機動戦艦ナデシコ
〜Return of the White Knight〜





第3話 突破せよ!防衛ライン(前編)


ナデシコ・シュミレータールーム

あれから毎日、アキトとカイトはシミュレーターで訓練していた。

「ちくしょー!
 また負けた!!」

画面にデカデカと『YOU LOSE』の文字が躍るアキトの機体。
それを確認すると機体から飛び出るアキト。

「でも、大分動きはよくなってきましたよ」

そう言ってもう一方の機体から出てくるカイト。

「ホントかよ・・・?
 そんな実感ないんだけどな。
 俺、強くなってるのかな?」

備え付けのベンチに腰を下ろすアキト。

「対戦相手が今のところ、僕とヤマダさんだけですからね。
 実感しにくいとは思いますが。
 サツキミドリ2号で他のパイロットと合流したらわかりますよ」

自販機で買ったコーヒーを差し出し、隣に腰をおろすカイト。

「そうか・・・よし!
 カイト、もう一回勝負だ!」

コーヒーを飲み干し、ごみ箱に投げ入れるアキト。

「望む所です!」

同じく投げ込むカイト。
二人は再び、機体に乗り込む。
シミュレーション・プログラムの調整をしながらカイトは思っていた。

(・・・でも流石だな。
 まだ荒削りだけど、才能はある。
 ・・・そうでなきゃ、『黒い王子様』にはなれないか・・・)

カイトはアキトと訓練していてそう感じていた。
未来の世界では、アキトは連合軍最強と謳われた自分の上を行くパイロットだったのだ。
勿論、復讐の為に血を吐きながら訓練した事はよく知っている。

(その、下地はあった訳だ。
・・・でも、今度は貴方を『王子様』にはさせませんよ、アキトさん)

隣の機体でプログラムを調整しているであろうアキトを思う。

『カイト、こっちは準備できた!
 そっちはもういいか?』

「ええ、出来ました。
 いつでもいけます」

『よし、勝負!』

2人のIFSが輝き、機体のスクリーンが宇宙空間を映し出す。
0G戦フレームにラピッド・ライフル、イミディエット・ナイフを装備している二人。
機体性能、装備は同一の為、互いの技量が勝負を分ける。

「始めましょうか・・・スタート!」

カイトの声と共に両者が動き出す。
訓練を始めた当初こそ、0G戦や空戦という環境に慣れず、
不安定な機動をしていたアキトだったが、ここ数日の訓練の成果でその機動はかなり安定してきていた。

(・・・これなら第3次防衛ラインには間に合いそうだ・・・)

カイトの知る歴史では特に問題無く突破しているが、
先日のような事―前回の歴史にはない敵襲等―もあり得る。
そう考え、備えあれば、という事でアキトを訓練に誘っていた。
その時、カイトの機体のレーダーに反応がある。

(来た!)

思考を戦いに集中させる。
ライフルを構え、向かってくるアキトに備える。
射程内に入ると同時にアキトもカイトも発砲する。
照準を付けずに放つ銃撃は回避の必要もなく逸れていく。
アキトはなおも前進を続ける。

(ナイフでの接近戦か・・・?)

アキトが最も得意とする戦法がナイフによる接近戦闘だった。
元々、専門のパイロットではないアキトは銃の扱いが上手くない。
IFSを使用し、自分の思考をダイレクトに反応させる事の出来るエステバリス。
動きのイメージも重要ではあるが、武器を扱った事のない者が、
エステに乗ったからと言って突然武器が扱えるようになる訳ではない。
本人の経験も、戦闘の重要な要素になる。
最初は銃を使わず、接近戦を挑んでは、
避けられ落とされるを繰り返していたアキトだったが、
今は銃の扱いも格段に上達している。
再びアキトが銃撃を試みる。
今度はきちんと照準された銃撃を避け、高速機動に移るカイト。
そのままアキトの後ろを取ろうとするが、アキトもそうはさせじと動き出す。
追い掛けられながらも、銃撃を加えるアキト。
カイトもそれを避けながら銃撃する。

『うわッ!』

通信回線は常にオープンにしている為、アキトの声が聞こえる。
スラスターにカイトの放った銃弾が当たる。

「貰った!!」

一瞬、機動を止めたアキトにカイトが襲い掛かる。

『ちくしょー!』

肉薄したカイト機に対し、片方のスラスターのみで回避を試みるアキト。
しかし、その動きは鈍く、カイトの接近を許してしまう。

「チェックメイトです、アキトさん」

『・・・くっ!
 まだまだ!』

反転してのナイフでの一撃を加えようとするアキト。
カイトは反転するアキトの機体を蹴って距離を取る、と同時に銃撃を浴びせる。
弾丸が次々とバランスを崩したアキト機のコクピットに吸い込まれる。
カイトのスクリーンに踊る『YOU WIN』の文字。

「アキトさん、今日はこれくらいで。
 検討会にしましょう」

『ああ、分かった』

短い会話を交わし、二人が機体から出てくる。
カイトは機体からメモリーディスクを取り出し、シミュレータールームの大型スクリーンへ移動する。
スクリーンに録画した戦闘を映し出しながら、アキトに機動のレクチャーをする。

「・・・という事で動きが読めたんです。
 ですから、ここは・・・」

カイトの言葉を熱心に聞いているアキト。
この検討会はアキトから言い出したものだった。
サセボドッグ、太平洋上の戦いでアキトは己の力の無さを痛感していた。
どちらの戦いでもカイトの助けがなければ確実に落とされていた。
特に太平洋では、カイトがいなければナデシコごと落ちていたかもしれない。
アキト自身、ナデシコのエースはカイトだと思っていた。
自分はコック兼任の臨時パイロットとはいえ、これからも戦いには出るだろう。
もしかしたら、カイトだけではどうしようもない場面があるかもしれない。
その時、カイトの足手纏いにはなりたくなかった。
スクリーンの映像が最後の戦闘の映像に切り変わる。

