The knight of chrome #12





ひとに似たる者。

ひとにあらざる者。

ひとより美しき者。

されど、ひとに憧けし者。




汝の名………





機動戦艦ナデシコ

『The knight of chrome』





最終話 『天使たち』の黄昏




不気味なほどに晴れわたった空。

そびえ立つ摩天楼。

静寂を破って翔けぬけるナルシサス。

そして『天使』の群。

「ちぃっ」

背後を見遣る白銀の騎士。

「高機動モード!!」

展開する背面のアクティブスラスター。溢れ出すボソンの煌き。

「フッ!」

左腰の鯉口を切る。

「ボソンジャンプ………十二連!!」

陽光に瞬く剣線。

閃光。

砕け散る天使の群。

爆風を振り払い現れるナルシサス。

だが、頭上から新たにケルビムが迫る。

「ク!!」

左腕を伸ばし、ケルビムの首元をつかむ。

「でやぁあああ!!」

左腕の手甲部が弾け飛び、打ち出された巨大な『銛』がケルビムの頭部を粉砕する。

「フォォ………」

左手を開く。砕けながら落下していくケルビム。

「…………」

キッ。

上空を睨みつける白銀の騎士。そこには未だおびただしい陣容を誇る『天使』の群が。

「!」

頭上から迫る無数の光弾。

「!!!」

振り払うように加速するナルシサス。その白銀の機体を追うように巻き起こる爆発。

無情な御使いたちの手で、砕けていく人の都。

「うぉおおお!!!!」

自らを奮い立たせるように叫ぶと、その群の真っ只中に突入していく白銀の騎士。

再び巻き起こる、無数の閃光。

「父なる御許に還れ………御使を求めるほど……人の世は穢れていない!!!」

機体に奔る衝撃。仮面の割れ目から、鮮血が滴る。






ナデシコCとナデシコ・エックスの戦闘は、戦艦同士の壮烈なドッグ・ファイトの様相を呈していた。

人類が生み出した最高にして最大の愚物、兵器。

その中で最も巨大で強力なものが、互いに相手を潰しあっている。

忌兵器主義者であるなら、シニカルな笑みを浮かべる光景かもしれない。

「ユリカさん! そこを通してください!! 止めないと! あの人を! あの人たちを!!」

ナデシコ・エックスから撃ち出される無数のミサイルをかわしながら、ルリが叫ぶ。

その機動は芸術と言ってもいい。

『ユリカさん!!』

「それは……できないわ」

ナデシコ・エックスのブリッジに映し出されるルリのウィンドウ。

それに向かいあうように言葉を紡ぎだすユリカ。

『何故なんですか!? こんなことをしても、どちらが勝っても! 誰も、誰ひとりだって!!』

「アキトは!!」

ユリカが叫ぶ。それは喚くといったほうが適切であるかもしれない。

『!!』

「勝つことなんか望んでいない」

『………それは……』

「あの日……アキトが私の前に現れたとき……言ったのよ」

コートの下から何かを取り出すユリカ。

『!!』

身震いするルリ。それはアキトのものと思しき拳銃だった。

「『俺を殺すか……俺とともにあいつを殺すか……好きな方を選べ』って」

『それで……ユリカさんは選んだんですか!? あの人を、『カイトさん』を殺す方を!!』

「違う!!!!」

『でも!!』

「違うのよルリちゃん……。私は選べなかった……アキトの命も、カイト君の命も……。選べなかったのよ………どちらも」

『……で、でもそれじゃ……』

「だからアキトはカイト君のところへ向かったのよ! アキトの命か、カイト君の命か、その選択を迫るために!」

『それじゃあんまりです!! そんなのカイトさんに、いえ、そんな選択、できる人なんかいるはずありません!!!』

激昂するルリ。それはストレートに操艦に反映される。攻撃を避け切れず衝撃を受けるナデシコC。

「アキトだって!!」

だが、ルリの言葉もユリカの中の何かを刺激していた。

「アキトだって、ホントは! カイト君のことが好きなのよ!! 憎めるはずなんか!!」

『じゃあ何故!?』

「それでもアキトにはカイト君を許すことができないのよ!!」

『そんな!!』

「だからなのよ、アキトは自分自身の命を懸けて、カイト君にその選択を迫っているのよ!! だから、私は見届けなければならないのよ! この漆黒のバイザーの下で!! それが…それが! 『あの子』を守ることも! アキトを殺すこともできなかった私の……私の!!!」

