機動戦艦ナデシコ
〜Return of the White Knight〜





第2話 私達は火星へ行きます!(後編)


ナデシコ居住区画・食堂

カイトとルリが食堂へとやってくる。
扉をくぐった時には繋いだ手は離していたが。
ルリを席に座らせるとカイトは飲み物を取りに行く為、席を立つ。

「ルリちゃん、オレンジジュースでいいかな?」

「はい、構いません」

カイトがカップを二つ手にして戻ってくる。

「はい、どーぞ」

「ありがとうございます」

ルリにカップを手渡すとカイトもその隣に腰を下ろし、カップに口を付ける。
そこへアキトがやってくる。

「カイト、怪我したって言ってたけど大丈夫か?」

「アキトさん、大丈夫ですよ。
 かすり傷みたいなもんですから」

そう言って手をヒラヒラさせるカイト。

「でも、さっきのは凄かったな。
 連合軍の提督に啖呵きっちまうんだから。
 俺には真似できないよ」

「はは、たいした事じゃないですよ。
 マスターキーがなければ敵襲があっても出撃できませんからね。
 こんな所で死にたくない、と思ったら勝手に口が動いてたんです」

カイトが笑う。
それにつられてアキトも微笑む。

「・・・でも、火星には行けないのかな?
 火星に行くって聞いた時は嬉しかったんだけど。
 見捨てられた人達を助けられるって。
 そう都合のいい話なんて無いよな・・・」

アキトがポツリと呟き、俯く。

「・・・逃げるだけじゃ何もできません。
 自分のしたい事があるならば・・・戦ってでもやり遂げなきゃならない事もあります。
 誰かがやってくれるのを待つだけじゃ、ね」

「カイト・・・?」

突然、真剣な顔になり呟くカイト。

「アキトさん、貴方ならどうしますか?」

「・・・俺は・・・」

カイトの視線がアキトを射抜く。
アキトが目を伏せ、黙り込む。
カイトはそんなアキトを優しい眼差しで見詰める。

(カイトさん・・・一体何を考えてるんですか?)

カイトの発言の真意が分からず、戸惑うルリ。
三人の間に沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは食堂に響くホウメイの声だった。

「テンカワッ!
 油売ってないでさっさと戻ってきな!
 注文つかえてるよ!」

ホウメイの声にアキトがビクリと反応する。
「あ、はい!
 すぐ戻ります!
 それじゃ二人とも、また後で!」

「はい、アキトさん」

カイトがいつもの口調でアキトを見送る。
ルリも無言でその背中を見送る。

「・・・カイトさん。
 今のは・・・?」

アキトが歩み去った事を確認したルリがカイトに訊ねる。

「・・・ん?
 種蒔き・・・だよ」

「種蒔き・・・ですか」

「そう、種蒔き。
 どんな芽が出るかは分からないけどね」

そう言って悪戯っぽく微笑むカイト。
よく分からなかったが、とりあえずカイトを信用するルリ。
そこへ、新たな二人の闖入者がやってくる。

「ハーイ、カイトくん、ルリルリ」

「ヤッホー♪
 ここ、いいかな?」

ミナトとメグミの二人である。
返事を待たずに二人の向かいに座るミナトとメグミ。

「ルリルリ?」

ミナトの言葉の中にあった聞き慣れない言葉を聞き直すルリ。

「そう、ルリルリ。
 最近可愛いからね〜、ニックネーム」

「・・・可愛い、ですか?
 私?」

「そう!
 最初は無表情で取っ付き難い娘かな、って思ってたけど。
 全然そんな事ないんだもん!」

「そうそう!
 カイトくんと一緒にいるルリちゃん、凄く可愛いんだもん!」

「そ、そうでしょうか・・・」

自分でも自覚はあったのだが改めてそれを他人から指摘されると恥ずかしい。
ルリは赤くなって俯いてしまう。
そんなルリを温かい眼差しで見詰めるカイト。

(良かった、ミナトさんもメグミさんも前と変わってない・・・)

まだ年端も行かぬ少女が受けた仕打ちを気遣い、やってきてくれたのだ。
カイトは心の中で二人に感謝する。
そんなほのぼのした空気を打ち破ったのは食堂に響き渡る殴打の音だった。

「な、なんだぁ?」

ウリバタケが音のした方を振り向く。
全員の目が一斉にそちらへ向かう。
そこにいたのは中華鍋で見張りの兵士を殴り倒したアキトだった。

「・・・俺、ロボットで脱出して艦長助けてくる」

静かだが強い決意が秘められた言葉。

(やっぱり、アキトさんですね・・・)

全員を前に、自分の決意を語るアキトを見て、カイトは微笑む。

「・・・俺は火星に行きたい。
 行って残された人たちを助けたいんだ!
 みんなもさっきまでそうだったんじゃないのか?」

アキトの言葉が皆の間に静かに染み渡っていく。
最初に口を開いたのはミナトだった。

「でも、テンカワ君、突然どーしちゃったの?」

「・・・さっきカイトに言われたんです。
 自分が何かしたいのなら、戦ってでもやらなきゃいけないって。
 分かったんです、誰かがやってくれるのを待ってちゃ駄目だって。
 自分がなにかしなくちゃって。
 だから、俺・・・逃げるのやめるんです。
 俺は、火星に行って置き去りにされた人達を助けたい。
 だから・・・」

静かに自分の決意を語るアキト。

「お前らっ!
 コックがああまで言ってんだ、メカニックがそれでいいのか!?
 メカニック魂見せてやるぞ!」

「「「「おおー!!」」」」

ウリバタケの言葉に整備班が雄叫びを上げる。
食堂の雰囲気が盛り上がる。

(・・・カイトさんの言ってた種蒔きってこういう事だったんですか?)

