Good-bye my sweet......#6 電子音が響くコクピット。 薄明かりに照らされる『黒い』影──テンカワ・アキト。 『サレナより、各スペックは一割減ぐらいに考えていて』 ウィンドウのエリナに軽く頷きつつ、手元のディスプレイの文字に眼を遣る。 『NOIR』 「『闇』……か」 『え?』 「いや、発進準備完了だ」 『そう』 ふと、自分の右頬に手をやる。 「フ……」 久しぶりに『痛』かった。 窓から夜の街を眺めるジュン。 救急箱を取りに行ったユキナはまだ戻らない。 「……っ」 左の拳。 酷く『痛』かった。 機動戦艦ナデシコ 最終話 記憶の『貴方』に…… 「我が軍優勢! ナデシコを押し込んでいます!!」 「………」 いまだ手を組み合わせたまま、モニターをにらみ続ける南雲。味方の優勢にもその表情はいささかも緩まない。 「中佐! 積尸気隊にも発進命令を! このまま一気に!!」 「まだだ」 彼の落ち着いた声が響く。 「は?」 「バッタのみでよい。 有人機はまだ出すな」 「しかし!」 「………力のみで勝てる程、甘い相手だと思うな」 「敵バッタ多数!! 来ます!」 ハーリーの報告がナデシコのブリッジに響く。 「フィールド出力全開!!」 ユリカがそれに負けじと声を張り上げる。 その声を押さえつけるように、ナデシコを襲う振動。 「防御を固めつつ後退します! エステバリス隊はナデシコから離れないで!」 敵との戦力差は大きい。また、ナデシコの最大の武器、グラビティブラストは威力が大きすぎる。敵艦隊の背後にある『機械の森』まで傷つけかねない。 「………」 勝算は薄い。だが、退くこともできない。 絶望的な状況、であるはずだった。 「(…………もう少し、あと少し)」 ただ一点。ユリカの瞳に宿る光だけが、その途の闇を照らしていた。 攻勢をかける火星の後継者。ナデシコを追い包むバッタ勢。 だが、その勢いが頂点に達したとき、その軍勢の線はのび切り、火星の後継者の艦隊からもその背後の『機械の森』からも遠く離れていた。 そして、それこそがユリカの待ち望んだ瞬間だった。 「いまよ! ラピス!」 「ボース粒子反応!!」 「なに!」 「ユーチャリスボソンアウト。同時にグラビティブラストスタンバイ」 12時方向。火星の後継者のバッタ達の頭上にジャンプアウトするユーチャリス。 ブリッジの薄明かりの中、バッタの群れに照準を合わせるラピス・ラズリ。 「発射」 「バッタ部隊! 三分の二が消滅!」 「いったん退かせよ! ええい! この為の陽動であったか!」 艦隊前に再集結するバッタ部隊。 「(三分の二……いや、なぜ彼奴らはバッタを全滅させなかった?)」 南雲の思考の直後、後退したバッタの一部が背面を展開、ミサイルを乱射した。 ユリカの作戦は、まだ終わってはいなかったのだ。 「な!」 それらは味方のはずのバッタや一部の艦艇を巻き込みつつ、さらに自爆を敢行。無人兵器のみならず、火星の後継者の艦隊にも打撃を与える。 「ば、馬鹿な……これは……」 彼らに動揺が奔る。こちらのコントロール下にあるバッタをこうも自在に操る方法は、ひとつしかない。 「し……システム掌握?」 「か、火星での悪夢が……」 完全に浮き足立つ火星の後継者。 「いまです! エステバリス隊前進!!! このまま一気に勝負を決めます!!」 『おおよ、行くぜ野郎ども!!』 リョーコの勇ましい声が響く。 『あたし女なんだけど〜』 『同じく』 『俺は……野郎というより……貴公子?』 『どこがだ! つべこべいってないでいくぞ!』 一転、反撃に出るナデシコ。 ユーチャリスも随行するように前進。その甲板に現れる黒い機影。 エステバリス・ノワール。 サレナに替わるアキトの機体。 コクピットのアキト。ウィンドウのラピスに視線を遣る。 「ラピス、言ったはずだ。お前の道を探せと」 「探した。それで見つけた。私の道はここ」 「違う!」 