしたの、ルリちゃん?」

「「…」」

アキトとルリが顔を見合わせ溜め息をつく。

「カイトさん、今日はどうしたんですか?
 今日のカイトさん、どこか変です」

ルリの言うとおりだった。
今日のカイトはらしくないミスを連発している。
お冷はこぼすは、麺を茹ですぎるは、
あまつさえスープ鍋をひっくり返しそうになるは…。
幸いルリが鍋を素早く抑えたため、開店後僅か5分での閉店は免れたが。

「そうかな?」

「ハイ」

首を傾げるカイトに即答するルリ。

「そっか」

カイトは短く呟くと視線をスープ鍋に戻す。

「…」

ルリはその前にカイトが一瞬、公園の方へ視線を向けたのを見逃さなかったが。
今、公園にはユリカが丼を洗いに行っている。
カイトの様子がおかしいのは今日の夕方からだった。


駅で偶然会ったとユリカと二人で帰ってきてからである。
アキトは不審には思わなかったようだが、ルリは違った。
カイトのユリカに対する態度が微妙におかしい事に気付いていた。

(カイトさん、やっぱり…)

「よーし、行くぞ!!」

その時、ルリの思考はアキトの号令によって断たれてしまった。
ルリはモヤモヤした思いを抱えたまま、部屋を後にした。
そして、今に至る、という訳である。


「で、カイト!
 結局スープはどうなんだ?」

さすがにアキトもイラついた様子である。

「あ、すいません!
 …えーと後2、3杯ってところですかね」

カイトが慌てて答える。

「そうか…、ちょっと早いけど店じまいにしようか」

アキトがそう言った時、のれんをくぐって客が現れた。

「やっほー、まだやってる?」

ミナトだった。

「らっしゃい!
 いや、ちょうど良かったなあ。
 そろそろ店じまいしようと思ってたんですよ。
 何にしましょう?」

「それはよかったわぁ♪
 …この間はテンカワスペシャルだったから…じゃあカイトスペシャルお願い」

ミナトのオーダーが入る。

「あいよ!
 カイトスペシャル1丁!」

「水です」

アキトが注文を復唱し、ルリが水を出す。
そしてカイトがラーメンを作り、ミナトの前に出す。

「カイトスペシャル、お待ち!」

こればかりは身体に染み付いているのかミスはしなかった。

「いただきまーす!」

ミナトがいそいそとラーメンを食べ始める。

「カイト、ルリちゃん、屋台頼むよ。
 俺、ユリカを手伝ってくるから」

アキトがユリカを手伝いに公園へと向かう。
それを見送った後、カイトとルリはミナトと取り留めない世間話を始めた。
もちろんカイトとルリは店じまいの用意をしながらではあったが。
会話がふと途切れる。
そして公園の方から男女の声が流れてくる。

『…す、するぞ…結婚…』

『…アキト♪…うんっ!』

それはアキトのプロポーズだった。
嬉しそうに承諾の返事を返すユリカの声も聞こえてきた。

「ようやくプロポーズしたか、あの朴念仁クン」

ミナトが公園へ視線を向けながら呟く。

「そうですね」

ルリも微笑みながら公園を見ている。
その表情と言葉にミナトは軽い驚きを覚えた。
かつてルリがアキトにほのかな想いを寄せていた事を知る者として。
だが、すぐにミナトは笑顔になる。
ルリがアキトとユリカの結婚を素直に祝福できるようになった訳をも知っていたから。

「ね、カイトくんは…」

振り返り、ミナトは言葉を失った。
カイトは公園を見ながら泣いていた。

「…カイトさん」

ルリがそっとカイトに歩み寄り、ハンカチを差し出した。

「ルリちゃん…?」

カイトがいぶかしげにハンカチを見る。

「涙…拭いて下さい」

「…え?」

そう言われてカイトは自らの目元に手をやる。

「…なんで僕は泣いてるんだ…?」

初めて気付いたというように茫然と呟くカイト。

「…嬉し涙ですよ」

ルリはそういってカイトの目元を拭ってやる。

「お二人の結婚で私達の家族の絆が形になるから…。
 きっとそれは嬉し涙です」

だがミナトは見てしまった。
カイトの涙を拭くルリの手が震えている事に。
そして気付いてしまった。
カイトの涙が嬉し涙ではないという事に。
その理由にルリが気付いているであろう事にも