ルリが無言でカイトを見上げる。
カイトはルリの視線に気付かないのか、嬉しそうに笑っている。

「でも、具体的にどうするんだい、テンカワ?
 キノコの仲間達があちこちにいるんだよ?」

冷静なホウメイの言葉。
それに答えたのは、カイトだった。

「要は、ブリッジと格納庫を取り戻せばいいんです。
 ブリッジさえ取り戻せば隔壁閉めちゃうなりして無効化できますから」

「なるほどな・・・確かにそうだ。
 で、人選はどうする?」

ゴートがカイトの案に賛成し、カイトに訊ねる。

「そうですね・・・アキトさんとウリバタケさんは格納庫に向かって下さい。
 ブリッジを奪取したらすぐにエステで出てください。
 ウリバタケさん、エステの換装忘れずに。
 指揮はゴートさんにお願いします」

「構わんが・・・ブリッジはどうするんだ?
 まさか、お前一人で・・・?」

「ええ、やります」

「おい、カイト!
 幾らなんでもそれは無茶だ!」

「・・・大丈夫ですよ。
 一人の方がやり易いですから・・・。
 それじゃ、行きましょうか」

カイトがそう言ってニヤリと笑う。
その言葉には有無を言わさぬ強い響きがあった。

「カイト君、私達はどうすれば?」

メグミがカイトに訊ねる。

「メグミさんとミナトさんは食堂で待機。
 僕がブリッジを奪取したら、すぐにきて下さい」

「ルリルリはどうするの?」

「ルリちゃんは僕が連れて行きます。
 ブリッジでやって貰わなきゃいけない事がありますから」

「でも、大丈夫なの?」

「ええ、命に代えてもこの娘は僕が守ります」

静かだが、強い意思を帯びたカイトの言葉。

「ひょ〜、言うねえ、カイト!」

「・・・カイトさん・・・」

やおら、隣にいたルリをカイトが抱え上げる。

「きゃ」
ルリを俗に言う『お姫様抱っこ』し、入り口に向かうカイト。

「・・・それじゃ、ミッションスタートです。
 ルリちゃん、しっかり掴まっててね」

そう言うが早いかカイトはブリッジに向かって走り出す。
その速度は恐ろしく速い。
軽いとは言え、少女一人抱えても全くスピードが落ちない。
ルリは降ろして貰い、自分で走ると言おうとしたがこのスピードを見て、諦める。
振り落されないようにカイトの首にしっかりと両手を回してしがみ付いていた。
そしてあっという間にブリッジに着いてしまう。

「それじゃ、ルリちゃん。
 ちょっと待っててね」

ルリを丁寧に床へ降ろすとブリッジへ入ってゆく。

「え・・・?
 カ、カイトさん?」

戸惑うルリの前でブリッジの大きな扉が開き、閉まる。

『な、なんだ、貴様!』

『止まりなさい、撃つわよ!』

『止まれッ!』

ブリッジの中から慌てた軍人の声、続いて肉を打つ音が聞こえる。
そして1分も経たないうちに何も聞こえなくなる。

『ルリちゃん、もういいよ。
 入ってきて』

ルリがブリッジに入ると、キノコを縛り上げているカイトの姿が目に入る。

(・・・1分かからずにみんな倒しちゃったんですか!?)

驚きにルリの目が見開かれる。

「さて、ルリちゃん。
 早速だけど、隔壁封鎖お願い」

カイトの声で我に返るルリ。
自分のシートに座り、オモイカネにアクセスする。

《お帰りなさい、ルリさん》

『うん、ただいま、オモイカネ』

オモイカネと短いやり取りの後、指示通り軍人が占拠しているブロックを封鎖する。

「格納庫、応答願います。
 こちらカイト、ブリッジの奪還成功」

『何だと!
 早いな、こちらはいまから突入する所だ』

「応援、いりますか?」

『いや、大丈夫だ。
 ブリッジをよろしく頼む』

了解、と言ってカイトがコミュニケを切る。

「ルリちゃん、ディストーション・フィールドを最大に。
 グラビティブラストのチャージもお願い」

「はい」

指示を出した所で、ミナトとメグミの二人がブリッジへ入ってくる。

「カイトくん、私達はどうするの?」

「ハルカさんは、エンジン暖めておいて下さい。
 メグミさんは艦内に降伏勧告お願いします」

カイトの指示を聞いて、二人はすぐに動き出す。

「艦内のキノコさんのお仲間さん、皆さんのお耳の恋人、メグミ・レイナードでぇす♪
 キノコさんは捕まっちゃいましたよ!
 隔壁閉鎖しちゃったんで、抵抗せずに降伏してくださぁい♪」

