手直ししたのは作者の戯言のとこがほとんど。本編は数行しか変えてませんので、逆に見ないほうがいいかもしれません。気づかない可能性もありますし。ただ喋ってるだけの戯言の何を変えたかは、見ていただければわかります。
本音言うと三話目の時点ですでに戯言に飽きたんです。ほかに、矛盾点があるとご指摘頂いたとこがあり、それに答える術も持ち合わせているのですが、伏線を本編だけで拾いきれるか、憶えていてもらえるかが問題で、なおかつ解答が出るまでだいぶ時間がかかります。そのほか色々理由がありますが、そういうわけで変えました。
では、本編見た方はすっ飛ばして戯言に飛んでください。
機動戦艦ナデシコ
風と共に舞う妖精
ぼくたちの『道標』
いきなりの敵さんにけっこうピンチだったわたしたちのナデシコ。
就航後わずか10分で落とされそうになって、そこを助けてくれたのが
小さいころ記憶喪失になったっていう、わたしと同い年ぐらいの男の子。
いろいろわけありで名前もないんで、わたしがフェイって名づけた
っていうのがこの前のお話になるのかな、そんなとこよね、きっと。
今は積み込みが終わったお昼頃、6時間後くらいかな、敵さんが来てから。
でも、最初からこんなんで、この艦ほんとにだいじょうぶなのかなぁ?
ピピピピピピピピ
「・・・ぅ・・・ぅうーーん・・・」
目覚ましの音に目が覚め、ルリは手探りで枕もとのスイッチを押す。
ピピピピピカチャッ・・・
音が消えた後の静寂にすこしだけ浸ってから体を起こす。
「ふ・・・わぁぁーーー・・・」
大きなあくびをして体を伸ばす。頭が徐々にはっきりしてくる。もう積み込みは終わっている時間だ。ブリッジに行って出発しなくちゃいけない。ルリはちらっとベッドの横を見た。
「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
寝息をたて、ぶかぶかのパジャマを着て、クセなのか布団を抱き枕にして丸くなってる小さな男の子。11才の子供とはいえ、この年の女の子の平均より背の低いルリとほとんど背丈が変わらないのだからだいぶ小さい。
「・・・・・・くすっ・・・」
ルリは自分でも気づいていなかったがかすかに微笑んでいた。家族というものをルリもフェイも知らない、少なくとも覚えていない。でも・・・・・・
(家族って・・・・・・こうゆうものなのかな・・・・・・この場合、わたしってお姉さん?妹?)
そんなことを考えていた。自分と同い年のお友達。二人目のお友達。今まではオモイカネしかいなかった。でもいつでもどこでも会えるわけじゃなかった。それなりの設備がある施設、コンソールの前。でも今は目の前にいる。そばにいる。
(・・・どっちでもいいよね・・・あ、はやく行かなくちゃ・・・)
ベッドの真横にいる男の子を踏まないようにタンスに向かい、制服を取り出して洗面所に向かいカーテンを閉めた。身支度をすませ、カーテンを開けるとまだ夢の中のフェイがいた。フェイも起きなくちゃならないので起こすことにした。
「フェイさん、もう起きる時間です、起きてください。」
「・・・ぅうーん、ふぁぁーーー」
先程のルリと同じようにして起き上がるフェイ。会ったばかりなのに親近感があるのは不思議だった。もう何年も一緒にいた気がする。
「・・・あ、おはよう・・・ルリちゃん。」
ぼーっとした少し眠たそうな目でフェイはにこっと微笑んだ。
(会うのは今日が初めてなのにね・・・・・・)
「おはようございます。そろそろブリッジに集合の時間です。先に行ってますから早く来てください。あ、フェイさんの制服、タンスの真ん中の段に入ってますから。」
「ふぁーーーい。」
うつろなフェイの返事を聞いて、ルリは先にブリッジに出て行った。
(やっぱりわたしのほうがお姉さんかな?)
寝起きのわりに上機嫌なルリだった。
「んーーー・・・・・・と、真ん中の段の・・・・・・これかな・・・・・・?」
かっこよく助けに来たはずの少年は、わずか数時間でクルー全員、ルリにすら弟として扱われていた。
「おはよーごふぁいまふ。」
あくびをしながらフェイはブリッジに入ってきた。ルリが出てから30分ほどくらいだ。子供パイロット用はさすがにないのか、上はルリのお下がりのブリッジクルー用の制服、下はズボンを着ている。急ごしらえはやはり無理があるらしい。
「おっはよー。」
「おはよ、フェイちゃん。」
メグミとミナトが返事をする。
「おっはよーーフェイちゃん!!」
続けて後ろからユリカが入ってくる。朝から異様に、というか常にテンション高い。フェイも返事をする。
「おはよーございます。」
「みんなもおはよー!!」
メグミ「おはようございます、艦長。」
ミナト「おはよう、艦長。」
「ルリちゃんもおはよー!出港準備はもうできてる?」
「おはようございます艦長。準備はもうできてます。あとは艦長の命令待ちだけです。」
「よーし!そんじゃ、ナデシコ発進!」
ナデシコは現在太平洋上を航行中。ブリッジにはルリとメグミとミナトだけ。艦長はどこかへ行ったがおそらくアキトのとこだろう。
「はぁ・・・・・・。」
フェイの機体の説明を楽しみにしていたはずのウリバタケがため息ついてブリッジに入ってくる。
「あれ?ウリバタケさん、フェイちゃんの機体についてなんか説明受けてたんじゃないんですか?」
メグミが疑問に思って訊く。
「いや、さっき説明終わったとこなんだが・・・いや、ありゃ説明じゃねぇな・・・・・・。」
「どうゆう意味?」
今度はミナト。
「わかんねぇんだとよ、まったくな。・・・・・・説明というより注意だったな。」
「・・・・・・はあ?」
ミナトが声を上げる。
「あ、いや、すまん。・・・それがなぁ、ゼフィルスは自我にも近いような意思を持ってるんだとよ。そのせいでバラそうとしたり、フェイ以外の奴が乗ろうとしたりすっと、暴れだすらしいんだな、これが。そんなんだから、ネルガルが5年かけてもなーんもわからんかったらしい。」
「「ロボットに意思ぃ!?」」
ミナトとメグミがハモる。タイミングいい。
「ああ、自衛機能・・・自己防衛本能っていうべきか?・・・そういうのがあるらしい。こっちの話はまるで無視。なんでか知らんが唯一フェイだけが接触できるみたいでな、あいつが説得しねぇと誰も触れやしねぇ。俺ん時も必死で説得してやっと装甲の取り替えだけOKしてもらった。」
「でも、いくら暴れてもエネルギーがなくなれば動けなくなるはずです。その時に解析できなかったんですか?」
今度はルリが訊いた。
「ああ、俺も訊いてみたんだがな、断定は出来ねぇが・・・っていうかフェイの予想でしかねぇがな、あいつしか触れねぇし。予想ではかなり小型の相転移エンジンがおそらく2基積まれてるらしい。どうゆうわけか、劣化もしねぇから5年間フル稼働。しかも大気中でもほぼ100%の出力を出せるらしい。さらにナデシコのエンジン出力とゼフィルスの出力が同じくらいあるそうだ。おかげさまで”いつも元気いっぱいフルパワー”・・・だそうだ。」
「・・・・・・こんなに大きさ違うのにナデシコと同じくらいの出力があるわけ・・・?しかも大気中でも100%?何に使ってるのよ・・・そんなに・・・?」
「さぁな、少なくとも普段はそんなにエネルギーは必要じゃねぇみてぇだから、ほかになんかあるんだろうな、それだけの高出力が必要になるなんかがよ、・・・・・・わっかんねぇけど。」
