機動戦艦ナデシコ
〜Return of the White Knight〜





第4話 合流!パイロット三人娘(前編)


ナデシコ・通路

格納庫へと続く通路をメグミは全速力で駆け抜けていく。
看護学校時代の実習中に一度だけ見た事がある盲管銃創。
弾丸が体内に留まり、ダメージを与え続ける怪我。
その状態が長く続けば続くほど、事態は深刻なものへと変わる。
ヤマダの説明を聞いた限りでは、
カイトの容態は一刻を争う事は明白だった。

(・・・私で・・・助けられるの・・・?)

ふと、メグミの中に弱気な思いが湧き上がってくる。

("準看"っていっても資格を持ってるってだけで・・・)

一度芽生えた弱気な心を打ち消せず、走る速度が鈍る。

(先に医務室に行って、ちゃんとした先生に・・・)

そうすれば手当ての心得を持った人間の格納庫への到着は遅れてしまう。
だが、きちんとした手当てを施せるだろう。

(そうよね・・・その方が・・・)

メグミが足を医務室に向けようとしたその時、
一人の少女の顔と言葉が甦る。
始めてその少女と出会った時、
末っ子だったメグミは可愛い妹が出来たと喜んだ。
特殊な育ちのせいか表情に乏しかったが、
一人の少年と関わる事で、最近は見違えるような表情を目にする事もあった。
その少年が撃たれたと聞いた時、
普段無表情な少女がその金色の瞳から涙を零し、呟いた。

『カイトさん・・・死んじゃうんですか・・・?』

その言葉に自分はなんと答えたか?
"自分を信じろ"と・・・"必ず助けてみせる"と言ったはず。
そのはずが今の自分は弱気に囚われてしまい、足を止めようとしている。

(・・・しっかりしろ、メグミ・レイナード!)

両手で頬を思い切り叩き、弱気の虫を追い出す。
そして再び全速力で格納庫に向けて走り出す。

(ルリちゃんの・・・私の妹の幸せ、絶対に消させない・・・!)

走るメグミの瞳にはもう迷いは浮かんではいなかった。
浮かぶはただ決意のみ―


格納庫に飛び込むとすぐにカイトを抱きかかえたヤマダの姿が目に入る。

「ヤマダさん!」

「おお、メグミ!
カイトが・・・カイトの野郎が・・・」

パニックに陥ったヤマダはカイトの名を繰り返し叫ぶだけだった。
メグミも実際に血を流して倒れているカイトをみると
落ち着きを失いそうになる。

(・・・大丈夫・・・落ち着いて・・・深呼吸・・・良し!)

「ヤマダさん、代わります」

「・・・お、おう!
だ、大丈夫なのか・・・?」

メグミが思いのほか冷静な事に驚き、素直に場所を譲るヤマダ。

「はい。
これでも私、準看の資格持ってますから」

そう言いながら巻いていたスカーフを外し、カイトの傷口に押し当てる。
その瞬間、ニチャリと血の感触が手に伝わってくる。

「う・・・、ヤマダさん・・・、
どこかに救急キットがあると思います・・・。
探して来て・・・貰えませんか?」

スカーフ越しにも伝わってくる生々しいその感触に
思わず顔を顰めるメグミ。
その顔を見せないようにしてヤマダに指示を出す。

「お、おう!
分かったぜ!」

ヤマダはメグミの指示に従い、救急キットを探しに行く。
メグミは傷口を押さえたまま、カイトの様子を観察する。

(顔が真っ青・・・脈も弱い・・・。
お願い、早く止まって!)

流れ出る血が早く止まるようにと祈りながら、傷口を押さえ続けるメグミ。
そこへ救急キットを抱えたヤマダが戻ってくる。

「あったぞ!
これでいいか?」

「・・・止血キットを!」

「ええと・・・お、これか!」

テキパキと応急処置を施すメグミ。

「メグミ・・・何とか助けてやってくれ・・・」

時折、メグミの指示で道具を探し、
それを渡す事しかできないヤマダは歯噛みする。

「・・・もちろんです!」

2人にとって短いが長い時間が過ぎていく。
メグミの応急処置が一段落ついた頃、格納庫に新たな声が響く。

「メグミさん!」

プロスとジュンが格納庫へ姿を現す。
担架を担いでやってきた2人。

「カイト君は!?」

ジュンが叫ぶ。

「今、応急処置をした所です!
早く医務室に!」

慎重な手つきでカイトを担架に乗せるプロスとジュン。

「分かりました。
ジュンさん、行きましょう。
・・・ところでメグミさん、ヤマダさん。
着替えて来られては?」

メグミとヤマダを見たプロスが言う。
そう言われて2人は自分の制服を見る。
ヤマダの赤い制服は目立たないがベットリと血に濡れて光っている。
メグミのオレンジの制服も赤く血に染まってしまっている。

「・・・そうですね、そうします」

「俺はいい!
それより、カイトの傍に・・・」

自分を庇ってカイトが撃たれたという事を気にしていた
ヤマダが叫ぶがメグミがそれを制した。

「・・・私達が出来る事はもうしました・・・。
後は本職の人たちに任せましょう。
それにこんな格好で皆の前に出たら、パニックになっちゃいますよ?」

「…分かったよ」

メグミに諭され、神妙に頷くヤマダ。

「そうして下さい。
ではジュンさん、行きますよ!」

「はい!」

担架を持ったプロスとジュンがカイトに衝撃を与えぬよう注意して歩き出す。
それを見送るメグミとヤマダ。
二人が格納庫を出て行った後、ヤマダがポツリと呟く。

「…カイトのヤロー…大丈夫かよ…?」

「…多分」

「多分って…オイ…!」

ヤマダがメグミを見る。
そこには涙を流すメグミがいた。

「…カイト君…助かりますよね…?」

「…オ、オイ…」

「カイト君…大丈夫ですよね…!
私、ちゃんと手当てできてましたよね…!?」

そこでヤマダは気付く。
メグミは冷静に対応していたが、
その心の内では張り裂けそうな思いと必死で戦っていた事に。
カイトが自分の手から離れ、その思いが吹き出してきたのだと。

