機動戦艦ナデシコ 〜Wayfarer of  Time
第0章 「刻の糸を律する者」 前編











遠ざかる、ナデシコの光を見送るカイト。




冷たくなったイツキの頬を優しくなでた後、ならんでカプセルに横たわる。




やがてプラント内の電源が次々に落ちていき、辺りは静かな闇に包まれる。






「イツキ……」






深い眠りについた後、カイトは夢をみた。




白く霞むその霧のむこうで"少女”が泣いている。




その少女が必死にカイトの名前を呼んでいる。




でも、けっしてそれが届くことはない……そんな悲しい夢だった。









2197年2月 火星 ネルガル研究施設跡地付近








「艦 長、前方のチューリップに入れ」

突如スクリーンに現れたのは、フクベ提督でした。



「提督?!なぜなんですか!!」

「決まっているだろ、ユリカあいつは俺たちを囮にして自分だけ、また逃げるつもりだ。
 火星で、俺たちを犠牲にして生き残ったように、今度だって!」

「アキト。提督は、そんな人じゃないよ!」



周りのクルーはユリカとアキトを黙って見守っているだけ。

みんな、二人のうちどちらが正しいかはかりかねてるようだ。

提督が艦長の言うとうり、ナデシコを逃がそうとしているのか。

それとも、ナデシコを囮に自分だけ生き残ろうとそているのか。



でも、クルーたちが決断できないままナデシコはチューリップの中に入っていきます。

「オモイカネ、状況報告を。」

《敵影さらに増大。包囲網、さらに狭まりつつあります》

「クロッカスの方は?」

《ナデシコの後方で反転中》

「反転!?」



ルリは、後方のモニターの画像を確認する。

確かにクロッカスは木星蜥蜴の方に向かって、反転中でした。

「クロッカス、チューリップの手前で反転」

「バカな、戦うつもりか」

「提督、どうして?」



どうして?
ルリは、急に気づいてしまった。フクベ提督が、何を意図しているのか。

「自爆してチューリップを破壊してしまえば、敵はナデシコを追ってこれない」

思っていた事が、つい口に出てしまったようだ。

それは、現状考えられる、もとっも確率の高い推論……。



「バカな。どうして、そんないい方に考えるんだよ!」

一人かたくなにフクベは自分たちを囮にして逃げるつもりだ、と叫び続けるアキト。

「おい、おまえ答えろ!おまえは俺たちを見殺しにして、自分だけ生き残るつもりなんだろ!」

アキトが、何も映ってないモニターに向かって叫ぶと、

そのタイミングを見計らったかのように提督から通信が入る。



「ナデシコの諸君」


大画面に現れた提督の顔は、いつもと変わりないようにみえる。

しかし、時折揺れる画面が、今現在も木星蜥蜴と交戦中の証。

そのことを、否応無しにナデシコクルーに伝える……。



「提督、おやめください。」

ユリカが半ば涙声で言う。

「ナデシコには。いえ、私には、まだ提督が必要なんです!」



「私には、君に教えることなど何もない。私は、ただ大切なモノのために、こうするのだ」

「なんだよ、それは!」

アキトが叫ぶ。

だけど、アキトの声に動じた様子も無く提督は、淡々と話を続けます。



「それが何かは言えない。だが、諸君にも、きっとそれはある。いや、いつか見つかる」

提督は、真剣な表情でナデシコに語りかけます。

「私は、いい提督ではなかった。いや、いい大人ですらなかっただろう。
 最後の最後に、自分のワガママを通すだけなのだからな」



画像が乱れ、音声も、途切れがち。ナデシコが異空間に入りつつあるようだ。



「ただ。……だけは言っておきたい。ナデ…コは君たちの艦だ。怒りも憎しみも……
 愛も、全て君たちだけ…物だ。言葉……何の意味もない。それは……」

通信が、途絶えた…モニターに表示された

レーダーから1つの光点が消えた…


それはクロッカスの撃沈を意味する

自分を犠牲にしてまで他人を助ける意味があるのか…?