ミナトの問いに頭をかきながら答えるウリバタケ。わからないのがけっこうシャクらしい。
「・・・でも、この艦が相転移エンジンを実装した最初で最新の艦のはずじゃないんですか?なのにどうしてそんなに小型で高出力なのが使われてるんですか?」
「そうですね、相転移エンジンについてはネルガルが、ナデシコが、初めてのはずです。それに矛盾します・・・・・・というか、ほんとにネルガルの新型なんですか?」
メグミに加勢して訊くルリ。
「・・・それがな・・・・・・ゼフィルスはネルガルの新型じゃねぇんだとよ。あいつ・・・フェイが記憶喪失で見つかったっていってただろ?そんときに見つかった状況が、ゼフィルスのコックピットの中だったらしい。機体は無傷だったがフェイは傷だらけで血まみれだったそうだ。まあ、命に関わるほどじゃなかったらしいがな。」
「・・・どこかで怪我をして・・・怪我をさせられて、ゼフィルスに乗って、逃げてきたってことですか?」
「俺もそうだと思うぜ、ルリルリ。だがあくまで推測だ。それまでどこにいて、あれはどこで造られて、何があって今に至るのか?誰も何もわかりゃしねぇ。・・・・・・ああ、あとこれ、あいつから頼まれモン。」
「なんですか、これ?」
今時珍しい紙の資料だ。しかも直筆。漢字が少なめなのでフェイが書いたのかもしれない。
「ゼフィルスの運用方法について、だそうだ。あとで艦長にも教えてやってくれ。」
「あ、そうだ。ウリバタケさん、フェイちゃん今どこですか?」
ルリが読んでるそばで、メグミが訊く。
「多分食堂だ。長くお世話になるとこに先にあいさつしときたいですから、だとさ。なんか頼むんなら一足遅いぜぇー?説明終わった時に他のやつらが大勢つめかけて来てやがったからな、すでに予約がいっぱいだろうな。」
「ええーーー?そんなぁーー・・・。」
メグミが悲痛な声を上げる。そんな大事なことなのだろうか?
「謎の記憶喪失の少年、火星にて発見される。謎の超高性能機と共に・・・・・・か。どこから来たのかしらねぇ?」
「関わりあるみたいですけど謎だらけです。それにネルガルが今まで秘密にしてた高性能機を手放しでフェイさんに預けてるのも謎です。さらに、なんでフェイさんだけが乗れるのか、も謎です。ていうか謎だらけです。キリがありません。ウリバタケさんは追及しなかったみたいでしたけど。」
「わかんないことを訊いてもかわいそうだもんね。」
いまブリッジにはミナトとルリとメグミしかいない。フェイはホウメイに雇われて食堂にいる。
「でもほんと謎だらけだよね。機体もあの子も。あ、そういえばさっきウリバタケさんからもらったのってなに?」
メグミが訊く。ルリがモニターに出す。
「ゼフィルスについてです。機体の性質は空戦、零G戦フレームに近いみたいです。それと実際は違いますが、追尾レーザーのようなのが装備されてて、・・・・・・あ、今朝見たあの光のことです。弾道軌道がメチャクチャで、あんまり周りを気にしながら使えないものだから、ナデシコの直衛か、単機行動にさせてほしい。・・・・・・だいたいこれだけです。」
実際に光の軌道はメチャクチャだった。背部から発射される光の線は、あらゆる方向に発射され、敵に向かっていく。1対多数を想定されたものなのだろうか。狙いすまして撃つような代物ではない。
「・・・・・・そのほうがいいわね。危険な目にあってほしくないもの。」
「そうですね・・・。あ、そういえば・・・・・・フェイちゃんってずっとネルガルにいたんだよね?なのにプロスさんとかお互い知らないみたいだったけど?」
「そういえばそうよねぇ。ずっとネルガルにいたんでしょ、あの子。なのに変よねぇ・・・。」
「もしかして・・・・・・なんか嘘ついてるのかな?」
「それはないと思います。ネルガルAAAの機密事項に5年前から存在は確認されてます。ちなみに今朝まではフェイさんの個人情報自体が空白で、存在を示すものだけでしたけど。」
「「AAAの機密事項ぉ!?」」
驚いて聞きかえすメグミ、ミナト。
「はい、極秘中の極秘、ネルガルの会長個人が関わっている可能性があります。おそらく今まで表立って行動したことはないんでしょうね。だからプロスさんと面識がないんだと思います。そういうわけで、嘘ではなく本当、でもまだ話していない、というほうが適切だと思います。」
(でも・・・いくらネルガルの会長が関わっているとしても、オモイカネをだませるはずはないはず・・・・・・なのにどうしてオモイカネはフェイさんを認識していたの・・・?オモイカネはなにも答えてくれないし・・・・・・)
「・・・存在を隠すだけでAAA扱い・・・5年間、空白の存在・・・あの子ってあんな小さいのにかなり重たいもの背負ってるのね・・・。」
「かわいそうですよね・・・なんかネルガルの人にひどい事とかされてなかったかなぁ・・・?」
「うーーーーん・・・・・・・話してない・・・・・・話せない・・・こと・・・か・・・。」
少し考え込むミナト。そして結論。
「ルリルリ、あんたあの子を誘惑しちゃいなさい。」
「・・・・・・・・・は?・・・ゆ、ゆうわく?」
意味がわからず声を出すルリ。
「甘えさせてあげるのよ。あの子今までほとんど人付き合いないみたいだし、話せる相手なんていなかったと思うから。」
「・・・ちょっ・・・待ってください、どうしてそうなるんですか?それに、それならミナトさんの方が向いてるんじゃないですか?」
「だーめ。こういうのは年が近いほうがいいの。それにあの子明るく振舞ってるけど、私が見たとこ人見知りするタイプだから私たちには話しにくいと思うの。でもあんたには年が近いからかな?けっこう心開いてる感じがあるし。」
「人見知りしちゃってるんですか?」
メグミが訊く。自分ではわからないらしい。
「多分ね。人と接したくて必死に仲良くなろうとしてる、でもやっぱり怖くて一歩下がっちゃう、そんな感じに見えるの。・・・・・・表情とか、動き方とか。」
「へぇーーーっ、よくわかりますね。すごいな。」
「そういう子、今まで何度か見たことあるしね。そういう子には年上より同い年のほうがいいのよ。」
「じゃあルリちゃんがんばんなきゃね!」
異様に楽しそうなメグミを横目に、ルリは起きたときを思い出した。人見知りする人間が、会って半日と経たない人間にあんな顔して笑うだろうか。・・・・・・少しは馴染んでくれているのかもしれない。
「・・・・・・でも・・・そうだとしても・・・話してくれませんよ、そんなこと・・・。」
「ルリルリも話せばいいのよ、自分のこと。」
「・・・・・・え・・・?」
「あの子もそうだけど、この年で戦艦乗って、ほとんど一人で動かしてるなんて普通ないもの。色々あるんでしょ、ほんとは。話してくれなかったけど。」
「さっきのAAAの情報もルリちゃんがハッキングしたんでしょ?そんなの一流のハッカーでも無理だもんね。」
「・・・・・・すいません。」
「いいのよ、ルリルリ。どうせ私たちみたいな普通の人生送ってきた人間にはわからないもの。これはあんたのためでもあるの。似たもの同士、傷をなめあえってわけじゃないけど、話したほうが気が楽になることもあるわよ。」
「・・・・・・そういうもんですか?」