「大丈夫だ…」

メグミの肩に手を置き、ヤマダが話し掛ける。

「ヤマダさん…?」

「おめえが一生懸命に手当てしたんだ…必ず助かる」

「…ハイ…」

「それによ、ヒーローは三下の敵にやられても死なねえもんよ!」

笑顔でガッツポーズを作るヤマダ。
その様子に思わずメグミも吹き出してしまう。

「…ヤマダさん、不謹慎ですよ?」

メグミの顔にも笑みが浮かぶのを見て、ヤマダも笑う。

「おお!そうだったな!
…と言うか、メグミ!
俺様の名前はダイゴウジ・ガイだ!」

いつも以上のオーバーリアクションのヤマダ。
自分を何とか勇気付けようとするヤマダの心遣いが
今のメグミには嬉しかった。

「分かりました、これからはそう呼びます…ガイさん」

そう言ってメグミはニッコリと微笑む。
その笑顔に感謝を込めて。

「オ、オウ…分かればいいんだ、分かれば…」

メグミの笑顔に赤くなるヤマダ。

「…でも、カイト君が心配です。
私達も着替えて医務室に急ぎましょう」

「…そうだな」

真顔に戻ったメグミの言葉を聞き、ヤマダも真顔に戻る。
そして二人はそれぞれの部屋へ向けて走り出した。


ナデシコ・医務室

"手術中"の赤いランプを大勢の目が見つめる。
カイト撃たれるの報せを聞いたクルーが集まっている。
カイトが手術室に担ぎ込まれてから
すでに1時間が経過しようとしていた。
口を開く者は一人もなく、医務室は重い空気に包まれていた。

「あ…消えた…」

誰かの呟くような声に全員がランプに注目する。
手術室の扉が開き、医師が出てくる。

「カイト君は…どうなりました?」

クルーを代表してユリカがたずねる。

「艦長、ご安心を。
カイト君は無事です。
不幸中の幸いと言いますか、神経や臓器は傷ついておりません。
ただ出血が酷く、体力を消耗しています。
一週間は出撃を控えた方がいいですね」

医師の言葉を聞き、医務室に漂っていた重たい空気が拡散していく。
あちこちから歓声や安堵の声が漏れる。

「それで、カイト君は今…?
…会えますか?」

ユリカの声に全員が耳をそばだてる。

「…今は麻酔で眠っています。
起こすのも何ですし…
目が覚めてからにしてはどうでしょうか?」

医師の言葉にユリカも頷く。

「そうですね、そうします。
じゃ、ルリちゃん、カイト君よろしくね♪
目が覚めたらブリッジに連絡してね?」

先程までの真面目な顔はどこへやら、
ニッコリと微笑み、ルリにそう言うユリカ。

「え…?
わ、私が…ですか…?」

カイトが無事と聞き、安堵の息をついていた所に
突然話を振られ、慌てるルリ。

「うん♪
ルリちゃんとカイト君、とっても仲良しさんだよね?
やっぱり目が覚めた時、
ルリちゃんがいてくれた方がカイト君も嬉しいと思うの!」

ユリカが断言する。

「でも、ナデシコのオペレートもありますし…」

「オモイカネがやってくれるってさ、ルリルリ♪」

《任せて下さい、ルリさん!》

ミナトの言葉に呼応してウインドウを重ねるオモイカネ。

「…オモイカネ…貴方まで…」

思わぬ所からの援護射撃にうろたえるルリ。

「…でも…」

助けを求めるように視線をさ迷わせるが、
医務室にいるクルーは目を合わせてくれないか、
ルリを見てニコニコと笑っているかのどちらかであった。
ルリはその時、自分がこの状況を覆す術を持たない事を悟った。

「あう…」

そんなルリに業を煮やしたかユリカが切り札を放つ。

「ああ〜ん、もう!じれった〜いっ!
ルリちゃん、これは"艦長命令"です!!」

「…はい、了解…しました…」

「うん、良し!
それじゃルリちゃんよろしくね!
他の皆さんはお仕事に戻りましょー♪」

ルリの返事に満足したユリカがクルーに呼び掛ける。
それを聞いてゾロゾロと医務室を出ていくクルー一同。
そしてあっという間に医務室にはルリ一人が残される。
ご丁寧に医師や医療班のスタッフまで消えてしまっていた。

「フウ…」

ボケッと突っ立っているのもバカらしいと思い、
カイトの眠るベッドに向かう。

「…カイトさん、ルリです。
…入りますよ?」

カーテンで仕切られていたので一応声を掛けてから中に入る。
案の定、返事はない。
カーテンを開け、中に入る。
そして眠るカイトの様子をそっと窺う。

「…スー…スー…」

やや顔が青白いが規則正しい寝息を漏らすカイト。
ルリはその寝顔をジッと見つめる。
普段の笑顔と氷のような無表情がその寝顔に重なる。

(どっちがホントのカイトさんなんですか…?)

