機動戦艦ナデシコ
〜Return of the White Knight〜




第12話 あの『忘れえぬ日々』をもう一度(前編)





深夜
ナデシコ・ブリッジ



「フゥ…中々上手くいかないな…。
 もう時間がないってのに…」

カイトは一人ブリッジで溜め息をついていた。
手元に置いたマグカップに口をつけると作業を再開した。
IFSを輝かせ、ナデシコのAI−オモイカネの自我領域へとアクセスする。
そしてオモイカネに芽生えた自我、その中でも余計な部分を消去する作業。
カイトはこの作業をナデシコに帰って来てからずっと当直の度に繰り返していた。
しかしカイトの表情は苦いものだった。

「…こんな大変な事なんだったらルリちゃんに
 しっかりログの読み方教わっとくんだった…」

サブオペレーターとはいえ、
AIの自我領域のログを読める程には習熟していないカイト。
操艦や火器管制といった事なら元から用意されているログや
ルリの作ってくれたログの組み合わせで十分対処できる。
だが、オモイカネが自ら蓄積した整理されていないデータログを読み、
それが必要かどうかを見極めるのは専門家ではないカイトには至難の技だった。
しかもオモイカネにはキャンセルしたデータを残しておく癖があり、
カイトが消去したはずのデータが復活していたという事も度々だった。
その事もあって作業は遅れに遅れていた。
ナデシコがトカゲ共々連合軍を攻撃し、大問題となった戦い
−言うなればオモイカネの"造反"−
まで後僅か。
カイトは自らの知る歴史を大きく変えるつもりはなかったが、
この戦いだけは避けるつもりだった。

(…今のルリちゃんにはショックが強すぎる…)

この事件がルリに与えるショックの大きさは計り知れない。
そして、今のルリはカイトが初めて出会った頃より
豊かな感情を持っているのは間違いなかった。
それがルリを強くし、またある意味では弱くもしている。
この事件がルリに及ぼす影響をカイトは恐れていた。

「…また復活してるよ…」

僅かに集中を欠いて、考え事をしていたカイト。
その間にオモイカネは先程消去していたデータを復活させていた。
カイトは盛大に溜め息をつくと再び作業に集中する。

(…ルリちゃんの為だ…。
頑張らなきゃね…!)

その日も勤務交代の時間までカイトの瞳からIFSの光が消える事はなかった。



数日後
地球某所・ナデシコ



その日もナデシコは連合軍の先頭に立ち、激戦の真っ只中にいた。
北極海やテニシアン島、ナナフシ攻略の功績が認められ、
待っていたのは激戦区を"ドサ回り"の日々だった。