思わず声を張り上げるアキト。 だが、その声にもラピスの眼差しは揺るがない。 「違うかもしれない……ほかの道、あるかもしれない。でも……いまはこの道しか見つけられない」 「………きっと見つかる。お前の……こんな薄汚れちゃいない……道が!」 「だから、その時まで、私の行く道、アキトの道」 「………好きにしろ」 発進するアキト。 その視界をナデシコのブリッジが掠める。 「(ユリカ……………ラピス)」 胸が押しつぶされそうだった。 何か、暖かい何かに。 「(アキト………)」 黒い機影に一瞬視線を送るユリカ。 逢いたい。 話したい。 アキトって叫びたい。 「(でもいまは……)」 来てくれた。ただ、それだけでいい。 「(それが、私とアキトとの絆なんだ)」 いまは、いまだけはそう思いたい。 「ナデシコ攻勢に出ました!!」 「中佐!! このままでは!!!」 「……ククク」 ふと響く南雲の含み笑い。 「……中佐?」 「フハハハハハッ!!」 怪訝な顔で南雲を見る傍らの副官。 「勝てるぞ、この戦い我々の勝ちだ!」 「な……しかし!」 「システム掌握ではない」 一転して落ち着いた声の南雲。 「……は?」 「おそらくは、先程の増援……ユーチャリスと言ったか、それの攻撃の際だ」 言葉に合わせ、鋭く輝く南雲の眼。 「中佐、まさか」 「そうだ、重力波砲を目くらましに、自前のバッタを潜り込ませ、自爆させたのだ。さも、こちらのバッタを掌握したようにな」 「し、しかし、確証がありません」 「あるさ」 そういいつつ正面のディスプレイを指差す南雲。 「彼奴らのこの攻撃がそれを物語っている」 「は!」 「もし本当にシステム掌握ができるなら、われわれに対してもそれを仕掛けるはずだ!」 「し、しかし現在の敵の攻撃方法は、一転して正面からの力押し!!」 「タネが尽きたのだ。彼奴らの手品のな。そして……わかるか本郷?」 「そして、逆に言えば、敵はこんな小細工なしでは……我々と正面から戦う程の戦力がない、ということですか?」 副官の男──本郷というらしい──にもわかってきた。 そう、過去、歴史上のあらゆる戦闘が物語っている。奇手・奇策・そして奇才、常に生まれ出でるのは、戦力の劣る側からだ。 「そういうことだ、積尸気も『赤備え』も出す必要はない。このまま無人機で消耗戦を仕掛ければ、いずれ彼奴らの息も上がる」 コートの裾を払いつつ立ち上がる南雲。 「バッタを前面に押し出せ! だが深追いはさせるな!」 「く、こいつら!」 両肩のキャノンを連射しつつ、毒づくサブロウタ。 ユリカの策に一度は浮き足立ったはずの火星の後継者。だが、それも一瞬。いまは規則的な攻撃を繰り返して来ている。 それは、ボディブローのようにじわじわとこちらの体力を奪っていく。 「……奴か」 眼の前のバッタの群れの向こうに感じる。あの男の気配を。 「クッソォ! あの赤カブト野郎がぁ!」 「……ガンポッド射出」 ノワールの背面から、打ち出される四機のガンポッド。 ワイヤーによって操作されるそれは、アキトのノワールの周囲へ展開される。 「……喰らえ!!」 両腕のハンドカノンと合わせ、六つの砲門が火を噴く。 次々と砕けていくバッタの群れ。 だが、その数はあまりにも多い。 「……おい」 周りを囲むバッタを無視するように、虚空を睨むアキト。 「いつまで待たせるつもりだ」 無造作に、左腕を突き出すようにハンドカノンを撃つ。また一機バッタを撃墜。 「さっさと出てこい!!」 突撃をかけるバッタをかわしつつ、カウンターの銃撃を浴びせる。 「カイト!!!!」 「ボース粒子反応!!」 「え?」 「なに?」 「おい!」 「まさか!」 極点方向。 奔るボソンの閃光。 光の中にかすかに浮かぶシルエット。 瞬間、奔る十二の光。 それはバッタの爆炎を引きつれ、文字通り群れを真っ二つに引き裂く。 影が実像を結ぶ。 「来たか……」 光を纏うナルシサス。 