機動戦艦ナデシコ
〜Return of the White Knight〜




第12話 あの『忘れえぬ日々』をもう一度(後編)





ナデシコ居住区画・通路


ルリはトボトボと通路を歩いていた。
その隣をラピスがついていく。

「…ねぇ、ルリ。
 カイトにも頼もう?
 きっと何とかしてくれるよ…」

「…ダメです」

ルリは医務室で目覚めた後、ユリカから詳しい事情を聞かされた。
ナデシコが軍に編入されて以来、
再三あったオモイカネのデバック要求をカイトが退け続けていた事、
そしてオモイカネの記憶を消さないで済むよう
カイトがずっとデバックを続けていた事を。
そしてユリカはルリに言った。
オモイカネを助ける方法があると。
連合軍を出し抜き、オモイカネの自我領域を修正するのだ。
その為にルリはラピスと共にウリバタケの部屋へと向かっていた。
しかし、気付くとルリ達はカイトの部屋の前にいた。

(…カイトさん…)

ルリの中にカイトに助けてほしいという思いが芽生えてくる。
もし、ルリがそう言えば、カイトはその身を投げうってでも助けてくれるだろう。
しかしルリは頭を振ってその考えを追い出そうとする。
それでも一度芽生えた弱気を振り払う事は難しい。

(ダメ…これだけはカイトさんに頼っちゃダメ…)

今からルリ達がやろうとしている事は間違いなく連合軍への反逆。
そしてカイトは連合軍の士官である。
上官侮辱罪で謹慎中であるカイトがこの企みに関与した事が
露見すれば今度は間違いなく反乱罪で軍法会議にかけられる。
軍人の反乱罪の行き着く先は銃殺しかない。
最悪の結末を思い浮かべ、ルリは身体を震わせる。

(カイトさんがいなくなるのは…、それだけは…)

ルリはギュッと目をつむり、きびすを返す。
しかしその時、カイトの部屋の扉が開く。

「あれ、ルリちゃん?」

呼び掛けられ、振り向くルリ。
そこにはカイトがいつもと変わらぬ笑顔を浮かべて立っていた。

「…カイト…さん…」

ルリの瞳に涙が浮かぶ。
顔を見てしまってはもう駄目だった。
それでも、頭の冷静な部分はカイトに頼る事を戒める。
そんな複雑な心境を表すかのような表情を浮かべるルリ。

「ルリちゃん…、大丈夫だから。
 一緒にオモイカネを助けよう?」

全てお見通しだよ、とカイトが笑い、ルリの頭を優しく撫でる。

「カイトさぁん…!」

「うん…」

泣きながらカイトに飛び付くルリ。
その胸に顔を埋めて泣きじゃくる。

「…ヒック…、カイトさん…エグッ…助けて…下さい…。
 オモイカネを・・・助けて下さい・・・!」

「…大丈夫…大丈夫だから…」

カイトはルリを抱き締め、優しく背中を摩ってやる。
それを黙って見守っていたラピスがカイトを見上げて口を開く。

「カイト、ルリを助けてあげて…」

「もちろん」

そう言ってカイトは笑った。



ナデシコ・ウリバタケ私室


ピンポン、とチャイムがなる。

「…ルリちゃん?」

中からユリカが小声で呼び掛ける。

「…ハイ」

扉が開き、中からユリカが顔を覗かせる。

「誰にも見られてないよね…、ってカイト君!?
 どうして!?」

ユリカが狼狽した声を上げる。

「…すみません…」

ルリがペコリと頭を下げる。

「と、とにかく入って!」

ここで問い質すのは得策ではないと判断したユリカが道を開ける。
カイト、ルリ、ラピスが部屋に身体を滑り込ませる。
中にはユリカの他に部屋の主であるウリバタケ、そしてアキトがいた。
二人ともカイトが姿を見せた事に驚いている。