「・・・でも、カイトはホントに強いな」

スラスターを破壊された映像が映る。

「こんなの俺じゃ、絶対当てられないよ。
 ・・・お前に一発も当てた事ないしな・・・」

「当てられるようになって下さい。
 相手の移動力を奪ってしまえば戦闘が有利になりますからね」

「分かってるよ。
 でも、お前、どこでこんな技術を身に付けたんだ?
 やっぱり、軍か?」

「・・・ええ、そんなトコです」

アキトの言葉にカイトの表情が曇る。
戦う為の技術―カイトの"それ"は自らが望んだモノではなく、
この世に出る前から、それこそ遺伝子レベルで組み込まれたモノ。
ルリを、ナデシコを守る為、と言い聞かせてはいたが、
自らがヒトの手によって造り出された生体兵器であるという忌まわしい記憶と共に
以前も今もカイトの心に重く圧し掛かっていた。
カイトは戦う事を嫌っている―薄々と感じていた事。
アキトは軽い気持ちで発した自分の言葉が思いがけずカイトの闇に触れてしまった事に気付く。

「・・・ゴメン」

アキトに出来たのはただ謝る事だけだった。

「いえ、気にしないで下さい。
 この力があるからこそ皆を守る事が出きる―今はそう思っていますから」

「・・・カイト」

そう言ったカイトの目はそれでも悲しげに見えた。
アキトが何か言おうとしたその時、アキトのコミュニケが着信を告げる。

「アキトさん、鳴ってますよ」

アキトのコミュニケの着信を告げるランプが点滅している。

「え?
 あ、ホントだ。
 ・・・はい、こちらテンカワ・・・」

『アキト〜!
 てんめえ、何処で何してる!
 さっさと来やがれ!!』

アキトの前に画面一杯のヤマダの顔が表示される。

「ガ、ガイ!?
 ごめん!
 すっかり忘れてた!
 すぐ行くよ!」

『いいか?
 5分以内にこねえと、先に一人で見始めちまうぞ!
 いいな!』

「あ、ガイ!
 ちょっと待って・・・切られた」

もう一度、ヤマダを呼び出そうとするが着信を拒否しているようで、
一向に繋がらない。

「・・・はあ、仕方ない。
 じゃ、カイト、そういう訳で俺行くな」

「はい」

メモリーディスクを機体に戻すカイトにそう告げる。
そして、そのままシミュレータールームを出て行くアキト。

「なあ、カイト・・・」

「はい?」

シミュレータールームを出ようとしていたアキトが突然振り向き、
カイトに話し掛ける。

「お前はさ、きっと俺達には想像できないような色んなモノを背負ってるんだよな・・・」

「・・・?」

アキトの言葉の真意が掴めず、首を傾げるカイト。

「でもさ、お前がどんな事情の人間でも・・・俺はお前の事、仲間だと思ってる。
 俺はお前の力になりたいと思ってる。
 そ、それだけだ!
 じゃ、じゃあな!」

自分の言葉に照れたのか、最後は顔を赤くしていたアキト。
その足音が急速にシミュレータールームから遠ざかっていく。
そして暫くポカンとしていたカイトだがアキトの言葉の意味を理解し、
胸に熱いモノが込み上げてくる。

「・・・ありがとうございます、アキトさん・・・」

そう呟き、アキトが去った入り口に向かい頭を下げる。


カイトの頭をよぎるのは4人で暮らし始めて少しした頃の事。
いつまでも戻らぬ記憶に苛立ち、不安を覚えていた時。
ユリカとルリが留守のタイミングを見計らい、アキトに訊ねた事があった。
『自分はここにいてもいいのでしょうか?』と。
そうカイトが聞くとアキトは真顔で即答する。

『当たり前だろ。
 何言ってんだよ、突然・・・もしかして記憶、戻ったのか!?』

『いえ・・・ただ、僕はもしかしたら皆と一緒にいてはいけない人間だったら・・・
 そう思うと・・・不安で・・・怖くて・・・』

そう言ってカイトは俯く。
アキトは黙ったまま返事をしない。

『この・・・ヤロー』

『・・・え?』

ようやく発せられたアキトの言葉を聞き取れず、ポカンとするカイト。

『馬鹿ヤロー、って言ったんだよ!』

バン!とちゃぶ台を叩くアキト。
二人の湯飲みが跳ね、
お茶が零れるがそれには目もくれずアキトはカイトを睨み付ける。
その余りの剣幕に後ずさるカイト。

『いいか?
 お前がどういう事情の人間なのか俺達にも分からないよ。
 でもな、カイト・・・』

一度言葉を切り、まっすぐにカイトを見詰めるアキト。
その眼差しは暖かで優しげだった。

『少なくとも俺とユリカ、それにルリちゃんに取ってお前は"家族"なんだよ。
 俺はお前の事・・・本当の弟だと思ってる』

『アキトさん・・・』

カイトは熱いモノが胸に込み上げてくるのを感じていた。

『・・・ありがとうございます・・・』

そう礼を言うのが精一杯で、瞳に浮かんだ涙を隠すように俯くカイト。
しかし、次の瞬間、ニヤリと笑い、顔を上げる。

『・・・でも、僕が弟って事は・・・』

『な、何だよ?』

カイトの笑みに何か嫌な予感のするアキト。

『それってユリカさんへのプロポーズ、ですよね?』

『なんですと!?』

カイトの言葉を聞き、アキトの顔が一気に赤くなる。

『な、なんでそーゆー事になるんだよ!?
 だいたいお前の記憶の話じゃなかったのかよ!』

『いや、一応僕はコウイチロウさんの養子で、
ユリカさんの義弟って事になってますんで。
 僕とアキトさんが兄弟になるには、
アキトさんとユリカさんが結婚するしかないじゃないですか』

『・・・オイ』

からかわれた、と気付きカイトを半眼で睨むアキト。
その視線を受け、カイトは慌てて姿勢を正す。

『・・・えーと・・・』

『・・・何か言う事は・・・?』

『ゴメンナサイ、ユリカさんの前ではこの話はしません』

カイトの言葉に頷くアキト。

『そうしろ・・・。
 たく、人が真面目に話してんのにいきなり茶化しやがって・・・』

不機嫌な顔でブツブツと文句を呟くアキト。

『・・・でも、安心しました。
 僕はここにいてもいいんだって。
 ね、"兄さん"?』

カイトの言葉を聞き、顔を上げるアキト。
目の前で笑うカイト―弟の顔には最初の暗い表情はない。

『カイト・・・ああ!』

よく晴れたある日、狭い四畳半の部屋でアキトとカイトが兄弟になった時だった。
ちなみにこの時、外出先から帰ってきて、
部屋に入るに入れず二人の会話をドアの外で聞いていたルリがいた。

(・・・男の人って単純だな・・・。
 でも、カイトさん、私もテンカワさんと同じ気持ちです。
 貴方は私の大切な人・・・それに"家族"です)