「………」 物憂げに両腕のライフルを投げ捨てる。 「こういう武器は性に合わん」 『ば、馬鹿野郎!! オメエが出てきてどうすんだよ!!』 「そこの天然女!」 リョーコのコミュニケを無視しつつ、ナデシコのブリッジに呼びかける白銀の騎士。 「…………」 「…………」 「……ほえ?」 周囲の視線に気づくユリカ。それでようやく誰が呼ばれているのか気づいた。 『武器を射出しろ! フィールドランサーを二つだ! 急げ!』 「ちょ、ちょっと! なんでルリちゃんが『妖精』で私が『天然』なのよ!!!」 『いいから武器……「おかしいじゃない! 変じゃない! どうせならもっと可愛いので呼んでよ!!」 『………』 「………」 『……ペンギン女?』 「贔屓よ差別よ不平等よ! 私はあなたをそんな子に育てた覚えはないわよ!」 『いや、育てられた覚えも……「ふんだふんふんだ、もうなんにもしてあげないんだから!!」 「(すごい)」 「(あの『騎士』と互角……いや)」 「(圧倒してる……)」 凍りつく一同。ユリカ最強説急浮上。 『……姫君』 「うんうん、初めからそう言えばいいのよ。じゃ、ウリバタケさんお願いね」 『結局やるの俺なんだよなぁ〜』 右腕から立ち込める『光』。 荒々しげに、左手で押さえつける。 まだだ。 あと少し。 もう少しだけもってくれ。 射出されるランサー。 「フッ!」 殺到するバッタ。 「援護しろ!!」 『命令すんな!!』 エステバリス隊の銃撃。それを盾にするように加速するナルシサス。二振りのランサーを左右の腕でキャッチ。 「ハァァァ!!!」 一対の刃が無数の光筋を描き出す。 それに導かれるように、爆散していくバッタ。 「くっ……」 その光景に見入るサブロウタ。 味方、であるはずなのに、その力にはいつも戦慄を感じてしまう。いや、味方だからこそか。 「ん?」 ふと動きを止めるナルシサス。 なにかの作戦かとも思ったが、まったくの無防備、いや、それどころか棒立ちの状態だ。 「おい、まさか! おい! 応答しろ!!」 ナルシサスのコクピット。 シートに身を沈めていく白銀の騎士。 「(……う)」 遠くの方から何か声が聞こえるが、聞き取れない。 「(視覚につづいて……聴覚ももうだめか)」 先程、武器をランサーに持ちかえたのも、もはや視覚をほとんど失った故だった。敵に肉薄して振るうランサーなら、辛うじてだが、まともに扱うことができたのだ。 飲み込まれる。 「(…………妖せ……)」 飲み込まれていく。闇に。『闇』にすべてが。 だがその時、『闇』が吼えた。 『うおおおおお!!!!』 「!!」 至近弾が装甲を揺らす。 「く!!」 叫び声か振動か、そのいずれかが彼の意識を呼び戻した。 『はあああ!!!』 「ちぃ!」 微かに戻った視覚が、漆黒の機体を捉える。 機体をきりもみさせ回避。外れた銃弾が背後のバッタを打ち抜いていく。 「ぐぁ!!」 ランサーをカウンターに繰り出すが、かわされる。勢い余った刃がまたも周囲のバッタを両断する。 「黒き王子!!!」 『白銀の騎士……いやカイト!!』 「うおおおお!!!」 『はぁああああ!!!』 周囲のバッタを巻き込みつつ、再度ぶつかり合うふたり。 『お前のすべてを包み込んでくれるほど!! 『闇』は優しくはないぞ!!!』 「やめて!! やめてよアキト!! カイト君は!! カイト君はもう!!」 ブリッジから叫ぶユリカ。その声は悲痛に染まっている。 その肩にそっと手が置かれる。 「え?」 『いいんだ……これで』 リョーコのコミュニケが開く。 『戦士が死ぬのは………戦いを止めた時』 イズミのコミュニケがつづく。 『だったら、戦い続ける限り戦士は死なない……』 ヒカル。 『だから……戦え……戦うんだ!! ……カイトォ!!』 そしてサブロウタ。 「イネスさん……」 振り返るユリカ。置かれた手の主と視線が合う。 「……許可をもらえるかしら、艦長?」 白衣のポケットから取り出されるCC。 