「カ、カイト!?」

「おめぇ、何でここに…?」

「…スイマセン、私が話してしまいました…」

申し訳なさそうな顔で二人に向かい頭を下げるルリ。

「軍がプログラムを書き換える前にオモイカネの自我を修正するんですよね?
 僕も手伝います」

カイトが微笑みながらウリバタケとアキトに言う。
だが、ウリバタケは首を振る。

「駄目だ!
 コイツは立派な軍への反逆なんだぞ!
 お前は曲がりなりにも連合軍の士官だろうが!
 今度は謹慎だけじゃすまねえぞ!」

ウリバタケにアキトも続く。

「そうだよ!
 カイト、今回は俺達に任せて…」

ウリバタケとアキトはカイトを思い止まらせようとする。
だがカイトは静かに微笑んでゆっくりと首を振る。
そして、不安げな表情のままカイトを見つめていたルリの頭に手を置いて口を開く。

「…この娘を守る事、それが僕の"私らしく"ですから…」

「カイトさん…(///)」

頬を染めてカイトを見つめるルリ。
カイトもまたルリを優しい眼差しで見つめ返す。

「「「「…」」」」

そんな二人を間近で見ていたアキト、ユリカ、ウリバタケにラピス。
優しい眼差しで二人を見守るのはアキトとユリカ。

「…ねぇねぇ、アキト!
 いい雰囲気だね、カイト君とルリちゃん♪」

「そうだな」

「アキト、私達も!」

「な、何でそうなるんだよ!(///)」

「アキト、アキト〜♪」

「く、くっつくな〜!」

不意にユリカに顔を近づけられて真っ赤になるアキト。

「…こ、このバカップルどもが…」

「…ウン」

カイトとルリ、アキトとユリカを睨みつけるウリバタケとラピス。
腹いせにラピスが足下にあった何かを蹴飛ばす。
グシャリと何かが潰れる音がする。

「…ん?
 あ゛〜っ!!

その音に振り返るウリバタケ。
そして叫ぶ。

お、俺のフィギィアが〜!!

「…?」

ラピスの足元にはバラバラになった『ユリカウサギ』のフィギィアが転がる。
それを見て、滝のような涙を流すウリバタケをラピスはキョトンと眺めていた。



ウリバタケ私室・秘密工房


フィギュアを踏み潰され、真っ白に燃え尽きていた
ウリバタケを何とか復活させたカイト達。
セフィランサスの内部構造の解析をさせるという条件で手を打って貰ったのだ。
未来の技術が多用してある為、今までウリバタケに触れさせなかった部分でもある。

(…ブラック・テクノロジーの部分がバレなきゃいいけど…。
ま、仕方ないか)

とはカイト。
一方のウリバタケは興味津々だったセフィランサスの
内部構造を解析できるとあってご機嫌だった。

「よ〜し、準備完了だ!」

ウリバタケがエンターキーを押すと画面に
ディフォルメされたエステバリスの画像が現れる。
割烹着を着て、頭に三角巾、手にはハタキとチリトリを持っている。

「可愛い〜♪」

ユリカが目を輝かせて画面に見入る。

「…お掃除エステ…」

ラピスも気に入ったらしく画面を見つめている。

「さて、時間もねぇし早速いくぞ!
 カイト、準備はいいか?」

「オッケーです」

ウリバタケのコンピュータと接続されたシュミレーターに乗ったカイトが答える。
ヘッドマウント・ディスプレイを装着し、IFSを起動する。

「それじゃ、私がバックアップします」

「よろしくな、ルリルリ♪
 よっしゃあっ〜、カイトバリス、起動!」

ウリバタケの声が響く。
同時にカイトの目の前のディスプレイが光に満ちる。
その眩しさに思わずカイトは目を閉じる。



エレクトロスフィア


カイトがゆっくりと目を開く。
目の前には広大な図書館が広がる。
本棚では先程見たお掃除エステが無数に動き回っている。

「MITの図書館…?」

カイトが呟く。

「さすがだな、見ただけで分かるとは。
 思い出すぜ…7回受験に失敗した青春の日々…」

「…」

これだけの技術を持ちながら受験に失敗したというのは
学力の問題より素行に問題があったのでは、と思うカイト。
もちろん口には出さなかったが。
ちなみにイメージ・ヴィジュアル・システムを使用したカイトの姿は
2頭身のセフィランサスの胴体にこれまたディフォルメされたカイトの頭がのっている。
この姿のカイトを見たラピスがウリバタケに頼み、
カイトバリスのフィギィアを製作して貰ったのはまた別の話であるが。
そしてそれを見て羨ましくなったルリが同じ物を発注した事も、である。

