火星、ネルガル研究所




キィン


「ん?」


いつものように、二人でお昼を食べている―――当然ながらメニューはジャンクフードである―――ルリとカイト。

ふと、カイトが何かに気がついたように顔を上げたのは、手の中のアメリカンドッグが半分ほど胃袋の中へ消えうせた頃だった。


「どうかしたんですか?」


ルリが尋ねる・・・が
カイトはしばらくの間、火星の空を凝視していた。


「・・・気のせいかな?」


カイトがそう呟いた時、




それは起こった。





キイイイイイイイイイィィィィン―――




「くあっ!!?」




それはカイトが良く知る耳鳴り・・・


チューリップに触れたときに聞こえるもの・・・




それはカイトが良く知る痛み・・・


耳鳴りとともにカイトの脳を締め付ける痛み。






そしてそれは・・・




















それは、火星の向こう側からやってきた。





「何だ、あれは?」


巡洋艦『うみづき』は、火星宙域を巡航中に、木星方面より接近してくる巨大な物体を補足した。


『隕石・・・でしょうか・・・』

「妙だな、隕石ならばとっくの昔に観測できているはずだが・・・」


うみづきよりも一回り大きいそれは、
黒く、岩のような質感を持ったそれは、

確かに隕石のように見えた。

しかし、それは・・・





『!、前方の物体より熱源反応を感知!!』

「何だと!?」





その、ピーナッツのような形をしたそれは・・・





『信じられません、謎の物体、軌道を変更しました』





ネルガルの研究所に存在し、





『物体!本艦に向かってきます』

「まさか・・・人工物なのか、あれは!!?」

『回避・・・間に合いません!!』

『う、うわあああああああああああああああああああああ!!!!』




チューリップと呼称されていた、あの物体にそっくりだった。














キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ―――――







「がっ・・・
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」




「! か、カイトさん!?」




突然の悲鳴に驚き、振り向いたルリが見たものは、
床に倒れ、転がり、もがくカイトの姿だった。











機械仕掛けのナイト

プロローグ

その6:騎士と妖精の運命の日















「カイトさん!」


突然頭を押さえて苦しみだしたカイト。
驚いて駆け寄るルリ、
しかしカイトはその手を振り払う。


「―――――」

「・・・え?」

「チューリップ」



カイトはそう呟くと、ものすごい勢いで部屋を飛び出していった。
ルリもその後を追いかけようとするが、すぐに見失ってしまう。

カイトは一心不乱に廊下を走り抜けた。
『立ち入り禁止』の扉をくぐりぬけ・・・。
そして弾き飛ばすようにひときわ大きな扉を開け放つ。


その向こうに・・・・・・
その大きな部屋に・・・・・・・・・

チューリップがあった。


ピーナッツのような形をした巨大なオブジェ、それが今、


動いていた。

カイトが触れてもいないのに、独りでに先端部が花のように開いている。


部屋にいた何人もの研究者たちは、みな一様にほうけた顔でチューリップを見ている。

カイトはチューリップに駆け寄り、手近な研究者を捕まえた。


「何が起こったんだよ?」

「知らん、いきなり動き出したんだ

・・・あの時と同じようにな!!」


「あの時・・・ってことは・・・」


カイトはハッとしたように大口を開けたチューリップの中身を凝視する。
そして、チューリップの内部から何かが這い出してくるのを見つけた。



虫・・・・・・それは虫のようなものだった。

全長2メートルくらいの大きな虫、

バッタのような黄色の虫・・・

金属でできた・・・・・・虫の姿をした機械。

機動兵器の類だろうか?



それが、カサカサ、カサカサと何匹も何匹も這い出してきた。
チューリップの中から次から次へと・・・


「やっぱり、なんか出てきたよ」


カイトはぼやいた。

が、その顔はすぐに引き締まる。
『バッタ』がカイトに向かって突進してきたからだ。


カイトはあわてず、半歩分体を横にずらし、『バッタ』の顔面に手をそえて・・・


「・・・・・・っふ!」


そのまま、ひっくり返すように投げ飛ばし、『バッタ』の背中を床面に叩きつけた。
『バッタ』の突進する力を、そのまま投げる力に変えたのだ。
つまり『バッタ』は、床に向かって突進して衝突したことになる。


しかし・・・


「やっぱ無理か」


投げられた『バッタ』は、何事もなかったかのように起き上がった。
金属の装甲にはほとんどダメージがない。
せいぜい『バッタ』の四つの目を覆うガラスカバーが割れたくらいである。

また、その間にもチューリップからは、同じ『バッタ』がわらわら出てくる。


そして、『バッタ』達の背中がスライドするように開き、そこから無数のミサイルが発射された!