「…まるで親の仇みたいに狙われてますね…」

「ウン」

ルリの呟きにコクリと頷くラピス。

「そっちがそうならこっちもその気!
 徹底的にやっちゃいます!
 エステバリス部隊、出撃!!」

ユリカの号令と共にエステバリスがカタパルトを飛び出していく。

『フフフ、地球連合の興廃、常に我等の奮闘にあり…。
 アカツキ、出る!』

『…了〜解。
 テンカワ、出ます』

『元気、元気!
 スバル、出るぜ!』

『負けないもん!
 アマノ、いっきま〜す!』

『お仕事、お仕事…。
 マキ、出るよ!』

『レッツゴ〜、パッション♪
 ダイゴウジ・ガイ、行くぜ!』

『…』

ガイまでは次々に飛び出して行ったが
カイトのセフィランサスだけがどういう訳か動かない。
ルリがウインドウを開くとボーッとしているカイトが映る。

「カイトさーん?
 おーい、やっほー。
 起きてますかー?」

ボーッとしているカイトにルリが呼びかける。

『…え?
 あ、ルリちゃん、どーしたの?』

「…どーしたの、って出撃ですよ?
 ボケッとしてないでさっさと出撃して下さい」

『あ!
 ゴ、ゴメン!
 カイト、出ます!』

慌てて飛び出していくカイト。
外では既に陣形を組んでいたエステバリス部隊。
カイトもすぐにその中に加わる。

『カイト! 遅えぞ!
 何やってんだ!?』

『ハハハ、しっかりしてくれよ!
 妖精の白騎士クン?』

リョーコの叱責とアカツキのからかう声。

『ス、スイマセン…』

カイトはセフィランサスのコクピットの中で小さくなっていた。

「ん〜、でも最近カイト君どうしちゃったのかしら?
 やけにボーッとしてる事が多いけど」

パイロット達のやり取りを聞いていたミナトが呟く。

「新しいセフィランサスが合わないんじゃないですか?」

ミナトの呟きにメグミが答える。
ナナフシ攻略戦で大破したカイトのセフィランサスは
ナデシコの修理に立ち寄ったコスモスで再生産された機体が新たに配備されていた。
同じく大破したレールキャノンと外部エンジンは再生産が間に合わず、
機体だけの配備であったが。

「…カイトさんに限ってそんな事ないと思いますけど?」

最近ミナトとメグミの会話に入る事の多いルリ。

「そうね…ルリルリがそう言うんだったらそうよねぇ♪」

「そーですね♪」

ニヤリと笑うミナトとメグミ。

「…お二人とも、その笑顔は何なんですか…」

からかいのネタを増やしてしまった事に今更ながら気付くルリ。
しかし、既に手遅れであった。

「ナデシコにはルリルリ以上にカイト君を知ってる人はいないって事よ。
 妖精サン♪」

「はぅ…(///)」

ミナトのからかいに頬を真っ赤に染めて俯いてしまうルリ。

「…エステバリス、全機出撃完了…」

ミナトの言葉にルリの隣でラピスが頬を膨らませ

「…カイトの妖精は私…」

と呟いたとかなんとか。
ともかく真っ赤になってフリーズしてしまったルリに代わって
エステバリス部隊の出撃完了を報告するラピス。

「オッケー♪
 全機攻撃開始!」

ユリカの号令で今日の戦闘が始まる。
−後に"オモイカネの反乱"と呼ばれる戦いが−



カイトは戦闘開始の号令と共に敵の群れの真っ只中に突っ込んでいく。

「お、おい! カイト!
 突出するな!」

リョーコの制止の声を振り切ってカイトは一直線にトカゲ艦隊の旗艦を目指す。

(自我領域の修正は失敗した…
ならば被害が大きくなる前にヤツ等を退却させてやる!)

突っ込んできたカイト機にバッタが集中し始める。
セフィランサスの進攻方向に分厚いバッタの壁が形成される。

「…クッ…。
 邪魔だぁぁぁぁぁっ!!
 退けぇぇぇぇぇっ!!!


セフィランサスが右腕に装備したフィールド・ブレードをなぎ払う。
ブレードに切り裂かれたバッタが爆発する。
爆発したバッタの周囲にもその余波が及び、爆発の連鎖が発生する。
カイトは撃破したバッタに目をくれる事なく突撃を続ける。

「ふぇぇ…、カイト君すっごーい…」

ユリカが思わず声を上げる。

「相変わらず凄いわ…」

「…カイト、カッコいい(///)」

ブリッジクルーやパイロットが感嘆の声を上げる中、
ルリは不意に胸騒ぎに襲われる。

(…カイトさん…何か焦ってる…。
いつもと全然違う…)

セフィランサスの機動に何か異質なものを感じるルリ。
普段のカイトの機動は洗練されたスマートなものだが、
今日はどこか強引で荒々しい機動をしている。
思わずルリは小さく身体を震わせる。

(…何か…、何か嫌な予感がする…)

漠然とした予感に眉をひそめるルリ。
予感などというものをルリは信用していない。
だが、カイト絡みの事で自分の嫌な予感が外れたためしがない。
不安げな瞳でルリは突撃するセフィランサスが
映っているスクリーンを見つめていた。



「いや〜、今日のカイト君は気合い入ってるね〜♪
 僕達も頑張らなきゃね!
 …そこ、いただき!」

アカツキがバッタの一群をロックしミサイルを放つ。

何ぃ!?