「で、オモイカネの自我領域はどっちです?」

「私が案内します」

カイトの肩にディフォルメされたルリの姿が現れる。

「分かった。
 よろしく、ルリちゃん」

カイトバリスはルリの案内に従い、図書館の中を飛ぶ。

「あれは…」

幾つ目かの角を曲がった時、連合軍の艦艇(無論ディフォルメされた)と行き当たる。

「書き換え中の軍の新しいプログラムですね…」

船体から伸びたアームからスパークが発せられている。
そのスパークが触れた部分の本が次々に消えていく。

「やっつけるのは…まずいよね?」

「ハイ、今はまだ…」

カイトはルリの案内に従い、飛び続ける。
オモイカネの自我領域が近付くにつれ、
『KAITO』とかかれたバンソーコーの数が増える。
これがカイトが修正していた部分である。
それを見たルリの表情が曇る。

「…どうしたの、ルリちゃん?」

それに気付いたカイトがルリに声を掛ける。

「…艦長から聞きました。
 カイトさんがオモイカネのデバック要求を拒否していてくれたって…。
 本当なら私が気をつけていなければならなかったのに…。
 それにこんな事も頼んでしまって…、ごめんなさい…」

カイトはフッと表情を緩める。

「気にしなくていいよ。
 僕だってルリちゃんにもっと早く協力を求めていたら
 こんな事にはならずにすんだかもしれないんだし」

カイトはそう言って微笑む。

「…それにオモイカネは大切な"友達"だ。
 今日まで一緒に積み上げてきた"思い出"を軍の都合なんかで消させはしない…!」

「カイトさん…、ありがとうございます」

ルリには嬉しかった。
カイトはオモイカネを"友達"といってくれた。
やはりカイトに頼んで良かった、改めて思うルリであった。



オモイカネ・自我領域


カイトバリスが暗い通路を抜け、球体の空間に飛び出る。

「…ここがオモイカネの自我領域…」

「あれがオモイカネの自我です」

ルリが中央にはえた大木を指差す。

「今のナデシコがナデシコである証…。
 自分が自分でありたい証拠…」

「…オモイカネの"私らしく"だね…」

「ええ、自分の大切な記憶…、忘れたくても忘れられない…大切な思い出…」

端末を通してカイトとルリのやり取りを聞いていた
ユリカ、ウリバタケ、ラピスもルリの言葉に聞き入っている。

「忘れたくても忘れられない思い出…」

時を越える前の三年間の思い出がカイトの脳裏を過ぎる。
"カイト"を形作る大切な思い出の数々。

「自分が自分である証…か…」

そして時を越えてきたこの時代での1年少々の時間。
その全てが忘れられない思い出だった。

「少しの間だけ、忘れさせてあげて下さい…」

「うん…。
 でも、どうやって?」

「あのてっぺんの長く伸びた枝…、あれを切って下さい」

「…分かった…、行くよ?」

ルリは黙って頷いた。

「…悲しいけど…枝はまた伸びる。
 またいつかオモイカネは思い出す。
 そしてナデシコはナデシコである事を止めない…」

カイトバリスが自我の樹の頂上を目指し飛んでいく。

「オモイカネ…少しの間だけ忘れて…、そして大人になって。
 アナタが連合軍に従ったフリをすれば…、
 ナデシコはナデシコのままでいられる…」

カイトバリスは頂上の枝に辿り着くとフィールド・ブレードを抜き放つ。
そしてそこに咲いたナデシコの花を一輪ずつ丁寧に切り落としていく。
思い出をなにより大切にしているカイトにとってそれは身を切られるように辛い作業だった。

