#3“beautiful dreamer”




とある医療施設。

廊下を歩くラピス・ラズリ。

「ふぅ」

そっとため息をついてみる。

すれ違う人の目、怖い。

多少慣れてきたとは思うが、やはりまだ苦手だ。

右手の帽子をかぶりたいが、室内では行儀が悪いとたしなめられている。

「あら、ラピスちゃん?」

後ろからかけられる声に振り向く。

「……あ」

顔見知りの看護師がこちらに歩いてくる。

「今日はひとりなのね」

「……うん」

「あら、きれいな花ね」

「……あ、これ」

出掛けに持たされた水仙の花束。慣れた手つきで看護師が受け取る。

「花瓶に活けてくるから、先に行って待っててくれる?」

「……うん……はい」

手馴れた対応の看護師に気圧されるようなものを感じながら、『いつも』の部屋へ向かう。

「…………」

扉をそっと開ける。

何度も訪れた見慣れた室内。白い壁と床。そして白いカーテン。

窓際のベッドに歩み寄る。そこに横たわるひとりの男。

「……また、来たよ」

傍らのパイプ椅子に座り、その顔を覗き込むラピス。

『彼』はいま、眠りの底にいた。





機動戦艦ナデシコ
『NADESICO THE MISSION』






第三話 月面の『群青』



一路月への航路を取るナデシコB。

『火星の後継者再び起つ』。

その報はこの宇宙を揺るがし、そして恐怖させた。

いまだ態勢の整わない宇宙軍。なし崩し的に対応を求められたナデシコにおいて、ミカズチの最初に下した命令は、月面での補給だった。

「………」

もともと短期の訓練航行の予定だったナデシコには、武器も物資も不足していたのだ。

艦長席で無言のミカズチ。

「正面、月面基地。見えました!」

ハーリーの声に頷く。

「艦長」と、ミカズチの方を振り返るルリ。

と、わずかにミカズチが息を吐くのがわかった。

疲労しているようだった。

無理もない。

ここまでの航路、訓練課程の修了も待たず、すでに数度の実戦指揮を否応なく執らされてきたのだ。

「……ええ、管制に連絡を」

こちらに視線を向けるミカズチ。

その語尾に苛立ちを感じた。

何に対する?

無論、自分自身だろう。

思うよう指揮を執れぬ自分自身に。

そして、それに疲労を覚える自分自身に。

「ハーリー君。お願い」

「了解」

ハーリーに指示を出しつつ、艦長席の数歩をゆっくり進む。

「お疲れ様でした艦長」

「……どう思われますか、少佐?」

「え?」

わずかに緩んだように見えた空気は、一瞬で引き締められていた。

「火星の後継者の動向です。決起の声明を行ったかと思えば……」

「え、ええ……確かに、以降の大きな動きと言えば、私たち……というよりナデシコへの散発的な攻撃のみ」

「無論、ナデシコと言えば彼らには因縁深い……いや、むしろ怨念とでもいったもののこもった艦でしょうから、それが理由だといわれればわかる気もしますが」

シートの端末に手を置きつつ立ち上がるミカズチ。

「……しかし、なにかが引っかかる」

正面を見上げミカズチ。その眼に映る正面ディスプレイ。その先にある虚空を睨む。






闇にその身を潜める、火星の後継者艦隊。

旗艦かんなづきの執務室。

デスクに着く南雲義政。

机上の端末。そのディスプレイに映るひとりの男。

「この男か?」

傍らの女性にたずねる。

「はい」

答えつつディスプレイを覗き込む女性。その動きに合わせ、ブラウンの長い髪が流れる。

「連合宇宙軍中佐。元月面第7訓練学校教官にして現機動戦艦ナデシコB艦長候補生」

「ふむ……会ってみたいものだな」

「……は?」






「艦長、こっちの書類にもサインをお願いします!」

「ええ……」

積み上げられる補給物資の山。

それは心底ありがたいものだ。

だが、物資の山があれば、それに対応する書類も山とある。

それに端から署名を入れていくのも、艦長の仕事だ。

このハイテクの御世に何故サイン? という疑問は、とりあえずこの山をさばき終ってから抱くこととしようか。

「……ふう」

あらかた終わったか。帽子を少し持ち上げ風を入れるミカズチ。

「艦長こっちにも……」

「はい」

流れ作業のように、署名を入れるミカズチ。

この状況において、その書類の文面に深く目を通さなかったことを、彼の過失だと評するなら、それはその評価を下したもの自身に非難のまなざしとなって跳ね返るかもしれない。