「味方同士で……何をやっている」 呆然とディスプレイを眺める本郷。 「………中佐?」 助けを求めるように南雲に向き直る。 「……まるで、子供の喧嘩だ」 「は?」 「いや……気が変わった。私の機体を出す。用意を」 格納庫へと歩き出す南雲。 「は、いや、しかし!」 と、彼らの間に現れる、『光』。 「!!」 『待って! 話を聞きなさい!』 『光』の中から響く声。 身構える彼らの中心で、その『光』は一人の人物になる。 「貴様は?」 南雲の誰何。 「イネス・フレサンジュ。敵ではないつもりよ、少なくともいまこの瞬間は」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「その話。どこまで信じろと?」 「全部よ、全部」 対峙するように立つ、南雲とイネス。 見下ろす南雲の視線にも、イネスは動じない。 ゆらりと南雲の右腕が揺らぐ。 「!」 いつの間にか抜き放たれた南雲の刀。 イネスはその切っ先が、自分ののど元に突きつけられていることに気づいた。 「……く」 「………」 いっそう凄みを増す南雲の眼差し。 だが逸らすわけには、退くわけにはいかない。 汗が髪をつたい滴る。 あまりに多くの時間を無駄にしてきた。 あまりに多くの命を軽んじてきた。 そのツケを支払うのがいまなのだというのなら、余すことなく持っていくがいい。 「……よかろう」 「え?」 踵を返す南雲。のど元の刀はいつの間にか消えていた。 「………ぅ」 全身の力が抜ける。思わずその場に座り込んでしまうイネス。 「撤収する!!!」 南雲の命に一斉に動き出す火星の後継者達。 作業を確認しつつ、南雲は背後の扉へ歩き出す。 ふと、足を止める南雲。 「………?」 怪訝に顔を向けるイネス。 「イネス・フレサンジュといったな。……たいした女だな、貴女は」 「貴方の名前は聞いていないわ」 「……私は南雲義政」 紅いコートの向こうの南雲の声は、ひどく人間臭く聞こえた。 「敵無人兵器、撤退を始めました!!!」 ハーリーの声に沸き立つナデシコブリッジ。 「(イネスさん……)」 両手を胸の前で組みあわせるユリカ。だが、それも一瞬。 「アキトとカイト君に戦闘中止を伝えてください!! 同時にナデシコ前進します! 揚陸艇の準備を! 敵への警戒も怠らないで!!」 艦長。いま、その言葉の意味を噛締めていた。 火星の後継者艦隊、旗艦かんなづき。 格納庫の扉が開いていく。 その向こうの星の海に目を向ける南雲。 薄闇に浮かび上がる、『紅い』機動兵器の一団。 その先頭。鎧武者を思わせる機体に彼はいた。 「本郷、撤退の指揮は任せる。合流地点で会おう」 『は! しかし中佐!』 「この期におよんで止めるなよ。どれほどの馬鹿共なのか……一目見たいではないか」 『ならば私も!』 「貴様にしか任せられん」 『……了解しました』 不服そうな本郷の顔に苦笑を浮かべるのも一瞬、正面に向けられた南雲の眼は、すでにひとりの武人の物となっていた。 背中から長大なまでの剣を抜き放つ。 「『赤備え』! 我につづけ!!!」 「!」 「?」 戦いをやめない二人の男。 その二人を止めたのは、前方からの強烈な『気』だった。 『!!!!』 迫る十数機からなる、紅の軍団。 その先頭の一機が、剣を振りかぶる。 「!!」 「!!」 光の線が走る。 交差する三つの機体。 そのまま、振り返ることなく去っていく軍団。 「!!」 音もなく砕けるナルシサスの、フィールドランサー。 「いつかの男か……」 コクピットでひとりごちる白銀の騎士。 南雲……そんな名だったか。 アキトのノワールも、ガンポッドのワイヤーを断ち切られていた。 「所詮借り物か……」 ノワールの肩部増加装甲をパージ。その下に現れる『純白』の装甲。 ナデシコを掠めるように飛び去る南雲以下『赤備え』。 「ふっ……」 真紅の機体。両肩の装甲が、それぞれ『刃』と『弾丸』で抉られている。 