提督はもう、戻ってこない…



「バ カヤロォォォォォォォォォッ!」



アキトの叫びだけがナデシコに響いた…

だが、それに答える声はなく、

やがてナデシコはチューリップの中で光に包まれた。




2197 年10月 月付近 《第四次攻略戦》









ナデシコの展望室に、5人の人影が仲良く倒れています。

しかも、ユリカ、アキト、イネスの他に見知らぬ男性が2人、倒れている。

どうなっているのだろうか?




「 おーい、やっほー。みなさーん、起きてくださ〜い」

「う、う〜ん……」

ユリカが動いた。

「うわわわわぁっ!」

目をさましたユリカが、いきなり悲鳴を上げて、ひっくり返った。




どうやら、展望室一面に、展開されたルリの顔に驚いたらしい。

「おはようございます、艦長」

「え、あ、おはよう、ルリちゃん」




「通常空間に復帰しました。艦長、なんで、そこにいるんです?」

「え、あれ?」

ユリカは周りを見渡し、ようやく自分が展望室にいることを理解したようだ。

それから、自分の近くにアキト、イネスの他に、見知らぬ人が2名いるこにも。




「ルリちゃん、この人たちは?」

ユリカが倒れている2人を指差しルリに質問する。

「さあ、少なくとも火星を出るときには、いませんでした。その前に、艦長、指示を」

「 あ、ああ、そっか。ナデシコは、どうなってるの。通常空間に復帰したって……?」




ルリが展望室のスクリーンに状況を投影する。

「のえええっ!」

そこは、連合軍と木星蜥蜴の戦闘の真っ只中。とりあえずオモイカネが、

自動でディスト−ションフィ−ルドを張っている状態である。




「本艦は現在月付近を航行中。蜥蜴の真っ只中です」

「グ、グラビティ・ブラスト広域放射。直後にフィールド出力最大で後退」

「はい…で、艦長その人たちどうします?」

すべての指示を、オモイカネに命令したルリがユリカに聞いてきた。




「い、いてててっ…あれ、ここは何処だ?」

「……なぜこんな場所にいる?」

その時、気を失っていた2人が目をさまし辺りを見る。



 
「わっ、起きた」

ユリカが、少し驚きながら言った。

「……すみまないが、一つ質問に答えてくれないか?」

赤い髪の少年が起き上がり、周囲を見渡しながらユリカに話しかける。

「え〜と、なんでしょうか?」

「ここはいったい、どこなんだ?」

「どこって、ここはナデシコの展望室ですよ……」





「ナデシコ…? 聞いたことのない名前だけど、モニターを見る限り、戦艦のようだね」

黒い髪の少年が展望室全体に展開されている、モニターを確認しながら呟く。

「艦長、今はこの戦況をどうにかするのが先です。ブリッジに来てください」

「それもそうだね、ルリちゃん、今から行くから皆も起こしといてね〜」

ルリに向かって言うこと言うと、ユリカは、足早に展望室から出ていく。

ユリカの移動を確認すると展望室に展開されていたモニターも消えていった。




走り去るユリカと消え去ったモニターの少女…ルリを見送りながら

呆然と立ちつくす、二人の少年。

「―――なんと言うか、今も昔も人はそう簡単には変わらないと言うことか…」

赤い髪の少年が、走り去るユリカの背を見ながら、半ばあきらめたように言葉をもらす。

「自分で言うのもなんだけど……不審者を無視して行くことは、よくないと思うけどな〜」

黒い髪の少年も、苦笑しながら赤い髪の少年に話しかける。

「でもマイト、あきれてる場合じゃないよ、アキトさん達が目を覚ます前に行かないと…」

「あぁ、解っているよカイト。 あと前にも言ったがこちらの時代ではクウヤと呼んでくれ」

「そうだったねクウヤ。 もうすぐリョーコさん達も出撃するころだろうし、
 まずはエステバリスを手に入れないと…」