「ご契約ありがとうございます!!!」

「え?」

プロスペクターの声に、顔を上げるミカズチ。その耳元でならされるクラッカー。歓迎会のがまだ残っていたか。

思わず手元の書類に眼を落とすミカズチ。

『美少女と半日デート権』

「………ぅ」

その背後でくす玉の割れるウィンドウが開き、ファンファーレが鳴り響いた。





月面居住区。

軍事施設に隣接するとはいえ、人と娯楽が集まれば、そこに賑やかさが生まれるのは当然ともいえる。

「……ふぅ」

そんな喧騒を避けるように、小高い丘へと抜ける、ルリとミカズチ。

そこは展望施設を兼ねており、分厚いガラス越しに月の表面を見ることができた。

だが、その光景はやはり寒々としており、人影はまばらだった。

月面屈指の不人気デートスポット。口の悪い人に言わせればそうなる。

そんな場所でも、軍服姿のグラサン男という、人目に付きすぎる相手を連れ出す先としては、うってつけとも言えた。

「あの、私服はないんですか?」

「……まあ、着の身着のままといいますか、あとはアーミーコートくらいで」

私服のルリと並ぶとなんとなくインモラルなミカズチ。

補給物資の搬入作業中、気を利かせたつもりなクルーたちによって、放り出されるように町へ出てきたふたり。

とはいうものの話題がない。

「………艦長は月は初めてなんですか?」

先程からあたりを伺う様子のミカズチに声をかけてみる。

「……いえ、以前は月の訓練学校で教官を……していたそうです」

記憶がないからか、他人事のように答えるミカズチ。

「あの……立ち入ったことを……聞いても……いいですか?」

うつむきながら問いかけるルリ。

「……ええ」

「艦長は、記憶を……失くした原因は……ご存知なんですか?」

「………」

足を止めるミカズチ。

「………す、すみません。ホントに立ち入ったことで……」

「ある日起きたら……」

「え?」

「全てを失くしていた」

「……」

「といったら、信じますか?」

「……それは……」

ルリのほうに向き直るミカズチと、それを見上げるルリ。

「目覚めた瞬間は全くの虚無でした……」

「………」

「たまらなく怖かった……。一瞬でも早くその虚無が埋まることを願った。そしてその願いはすぐ叶った」

視線を上げるミカズチ。

「悔恨。全身にそれが湧き上ってきた。何かを、大切な何かを失ってしまった、それだけはわかったのに、何を失ったのかが思い出せない」

「艦長……」

掌を凝視するミカズチ。かつてその手の中にあった何か。それを惜しむように。

「苦しかった。どうすればいいのか、何かをしなければいけないはずなのに、それがなんなのかわからない……」

握られる手。だが、つかむべきものは、そこにはない。

「………」

空っぽの手は、虚しく開かれる。

「大丈夫ですよ」

そっとミカズチの腕に触れるルリ。

ミカズチの顔がこちらを向くのを確認するとつづける。

「大丈夫です。失ってなんかいませんから」

「……少佐」

「もし、失っていたとしても、それはきっと取り戻せるはずです。だって失ったとしても消えて無くなってしまったわけではありませんから……多分ですけど」

そしてそれは、いまあなたの目の前に……。

「いまこの『刻』においてはね……」

「え?」

再び拳を固めるミカズチ。手袋がキュッと音を立てる。

「それより少佐、……アイスは食べたくありませんか?」

「……は?」

「私はなんだか無性に食べたくなりました。さっき、坂の下で売っていたハズです。奢るので買ってきてください」

「え、ええ?」

財布を渡され、戸惑いを無視されつつ、押し出されるように歩いていくルリ。

その背中が坂道の下に消えるのを見届けると、おもむろに視線を正面に向けるミカズチ。

「……さて、そろそろ出てきませんか?」

ガチャリ。

ミカズチの声に答えるように響く金属音、鍔鳴り。

「………!」

ふらりと現れる『紅い』コートの男。

両手に一振りずつ、無造作に握られた刀。

右手の刀は白鞘。

そして左手の刀は朱鞘。

「…………」

「…………」

無言の対峙。

一陣の風が、両者の『紅』と『白』のコートの裾を翻す。

「………」

と、無造作に右腕を振る男。

ブンッ。

その手にあった刀が、ミカズチ目がけて宙に舞った。

「!?」

思わず視線を向けるミカズチ。

「!!」

その一瞬が仇となった。