「………楽しみが増えたな」 これほどの腕の相手がふたりもいた。刹那の交錯で終わったのは心残りだが、いずれ戦場で相まみえることもあろう。 「しかも、あの白銀の機体の男。おそらくあの火星での……」 その確信は心震えるほどに彼を沸き立たせた。 火星の後継者は去った。 『機械の森』へと向かうナデシコB。 「………」 そのブリッジを見遣りながら、ユーチャリスへ向かうアキト。 「ラピス、帰還する」 甲板に取り付く。 「………」 右腕のカノンを、ナルシサスに向ける。 動きを止めた相手を撃つ趣味はない。 だが、 「死ぬなよ……『カイト』。……俺が殺すまで」 ボソンの光にかき消えていくアキト。 『決着』の日を待つ。 それがいかなる形であろうとも。 「………」 『機械の森』の中枢。『眠り姫』の部屋へ、ひとり辿り着いたイネス。 「……そんな」 見つけた。 確かにあった。 『光』が。 カイトの命を救う希望の『光』が。 だが、その『光』は代償を求めていた。更なる、そしてより過酷なる代償を。 「………」 顔を上げるイネス。 自分にいま決めろというのか、他人の運命を。 安らかなる死か。 苛烈なる生か。 決められるわけがない。 そんな権利も、そして勇気も、自分にはない。 「だれか……助けて……」 救いが欲しかった。誰かに救って欲しかった。 目の前の中枢コンピュータ。その中に『眠る』、イツキ・カザマ。 「……眠り姫……イツキさん」 薄明かりに浮かび上がる、砂時計のホログラフ。 砂は間もなく落ち切ろうとしていた。 『おいキンゲアッシュ』 サブロウタのエステのコクピットに響く無遠慮な声。 『金髪ロンゲ赤メッシュの略?』 ヒカルの声でそれが自分のことだと気づいた。 「なんだよ」 苛立たしげに応じるサブロウタ。つくづくいけ好かない。この騎士サマは。 『願い事がある』 「叶うといいなぁ」 『お前にしか叶えられない』 「お?」 精一杯の毒づきが、真摯な声で返される。正直予想外だ。 「……なんだよ」 『『妖精』を………頼む』 「な! おい!」 『私には……『私たち』には、もう……守ってやることが……』 その声は徐々に………。 「おい! おい!! しっかりしろ!!! おい!!」 叫び続けるサブロウタ。 「バカヤロっ……何のために……艦長の騎士の座を譲ってやったと思ってんだよ……っ!」 跳躍戦士試作弐号。 ミカズチ・カザマ。 白銀の騎士。 そしてカイト。 本当の名はどれだったろう。 本当の自分はどれだったろう。 本当になりたかったのは、どの自分だったろう………。 ぼんやりと浮かび上がる砂時計。 再び身体から湧き上る光。 それはゆっくりと全身を覆い始める。 「イネスさん!!」 部屋になだれ込むユリカたち。ようやく見つけたイネスに声をかけるが、その背中は動こうともしない。 「…………」 手元の端末に視線を落とす。 そうだ。 忘れていた。 ここに来た意味を。 ここにある命の意味を。 救うことしかできないなら。 救うことが罪であるなら。 ならば。 屋上から夜空を見上げるルリ。 日がいつ落ちたのかは覚えていない。 嘆き悲しむ時間は終わり、いまはただ放心することしかできない。 目の前の広がる星空。 そのどこかにいる『あのヒト』。 「……あ」 焦点を失っていた眼に、微かに輝きが戻る。 「……流れ……星」 それはいつまでも燃え尽きない、長い、永い光の筋道を夜空に描きつづけた。 そして。 地球を見下ろす宙域。 指定の合流ポイントに錨を下ろすナデシコB。 艦長席のルリはいまだ『彼』を想う。 「貴方の心は……いまでもここに……」 悲しみは時が癒すという。 ならばその癒しとは忘却のことではないのか。 「だから、早く……早く取りに来てください」 この悲しみが癒えてしまわぬうちに。 あなたの笑顔を覚えていられるうちに。 「そんなに長くは……待って……いられないから……」 地球の重力から解き放たれる。 