「敵、第二陣来ます」

「グラビティ・ブラストをチャージしつつ、後退。エステバリス隊は全機出撃、
 ナデシコの前方をふさがないように注意して。」

「 イネスさん、そこの2人を、こちらに連れてきてもらえますか?」

ユリカが、いまだ展望室にいる、イネスに頼んでいた。




「私が、起きたときときには、誰もいなっかたけど?」

イネスが、何を言ってるのっという感じで、聞き返してくる。

「ええええっ、ルリちゃん、今2人が何処にいるか、調べてくれる」 

ユリカに言われて、調べると2人は、格納庫の予備のエステの中にいた。




「艦長、2人は、予備のエステバリスの中です。」

「かんちょー、どうなってんだ?いきなり見知らぬ奴が2人やって来て、俺のエステを起動させているんだが!」

格納庫のウリバタケからブリッジに連絡が入る。




「ルリちゃん、モニターに出してくれる」 

ルリはブリッジの全員に見えるように、大きめのサイズでモニターを開いた。

「おうおう、おめぇーら、俺のエステをどうするきだ!」




「ウリバタケさん、艦の備品は貴方のではないと、何回言えば…」

「違うんだよ、あれは俺が密かに改造したやつで、とても普通の人間が乗れる状態じゃないんだよ!」

ウリバタケが一生懸命、プロスペクターに言い訳をしていると。




「あの〜、発言してもよろしいでしょうか?」

黒髪の少年が、プロスペクターとウリバタケの会話にはいる。

「え、ええ、それで貴方、お名前は?」

「申し送れました、僕は、カザマ カイトと言います…多分?」

困ったように笑いながら、カイトは言った。




「カザマ カイトさんですか…それで、多分と言うのは?」

「どうやら、名前以外、思い出せないんですよ」

「むむぅ、それは困りましたね、それでそちらの方は?」

プロスペクターは赤髪の少年について質問してきた。




「彼の名は、アマミヤ クウヤ、多分、僕の知り合いです」

「でぇ、なんで記憶喪失のお二人さんが、エステに乗ってる訳?」

ミナトが2人に質問してくる。




「何もしないで、死ぬのは嫌だからな…」

クウヤが質問に答えた。

「困りましたね〜、艦長どうしますか?」

「――――わかりました、貴方たちを信じます。 このナデシコを守ってください!」




「艦長、正気か!」

ゴートが驚いて、叫んだ。

「でも、二人とも、嘘は言ってるようには、見えないけど…」

メグミがカイトたちを、見て言う。

「はい、大丈夫です。悪い人たちじゃありません」

「わかりました、とりあえず貴方方は、ナデシコの臨時パイロットと、言うことで」

プロスぺクターが何処からともなく、契約書などの準備をする。




「あ〜、話は終わったか?いいか二人とも、その機体はまだ未完成で、
 本来は人が乗るような状態じゃない、いいかぁ、決して無理はするなよ」

ウリバタケが、機体の説明と注意をしてから、通信を切る。




「わかりました、カザマ カイト出ます!」

重力波カタパルトから、カイトが出撃する。

「心配するな、おっさん、艦長の期待には答えるさ…、アマミヤ クウヤ出るぞ!」

ゴートに向かって一声掛けてから、クウヤの機体が出撃する。




「お、おっさん…」

「 まあまあ、抑えて下さい、とりあえず彼らの実力を見せて貰いましょう。
 それに、チューリップの移動中に現れたということは、もしかするかましれませんね〜」

プロスの眼鏡が、怪しく輝いた。

「では、ミスター?」

「しかたがありません、私は会長に報告してくるので、しばらくお願いします」

そういうと、プロスは足早に、ブリッジの外に出て行った。


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