落ちてくる刀の向こう、向かってくる殺気。

思わず戻したミカズチの視線。その中を、抜刀の体勢をとった男が、一気に距離をつめてくる。

「く!!」

右。

左。

後方。

意識を走らせるミカズチ。

だが、その意識の先に見えたのは、男の刀の餌食となった自分の姿。

ならば、

「ちぃ!!」

地を蹴り前方に駆け出す。

落ちてくる刀に手を伸ばす。

向かってくる『紅い』殺気。

それより、ほんの少しだけ早く、左手が白鞘の刀を捕らえる。

「「!!!」」

金属の打ち合う音とともに、交錯する紅白の影。

刀を振り終わった体勢のまま、動かない二人。

再び、一陣の風。

と、

「うっ!!」

右腕を押さえ崩れ落ちるミカズチ。

「……」

悠然とそちらへ向き直る男。いささかの息の乱れもない。

「くっ……」

腕を押さえながら、男の顔を睨みつけるミカズチ。

右腕を左手で押さえながら、何とか刀を持ち上げる。

「……ほう」

軽く笑みを浮かべる男。

「我が名は南雲義政」

「……ミカズチ・カザマ、だ」

「……」

一瞬怪訝そうな顔を浮かべる南雲だが、表情を戻すと、踵を返す。

「ま、待て!!」

呼び止めるミカズチの声、だが、それには振り向かず、

「その刀の銘は『一文字則宗』。木連五剣が一刀。貴様に預けておく。再び戦場であいまえるその時まで………貴様の命とともにな!」

「な……」

朱鞘に刀を納めつつ、歩み去る南雲。

それを見送ることしかできないミカズチ。

ようやく握力の戻ってきた右腕。

右腕は切られてはいなかった。どうやら、男は峰を返していたようだ。

こちらを殺すつもりではなかったのか。

それなら何の目的で……。

「ただの小手調べ……とでもいいたいのか? しかし……」

額の汗を拭う。

「シナリオ外だろう? これは……」

いまだ震える腕で、何とか刀を鞘にしまう。

鞘、そして柄までも白一色。

「…………」

見覚えがあった、だがそれは……。







「………」

一人歩く南雲。

前方に現れる若い女性。

「引き揚げだ」

すれ違いざまの南雲のつぶやきに、素早く路地へと走りこむ。

「……」

ふと立ち止まる南雲。

その左頬をつたう赤い筋。

ミカズチの剣先が僅かに届いていたのだ。

「……フ」

軽く、口元を歪ませる南雲。






「艦長」

手元に視線を落としているミカズチ。その背にルリは声をかける。

「ああ、ホシノ少佐。お帰りなさい」

「あの、アイス屋さんなんてどこにも……」

財布を差し出すルリ。と、彼の場違いな持ち物に気づく。

「……どうしたんですか、それ?」

「ああ、これですか」と、刀を軽く持ち上げるミカズチ。

「合格祝い……といったところでしょうか?」

「え?」

「ちょっとした試験をたったいま受けましてね。で、どうやら……私は、一応及第点をもらったようです」

南雲が直々に出向くに値する相手。そう認められたから、いま、彼は生かされているのだろうか。

「……艦長?」

怪訝そうなルリ。

だが、もしそうであるなら。

あるなら、次にとるべき行動は。

「………ところでホシノ少佐は足には自身はありますか?」

視線をルリの下半身に向けるミカズチ。

「え?」

思わず足を押さえてちょっとあとずさるルリ。

「真面目な話です、答えてください。あと急も要します」

真剣な口調のミカズチ。それに押されるようにおずおずとルリ。

「そ、その、あんまり肉体派でもないので……で、でもまだ成長期は終わってないはずなので、こ、今後に期待というとこで……きゃ」

その言葉を言い終わる前に、体を軽い衝撃が襲った。

「え?」

我に返るルリ。

「ええ!? ちょ……」

気づけば、ミカズチに抱き上げられている。

それは俗に言うお姫様抱っこというものだった。

「失礼!」

短く謝意を告げると走り始めるミカズチ。

「な、なななんですか、一体!?」

軽く手足をバタバタさせるルリ。

本気で暴れると落ちて危ないとは、彼女の内心の言い訳だ。

「……緊急事態です」

「え?」

「敵がいました」

「!」

「いた理由はわかりません。だが……逃がすわけには行かないっ!」

ミカズチの声音。軽く身を震わせるルリ。

「それは一体……」

「ナデシコと……オモイカネに連絡を。発進準備に至急取り掛かるように、と!」

ルリの声を遮るように続けるミカズチ。

「……はい」