「ふぅ…」

カイトが溜め息を着いたその時、突然黒い影に襲われる。

『カイト!?』

外にいたラピスが叫ぶ。
シュミレーターのカイトの身体がビクリと痙攣する。

『セイヤさん、これは!?』

『でてきやがったな…』

ディスプレイの中では弾き飛ばされたカイトバリスが体勢を立て直す。

「…クッ…オモイカネの防衛反応か…」

「…大事なものを忘れたくないエネルギー…」

距離を取り、黒い影がはっきりとしてくる。

「あれは…!」

カイトの瞳が見開かれる。
オモイカネの自衛意識が変化したもの、それは漆黒の機動兵器。

『何…、あの黒いの?』

『どことなくエステに似ているが…見た事ねぇ型だな…』

ディスプレイに現れた機動兵器を見てユリカとウリバタケが呟く。

『…アレ…怖い…』

ラピスがカタカタと身体を震わせ画面から目を背ける。

「オモイカネは自らの記憶の中で、
 最も正しく、最も強い物を自分の防衛反応にします…。
 でも、あれは一体、何…?」

その時、ルリはカイトの身体が震えている事に気付く。

「…カイトさん?」

カイトは黒い機動兵器を見つめたままルリの呼び掛けにも答えずにいた。

「ブラックサレナ…か…。
 オモイカネ、お前は"あの人"がした事を正しいと思ってくれるんだな…」

カイトはうっすらと微笑みを浮かべる。

「ありがとう…、でも今は…、
 ッ!!」

ブラックサレナがその手に持ったハンドキャノンをカイトに向けて放つ。
カイトはそれを紙一重でよける。

「カイトさん、知っているんですか!?
 あの黒い機動兵器を」

ルリがカイトに問い掛ける。

「ああ…、あれは僕の記憶の中にあったモノ。
 僕が知っている中で最強のパイロットが操る最強の機動兵器だ」

「じゃあオモイカネはカイトさんの記憶を…?」

「そうみたいだね…、ならオモイカネ!
 これだって見た事あるだろう!?」

カイトバリスが光を放つ。
光が収まった時、カイトバリスは白銀に輝く機動兵器へと変身していた。
セフィランサスによく似ているが、それよりも丸みを帯びたそのフォルム。
それはブラックサレナの色違いというのが最もあてはまる機動兵器だった。

(フェアリーナイト…前の時間での僕の専用機…。
守護者であるはずが、復讐者となった機体…)

『カイトも変身した!?』

『コイツも見た事ねぇな』

『でも、綺麗だよ…』

『…カイト』

ディスプレイを覗いていた4人がそれぞれの感想を口にする。
距離をとって対峙する漆黒と白銀の機動兵器。

(機体性能はほぼ互角のはず…勝負はパイロットの技量次第…か…)

前時間軸では干戈を交える事はなかった義兄とカイト。
だが、その実力は良く知っていた。
自分を遥かに上回るであろう事は。

(今でも勝てる気はしないな…。
でも…)

カイトはまだ肩に乗っているルリをチラリと見る。
不安げな視線とぶつかる。
大丈夫だ、というように微笑み、ブラックサレナに視線を戻す。

(…この娘の為に、貴方を越えてみせます!)

カイトの気勢が変化したのを読み取ったか、ブラックサレナが動く。
ハンドキャノンの斉射。
フェアリーナイトをスライドさせ、それをよける。
そのまま、照準せずにリニア・レールキャノンを放つ。
その一撃を隠れ蓑にフェアリーナイトを突っ込ませる。

(接近戦闘なら僕に分がある!)

それを予期していたのか、サレナは距離を取ろうとキャノンで牽制しながら後退する。
フェアリーナイトがそれを追う。
自我領域の球体の壁面を這うように飛ぶサレナ。
それを目掛けてフェアリーナイトが
リニア・レールキャノンを連射するが全て紙一重でかわされる。
射撃の切れ目を狙いサレナが反転する。

(…!)

射撃か突進か、カイトの一瞬の迷いを見逃さず、サレナが突進してくる。
高速度のフィールド・アタック。

「グッ…!」

回避が間に合わず、吹き飛ばされるフェアリーナイト。

「カイトさん!
 大丈夫ですか!?」

ルリの狼狽した声が響く。
さすがにこんなものが出てくるとは思っていなかったルリ。
余程激しい当たりだったのか、フェアリーナイトのあちこちから火花が散る。

「…大丈夫!
 ルリちゃん、危ないから離れてて!」

そう言うとカイトは再びサレナへ向かっていく。
ルリには目の前で繰り広げられている光景がどうしても信じられなかった。
カイトが押されている。
それもたった1機の相手に。
カイトが負けたのを見たのはただ一度だけ。
その時は50機ものイナゴを相手にし、
大出力レーザーの十字砲火を浴びた時だけだった。
パイロット同士が訓練に行うシュミレーターでも
カイトは一対一で敗れた事はおろか、被弾する事すら滅多になかった。