メグミの降伏勧告?の後にゴートから通信が入る。

『ブリッジ!
 こちらゴート、格納庫奪還に成功した!
 ヤマダが負傷したが問題ない』

『俺は、ダイゴウジ・ガイだぁぁぁぁぁッ!』

ゴートの報告の向こうからヤマダの絶叫が聞こえる。

「休眠中のチューリップ、活動再開しました。
 浮上します」

レーダーを見ていたルリが報告する。

「メグミさん、チューリップの行動・進路予測、お願いします。
 慣れないかもしれませんがなんとかよろしく
 ルリちゃん、重力カタパルト射出準備。
 それと迎撃戦闘、用意を」

カイトは冷静に指示を出す。

「アキトさん、準備できてますか?」

『ああ、いつでも大丈夫!』

「了解。
 艦長のお迎え任せます。
 ルリちゃん、テンカワ機、射出!」

「了解、テンカワ機、射出」

重力カタパルトに打ち出され、アキトが飛び出していく。
そしてブリッジにウリバタケのウインドウが開く。

『カイト!
 すまねえが、お前さんも出てくれねえか?』

「ヤマダさんは、どうしたんです?
 負傷、と聞きましたが。
 出られませんか?」

『ああ、ありゃ駄目だ。
 治りかけてた骨がまたいっちまったみたいだ』

「・・・分かりました。
 すぐに行きます、エステの準備お願いします。
 ライフルを両手装備で。
 メグミさん、アキトさんに繋いで下さい」

ウリバタケへ指示を出し、そのまま慣れない進路計算に苦闘するメグミに呼びかける。
メグミが無言で頷き、アキトのウインドウが開く。
焦るアキトの顔が映る。

「アキトさん、無事ですか?」

慣れない空戦フレームに振り回される様子がスクリーンからも見て取れる。

『カ、カイトか?
 どうなってんだ、これ!?
 思うように動かない!』

「空戦は少し要領が要ります。
 なんとか慣れて下さい。
 僕もすぐに出ますので、それまでお願いします」

『わ、分かった!』

「進路予測完了!
 チューリップ、進路、連合軍艦艇!」

アキトとの通信を終えると、メグミから報告が上がる。

「ハルカさん、全速前進!
 進路上にナデシコを入れて盾になります!」

「了解!
 ・・・大丈夫なの?」

心配そうに訊ねるミナトにカイトが答える。

「チューリップ自体には、ナデシコを落とせる程の武装はないでしょう。
 おそらく、狙いは・・・」

カイトの言葉の途中でルリの報告。

「クロッカス、パンジー、チューリップに引き寄せられます」

「・・・やっぱり。
 おそらく、飲み込むつもりでしょう。
 ルリちゃん、トビウメは?」

「健在です。
 戦艦クラスのエンジンなら牽引ビームにも対抗できるようです。
 ・・・距離が縮まれば分かりませんが」

「と、言う事です。
 ナデシコを飲もうと口を開いた所に、グラビティブラストを叩き込みます」

ニヤリと笑うカイトにミナトも笑顔になる。

「了解!
 ナデシコ、全速前進!」

ナデシコが前進を始める。
しかし、その時、予想外の出来事が起きる。

「チューリップ、機動兵器を射出。
 バッタ、ジョロ、総数約500。
 なおも射出中。
 進路、ナデシコと推定」

ルリの報告がカイトの耳に飛び込んでくる。

(どういうことだ!?
 歴史じゃ、機動兵器が射出されるなんてなかったはず・・・
 くそっ、これも『影響』なのか?)

内心の動揺を隠し、冷静を装い指示を出すカイト。

「ルリちゃん、対空装備で迎撃、グラビティブラストの使用は控えて。
 チューリップ撃破に取っておくから。
 ハルカさん、前進を続けて下さい」

「「了解」」

「メグミさん、アキトさんを呼び出して下さい」

「はい!
 ・・・繋ぎます!」

『お、おい、カイト!
 バッタが出て来たぞ!
 俺はどうすれば!?』

何とか、まともに飛んではいるがその機動はまだ危なっかしいテンカワ機。

「アキトさん、至急トビウメに向かって下さい。
 艦長のヘリと合流、護衛してナデシコに戻って下さい。
 ・・・極力、戦闘は避けて下さいね」

『じゃ、バッタはどうすんだよ!』

「・・・バッタは僕が引き受けます」

『な・・・!
 一人じゃ無理だよ、カイト!
 俺も戦う!
 逃げるのは止めたんだ!
 お前もそう言ったじゃないか!』

「・・・時と場合によります。
 今のアキトさんじゃ、敵の的になるだけです。
 ・・・僕はもう・・・誰かを・・・失いたくんないんです」

『・・・カイト』

「「「・・・カイトさん(くん)」」」

俯き、そう呟くカイト。
カイトの脳裏に火星の大地で冷たくなっていくルリの姿がよぎっていた。

(あんな思いは二度と御免だ・・・!)

カイトの悲しげな顔を見て、ルリは表情を歪める。

(カイトさん・・・今までどんな経験をして来たんですか?)