だがミサイルを発射した瞬間、半数のロックがバッタから連合軍の艦艇に切り替わる。
同様にアキト達のエステバリスの砲火も半数以上が連合軍へ向かう。

「な、何だ!?」

「何だ、こりゃ?」

ナデシコを中心にトカゲ艦隊、連合軍艦隊に爆発が広がっていく。

「…連合軍巡洋艦アルカネシト、並びにサンダーソニア沈黙…」

「え? 何?
 何が起きたの〜?」

ルリの感情を押し込めたような報告にユリカはただオロオロとする。

「エステバリス各機、味方も攻撃してます!」

「味方を攻撃〜!?」

「ナデシコとエステバリスは連合軍も敵と認識しているようです!」

即座にルリはオモイカネに自己診断プログラムを走らせるが問題は見当たらない。

「ナデシコの誘導装置に異常はありません。
 エステバリスは全て敵を攻撃してます」

「何で〜!?
 敵はあっち!
 トカゲはあっちだよ〜!」

ユリカが両手をジタバタと振り回す。

「あ〜、もう攻撃止め! 止め〜!」

ユリカが攻撃中止を命じる。

「敵、すぐ近く…。
 今、攻撃止めたら落ちる…」

ラピスがボソリと呟く。
スクリーンにはバッタがアップが映る。
ブリッジで混乱したやり取りが続く間にもエステバリスから放たれるミサイル、
そしてナデシコの対空砲火はトカゲと連合軍の頭上に降り注ぐ。

(…これも間に合わなかった…。
くそっ…)

カイトは大混乱に陥った戦場を見回し、表情を歪める。
そして苦虫を噛み潰したような表情で通信回線を開く。

『カイトよりナデシコ及びエステバリス各機!
 誘導系兵装を使用せず、非誘導兵装にて攻撃されたし!』

カイトの叫ぶような指示が全回線に流れる。

『うん、僕もそうした方がいいと思うな。
 …でも、もう手遅れだと思うよ…』

アカツキの視線の先ではイズミの放ったミサイルによって
第1艦隊旗艦ジギタリスが船体から盛大に火を噴き出し、沈みつつあった。

『ああ…、手遅れだな』

同じようにリョーコの視線の先には今作戦の防衛目標である
軍の補給基地がアキトのミサイル攻撃を受けて炎上していた。
味方を巻き添えにして攻撃してくるナデシコに戸惑ったかトカゲ艦隊が後退を始める。

『カイトよりナデシコ!
 トカゲ艦隊が後退し始めました!
 このまま追撃戦に入ります!
 連合軍には退却要請を!』

それを見たカイトは混戦を収集する為に動き出す。
やや間があって「了解」と返事が帰ってくる。
フィールド・ブレードを掲げてセフィランサスが旗艦を目指して再度突撃する。
ブレードを一閃し、ディストーション・フィールドを切り裂く。
そしてそのまま敵艦の懐へ飛び込み、機関部へブレードを突き刺す。
一瞬の間をおいてセフィランサスが離れる。
そして爆発。
旗艦が落ちた事によりトカゲ艦隊の後退が加速する。
普段ならこのまま掃討戦に移るところだが、
連合軍もナデシコも今日はそれどころではなかった。



ナデシコ・カイト私室


深紅の夕焼けが戦場を照らし出す。
辺りには累々と連合軍とトカゲの艦隊の残骸が横たわる。

「くそっ…こうなる事は分かっていたのに…」

カイトは自室で連合軍の軍服に着替えながら吐き捨てるように呟く。
ナデシコに連合軍の調査船が入る事になり、そこへ出頭を命じられたカイト。
その為、ナデシコに帰ってきて以来、仕舞い込んでいた軍服に久々に袖を通す。

(…ルリちゃん…)