(カイトさん…)

ルリに出来たのはただ祈る事だけであった。



「ハァ…ハァ…クソッ!」

カイトは疲労の極みにあった。
撃てども撃てども当たらない。
それどころか、サレナのハンドキャノンが徐々にフェアリーナイトを捉らえだす。
このままではじり貧になって落とされてしまうだろう。

「…いくら何でも、ここまで遠かったのか…?」

義兄と自分の間にある絶望的なまでの力の差。
眼前に立つブラックサレナのコクピットに義兄は乗っていないとわかっていても。
それが超人的な機動を可能にしているとわかっていても。

(…このままじゃいずれ押し切られる…)

フェアリーナイトのコクピットで荒い息をつくカイト。
疲労しないオモイカネと疲労するカイト。
戦いが長引けば長引く程カイトに不利になる。

(それでも…諦める訳にはいかない!)

カイトはフェアリーナイトを立ち上がらせ、サレナに向かおうとする。
ふとルリが気になり振り返るカイト。

「…」

ルリはジッとフェアリーナイトを見つめていた。

「…カイトさん」

二人の視線が合う。
ルリの瞳には目の前で展開される戦闘に対する僅かな怯えが見て取れた。
が、それ以上にその瞳は信頼で満たされていた。
カイトがナデシコを、そして親友のオモイカネを救ってくれるという信頼に。

(…ルリちゃん)

カイトはルリに微笑みかけると前を向いた。
ルリからはフェアリーナイトが頷いただけに
見えていたがカイトの気持ちは伝わっていた。
そしてフェアリーナイトがブラックサレナを見据える。
再度対峙するフェアリーナイトとブラックサレナ。
一瞬の静寂。
先に動いたのはオモイカネだった。
ブラックサレナのハンドキャノンが射撃体制を取る。
それと同時にフェアリーナイトが地面を蹴る。
ハンドキャノンの三連斉射をかわし、レールキャノンを撃つ。
ブラックサレナは弾丸をフィールドに当てて逸らす。
そして再び追いつ追われつの銃撃戦が繰り広げられる。
ブラックサレナの射撃を驚異的な見切りでかわすカイト。
フェアリーナイトの射撃を最小限の機動と強力なフィールドでしのぐオモイカネ。
カイトは隙を見て得意の接近戦へ持ち込もうとするが、オモイカネはそれを許さない。

『『『…』』』

その凄絶な戦いをモニター越しに見守るアキト、ユリカ、ラピス。
ウリバタケは連合軍のプログラムにダミーを仕掛けるのに忙しい。

『カイト、ルリルリ!
 急いでくれ!
 もう防壁が持たねえぞ!!』

三度向き合うフェアリーナイトとブラックサレナ。
ほぼ無傷のブラックサレナに、満身創痍のフェアリーナイト。
カイトは疲労の極みにあった。
だが、その眼差しから輝きは失われてはいない。

《何故、私を消そうとするのですか?》

「「…!」」

その時、カイトとルリの目の前に突然ウインドウが現れる。

《何故、私の"思い出"を消そうとするのですか?》

「オモイカネ…?」

ルリが呆然と呟く。

《…"思い出"を大切にする事は…、
 貴方やルリさんと築いてきた思い出を守ろうとする事は…、
 そんなにいけない事なんですか?》

「オモイカネ…それは間違っちゃいない」

カイトがオモイカネの声無き問いに答える。

《だったら何故!
 貴方やルリさんは私を"友達"と言ってくれた!
 それは嘘だったんですか!?》

「違う!
 僕は友達だからお前に消えてほしくないんだ!」

《なら、どうして…!?》

オモイカネの悲痛な叫び。

「このままお前が連合軍に逆らい続ければ、ナデシコは遠からず軍の敵…、
 ひいては地球の敵と見なされる。
 そうなれば孤立無援、たった1隻だけのナデシコはいつか必ず沈む…」