と思ったというのはまた別な話。


アキトがシミュレータールームを出てから暫く、カイトはナデシコのこれからの行動を思い出していた。

(・・・防衛ラインの突破は前回と同じでいいか。
 僕が連合軍と交渉しても結果は変わらないだろうし・・・。
 とりあえず、ここは様子見かな・・・)

後片付けを終え、シミュレータールームを出た所で、コミュニケが着信を告げる。

「はい、こちらカイトです」

『カイトさん、今いいですか?』

カイトの前に現れたのはルリのウインドウ。

「ルリちゃん、どうしたの?」

『すぐにブリッジに来て貰えませんか?
 ちょっと、厄介な事に・・・』

「・・・?
 分かった、すぐ行くよ」

『お願いします・・・では』

いつもと違い、どこか歯切れの悪いルリを心配しつつカイトは考える。

(・・・時間的に"あれ"だろうな・・・)
結論はすぐに出る。

前の時間では1度だけ見たユリカの振袖姿を思い浮かべながら、
カイトはブリッジへと走った。


ナデシコブリッジ

「カイト、入ります」

そう言ってブリッジの中へ入るカイト。
ブリッジには振袖姿のユリカを始め、いつものメンバーが勢揃いしている。
下段にある作戦スクリーンの周りにいる皆の所へ降りていく。

「何か厄介事が起きたって聞いたんですけど?」

「おお、カイトさん。
実は・・・」

プロスがカイトに事の顛末を語って聞かせる。


『ナデシコも傷ついちゃうしぃ、ビッグバリアを解除して欲しいのお!
お願い、ぷり〜ずっ!!』

『ふ〜んだ!
いいもん!
それじゃ無理矢理通っちゃうから!』

『あらそう?
では、お手柔らかに・・・』


詳しくは知らなかったユリカのセリフを聞いて頭が痛くなるカイト。

「・・・ユリカさん・・・それは交渉じゃなくて、挑発って言うんですよ・・・」

脱力し、ユリカにそう告げるカイト。

「あ〜、カイト君までそんな事言うのお!
ユリカ、プンプン!!」

(・・・えーと・・・)

周りを見回すが全員ヤレヤレ、と言った表情を浮かべている。
カイトの前では、色々と表情を見せるようになったとはいえ、
他人がいるとまだ無表情でいる事の多いルリですら、
脱力しているのが傍目にも分かる。
気を取り直し、自分の呼ばれた理由を確認するカイト。

「それで、僕が呼ばれた理由はなんです?」

「うむ、連合宇宙軍との交渉が決裂した以上、
防衛ラインを突破して火星に向かわねばならなくなった。
その為の作戦会議だ」

ゴートがカイトの質問に答える。
木星蜥蜴の侵攻に備え、地球には7つの防衛ラインが設けられている。
外側から順番に、

第1次防衛ライン=バリア衛星によって展開される空間歪曲バリア。通称ビッグバリア
第2次防衛ライン=無人武装衛星による迎撃網
第3次防衛ライン=宇宙ステーションから発進するデルフィニウム部隊による迎撃
第4次防衛ライン=地球から発射される対艦ミサイルによる迎撃
第5次防衛ライン=空中艦隊による迎撃
第6次防衛ライン=スクラムジェット戦闘機による迎撃
第7時防衛ライン=ジェット戦闘機による迎撃

が設けられている。
木星蜥蜴の侵攻を防ぐ為に設置された防衛ラインが逆にナデシコの進路を
妨害する結果となっている。

「でも、皮肉よね。
チューリップには全然役に立ってないのに」

ミナトの身も蓋もない一言にブリッジの空気が凍る。

「そこは、その蛇の道はヘビ、魚心あれば水心、と言いますか・・・」

プロスの言葉も歯切れが悪い。

(ま、大質量で損傷を恐れず突っ込んでくるチューリップは止められないよな)

カイトも他人事のように思う。

「でも、面倒くさいですよね、一気にビューンと宇宙まで飛んでけないんですか?」

メグミの質問に答えたのはルリだった。

「それは無理です。
 地球の引力圏脱出速度は秒速11.2キロ。
 それだけの速度を得るには、
相転移エンジンを臨界点まで持っていく必要があります。
 臨界高度は高度約2万キロ・・・つまりここです」

防衛ラインを表示したスクリーンの上をルリが歩く。
そして第3次防衛ラインと第2次防衛ラインの間に立つ。

「「なるほど・・・」」

メグミとユリカが頷く。

「現在のナデシコの高度ですと、第6次、第7次防衛ラインは無視できますな」

「第5次も、ですよ」

カイトが口を開く。

「それは、どういうことですかな、カイトさん?」

プロスの質問を受け、カイトがルリに話を振る。

「ルリちゃん、お願い」

「はい、ナデシコを迎撃しようと久しぶりに大規模軍事活動を起こした為、
 休眠状態にあったチューリップが各地で活性化、
 現在第5次防衛ラインの空中艦隊及び地上軍は
 世界的に蜥蜴と交戦状態にあります」

「「「・・・」」」

ブリッジが再び静まり返る。

「じゃあ、ラッキーですね!
 今のうちに宇宙へ行っちゃいましょう!」

能天気な声をあげるユリカ。

「それでね、カイト君にお願いがあるの!」

「はあ・・・何でしょう?」

「第4次防衛ラインのミサイルを撃ち落してほしいの!」

「「「「・・・え?」」」」

唐突なユリカの言葉に固まるミナト、メグミ、ルリ、カイト。
ユリカの言葉を聞き、宇宙ソロバンを取り出し何やら計算するプロス。

「ふむ・・・費用対効果の側面からも賛同できますな」

「ですがミスター、ミサイルはかなりの数になりますが?」

ゴートの言葉にはユリカが答える。

「全部とは言いません!
 直撃するコースのだけ落として貰えればいいんです!
 ね、カイト君、頼まれてくれない?」

ユリカは近所のスーパーへお使いを頼むような口調でお願いする。

「でも、何で落としに行くんですか?
 ディストーション・フィールドがあるんじゃ?」

メグミの質問にはルリが答える。

「ディストーション・フィールドは
 レーザーやグラビティブラストのような光学兵器には絶大な効果がありますが、
 ミサイル等の実弾兵器が当たると出力ダウンしちゃうんです。
 これからのビッグバリア突破やデルフィニウム部隊との交戦を考えれば、
 今は出来るだけ出力ダウンは避けたい所ですから」