『それはカイトさんも同じです!!』

発射されるグラビティ・ブラスト。

「ぅ!!」

ディストーションフィールド越しに衝撃を受けるナデシコ・エックス。

揺れるブリッジに、ユリカとラピスの悲鳴が洩れる。

『ナルシサス……『裁かれし者』! 花言葉は『もう一度愛してください』! これが勝利を望むヒトの名前ですか!!? カイトさんは、自分の罪が何かも知らず、でも、それでも! それを償おうと、あなたたちに裁かれようとしているんです!! それをこれ以上苦しめるのが、ユリカさん! あなたの………本当にあなたのするべきことなんですか?』

「……でも……。それでも、この場は譲れない」

『それが、あなたの答えなんですね……ユリカさん』

そっと呟くルリ。瞳から一筋の雫がこぼれ落ちる。

「ラピス……ナデシコ・エックス、全武装展開」

「了解……ユリカ」

空中に静止し、にらみ合う両艦。

「「アキトのもとへは行かせない!!」」






高層ビルの一角。

屋上に佇む“ネメシス”。

コクピットのアキト。

「………」

モニターのナルシサスが、サングラスに映りこむ。








「急げ、こっちだ!!」

ゴートとサブロウタを先頭に、通路を走るナデシコクルー。

すでに戦闘は開始しているようだ。時折、衝撃が建物を襲う。

あれほどいた敵兵の姿も今はない。

ただ静寂と、時折それを破る爆音だけだが場を支配している。

「(どうなってやがる?)………!!」

前方にひとつの人影が現れる。足を止める一同。

「…………」

彼らの前方に無言で立つ男、月臣元一朗。

「あんた……」

身構える一同。だが、それを逸らすように、

「……ここは危険だ、ついて来い」

「なに?」

呆然とするゴートたちを尻目に、踵を返す月臣。

「ワナでは?」

「しかし、いまさらそうするメリットがありません」

「そうっすね。それにワナだとしてもこんなにミエミエの手じゃ、嵌らないとむしろ失礼ですよ」

月臣が振り返る。

「……どうした、ついて来んのか?」

再び廊下を包む爆発音。迷う時間はさほどない。

「さあ、鬼が出るか蛇がでるか」


「できればどっちもイヤ………」






一つのドアの前に立ちどまる月臣。無言のまま、開閉キーを押し込む。

「……………」

そこは室内とは思えぬ広大な空間と、

「………!!!」

4機のアルストロメリアが鎮座していた。

「ケルビムの余剰機として運び込まれたものだ。ジャンパー用の調整はされていないから、お前達にも扱えるはずだ」

「月臣さん………」

「各国首脳も会議場スタッフも、それに我々の配下の者も既に脱出させた。あとはお前達だけだ」

それだけを言うと、立ち去ろうとする月臣。

「待った!」

その背にかかる鋭い声。

「俺はまだあんたに、借りを返しちゃいない」

ゆっくりと柔の形をとるサブロウタ。

「………」

無言のまま向き直る月臣。

「止めてください!!」

「!」

アルストロメリアの脇に停まったトレーラー。その傍らから声が響いた。

「メグミさん!? ………ホウメイガールズのみんなも」

「あんたたち……」

「私たちをここまで連れてきてくれたのも月臣さんなんです! 彼は敵じゃありません!」

「…………勘違いするな」

「え!?」

「すべては会長のご意思だ」

「あの落ち目の?」

「誰ひとり、勝利を望まぬ戦い…………」

僅かに身を逸らせるようにすると、月臣はそっと眼を閉じた。






「グォ!!!」

機体に衝撃。ビルに叩きつけられるナルシサス。

「ちぃ!!」

機体を捻る。だが、それより早く襲い掛かる無数のケルビム。

「………チィ!」

それに対抗するように右腕を突き出すナルシサス。手甲部分が弾け、ライフルの銃身が現れる。

タタタタタ。