声には出さず、心の中だけで呟くルリ。
ミナトの言っていたカイトの背負った重い過去。
自分はそれが何かを全てではないにしろ、知っている。
だが、今はそれだけではないような気がしていた。
第3次防衛ラインでのジュンへの言葉。
カイトは何かを隠している。
しかもこのナデシコに関わる重大な事を。
思えば最初からカイトは計ったかのような
タイミングでナデシコに現れた。
その後も、ナデシコの重要な選択の場面の中心にはカイトがいた。
これの意味する事は何だろうか?

(何を考えてるんでしょう…私は…)

ベッドサイドの椅子に腰を降ろし、
頭の中にとりとめなく溢れてくる考えを追い出す。

「…ン…ンン…」

「…カイトさん?」

目が覚めたのかと思い、呼び掛けるがそうではないようである。

「…ンン…ルリ…ちゃん…」

(…!)

ドクン!とルリの鼓動が大きくなる。

「…お弁当…作って来た…よ…一緒に…食べよう?」

(夢…見てるんでしょうか?
私と一緒にいる夢…)

何となくカイトの寝顔も微笑んでいるように見える。

(でも、逆だと思います)

カイトの夢の中ではルリが弁当を作って貰ったようだ。

(こういうのは普通、女性がお弁当を作るのでは?
…確かに私は料理なんてできませんが)

自分の場合、本当にカイトの夢の通りになりそうだと思うルリ。
ナデシコの料理長、ホウメイに自己紹介した時に言われた言葉が甦る。

『ルリ坊も好きな人に手料理ご馳走したいって思ったらいつでも来なよ!
簡単な料理から教えてやるからさ!』

(…今度、習いに行こうかな…)

そう考えている自分に驚くルリ。

(私、どうしちゃったんだろう…?
今までこんな事なかったのに…)

ルリはマシンチャイルドとしてこの世に生を受け、
大人達の言われるがままに生きてきた。
比べるモノがなかったので、
ことさら自分が不幸だと思う事もなかったが。
ナデシコに乗ってもそれは変わらない、そう思っていた。
だが、そうではなかった。
ナデシコに乗ってまだ一ヶ月にもならないのに、
これまでの11年間より遥かに沢山の"思い出"が出来た。
それはとても心地良いモノ。
そしてそこには必ずカイトがいた。

(…やっぱり私、カイトさんの事…)

「…ルリちゃん…?」

「…ハイ?」

考え事に夢中で、突然名前を呼ばれ、
少々間抜けな声で返事をしてしまうルリ。
顔を上げた瞬間、カイトと目が合う。

「…おはよ♪」

「…」

「ルリちゃん?」

「……じゃ……せん」

「え?ルリちゃん、何?良く聞こえなかったよ?」

「おはよ♪、じゃありません、って言ったんです!」

思わず大声を上げてしまうルリ。

「あ、…ごめん」

そう言って頭を下げるカイト。

「ついさっきまで死線を彷徨ってたのに、
なんで呑気に挨拶してるんですか!
…カイトさんが…撃たれたって聞いた時…私…どんなに…」

涙が目に浮かび、後半は言葉にならないルリ。

「ゴメン…心配かけちゃったね…」

そう言ってカイトは涙ぐむルリの頭を優しく撫でる。

「ふぇ…」

頭を撫でられたルリが声を漏らす。

(カイトさんの手…暖かい…)

ルリは目を閉じて、ジッとしているが、
時折むずがるような仕草を見せる。
その仕草を見てカイトは思う。

(やっぱり同じ反応するよなぁ…当たり前か…)

暫くルリの柔らかい銀髪の感触を味わっていたカイトだが
ある事にハタと気付く。

「…そう言えば、僕はどのくらい気を失ってたの?」

「2時間くらいです。
その間に手術しました。
後、一週間は出撃は控えるように、だそうです」

頭を撫でる事を止めないカイトに目を閉じたまま答えるルリ。
だがその答を聞いてカイトの手が止まる。

「一週間だって!?」
(まずい!サツキミドリに間に合わない!)