カイトの脳裏に悲しげな表情を浮かべた最愛の少女に想いを馳せる。
歴史を知っているのにどうにも出来ない。
その事実にカイトは苛立っていた。

「…さて、行くか…」

鏡で襟の歪みを正し、そこに少尉の階級章をつける。
そして最後に白いマントを羽織り、バイザーを手に持つ。
鏡でもう一度全身をチェックするとマントを翻し、部屋を出てブリッジへ向かう。



ナデシコ・ブリッジ


カイトがブリッジに入るとパイロットと整備班員が睨み合っていた。

「遅くなりました…って、何やってんです?」

「…あ、カイト君。
 実は…」

ユリカがカイトに事の顛末を説明する。

「…という訳なの」

それを聞き、ガックリと肩を落とすカイト。

「いいか!
 俺は女には失敗してもメカでこけた事はねぇ!
 てめえらの未熟を俺達のせいにするんじゃねえ!!」

「何だと!」

ヒートアップし始めるパイロットと整備班を止めたのは、
それまで黙って成り行きを見守っていたラピスだった。

「…待って。
 パイロットにも整備にも異常はない…」

「じゃあ、何が原因?」

ユリカに答えたのはカイトだった。

「…それを調べる為の調査船なんじゃないですか?」

「あ、そっか」

「調査船、近付きます」

メグミの報告と共に、ブリッジに警報音が響く。

「な、何?」

ユリカが戸惑いの声をあげる。

「いけない、止めて!
 それは敵じゃない…」

ルリがオモイカネに攻撃中止命令を出すが、調査船に向けてミサイルが発射される。

あ゛ーっ!

アキトがスクリーンを指差し叫び声を上げる。
そしてミサイルは調査船に見事に命中する。
全員の目がミナトを見る。
今、コンソールについているのは彼女だけだった。

「知らないよぉ!
 私、何もしてないよ!」

両手を上げて潔白を主張するミナト。

「調査船から脱出した救命ポッドが救援を求めてます!」

そして再びロックされる。

「えぇ!?
 また攻撃命令?」

「一体、誰が?」

ルリは必死にオモイカネに中止命令を出し続ける。

「…撃っちゃダメ…。
 オモイカネ、それは敵じゃない…!」

ルリのIFSコンソールにスッと手が置かれる。

「…あ」

ルリが顔を上げるとカイトがそこにいた。

「…手伝うよ」

ポツリと呟くカイト。
ルリはカイトの態度に異様な雰囲気を感じたが、
オモイカネを止めるのが先と判断する。
カイトの協力を得て、オモイカネの攻撃命令を中止させる事には成功する。
だが、これでハッキリとしてしまった。
一連の連合軍に対する攻撃はオモイカネに寄るものだったという事が。
ルリが悲しげな表情を浮かべて俯く。

「ルリちゃん…」

カイトは震えるルリの肩に手をおいてやる事しか出来なかった。



ナデシコ・会議室


ナデシコの欠点を次々と糾弾する調査員達。
いきなり攻撃された彼等が冷静なはずもない。
調査班に出頭を命じられたクルーは黙ってそれを聞いているしかなかった。
中佐の階級章をつけた調査班のリーダーが罵声を含んだ調査の推論をまとめに入る。

