機動戦艦ナデシコ
〜Return of the White Knight〜





第0話 最果てでの邂逅


「・・・やれやれ、大分派手に暴れたものだね」

突然、頭の中に声が響く。
目を開こうとするが開かない。
開かない、というよりも瞼がない?
そこで気付いた。
身体に全く感覚がない事に。
それどころか、身体自体ない・・・?
どうしたものかと考えているとまた声が響く。

「・・・落ち着いているね?
普通、目覚めていきなり思考だけの存在になっていたら
もっと驚くと思っていたんだが」

(・・・思考だけの・・・?
要するにここは死後の世界か?
で、あんた誰だ?
俺は何でこんな所にいる?)

「おいおい、私の疑問は解決してくれないのかい?
・・・まあ、いいか、それに一度にたくさん質問されても答えられないよ。
順番にいこうか。
まず、ここが死後の世界か、という質問。
半分正解で半分外れだ。
ここは『時の最果て』とでも言うべき場所。
無限の未来が終わり、再び過去が始まる場所。
永遠と刹那が同居する時間。
誰もが訪れるが、誰も気付く事はなく通り過ぎてしまう世界。
ごく稀に立ち止まる者もいるがね、君のように」

僅かに弾んだような声。
久方ぶりの来客を迎え、喜んでいるようにも感じられる。

(・・・何故俺は止まったんだ?
誰もが通るという事はルリも・・・?)

「彼女はここにはこないよ。
死後の世界、と言うのは半分正解とは言ったが、
既に時の止まった者はここには来ない」

(そうですか・・・彼女がいないのならいい・・・同じ所へ・・・彼女の所へ送ってくれ)

ここにルリがいないのなら、半分死んだ世界に彼女がいないのなら
完全に死んだ場所へと逝けばいい。

「・・・そう急ぐな。
私の話を聞いてからでも遅くはあるまい。
ここは永遠と刹那が同居する時間なのだから」

(・・・時の流れから外れた場所か・・・なるほどね)

「納得してくれたみたいだね。
なら質問の続きに答えよう。
二つ目の問い、『私は誰か?』私はこの場所の管理者。
遥かな過去から遥かな未来へ、この場に在り続け、
時の流れを見つめ続けるモノ。
君達が遺跡や演算装置と呼んでいるモノだよ」

(遺跡に人格があったのか・・・?)

「人格、というほど立派なモノじゃないよ。
私は古代火星人が作った人工思念にすぎない。
ここから君達を見ている事しかできないしね。
・・・ただ一つの例外を除いては」

(例外・・・?)

「そう、例外だ。
そしてこれが三つ目の問いの答えでもある」

(・・・俺が何故ここにいるのか・・・か)

「そう、私はここへ迷い込んできた者を本来の時間に戻す事ができる」

遺跡は静かにそう言った。

(・・・俺は戻さなくていい。
守るべき者を守れず、永遠に失ってしまった。
あの世界に戻る必要もなければ・・・戻りたくもない)

「そう・・・だから君に聞きたいんだ。
それは、全てを失う事と引き換えにしても守りたい者だったかい?」

(当然・・・だが今は・・・)

迷う事などなかった。
思い描くは最愛の少女の姿。
青く輝く銀の髪、大きくて綺麗な金色の瞳、はにかむような笑顔。
不器用だが誰より優しい心を持った少女。
そして・・・自分の腕の中で微笑んで逝ってしまった。
涙が零れぬと分かっていても心が震える。

「・・・なら君を戻そう。
全ての始まり、ナデシコ出航の日へ」

(ナデシコ出航・・・?
何故だ?
俺が現れたのは極冠遺跡からジャンプした時のはず・・・)

「そうなんだが・・・君は"復讐"がしたいのか?
君はもう一度、激情に駆られ、彼女を失いたいのか?」

(・・・)

胸に押し寄せてくる負の感情。
それに身を任せるのは、甘美であり、苦痛だった。

「それに、君の身体はとっくに死んでしまっている。
傷ついた身体で無理に跳躍を繰り返したからな、
跳躍中に限界を迎えてしまったんだ。
そして、どういう訳か精神だけが跳躍し、ここにやって来たんだ」

(元の時間に戻っても死ぬだけか・・・)

「そういう事だ。
・・・どうせ全てを失ったんだ。
最初からやりなおしてみればいい。
失敗したって、失うものは何もない・・・そうだろう?」

(だけど、その時僕はいなかったけど)

「木星のプラントにはいるだろう?
肉体を地球にジャンプさせて、君の精神を融合させる。
今の君に合うように調整してね。
本来の歴史で君が現れた時でもいいんだが、
それでは再び記憶喪失になる可能性がある。
それじゃ困るだろう」

(戻れるのは有難いけど・・・何故、僕なんだ・・・?
僕よりも戻るべき人が・・・)

脳裏に優しい笑顔を浮かべた義兄の姿が浮かんだ。

「そうかもしれないが・・・私は君を選んだ。
それだけだ」

そう言うと遺跡は黙ってしまった。
僕が何か言おうとしたその時、遺跡の声が響く。

「・・・さて、準備ができた。
始めは色々と不都合もあるかもしれないが君なら大丈夫だろう」

僕の意識に次第に霞みがかかっていく。
薄れ行く意識の中、遺跡の声が聞こえる。

「・・・歴史にとって君はイレギュラーな存在だ。
大まかには君の知っている歴史の通りに事は進んでいくだろう。
だが、君の存在、行動が歴史にどういった影響を及ぼすかは分からない。
君がナデシコ出航の時に存在していると言う事で
既に歴史が変わってしまっているからね。
それだけは憶えておいてくれ」

(・・・ありがとう)

その一言だけを残して僕の意識は光に包まれた・・・。






「・・・何故、僕なのか・・・か。
親が子供の心配をするのは当然だろう。
ましてや、我が子と、その想い人の事ともなれば。
・・・遺跡より生まれし子、ヒトに造られしヒトよ。
再び復讐に身を焦がすか・・・それとも歴史を覆すのか・・・
だが、負けるでないぞ。
その痛みはいつか必ず優しさへと変わる・・・。
我が子よ、願わくは優しき未来を掴み取らん事を・・・」

遺跡の静かな呟きのみがそこに残されていた・・・


 続く・・・


 後書き

改訂しました。
遺跡のセリフを一部差し替え。
会話の前後に改行を加える。





[戻る][SS小ネタBBS]

※村沖 和夜さんに感想を書こう!
メールはこちら[kazuya-muraoki.0106@hotmail.co.jp]! SS小ネタ掲示板はこちら


<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
気に入った! まぁまぁ面白い ふつう いまいち もっと精進してください

■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと