機動戦艦ナデシコ




風と共に舞う妖精

















わたしの横で気持ち良さそうに寝てる誰かさん。
この子が来てからずーっと感じてたもの。
感じた事のない親近感。
どこか懐かしいような、そんな不思議な感覚。
わたしには親とか弟がいないからよく分からないし、
きっと違うんだろうけど、でもきっとそれに近いような気がする。
でも、そんなのを感じちゃったりするもんだから、
昨日のわたし、ていうか最近のわたしってば、
ものすご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜く、
バカ。
・・・・・・はぁ。
ほんと、なんであんなことしちゃったのかなぁ?
すっごい恥ずかしいし。・・・・・まぁ、
”ちょっと可愛い泣き虫で甘えんぼな妹みたいな弟”の為に
”しっかり者のお姉さん”が色々としてあげただけなんだけどね。
それに、フェイさんてばいきなりあんな事するもんだもん。不覚取っちゃうのも仕方ないよね。
・・・・・うん。
はぁ・・・・。ほんとにもう、なにバカ言ってんのかなぁ、わたし。
フェイさんが来てから、ホントなんかもうわけわかんない。
なんかあの笑顔見てたら、まーいっか、とか思っちゃってる。
なんでまーいっかって思うのかも分かんないんだけど、
まーいっか、ってまた思ってるなんてのは
やっぱりわたしも”ばか”なのかなぁ?
















「ときめき」少年少女











誰かが倒れている。

そばに駆け寄る。体を揺らす。動かない。血が止まることなく流れている。声をかけてみる。返事をしない。

幻聴が聞こえる。鼓動が頭に響き渡る。だんだん弱々しくなって消えていく。

その人間の顔は、穏やかだった。やさしく微笑んでいた。

命が消えてゆく。抱くその手から抜け落ちて――――――――――




「――――ぁぁっっ!!!」

真っ暗な部屋の中、がばっと起き上がる少年。

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・・・・。」

少年の心臓がドクンドクンと強く鼓動を打っている。息も切れている。

「・・・・・・だいじょうぶですか?」

少年の横には、少年の顔を覗き込んでいる少女がいた。心配そうに見つめている。

「悪い夢でも・・・・見たんですか・・・?」

「・・・・・夢?」

今の少年には夢と現の境が分からなかった。

「どんな夢・・・見たんですか・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

少年はひどく怯えているようだった。

「・・・・ヤマダさんのこと・・・ですか?」

不安そうに見つめ、声をかける少女。

「だいじょうぶ・・・・・・もう・・・だいじょうぶだから・・・。」

少年は振り払うように頭を振った。

「ごめんね・・・・・・心配かけて・・・。」

どこか不自然な笑顔を見せる少年。

「いえ・・・・・・あ、お水持ってきます。」

そう言って立ち上がり、水を取りに行く少女。

(なんだった・・・・・・?夢・・・・?)

少年は、なにか不自然な感覚を覚えていた。

「・・・・・・どうぞ、お水です。」

戻ってきて少年にコップを手渡す少女。

「あ・・・・ごめんね、ありがと・・・。」

受け取って一気に飲み干す少年。飲み干したコップを横に置く。

(なんだろ・・・・でも、なんかすごく・・・・・)

凍えるように身を小さくする少年。

「ほんとに・・・だいじょうぶですか・・・?」

すぐ真横にある少女の顔。

「・・・・・・うん、だいじょうぶ・・・・・。」

少年は温めるように自身の身体をさすり、少女の方を見つめる。

「今・・・・・何時?」

「・・・・三時過ぎです。」

かすかに光る置き時計の針を見て答える少女。

「そっか・・・・・ごめんね、起こしちゃって・・・・・寝よっか?」

蛍のように儚い笑顔を見せる少年。

「・・・・はい・・・。」

少女はうなずき、立ち上がった。だが少年はずっと座り込んだままだった。目を閉じ、小さく丸くなり、小刻みに震えている。

(どうして・・・・。)

少年の手に温かい何かが触れる。

「・・・・・・ルリちゃん・・・?」

少年が目を開けて見ると、少女は少年に肩を寄せ、少年の手をやさしく握り、少年をやさしく見つめていた。

「・・・泣いたって・・・いいじゃないですか・・・・。」

そのまま少年の長い金髪をゆっくりなでる。

「ムリしなくたっていいんですよ、フェイさん・・・・・・。」

少年は心から何かが溢れ出してくるのを感じた。目元が熱くなる。喉が痛い。それを必死で塞き止めようとする少年。

「・・・・・あはは。泣かそうったって・・・・ダメだよ・・・。」

乾いた笑顔を見せながら、零れそうになるのを止めるため、顔を真上に上げる少年。天井で魚を模した飾りが僅かに揺れていた。

「でも・・・どうしたの?昨日から・・・なんか・・・すごく、優しいね・・・・・?」

揺れ震える天井の飾りと、声。

「別に・・・・・・優しくなんかないです。」

目線を逸らして言う少女。

「優しくなんかないから・・・・・いじわるだから、わたし、フェイさん泣かしちゃいます。」

少女は少年のほっぺたを指先でぐいっと押した。

「・・・・・・・ルリちゃん。」

「な、なんですか?」

指で押されたまま言う少年に、少し戸惑う少女。

「・・・・・なんか、ルリちゃん・・・いつもと違うね・・・・。」

少女の指先に震えが伝わり、水滴が伝わる。

「・・・・・・や、やっぱりそうですか?」

自覚があるのか、頬を紅くする少女。

「うん・・・・・いじわる・・・・っ!」

「わっ・・・!?」

少女に抱きつく少年。勢い余ってベッドに倒れ込む。

「フェイさん・・・・・。」

少年が震えているのが温もりと共に少女に伝わる。

「じゃ、じゃあ、いじわるした代わりに・・・・・えっと、好きなだけ、甘えて・・・もいいですよ・・・・・。」

顔を赤くしながら子供をあやすように抱きしめ、少年の長い金色の髪を撫でる少女。

「・・・っく・・・ひっく・・・・う・・・うあ・・・・うぅ・・・。」

泣いている少年。少年は泣かなかった。消えゆく命を目前にしても。その命が消えても。誰かのすすり泣きが聞こえようとも。でも。

「なんでっ・・・・・っく・・・・なんでぼくはっ・・・うぅ・・・なんでっ!!どうしてぼくはっ!!なんでぇっ!!うああああぁぁぁぁ!!」

少女にはその言葉の意味が理解できなかった。少年も、自分が何を言ってるのかわからなかった。ただひたすら、抑えていたものを自分の心からあふれ出させていた。


少年は、なんでぼくは。どうしてぼくは。ただひたすらその言葉を繰り返し、繰り返し叫んでいた。

ただひたすら、声にするのがやっとの声で、叫んでいた。










少年は少女の温もりが伝わる距離で、泣いていた。少年は小さくも大きな声で泣いていて、それがすすり泣きになり、いつの間にか

「すぅ・・・・すぅ・・・・。」

寝息を立てて眠っていた。

「・・・・・・・フェイさん?」

気付いた少女が声を掛ける。少年からは寝息しか返ってこなかった。

「・・・・泣き疲れたの・・・?」

少女は起き上がろうとした。が、動けなかった。

「ちょ、っ?フェイさん・・・・?」

少年は両手で少女の服を掴んでいた。もう一度身体を動かす少女。少女の服を掴む少年の力が強くなる。

「・・・・フェイさん、ちょっと放して・・・・。」

少年の肩をぽんぽんと叩く少女。

「・・・・・。」

特に反応はない。

「・・・・・お願いだから、放してってば・・・・。」

少年の顔に掛かった金色の髪をかきあげる。目許からひと筋、涙が流れた。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

無言で少年を見つめる少女。

「・・・・・・・・・・しょうがないなぁ・・・・。」

軽くため息をつき、ベッドに少し斜めを向いて足がはみ出したまま、足と手を使って布団を自分と少年にかぶせる少女。

「フェイさん、子どもみたい・・・・・・・・あ。子どもか・・・・。」

いつも大人の中にいる。でもこうやって見てみると、

(ちっちゃい・・・・そういえば、わたしとあまり背、変わらないもんね・・・。)

いつも見てた大人と比べると、とても小さく見える。

(・・・・あったかい。)

僅かにしか動けず、寝返りも出来ない状態。お互いに向い合った状態で、前髪が重なり合うほどすぐそばにいる。

「そういえば、わたしも・・・・子どもなんだよね・・・・。」

少年の幼い寝顔をじっと見つめる少女。

「どうして・・・・今、なのかな。・・・・・どうせなら―――――」

少女は小さくつぶやいて、途中で言い止め、

「―――――ばか。」

また小さくつぶやいた。そして少しため息をついて、時計を見る。だいぶ時間が経っている。

「・・・・・もう寝よっかな。」

少女は目を閉じかけて

「あ。そういえば今日はおや――――」

また途中で言い止め

「―――――今日、は・・・・・かぁ。」

また小さくつぶやいた。

「何回目だったっけ?ほんと、調子狂うなぁ・・・・・でも、まーいっか。」

呆れるようにため息をつく少女。そしてじーっと目の前の少年を見つめ、

「・・・・・おやすみ。」

少女は確かに、くすっと微笑んで、静かに目を閉じた。















夢だ。




――――オモイカネ、この子をお願いね――――




誰?




――――ゼフィルス。あなたもあの子を守ってあげてね――――




あの子?




――――もう会えないけど・・・・・・でも、会えるから――――




誰に?




――――お母さんがずっと見守っていてあげるから――――




お母さん?




――――だから・・・・安心して――――







お母さん



















光?














「も・・・朝・・・・・・起き・・・・・。」

誰かが呼んでいる。

「・・・・・・お母さん・・・・?」

「え?」

金色の光を背にした誰か。

「あ・・・・・・・れ?ルリちゃん・・・・?」

まぶしい光の中に銀色の髪が見える。

「・・・・・・わたし、少女です。お母さんって年じゃないです。」

光に目が慣れる。少し顔が紅潮している少女が見える。

「・・・・・・・う?」

光を遮ってた手で少し目をこすってから、眼も顔もぼーっとしたまま起き上がる少年、フェイ。

透き通るような白い肌。光に映えて輝く長い金色の髪、金色の瞳。少女のような容姿。

「せめて・・・・・まぁ、お姉さんにしといて下さい。」

少しためらうようにして、顔を少し赤くしながらフェイの頭を撫でる少女、ルリ。

透き通るような白い肌、光に映えて輝く長い銀髪の髪に金色の瞳。少女さながらの容姿。

「んむ・・・・・ふぁーい・・・・・。」

撫でられるのをくすぐったそうにしているフェイ。目が慣れてくる。辺りを見回すと、何故かいつもの風景より位置が高い。布団の感触も違う。

「うー・・・・?あれぇ・・・・?何の夢だったのかな・・・・・?」

とりあえずそれは気にせず、フェイは自分の目に掛かった鮮やかな金色の髪をかきあげながら、夢のことをつぶやいた。

「どんな夢だったんですか?」

フェイのつぶやきに、洗面所から声が返ってくる。

「えーっと・・・・・?女の人・・・・赤ちゃん・・・・銀色・・・・ゼフィルス・・・・金色・・・・。」

「曖昧すぎます。」

突っ込むルリ。

「・・・・・・あれ?忘れちゃった・・・・・。」

布団に座ったまま首をひねるフェイ。

「・・・・・そうですか。」

「あ。もしかして・・・・・・記憶の切れ端かなぁ・・・・・?」

「そうかもしれませんね。」

「はぁ・・・・・残念だなぁ・・・・。」

水の音が聞こえる。

「・・・・・・・あれ?」

またフェイの声が聞こえる。

「どうしたんですか?」

少女が洗面所のカーテン越しに訊く。すると、

「なんでぼくルリちゃんのベッドで寝てたの?」

ぼーっとした声が聞こえた。

「・・・・・・さぁ。」

水の音と共に、呆れたルリの声が返ってくる。

「なんでだっけ・・・・?あ、それよりさぁ、こういう夢って初めて見たんだけど、これっていい傾向なんだよね?」

「知りません。」

嬉しそうに訊くフェイにつっけんんどんに返すルリ。

「う・・・・も、もしかして昨日のこと怒って・・・・あ。あああああぁぁぁっっっ!!」

フェイの叫び声が響く。

「そ、そっかぼく昨日・・・・!!ご、ごめん!!泣いちゃった上にベッド使っちゃって迷惑かけてルリちゃん布団に寝かせちゃって・・・・!! ご、ごめんねほんとにもうなんかえっと怒ってるよね?ほ、ほんとにごめ―――」

「怒ってなんかないです。」

思い出したらしく、謝ろうとするフェイに答えるルリ。

「・・・・・そ、そおなの?」

おそるおそる訊くフェイ。

「そおです。」

いつもの声で、ルリの声が返ってくる。

(でも、朝までずーっとしがみ付いてたのは覚えてないのかな・・・・・。)

ほっとしたようなむかっとするような微妙な気持ちになるルリ。

「で、でもさ、ほんとにごめんね。色々と迷惑かけちゃったし、ほんとなんかおれいできたらいぅっ!?」

フェイがしゃべってる途中で水の音が止まり、ルリが洗面所のカーテンを開けてフェイの前に出て来て、両手でフェイの両方のほっぺたを思いっきりぐいーっと引っ張った。

「い、いふぁっ?ふぁふぃ!?ふぁんふぁふぉ!?」

「・・・・・・・・・・・。」

無言で手を放すルリ。そしてすたすたと洗面所の中に戻っていった。そのルリを呆然と眺めながら自分の頬を両手で押さえるフェイ。

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

しばらく沈黙が続いた。バシャバシャと、ルリが顔を洗う水の音だけが響いていた。

「・・・・・・・・ぷっ。」

「?」

急に吹き出したフェイを、顔をタオルでふきながら見つめるルリ。水はまだ流れている。

「ふふっ、あははっ。あははははははははっっ!」

今度は楽しそうか嬉しそうかに笑い出したフェイを、すごく不思議そうに見つめるルリ。

「・・・・なんなんですか?」

フェイに訊いてみるルリ。

「ううん、なんでもない。・・・・・ルリちゃんありがとう。」

「え。」

「え?」

笑顔のフェイに、ルリは思わず声を出した。フェイはその声に反応して訊いた。

「い、いえ・・・・・まぁ、どういたしまして。」

少しあわてて答えるルリ。

「あははっ・・・・ル〜リちゃん♪」

フェイは立ち上がってルリのそばまで来て、ぽんとルリの肩に手を当て、自分のおでことルリのおでこをこつんと合わせた。

「え。わっ・・・?ちょっ?なな、なんですか?」

動揺するルリ。フェイの顔が目の前にある。昨日と同じようで違う。お互いの前髪やおでこが触れた状態で、フェイは目を閉じた。そして、

「お・ま・じ・な・い♪これ、けっこー効くんだよ?実証済みだから安心してね。」

少し目を開けてにこっと微笑み、フェイは再度目を閉じた。

「貴女の巡り逢う日が、いい日でありますように。」

祈るようにフェイはつぶやいた。水はずっと流れっぱなしだった。

















ブリッジにて。ブリッジ三姉妹待機中。ミナトとメグミは読書中。ルリはゲームでオモイカネと対戦中。

《目的地まであと10分》

オモイカネがルリに知らせる。

「ありがと、オモイカネ。・・・・・ねぇ、オモイカネ。」

《はい》

(フェイさんとゼフィルスとはいつどこで知り合ったの?ゼフィルスが過去の記憶をフェイさんに教えてあげないのはどうして? ゼフィルスはオモイカネとは情報交換してるみたいだけどどうしてわたしはダメなの?わたしに答えられないって事はわたしより大事な人とか偉い人に口止めされてるの?)

「・・・・・ちょっと訊いてもいい?」

《ダメ》

即答するオモイカネ。

「・・・・また秘密?」

《ごめんなさい》

最近、ルリがフェイに関することを訊こうとするといつもこんな感じ。

「まぁ、別にいいけど。」

訊く前から拒否される。

《いつか必ず》

「・・・うん、わかった。」

でも全く話す気がないってわけじゃないので、ルリはまだ安心していた。

「さてと・・・・メグミさん、今いいですか?」

「ん?なにルリちゃん?」

雑誌を読むのに没頭していたメグミが振り向く。

「もうすぐサツキミドリ二号に到着です。艦長ブリッジに呼び戻してもらえますか?いま食堂にいるみたいです。」

「はーい、了解。さってと、艦長ーーーー」

通信を開くメグミ。

「あーあ。やっと到着かぁ。ここらで気分転換になればいいんだけどねー・・・・・。」

ミナトも雑誌から目を離して背伸びする。

「そうですね。」

答えるルリ。さすがに人が死んだせいで空気が重い。それは誰もが感じていたことだった。

「ねぇルリルリ・・・・・フェイちゃんの様子、どうなの?」

少し遠慮がちに訊くミナト。

「だいじょうぶだと思いますよ。」

答えるルリ。

「そう・・・・・・・・。」

いったん目を逸らしたあと、ルリをじーっと見つめるミナト。

「・・・・・なんですか?」

視線が気になって訊くルリ。

「んー、な〜んかルリルリ変わったなーって。」

にこにこしながらミナトが返す。

「あ。私もそれ思います。」

メグミが会話に参入してくる。

「変わった・・・・って、どこがですか?」

意外そうにルリが訊く。

「うーん、雰囲気がやわらかくなった?」

唇に指先を当てながら言うミナト。

「あ。あとフェイちゃんの事でからかうと反応がかわいい!」

「・・・・・そうですか?」

からかうようなメグミに訊き返すルリ。

「そうだよ。今だって表情出てるもん。」

「・・・・・そうですか?」

鏡代わりに自分の姿をモニターに出すルリ。

「それにしても・・・・フェイちゃん効果、絶大ねぇ。」

あまりに予想以上の成果を挙げてるので苦笑しているミナト。

「フェイさん効果・・・・ってなんですか?」

横目で見ながら、言葉の意味が分からず訊くルリ。

「んー、そうねぇ・・・ナデシコのクルーってみんな若いけど、ルリルリからしたら大人ばっかりでしょ?」

「まぁ、そうですね。わたしからしたら十代後半でも大人です。」

「ルリルリにとっては大人ばっかりの中に、突然フェイちゃんが来た。しかも同い年。」

「・・・・・ミナトさん、訊いてもいいですか?」

話の中でルリが言う。

「なに?」

「フェイさんが人見知りするとか言ってましたけど、アレもしかしてウソだったんですか?」

ピクッと反応するミナト。

「・・・・・どうして?」

「だって、どう考えたって人見知りするような性格じゃないじゃないですか。もう既にクルーの大半と仲が良いみたいですし。」

「・・・・でも、ここに来てすぐはそうでもなかったじゃない?」

「それは、まぁ・・・・。」

「でしょ?フェイちゃんにはルリルリ効果があったのよ、きっと。」

「・・・・わたし効果、ですか。」

「そ。フェイちゃんも安心したのよ。」

「・・・・そうですか?」

「そうよ。」

逃げ切ったミナト。

「・・・・ま。とりあえず一応見てこよっかな、フェイちゃん。」

「はい?」

「きゃあぁっ!?」

突然後ろから現れるフェイ。さすがのミナトも声を上げる。

「フェ、フェイちゃん?」

驚いて振り返るミナト。そしたら何故か浴衣姿のフェイ。

「はい?」

「い、いつからそこにいたの?」

「今さっきですけど。どうかしたんですか?さっき名前呼びましたよね?」

「え。うん、でもなんでもないの。気にしないで。」

「・・・・?」

苦笑しているミナトに首をかしげるフェイ。

「なんで浴衣なんか着てるんですか?」

ルリが訊く。フェイの着ているのは藍色の浴衣、そして紅の帯はどう見ても女物。

「えと、エリさんがお古だからあげる、って。他にもミカコさんとかみんなが色々と。」

至って普通に受け答えるフェイ。

「・・・・・・やっぱりヘンかな?一応裾上げとかしたんだけど、やっぱりちょっと大きいし髪黒くないし・・・・。」

袖をひらひらさせながら訊くフェイ。

「・・・・・・まぁ、ヘンではないですけど。」

答えるルリ。

「だいじょーぶよ、フェイちゃん。似合ってるから。」

ミナトが素直な感想を述べる。

「うん、違和感ないよ。」

メグミも言う。

「でもお古ばっかりじゃあれだし、サイズ大きめだしね。サツキミドリ二号に着いたら一緒に買い物に行こ?ちゃんとしたの選んであげるから。」

ミナトがメグミにアイコンタクトを送る。

「本当ですか?ありがとうございます。」

嬉しそうに笑うフェイ。

「ねぇ、ルリちゃんもお買い物行くよね?」

アイコンタクトで察したメグミが訊く。

「行きません。」

「いいじゃない、ルリルリも一緒に行こ?フェイちゃんも一緒に行くんだし、ね?」

ミナトが発破かける。

「でもわたし、やることあるんで。」

「いーのいーの。どーせ艦長だって買い物行くんだろーし、ちょっとくらいサボったって大丈夫よ。それにフェイちゃんの着る服よ?どうせならカッコイイの選んだほうがいいでしょ?」

もう一度発破かけるミナト。

「でも・・・・わたしが行っても仕方ないですから。」

「そんなことないよ。ぼくあんまり服の事わからないし、サイズの大きさわかる人がいた方が楽だし。ね、お願い!ルリちゃんも一緒に来てくれない?」

両手をぱんっと合わし、とどめのお願い。

「・・・・・仕方ないですね。じゃあ行ってあげます。」

仕方なく、という口実を得て完璧に崩されたルリ。

「ありがとっ。ごめんね?忙しいのに。」

「別に・・・・構いません。」

すこし目をそらすルリ。

「じゃあ決定ね。四人で行こっか。」

「そーですね。じゃ、店のカタログ調べときますね。」

にこにこ顔のメグミ&ミナト。

「でも思ったより元気そうで良かった。」

フェイを見ながらメグミがにこっと笑う。

「え?あ、もうだいじょうぶですよ。これ以上迷惑掛けたくないですから。」

笑顔を返すフェイ。

「そんな、誰にも迷惑なんてかけてないよ。」

「うーん、でも・・・・・・・・。」

一瞬ルリの方へ目を向けるフェイ。

「心配かけちゃいましたし・・・・あ、そうだ。ちょっと用があるんでもう一回格納庫行ってきていいですか?」

言いかけて、何か思い出したらしいフェイ。

「いいよ。でもお買い物するから早めに戻ってきてね?」

メグミが返す。

「はーい、わかりました。それじゃ行ってきます。」

またルリをちらっと見て、早足で出て行くフェイ。見送る三姉妹。

「・・・・・ねぇルリルリ、昨日なにかあったの?」

フェイの動作を見逃さなかったミナト。

「別に何も。」

逃れようとするルリ。

「ふーん。じゃあ機嫌よかったのはどうして?」

「寝起きが良かったからです。」

「フェイちゃんが、なんだけど?」

「フェイさんが、そう言ってました。」

「へー、寝起きの話なんてしたの?」

「当たらずとも遠からず、です。」

「ほんとに?」

「ほんとに。」

「・・・・・ま、いいわ。二人だけの秘密だもんね。聞くのはヤボだったわ。」

確信を得たらしく、満面の笑みを浮かべながら引き下がるミナト。

「別に秘密とか、そんなのじゃ・・・・・・。」

「ん?なんか言ったルリルリ?」

「いえ、なにも。それより艦長がそろそろ来ます。」

コミュニケの反応でユリカの現在地を示すルリ。ブリッジへの通路を直進中。

「りょーかい。じゃ、お仕事しましょうか。」

三姉妹は座席に座り直し、テキパキと仕事を始めた。










しばらくして、ブリッジ。三姉妹のほかにユリカ・ゴート・プロス・ジュンもブリッジに到着。

「サツキミドリ二号、有視界範囲まであと一分。」

ルリが報告を入れる。

「フィールド解除。メグちゃん、通信開いて。」

「了解、通信開きます。サツキミドリ二号、応答願います。こちらネルガル所属、機動戦艦ナデシコ。停泊許可をお願いします。」

メグミの通信に男性が応答する。

『はいよぉーこちらサツキミドリ二号。話は聞いてるぜぇー。停泊OKだ。・・・・いやーーしっかし可愛い声だねぇー?』

「ふふっ、ありがとうございます。」

ご自慢の声を誉められて喜ぶメグミ。ゆっくりコロニーに近づくナデシコ。

「え?なに!?」

メグミが叫ぶ。だんだん見えてきたコロニ―は無数の小さな爆発の光に包まれていた。





ドゴォォォーーーーーン!!!




そして巨大な爆炎がコロニーほぼ全体を覆った。聞こえるはずのない爆音が幻聴として頭に響く。あまりに突然なそれは、一瞬その場の全員の時を止めた。

「コロニーより衝撃波、来ます。」

ルリの報告から少し遅れて爆発の衝撃が艦を揺らす。

「くっ・・・艦内被害状況確認!本艦はこのまま前進。生存者の確認も急いで!」

ユリカが瞬時に命令を下す。さっきまであったコロニ―は無残な廃墟と化していた。

「さっきまでお話してたのに・・・・・・さっきまで生きてたのに・・・。」

メグミは呆然とつぶやいていた。

「メグちゃん!生存者、気をつけて!」

「は、はい!」

ユリカの声にはっとし、気を取り戻すメグミ。

「左舷フィールド発生ブレード第二画に中程度の損傷。フィールド、張れません。」

ルリが報告を入れる。

「至急整備班を向かわせて!」

「了解。」

ユリカの命令に答えるルリ。



しばらくして被害を確認、修理しに行ったウリバタケ以下整備班から連絡が入る。

『艦内に誰かが侵入した形跡があるぜ、ご丁寧にぶっ壊してな。』

イラついた口調のウリバタケ。

「ゴートさん、艦内警戒態勢を!ウリバタケさん、フィールド、今すぐいけますか?」

『あ?ダメダメ!あと十分はかかるぜ。』

「五分で、お願いします。」

『へいへい、了解っと。とりあえず張れるようにはするわ。野郎共!リミットは五分だ!』

『『『うぃーーっす!!』』』

真空中なので通信で整備班一同が声を返す。

「・・・・こんなときに敵に襲われたら・・・・・!!」

ユリカが厳しい顔をする。幸い今は敵の姿は見えないが、おそらく敵の手によって壊滅したのだろう。いつ攻撃を受けるかわからない。 フィールドに防御を依存しているナデシコにとって、今の状況は限りなく危険だった。


『艦内厳戒態勢。何者かが艦内に侵入した模様。手の空いてる者は巡回。その他の者は持ち場を離れるな。決して一人で行動することのないように。』

ゴートが厳戒令を敷く。










ディストーション・フィールド発生ブレード第二画。応急処置が終わったので本修理中の整備班。

悔しさをこらえて蹴り上げた石ころ♪

ただ今大忙し作業中。その中でちゃんと手を動かして作業はしてるが、のんきに歌ってるのが一名。

跳ね返ればダイヤモンドにもなる♪

かなーり小さめの宇宙服。かなーり高めの幼さの残る声。

『なぁ、これの予備持ってるか?』

整備班の一人が歌ってるその誰かさん、フェイに近づいて訊く。

すぐ手に入る夢なんて夢じゃないよ♪ありますよー。』

ポシェットの中からパーツを取り出して手渡す。

『さんきゅ!』

受け取って戻ってく整備班の人。

でも必ず叶うと信じているよ♪

歌い続けるフェイ。

くじけない君が好き〜♪泣きたいと・・・・き。

歌が止まる。

『ん?どーしたフェイ?』

整備班が声をかける。

『・・・・え?な、なんでもないです・・・・。』

背を向けているのであまり顔が見えない。

『ほう・・・・・・ああ、なーるほどなぁ〜。』

その様子を見ていたウリバタケのメガネが光る。フェイ以外のその場に居る整備班(ルリ・フェイラヴラヴ実行委員会、正式名称現在不確定)全員に通信で作戦を話す。

『『『『『・・・・・・了解!!』』』』』

整備班一同が返す。

『おし・・・・・1,2,3!』


『『『『『悔しさをこらえて蹴り上げた石ころ♪』』』』』



ウリバタケの指揮のもと合唱し始める整備班。

『え、え?』

突然の合唱にきょとんとするフェイ。



『『『『『跳ね返ればダイヤモンドにもなる♪』』』』』



フェイとは違い、低音で合唱中。

〜ヤモンドにもなる♪

フェイもとりあえず合唱に参加。



『『『『『すぐ手に入る夢なんて夢じゃないよ♪』』』』』

すぐ手に入る夢なんて夢じゃないよ♪

明らかに音域が違うフェイと整備班。




『『『『『でも必ず叶うと信じてるよ♪』』』』』

でも必ず叶うと信じてるよ♪

作業そっちのけ状態。




『『『『『『くじけない君が好き〜♪』』』』』』

くじけない君が好き〜♪

みんなノリノリ。




『『『『『『泣きたいときあるなら♪

泣きたいときあるなら♪




そばにず
ルリルリが




そばにずーっとずーっといるーからぁ〜♪』』』』』』



がしゃんっ!

フェイの手元で何かが壊れた。

『おぉーー!?』

『もしかして図星か〜?』

『うお、大事な配線真っ二つ〜!?』

『固まってる固まってる!』

『フェイ顔赤いぞ〜!』

フェイの顔を覗き込んではやし立てる整備班。

『そーかそーか。ルリルリに甘えて泣いたかぁ〜っ♪』

ご満悦な顔で語るウリバタケ。

『・・・・・・・・・・・・・・。』

振り返ったフェイの目元には涙がじわーって湧き出ていた。

『うっ・・・・ま、まぁ・・・・なんだ、あ〜つまり・・・・・弱いトコを見せるってのも決して悪い事じゃねぇわけで・・・・。』

退くウリバタケ。

『・・・・泣いたって別にいいんだよな、まぁ。』

曖昧なフォローをするウリバタケ。ぷいっと顔を背けて作業を再開するフェイ。

『『『『『『『・・・・・・・・・・・・・・。』』』』』』』

(すねた。)

(すねたな。)

(絶対怒ったな。)

(ああ。完全に怒ってるぞ、あれは。)

(ちょっといじめすぎたか?)

(かもな。多勢に無勢だし。)

(で、どーする?)

(どーって・・・・どーだよ?)

(班長、どーすんすか?泣かしちゃったかもしれませんよ。)

(うーむ・・・・・どーするか。)

ひそひそ相談する整備班。

『・・・・・・ひどいよ、ばか・・・・。』

フェイがぽつっと言い、それにビクッと反応する整備班一同。

(は、班長ぉ〜!いまものすごい罪悪感が・・・・!)

(む、胸が痛いっす・・・!それにマジでどーすんすか?もしもフェイ泣かしたって女の子に知られたら、俺らタダじゃ済みませんよ!?)

(ただでさえ縁が無いのにこれじゃ・・・・!)

(う、うろたえるな!重要な収穫があったろが!?)

(収穫・・・・っすか?)

(おおよ。あのルリルリがフェイを慰めたんだぞ?大ニュースじゃねぇか!)

(た、たしかに・・・・ジョーカーになるっすね、それ。)

(だろォ?だから最悪の事態は回避できる!)

(お、おお〜。班長輝いてるっす!)

(応!だァがしかし!状況は改善するに越した事ァ無ぇ!フェイの機嫌直すぞ!)

(・・・・・どうやって?)