自分の肩と足を支えるミカズチの手。腰の下でなる刀の無機質な金属音。

冷たい。

これほど近くにいるのに。

そっとミカズチの顔を見上げる。

だが、その視線をバイザーのスモークが遮る。

顔が見たい。

いまルリは痛切に思う。






発進準備。喧騒を宿すナデシコB。

『エステの発進準備も!?』

ブリッジのミカズチ。それとコミュニケで通信するウリバタケ。

「やってください。基地戦力は当てにできません」

『物資の搬入だって、まだ終わっちゃ……』

「だから、ナデシコの発進は遅らせます」

『同時にやれってのか、そりゃ無茶だよ』

「やれますよ。できるはずです……あなたなら」

『……はぁ、見込まれちまったもんだね。了解だ』

ウリバタケのコミュニケが閉じる。

つづいて、パイロット達に指示を始めるミカズチ。

その背を見つめるルリ。

敵がいる。

その根拠を問いただすこともできた。

ルリの権限で強制的に制止をすることもできた。

「…………」

だが、切迫した彼の雰囲気がそれを許さなかった。

離れていく。

そんな想いを抱きながら、それでも何もできぬわが身。

それが虚しい。







『やっとこさの登場ぉ!』

意気揚々とサブロウタ。

「壁張り付きながらじゃキマらないって」

向かいの岩壁からイズミが突っ込む。

二匹のイモリだかヤモリのようだ。

リョーコとヒカルがクレバスに沿って出撃して五分ほど。ここでの待機ととある細工を命じられ、後者をたったいま完了したところだった。

「さて……」

と、右手をカメラアイにかざすサブロウタ機。

前線はどうなっているか。







『うらうらうらうららぁああ!!』

『叫んでも威力は変わんないよ〜」

リョーコとヒカルの眼前。

谷間を覆う無数のバッタ。

ライフルの弾を叩きこむ二機のエステバリス。

『うるせ! 気合の問題だ!!』

『でもさぁ〜』

『お前はしゃべんな!! 気が抜ける!!』

敵の目的は撤退。通常であれば戦力を小出しにして、時間を稼ぐのが定石。

だが、敵の指揮官があの『紅武者』であるなら……。

ミカズチの読んだ南雲の手は、持てる戦力の大半を一気に敵にぶつけ、こちらに打撃を与えた後、その混乱を使用しての撤退、だった。

そしてどうやら、ミカズチの予測は当たった。

それは彼が艦長としても頼むべき男であることの証明ではあるが、だからといって、この状況が愉快であるはずもない。

『リョーコさん、ヒカルさん、頃合いです。退いてください』

その『彼』からの通信だ。

『あいよ!!』

『りょ〜か〜い!』

アタッチメントの手投げ弾を敵中に投げつつ、180度ターン。

背面に爆風を浴びつつ、ローラーダッシュ。

だが、振り切れない。

爆風の向こうより、破損した互いをふみつけるように、続々と現れるバッタの群れ。

『うぇえ……なんかグロテスクぅ……』

『サブ! イズミ!!』

リョーコたちの前方に彼らのエステバリスが見える。ナデシコのドック前。谷間の出口付近。そこが最後の防衛線だった。

『『………!!』』

二機のエステバリスは、その声に応えるようにレールカノンを構え、撃つ。

一見、見当外れとも思える方向へと飛ぶ二発の閃光。

それは先程までサブロウタとイズミのいた岩壁の『細工』を直撃する。

爆発音とともに崩れ落ちる岩肌。

それは真下にいたバッタの群れを巻き込んでいく。

「おし! っと、次、来いや!!」

身構えるリョーコたち。だが、後続のバッタ達は一斉飛び立つ。

岩肌を利用した攻撃。だが、それは相手が崖の谷間にいなければ行うことができない。

崖ごとリョーコたちを飛び越え、一気にナデシコとその後方の補給基地へと殺到しようとするバッタ。

『!!!』

だが、その瞬間、『彼ら』のカメラアイは、そこにありえないものをとらえた。

彼らの前方。空間に制止するナデシコ。

リョーコたちが、あれ程強固に防衛の壁を張っていたその先に、ナデシコはいなかったのだ。

全てはこの岩肌の上の、この何もない空間へ『彼ら』を誘い出すための罠だったのだ。

臨界を迎えたナデシコの総転移エンジン。

吐き出される重力波の本流、グラビティブラスト。

飲み込まれていくバッタの群れ。

「うはははは、どうだ、ど〜だこの野郎……」

格納庫で大量の物資に埋もれ、『金色』のコンテナにもたれかかるウリバタケと整備班の一同。