「ナデシコのコンピュータには…」

「…オモイカネです」

ルリが中佐の言葉を訂正する。

「…オモイカネ…?」

「あ、名前です。
 コンピュータの…」

怪訝な表情を浮かべた調査員にユリカが説明する。

「道具に過ぎないコンピュータに名前を付けるなど、20世紀末の悪しき風習だな」

「でもオモイカネはオモイカネです」

ルリがさらに言い募る。

「オモイカネでもカルイカネでも構わん!」

「ともかくナデシコのコンピュータには
 かつての防衛ライン突破の記憶が残っていると推測される」

「すなわち連合軍はナデシコの行動を妨害する敵であるという記憶が学習されている」

「それが連合軍との共同作戦に拒絶反応を起こす、という訳だ」

彼等の話しを聞いていたイネスが解りやすく話しをまとめる。

「人間でいえば、ライバル会社に吸収合併されて
 こき使われるサラリーマンのようなものね…」

「わかります、わかります…。
 それは辛いですなぁ…」

プロスがウンウンと頷く。

「つまり、プッツンしたわけね」

イネスの言葉に中佐が頷く。

「さよう、コンピュータならフリーズですな。
 ま、コンピュータの場合、バグをリセットすれば済む事だが…」

「オモイカネにはちゃんと自動リセットがついてます」

「だが、連合軍へ対する敵愾心が強すぎのだ。
 リセットを繰り返す度にストレスを溜めていった。
 それでついに今回のような行動に至った、という訳だ」

中佐がクルーを見回し、続ける。

「解決策としては学習した記憶を全て消去、
 新たなプログラムに書き換えるしかない!」

「…ちょっと待って下さい。
 そんな無茶苦茶が許されるんですか?
 そんな事をすればナデシコがせっかく火星まで行って学習した
 敵に対する効率的な対処の仕方まで忘れてしまいます」

ルリは何とかオモイカネの記憶が消されないで済むように必死に言葉を紡ぐ。
しかし、ムネタケがそれを遮る。

「いい事、ホシノ・ルリ?
 ナデシコは連合軍の戦艦なのよ?
 単独行動していた時の記憶なんて百害あって一利なし、よ」

「その通りだ。
 戦うのは人間で、機械じゃない」

アカツキがムネタケに加勢する。

「ナデシコは連合軍の指揮下にあるの。
 邪魔な記憶には消えて貰うわ」

ムネタケとアカツキの言葉にルリは俯いてしまう。

「…それ、大人の理屈ですよね…。
 都合の悪い事は忘れてしまえばいい…、大人ってズルイな…」

ルリがポツリと呟く。

「…ルリちゃん…」

ユリカがルリを心配げな眼差しで見つめる。
オモイカネが連合軍を攻撃した事が事実である以上、
艦長たるユリカは表立ってルリを庇う事は出来なかった。

「…このコの言う事も尊重して頂けませんか、中佐?」

ルリは突然隣から発せられた声に顔を上げる。
それまで沈黙を守っていたカイトだった。
連合軍との折衝に入ってからカイトはバイザーを掛けている。

「ナデシコのメイン・オペレーターの言葉です。
 検討する価値はあるはずです」

ルリはその時、気付く。
カイトの拳が握り締められ、震えている事に。
オモイカネに下された決定は全ての記憶を奪うということ。
かつて記憶を失くしていたカイトには、
思い出を奪われる辛さが人一倍理解できたのだ。

「…メイン・オペレーターとはいえ、
 そんな子供の言う事をいちいち相手にする暇など我々にはないのだ。
 これはプログラムを書き換えれば済む問題だ、カザマ少尉」

中佐はカイトの言葉を冷たく切って捨てる。

「しかし…!」

なおも食い下がるカイトに中佐は険しい表情を浮かべる。

「それに、今回の一件は貴様にも責任があるという事を忘れるな」

「グッ…」

カイトは唇を噛み締める。
ルリはカイトを心配そうに見上げる。

「…我々、技術局はナデシコが連合軍に編入された当初からこのような事態を予見し、
 コンピュータのデバッグを再三要求していた。
 それをはねつけたのは貴様だと言う事を忘れるな!
 …まったく、上層部の覚えがいいと思い、パイロット風情が付け上がりおって…」

「…」

黙り込んでしまったカイト。

(…カイトさんが…ずっとオモイカネを守っていてくれたの…?)

ルリの胸に温かい思いが溢れる。
だがカイトの沈黙に調子をよくした中佐がルリを見て、
イヤらしい表情を浮かべて嘲りを続ける。

「…それに、少尉はそのマシンチャイルドに大分慕われているようですな?」

じっとカイトを見つめていたルリはその言葉にハッとなり、慌てて俯く。

「…そう言えば少尉はルドベキアで各地を転戦していた時も
 別のマシンチャイルドを連れておられましたな?
 余程機械がお好きと見える」

「…な…」

余りの言い草にカイトは呆然となる。
それを怯んだと見たか、別の調査員も嘲りの言葉を紡ぐ。

「機械の敵を葬りさる妖精の白騎士様…、やはり私生活でも機械がお相手ですか」

「…貴様等…」

カイトの声が震える。

謝れ…。
 ルリちゃんに謝れぇっ!