(知るか!いい案がなけりゃとりあえず考えんだ!いいな!?)

((((((ウ、ウッス!!)))))

ウリバタケの言葉に従い、様々な思惑あれど、整備班は一つになって考えた。

((((((・・・・・・どーやったら機嫌直るんだろな・・・・・?))))))

そして整備班は、静かに、時々フェイの様子をうかがいながら、考えながら作業をしていた。











この間、識別無しでエステが四機飛んで来てパイロットが江戸っ子風だったりツールボックスから這い出してきたり脱出装置で 戦艦の装甲ぶち抜いたり実は新参パイロット三人全員が若い女の子だったりという一言では非常に説明しづらい出来事がありました。











場面変わってただ今エレベーター内。格納庫へ向かって下りてます。新参パイロット三人娘、アキト、ユリカ、ゴートが同乗中。格納庫から一度ブリッジへ戻って 作戦概要を聞いた後、格納庫に向かってる状況。

「なぁ、ところでここにいる二人のパイロットって誰なんだ?」

ショートの緑髪、スバル・リョーコがユリカに訊く。

「一人は・・・死んじゃって・・・・。」

ちらっとアキトを見て話すユリカ。

「でも、就航のときにもう一人配属されたから今いるのは二人なの。」

「ふーーん?もしかして一人はこの人?」

茶髪でメガネ、アマノ・ヒカルがアキトに近づいて訊く。

「そ、そうだよ。コックが本業だけど。」

アキトが答える。

「やっぱりかぁ。そうだよね、キミ、あんまりパイロットの顔つきしてないもんね。」

なんだかんだで一流のパイロット。わかるらしい。

「なっ・・・!?」

戸惑うアキト。

「あ、そーだ。わたしここに来るときちょーっと壊しちゃったんだけど大丈夫だった?」

思い出したらしく、言うヒカル。

「「・・・はは、ええ、まあ」」

苦笑しながら返すユリカ、ゴート。

「艦内、警戒態勢解除だ。」

ゴートがコミュニケで通信する。

チ――ン。エレベーターが止まって扉が開く。

「え?ここはまだ・・・。」

違う階なのでアキトが首をかしげる。

「お前はここだよっ!!」

リョーコがアキトを外に押し出す。

「うわっと!・・・なにすんだよ!」

怒って言うアキト。

「コックはお呼びじゃねーんだよ。」

冷ややかに言うリョーコ。

「じゃーねー。」

手を振っているヒカル。

「・・・っ!!いいじゃねーかよ!そうだよ、おれはコッ――――」

扉が閉まってアキトの声が聞こえなくなっていく。

「ふう。まーったくよぉ!いくらなんでもコックはねぇだろーが。」

「ネルガルも人手不足なんじゃない?IFS付けるヤツなんてあまりいないからね。」

今まで黙っていた三人目、ロングの黒髪、マキ・イズミがリョーコの言葉を受けて言う。

「確かにな。ま、それはおいといてだ。もう一人のパイロットはなにしてんだ?まさかオレらにやらして寝てるわけじゃねぇだろうなぁ?」

「そういえば格納庫にあったあの白い機体は何?新しいフレームには見えないし、新型?その人の搭乗機?」

「あんなの見たことも聞いたこともないよねぇー?私達のエステが新型だって聞いてたんだけどな。」

「おいおい、ってこたぁ、オレらを差し置いて最新かよ?」

「余程パイロットの腕がいいんじゃない?」

「え〜?でも私たちがネルガルで最強だったじゃん。ヤマダって人は死んじゃったみたいだし。」

「じゃあネルガルじゃねぇヤツかぁ?」

「軍の人かもね。」

「もしかして私たち三人の内の誰かへ配備されたものだったりして。」

「「「うーーん・・・・・・。」」」

考え込む三人娘。

「あの・・・・実は・・・・。」

ユリカが言いかける。

チ―――ン。格納庫に到着。扉が開く。

「やっほーー!」

扉が開いた先にはフェイが手を振っていた。

「フェ、フェイちゃん!?どうしてここに!?」

ユリカが驚いて声を上げる。ぞろぞろとエレベーター外に出る一同。

「こいつは俺とずっと一緒にいたんだよ。フィールド発生器の修理とかも手伝ってもらってな。修理終わった後はフェイと一緒に新エステの整備してた。いやー、宇宙仕様は面白ぇわ。」

エステからウリバタケが降りてくる。

「なっ!」

フェイに笑顔を向けるウリバタケ。

「・・・・・・・・・。」

じとーっと見つめるフェイ。

「あ、いや・・・・・お、おおっ!?あんたらが新パイロットか!?」

フェイの目線を外して話題を変えるウリバタケ。

「そうだけど?」

ヒカルが答える。

「「「「「「おおおおおおおおおおおっっ!?」」」」」」

ヒカルが答えるとそこら中から一斉に顔を出す整備班。

「おい、整備したのってあんたか?」

それを無視してウリバタケに訊くリョーコ。

「っぅおうっ!!俺こそがナデシコ整備班班長のウリバタケ・セイヤだぁっ!!」

「ああっ!?班長抜け駆け!?」

「せこいっス班長!!」

整備班からブーイングが飛ぶ。

「うるせー!!早いモン勝ちだ!!」

「で、整備はちゃんとしてくれたの?」

やっぱり無視してイズミが言う。

「え、えっと、ちゃんとしました。オレンジのエステのアンテナ先端が折れてたくらいです。ちゃんと取り替えておいたんで、問題は無いし・・・・他のエステも異常は無いと・・・・・・思います。」