疲れ果てつつも誇らしげなその声が、『彼ら』に届くことはなかっただろう。






爆発の閃光をバイザーに受けつつ、前方を凝視するミカズチ。

まだ終わっていない。

この宙域の何処かに南雲はいる。それを見つけなければ。

「私の戦いは終わらないんだっ……!」

「前方!! 敵影!!」

「!」

ハーリーの悲鳴のような報告が届く。

爆発の閃光を潜り抜け、現れる火星の後継者旗艦かんなづき。

「!!!!!」

驚愕。

凍りついた時間の中、ゆっくりと近づく両艦。

攻撃を行うには、お互いの距離が近すぎていた。

互いの身をこすり合わせるように、船体がすれ違っていく。

かんなづきのブリッジに視線を向けるミカズチ。

そこに見える、ひとりの男のシルエット。

むこうも、こちらを見ている。そう感じた。

やがて、悠然とナデシコの傍らを通り過ぎ、そして虚空へと去っていく。

「いやはや、まさかの敵中突破とは……」

プロスペクターの声。

「赤備えは、むしろ突破される側ではありませんでしたか?」

そんな声を背に、ミカズチは虚空を睨み続けた。







「おとり部隊……ですか」

宇宙軍総司令ミスマル・コウイチロウ。その命令に対して、思わずルリの口をついたのはその言葉だった。

『……火星の後継者、特にそのトップである南雲義政は君たち、というよりナデシコに対して、異様ともいえる執着を示している』

ナデシコの通信室。そのディスプレイから淡々と語られるコウイチロウの言葉。

「確かに、今回の襲撃でも、それは確認されたように思います。でも、逆にその執着はいまの宇宙軍にとっては僥倖である、と?」

『そこまで楽観視してはいないつもりだがね。だが宇宙軍、統合軍ともにいまは疲弊している。いま何より欲しいのは時間とそれを稼いでくれる存在だ』

「……では」

『ああ、そのためのターミナルコロニー・コトシロへの攻撃作戦だ。コトシロは現在彼ら火星の後継者の制圧下にあるが……』

その言葉の終わりを待たず、ルリは続ける。

「そこに彼らの仇敵たるナデシコを中心とした艦隊が攻撃に向かうとなれば、火星の後継者はそこに戦力を集結させるはず……」

『ああ、現状、戦略的にみて火星の後継者に取られたくないのは火星極冠の『遺跡』と木星のプラント。そこから敵の目を逸らす上ことができる、そして……』

「あわよくば、そのまま敵戦力の大半の殲滅を、ですか?」

『………細かな作戦は随時連絡をする。』

そう結ぶコウイチロウに、しばし無言のルリ。だが、やがて、

「この話、どこまで艦長に?」

『君に任せるよ。だが、彼の能力からすれば、ある程度の推察をつけるのではないかな?』

「………そう……ですね」






格納庫を歩くミカズチ。

月面で受け取った補給物資。

各部署への配置は順調のようだ。山積みだった物資はなくなりつつある。

そんな中、一際目を引く巨大な金色のコンテナ。

大きく書かれた『KS』の文字。

「………」

コンテナに手を触れるミカズチ。

脳裏に蘇る、南雲の、眼。

左手の刀をそっと掲げる。

「わかっているさ……私が『戻って』きたのは……あなたとの決着をつけるためでもあるんだ」

決着を。

そう、この剣に懸けて。




つづく



マキビ・ハリの日記より

「僕らナデシコは火星の後継者との決戦に挑む。でもそこには、『紅』色の炎が、既に燃えさかっていた」

ミカズチ「次回、機動戦艦ナデシコ『NADESICO THE MISSION』 MISSION 4 『紅』の反逆者」








木連五剣

旧木連で草壁が管理を行っていた五振りの刀の総称。いずれもかつての名刀の銘を冠しているが、その出自は不明。




紅武者

南雲しゃんの二つ名。読み方は「あかむしゃ」・「あかきむしゃ」・「くれないのむしゃ」等々。




プロット

ナイクロ並みに長くなりそうなので、フラグ管理とかにと今回作ってみたんですが、やっぱ長くなりますなこのシリーズ。現状、本編だけで13話。それにプロローグとエピローグがくっつきますので……ふぅ。




あとがき(一発ネタ募集)

まだ生きてます、異界です。ネットで買った海外版ロディマスカッコいいです。でも高いです。腹減りました。で、第三話です。一応ゲームや攻略本見ながら書いてますが、だいぶ変えてしまってます。どうかご容赦。


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