ルリは胸が締め付けられるような痛みを感じていた。

『・・・分かったよ、カイト。
 俺は今、俺に出来る事をする・・・それでいいんだよな?』

「はい・・・すいません、偉そうな事言って」

『いいよ、でも、お前も気を付けろよ!』

そう言い残し、テンカワ機はトビウメへ進路を向ける。

『カイト!
 エステの準備終わったぞ!
 後はお前が来るだけだ!』

ウリバタケの通信を聞いたカイトは表情を引き締める。
その目に決意の光が宿る。

(・・・もう・・・誰も死なせはしない・・・!)

「了解、すぐに行きます
 ルリちゃん、カタパルト準備よろしく。
 ・・・援護、任せたよ」

「はい!
 ・・・カイトさん、気を付けて」

ルリの言葉に微笑んで大きく頷き、カイトは格納庫へ走り出す。
その背中を見送るルリ。

(カイトさんは、私が守ります)

ルリの決意。
それに答えるかのように、金色の瞳の中を駈けるナノマシンの光が輝きを増す。

『オモイカネ、サポートよろしく』

《はい!
 ルリさん!!》


連合宇宙軍戦艦トビウメ内・応接室

時間は少し戻り、アキト、カイト、ルリの3人が食堂で話しをしていた頃、トビウメの応接室ではミスマル親子が対面を果たしていた。

ユリカの前には大量のケーキが並べられている。

「さあ、ユリカ、好きなだけ食べなさい!」

連合宇宙軍提督の威厳はどこへやら、強面の顔が緩み切っている。

「ユリカ、パパの言う事を聞いてくれるね?
ナデシコにはもう戻らなくても・・・」

「そんな事より、お父様、私、聞きたい事があります」

「何だね、ユリカ?」

ナデシコの所有権問題よりも重要な話かとコウイチロウはいぶかしむ。

「テンカワ・アキト君って憶えてらっしゃいます?」

「テンカワ・・・?」

「火星でお隣さんだった男の子です」

「ああ、そういえば・・・、そのテンカワ君がどうかしたのかね?」

思い出した、というように話の続きを促すコウイチロウ。

「彼のご両親が殺されたそうなんです。
私達が火星を離れた直後に。
お父様なら何かご存知かと思って」

「殺された?
それは穏やかではないな・・・。
しかし、彼のご両親はテロに巻き込まれた、と聞いたが」

「大事な事なんです、お父様」

「・・・私達が火星を離れた後の事では、な・・・。
残念だが」

そう言うとコウイチロウはゆっくりと首を振る。

「・・・本当に、ですか?」

ユリカの目が光る。
その目はナデシコ艦長・ユリカとしての目だった。

「・・・うむ」
一瞬の沈黙の後、コウイチロウが頷く。

「分かりました、ではお父様、ユリカはこれで」

いつもの明るい調子に戻り、ユリカは暇を告げる。

「な、待ちなさい、ユリカ!
話はまだ終わっておらん!」

「いいえ、お父様。
もう終わっていますわ。
ね、プロスさん?」

ユリカの呼び掛けに別室で連合軍と折衝を続けていたプロスが部屋に入ってくる。

「はい、艦長。
ミスマル提督、協議の結果、ナデシコはあくまでネルガルが独自に運用する、となりました」

プロスがニヤリと笑う。

「戻りましょう、ナデシコへ」

そう言うとユリカはプロスを伴いさっさと応接室を出て行く。

「ユ〜リ〜カ〜!!」

目から滝のような涙を流すコウイチロウを残して。


ナデシコ艦載ヘリ

「先程、カイトさんから連絡がありました。
ムネタケ副提督のクーデターは鎮圧したそうです」

「ほえ〜、流石はカイト君♪」

ユリカは素直にカイトを賞賛する。

「それから、休眠していたチューリップが活動を再開し、
現在敵機動兵器と交戦中との事です」

『ユリカ!!』

突然ヘリの中にアキトのウインドウが現れる。

「ほえ?
 ・・・アキト?」

アキトが現れた事に驚くユリカ。

『カイトが今、バッタと一人で戦ってる!
 俺が護衛するから早くナデシコに戻るぞ!』

「カイトくんが一人で!?
 アキト、私達はいいからすぐに援護に行って!」

『馬鹿!
 非武装のヘリでバッタに襲われたらどうすんだよ!』

「艦長、ここはテンカワさんの言う通りですぞ。
 一刻も早くナデシコに戻り、カイトさんの援護を!」

「は、はい!
 それじゃ、アキト、護衛よろしくね!」

プロスがヘリを発進させる。
その時、新たなウインドウが開き、コウイチロウが現れる。

『ま、待て、ユリカ!
 ナデシコは今、戦闘中で危険だ!
 戻りなさい、パパが守ってやる!』

「いいえ、お父様!
 ユリカはナデシコに戻ります!
 今、クルーの一人がナデシコを守る為、戦ってくれています。
 ユリカはナデシコの艦長さんですから、ナデシコのクルーを守ります!
 艦長たる者、いかなる時も艦を見捨てるな、そう教えて下さったのはお父様ですわ」