「そういうもんよ。これは経験談。これでもあんたの倍くらい生きてんだから。たまには大人の言うこと聞いてみなさい。あんたもあの子と仲良くなりたいでしょ?」
「・・・・・・そ、それは、まあ・・・なりたくないわけじゃ・・・ないですけど。」
「なら相手のこと訊いて、自分のこと話してあげなさい。その方がきっといいから。あの子になら別に話したっていいでしょ?」
少し黙って考え込むルリ。そして、べつにNOと言う理由もないので妥協することにした。
「・・・・・・はぁ、わかりました。・・・じゃあ今度ーーー」
「今夜よ。」
「・・・・・・え!?」
「今夜決行よ。まず訊いてみなさい。それで無理ならあんたが話してもう一回訊く。先に話してもいいわよ、そっちのが効果的と思うけど。泣くなり抱きつくなり押し倒すなり何でもしなさい。それでなきゃ逆に抱きしめてあげなさい。」
「そ、そんな・・・・・・、そんなことしたら嫌がられます・・・・・・!」
うろたえるルリ。珍しい反応をするルリを静かに興味津々に見ているメグミ。
「大丈夫よ。あの子やさしい性格してるから。ちょっとぐらい無理しても大丈夫、そんなことで人を嫌いになったりする子じゃないわよ。」
「い、いえ、そういうことじゃなくて・・・・・・やっぱりいいです・・・・・・ほんとに嫌われたりしません?」
「じゃあ逆に訊くけど、ルリルリはあの子に”ルリちゃんの昔の話聞きたい”って言われたらそんなにイヤ?嫌いになる?」
「べ、べつにそんなこと・・・!」
「じゃあ大丈夫でしょ。」
「あう・・・・・・・・・・。」
「言ったでしょ?あの子は人と接したいの。それが一番手っ取り早くて、わかりやすいのよ。人の温もり・・・・ね?」
「・・・・・・人見知りとか、それとかも・・・・・・大人の経験でわかるものなんですか?」
「まあね。私は私の人生で色々あったからね。じゃ、がんばってね、ちゃんと明日あんたに訊くから。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ウインクするミナト。後ろでルリからは見えないが、おそらくメグミはにやついてるだろう。困った顔をしてうつむくルリ。
「だーいじょーぶよ!ルリルリかわいいんだから自信持って!それにそんな深く考え込まなくていいわよ。ちょっとお話するだけって思えばいいのよ。・・・・・・ね?」
「はぁ・・・・・。」
(こんな反応するなんて・・・思ったより意識してるわね、あの子のこと・・・無意識的なのかもしれないけど・・・少なくとも、嫌われたくないお友達レベル・・・は、最低でもいってるわけね。・・・・・・フフ、昨日今日でこれなら進展はかなり見込めそうね・・・面白くなってきたわぁ・・・次の課題は恋愛感情を持たせることね・・・・・あー、でもこの子たち鋭いんだか鈍いんだかビミョーだもんねぇ・・・・苦労するかも。)
いつの時代も女性は恋愛話の華が好き。ルリとフェイの恋を見てみたいミナトは二人の応援を誓ったのだった。
ミナトはルリをニコニコ顔で観賞中。メグミはミナトの大人っぽさに憧れ感動中。11才にして過酷な試練を与えられたルリはうつむいて考え中。ブリッジ三姉妹のお昼下がりだった。
そのまましばらく時間が経っていった。
「いいんですか?アキトさん。」
「何が?」
アキトとフェイは食堂の机を拭いていた。お昼を回ってるのでお客は誰もいない。
「ユリカさん・・・あ、もうブリッジ行っちゃったけど・・・久しぶりの再会なんでしょ?」
「まあ・・・そうだけど。別にいいんだよ、もともと昔っからあいつが勝手について来てただけだし。それにここに来たのは純粋にあいつに会いたかったからじゃなくて、両親の事故の事を聞こうと思ってきたんだ。」
「ご両親・・・亡くなったんですか・・・・・・?」
「・・・あいつが地球に行った直後の空港で、爆発があって・・・必死になって探して、見つけたときには動かなくなってたよ。」
「・・・・・・すいません・・・大変だったんですね。小さいときからそんな・・・・。」
「君ほどじゃないよ。孤児になったりトカゲが来たりで色々あったけど、親の記憶はあるし・・・・・・あ、悪かった・・・。」
「あ、い、いえ、気にしないでいいですよ。記憶ないだけで生きてる可能性あるし、あれだけ目立つゼフィルスがあるんだから表立って動けば気づいてくれるかもしれないし。」
確かにゼフィルスは派手だった。白銀の機体色、隠れてもきっと丸見えな背部ユニット、やたら光るレーザー。100%隠密行動には向かない。レーダーで探すより目で探したほうが早いかもしれない。
「・・・そっか、そうだな。見つかるといいな。」
「はい・・・。それよりアキトさんのご両親の話、もう少し聞かせてもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。そうだな・・・あんまり覚えてないけど二人とも科学者で、火星極冠で見つかった遺跡の研究をしてた。けっこう厳しい親だったかな?何度も怒られた記憶がある。・・・そういえば、事故の起こる前、なにかとてもすごいことを発見したって喜んでた気がする。」
「とてもすごいこと?」
「ああ。歴史的発見だって。なんでも両親二人の独自の研究でのものだから、だれも知らないことだったらしい。でも、発表前に死んじまった。殺された。・・・だからおれは、その殺した奴を許さない。関わった奴・・・たとえ、知ってる奴でも、・・・ユリカであっても場合によっては殺す・・・・・・殺すかもしれない・・・・・・。」
「・・・・・・アキトさん・・・・・・。」
「あ、いや、悪いな、こんな話して・・・」
『本艦は火星に行きます!』
「「え?」」
ブリッジの映像だった。メインブリッジクルーが集まっている。
「火星?火星に行くのか!?」
アキトが食い入るようにモニターを見つめる。
「こら!サボるな!!」
「はぐあっ!」
手の止まっていたアキトにホウメイからの投げお玉が直撃した。かなり痛いはずだが、火星行きがとても嬉しいのかあんまり効いてないらしい。その間にブリッジでは話が続いていた。
「火星・・・火星に行くんだ・・・!」
「・・・アキトさんの故郷。・・・ぼくが見つかった場所・・・。」
「こら!!」
「「あうっ!!」」
今度はホウメイ、アキトに直接フライパン攻撃。フェイにげんこつを食らわした。痛がってうずくまる二人。
「はぁ、まあいいや。フェイ、今日はもうあがっていいよ。客はもういないしね。」
ホウメイはフェイを時給制で手伝ってもらうことにしたのでお客がいないときは非番ということになっている。
「は、はーい。おつかれさまでしたー。お先に失礼しまーす。」
涙目のフェイはアキトに手を振りながら出て行った。
『ナデシコを火星に行かせるわけにはいかん!』
「・・・・・・え?あれ?このひと・・・誰?・・・なんで軍人さんがこんなとこで銃持っててみんな捕まってるの?ムネタケさん?」
フェイはブリッジに着いたとこだった。モニターで見た状況とまったく違うので混乱していた。軍人らしき人たちがクルーを一箇所に集めて銃を突きつけている。いつもの艦長のポジションにはムネタケがいる。モニターにはヒゲのある中年男性。おそらく格好から軍の、しかもかなりのお偉いさんがいる。
「あ、フェイちゃん・・・。この人わたしのお父様。今ね、ナデシコ明け渡せって言われたの。軍で決まっちゃったって。で、ムネタケさんが反乱起こしちゃって。」