ルリが答えるのを聞きながら、カイトは頷く。

「分かりました。
 じゃ、早速出ます。
 ルリちゃん、オモイカネ、サポートよろしく」

「はい、カイトさん」

《任せて下さい、カイトさん!》

それぞれ答えるルリとオモイカネ。
その答えを聞き、カイトはルリの頭を優しく撫でる。
ルリもカイトの行動に慣れたのか、僅かに頬を染め、
目を閉じて静かに撫でられている。

(ルリルリったらすっかりお気に入りね、カイト君に頭撫でて貰うの)

(ルリちゃん、気持ちよさそ〜♪)

ミナトとメグミがアイコンタクトで会話を交わす。

「後、ウリバタケさんに太平洋でアキトさんが使ったヤツ、
 僕のエステに装備して貰うえるよう言っておいて下さい」

「うん、分かったよ!
 じゃあカイト君、よろしくね!」

「はい!」

ルリの頭から手を離し、
ユリカの言葉に見送られながらカイトがブリッジから出て行く。
ルリがシートへ戻った時、両側から浴びせられる視線を感じる。

「・・・どうしたんですか、お二人とも?」

ミナトとメグミの視線に不穏な空気を感じたルリが尋ねる。

「ん〜?
 ルリルリとカイト君、お似合いだなって思って♪」

「さっきの表情、凄く可愛かったよ♪」

「・・・な、何を言うんですか・・・(///)」

二人の言葉に顔を真っ赤に染めて俯くルリ。
その様子にユリカも気付く。

「ほえ?
 ルリちゃん、お腹でも痛いの?
 だいじょーぶ?」

「「「・・・」」」

やはり空気の読めないユリカであった。

ブリッジを出たカイトは格納庫へ向かいながら考え事をしていた。

(『歴史』じゃこんな作戦なかったよな・・・。
 ナデシコにいたのはアキトさんとヤマダさんだけだったから。
 確かにディストーション・フィールドの特性からすればこれが最善の策。
 ユリカさんは僕の腕を買ってくれたんだ。
 その期待には応えないと!)

その時、前からアキトが歩いてくる。

「あれ、カイト?
 どこ行くんだ?」

「あ、アキトさん。
 いえ、ユリカさんのお願いでこれからミサイル落としに行くんです」

カイトもまたちょっとコンビニへ行ってくる、といった口調でアキトに答える。

「・・・は?ユリカのお願い?ミサイル?落とす?」

目が点になってしまったアキトに
先程のブリッジでのやり取りを掻い摘んで説明する。

「・・・そうだったのか・・・。
 カイト、一人で大丈夫なのか?
 俺達も出た方がいいんじゃないか?」

「いえ、大丈夫ですよ。
 ルリちゃんとオモイカネがサポートしてくれますし」

(それに、今のアキトさん達のレベルじゃ、
 こんな曲撃ち紛いの事は出来ませんから・・・)

後半は言葉にせず飲み込むカイト。

「そうか・・・余りルリちゃんに負担かけるのもよくないよな・・・」

「ええ、それに第3次防衛ラインではヤマダさん共々、
 出て貰う事になるでしょうから」

「・・・デルフィニウム部隊か・・・人間と戦うんだよな・・・」

アキトは声のトーンを落として俯く。

「・・・嫌、ですか?」

確かに今までの戦いは全て無人兵器が相手だった。
しかし、第3次防衛ラインでは人間と、しかも同じ地球人と戦う事になる。
カイトにはアキトの気持ちが痛いほど理解できた。

「そりゃ嫌に決まってるだろ!
 同じ地球人同士で戦うなんて・・・」

アキトが吐き捨てるようにように呟き、黙り込む。
暫く沈黙が続くが、それを破ったのはアキトだった。

「でも、俺は火星に残された人達を助けたい。
 火星に行けるなら、俺は何だってするよ」

そう言って顔を上げたアキトの瞳には決意がありありと浮かんでいる。

「でも、戦わないで済むんならそれが一番だけどな」

「フフッ、それはそうですね」

カイトが笑う。
アキトもつられて一緒に笑う。

『こらぁ、カイト!
 てめぇ、何処で油売ってやがる!
 さっさと格納庫へ来やがれってんだ!!』

突然、カイトの前に大画面のウリバタケのウインドウが現れる。

「ウ、ウリバタケさんっ!?」

『エステの準備はとうに終わったぞ!
 後はお前とライフルの調整だけなんだよ!
 早くしやがれ!』

「は、はい!
 すぐ行きます!」

『頼むぜ、全く・・・。
 今回は精度の要求される作戦なんだ。
 お前には万全の整備で出て貰いてぇんだよ。
 ナデシコのエースをつまらねえミスで落としたくはねえからな・・・』

「・・・はい、すみません・・・」

ウリバタケの言葉に思わず謝るカイト。

『ま、いいって事よ。
 それよりさっさと格納庫に来い!
 いいな!』

そう言い残し、通信が切れる。

「それじゃ、アキトさん、僕行きますね」

「ああ、カイト、気をつけてな!」

「はい!」

アキトに背を向け、格納庫へ向かって走り出すカイト。

(カイト・・・無茶だけはしないでくれよな・・・)

遠ざかっていくカイトの後姿にアキトは呟く。

カイトが格納庫に着いた時には既にエステバリスはスタンバイしていた。
その前ではウリバタケが腕組みして立っている。
そして、カイトの姿を見つけると、近くにいた班員に幾つか短い指示を与え、
カイトに向かって歩いてくる。

「遅えぞ、コラ!
 ま、怒鳴るのはさっきで終わりだ。
 さっさと起動しろ!
 調整しながら武装の説明するぞ!」

「はい!」

ウリバタケの指示でエステに乗り込むカイト。
コクピットに潜り込み、IFSインターフェイスに右手を置き、起動させる。

(・・・あれ?
 そうか、狙撃仕様への調整で・・・)

起動時に僅かに違和感をおぼえ、顔をしかめるカイト。

『カイト、どうだ?
 異常ないか?』

「少し違和感あります・・・そうですね・・・7番から8番辺りに」

『了解・・・ここを・・・こうして・・・こっちをこうと・・・これでどうだ?』

「あ、OKです」

『よっしゃ!
 なら早速コイツの説明始めるぞ』

そう言うとカイトの前にウインドウが現れる。
そこには先の太平洋上の戦いでアキトが使用した
キャノンライフルが映し出されていた。

『コイツは元々砲戦フレームの標準武装、
 120oキャノンを俺が狙撃仕様に改造したもんだ。
 違うフレームに無理矢理接続してるから耐久性は微妙だが精度は保証する。
 で、マガジンラックは腰と両足のアタッチメントに取り付けてある。
 交換方法は普通のライフルと同じだ。
 ま、とりあえず一時間は持つだろう』