『・・・ユリカ・・・』

「それに・・・アキトが、ユリカの好きな人が迎えに来てくれているんです!」

頬を桜色に染めるユリカ。

『な、何だとぉぉぉぉぉっ!!』

驚愕し、叫び声を上げるコウイチロウ。
プツリ、と映像が消える。

「さ、アキト、プロスさん、ナデシコに戻りましょう!」

「『あはは・・・』」

額に汗を流し、乾いた笑いを浮かべるアキトとプロス。

(・・・実の父親よりも惚れた男・・・ですか・・・
 なんともはや・・・)

ヘリは速度を上げ、ナデシコへ向かい飛んでいく。


ナデシコ

『カイト出ます!』

「了解。
 カタパルト準備良し。
 カイト機、射出」

カイトの合図を受け、ルリがカタパルトを起動する。
ハッチから飛び出し、スラスターでさらに加速を掛けるカイト。
ナデシコを包む込むように進んでくるバッタの群れと衝突する。
戦場を縦横無尽に飛び回るカイト機。
先程のテンカワ機とは比べ物にならない機動。

「・・・相変わらず、凄いですね、カイトさん」

次々と両手のライフルでバッタを撃ち落すカイト機を見て、メグミが感嘆を漏らす。

「ホント・・・まるで踊ってるみたい・・・」

ミナトの呟き。
その機動は正に舞うような動きで飛び回る。

「流石だな、無駄撃ちが全くない。
 回避も最小限に抑えている」

格納庫からブリッジに戻ってきていたゴートもその機動に溜め息を漏らす。
スクリーンには、バッタのミサイルを僅かに機体を動かすだけで避けるカイト機が写る。

「それって、凄いの?
 ミスター?」

ミナトの問いにスクリーンから視線を外さず、ゴートが答える。

「・・・うむ。
 攻撃も回避も全てが最小限の動きで最大の効果を得られるよう機動している。
 ここまでの操縦は、ネルガルのトップエースでも出来んだろう」

カイトの神技のような戦い振りに、戦場では変化が起きる。

「敵機動兵器、カイト機に集中を始めました」

今まで、ナデシコに向かっていたバッタまでもがカイト機へ向かいだす。
それが意味するもの。
いつの間にかブリッジに現れていたフクベが口を開く。

「ヤツ等は、彼を第一の脅威としたか・・・。
 戦艦ではなく、たった一機の機動兵器を」

ナデシコからもミサイルや対空レーザーが放たれ、バッタを撃破するがそれでもカイト機に集中する事を止めない。

「・・・まずいな、幾らカイトとはいえ囲まれると・・・。
 ルリくん、ミサイルとレーザーを増やせないか?
 少しでも、こちらに引き付けねば・・・」

"落とされる"そう言おうとしたゴートはルリの様子を見て言葉を飲み込む。
サセボでの敵襲にも顔色一つ変えなかった彼女が、
額に汗をかき、唇を噛み締めている。
その表情は既に彼女がナデシコの対空装備をフル稼働させている事を物語っていた。
戦闘にはまだ素人同然のルリ。
だが、それでも状況は理解できる。
バッタがカイト機に集中し始めてから、ナデシコへの攻撃は明らかに減少している。
ミサイルやレーザーに撃破されたバッタの周りから散発的に攻撃があるだけだった。
それは、減った分の攻撃がカイト機へ向かう事を意味していた。

(・・・もっとこっちへ・・・ナデシコに引き付けなきゃ・・・)

ルリの焦りとは裏腹に、カイト機への攻撃は激しさを増していく。
360度あらゆる方向から放たれるバッタのミサイル。
ミサイルを撃ち尽くしたバッタは、カイト機諸共自爆しようと突撃して行く。
しかし、ミサイルのシャワーをカイト機は掻い潜り、突撃してくるバッタを撃破する。
奇跡のような回避を連続で行い、飛び続けるカイト。

「・・・信じられん・・・かわすか・・・あれを・・・」

フクベの呟き。
指揮を取っていた第1次火星会戦では名手と呼ばれたパイロット達がバッタに翻弄され、成す術なく落とされていった。
使用する機体に性能差はあるとは言え、俄かには信じ難かった。

「・・・我々は英雄が誕生する瞬間に立ち会っているのかもしれないな・・・」

ゴートがポツリと漏らした呟きに、誰もが頷く。

『・・・僕は・・・英雄なんかじゃない・・・』

突如、聞こえた声にルリはハッとなる。

(今の声・・・カイトさん!?)

周りの皆を見るが、その声を聞いた者はいない様子である。

『・・・僕は・・・守れなかった・・・大切な人を・・・』

(また・・・)

不振に思ったルリはオモイカネに問い掛ける。

『オモイカネ、今のカイトさんの声、聞こえた?』

《はい、ルリさん。
 私にも聞こえました。
 どうやら、IFSを通じて流れ込んだカイトさんの思考のようです》

『カイトさんの思考・・・?』

《カイトさんはオペレーター用ナノマシンの処理も受けています。
 パイロット用IFSでエステバリスに接続していますが、
その思考の余波がオペレーター用IFSを通じて流れて来たのではないでしょうか》

『そんな事が・・・』

理解の及ばぬ出来事にルリは混乱する。
ルリはまさかとは思いつつも、カイトの思考を何とか読み取ろうと意識を集中させる。

(・・・っ!)