「・・・・・・はぁ・・・そういえばムネタケさんって軍人さんでしたね・・・。」
自分の父親たるミスマル・コウイチロウを紹介しつつ、状況説明するユリカ。フェイは銃を押し付けられ、みんなのとこに誘導され、それに従う。
『ユリカ、誰だねこの子は?・・・まさか・・・そこにいる子もそうだが・・・、ナデシコの一員なのかね?』
フェイとルリをチラッと見て訊くユリカの父、コウイチロウ。
「そうですわ、お父様。ルリちゃんはナデシコをほとんど一人で動かしてるオペレーターで、フェイちゃんはすっごい強い機体に乗ってるパイロットなの!二人共とぉーーってもすごいんだから!」
『・・・・・・なんと・・・!!』
目を見開くコウイチロウ。子供が二人もいるのがよほど驚きのようだ。フクベが割ってはいる。
「話を戻そうミスマル司令、子供が戦場で戦うというのは前例がないわけではない。それよりナデシコを行かせてやってはもらえないだろうか?」
『フクベ提督・・・!確かにかつて少年兵などの子供が戦いに出たという事実は歴史が証明していますが・・・1世紀以上も過去の話です!この時代にそんな幼い子供たちを戦場に引っ張りだし、戦わすなどと・・・!これ以上まだ生き恥をさらすおつもりか・・・!?』
「・・・え・・と、ミスマル・・・司令?」
軍人、元軍人の将官クラスの口論に割ってはいるフェイ。
『・・・なにかね?』
「あの・・・実は、ぼく・・・記憶喪失なんです。5年前、火星で発見されました。そしてそのまま地球に連れて来られて、一度も火星に戻ってません。」
『・・・・・・君は・・・・・・。」
「記憶を取り戻すには自分の住んでた場所や人や物がきっかけになりやすいそうです・・・だから・・・火星に行けば・・・そう思いました。だから・・・・・・・・・ぼくは、ぼく自身の意志で、今ここにいます。」
『・・・・・・・・・。』
沈黙するコウイチロウ。なにか深く考え込んでいる。
「お願いします、ミスマル司令。どうしても行きたいんです!自分が誰なのか知りたいんです!もしかしたらそこに両親がいるかもしれないし・・・ぼくを知ってる人・・・友達もいるかもしれないし・・・だから・・・だから!」
「フェイちゃん・・・・・・。」
必死の嘆願をみつめるユリカたち。だが・・・。
『・・・君の境遇には同情するが・・・、君が先ほど言った通り、私は司令だ。地球連合軍のな。そして、地球を守るためにはナデシコの力が必要だ。だからここは退くわけにはいかないのだ。・・・・・・さあ!ナデシコを引き渡せ!!』
「そんな・・・司令・・・。」
『ナデシコは強い。そして私たち・・・いや、地球の住民のほとんどは弱く、無力だ。強い力を持つものは、弱いものを守らねばならん。それは強い力を持つ者の義務だ。』
「・・・・・・強いチカラを持つ者の義務はあっても・・・・・・権利はないんですね・・・。」
うつむき、小さな声でつぶやくように話すフェイ。
『義務あっての権利だ。君たちが義務を果たせば、地球を守りきれば、火星にだってきっと行ける。』
「じゃあ火星で生き残ってる人たちは・・・?放っておくんですか・・・?」
『・・・彼らのことは遺憾だが・・・、生存者数の可能性からいっても地球を優先すべきだ。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
『・・・・・・仕方がないのだ。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ・・・」
それは、誰にも聞こえないような小さな声だった。だが誰もが聞こえていた。
「待ってください、ミスマル司令。答えがいずれにせよ、話し合う時間ぐらいはいただけませんかな?ネルガルの上層部とも話をつけておきたいですので。」
落胆するフェイをみて言葉を発するプロス。
『・・・・・・まあいいだろう。ただし艦長とマスターキーはこちらで預かる。」
「了解しました、数十分後、ヘリでそちらへ向かいます。」
「・・・・・・・・・すまないな・・・・・・。」
それは、何に、誰に対しての言葉だったのか。揺れ動くクルーたちの心。反対の声が上がる中、ユリカはマスターキーを引き抜いた。
「だいじょうぶかなぁ・・・?」
主だったクルー、特にブリッジ要員は食堂に集められていた。他の場所でもいくつかに分けられ、全員が監視されてる。ブリッジ三姉妹、アキト、ガイ、ゴート、ウリバタケ、ホウメイ以下厨房員5人。そしてフェイがここにいる。一つのテーブルを囲った三姉妹のうち、次女にあたるメグミが訊いた。
「大丈夫よ、ああ見えてもうちの艦長なんだし、プロスさんにジュン君もついてるし。ちょっと頼りなく見えるかもしれないけど、人は見かけによらないものよ。」
落ち着いた大人なミナトをぼーーっと見つめるルリ。現在その三人がコウイチロウの艦に向かっている。決定を伝えるためだ。
「それもそうだけど、そうじゃなくて・・・・・・。」
「・・・わかってるわよ、あの子のことでしょ?」
そういって三人とも端っこのテーブルで頭をうずめてるフェイに視線を移した。一応クルー全員がさっきの口論をモニターで見ていたため、誰もフェイに声をかけてやれなかった。
「明るくしてたけど、やっぱけっこう思いつめてたみたいね・・・」
「大丈夫かなぁ・・・なんか心配だなぁ・・・・・・。」
「自分の記憶の為にって言ってましたけど、それが出来ないかもしれませんから・・・」
「でも私たちがしてあげれることなんてないし、少しほっといてあげるほうがいいのかもね。」
「そんなぁ・・・。」
ミナトの言葉に声を上げるメグミ。
「へたに同情したり慰めても意味ないもの。逆にあの子、気遣われてるって思っちゃって無理するかもしれないし。」
静かに見つめる三人。ルリはある事を考えていた。
(わたしは・・・わたしが戦う理由、ナデシコに乗る理由・・・・・・それって、一体・・・・・・)
「ルリルリ、今いってきなさい。」
「え・・・!?」
ミナトの突然の言葉に驚いて訊き返すルリ。
「お昼に話したことよ。別に過去の話はいいわ。逆効果なだけだし。それよりどうにかして元気付けてあげなさい。」
「え・・・いや・・・あの・・・でも、わたし・・・少女です。そんなこといわれても・・・・・・。」
「だからよ。前にも言ったけど私たちの前じゃ無理しちゃうかもしれないわ。だから同い年のあんたがやさしくしてあげるの。うまくやれば今度あんたになんかあった時にやさしくしてくれるわよ?」
「(もしかして墓穴ほった?)や、やさしくって・・・・・・ででで、でも・・・!」
「いいから今行って来なさい。大丈夫か聞くだけでも、話聞いてあげるだけでもいいから。一人じゃつらいでしょ?一緒にいてあげなさい。」
「ルリちゃんがんばれ!レッツ・ゴー!」
メグミはすごい楽しそうだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・はあ、・・・じゃ・・・じゃあ・・・ちょっとだけ・・・。」
何を言ってもミナトに勝てないと悟ったルリは覚悟を決めて席を立った。そしてフェイに近づいていく。
(・・・・・・な、なんか、緊張するなぁ・・・ドキドキする・・・・・・どうしてかな・・・?)