フェイが答える。初対面で少々緊張気味。

「へぇ。ちっちゃいのにやるわね。」

イズミが驚きながら言う。

「ていうかかわいー♪金髪少女〜♪」

ヒカルがフェイを抱きしめる。

「え。少女?ってわっ!?ちょ、えぇっ!?」

驚き、赤くなるフェイ。

「うーん、ブリッジにいた子もかわいかったんだけどねー。ちょーっと愛想がねー。こっちの子は反応がいいなぁ。うりうり。」

フェイのほっぺたをつついたり引っ張ったりして反応を確かめるヒカル。

「むぐ・・・・い、いふぁっ!?」

「や〜ん、いぢりがいがあるぅ〜♪お肌すべすべ〜♪」

フェイにほおずりするヒカル。

「おい、ガキなんて放っといてさっさとやる事やるぞ。」

関心無さそうな呆れ声でリョーコが言う。

「ハイハイ。リョーコは後でゆ〜っくりいぢりたいんだもんね〜。」

「んなことするか!!」

反論するリョーコ。

「とーかなんとか言っちゃって〜♪ちょっと可愛いとか思ってるクセにぃ〜♪」

「は、はぁ!?んなこと思ってねーよ!!」

ヒカルのからかいにムキになるリョーコ。

「も〜ウソが下手なんだからぁ。リョーコちっちゃい子好きなクセにぃ〜♪」

ここぞとばかりにフェイを強制的に押し付けるヒカル。

「ち、違っ!」

でも受け取るリョーコ。

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

抱っこした、された状態で沈黙するリョーコとフェイ。それを見てヒカルが、

「おいおい、こいつ可愛いじゃね〜か。ロリ心がうずくぜぇ〜♪」

リョーコのマネをしながら言う。

「て、てめぇ!!勝手に人の心代弁してんじゃねぇぇ!!」

「お?代弁〜?てことはリョーコやっぱりそう思ってるんだぁ?」

その言葉に真っ赤になるリョーコ。

「違う違うちがぁぁぁぁう!!言葉のアヤだ!!言葉のアヤぁぁぁぁぁぁ!!」

「も〜。素直じゃないんだからぁ♪」

「リョーコ、ロリロリー。」

イズミも参入してくる。

「てっめぇらぁ・・・!!」

完全にリョーコを遊び道具にしてるヒカル・イズミ。周囲の人間は、死にかけたのにこんなやり取りをしている三人を呆然と見ていた。

「ふっふー。リョーコぉ?」

にやっと笑ってヒカルが言う。

「んだよ!?」

怒りながら答えるリョーコ。

「残念だけどさぁ、お持ち帰りはダメなんだよ〜?」

「フェイの方に目配せしながら、にまぁと笑って言うヒカル。

「・・・・・あッ!?」

まだ抱っこしてて、自分の胸元で硬直して真っ赤になってるフェイを慌てて降ろすリョーコ。

「わ、わりーな。忘れてた。・・・苦しくなかったか?」

小動物扱いのフェイの頭を撫でながらリョーコが訊く。

「い、いえ・・・・なんか、ここ最近で慣れちゃいましたから・・・・。」

うつむいたままフェイが答える。

「前例ありかぁ。実はいぢられ体質だったりして♪」

ヒカルが楽しそうに笑いながら言う。

「そ、そんなぁ・・・・!?」

フェイが困惑して叫ぶ。

「冗談冗談!で、キミは戦艦なんか乗っちゃってるけど、整備士なの?」

ヒカルが訊く。

「い、いえその、パイロットです。・・・・あ。ご、ごめんなさい、遅れましたけど初めまして。フェイっていいます。11才です。搭乗機はその白い機体、名前はゼフィルス、よ、よろしくお願いします。」