カイトが中佐に掴みかかる。

このコは人間だ!
 ルリちゃんもラピスも機械なんかじゃない!


ギリギリと中佐の首を締め上げるカイト。
中佐の身体が中に浮く。

「グ、グェ…」

中佐の顔が赤から青へと変化していく。
慌てた周りの調査員達がカイトを引き離そうとするが、離れない。

「僕を侮辱するのは構わない!
 だが、何があってもこのコ達を傷つける事だけは絶対に許さない…」

「…」

締め上げられた中佐が白目を剥く。
カイトの殺気に当てられ、誰も動けなかった。
だが、一人だけ動いた者がいた。

「カイトさん!
 止めて下さい!
 それ以上やったら…、その人死んじゃいます!」

ルリはカイトにしがみつく。

「私、気にしてませんから!
 お願いします!
 カイトさんが人を傷つけるところなんて私、見たくありません…!」

ルリは瞳に涙を浮かべて必死にカイトに訴える。
カイトの発していた殺気が僅かに和らぐ。

「…お願いします…」

ルリがカイトを見上げる。
フッとカイトが腕の力を緩める。
ドサリ、と音を立てて中佐が床に落ちる。

「…分かったよ。
 ルリちゃんがそう言うなら…」

それまでカイトの発する余りの殺気に動けないでいた
調査員達が中佐に駆け寄り、介抱する。

「カザマ!
 アンタ、何て事すんのよ!
 彼は中佐よ!
 少尉のアンタが手を上げたなんて軍法会議ものよ!」

ムネタケが金切り声をあげる。

「…じゃあ、こんなモンいらねえよ…」

カイトが襟から階級章を引きちぎり、ムネタケに投げつける。

「…ッ!
 …アンタ…、上官侮辱罪は重罪よ!
 この事は上層部に報告させて貰うわ!
 それまで自室で謹慎してなさい!」

「…好きにしろよ。
 …すいません、失礼します」

ユリカに向かい頭を下げ、カイトはそう言い残すとマントを翻して会議室を出ていった。
ルリもその後を追おうとするが、ユリカがそれを止める。

「ルリちゃん、ダメ…」

「何でですか!
 カイトさんは私の為に…」

ルリが珍しく大声を上げる。

「…カイト君は軍人として一番いけない事をしたの…。
 それに私達がカイト君に近づいたら余計にカイト君の立場を悪くしちゃうよ…。
 お願い、今は我慢して…」

「でも…!」

ルリは納得しない。
ユリカの手を振り解こうと暴れるがユリカも必死にそれを押さえ付ける。
やがてルリの身体からフッと力が抜ける。
突然崩れ落ちたルリの身体をユリカが抱き留める。

「ルリちゃん!」

顔面を蒼白にして気を失ったルリ。
イネスが駆け寄り、ルリの様子を改める。

「…興奮しすぎね…。
 気を失っているだけだわ…。
 とにかく医務室に運びましょう」

ユリカがそっとルリの身体を抱え上げ、イネスと共に医務室へ向かって歩き出す。
そしてユリカはルリの顔を見て何かを決意する。
調査班は完全に無視である。

「…まったくこの艦は…」

中佐が喉を摩りながら呟いた。

「若輩の艦長とクルーが大変失礼をいたしました。
 ささ、こちらでお休みを…」

プロスが調査班とムネタケを貴賓室へ誘導する。

「精一杯のおもてなしはさせて頂きますよ。
 ネルガルとしても宇宙軍と事を構える気はありませんので、ハイ」

そう言いつつもプロスはまったく別の事を考えていた。

(…さて、艦長は何かをおやりになるようですな…。
私も、やれる事はやっておきましょうか。
…まずはミスマル提督とムネタケ・ヨシサダ提督に…)

プロスは頭の中に彼等を始めとする何人かの連合軍の提督の顔を思い浮かべていた。



  後書き

村:ども、村沖和夜です。
  RWK第12話「あの『忘れえぬ日々』をもう一度」(前編)をお送りいたしました!