一瞬、映像が目に映る。
赤い台地、カイトに抱かれている誰か―
カイトの怒り、悲しみ、やるせなさ―そして絶望
触れてはいけないものに触れてしまった、そんな気がしてルリは身体を震わせる。

(・・・これが・・・カイトさんの守れなかった大切な人・・・?)

その時、カイト機の動きが一瞬鈍る。
その隙を見逃さず、バッタが再び殺到する。

「カイトさんっ!」

ルリの叫び。
スクリーンには、カイト機に次々とミサイルが吸い込まれる様子が映し出される。
爆発と煙に包まれるカイト機。

「うそでしょ・・・」

「カイトくん・・・」

ミナトとメグミの呟き。
しかし、次の瞬間、無傷のカイト機が煙の中から飛び出してくる。
その動きは前にも増して鋭くなっている。

《ルリさんの想い、カイトさんに届いたようですね♪》

『オモイカネ・・・』

カイトの思考はもう流れ込んで来ない。
さっきのは一体何だったのかと考えるルリ。
オモイカネの言う通りなのだろうか、本当にそんな事があるのだろうかと思う。

(・・・でも、本当にそうだったら・・・私だけ特別みたいでちょっと嬉しい、かな・・・)

そう思い、ルリは噛み締めていた唇に、誰も気付かない程の僅かな微笑みを浮かべる。

その時、カイトは―

『・・・我々は英雄が誕生する瞬間に立ち会っているのかもしれないな・・・』

ゴートの呟きが聞こえる。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中にまざまざと火星での光景が蘇る。
赤い大地、腕の中のルリ、腕から零れ落ちる彼女の温もり―
守ると誓った大切な人を守れなかった不甲斐なさ。
そして、怒り、悲しみ、やるせなさ―絶望。

(・・・僕は・・・英雄なんかじゃない・・・
 ・・・僕は・・・守れなかった・・・大切な人を・・・)

甦った想いに一瞬思考が奪われる。

『カイトさんっ!』

(ルリちゃん!?)

頭の中にルリの叫び声が響いたような気がして、意識が現実に引き戻される。

「っ!」

目の前に大量のミサイルが現れる。
だが、冷静に回避行動に移る。

(・・・そうだ・・・今はルリちゃんがそこにいるんだ)

誓いを思い出す。

(そう・・・今度こそ守ってみせる!)

カイトは再びスラスターを全開に、バッタの群れへ突っ込んでいく。

(・・・でも、今のルリちゃんの声・・・心配かけちゃったかな・・・
 フフッ、ちょっと不謹慎だけど、嬉しかったな)

真剣な顔のカイトの唇にも僅かな微笑みが浮かぶ。

ナデシコとチューリップの距離が近くなるにつれ、バッタやジョロもカイト機への集中攻撃を止め、ナデシコにも再び向かってくる。

『ナデシコ、こちらテンカワ!
 ヘリが到着します!』

アキトのウインドウが開く。

「了解。
 フィールド、カウント3で解除します。
 タイミング合わせて飛び込んで下さい。
 カウント行きます・・・3,2,1、解除」

ルリのカウントに合わせて、ヘリがナデシコのハッチに飛び込む。
着床するなり、ユリカがブリッジへと駆け出す。
プロスも急いでその後を追いかける。
ヘリと共に格納庫に入って来たが、そのままカイトの援護に行こうとしたアキトをウリバタケが呼び止める。

