男が倒れている。
 肩から血を流している。
 男がどこにいるのか、また何故このような状況にいるのか。
 前者はともかく後者の方は男の傍らに立っているもう一人の男が手に硝煙の引いた銃を持っているのを見れば、一目瞭然というものである。

 倒れている男は自分を見下ろしている男をにらみつける。

「タケル・・・・一体なんのつもりだ!?」

 タケルと呼ばれた男は、銃をおろし、にまりと笑った。

「なんのつもりか・・・だと?決まっている。お前を殺すつもりなのだよ、ハヤト」
「なん・・・ぐっ!」

 何かを叫ぼうとしたハヤトは肩を抑え、痛みでうめいた。それを見たタケルは楽しそうに口元さらに歪めた。

「くっく・・・はっきりいってお前、邪魔なんだよ。いや、『お前達』というべきかな」
「・・・・・・・」
「カザマの名を持つ兄弟は俺とイツキだけでいい。他は邪魔だ」
「くっ!ミカヅチが戻れば・・・おまえなど・・・・」
「・・・なんだと?」

 ミカヅチ―――――その名を聞いた途端タケルの顔が怒りにゆがむ。

「くっ、ミカヅチだと!?お前もあいつが俺より優れてると言うのか?あの甘ちゃんが?」

 タケルはいきなり激高し、ハヤトの腹を蹴り飛ばした。

「お前も、九十九も、そしてイツキでさえも!ミカヅチ、ミカヅチ、ミカヅチ!!何故奴ばかりが認められる!俺と奴との間にどれだけの違いがある!!」

 蹴る、蹴る、蹴る、さらに蹴とばす。

「何故だ!何故イツキは奴ばかり構う!何故俺じゃない!何故だ。何故だ!」
「(ぐ・・・・狂ってやがる・・・)」
「はあ・・・はあ・・・ぜえ・・・ぜえ・・・」

 やがて、タケルは落ち着いたのか、単に疲れたのか、蹴とばすのを止めた。ぜえぜえと口で呼吸している

「ふう〜〜、まあいい。どの道ミカヅチが戻ってくることはないんだ。今頃奴はこの世からおさらばしている頃だろうさ」
「何? どういう事だ!?」
 しかしタケルは答えない。変わりに銃口がハヤトに向けられる。

「おしゃべりタイムはここまでだ・・・死ね」


パン!


 あたりに銃声が響く。
 床に広がる血、動かなくなったハヤトの体。そして・・・・


「くくく、これで・・・これで、カザマの男は俺一人!これでイツキは俺のものだ!ミカヅチめ・・・『僕は僕らしく』・・・か、確かにそのとおりだよなあ。ふふふふふふふふ、俺は俺らしく、俺のために生きてやるぜ。ははははっ、はははははは!!!」






機械仕掛けのナイト

プロローグ

その1:騎士と妖精の出会い







 ここは火星の研究所、表向きは遺伝子の研究所である。
『あくまで』表向きは・・・・である。
 では、実際には何をしてるというのだろう?

 その答えが、この部屋にあった。


 辺りは無数のコンピュータで埋め尽くされていた。そのコンピュータの群れからは、幾つもの配線が伸び、一つのノートパソコンに繋がっていた。

 部屋の中央、その椅子に座った一人の少女の持つノートパソコンに・・・・・・

 一体こんな研究所になぜ女の子が?・・・普通はそう思うだろう。だが、彼女自身を見たときその疑問は消える。何故ならこのわずか10歳程度の少女の持つ雰囲気は、一般の少女のそれとは明らかに異なっていたからだ。
 銀色の髪をツインテールにまとめ、金色の瞳を持った、その少女。

 彼女は美しかった。

 そして、まるで何年も生きた賢者の如く落ち着いた雰囲気があった。


「始めろ」
 部屋にいた一人の研究員が声をかける。少女はゆっくりと白い指をノートパソコンのコンソールの上に置いた。
 すると、彼女の両手の甲に刺青のような模様が浮かび上がる。そして、少女の体内のナノマシンがパソコンとリンクする。これにより彼女はパソコンを比ゆではなく自分の手足として扱う事ができる。IFSと呼ばれる、火星では一般的に使われている技術だ。

 そして彼女の金色の瞳に無数のナノマシンの光が走り・・・・・・
 次の瞬間、彼女の持つパソコンに繋がる無数のコンピュータの群れ、その全てが一気にクラッシュした。

 少女が自分のパソコンからハッキングしたのだ。この小さなノートパソコンで、無数のコンピュータを、一瞬にして、その全てをクラッシュさせたのだ。
 それは普通は考えられないこと。いくらIFSをつけているとはいえ、こんな芸当を可能にする人間はいない。10歳の少女であれば尚更だ。
 それと、さっきの瞳の輝き。ナノマシンを注入されているとはいえ、普通はそんな現象は起こらない
 これらから導き出される答えは一つ。