「…そうだね」

そう言ってカイトは微笑んだ。

(ふうん、カイトくんが艦長をね…)

ミナトはそんな二人を見ながら思う。
カイト自身すら気付かぬほんの僅かなユリカへの恋心。
だが、ルリだけは気付いていた。
恋する相手の心が向いた方向を直感的に見定めていたのだ。

「二人が結婚するからって私達の家族じゃなくなる訳じゃないです。
 私達はずっとずっと…家族です」

ルリの言葉に頷くカイト。
いつの間にかルリはカイトの手を握っていた。

(カイトさん、私はずっと貴方の傍にいますよ…)

ミナトは柔らかな微笑みを浮かべて彼等を見守っていた。
恋を成就させた二人とこれから成就させようとする二人。
ミナトは彼等の歩む未来に幸せが訪れる事を願わずにはいられなかった。


  後書き


村:ども、村沖和夜です。
  例えばこんな日シリーズ第2回「My dear sister」をお送りしました!
  さて、今回はユリカさんのお話だったし、後書きもきっと…(期待)
  失礼しまーす(ガチャリ)

ル:どうも。

村:失礼しましたー(バタン)
  い、今…銀髪のツインテールが見えたような…(ガタガタ)

ル:ちょっとへっぽこ!
  その態度は何なんですか!
  私を待たせておいていい度胸してますね…

村:待たせておいてって…。
  僕はユリカさんをお呼びしたつもりだったんですが…。

ル:ああ、その事ですか。
  ユリカさんから伝言を預かってます。
  はい、どうぞ。

ユ:『アキトと式場見に行くからゴメンね。
   変わりにルリちゃんに行ってもらうから!』

村:な、なんですとー!

ル:そういう訳です(ニッコリ)
  さて…、貴方はカイト×ルリ作家じゃなかったんですか!?
  このお話は完全にカイト×ユリカ物じゃないですか!!

村:違いますっ!
  ルリ→カイト→ユリカ×アキト物ですっ!!

ル:余計悪いわっ!!!

村:(ドゴォォォォォンッ!!)
  ギャァァァァァッ!!!
  …や、やっぱり…(ガクリ)

ル:…で、なんでこんな話を書こうと思ったんですか?

村:…(プスプス)…ぅぅ…。
  先日立ち寄った古本屋で「WILD HALF」を読んだんですよ。
  その中で主人公が兄の恋人にほのかな恋心を持っていたという話がありまして。
  その恋の終わりは…、といった話なんですが。
  これ使えるじゃん、と。
  もっともその話をお借りしたのはラストだけですが。

ル:パクりですか。

村:…(絶句)

ル:まあ、最後はカイト×ルリ物への含みを持たせてあるので許してあげましょう。
  それにしても…

村:何です?

ル:『例えばこんな日』シリーズはほのぼの系ではなかったんですか?
  前作の「Thanks on〜」はBSシリーズにも関わらず砂糖系でしたし…

村:…

ル:その辺はどうなんです、へっぽこ?

村:最初にシリアス系は「BS」、ほのぼの系は「例えば〜」でと
  区分けするとしたんですが、そんなに単純に分けられませんでした。
  あの区分けは忘れて下さい。
  今後は僕の一存で区分を決めます。

ル:ま、私が主役ならどっちでもいいんですけどね。

村:…結局それかい…

ル:何か言いましたか?(ガション!)

村:…!
  な、何も…(ガタガタ)

ル:それではここまで読んで下さった皆様に感謝しつつ…

村:次のお話でお会いしましょう!
  感想、批判、リクエスト等々お待ちしてます!

ル:…さて、オチをつけましょうか?

村:…へ?
  (ドゴォォォォォンッ!!)
  …ど、どうしていつも…(バタリ)






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