銃声というには、あまりにも軽い音が響いた。

ボン。

ケルビムたちのコクピットで小さな光が生まれ、そして数瞬の後、糸の切れた凧のように地表へと落下していく。

超々ピンポイント爆撃『ボソンボム』。白銀の騎士はそれを使った。

ボソンジャンプの力で、ライフル弾を直接ケルビムのコクピットに送り込んだのだ。

機動兵器という鎧に包まれた、生身という恐怖。それを彼は握りつぶした。

残りのケルビムに眼を向ける。その数未だ数十機あまり。

「さあ、どうする?」

彼らのコクピットに白銀の悪魔の声が響く。

「貴様らを挽肉にするのに、ものの数秒も掛からぬ計算になる」

カタカタカタカタ………。

「降伏するか? それとも鉛の弾にすり潰されるか? 私は……どちらでも構わんぞ」

『『『『『『!??!?!?!??!?!?!?』』』』』』

『天使』たちを恐怖が奔り抜けた。感情のないはずの彼らが心の底から打ち震えた。

一機のケルビムが機体を自爆させ、コクピットフレームだけになって地上へと落下していく。

『『『『『『!??!?!?!??!?!?!?!!!!!!!!!!』』』』』』

それに習うように、次々と機体を破棄し落下するケルビム。最強の天使たちが敗北した瞬間だった。





「ぐ、ゴホッ………」

最後の一機の落下を見送ると、白銀の騎士は大きく咳き込んだ。口に当てた手の隙間から、紅い糸が見える。

「グハ……」

嫌悪感と不快さ、それに混じって感じる砕いた命の断末魔。

「………グ」

白銀の騎士は唇を噛み締めた。

『ハハハハハハハハ!!! たいした芝居だよ!!』

閃光とともに迫る銃弾。辛うじて機体をひねる。

「……!」

『『天使』どもを退けたのは見事だったが、『力』を使いすぎたようだな!!』

「!! ……今度はどこの暗がりに潜んでいた!!」

『その上で、あれだけのハッタリを見せるとはな……。だが、強がってみても、もうジャンプを行う余力はないと見たぞ!!』

「そうして味方を犠牲にして、私の『力』が尽きるのを日和っていたのか!!」

『白銀の騎士!!!』

「黒き王子!!!」

『「貴様は許さん!!!!!」』

闇に堕ちた光。闇から生まれた光。







「なるほどな……」

目の前の月臣を見遣るサブロウタ。

「だが、男ってのは一度出した拳は引っ込められない生きモンなのさ」

「サブ!!」

リョーコの制止。だが、それすらもサブロウタを止めることはできない。

「悪いな中尉。こればっかりは譲れねぇ……」

「…………わ〜ったよ。アルストロメリアを一機置いてく。すぐに追いついてこいよ」

踵を返すリョーコ。

「そん時は膝枕をヨロシクな」

「………バカ野郎」

サブロウタを気にしつつ、ゴートとプロスペクターの手で、半ば強制的にトレーラーに搭乗していくナデシコクルー。

「タカスギ大尉」

「ん?」

視線は月臣から外さず、背後からのイズミの声に返事を返す。

「あんたバカだと思うけど………ちょっとカッコいいよ」

「へへへ、惚れるなよ」

「あんた私のタイプじゃない」

『どりゃああああっあああ!!!』

『撃っちま〜す!!!』

リョーコとヒカルのアルストロメリアがライフルを発射。壁に穴を開ける。

『絶対もどってこいよ、サブ!!!!』

両機の先導で走り去るトレーラー。

残されるサブロウタと月臣。

「どうあっても俺とやるつもりか……」

「くどいね、木連男児に二言はねぇ〜よ」

サブロウタの声に合わせ、月臣も構えを取る。

「戦いに意味などない。だが、それを承知で問う。何故貴様は戦う」

「さあね、俺にもわからねぇ。だがよ、この戦いが始まってからこっち、翻弄されっぱなしなんでね。艦長のことも、カイトのことも、それにハーリーのことも!! ………少々ムカついてるんだよ」