「途中でオシャカになった場合は?」

『もう1本予備は用意してある。
 それもダメになれば・・・作戦中止かラピッド・ライフルでの曲撃ちだな。
 ・・・ま、コイツでも十分曲撃ちなんだがよ』

「そうですね」

ウリバタケとカイトが笑いあう。

『後、脚底部に電磁マグネットを仕込んである。
 機体の固定に使ってくれ。
 ・・・で、何か質問は?
 なけりゃ、出すぞ?』

「ありません!
 お願いします!」

『よし!
 野郎共、カイト機出すぞ!
 ブリッジ、ハッチ開いてくれ!』

ウリバタケの号令が格納庫に響く。
号令の下、カイト機がカタパルトに固定される。
その動きは機敏で、軍の一流整備班でもこうはいかないという程、
滑らかなものだった。

『こちらブリッジ、了解しました。
 重力カタパルト準備良し・・・いつでもいけます。
 ・・・あの、カイトさん、気をつけて下さいね』

コクピットにやや心配げなルリの声が響く。

「ありがと♪
 行ってきます、ルリちゃん・・・カイト機、出ます!」

『了解、カイト機、射出。
 行ってらっしゃい、カイトさん』

カタパルトで加速し、打ち出されるカイト。
通信からブリッジの様子が聞こえてくる。

『「行ってきます、ルリちゃん」♪』

ミナトがカイトの真似をする。

『「行ってらっしゃい、カイトさん」♪』

メグミがルリの真似で答える。

『・・・ルリちゃん、いーなー・・・カイト君と仲良しさんで・・・
 これがアキトだったら・・・
「ユリカ、俺はナデシコを、君を守る為に行くんだ」
「アキト!
 行かないで!
 ・・・ああ、私にはアキトを止める事は出来ないのね・・・」
「・・・ユリカ、約束するよ。
 俺は必ず君の所へ帰ってくる・・・」
 ・・・ああん!私もアキトとラブラブしたぁーい!!』

ユリカが叫ぶ。

『・・・はう(///)』

ルリは真っ赤になって俯く。

(全く、今は作戦中なのに・・・)

カイトの唇に思わず笑みが浮かぶ。

(・・・でも、これが僕の大好きな"ナデシコ"だ!)

狙撃ポイントに指定されたブリッジ上部に取り付き、マグネットで機体を固定する。

「ブリッジ、こちらカイト!
 狙撃ポイントに到着!」

『・・・あ、はい、間もなくミサイルが肉眼でも確認出来ます』

やや慌てたルリの声が聞こえてくる。
ウインドウに映る顔もやや頬が紅潮している。

(あれからずっとからかわれてたからなあ・・・)

最近、ルリは色々な表情を見せるようになった、とカイトは思う。

(今のところ、『歴史』の改変は上手くいってるのかな・・・)

この時代にやって来て、ナデシコに乗って2週間。
前の世界でアキト達から聞いていた事とは違う出来事も起こり始めている。
それが、どういった影響を及ぼすかは分からない。

(でも、この世界では僕は異邦人じゃない。
 ・・・歴史を・・・"思い出"を作っていく内の一人なんだ・・・)

カイトがポイントに着いて暫く、ルリのウインドウが再び開く。

『対艦ミサイル36基来ます、うち直撃コース28基、これです』

ルリのウインドウの隣にもう一つウインドウが開く。
そこには綺麗に色分けされたミサイルが表示されている。

「了解」

カイトが無造作にライフルを動かし、撃つ。
次の瞬間、ルリのマークしていたミサイルだけが爆散する。

『カイト君、すごーい♪
 どんどんいっちゃおー♪』

『・・・無駄弾なしか、さすがだ・・・』

『いや、良い買い物でした』

ユリカ、ゴート、プロスがそれぞれの感想を口にする。
その間にもカイト機は次々に、まさにひっきりなしに飛来するミサイルを撃ち落す。
撃墜する様子がスクリーンに映し出され、ブリッジは歓声に包まれる。
騒ぎの中で、最初はミサイルの総数や撃ち落す数をカイトに逐一報告していたルリだったが、
今は静かに、ただIFSタトゥーを輝かせている。

「ルリルリ、どーしたの?」

黙ってしまったルリを不思議に思ったミナトが声を掛ける。

「・・・数が多すぎて、報告が間に合いません・・・」

僅かに俯いて、肩を落とすルリ。
それを聞いてミナトはニヤリと微笑む。

「そっか、ルリルリはカイト君とおしゃべり出来なくて寂しーんだ♪」

「ミ、ミナトさん!
 何を言うんですか!
 私は別に・・・」

ルリはサッと頬を赤く染めながらもミナトに反論しようとする。
その様子を見たメグミがミナトを援護すべく反対側から会話に加わる。

「ルリちゃん、そんなに顔真っ赤にしてたら説得力ないよ♪」

「・・・はう(///)」

耳まで真っ赤にして俯いてしまうルリ。

「でもルリルリが応援したらカイト君、きっと喜ぶよ?」

ナデシコに乗船してまだ2週間たらず、その短い時間でもカイトがナデシコを、
特にルリの事を大切にしている事はミナトには良く分かっていた。
そして、ルリも同様、カイトを気にしている事も。
普段は無表情な少女がカイトの前では年相応の振舞いを見せる。
最近では、自分達の前でも表情が増え始めてきていた。
そんなルリをミナトは年の離れた妹のように感じ始めていた。

「ルリちゃん、いつでも繋いであげるよ?」

「でも、カイトさんのお邪魔になりますから・・・」

今、カイトがしている事がどれほどの難易度かを理解している為、遠慮するルリ。

「カイト君が今してる事って、こないだテンカワさんがしてたのと同じ事じゃないの?
 テンカワさんは結構お話してたけど?」

メグミが人差し指を唇に当ててルリに訪ねる。

「作業的には変わりませんが・・・テンカワさんの時とは違って、
 オモイカネのデータをフィードバックしてから
 カイトさんがトリガーを引くまでの時間的余裕は1秒以下です」