 即ち、遺伝子改造。

 違法の、非人道的な、あってはならない事、こんな幼い少女に、その禁断の技術が使われていた。

「実験は成功だ。ホシノ・ルリ、戻っていいぞ」
 研究員が冷たい声で少女に呼びかける。その声にはねぎらいの様子などちっとも感じられない。それもそのはず研究員は少女を人ではなく、ただの研究対象としてしか見ていないのだから。
「はい」
 しかし、少女もまったく気にした様子もなく返事をし。立ち上がって部屋を出て行った。既になれている事だ。
 周りの者が少女を『人』ではなく『物』として扱うなら、少女自身も『物』としての自分を演じようとする。
 自分の感情を押さえ込み、その上から『物』という名の仮面をつけて・・・・・・
 少女はこの研究所で、ずっとそうやって生きてきたし、これからもそうだと思っていた。
 退屈な、毎日を、仮面をつけて・・・・・・

 ホシノ・ルリはそうやって生きてきた。


 しかしその日はいつもとは少し・・・いやかなり違っていた。
 どう違っていたかというと、

 なんとゆーか、派手だった。


ちゅごど〜〜〜〜〜〜〜〜ん


 廊下を歩いていると、いきなり廊下が爆発した。

 正確にはどっかで起こった爆発が、廊下の壁をぶっ壊したのだろう。立ち込める煙が晴れると、壁にでっかい穴が開いていた。
 そしてそこに、一人の男が倒れていた。

 ルリは、倒れている男の側を素通りしようとした。

 すると――――

「あのさあ、そう言う時はせめて『大丈夫ですか?』・・・とか言って欲しいんだけど」
 倒れている男が声をかけてきた。ルリが振り向くと恨めしそうな視線を向けてくる――無論、倒れたままで。

 男はまだ少年と言っていいほど若かった。16,7くらいか、紫色の髪をした、いかにも能天気そうな顔をしていた。そのせいか恨みがましい目つきもどこかコミカルに見える。
 仕方なくルリは声をかけた。

「――――大丈夫ですか」

 感情も何もこもってない、極めて事務的な問いかけ・・・
その途端少年はその場を飛び起き、訝しげな顔をした。
「あのね・・・もうちょっとこう・・・感情こめらんない?なんかすごい違和感あるんだけど」
「感情?」
「そう、そんな感情抜けた声で『大丈夫ですか』って言われても、それじゃあお兄さん萌えないぞ?」
 いきなり妙な事を言い出した。
「・・・・・・?」
 ルリの頭に疑問符が浮かぶ。
「なに?萌えを知らない?なんてこった!それじゃあ僕が君に萌えというものを教えてあげよう。いいかな?萌えというのは男のロマンだ!!」
 なんなのだろうこの人は?
 ルリは明らかに戸惑っていた。初対面の少年が素通りしただけで文句をつけ、あまつさえ『萌え』の何たるかを偉そうに語り始めたのである。
こんな人物見た事ない。というかとても元気そうである。
「・・・やっぱりあれだね、膝枕!そう膝枕だよ君!!こう目を覚ました時にかわいい女の子が自分の膝に僕の頭を乗っけてくれてて・・・」
 ほっとくと延々とわけのわからない話を続けられそうだったので、ルリは声をかけた。
「あの・・・」
「それで顔を近づけられて優しく『大丈夫ですか?』とか言われた日には・・・・って何?」
「結局、何が言いたいんですか?」

 少年は胸を張って答えた。


「膝枕してくれ(きっぱり)」


「嫌です(0、5秒)」


「そんな〜〜」
 少年が情けない声をあげる。いい年した男が膝枕を断られたくらいで泣かないで欲しいものだ。
――というか初対面の少女に膝枕を要求するこの少年は一体どういう神経をしてるんだろうか?

「ほかに用はありますか?」
「・・・いや、特にないけど・・・」
「私もありません。さようなら」
 取り付く島もないようなそっけない態度。少年は驚いたような顔をしていたが、ルリはいつもこんな感じだ。
 彼女は必要以上に他人と関わろうとしない。
 何故なら自分は『物』だから、この研究所で生きる実験対象なのだから・・・・・・

 ルリは少年に背を向け、すたすたと歩いていく。
 後は部屋に戻って寝るだけだ。そしてまた、いつも通りの生活が始まるのだ。

 しかしルリは知らなかった。
 世の中には、自分のそのそっけない態度に、逆に好奇心をくすぐられる変わり者が存在するということを、


 翌日・・・・自販機で昼ご飯を買ったルリは近くのベンチに腰を下ろした。
 そこには先客がいた。
「やあ奇遇だね、一緒にお昼食べない?」

 それは昨日の少年だった。



<つづく>






 〜後書き〜

 今日は、ましゅまろです。初のナデシコSSです。
 カイト君好きです。ルリちゃん好きです。
 こんな私を以後よろしくお願いします。





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