「…!」

突然のカイトの大声に身体をビクッと震わせるルリ。

「…カイトさん?」

ルリが恐る恐るとカイトの名を呼ぶ。

「ああ、ゴメン、ルリちゃん。
突然大声出したりして」

「あ、いえ、別にそんな。
ちょっとビックリしただけですから。
…それよりどうしたんですか?
そんなに慌てるなんて?」

「う〜ん、一週間も出撃出来ないなんて
ちょっと危なくないかな、なんて思っただけ」

「そうですか…カイトさんらしいですね」

その答えを聞き、僅かに微笑むルリ。

「でも、そんなに心配ないと思いますよ?
月までは地球の勢力範囲内ですし、今は宇宙にいますから
ディストーション・フィールドもバッチリです」

「そういえばそうだったね。
…ところで、ルリちゃん」

「ハイ」

「オペレートの方はいいの?
傍にいてくれるのは嬉しいけど」

「あ…ハイ、それはオモイカネが…」

「…?
どうしたの?」

「カイトさんが起きたらブリッジに連絡してと
 言われてたのをすっかり忘れてました…」

そう言うとルリはコミュニケを操作する。

『ルリちゃん!?
 カイト君起きた!?』

コミュニケが繋がった途端、ユリカがアップで現れる。

「…!!」

その瞬間、ルリの肩がビクリと跳ね上がる。

「…艦長、突然アップで出てこないで下さい…」

ルリが弱々しい抗議をするが、
ユリカは全く意にかいした様子もない。

『アハハ、ゴメンねぇ♪
 …で、カイト君起きたの?』

カイトも自分のコミュニケを操作し、会話に加わる。

「はい、起きました」

カイトが答えた瞬間、ブリッジから歓声が上がるのが聞こえてくる。

「ユリカさん、皆さん、ご心配おかけしてすみませんでした」

ウインドウに向かい頭を下げるカイト。

『カイト君が謝る事ないよ!
 でもホントに無事で良かったよー♪』

ユリカが満面の笑顔で喜びを表す。

「カイト君、今日はもうお仕事休んでいいよ!
 あ、ルリちゃんも今日はもう上がっていいからね!
 じゃ!」

それだけを一方的に告げて通信を切るユリカ。

「「…」」

顔を見合わせるカイトとルリ。

「お休みになったんだし、ご飯でも食べに行こうか?」

「ハイ…でも大丈夫なんですか?
 普通の食事しても?」

「ホウメイさんにメニュー相談してみるよ…」

「そうですね、それじゃあ行きましょう?」

最後にお互い微笑みを交わすと、
どちらからともなく手を繋いで医務室を出ていく。
その二人の後ろ姿はちょっぴり兄妹から進んで見えたとか。


プロス私室

ユリカの号令で解散が告げられた後、
プロスは一旦私室に戻っていた。
その時、不意に部屋がノックされる。
プロスは来客を確認すると少々驚いた顔をしてその来客を出迎える。

「…これは、ドクター。
どうかなさいましたか?」

プロスの眼鏡が怪しく光る。

「実は、お耳に入れておきたい事がありまして」

「カイトさん…でしょうな?」

「そうです。
先程、を手術した時に気付いた事です」

「…何かあったのですか?」

「はい…、彼は異常な強化体質です。
臓器だけでなく骨格、遺伝子の細部に至るまで、強化されています。
手術を始める時には体内のナノマシンによる
再生も既に始まっておりました。
…彼は一体何者なのです?
彼の持つナノマシンの中には今の技術では実現不可能な物まで…」

「…何と…!
…分かりました。
ドクター、分かってはいるとは思いますが…」

「この件は他言無用、ですね」

「その通りです」

「では、私はこれで…」

一礼し部屋を出ていくドクターを見送るプロス。
そして彼が立ち去った事を確認すると一通の書類を取り出す。
それはカイトと交わした契約書だった。
他のクルーにはない幾つかの項目を目で追いながら、
その項目が持つ意味を考える。
だが、手持ちの情報では検討もつかなかった。

(まあ、この男女交際の項目を外した目的はルリさんなのでしょうが)

笑顔を浮かべたカイトが顔を赤くして俯くルリの頭を
撫でている光景を思い浮かべる。
あの様子を見る限り、カイトはナデシコの味方である事は信じられた。

「…まあ、何にせよ、です。
ナデシコの敵ではない…、この言葉は信じても良さそうですね」

プロスはカイトの契約書を書類棚に仕舞い、
鍵を掛けると部屋を出てブリッジに向かう。
カイトの契約書が仕舞われたその棚には
「秘匿レベル:AAA」と記されたプレートが貼り付けてあった。


深夜・格納庫

人の気配が絶えた格納庫に光が満ちる。
カイトの純白のエステバリスがボソンの光に包まれる。

(ジャンプ・フィールド形成…
目標・サツキミドリ2号…ジャンプ!!)

光が収束し、そして弾ける。
そこには変わらず純白のエステバリスが佇んでいる。

(やはり無理か…イメージングが安定しない…
…無理にジャンプすればランダム・ジャンプになるか…)

コクピットの中で溜め息をつくカイト。
そして再びボソンの光を輝かせる。
今度はエステバリスではなく自分の周りだけに。

(ジャンプ!)

再び光が収束し、弾ける。
ただ、今回はカイトの姿がコクピットから消えていた。
カイトの部屋にボソンの光が満ちる。
光が収束し、人の形を作る。
光が弾けると、そこにはカイトがいた。

(人類史上二度目の単独生体ボソンジャンプ…
…ナデシコ艦内において人知れず行われる…か)

そんな事をボンヤリと考える。
そして部屋に掛けられたカレンダーに目をやる。

(サツキミドリ到着まで後四日…
いや、日付が変わったから後三日か…)

前時間軸の中で起きたナデシコが関係した事件の中で
最も不思議な事件の一つ。

(コロニー・サツキミドリ2号爆発事件…
公式記録では木星トカゲに襲撃を受けて爆発、大破。
死者・行方不明者多数、
生存者はスバル・リョーコ、アマノ・ヒカル、
そしてマキ・イズミの3名のみ…
ナデシコ停泊直前に爆発、
内部調査を行ったエステバリス部隊が
コロニー内でデビルエステバリスと遭遇、これをテンカワ機が破壊。
以上が公式記録なんだけど…)

ナデシコ長屋にいた頃に見た記録を思い出す。

(この記録には不可解な点が三つある…。
 一つ、ナデシコもサツキミドリもコロニーを落とせるような敵を捕捉していない。
 二つ、サツキミドリの防空管制官は爆発の直前までナデシコと交信を行っていた。
 しかも襲撃中の交信とは思えない極めて砕けた状態で。
 三つ、これが最大の疑問なんだけど…
 サツキミドリ周辺でナデシコが掃討した
 バッタの総数はデビルエステバリスを含めて" 7機"…
 7機ではコロニーの防空設備は突破できない…
 にも関わらずコロニーは落ちた…)