「じゃ、カイト君は1秒以内の判断でこれだけのミサイルを狙撃してるの?」

「そういう事になります」

ルリの言葉を聞き、ブリッジが静まり返る。
カイトに落とされない=ナデシコには当たらないミサイルもかなりの数になる。
全員の目がスクリーンに注がる。
その中でカイト機は銃口を小刻みに動かし、
マズルフラッシュを絶えず瞬かせている。
その先ではミサイルが次々と爆散していく。

「艦長はご存知だったのですかな、この事を?」

驚愕に包まれるブリッジの中でただ一人、
ニコニコとしていたユリカにプロスが尋ねる。

「はい♪
 精度が要求される作戦だったんでカイト君にお願いしたんですけど・・・
 予想以上にやってくれてますね♪」

プロスが尋ねた時、一瞬、凛とした表情を浮かべるものの、
すぐにニコニコ顔に戻るユリカ。
が、次の瞬間、爆音と共にナデシコが大きく揺れる。

「な、何だ!?」

「ミサイルか・・・?」

ゴートの叫びとフクベの呟き。

「あたたた・・・、ルリちゃん、状況報告お願い」

「・・・はい、ちょっと待って下さい・・・。
 左舷後方にミサイル一発被弾、人的被害なし、損傷軽微、航行に支障ありません」

衝撃で転んだユリカと慌てたのか少々報告に時間が掛かったルリ。

「痛った〜!
 カイト君ミスったの〜?」

「仕方ないわよ、メグちゃん。
 これだけ飛んでるんだもん」

その隣で盛大に転んだミナトとメグミ。
ゴートとプロスは転んで露わになった
ユリカの太腿に目線が釘付けになってしまっている。

『スイマセン!
 一発ミスしました!
 ナデシコ、被害ないですか!?』

カイト機から通信が入る。
慌てた様子ではあったが、既にミサイル落としを再開している。

「あ、カイト君。
 ナデシコは大丈夫!
 みんな転んじゃったみたいだけど」

『そうですか・・・良かった。
 こんなミスはこれっきりにしますので!』

そう言って通信を切ろうとするカイト。
それを見たミナトは慌ててカイトを呼び止める。

「あ、カイト君、ちょっと待って!
 ・・・ほら、ルリルリ♪」

「ミ、ミナトさん・・・私は、その・・・」

「ルリちゃん、ファイト!」

「メグミさんまで・・・」

ルリは助けを求めるようにユリカに目を遣るが
興味津々といったようにこちらを見詰めている。
カイトは、顔を赤くしたまま硬直しているルリを見て困惑していた。

(ルリちゃんどうしたんだろ・・・?
 もしかして怖がらせちゃったかな?)

カイトが心配気にルリを見ていたが、ルリが恐る恐る、といった感じで顔を上げる。

「あ、あの、カイトさん・・・」

『なに?』

顔は真っ赤だが、真っ直ぐカイトを見詰めるルリ。

「あの・・・応援してますから、頑張って下さい・・・」

それだけ言うとまた俯いてしまうルリ。
一瞬、驚いて目を見開くカイト。

『ありがと、ルリちゃん♪
 ちょっと疲れてたけど、元気でた。
 これでまだまだ頑張れるよ♪』

そう言ってニッコリと微笑むカイト。
その微笑みを見て、ルリも口元に微笑みを浮かべる。

(・・・カイトさん・・・)

『それじゃ、ルリちゃん、後少しオペレートよろしくね!
 オモイカネも頼んだよ!』

「《はい、カイトさん!》」

ルリとオモイカネの返事が重なる。
カイトは、その様子を見てもう一度微笑むと通信を切る。

(さて、後もう少しだ。
 もう一発も逃さない・・)