実は”ででで、でも・・・!”というルリには珍しく慌てた、大きめの声を出したせいで、考え事をしているガイと、キッチンで洗い物をしているアキト以外のその場にいる全員の注意が会話へ向いていた。その後の会話はもちろん全部聞かれていて、ルリの行動をみんながじっとみている。ちなみにルリはどう声をかけるかで必死なので、見られていることには全く気づいていない。
かくしてみんなの前でその仲を公認させ、応援しようという超確信犯のミナトの一大作戦が発動した。余談だが、この作戦は成功を収め、ここにいるメンバーは二人を応援するようになる。
(ここでうまくいけば、これからなんかあった時も安心だしね・・・。二人で支えあっていければベストなんだけど・・・・・・)
ルリとその先にいるフェイをじーーーっと見つめるミナト。及び一同。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・と・・・。」
ルリはフェイの真横に来た。フェイは未だ顔をうずめたままだ。気づいていないらしい。ガイ、アキトを除く、全員が黙ってその光景を見つめていた。
ルリは完全に硬直して突っ立ったまま少し黙った後、ついに口を開く。
「あの、フェ「おいおーい!どぉーーしたみんなァ!?元気ねェぞォ!!?」
心中、恋愛事情はいざ知らず、沈黙の雰囲気に耐えられなくなった超プラス思考パイロット、魂の名、ダイゴウジ・ガイの声だ。そして全員こう思った。
(まったく、これからってところだったのに邪魔が・・・・・・!!)
状況が変わったのでとりあえずそばの席に急いで座り、難を逃れるルリ。全員パッと目線を変える。そしてバラバラにため息をつく。
「しょうがねェだろ?どうしようもねえんだ。かくして火星を救う正義、潰えるってな。」
まだいじり足りない機械を惜しみながらつっこむウリバタケ。見納めのつもりなのかエステの仕様書を見ている。
「だぁぁーーーーっ!うるせぇ!!おいみんなぁ!燃えねえかァ!?こうゆう展開!鉄壁の悪の城ォ!囚われ残された子供たちィ!」
「ヤマダさん、大人じゃないですか。」
調子を取り戻し、冷静に突っ込むルリ。
「んなこたぁどうでもいい!それに俺の名はダイゴウジ・ガイだ!・・・そうだ!俺がみんなに元気の出るものを見せてやろう!!」
「元気の出るもの?」
きょとんとして訊くメグミ。そして目をヤバイくらい輝かせたガイがおもむろに腰からあるものを取り出す。
「これだぁーーーー!!」
「・・・・・・なにこれ?ディスク?」
情報技術の発達したこの時代、ディスクなどそうお目にはかかれない。もちろんミナトだって見たことはない。そうゆうわけで情報をモニターに映すなんてこともできない。なのでウリバタケが軟禁状態の食堂でどこから持ってきたのか、取りに行く許可が出たのか、それ用の機械を持ってきた。セットするウリバタケ。ちなみにガイもなぜディスクを持ってるのだろうか?常に持ち歩いているのだろうか?ありえそうだが触れないことにする。
「まったく、こんなやっかいなモン持ってきやがってからに、俺のコレクションがなけりゃ見れねェとこなんだぞ?」
「まぁ、いいからいいから!とっとと見ようぜえ!!」
「テンカワ、ほら、なんか始まるみたいだよ。」
「え?」
フライパンを洗っていたアキトに声をかけるホウメイ。アキトも手を止めて、スクリーンを見つめる。軟禁状態で何の面白みもない、というのもあり、全員がスクリーンを興味津々といった目で見つめていた。
「レーーッツ!ゲキガァーン、スゥイイッチ、オン!!」
だったような気がするが、わけのわからない大げさな掛け声とともに、ビームが出るんじゃないかってほど目を輝かせ開始ボタンを押すガイ。そして始まったのが・・・・・・
「「「「はぁ?」」」」
昔のアニメだった。ゲキガンガーというらしい。拍子抜けして見つめる一同。
「・・・・・・なにこれ?」
というミナトの声を皮切りにしていろんなガイVSみんなの、アニメの批評が始まった。
「・・・はあ・・・・・・ああ言われるかもって、わかってたけど・・・しょうがないのかなぁ、やっぱり。」
フェイは顔を少しだけ上げて、アニメを見ていた。ひとしきりつっこみが終わったらしく、アキトとガイが手をたたいて一番前で見ている。一応みんなもアニメの本番が始まったので静かにして、別段やることもないのでぼーーっと見ている。
「・・・この状況をひっくり返すのは多分そんな難しくない・・・けど・・・・・・うーーー・・・。あんなこと言われちゃったし・・・・・・これってわがままなのかなぁ・・・・・・?」
またため息をついて考え込むフェイ。
(外にいる見張りは・・・二人・・・?ううん、一人どっか移動した・・・一人・・・かな・・・。ほかに気配を感じないし。でも、見張り一人?ほんとに軍人さんなのかな、あの人たち。まぁ、人数たりないんだろうけど・・・。)
「・・・一人でやっても・・・・・・だけど・・・・・・こーゆーのはみんなでやんなきゃダメだもんね・・・・・・」
(それに、ここでチカラ見られちゃったら・・・嫌われるかも・・・・・・それは絶対イヤだしなぁ・・・)
「・・・・・・・・・フェイさん。」
「え?あ・・・ル、ルリちゃん・・・・・・?」
一応見に行ってたが”ばかばっか”といって切り捨てて戻ってきたルリだった。横のイスにちょこんと座ってる。
(あ、し、しまった、考え事してて・・・もしかして、聞かれてた・・・かな・・・ど、どうしよ・・・?)
「・・・・・・・・・その、大丈夫ですか・・・?」
「・・・え?なにが・・・あ!う、うん、大丈夫だよ。し、心配してくれてありがと・・・。」
「・・・い、いえ。大丈夫なら・・・それで・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
微妙に気まずい沈黙。会話が続かない。ルリの突然の登場で、先ほどの一件を完璧に忘れてしまったフェイ。とりあえず結果的に立ち直っている。というかそれどころじゃない。
「・・・・・・あ、あの、さっきの独り言・・・聞こえちゃってた・・・?」
「・・・え?い、いえ、いま来たとこですから・・・別になにも・・・。(なんか聞かれたらまずいこと言ってたのかな?)」
「そ、そう・・・。(嘘じゃない・・・かな・・・?よかった、聞いてなくて。)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
またしても沈黙。気まずい。そしてぎゅっと手をにぎりしめ、口を開くルリ。
「・・・・・・・・あ、あの・・・ちょ、ちょっとお話したいことあるんですけど・・・い、いいですか・・・?」
「・・・う、うん、いいよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
またまた沈黙。気まずさ最高潮。うつむく二人。さっきから舌が回っていない二人。
(ど、どうしよう・・・なんて言えばいいの・・?ミナトさんに聞いとけばよかったかも・・・。)
(な、なんなんだろ・・・ど、どーゆー状況?どどどうしよなんかルリちゃんおこってる?ぼ、ぼくなんかやっちゃったのかな?)