カイトは目を閉じ思考に没頭する。

(可能性は二つ…
 "ナナフシ"のようなマイクロ=ブラックホール砲での超々遠距離砲撃か…
 バッタによる内部破壊…)

だが、この時点でマイクロ=ブラックホール砲の存在は
確認されていない。
木星の記録にもマイクロ=ブラックホール砲は
ナナフシが最初であるとされていた。

(やはり、内部破壊…でもそれにも説明できない点がある。
 …一体どうやってバッタをサツキミドリに送り込んだ?
 しかも誰にも気付かれる事なく)

カイトは静かに目を開き、溜め息をつく。

(ジャンプで行ければどうにかやりようもあるんだけど…
 有視界からの近距離ジャンプで跳んだ瞬間に
 ドカンじゃ洒落になんないし…
 朝のミーティングで急ぐように提案してみようか…)

その夜、カイトの部屋から明かりが消える事はなかった。


ナデシコ・ブリッジ

「サツキミドリに急いで行きたい?」

朝のミーティングでのカイトの提案をユリカがオウム返しにする。

「現状では三日後に到着予定ですが、
これを出来る限り早めたいのです」

「カイト、そうまで急ぐ理由は何だ?」

当然の疑問をゴートが口にする。

「今ナデシコに艦載されているエステには0G戦フレームがありません。
実質、防御はフィールド任せになっています。
サツキミドリまでの宙域は地球の勢力圏ですが
敵襲の可能性は0ではありませんし、
可能な戦力増強は早めにしておくべきです」

「…うむ、一理あるな」

カイトの言葉にゴートが頷く。

「しかし、ここから全速力で飛んだとしても
せいぜい半日速く着くぐらいよ?」

ブリッジクルーという事で話を聞いていたミナトが口を挟む。

「その半日が運命を分ける事もあるのだよ、ミナト君」

フクベが口を開く。

「ふ〜ん、そんなものなのかな?」

全員カイトの言葉に納得したのか
ミナトの質問以外に口を開くものはなかった。

「…決まりですな、それでは艦長?」

「はいっ♪
それではサツキミドリに向けてナデシコ、全速ぜんしーんっ!」

ユリカの掛け声を合図にナデシコが加速を始める。

「…良かった」

「…?」

カイトが何か言った気がしてルリは
隣に座っているカイトをそっと見上げる。
しかし、その表情からは何も読み取る事はできない。

(カイトさん、今良かったって…私の気のせいかな…?)


三日後−サツキミドリ2号周辺宙域

「サツキミドリ2号、有視界圏内に捉らえました」

「了解、ルリちゃん、フィールド解除。
メグちゃん、停泊許可を貰って」

「「了解」」

メグミとルリの声が重なる。

「コロニー・サツキミドリ2号、応答願います。
こちらネルガル所属、機動戦艦ナデシコ。
停泊許可をお願いします」

メグミの呼び掛けに一瞬の間をおき、返答が返ってくる。

『ネルガルのナデシコ…?
予定より早くないか?
ま、いいや…3番ドッグが空いてる、そこに入ってくれ。
それにしても、可愛い声だね〜、通信士さん♪
通信士なんかより声優になった方がいいんじゃない?』

防空管制官の軽口にメグミも答える。

「ありがとうございます♪
でも私、元声優ですよ?
『ナチュラル・ライチ』とかご存知ないですか?」

『あー、見てた見てた!
…あれ?ひょっとして…
もしかして君、メグミ・レイナード?』

「当たり、です♪」

『マジかよ!
俺、君のファンだったんだ!
後でサイン、貰いに行っていいかな?』

「それぐらいならお安い御用です♪
…では後程」

そう言ってメグミが通信を切る。

「メグちゃんて、凄いんだ♪
ファンの人が声を聞いただけで分かっちゃうなんて」

ミナトがからかうようにメグミに声をかける。

「そりゃ、声優は顔が出ないですからね。
声が命、ですから♪」

「それもそっか。
…でも何でナデシコに乗ったの?
声優さんだけでも生活できたんじゃ?」

ミナトがそう言うとメグミはフッと顔を曇らせ、俯く。

「…最近、アニメとかもどんどん戦争ばっかになっちゃって…
それで、なんか着いてけないなー、って…。
だからお仕事変えたかったんです…」

「そっか…、ゴメンね、変な事聞いちゃって」

頭の上で交わされるミナトとメグミの会話を
ぼーっと聞いているルリ。
二人の会話は既にサツキミドリ停泊後の
半舷休暇の事に移っているようである。

「…で、ルリルリも行かない?」

「…ハイ?
…何処へですか?」

「お休み貰ったら、サツキミドリに遊びに行こうって話!」

メグミがガイドブックを開いて見せる。

「ルリルリ、アンタ私服とかあんまり持ってないでしょ?
可愛いの選んだげるからさ、行こうよ、ね?」

「大丈夫です。
支給される制服で間に合ってます」

ルリはコンソールを見つめたまま答える。

「そんな事言わないでさ、行こうよ、ルリちゃん」

ルリの連れない態度に食い下がるメグミ。
それをミナトがアイコンタクトで制する。

「そっか、残念だな。
さっき、カイト君にこの話したら、
『ルリちゃんいつも制服姿ばっかりだから
どんな私服持ってるか気になりますね』
って言ってたんだけどな…」

「…」

ミナトの呟きにルリがピクリと反応する。

(…カイトさんが…)

カイトが気にしている、その言葉がとても気になるルリ。

(やっぱり私も私服を持っていた方がいいんでしょうか…?)

「買い物に行くって言ったからカイト君、
帰ってきたらルリルリの私服が見れるって
楽しみにしてるかもよ?」

ちなみにカイトはサツキミドリに着いたら
物資の搬入をエステバリスで手伝う為に格納庫で待機中。
その為、ブリッジにはいない。

「あの…?」

「どーしたの、ルリルリ?」

ルリが意を決してミナトに話し掛ける。

「やっぱり…私も付いていっていいですか…?」

「もちろん♪
…服選ぶのも付き合ってあげるわよ?」

「はい、お願いします…」

見事にルリを陥落させたミナト。
ルリは俯いて真っ赤になっている。
メグミはミナトを尊敬の眼差しで見つめている。

((やっぱりカイト君は効果絶大ね…))

真っ赤になって俯く妹を見ながら姉二人は満足げに微笑んでいた。


サツキミドリ3番ドッグ付近・駐機場

カイトは搬入作業を抜け出してシャトルの駐機場へとやって来ていた。
バッタを内部に侵入させるなら
コンテナ等に偽装するのが一番効率的だ、という判断を下したカイト。
前時間軸でも公表されてはいないが、
木連と繋がっていた企業・グループが存在していた事はカイトも知っていた。
そう言った連中が協力してバッタ入りコンテナを
サツキミドリに送り付ける事は簡単だろう。
だがコロニーはその性質上、
駐留する軍の通関を経由しなければ荷物は搬入されない。
さすがにバッタ入りコンテナが通関を通るとは思えない。
それをかいくぐる方法はただ一つだけ。

(そのコンテナ、あるいはシャトルそのものに
偽装して緊急避難用シャトルとして待機させておけばいい…
そうすればずっとおいて合っても不自然じゃないしね)

配備されているシャトルは機数こそ多いものの
そのほとんどがネルガル製だった。
ネルガルが自社が大半の出資をして建設した
コロニーを爆破するとは考えにくかった。

(アカツキさんやエリナさんがそんな事するとは思えないしね…
コロニー落としても利益にはなりそうもないし)

そして何機目かのカーゴを開く。

「当たり…だね♪」

起動タイマーのデジタル表示だけが光るバッタを見つけたカイト。

(後はこれをプロスさんに見せてコロニー内を調べて貰えばいい)

プロスに連絡しようとコミュニケを操作するがその手をふと止める。

(一応タイマーも止めておいた方がいいか…)

タイマーをいじりはじめるカイト。

前時間軸でウリバタケに仕込まれた腕を持ってすれば
まるで子供騙しの回路群。
それゆえに油断してしまったカイト。

(ウリバタケさんのリリーちゃんの方がよっぽど高性能だよ…
最後にこうしてっと…良し、終わり!)

カイトが最後のコードを切断する。
その瞬間、背後で爆発が起きる。

「…え?」

慌てて振り向くカイト。
何機かのシャトルが爆発していた。

「しまった!
連動してたのか!」

爆発の煙の中からバッタがゆっくりと這いでてくる。
拳銃を腰から引き抜き、
物陰に飛び込むとコミュニケでブリッジを呼び出す。

『ほえ?カイト君?』

待機要員に当たっていたユリカが寝ぼけ眼で現れる。

「ユリカさん!敵襲です!
サツキミドリにバッタが侵入してます!」

『…え?敵襲?
なんでコロニーの中に?』

「説明は後でします!
半舷休暇中のクルーをナデシコに戻して下さい!
コロニーの管理者にも連絡を!」

『わ、分かった!』

ユリカとの通信を切るとカイトは物陰から飛び出し銃を構える。

(生身に病み上がり…キツいけど…やるしかないよね…)


サツキミドリ内ショッピングモール

カフェにてお茶するミナト、メグミ、ルリの三人。
それぞれの足元には本日の戦利品の入った紙袋が置かれている。

「でも、良かったですね!
ルリちゃんに似合う服があって♪」

「そうね〜、ルリルリも気に入ってくれた?その服?」

「…ハイ」

ルリが答えるがその言葉に力はない。

(…疲れました)

ミナトとメグミにあちこち連れ回され、
着せ替え人形状態になっていたルリ。
レースやフリルをふんだんに使った服や
カジュアルなトレーナー、ジーンズ等々…
果ては着ぐるみまで着せられた。
流石に下着と水着だけはどれだけ誘われても断わったが。

(でもお二人とも、いつご自分の買い物をしたのでしょうか?)

オレンジジュースをチビチビとストローで吸いながら
お喋りに花を咲かせるミナトとメグミを見る。
彼女らの足元の紙袋に視線を移す。
そして自分の紙袋に。
メグミはルリの2倍、ミナトに至っては3倍はありそうだ。

(不思議です…)

試着していた時間は間違いなく自分が一番長かった。
中には入った途端、試着させられて、
気に入ったものがなくてすぐに出た店もあった。
そんな店の紙袋まで二人の足元にあるのを見て
益々不思議に思うルリだった。

(でも、ちょっと楽しかったです。
次は一人で来る事にしますが…)