「やばっ」


カイトは即座に回避行動をとるが、ミサイルの群れは部屋中を襲い・・・・・・















ドオオオオオオオオオオオオオオン・・・







火星宙域


火星宙域に現れた謎の物体、その物体の表面から『生えた』触手が、地球連合軍の戦艦を一機、叩き壊した。

そのまま一路、地球に向けて進む謎の物体・・・
しかし、その進路を塞ぐものがある。


地球連合宇宙軍の艦隊である。



「なるほど・・・確かに隕石ではないな」


旗艦の艦長席に座った老年の男が呟いた。
地球連合宇宙軍所属、フクベ・ジン提督そのひとである。




謎の物体は、その先端部を花のように開き、内部から次々と虫の形をした機動兵器を吐き出してくる。

その機動兵器の形は、地球圏に存在するどの兵器にも該当しないものだった。


『敵母艦、無数の機動兵器を射出しました』

「てえーーーーっ!!」


オペレーターの報告を、砲撃の号令で以って返す提督。
艦隊から、いく筋ものレーザーが物体に向けて雨のように発射された。

すると、虫型の機動兵器軍も無数のビームを放ち、反撃してきた。


両者の光線兵器が、ちょうど中間の空間ですれ違う。

しかし・・・

交差の瞬間、連合艦隊のレーザーは、ぐにゃりととけた飴のごとく、その軌道を変えて、目標からそれてしまった。

一方、虫型戦闘機らの発射したビーム群は、まっすぐ直進し、艦隊の群れに突き刺さった。

その一回の攻撃で、
その一回の攻撃だけで、宇宙軍の艦隊はぼろぼろになってしまった。

一方の敵艦は全くの無傷。
はっきりいって戦力に差がありすぎる。


「くそっ、重力波か!一体何者だ!?」


うめくフクベ提督。
彼は、眼下の火星のとある研究所で、目の前の物体と同じものが存在し、「チューリップ」と呼称されていることを果たして知っているだろうか・・・




虫型機動兵器が艦隊に迫る。

艦隊のクルーたちは絶望した。
ただ一人、フクベ・ジン提督を除いては、


「総員、ブリッジに集合せよ」


提督は、ある決断をし、指令を下す。


「この艦を敵母艦にぶつけ、叩き落す!!」

           ・

           ・

           ・

           ・

           ・

           ・

『軌道修正完了・・・自動操縦に切り替わります!』

『全クルー、ブリッジスペースに集合しました!』

「切り離せ!!」


数分後・・・フクベ・ジンの乗った艦は、ブリッジスペースだけを切り離し、チューリップへと体当たりしていった。




これが功を奏したのか、チューリップはゆっくりと傾き、火星の地表へ向かって落下していった。


「「「「おお〜〜〜〜!!」」」」


クルーたちから歓声が上がった。

その歓声を聞いた提督は、とりあえず脅威を退けたことを確信し、ほっと息をついたのである。






第一次火星会戦

後にこう呼ばれることになる、この戦いにおいて、
フクベ・ジンは、謎の物体による侵略を火星で食い止めた男として英雄とよばれるようになる。

しかし、彼は、後に知ることになる。

自分が落とした敵母艦が、火星のユートピアコロニーを直撃していたことを・・・
自分の英雄的行動と引き換えに、多数の死者を出していたことを・・・






チューリップは、まっすぐユートピアコロニーに向けて落下していき・・・・・・







その爆発と衝撃は、コロニーと、そこを中心とした数10キロもの範囲を容赦なく薙ぎ払った。


















ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ




燃えている。

研究所が燃えている。

白かった壁は今や炎の赤 赤 あか 




「う・・・・・・・・・」


そんな中、ゆっくりと身を起こす影がひとつ。
こんな赤い空間の中でも、その鮮やかな紫色の髪はとても目立った。


カイトである。


彼は2、3度頭を振った。
どうやら少しの間気を失っていたようである。

『バッタ』の姿は既にない。チューリップの中に戻った可能性もあるが、研究所のほかの場所に散らばっていった可能性も大きい。


「よっ・・・と」


勢いをつけて立ち上がり、部屋を出て行こうとした時、
カイトの足を掴んだ者がいる。


「たすけて・・・くれ・・・」


白衣を着た研究者である。
それがひどい怪我を負い、床に倒れていた。


「うう・・・あ・・・」

「いた・・・い・・・い・・・た」


よく見ると、他にも何人もの研究者達が倒れていた。。
彼らもひどく重症を負っていて、みな弱弱しいうめき声をあげていた。
中には手足が千切れているものもいる。

みな、さっきのミサイル攻撃でやられたのだろう。


「ごめん、定員オーバーだよ」


しかしカイトはそういい残し、
あっさりと見捨てて、しっかりした足取りで部屋を後にした。






「ルリちゃん無事かなあ・・・」


部屋を出たカイトは走り出す。
自身の走った後の床に、赤い液体を落としながら。






つづく







〜あとがき〜

2195年10月1日
TV版のオープニング、アキトのアレと時間的にはほぼ一緒です。
そしてMyカイト君ちょっとどころじゃなく冷酷・・・(汗)
次回は山場。

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