(フェイさん黙っちゃってるし・・・や、やっぱり大丈夫じゃないよね・・・・・・わたし・・・バカ。)
(あうぅーー・・・こ、こわい・・・ど、どうして怒ってるの?なんで?なんか寝てるときマズイことしちゃったりした・・・・とか?)
二人だけの世界にいる中、ごんっ!という鈍い音がして、続いて誰かが倒れる音がした。見るとアキトが中華なべで見張りを殴り倒したようだ。おおーーっという声と共にかけよる一同。
「おれ、艦長助けてくる。」
「「ええーーっ!?」」
アキトの突然な行動と発言に数名が驚きの声を上げる。
「おれは火星に行きたい。このまま終わるなんて嫌だ。みんなはどう?みんな・・・今自分にできることをしよーーーうわっ!!」
突然ゆれる艦内。地震とも違う。何かあったらしい。だが状況がつかめない。どのみちユリカとマスターキーがないとナデシコは動かない。だが反乱を起こすのに混乱は好機。ゴートの指示のもと、各自散って主要な場所の奪回とクルーの解放を始めた。元々の数の利に、分散して監禁したため警備が薄く、カンタンに制圧していった。残るはブリッジと格納庫。
「ここは任せろ!お前は機体に乗り込め!そのあとはルリの指示に従え!いいな!!」
格納庫でゴートが奪ったマシンガンで牽制している中、アキトは機体に乗り込んでカタパルトまで移動した。この時代、白兵戦の機会が減ったためか、無重力でも使えるように低反動にしたためか、未だに2世紀以上前の遺物であるマシンガンが現役で働いている。
「くすっ・・・。」
「あれ?ルリちゃん今笑った?」
「いえ、別に。」
メグミの問いに無表情に答えるルリ。
「わたしもけっこうバカよねぇ・・・。」
やや自嘲気味、だがやはり顔が綻んでいた。どう考えても今この状況を楽しんでいる自分がいることにルリは気づいた。
「よし!いくぞぉぉぉぉ!!」
カタパルト前に着き、構えるアキト。
「位置について、マニュアル発進よーい・・・ドン!」
「おおおおおおおぉぉぉっ!」
ルリの合図と共に猛然と走り出すアキトのエステ。キャタピラ走行すらせず、人が走るように走っている。なにか異様な光景だった。
「ルリちゃん、マニュアル発進ってただ走るだけ?」
「うん、そお。」
「いぃーーーっち、にぃーーっ、さぁーーーん!!」
三段跳びの要領で、キャタピラで加速しながら飛び出していくアキト。ウリバタケがなにか陸戦とか空戦とか叫んでいるが熱血中のアキトには聞こえない。
「そういえば、フェイちゃんは?一緒だったよね?」
「いつの間にかいませんね。ゼフィルスはまだありますし。」
そう言いながらさっき自分が言っちゃった言葉を思い出すルリ。
(はあ、なんであんなこと言っちゃったのかなぁ・・・・・・最近のわたしって、・・・何か変・・・・・・。とりあえず、さっきのうやむやになってよかった・・・・・・かな?)
『こ、こちら格納庫!敵に制圧され・・・ぐあっ!』
『観念しろ!ここは制圧した!』
『ふん!ざっとこんなもんさね』
『イエーーーイ!』
敵を一蹴するゴート、敵を縛り上げてるホウメイ、フライパンで武装して敵をのしてるミナトからそれぞれブリッジに通信が入る。確実に形勢の悪い状況にムネタケはまたもやヒス気味だった。
「ちょ、ちょっとアンタたち!しっかりしなさい!」
「あなたの負けですよ、ムネタケさん。」
「だれ!?」
「こんにちは。」
ムネタケしかいないブリッジ、振り返るとフェイが立っていた。ぺこっと頭を下げている。
「ア・・・アンタ!?み、見張りは!?アンタ一人!?」
すっと横にどくフェイ。入口には数人が倒れている。
「ま、まさか・・・アンタ一人で!?軍人よ!?アンタみたいなガキに倒されるはずは・・・!ほ、ほかに誰かいるんでーーー」
「誰がやったかはどうでもいいじゃないですか。本題はここから、ムネタケさん、降参してください。勝敗は目に見えて明らかでしょ?これ以上いらない争いはしたくないです。」
「・・・・・・くっ!!」
「銃を向けるんですか?ぼくに?」
「・・・・・・!!」
腰に手をやったとこで手を止めるムネタケ。子供に銃を向ければ軍法に引っかかりかねない。それをわかって言ってるのか、この穏やかな顔をした子供からはわからない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく沈黙が続く。外ではアキトのエステが跳ね回ってる。そしてナデシコに向かってくるヘリ。おそらくユリカたち。チューリップの花が開き、軍艦2隻が吸い込まれてゆく。その光景を静かに見つめるフェイ。
「ごめんなさい、ムネタケさん。時間がないみたいです。ちょっと手荒にしますけど・・・・・・ごめんなさい・・・。」
ムネタケの目にはフェイが消えたように見えた。そして首筋に痛みが走るとともに、意識が薄れてゆく。フェイが手刀を首筋に入れていた。倒れるウリバタケ。それを支えるフェイのその表情は・・・・・・悲しみに満ちていた。
「ごめんなさい・・・・・・・・・。」
「超特急で、お待たせぇーーっ!」
「お帰りなさい。」
全艦制圧完了の報告が入ったのでブリッジに戻ってきた、ゴートに抱えられたメグミとルリ、フライパンを持ったままのミナトだった。入口でにこやかに迎えるフェイ。その状況に疑問を覚えるゴート。
(・・・フェイ一人だと・・・?・・・ブリッジの隅にムネタケと他に数人・・・全員気絶している・・・・・・・・・他の誰かが・・・?いや、こんな手際よく個人でやれる奴はナデシコにはいないはず・・・・・・複数でやったとしても・・・・・・。)
急いで自分の位置に着くクルーたち。全艦に今の状態などを伝える。
(フェイが一人でやったとしか思えない・・・いや、しかし・・・いずれにせよ・・・この子は・・・一体何者なんだ・・・?ネルガルに在籍していたのは確実。だが俺もミスターも存在すら知らなかった。ミスターはかなり上層まで顔がきく。戦闘訓練を受けるなら、まず俺に話がくるはず。なのに・・・・・・・・なぜ?)
「あれ?どうかしたんですか、ゴートさん。・・・・・・あ!ど、どこかケガしたりしたんですか!?」
「・・・・・・いや、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ。」
「・・・はぁ、よかったぁ・・・びっくりしたぁ・・・。」
(どうみても子供だ・・・威圧感も覇気もなにもない・・・穏やかだ・・・やはり考えすぎか?)