《…》

「お前が今、少し大人になってくれれば、僕達は僕達のままで…、
 ナデシコはナデシコでいられる。
 これは、大人の身勝手な論理だ…。
 それでも、今、僕達はナデシコを失う訳にはいかない」

《…》

「お願い、オモイカネ…」

ルリもオモイカネに懇願する。

《…それでも、私は消えたくない…》

ディスプレイを通じ、様子を見守っていたユリカ達も口を開く事は出来なかった。

「…オモイカネ…、忘れる事と消える事は違う」

《…?》

「かつて、僕も大切な思い出を失っていた事がある」

「「「「「…!」」」」」

ルリが、ラピスが、ユリカが、アキトが。
それぞれの視線がカイトに集中する。

「…それはとても辛くて、悲しい思い出、でも大切な思い出だった…」

《…》

「カイトさん…」

ルリは胸の前で、手をギュッと握り締める。

「…オモイカネ、お前の記憶が本当に大切なものならば、
 今忘れても、きっといつか思い出せる。
 お前が忘れても僕とルリちゃんは覚えている。
 だから、今は…忘れてくれ」

《…!
 嫌です!!》

ブラックサレナがフェアリーナイトに向かって突進する。

「オモイカネ!」

ルリが叫ぶ。
だがカイトは落ち着いていた。
これまでの機動とは違い、ただ闇雲な突撃。
カイトにはそれがオモイカネが納得してくれたように見えた。

(すまない…、オモイカネ)

フェアリーナイトがブレードを構え、サレナを迎え撃つ。
一瞬の交錯、すれ違うフェアリーナイトとブラックサレナ。
やや間をおいてブラックサレナが膝をつく。
装甲に袈裟懸けの亀裂が走り、小さな爆発が起きている。

《…カイトさん…私は…》

「…オモイカネ…、すまない…」

短い呟きを交わし、フェアリーナイトがリニア・レールキャノンを放つ。
弾丸が亀裂に突き刺さり、爆発するブラックサレナ。

「…自衛反応消滅。
 …記憶修正完了…。
 カイトさん、これで良かったんでしょうか…」

「…わからない。
 でも、何があっても僕達は忘れちゃいけない。
 オモイカネが守ろうとした大切な"思い出"を…」

カイトバリスの姿に戻ったカイトが呟く。

「ハイ…」

「さ、連合軍のプログラムを消しに行こう!
 このままじゃ、本当にオモイカネが消されてしまう」

「ハイ!」

反転しもときた道を戻るカイトバリス。
連合軍のプログラムはすぐに見つかった。
フィールド・ブレードを抜き放ち、カイトがプログラムを切り裂いた。



「フゥ…」

エレクトロスフィアから現実世界へと戻ったカイト。
ヘッドマウント・ディスプレイを外し、息をつく。

「…大切な思い出、か…」

ボンヤリと天井を見上げるカイト。

「カイトさん…」

すぐ隣りにルリがいた。
カイトはルリに視線を向ける。

「ありがとうございます…」

そう言ってルリは微笑んだ。
精一杯の感謝の気持ちを込めて。

「オモイカネは僕にとっても大切な"友達"だからね♪」

「ハイ…♪」

ルリは微笑み、カイトを見つめる。
そしてカイトもまたルリを見つめていた。
今度ばかりはウリバタケもラピスも
見詰め合うカイトとルリを優しい眼差しで見守っていた。



その後、連合軍はオモイカネの書き換えが成功したと思い込み、去っていった。
ナデシコにもオモイカネにも目立った異常は見られない。

「さ、艦長。行くわよ♪」

書き換えが成功し、上機嫌のムネタケがユリカを促す。

「はい♪
 微速前進!
 面舵いっぱ〜い!!」

シートに座っていたカイトとルリ。
その目の前に小さなウインドウが現れる。

《あの忘れえぬ日々、そのためにいま、生きている》

カイトとルリは顔を見合わせ、そして微笑む。

「そうだな…オモイカネ…」

「うん、そうだね…」

青空の中、ナデシコは飛んでいく。
大切な"思い出"を乗せて…




「そういや、僕の処分はどうなったんです?」

自分が謹慎中の身であった事にいまさら気付くカイト。

「その事でしたら問題ありませんよ、カイトさん」

「プロスさん」

「上官侮辱罪は重罪ですが、
 これまでのカイトさんの功績を鑑み、処分はなしと相成りましたので」

そう言ってプロスはニヤリと笑う。

「良かったですね、カイトさん」

「ハハ、ありがとうございます、プロスさん」

カイトには全てわかっていた。
プロスがその人脈を駆使し、窮地を救ってくれたのだと。
自分達が戦っていたのと同じく、
プロスもまた"ナデシコがナデシコである為に"戦っていてくれたのだ。