白いシャトルはナデシコへ。 「見えましたよ、艦長候補生殿」 パイロットから声を掛けられる。 「………」 頷きつつ視線を上げる。 ゴーグルを思わせる大きなサングラス。 その向こうの瞳が、白い船体を捉える。 「……?」 まぶたの裏に熱い塊を感じる。 「(……涙?)」 何もない。そう思っていた。 だが、空虚なこの身を何かが満たしていく。 『私』は何を知っていたのだろう。 『私』は何を忘れてしまったのだろう。 あそこには、何が『私』を待っているのだろう。 答えはあそこにあるのだろうか。 「………」 徐々に大きくなっていくナデシコB。 ディスプレイの上で二つの光が近づき、そして合わさっていった。 ──そしていつかめぐり逢えるのだろうか。 ──この身に宿る………記憶の『貴方』に。 機動戦艦ナデシコ 『記憶の彼方に……』 THE END and to be continued to NADESICO THE MISSON あとがき(思いつくままダラダラと) 終わった。これにてひとまず区切りです。で、これで全部終わりかというと……ごにょごにょ……まあ、上にも書いてますが、ドリキャス版のNADESICO THE MISSON(思えばこのゲームがドリキャスの購入動機でした。ああ懐かしい)へとつづいていたりなんかするんですが……書くんですかねぇ……う〜ん。 機体解説 エステバリス・ノワール 一応第一話あとがきで書いてた、発展型エステです。今回は設定だけのつもりだったんですが、アキト出撃→サレナ壊しちゃった→機体ないで急遽登場。詳細はいずれですが、要は量産型サレナです。この機体のウリの有線式ガンポッドは“ネメシス”のサブアームの発展型なのですが、まあ、とはいえ、もろに「君がいるからガンバレル」なのは、そのとおりなのであります。 ちなみに本来はアキト用ではないので中のエステはピンク色ではないですはい(劇中でボソッと)。 武天光(むてんこう)仮名 夜天光重装型紅武者使用。要するに南雲しゃん専用の夜天光。外観のイメージはまあ、『武者夜天光』です。やはり武田信玄の鎧兜姿がカコいい。背中に巨大な斬馬刀型の武器『地刃烈刀(ちしんれっとう)』(いろいろギミックあり)を装備する火星の後継者の最強機体。なんとなく悪を断ってしまいそうではある。 仮名となってるのはすなわち、いまだお名前考え中なのであります。字面はいいけど、そんな天体用語ありませんし。ほかに支天光とか破天光なんておバカな名前も候補にしてました。カコイイのあったらメール等で異界に教えてくださると嬉しいです。 用語? 「赤備え(あかぞなえ)」 1. 鎧兜や旗などを赤で統一した武者軍団のこと。武田(正確には山県?)・井伊・真田あたりが有名どころ。 2. 火星の後継者の南雲しゃん直属部隊の名称。赤い機体で統一されていることからそう呼ばれる。エース級のパイロットで構成されたこの部隊は、旧木連時代より最強の名を欲しいままにしてきたが、地球側との和平後に解体。火星の後継者決起の際に再結成されたが、隊長である南雲が、特殊任務(『木星から来た男』参照)に着かされたことより、程なく再度解体の憂き目を見る。 現在の『赤備え』は、その後再々結成されたもの。当初よりの隊員の多くはすでになく、戦力的な弱体化は否定できないが、依然士気は高い。 強さ比べ ・機体スペック “ネメ”≧武天>サレナ>アルス≧ノワール>ナルシ>スーパー ・パイロット 紅=黒≧白>月>三 (白銀はインチキなので除外っす) ・ボソンジャンプ 眠(真S級)>白(S級)>天使(超A級)>黒(A級) ・生身 紅>月>黒≧三>白 ・ネタ的パワーバランス ユリカ>白銀の騎士 ユリカ>カイト 白銀の騎士=アキト アキト>カイト 白銀の騎士>ルリ ルリ>>>カイト 次回作 う〜ん…… |
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