その後の10分ほど続いたカイトの狙撃は被弾前より遥かに鋭くなっていた。
もちろん、ナデシコの被弾数は0だった。

「こほん・・・艦長、着替えてきたらどうだね・・・」

今だ振袖姿、太腿露なユリカにフクベが告げる。

「あ、そうですね♪
 でもその前に、アキトに見せてこよ〜っと♪
 アキト、アキト、アキト〜っ!
 待っててねぇ〜♪」

脳天気にブリッジを出て行くユリカを見送る一同。

「・・・バカ・・・」

ルリの呟きがそれを締め括った。


「第4次防衛ライン、抜けます」

ルリの言葉と共にミサイルの雨が止む。

「やりましたな、艦長」

制服に着替えて戻ってきたユリカにプロスが声を掛ける。

「はい、カイト君が頑張ってくれたおかげです。
 ルリちゃん、カイト君を戻す時間あるかなあ?」

「そうですね・・・武器換装の時間くらいなら可能です」

「了解♪
 メグちゃん、カイト君に通信開いて」

「はい、通信開きます・・・どうぞ」

「やっほー、カイトく〜ん!
 ミサイル落としご苦労様!
 ナデシコに一旦戻って下さい」

『了解、カイト機、帰還します』

そう言うとカイト機はマグネットを解除し、ハッチへ向かう。
ハッチへ滑り込むように戻るカイト機。
その様子をスクリーンで確認し、プロスが口を開く。

「いやはや・・・結局被弾はあの1発だけでしたか」

「うむ・・・プロス君、彼は一体何者なのかね?
 あれほどのパイロットが軍にもネルガルにも所属していなかったとは考えられん」

フクベがプロスに問い掛ける。

「私にも分かりません。
 契約の中に彼の過去を詮索しない、という条件も入っていまして。
 ただ・・・」

「ただ・・・?」

「彼は『守りたいモノがある』と。
 その為にナデシコに乗ったのだと言っておりました」

「守りたいモノ、の為にか・・・」

フクベの目が一瞬見開かれるが、また直ぐに元に戻る。

「提督・・・どうかなされましたか?」

「・・・いや、なんでもない」

黙り込んだフクベにゴートが問い掛けるが
フクベはただ曖昧な返事を返すだけだった。

同じ頃、格納庫では帰還したカイトとウリバタケが打ち合わせに余念がなかった。

「カイト、装備はどうする?」

『このままでいいですよ。
 コイツならデルフィニウムの装甲も1発で貫けますから』

外からメガホンを使ってカイトに問い掛けるウリバタケと
いつでも出撃できるようにエステに乗ったままのカイトが外部スピーカーで答える。

「いけるのか?
 足元固定してねえと吹っ飛ばされるぞ、それ?」

『大丈夫です。
 撃った瞬間にスラスター逆噴射で反動相殺しますから。
 その辺はルリちゃんとオモイカネにサポートして貰いますよ』

「そうか・・・ならいいか。
 でも、ヤマダとテンカワは出すのか?」

『何です、突然?』

「いや、シミュレーションじゃ二人をだすよりお前一人で戦った方が確率高いんだよ。
 確実な手段はお前が一人で出る事なんだがな」

呟き、黙るウリバタケ。

『出しましょう。
 これから、先、僕一人ではどうしようもない状況もあるでしょうし。
 それに・・・僕がいなくなると言う事だってあるかもしれないですから』

「・・・そうか、そうだな」

カイトの言葉にウリバタケがハッとなる。
それは、パイロットとしての覚悟。
ナデシコに乗っていては忘れがちだが、今しているのは本物の戦争。
常に最前線へ出て行くパイロットには死が纏わり付いてくる。
カイトのように卓越した操縦技術を持つ者でも一つの油断が死を招く。

『ま、簡単に死ぬつもりはないですけど』

打って変わって明るいカイトの言葉。

「当たり前だ!
 常に整備は完璧にしといてやるさ。
 こっちもエースを簡単に落とす訳にはいかねえからな」

そう言って手に持ったスパナを掲げてみせるウリバタケ。

『お願いします』

コクピットの中で頭を下げるカイト。

「で、テンカワ達の装備なんだが・・・」

ウリバタケが言葉を発した瞬間、警報が響く。

『デルフィニウム9機、接近中!
 エステバリス部隊出撃して下さい!』

メグミの言葉がスピーカーから流れる。

「来たか!
 カイト、お前はすぐ出られるな?
 テンカワとヤマダも装備が終わればすぐに出す!
 野郎共!カタパルト準備しやがれ!」

ウリバタケの号令の下、整備班が動き出す。

「あれ、班長、エステ、カタパルトに待機してますよ?」

カイト機をカタパルトに誘導しようとした整備班員が呟く。

「何だと!?
 おい、テンカワか?
 それともヤマダか?」

ウリバタケがメガホンで呼び掛ける。
しかし、そのエステは沈黙を保ったまま。

「おい、返事しろ!
 丸腰でどーすんだよ!
 装備付けるからそこを退け!!」

ウリバタケがエステに向かって怒鳴る。

『その必要なーし!!』

格納庫に突然、大声が響き渡る。

『・・・ヤマダさん・・・?』

その声を聞き、カイトが呆然と呟く。


少し時間が戻って、ブリッジ。

「デルフィニウム9機、左前方より接近中。
 進路、ナデシコ」

ルリの声がブリッジに響く。

「9機?
 おかしいな、デルフィニウムは8機で一個小隊のはずだけど」

ユリカが首を傾げる。

「ま、いいか。
 メグちゃん、アキト達に出撃命令を」

「了解、『デルフィニウム9機、接近中!エステバリス部隊出撃して下さい!』」

格納庫への通信回線を開き、メグミが状況を簡単に告げる。
格納庫へ開かれた回線からウリバタケの怒鳴り声が聞こえてくる。

「何かあったのかな?」

ユリカが首を傾げると同時にメイン・スクリーンが開かれる。

『その必要なーし!!』

大声と共にスクリーンにヤマダの顔が映る。

「「「ヤマダさん(君)!?」」」

ユリカ、ミナト、メグミの声が綺麗にはもる。

『ちっがーうっ!!
 俺様の名前はダイゴウジ・ガイだ!
 いよいよ、ナデシコの"エース"、俺様の出番だな!
 ミサイル落とし、なんて"地味"な仕事はエースの仕事じゃねえからな!
 ロボット同士の決戦・・・それこそがこの俺様にふさわしい・・・どわっ!!!』

ポーズを決めて喋っていたヤマダが突然悲鳴を上げる。
カタパルトが突然作動し、射出されていくヤマダ機。

「・・・ヤマダ機、射出」

ルリが平然と言い放つ。

「ル、ルリルリ?」

ミナトが恐る恐るルリに問い掛ける。

「・・・ナデシコのエースは、カイトさんです・・・
 それに、地味、じゃありません・・・」

ボソリ、とルリが呟く。

「でも、ルリちゃん。
 突然、発射は危ないんじゃ・・・」

ユリカが声を掛ける。

「大丈夫です、死にはしません」

サラリと言ってのけるルリ。
普段無表情なルリだが、今はやや目がつり上がっている。

(ルリちゃん、怖い・・・)

(カイト君を馬鹿にされたと思ったのね・・・)

メグミとミナトが顔を引きつらせる。

(ミスター、これは・・・)

(ええ、彼女を怒らせてはなりませんな・・・)

ゴートとプロスがアイコンタクトを交わす。
ブリッジがルリの行動に驚き、静まり返る。

『お、おい、ブリッジ!
 ヤマダのヤツがいきなり発進しちまったぞ!?』

そこにウリバタケから通信が入る。

「・・・あはは、続いてアキトとカイト君も出しちゃって下さい」

ユリカが動揺しつつもウリバタケに指示を出す。

『ああ、それは構わねえけどよ・・・
 アイツ、丸腰だぞ?』

「「「・・・え?」」」

『いや、武装せずカタパルトに乗ってたんでよ、
 退かせようと思ったら突然出てったんだ』

ウリバタケの言葉を聞いたユリカがメグミを呼ぶ。

「メグちゃん、ヤマダさんに繋いで!」

「はい!」

すぐにヤマダが、スクリーンに現れる。

『よう、心配無用だぜ・・・これも作戦だ!』

ブリッジの会話を聞いていたのかユリカの言葉を待たずに喋りだす。

「でも、丸腰だって聞きましたけど・・・」

『そう!
 この作戦のミソはまさにそこだ!
 敵はこっちが丸腰だと思ってカサにかかって攻めて来る。
 ところが!
 俺様は空中でスペース・ガンガー重武装タイプと合体!
 驚く敵にゲキガン・フレアを浴びせるって寸法よ!
 名付けて、『ガンガー・クロス・オペレーション』!!』