ラ:…何、その服…?

村:何って日本人の伝統衣装じゃないっすか。
  ”羽織袴”って言うんですけど知りません?

ラ:(フルフル)
  初めて見た…
  でも、何でそんな服着てるの?

村:うむ、よくぞ聞いてくれました!
  今日はお祝い事があるのです!!

ラ:…彼女が出来たの…?(クスリ)

村:…
  こ、この妖精姉妹は…(ブルブル)

ラ:…あ、北極海に沈んでるんだっけ♪(確信犯的な笑み)

村:知ってるんならそんなボケしないで下さいッ!!

ラ:ヒャッ!(ビクッ)   …むー(怒)
  えい

村:(ドゴォォォォォンッ!!!
  ギャアッッッッッ!!

ラ:…私を怒鳴るなんて10万年早い…クスクス…
  で、何のお祝いするの?

村:…(プスプス)…こ、これです…

ラ:…『祝!風の通り道・80万HIT!!』…
  全部、私の魅力のおかげ…

村:んな訳あるかーッ!!
  管理人のRin様、諸々の作家様、そして読者の皆々様のおかげじゃーッ!!!

ラ:…えい

村:(ズガァァァァァンッ!!
  グオォォォォォッ!!!

ラ:…ちょっとは学習したら…?(憐憫)

村:…(プスプス)…
  …さ、作者をなんだと思ってやがる…

ラ:…大宇宙からの電波受信機…(キッパリ)

村:…(絶句)
  ひ、否定できねえ…(涙)

ラ:そんな事はどうでもいいの。
  大事なのはアナタの駄作でも楽しみにしててくれる人がいる事…
  だから、アナタは電波を受信し続けなきゃいけないの…

村:…いい事いうじゃないですか…(感涙)

ラ:うん。
  だから、私が主役のお話書いて

村:あー、それぐらいならいいですよ。
  お安い御用です♪

ラ:ホント!?

村:どの道、『空白の八ヶ月』のお話をもう少ししたら書くんで。
  ラピスさんが主役の回もあります。

ラ:♪
  RWKの真のヒロインは私…

村:…触らぬ”妖精”に祟り無し…、ほうっておこう…うん。
  さて、時間もなくなって来ましたのでそろそろ…

ラ:ウン。
  次回RWKは第12話後編をお送りします。
  前回予告のセリフが出てきちゃったから後編のセリフを…

   『貴方やルリさんは私を"友達"と言ってくれた! それは嘘だったんですか!?』

村:それではここまでお付き合い下さった皆様に感謝しつつ…

村・ラ:後編でお会いしましょう!!














村:…なんか忘れてるような…?
  ま、思い出せないんだから大した事じゃない…

ル:そんな事を言うのはこの口ですか?(ニッコリ)

村:る、るりひゃん!?(口に銃口を突っ込まれている)

ル:それとも思い出せないお馬鹿さんな頭が悪いんですか?(ニッコリ)

村:…ヒイッッッッッ!!
  ぼ、僕が何をしたというんですかァッ!!!(こめかみに銃口が移動)

ル:おや、まだ思い出せませんか?
  なら、また”教育”が必要ですね♪(クスクス)

村:…!(絶句)
  それだけはご勘弁を〜!!

ル:勘弁なりません。
  さ、行きますよ、へっぽこ。

村:イヤァァァァァッ!!(ズルズル)
  僕が何をしたっていうんだぁぁぁぁぁッ!!













ル:…ホシノ・ルリサーガ第2部の作品なのに後書きに私を呼ばなかった罰です







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