また、この二人に連れ回されては
体が幾つあっても足りないと思うルリであった。

「でもルリちゃん何で着替えなかったの?
それ、一番気に入ったヤツでしょ?」

一つだけ、地面に置かず、
ルリが膝の上にのせている紙袋を指差してメグミがルリにたずねる。
せっかく買った服に着替えずにいるルリを不思議に思ったメグミ。

「え!
それは…その…」

「?」

真っ赤になって俯くルリを益々不思議に思うメグミ。

「メグちゃん、ルリルリも女の子なんだもん。
お洒落した姿は好きな人に一番最初に見て貰いたいじゃない♪
ね、ルリルリ?」

「…(///)」

益々赤くなるルリ。
それを見たメグミもようやく理解する。

「あ、そっか♪
でもカイト君、絶対可愛いっていってくれるよ、
それ着たルリちゃんの事♪」

「別に…カイトさんに一番に見せたいとか…そういう訳では…」

「「違うの?」」

「…違いません…」

ルリ轟沈。
ミナトとメグミはそれぞれ勝利の笑みを浮かべる。
暫く時間を潰し、ミナトが立ち上がる。

「さて、そろそろ帰りましょ…キャ!」

突然、爆発音が轟き、コロニーが揺れる。

「な、なに!?」

その時、三人のコミュニケが一斉に着信を告げる。
そして受信ボタンを押していないにも関わらず、ウインドウが開く。

『ナデシコクルーの皆さん、艦長のミスマル・ユリカです』

「なあに、これ?」

「全クルーへの強制送信です。
何かあったみたいですね」

ミナトの質問にルリが答える。

『サツキミドリの内部に木製トカゲの侵入が確認されました。
半舷休暇中のクルーは直ちにナデシコに帰還して下さい。
艦内待機のクルーは直ちに警戒態勢パターンAに移行。
これは訓練ではありません。
繰り返します…』

「敵襲!?
コロニーの中なのにどうして!?」

メグミの半ば叫ぶような声。
ユリカの通信の間にコロニー内にも同様の放送が行われていた。
サツキミドリの住民は内部に侵入と聞き、
多少慌てているもののスムーズに避難していく。
前線に近い事もあり、避難訓練が徹底しているようだ。

「とにかく早く戻りましょう」

ルリの言葉を合図に3人はナデシコへ向けて走り出した。

ブリッジに戻ったのは3人が最後だった。
ミナトのシートにはゴートが、
メグミのシートにはジュンがそれぞれ座り、
職務を代行していた。
ルリの代行はカイトのはずだがシートは空席になっている。
ルリはそのまま、ミナトとメグミは簡単な引継ぎを行いシートに着く。
配置に着いた事を確認したユリカの凛とした声がブリッジに響く。

「ナデシコは万が一の時、
サツキミドリの皆さんを収容、避難する為にこのまま待機!
エステバリス部隊はドッグ内で哨戒行動を行って下さい!」

『『了解!』』

コクピットにスタンバイしていたアキトとヤマダがそれに答える。
その時、ウリバタケのウインドウが開く。

『ブリッジ!
カイトはそっちにいるか?
万一にゃアイツも出さなきゃならんかもしれんから
機体調整だけでもしときたいんだが姿が見えねえんだ!
コミュニケにもでやがらねえしよ…』

「カイト君ですか?
ブリッジにはいないですよ?」

ユリカが首を傾げる。
彼女も格納庫へ行っているものだと思っていた。
そこで一つの考えが唐突に頭に浮かんでくる。
そもそも敵の侵入に
一番最初に気付いたのはカイトではなかったか?
その時、カイトはどこにいた?
少なくともコミュニケの背景はナデシコ艦内ではなかった。
仮にカイトのいた場所が
敵が最初に動き出した場所だとすると…。
そして、コミュニケに出られないという事は…。
最悪の可能性がユリカの頭をよぎる。

(まさか…いいえ!)

頭を降ってその考えを打ち消すユリカ。

「ルリちゃん!
カイト君を探して!」

「ハイ…」

《検索中…》

オモイカネのウインドウが開く。

《検索終了!》

「出ました。
カイトさんは…え…」

「ルリちゃん、報告!」

目を見開き絶句したルリにユリカが少しキツい口調で報告を促す。

「…スイマセン…カイトさんは…第3制御室で…
現在バッタと交戦中…です…」

「「「「「「な!?」」」」」

予想もしていなかった事態に全員が驚く。

「ルリちゃん、カイト君の映像出せる…?」

「…ハイ」

スクリーンの映像が切り替わる。
そこに映し出された映像に全員の目が集中する。
物陰に隠れ、そこからサブマシンガンでバッタを攻撃するカイト。
降り注ぐ銃弾を弾き返しながら、
ゆっくりとバッタはカイトの方へ迫っていく。
小刻みに場所を移動しながら攻撃しているカイト。
だが、カイトが逃げる様子は全くない。