目を伏せながらぺこっと頭を下げるフェイ。

「・・・・・はぁ?おいおい、嘘つくなって。本物のもう一人のパイロットどこにいんだ?」

落ち着いたリョーコがフェイの頭をぽんぽんとしながら笑って流す。

「ほ、ほんとですよ。嘘じゃないです。ほんとにぼくがパイロットです。ほらIFS。」

右手の甲を見せるフェイ。それをまじまじと見る三人娘。

「・・・・・・よく出来てるね、っていうか本物!?」

「本物ね。」

「おいうっそマジか!?」

フェイの手の甲を引っ張ったりして確かめる三人。

「本当だ。ネルガルと契約してある。正式なものだ。」

後ろで黙っていたゴートがカバーする。

「嘘だろ?お前がパイロットだぁ!?軍人どころかガキじゃねぇーか!!」

「私達が最年少パイロットだと思ってたのにぃ・・・・・・。」

「ダイスが燃える・・・・サイ、燃える・・・・サイ燃焼・・・・・くくっ。」

イズミが謎の言葉を発する。

「あ、ぼく5年以上前の記憶がなくて、ずっとネルガルの施設にいたんです。だから義務教育とか無視です。」

フェイが付け足す。

「・・・記憶、ないんだ・・・?それにネルガルの・・・・・・。」

ヒカルの声が暗くなる。

「あ、気にしないでください。火星に行ったらきっと思い出せますから。そのためにパイロットとしてここにーーーー」

「ダメだ!ガキなんか戦わせられるか!!お前は戦わなくていい!!」

いきり立つリョーコ。

「だいじょうぶですよ。そんなに心配しなくても。」

フェイが微笑んで声をかける。

「そうじゃなくてだなぁ・・・!!」

「「リョーコ、やっさしーー!」」

ヒカル・イズミがはやしたてる。息が合ってるところを見ると、パターンらしい。

「なっ・・・!?ち、違う!そんなんじゃねぇよ!!こいつなんざいなくても全然問題ねぇんだから戦わなくていいって意味だ!!」

赤くなって苦しい言い訳するリョーコ。

「ほら、心配してくれてるんじゃないですか。ほんと大丈夫ですよ。ゼフィルス強いし。今までだってフィールドにも被弾ゼロですし。」

「そんなの関係ねぇ!お前はここで待ってりゃいいんだよ!!」

「でも・・・・・・。」

「いいから!!大人しくしてろ!!」

「やっぱり・・・・ダメ、なんですか?」

リョーコに引っ付いて目を潤ませるフェイ。

「ダ、ダメとかそういうんじゃなくてだなぁ・・・・・・・!!」


「「リョーコ、ロッリコーーーン!!」」


「ちっがぁぁーーーう!!どこの誰がロリコンだぁぁーー!?」

「はぁ・・・・愛しい少女を強引に待たせて戦いに行く・・・・・。」

ヒカルが胸元で両手を組んで目を輝かす。そしてイズミと向い合ってアドリブ小劇場を始める。

「ねぇ・・・・・どうしてわたしは付いてっちゃダメなの?」

ヒカルがフェイ役(周囲に光るお花が浮いてます)。

「危険なんだよ。」

イズミがリョーコ役(周囲に光るお花が浮いてます)。

「でも・・・・わたし、リョーコと居たい・・・・。」

「それはオレも同じだ。一緒に居てぇよ。でも、危険なんだ。死なせたくねぇ・・・・わかってくれ。」

「・・・・・でもわたし・・・・リョーコのこと・・・・好き。」

「・・・・・・オレも好きだ。」

がばっと抱きつく女二人。そしてリョーコの方を見つめて、

「「や〜ん、リョーコ〜〜♪」」

ものすごくにやにやして茶化す。

「んの・・・・・!!てんめぇらぁぁ!!ぶっ倒してやる!!覚悟しやがれぇぇ!!」

二人に突っ込んでくリョーコ。

「きゃ――♪リョーコが怒ったぁ〜♪」

「単細胞リョーコ猪突猛進〜。」

逃げるヒカル・イズミ。

「待てコラぁぁぁぁ!!」

追いかけるリョーコ。

「・・・・・・・・・・・・。」

三人娘の様子を呆然と見つめてるユリカ。

「ね、ねぇフェイちゃん・・・・・フェイちゃん?」

ユリカは声をかけながらフェイの方を見た。するとフェイの頬には涙が伝っていた。

「フェ、フェイちゃんどうしたの・・・?」

「えっ?」

心配そうに駆け寄ってくるユリカに振り向くフェイ。

「あ、あれ?なんで・・・・?」

自分が泣いてることに気付いて、裾で顔をふくフェイ。

「ごめんなさい、なんでもないです。欠伸しちゃったんですね、きっと。」

目許を赤くして、笑顔を返すフェイ。

「フェイちゃ―――」

「質問があるんですけど、訊いてもいいですか?」

心配そうに声をかけるユリカの声を止めるように、声を出すフェイ。

「え・・・。いいよ、なに?」

やさしい声で返すユリカ。

「ロリコン、ってなんなんですか?」

「え”っ!?」

真顔で訊いてくるフェイ。

「調べようとしてもゼフィルスがダメって・・・・みんなに訊いても誰も教えてくれないんです。」

「そ、それは・・・・・。」

答えに困るユリカ。そこにリョーコの手を逃れたヒカルが横からひょこっと現れる。

「ふっふーー。フェイちゃんロリコンってのはねぇ、リョーコみたいに年下「だぁぁぁぁぁーーー!!!!」

リョーコが大声で打ち消しながら突っ込んでくる。その後ろからイズミが現れ

「くっくっく、幼女趣「うるせうるせうるせぇぇぇーーーー!!!」

また後ろを向いて追いかけるリョーコだった。

















なんていうのかな、覚悟はしてたつもりだったんだ。
人は死ぬとか、人を殺すとか・・・・蔑ずまれたり、賤しまれるって。
だから誰とも仲良くなんてしない、そう思ってた。
みんな冷たい人ばっかりだって、思ってた。
でも・・・・あたたかかった。
あはは、ふつう所属不明のゼフィルスを招き入れたりする?
ぼくみたいな子どもの言うこと信じてくれて・・・・
・・・・名前もみんなで考えてくれた。
ほんと言うとね、名前、なんでもよかったの。
犬の名前でも、アニメの名前でも、ほんとになんでもよかったんだ。
あんまりみんなが真剣で・・・色々考えてくれて・・・だから、欲出しちゃって・・・
選んじゃって・・・・フェイって名前、気に入っちゃって、決めた。
ひどいよね、ぼくって。それなのに、みんなほんとに・・・・
ガイさんも、すごくいい人だった。
大切にしてたゲキガンガー貸してくれるって、見せてくれるって・・・・約束してくれて。
なのに、なんで死んじゃうんだろうね?
どうして、生きてて欲しい人が死んじゃうんだろうね?
生きて欲しい人が死ぬって考えたら、すごく怖くなった。
やっぱり誰とも仲良くしない方がいいって思った。
思ったのに・・・・・やさしいんだもん。
やさしくて、あたたかくて・・・・
でもね、ダメなんだ。
やっぱり仲良くしちゃダメなの。
だって・・・・秘密の事だから誰にも言ってないけど、
ぼくはみんなと、火星でさよならしなきゃいけないから。
だから・・・・・なのに。
どうしてぼくは、こんなに意志が弱いのかな?
ダメだって思ってるのに、なのに・・・・
みんなが好き。
大好き。
一緒に居たい。
そんなこと考えてる。
ねぇ。
ナデシコにさえ乗らなかったら、こんな想いしたり、
こんな風に泣くこともなかったのにね。
















To be continued to the second half








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AUTHOR’S  WIND

(作者の戯言)




さて、姉妹、あるいは姉弟状態のルリ・フェイ。恋愛もへったくれも無い勢いです。
つま〜り、お互い異性であると知ってはいますが、分かっていない状態です。
ていうかフェイは子どもですから。11歳ですから。精神年齢はもうちょい低いかもですが。
挽回があるのかは不明。このままでもそれはそれで面白い気もしてきた今日この頃。
風と共に舞う妖精のルリはシニカルさが消滅している気がものすごいして、ですがそれはきっと正しいのです。
ルリはものすんごい勢いで変わっていく予定は未定。











言霊



それは言葉に宿っている不思議な力で、古代においてはその力で言葉通りの事象が起きるとされた。
現代では、言葉が人に与える影響として用いられる。
そう、人は言葉に影響を受ける。
そして人は、独りだけで自己確立を成す存在ではなく、周囲の人間との関係の中で自己を確立する存在である。








えー。つまりですね、最近のフェイのチャイルド化現象はそういう事なわけです。
少しずつ子ども化していますが・・・・・・ん?最初っから子どもっぽかったっけ?
ま、輪をかけて子ども化してますけど、それは一種のマインドコントロールなわけですよ。
えーと。例えばですね、皆様も時々無意識に誰かの仕草や口調をマネしてたりするでしょう?
・・・・・しませんか?ていうかこれ関係無いですね・・・・。
え、えーっと。でもですね、周囲が当人に与える影響って結構強烈なんです。
あの子はまともだったのに、あのお友達と一緒に居る内に変わっちゃって・・・・とか。
汚染させられた、とか。伝染した、とか。
えと、悪い意味ばかりですんで良い例を・・・・・あの子と居る内に笑顔が増えた、とか。
人間は常に気を張ってはいられません。だから、どれだけ意志が強くても、自己を確立していても、誰かの影響を受けてしまう。
人は人が孤独だと言いますけど、良くも悪くも人に影響を受けて生きていくんです。
なんか不思議ですよね、人間って。人間の心って。








ちょっとした豆知識。


ゼフィルスとは西風の神の名。


そして西というのは色では白、五行で金、季節にして秋に当てます。


ゼフィルスの機体カラーは白。


フェイの髪は金色。


さらに秋には時、大切な時という意味があります。




ルリは幼い頃の記憶から魚、引いては水を好みます。



風は水に波紋を起こしますよね?










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