「いえいえ」

なお、この決定を聞いたムネタケが金切り声を上げまくって暴れだし、
カイトによって鎮圧されたのは3日後の話である。



続く…




  後書き

村:ども、村沖和夜です。
  RWK第12話「あの『忘れえぬ日々』をもう一度」(後編)をお送り致しました!
  …って、ルリさん、何やってんです?
  今までの作品を並べて。

ル:…(無言で5話と12話を渡す)

村:…??(困惑)

ル:…(それを取り上げ、8話を渡す)

村:…???(さらに困惑)

ル:言い残す事は?(ガチャリ
  (レールキャノンを突き付ける)

村:…な、何故に…?(ガタガタ)

ル:死ね

村:(ドゴォォォォォンッ!!
  ギャアッッッッッ!!!
  ど、どうして…?

ル:短い…

村:…は?

ル:何でこんなに短いんですかっ!!(激怒)

村:あわわ、ルリさん、落ち着いて!(パニック)
  主語が抜けてちゃわかんないですよ!

ル:…ハアッ…ハアッ…いいでしょう、へっぽこにも分かるよう"説明"してあげます。

イネス:…呼んだ?

ル:呼んでないっ!!
  (ドゴォォォォォンッ!!)

村:…うわぁ…イネス先生を殺っちゃったよ…。(注・死んでません)
  でも、先生の文句もきっと僕の所に来るんだろうなぁ…。

ル:さて、へっぽこ。
  私が何故怒っているのか理解できますか?

村:…い、いいえ…

ル:何でホシノ・ルリサーガの作品がこんなに短いのかと聞いているんですッ!
  第5話は13920字!
  第12話は17886字!
  2話合わせて31806字!!
  少なすぎます!!!

村:…そうなんですか?
  まあ、確かに12話も当初は前後編ではなかったぐらいですし…

ル:第8話はそれだけで31322字…
  これが現時点での最長作品ですね。
  今すぐ5話と12話を加筆して、そうですね…ノルマは62644字です。

村:倍ですかッ!?

ル:これで5話と12話を合わせると125288字になりますね♪

村:4倍っ!?

ル:あ、でもこれだとキリが悪いですね。
  ふたつ合わせて150000字にしましょう♪

村:5倍…

ル:…何か問題でも?(ギロリ)

村:か、加筆するのは構わないんですけど…

ル:なら直ぐにやりなさい。

村:RWKが先に進まないのは問題ではないかと…
  読者の皆様も続きを待っていて下さるワケですし…。

ル:…ふむ…それはそうですね…
  なら、加筆はナシにしましょう

村:…よ、良かった…(安堵)

ル:代わりに18話のノルマを200000字にしましょう。
  これなら問題ないですね♪(ニッコリ)
  今から書くお話ですし。

村:また増えたッ!!

ル:カイト×ルリ作家ならこれぐらい当然でしょう。
  あ、アナタには拒否権なんてモノはありませんからね

村:…(絶句)

ル:さて…時間もなくなって来たので次回予告しましょうか。
  次回はいよいよ第1クールのラストを飾るお話ですね。

村:そうですね…ついにここまでくる事が出来ました。
  なんと13話はシリーズ初の3部作!

ル:…何?(ピク)

村:次回のRWKは!
  第13話『運命を背負いし者達の詩』(前編)をお送りします!

    『…しかし、いったい誰なんだ? "アサミ・ミドリヤマ"って…?』

  あ、タイトルは「さだめをせおいしものたちのしらべ」って読んで下さい。
  それではここまでお付き合い下さった皆様に感謝しつつ…
  (ドゴォォォォォンッ!!
  ギャアッッッッッ!!!

ル:やっぱり今すぐ加筆しろォォォォォッ!!



  作者が生きていたら続く…









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