「何で…?」

ユリカの呆然とした呟きに答えるものは
ブリッジには、ナデシコにはいなかった。

「カイト君…何でそんな無茶するの…?
 こないだの傷だってまだ治ってないのに!」

メグミの叫び声にユリカがハッとなる。

「メグちゃん、管理センターに連絡を!
 第3制御室に応援を回して貰って!」

「は、はい!
『サツキミドリ管理センター応答して下さい。
こちら機動戦艦ナデシコ…』」

何度目かの呼び出しの後、
ようやく出た責任者に事態を説明し、応援を要請する。

『すまない、こちらもあちこちに湧きだした
バッタの対応で精一杯なんだ。
とてもじゃないが第3制御室にまで応援を出せる余裕はない…』

「そんな…!」

『すまない…』

その顔を苦痛に歪め、通信を切る責任者。
ブリッジの空気が重くなる。

「そうか…そうだったのか…!」

カイトの居場所を聞いた時から
ずっと考え込んでいたジュンが突然声を上げる。

「どうした、副長?」

「何故カイト君が無茶をしているかです!
第3制御室はコロニーの端にある施設ですが、
もし、ここを抜かれると…」

ジュンの指先が辿る先にあるもの。

「メイン動力炉に一直線…だと…」

「動力炉を巻き込み、もし自爆でもされたら…サツキミドリは…」

木っ端微塵になる、誰もが容易に想像できたが
口に出せる者は一人もいなかった。

「エステバリス部隊に連絡を」

突然、ユリカの冷静な声がブリッジの静寂を破った。

「は、はい」

メグミが慌てて繋ぐ。

『ユリカ…』

ブリッジでのやり取りを聞いていたアキトとヤマダ。
その二人の表情は暗い。
アキトもヤマダも思いは同じ、ただ悔しかった。
自分達より年下のカイトが
いつも一番キツい役回りを背負っている。
それを気にさせないよういつも笑っているカイト。
それがたまらなく悔しかった。

「…エステバリス部隊は第3制御室へ急行、
制御室の死守とカイト君の救出を行って下さい。
通行不可能な所は破壊して構いません。
…私が全責任を負います」

「…艦長、それは余りに乱暴ではないかね?」

フクベの言葉にユリカが顔を上げて答える。

「クルーの命、サツキミドリの人達の命…
それより大事なものなんてありません!」

ユリカがきっぱりと断言する。

『ユリカ…分かった。
テンカワ機、第3制御室へ向かいます』

『俺様もだ!
ダイゴウジ・ガイ、行くぜ!』

「アキト…♪」

「ガイさん…」

ユリカとメグミの声が重なる。

「ルリちゃん、二人に第3制御室までの最短ルートを」

「ハイ…」

ルリの声には力がない。
それを聞いたアキトが声を掛ける。

『心配しないで、ルリちゃん。
カイトは俺達が必ず連れて帰るから!』

『おう!
俺様とアキトに任せとけ!
…俺はアイツに借りがあるからな!』

アキトとヤマダがウインドウの中で微笑む。

「…お願いします」

ルリは二人に頭を下げる。
それを見たユリカが凛とした声を放つ。

「エステバリス部隊、出撃!」

『『了解!』』

アキトとヤマダのエステバリスが
第3制御室へ向かう通路へと進んでいく。
その後ろ姿を見ながらルリは願う。

(お願いします…テンカワさん、ヤマダさん…。
カイトさんに…無事なカイトさんに会わせてください…)


 続く・・・


 後書き

村:ども、村沖和夜です。

 ル:どうも、ホシノ・ルリです。

 村:RWK第4話『合流!パイロット三人娘』をお送りしました!
   カイト君、ヤマダに続いて
   サツキミドリの人達も助けちゃいましたね!
   代りに絶体絶命のピンチですけど。
   さあ、アキトとヤマダの救援は間に合うのか!?

 ル:あの〜・・・

 村:ルリルリの祈りは届くのか?
   ヤマダ×メグミフラグが立ったっぽいが、
   作者は使いこなせるのか?

 ル:・・・もしも〜し?
   作者さ〜ん?

 村:それでは、後編行ってみよ・・・(ガスッ!)・・・ハゥッ!!

 ル:人の話を聞かんか!
   このボケがぁ!!


 村:・・・(ピクピク)・・・

 ル:やれやれ、人の話を聞かない上に、今度は寝たふりですか。
   ホントにいい度胸してますね、貴方は。

 村:・・・だからっていきなり殴らなくてもいいじゃないですか。
   それで、何か聞きたい事でも?

 ル:貴方がさっきから必死にごまかそうとしてる事です。

 村:・・・(冷や汗を流す作者)
   別ニ何モゴマカシテナイデスヨ、るりサン。

 ル:・・・声が裏返ってます。

 村:・・・(滝のような冷や汗を流す作者)
   そ、そんな事・・・な、ないと・・・お、思うけど・・・。

 ル:どもりすぎです。
   ・・・いい加減、観念したらどうですか?

 村:・・・ぅ。

 ル:・・・タイトルが『合流!パイロット三人娘』なのに、
   リョーコさん達が全く出て来てないじゃないですか。
   名前が出て来たのもカイトさんの回想の中の1回だけですし。
   ・・・だいたい貴方は安易なタイトルを付けすぎです。
   他の作家さんを見習って、もっとマシなタイトルを考えなさい。

 村:・・・これでも真剣に考えたのに・・・

 ル:それに、私が主役の唯一のシーンであるプロローグに
   タイトルを付けないなんて愚の骨頂です。
   今からでも遅くありません。
   この私に相応しい可憐なタイトルをつけなさい。

 村:・・・あのシーンにどんなタイトルをつけろと・・・(汗)
   しかし・・・(ニヤリ)

 ル:な、何なんですか!
   その”ニヤリ”というのは!?

 村:いえいえ・・・、
   プロローグが唯一の登場シーンという事を認めましたね。

 ル:・・・(プチッ)・・・(ガサガサ)・・・(ジャキン!)

 村:そ、その剣のような武器はまさか・・・!

 ル:そうです。
   これこそカイトさん専用・・・

 村:わー!わー!わー!!
   本編でまだ出してない武器を後書きで出さないでー!

 ル:問答無用です。
   ・・・てい!

 村:(ザシュ!)・・・はぅ・・・(バタリ)

ル:・・・つまらぬモノを切ってしまいました・・・。
   それでは、ここまでお付き合いして下さった皆様に感謝しつつ・・・
   第4話・後編でお会いしましょう♪

 村:・・・それは僕のセリフ・・・(ザク!)・・・はぅ・・・(パタリ)




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