「おい、テンカワ!
 何処に行くんだ!」

『何処ってカイトの援護です!』

「馬鹿野郎!
 カイトのヤツも言ってたろうが、今のお前じゃ的になるだけだって」

『そうですけど・・・でも、俺・・・』

口篭もるアキト。
厳しい目をして俯くウインドウの中のアキトを見ていたウリバタケの目が和らぐ。

「・・・そう言うと思ってな。
 準備しておいた。
 コレ、使って援護してやれ」

『これは・・・?
 どうするんすか?』

アキトはウインドウの向こうのウリバタケに訊ねる。

「とにかく、さっさと出ろ。
 出たら、ブレードの上に移動するんだ。
 説明は後でする!」

『は、はい!
 テンカワ機、出ます!』

最初より、大分マシになった機動でアキトがハッチを飛び出していく。
テンカワ機を見送るウリバタケ。

「・・・テンカワもカイトもいい目してやがる・・・
 だから、死ぬんじゃねえぞ・・・」

そう呟き、ブリッジへ通信を開く。

『ルリルリ、ちょっといいか?』

不意にウリバタケのウインドウが開く。

「はい?
 何でしょう?」

『今、テンカワを出した。
 それで頼みがある』

「?」

『オモイカネで手伝ってやってくれ。
 ・・・ヤツに狙撃させる』

「狙撃?」

会話を聞いていたメグミが隣から疑問を発する。

『砲戦フレームの120oキャノンを持たせたんだよ。
 それでカイトの援護をさせる』
ニヤリと笑うウリバタケ。

「弾着修正とカウント・・・ですね」

『そういう事だ。
 話が早くて助かるぜ、ルリルリ!』

「分かりました。
 ・・・メグミさん、計算はオモイカネがしますので・・・
 テンカワさんへの指示、お願いしていいですか」

「いいよ♪
 ルリちゃんはカイト君が気になるもんね」

「・・・(///)
 何を言うんですか・・・」

「あ、真っ赤になっちゃって♪
 可愛いんだ〜♪」

戦闘中のブリッジがほのぼのした空気に包まれる。

『こちら、テンカワ!
 ブレードに着いた・・・俺、どうすりゃいいんだ?』

アキトの声が響く。

「テンカワさん、そこから狙撃でカイトさんの援護をお願いします!
 計算と照準はオモイカネがするんで、指示に従って撃って下さい!」

『分かった!
 メグミちゃん、よろしく!』

「はい!
 ・・・いきます。
 右30度方向、プラス15度・・・3,2,1、今!」

120oキャノンが火を吹き、背後からカイト機に迫ろうとしていたバッタが爆発する。

『やった!』

「テンカワさん、どんどんいきましょう!」

『ブリッジ!
 今のは?』

カイトのウインドウが開く。
Gで多少、表情を歪めるもののその顔に焦りは見えない。
ルリが答えるより早くアキトが答える。

『俺だよ、カイト』

『アキトさん?』

『俺にはお前みたいな動きは出来ないけど・・・俺は俺の出来る事をやる。
 と言っても、用意してくれたのはウリバタケさんだし、
 照準とかはオモイカネがやってくれてるんだけどな』

そう言ってアキトが笑う。

『ありがとうございます・・・なら後ろは任せます。
 ・・・ルリちゃん、大丈夫?』

「はい、平気です。
 オモイカネが手伝ってくれてますから
 それより、カイトさんこそ大丈夫ですか?」

『ああ、大丈夫・・・
 皆を守る為なら、まだまだ戦える!』

『カイト!
 もうすぐユリカが帰ってくる!
 それまで頑張るぞ!』

『はい!
 ・・・オモイカネもありがとな』

《はい、カイトさん!》

ルリの前にオモイカネがウインドウを表示する。

(カイトさん・・・オモイカネ・・・)

コンピューターのオモイカネに礼を言うカイトを見て、ルリは思う。

(カイトさんも、オモイカネをお友達と思ってくれてるのかな?)

「おっ待たせ〜!ブイ!!」

「・・・ブイ・・・」

元気一杯にブリッジに入ってくるユリカ。
その隣で疲れ果てて息を付くプロス。

「「「艦長!」」」

「艦長、指揮を取りたまえ。
 彼等の作った好機、逃す手はない」

「はい、提督!
 ルリちゃん、グラビティブラスト、チャージ!」

「やってます、カイトさんの指示で」

「え、そーなの?
 対空戦闘・・・はやってるよね」

「はい」

「ふみゅう・・・
 ミナトさん、進路をトビウメとチューリップの間に・・・」

「向かってるわよん♪」

「あうう・・・
 やる事がないよう・・・」

艦長席にへたり込むユリカ。

「ふむ、カイトさんは戦闘指揮も出来ますか・・・
 これはいい買い物をしましたな」

「ええ、ミスター。  クーデター鎮圧の手際の良さ、
 戦闘指揮、機動兵器の操縦・・・どれも一流です」

プロスとゴートの呟き。

「でも、さっきのカイトさん、カッコ良かったですね。
 いかにも"艦長"って感じで♪」

「そうね・・・艦長、お仕事取られちゃうわよ」

「ふみゅう・・・」

目が潤むユリカ。

『ユリカさん!
 チューリップ、お願いします!』

カイトの通信が入る。

『駄目だ、カイト!
 俺のライフルじゃダメージがない!』

続いてアキトがカイトに向けて。
ほとんどのバッタを制圧し、チューリップに攻撃を仕掛けていたカイトとアキトだったが、その装甲を貫けずにいた。
カイトの言葉にユリカがハッとなる。

「アキト、カイト君!
 ナデシコから離れて!」

『・・・?
 ユリカ?』

『ユリカさん、何を・・・?』

「ミナトさん、最大戦速!
 進路、チューリップ!!」

「ちょ、ちょっと艦長?」

「艦長、特攻するおつもりですか?」

「いいえ!
 ルリちゃん、クロッカスとパンジーは飲み込まれたんだよね?」

「・・・はい。
 そうですけど?」

ユリカの突然の問いにルリも戸惑い気味に答える。

「なら、チューリップ自体に艦隊戦は出来ないってことですよね。
 それに、結構装甲堅そうだし・・・
 ですから・・・チューリップに対し零距離でグラビティブラスト発射、殲滅します♪」

「「「「え?」」」」

ユリカの言葉にブリッジが凍り付く

「でも・・・大丈夫なの?」

「中は柔らかいでしょうし、効果あると思います。
 遠くから撃っても口を閉じられたら、どうしようもないですから」

唖然とするブリッジ。
しかし、ユリカは自分の考えにこれっぽっちも疑いを持っていない。

「・・・分かったわ!
 行くわよ!」

ミナトの声と共にナデシコが加速を始める。
慌てて上空に飛び上がるテンカワ機。
その傍にバッタを落とし終えたカイト機もやってくる。
眼下ではチューリップへ侵入していくナデシコ。