スクリーンにヤマダの下手な絵が大写しになる。

「スペース?」

「ガンガー?」

「ゲキガン・フレアって何?」

ブリッジ中が?マークに覆われる。

『そういう事で博士、スペース・ガンガー重武装タイプを出してくれ!』

だが、その言葉に反応するものは誰もいない。

「ルリちゃん、博士って誰?」

ユリカが?マークを飛ばしながらルリに尋ねる。

「分かりません。
 ナデシコには博士号を持った人はいません」

『あの、それってウリバタケさんの事じゃないんですか?』

ヤマダの隣にカイトのウインドウが現れる。

『俺なのか!?』

ウリバタケが心底嫌そうに呟く。

『そう、その通り!
 さすがだ、ジョー!!』

カイトに向かって叫ぶヤマダ。

『あはは・・・』

カイトが力無く笑う。

「・・・ジョー?」

ルリが呟く。
その瞳に浮かんだ怒りの色はまだ消えていない。

『多分、『ゲキ・ガンガー3』の海燕ジョー、の事じゃないかな』

カイトとは反対側のヤマダの隣にアキトのウインドウが現れる。

「アキトっ!!
 そうなんだ、アキトは物知りだね!」

アキトの登場にユリカが破顔する。

『博士!早く重武装タイプを出してくれ!』

自分を無視して話が進む事に苛立ったのかヤマダが大声で叫ぶ。

『ナデシコにゃ、スペースだかアストロだか知らねえが
 重武装タイプなんてもんは乗っけてねえよ』

ウリバタケがやれやれと言った様子で呟く。

「・・・それって、砲戦フレームの事じゃないですか」

再びボソリと呟くルリ。

『そう、それだ、それ!
 博士、ソイツを出して・・・』

ヤマダが叫ぶがウリバタケが言葉を遮る。

『ねえよ』

『『『「「「は?」」」』』』

ヤマダならず、全員が動きを止める。

『は、博士・・・?』

『砲戦はテンカワとカイトのライフルを作るのにばらしちまったからな。
 もう一度組み上げるのに後10分はかかるな』

『な、何ィィィィィッ!!』

ヤマダの叫びが三度ブリッジに響く。
俯いて、肩を震わせるヤマダ。

「あの〜、作戦失敗ですか?」

恐る恐るヤマダに問い掛けるユリカ。

『あ、あはははは!!
 まだまだぁ!!』

そう叫ぶと、すぐそこまで迫っていたデルフィニウム部隊に突進するヤマダ機。
突撃してくるエステに対し、9機のデルフィニウムが一斉にミサイルを放つ。

『重武装フレームが無くてもこんなモン!
 喰らえ、キョアック星人共!!
 ガァァイ・スゥゥゥパァァァァ・ナッパァァァァァー!!!

ギリギリまでミサイルを引き付け、急激な方向転換でそれを避けるヤマダ機。
そして先頭にいたデルフィニウムの胴体にエステの拳が突き刺さる。
爆発するデルフィニウム。
爆発の直前にパイロットが脱出した様子も確認できる。

「「「「「おおー!」」」」」

パンチ一発でデルフィニウムを葬ったヤマダ機。
一連の動きはヤマダが能力の高いパイロットであることを示していた。

「・・・ヤマダもやるものだな・・・」

ゴートの呟きに全員が頷く。

「・・・ちょっと見直したかも」

「ただのアニメオタクじゃなかったのね」

メグミとミナトの言葉が聞こえたのか、ヤマダは胸を反らす。

『どうだあ!
このガイ様の実力、思い知ったか!!
ガハハハ!!』

高笑いするヤマダ機。
その周りを素早く残りのデルフィニウムが囲む。

「ヤマダ機、完全に囲まれました」

ルリの報告がブリッジに響く。

((((((・・・やっぱり・・・))))))

「・・・バカ・・・」

全員の思いをルリが代弁する。
包囲の輪から一機のデルフィニウムが外れ、ナデシコの前へやって来る。
既にヤマダ機は捕獲され、2機のデルフィニウムに左右から拘束されている。

「艦長、デルフィニウムから通信入ってます」

メグミの声にも僅かな緊張がみえる。

「メグちゃん、繋いで下さい」

「はい」

スクリーンに映っていたヤマダ、アキト、カイトの映像が消える。
代りに写ったのは、顔の半分をヘルメットとバイザーで覆ったパイロット。

『ボクだ、ユリカ』


  後編へ続く・・・


   後書き


村:ども、村沖和夜です。
   『RWK』第3話「私達は火星へ行きます!(前編)」をお送りしました。
   さて、今回からはキャストの皆さんと座談会をやってみたいと思います。
   第1回の今回は・・・やはり、あの方に登場して頂きましょう!

 ル:どうも、ホシノ・ルリです。
   あの、早速一つ聞きたい事があるんですが・・・?

 村:はい、なんでしょう?

 ル:このお話は『逆行再構成』モノですよね?

 村:ええ。

 ル:なのに何故、私は16歳の姿をしてるんですか?
   この時の私は11歳ですよ?

 村:あ、それは簡単な事です。
   頭の・・・そうですね、5センチくらい上を触ってみて下さい。

 ル:・・・?(頭の上に手を持っていく)

 ル:・・・??(何かに触れて、それを見る)

 ル:・・・!!!(気付く)
   な、何なんですか!?これは!!

 村:天使のワッカです♪

 ル:と、いう事は・・・私はもしかしてプロローグで・・・

 村:はい♪
   貴女はプロローグでお亡くなりになられたルリさんです。
   本編に登場している方々には
   忙しいという事で出演を断られてしまいましたので。
   貴女なら、ヒマですよね?
   出番はもうない・・・(ガスッ!)はうっ!!

 ル:(血染めのメリケンサックを嵌めて)
   ・・・アナタ、いい度胸してますよね・・・。
   ナデシコにおける最強にして、
   最も可憐なヒロインの私を死なせるとは・・・
   その上出番がないとほざくとは・・・。
私も逆行させなさい!
   カイトさんと二人で歴史を変えます!!

 村:・・・(頭から血を流してピクリともしない)

 ル:・・・起きろ。
   死ぬなら、この『RWK』を完結させてから死ね。
   アナタの拙い話でも期待してくれている読者様がいるんですから。

 村:・・・はい。
   拙い作品ですが、ここまでお付き合い下された皆様、
   コメントを書き込んで下さった皆様、ほんとにありがとうございます!
これからも、『RWK』並びに作者を暖かい目で見守ってやって下さい

ル:・・・予想外に票が入って、喜ぶ前にびびってましたけどね・・・
   この外道作者は。

 村:・・・ギク
   そ、それでは、皆様!
   第3話後編でお会いしましょう!

 ル:逃げるな!!


   後書きも後編へ続く・・・





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