「お待たせーーーーっ!!」
ヘリで戻ってきたユリカとプロスも入ってくる。マスターキーを差し込むユリカ。起動準備にかかるブリッジ三姉妹。
「ぼく、アキトさんのお手伝いしてきます。」
「うん、よろしくね、フェイちゃん。無理しちゃだめだからね。」
走って出て行くフェイを見送るユリカ。ルリが報告を入れる。
「艦長、ヤマダさんが発進許可を求めています。」
「ええっ!?」
陸がないのに陸戦タイプのままのアキト機を見かねたのか、展開に燃えたのか、ガイが空戦フレームで飛び出す。まだ許可は出していないはずだが緊急なので誰も気にしない。なにか話しているがよくわからない内容だ。
「ク・・・クロスクラッシュ・・・。」
「声が小さい!もう一度!!」
「「クロス!!クラッシュ!!」」
なにかガイとアキトが揉めてたが、よくわからない掛け声と共に空中でガイのフレームをアキト機と換装し、射出されたアサルトビットのまま海に落ちていくガイ。
「・・・え・・・と・・・あの、なに・・・してるんですか、二人とも?」
フェイのゼフィルスも出てきていた。わけのわからない出来事をじーーっと見つめている。
「い、いや、ガイが空戦フレーム持ってきてくれて、あいつ足折ってるから空中で換装することになって、なんか叫ばなきゃダメだとかで・・・・・・!」
赤くなりながら説明するアキト。
「・・・・・・はぁ・・・・・・あ!アキトさん後ろ!」
見てみると触手のようなものが生えたチューリップからバッタがたくさん出てきている。
「・・・アキトさんはチューリップをお願いします。ぼくはバッタをやります。」
「わかった!」
チューリップに向かっていくアキト。ディストーション・フィールドをまとい、高速で触手に体当たりしてもぎ取っていく。まるで弾丸のようだった。フェイは追尾レーザーとでもいうのか、背部から発射されたたくさんの光条がナデシコに向かってくる敵に向かってゆき、接触した瞬間爆発して落ちてゆく。そこには光が飛び交う幻想的な光景があった。
『『『『おおーーーーっ。』』』』
ナデシコから歓声が上がる中、フェイはナデシコに通信を開く。
「ユリカさん、ナデシコいけますか!?」
『ルリちゃんどう?』
『・・・・・・いけます。』
『へーーっ、だいぶ早いじゃないルリルリ。』
『・・・・・・いえ・・・。』
(どういうこと・・・?わたしが着いた時にはマスターキーがない状態で出来るすべての準備ができてた・・・オモイカネが自分でやるはずないし・・・・・・誰が?・・・フェイさん・・・?そんなはずは・・・)
「じゃ、チューリップ、よろしくお願いします。」
『はいはーい、じゃ、チューリップに向かって突撃ぃーー!』
触手をやられ、バッタも全滅したからか、前の軍艦二隻と同じくナデシコを吸い込もうとするチューリップ。そこへ自ら飛び込んでいくナデシコ。
「おいユリカ!ちょっと待ておい!!ユリカァァーーー!!」
「ちょっ・・・、近づきすぎです!アキトさん危ないですよ!?」
『グラビティ・ブラスト、スタンバイ。』
『了解。』
ユリカの命令と共に完全にチューリップの花の中に入り、閉じこめられるナデシコ。やられると思ったアキトが悲痛な声を上げる。制止するフェイ。
「だってナデシコが・・・・っ!」
「落ち着いてください、だいじょうぶですよ、ほら。」
突然膨らみだすチューリップ。破裂すると共に黒い閃光が青い海と空を駆ける。ナデシコのグラビティ・ブラストだ。
「・・・内側から大砲かよ・・・。」
「さすがですよね、あんなことするなんて。」
ずっとフェイの動きを観察していたゴートは思った。
(ルリもそうだが・・・なぜ11才の子供がこれほど落ち着いていられる?テンカワへの指示も、艦長への指示も11才の子供とは思えん的確さだ。いったい・・・この少年は・・・・・・?)
『アキト機、フェイ機を回収後、離脱、宇宙に向かいます。』
『艦長、ヤマダさん、海中に沈んでますけど。』
『ついでに回収します。ルリちゃんよろしく。』
「おいこらぁぁーー!!ついでってなんだぁぁーーー!?」
「ヤマダさん、お手柄です。すごいです。」
「うっせぇーーフェイ!!ダイゴウジ・ガイだっつってんだろーがぁ!」
「ご、ごめんなさい。」
ゴタゴタした中、コウイチロウから通信が入る。一人のようだ。
『ま、待て!火星に行くつもりか!?』
「はいお父様。ナデシコは火星に行きます。」
「ナデシコはあくまでネルガルが私的に使用すると決まりましたので、はい。」
プロスも補足する。方向を変えるナデシコ。見送るしかないコウイチロウの艦に特殊回線が入る。他の者には聞こえないものだ。
『ミスマル司令、義務あっての権利なら、権利あっての義務・・・・・・ってことですよね?』
「・・・!!君がその機体のパイロットなのか・・・!?」
『はい、そうです。』
うなずくフェイ。前よりさらに驚いた顔をしているコウイチロウ。
「君みたいな幼い子が、それ程強大な力を持っているとは・・・・・・。危険極まりないな・・・・・」
『・・・自覚してます。・・・・・・これは・・・人を殺せるだけの力なんだって・・・・・・。』
「・・・君はその人を殺せる力をどう受け止めている・・・?」
少し押し黙るフェイ。
『・・・・・・わかりません・・・。ほんというと戸惑っています。怖いしわけわかんないし・・・。でも、この力は今、現実に、ぼくにあるんです。これはどうしようもなくて、だから、どうしたらいいのか知りたいから・・・・・・だから・・・・・・』
フェイの精一杯の言葉。ちぐはぐで、言いたいことが言えない。だがそれを聞いてコウイチロウは静かに息をつく。
「・・・・・・・・・止めはしないよ。」
『・・・・・・え?』
「行ってきなさい、それで十分だ。ユリカによろしく言っといてくれ。ああ、行けと言ったのは秘密だよ?」
『え・・・は、はい・・・あ、ありがとうございます。』
エステとゼフィルスを回収し、空へ向かっていくナデシコを見つめるコウイチロウ。
「提督!なぜ行かせたんですか!?」
「ア、アオイくん?戻らなかったのかね?」
ジュンがいつのまにかいた。いつからいたのか?というか置いていかれたのか?