『な、ユ、ユリカ!?
 何やってんだー!!』

アキトがエステの中で慌てる。

(話には聞いてたけど・・・やっぱりこうなるのか)

ナデシコとチューリップの先端が一瞬重なる。
次の瞬間、グラビティブラストの黒い火線がチューリップを貫く。
爆発し、ゆっくりと海へ落下していくチューリップ。

(セオリーをあっさり捨てて、奇策でも最善の策を取れる・・・
 これがユリカさんの凄い所だな)

爆発するチューリップを見下ろしながらカイトは思っていた。

「アキトー!
 カイトくーん!
 戻ってきてもいいよー!」

ユリカが上空に浮かぶ2機に呼びかける。

『『りょ、了解・・・』』

アキトとカイトがナデシコのハッチへ吸い込まれる。

『おう!
 英雄のご帰還だ!
 野郎共!行くぜ!!』

『『『『『おおー!』』』』』

ウリバタケの号令の下、整備班がエステから降りたアキトとカイトを取り囲む。
その様子をウインドウで見ていたルリは思う。

(・・・バカばっか・・・でも、私も"バカ"ですよね、カイトさん・・
・)
整備班にもみくちゃにされるカイト。
その笑顔をもう一度見る事が出来た事に、ルリは安堵する。
暫くして二人がブリッジに上がってくる。

「テンカワ・アキト、戻りました!」

「カイト、戻りました!」

二人が同時に敬礼してみせる。

「アキト!
 カイト君!
 お帰りなさい!
 アキト、アキト、アキト〜!」

ユリカがアキトに抱き付く。

「どわっ!
 ユ、ユリカ!
 抱き付くな!離れろ!!」

「えー、アキト〜
 いいじゃない〜!」

繰り広げられる痴話喧嘩をカイトは優しく見詰める。
そして、自分の隣にある気配に気付く。

「・・・ん?」

「・・・お帰りなさい、カイトさん」

「うん・・・ただいま、ルリちゃん」

そう言ってルリの頭を撫でるカイト。
ルリは気持ちよさそうに目を閉じる。
アキトとユリカの追っ掛け合いが一段落した所で、プロスがユリカに声を掛ける。

「それでは艦長、改めて・・・」

その声を合図に全員が自分のシートへ戻っていく。
それを確認したユリカが号令を掛ける。

「機動戦艦ナデシコ、改めて火星へしゅっぱ〜つ!」


上昇を始めたナデシコを見送るトビウメ。

「行かせてよろしかったのでしょうか?」

「仕方あるまい、トビウメでは追いつけん。
 それに提督がアレではな・・・」

仕官の視線がコウイチロウに集中する。

「ユ〜リ〜カ〜!!!」

「・・・そうですな・・・」

そしてもう一人。

「ユ〜リ〜カ〜!!」

置き去りにされたジュンがそこにいた。


「あれ、そういえばアオイさん何処いったんですか?」

異変に最初に気付いたのはメグミだった。

「そう言えばさっきから見てないわね?
 艦長、知らない?」
ミナトがユリカに話を振る。
確かユリカとプロスと共にトビウメへ行ったはず。

「ほえ、ジュンくん?
 私も見てないな〜、ルリちゃん、知らない?」

「ナデシコにはいません」

「「「「え?」」」」

「アオイさん、トビウメに残ったままです。
 ・・・艦長、もしかして気付いてなかったんですか?」

ルリの静かな突っ込みにユリカの顔が引きつる。

「あははー♪」

((((((・・・鬼だ・・・))))))

クルーは全員心の中で呟いた。

(・・・あはは・・・
 ジュンさんって始めからこんなんだったんですね・・・
 ユキナさんが現れるまでは・・・現れても大して変わらない・・・かな?)

何はともあれ、火星を目指すナデシコであった。


(でも、歴史は確実に変わり始めてる・・・
 まだ大きな変化はないようだけど・・・)

カイトの思いをよそにナデシコは火星への第一歩を踏み出した。

続く・・・


 後書き

 ども、村沖和夜です。
 『RWK』第2話「私達は火星へ行きます!」をお送りしました。
 皆様から、続きを期待している、とのお言葉を頂き、感涙にむせております(泣)
 拙い描写ではありますが、カイト君の強さや想いが伝わったのなら本望です。
 個人的にルリちゃんが余りに早くカイト君に牙城を崩されてしまったのがなんとも。
 手が勝手に書いていくんですよねえ・・・ま、いっか(笑)
 それと、今回から会話文の前後に改行を入れてみました。
 前作より読みやすくなったのではないかなー、と自負しております。
 皆様もそう感じて下さったら嬉しいです。
 ここまで拙作を読んでくださった皆様に感謝しつつ・・・
 また、コメント等頂けると嬉しいです。
 それでは、第3話でまたお会いしましょう!
 最後に次回のタイトルだけどーぞ・・・

   第3話:突破せよ!防衛ライン

    「だから僕はどんな無様な姿を晒そうとも、生きます。生きて大切なものを守ります」
 






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