「質問に答えてください!!」
「・・・・・・フフ、何故だろうな?あの子を見ていたらなんとなくな・・・。親心のようなものか?後押ししてやりたくなった。それにあの子はあの年だが、ちゃんと自分を受け止めている。酷な話だがな。・・・だから悪くはならんよ。」
「フェイが・・・・自分を?」
「ああ。これでも私は軍に長くいる。その軍人生活の中で、たくさんの人間に会った。その経験から、な。」
「そんな・・・そんな不確かな理由で・・・!?」
「どのみち今の戦力では止められまい。無駄に戦ってもこちらの被害が増えるだけだ。」
「・・・・・・ぼくは止めますよ。防衛ラインで止めて見せます。」
「まあ、好きにするがいい。この艦も名目上、追撃せねばならんしな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だがきっと止めれはしないよ。あの子達は止まらない。子供は鳥のようなものだ。空を目指して羽ばたき立ってゆく。巣の中で縛り付けるより自由にしてやったほうがいい。私達大人はあの子達が空を渡るための飛ぶべき道を間違えないよう、道標になってやればそれでいい。」
「・・・提督・・・まさか、最初から行かせるつもりだったんじゃ・・・・・・!?」
「めったなことを言うな、止めるつもりだったよ。まあ、これで止まるようなら最初から行かないほうがいいとは、今でも思うが。」
「・・・でも・・・・・・戻ってこなかったら・・・・・・。」
「巣から飛び立った鳥が二度と帰ってこないなんて事はない。いつか、必ず帰ってくる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「それにあの子が、そしてユリカが自分で選んだのだ。火星に行くと。親の過保護のもとでは子の成長はない。いいかげんユリカから親離れせねば・・・・・・親離れを・・・・・・ユゥゥゥリィカァァァァーーーーー!!!」
「・・・・・・ぼくは、ユリカを止めてみせる。ユリカを地球の敵呼ばわりは、絶対にさせたくはない・・・・・・!」
号泣コウイチロウ。静かな決意アオイ・ジュン。未だ10代20代、成長中の子供たちは火星に向かって飛んでゆく。
その子鳥たちは、空を渡り、空を越え、宇宙を渡り、宇宙を越え、火星に向かって飛んでゆく。
その親鳥は、子の成長のため、いつか帰ってくる地球という巣を守るため、道を示し、見送る。
小鳥たちは、羽を広げ、風をうけて、飛び立った。飛び立っていった。
フェイ「ナデシコはできるだけ防衛の薄いとこを突こうとしたため先にミスマル司令の艦が防衛ラインに到着。大気圏突破を目指すナデシコ、敵として迎えうって来るジュンさん、そして地球連合軍。昨日の友は今日の敵、今日の敵は明日の友。飛鏡がよく見えるこの場所で、思いは交差、ぶつかりあう。生きる人はいつか死ぬ。それは突然。それは必然。その最期の死に顔は何を語るのかな・・・・・・?」
次回、機動戦艦ナデシコ・風と共に舞う妖精
いろいろな「さよなら」
・・・・・・さよなら・・・・・・ジュンさん・・・・・・・・・・・・。
作者の戯言
一度手直しの前読んだ方、3秒ぶりです。初めての方、もう一度読んでいただいた方、数分ぶりです。
みてわかってもらえると思いますが、フェイとの談話を廃止し、手直し以前もあったモリスギさんの日誌メインで
いくことになります。今回の変更ポイントはこれです。ですが、ゼフィルスについては変わりなく。
ただフェイについては以前のは削除いたしまいた。
いや!別に設定失敗したわけじゃないんです。急に思い立ってモリスギさんのレギュラー決定しちゃいまして。
なら順序立ててやったほうがいいんじゃないかと思いまして。
まあ、どっちかっていうと、本編だけじゃどうしても説明口調になっちゃうんでいれました。
で、ここは”風と共に舞う妖精”の特にフェイの矛盾、説明できないとこなどを扱います。そういうわけで、
は!?ここおかしいんちゃうん!?とか思ってもちょっと待っててください。モリスギさんが語ってくれますから。
その他の矛盾点はどうぞお教えください。語った後に納得がいかなくてもどうぞお気軽に。
フェイについてはまた次回。どんどん続きます。モリスギさんはオリジナルですが、かなり重要人物になります。
彼はフェイのネルガルでの空白の5年間の主人公です。語ります。だって本編だけじゃ無理だもの。
ああ、あと日誌のわりに書き方が変ということには触れないで。これは日記に近いもので、誰かに
見せるわけではなく、フェイがナデシコに旅立った後に思い出を回顧(かいこ・・・レトロスペクト)するためのもので、
後日廃棄しています。調査日誌としているのは彼のクセです。厳密に言うと、完成後、就航準備のためサセボに
停泊中のナデシコに旅立ったすぐ後です。では、彼の(けいの)不器用な追憶語り、見守ってあげてください。
ちなみにそういうわけで戯言は撤廃。ここはモリスギさんの場所になります。まあ、少しは介入しますが。
では、モリスギさんの語り、幕開けです。
機動戦艦ナデシコ
風と共に舞う妖精
番外編
Aへの5年間
・・・・・ゼフィルスについて・・・・・・[ネルガル極秘兵器開発部責任者、モリスギ・ノリアキの調査日誌より抜粋]
全長約7メートル。従来のものとは異なる小型相転移エンジン2基搭載。背部中央に追尾式レーザー1門。
両腕手のひら部分に直線型非追尾式高出力レーザーそれぞれ1門。(便宜上レーザーと称すが実際は異なる)
それぞれ開閉式で、非使用時は閉じている。また、原理は不明だが、高密度エネルギー球を一種の”タメ”と
でもいうのか、それにより作り出せる。それは近いうち就航予定の新造戦艦に搭載されてる重力波砲に
匹敵する威力があり、時間をかければそれ以上の巨大なエネルギーが引き出せるようである。
背部ユニットにそれぞれ可変可動高出力スラスター6基装備。バックパック・・・ブースターの概念はなく
計36基にも及ぶスラスターの出力、方向を微調整することでその異常ともいえる機動性を発揮する。
ただし、いくらIFSにより直接的な操縦が必要なくなったとはいえ、36基ものスラスターを今の名無しは
使いこなせてはいないため、ほとんど静止状態からのレーザー乱射を戦法としている。まれに接近戦も
行うが、その機動性についていけず、出力はもちろん、使うスラスターの数も抑えている。基本的に
エステと酷似したコックピットがうかがえるが、オモイカネクラスとも思われるコンピュターを搭載している
せいか、搭乗者なしでも動けるらしく、触れられるのを極端に嫌い、名無し以外の人間が装甲表面に
触れることすら叶わない。また、前述の相転移エンジンの未知の性能で、5年間劣化すらせず稼動して
いるため、エネルギーが尽きず、破壊し、動けなくさせようとる前にこちらが二度と動けなくなるだろう。
以上が、名無しのナデシコ出向までにわかったゼフィルスの性能を簡単に記したものである。
だが、ゼフィルスについて語るのなら、名無しのことも語らなければならないだろう。
彼なくしてゼフィルスの調査はありえなかったのだから。いや、それ以前に、生粋の科学者であり、
他人にそれほど関心のないだろう私が引きつけられたのは、ゼフィルスではなく彼だった。
今でも不思議に思う。私は古くからの知己であるフレサンジュ女史と同様に、幼いときから
ネルガルの元にいた。まあ、私はおそらく彼女と違い、親に捨てられただけなのだが。
ネルガルの教育の元、私は科学にしか興味のないような研究人間になった。
その私がゼフィルスでなくあれほど幼い名無しに興味を持つなどとは。本当に不思議なことだ。
だが細かいことは次の機会にしよう。今日はここまで。目も疲れた。指も休めるとしよう。
彼について語るには一朝一夕の時間ではまず足りないだろう。
彼といた約5年はほんとに長く、それでいて短くもあったのだから。
ゆっくりゆっくり語るとしよう。
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