「激情で俺は倒せん」

「なら、刺し違えてみますか」

「正気か?」

「さてね」

対峙するふたり。

爆音が部屋を包む。ついに炎がこの部屋にも達したのだ。

だがそれすらも、いまの彼らの前では瑣末なことだった。

「はぁああああ!!!」

「でやぁあぁあああ!!!」

巻き起こる炎を背に、ふたりの漢の戦いが始まった。






ビルの合間を飛ぶナルシサスと“ネメシス”。

二色の流星となって、互いの身をぶつけ合い、削りあう。

巻き起こる風圧に耐えられず砕け散る窓ガラス。それは光のかけらとなって、無機質な谷間を照らす。

二機の前に現われる一際巨大なビル。左右にかわしながら、それぞれ、サブアームと右腕の銃を構える。

「はぁああああ!!!」

「ちぃいいい!!!」

ミラーガラスに映りこむ自らの機影。それ目掛け、撃つ。

粉砕されるビル。だが、銃声はやまない。

カケラの雨の中繰りひろげられる、凄絶なまでに美しき死闘。

分かたれた魂。近しき命は憎み合い、そして滅ぼしあう。






『エリナ君』

「会長!! いまどちらに!?」

総会議場の地下シェルター。間一髪逃げ込んだエリナとイネスの前に、アカツキのウィンドウが展開していた。

『うん、いや、ちょっと保険をかけにね。それより、いまふたりの主人公君の踊りっぷりを送るからさ、そこの端末でみんなに中継してやってくれないかな?』

「なんのつもりなの、今更!?」

イネスが詰め寄る。普段の冷静な彼女は今はいない。

『なに、この戦いの真実ってやつをさ、知る権利があるだろ? 少なくとも、ここにいるみんなはね』






繰り出される槍と刀。

「ごおおおお!!!!」

「だああああ!!!!」

絶叫する、王子と騎士。互いの切っ先をかわせず、装甲が火花を散らす。

「お前は俺のすべてを奪った!!!」

「『あいつ』の望んだことじゃない!!!」

サブアームより打ち出される銃弾。ブレードのフィールドで防ぐナルシサス。

「何故お前なんだ!!? 俺から造られたお前が!! 俺の複製品でしかないお前が!!お前のせいで俺は!!!」

「それで『あいつ』を妬んだか!! その嫉妬で、『あいつ』のささやかな幸せを! そしてほんの束の間の時間を『あいつ』から奪ったのか!!」

「その『幸せ』は………俺の手から奪い取られたものだ!!」

アキトの脳裏に響く赤子の鳴き声。

「うわあああああ!!!!」

“ネメシス“の絶叫と一閃。避け切れず手傷を負うナルシサス。






上空で火線を交え合うふたつのナデシコ。

形勢は徐々にだが、ルリの側に傾きつつあった。

「………くっ!」

シートから息を洩らすラピス。先ほどまでは完全にこちらが押していた。だが、今は違う。

ラピスの攻撃はことごとくルリの予測に捕らえられている。

ラピスとルリの操艦能力はどうやら互角のようだ。そして互いの操る艦の火力は圧倒的にラピスが勝っている。

「………なのに何故?」

端的にいってしまうなら、それは場数の差であろう。

もちろん、ラピスのそれが少ないというわけではない。

むしろ、かの蜥蜴戦争のさなかから戦場に立ち続けていたルリの方が異常なのだ。

「…………」

そして、本来ならその『差』を十分に埋められるはずのユリカは、何故か沈黙を続けている。

押し込まれるナデシコ・エックス。少しずつ、アキトたちのいる空域に近づいている。

「もう少し、もう少しで……」

前方を見据えるルリ。先程からノイズ交じりに聞こえる『あの人』の声が、自分に力を与えてくれている、そんな非論理的な思考がルリの心を駆け回っていた。






「ぐ、グア、ハ………」

床に倒れこんだサブロウタ。大の字になり、荒い息を吐き出す。

ふたりの元木連軍人の激闘は決着を迎えようとしていた。

「く……ここまでやるとはな……」

サブロウタを見据える月臣。

だが、その月臣にもさほどの余裕はない。サブロウタの攻撃を何発も受けた身体は、かなりのダメージを蓄積させている。

「だが……勝負あったようだな」

「へ、へへへ……元優人部隊のトップエースともあろうお方が……トドメも刺さずに勝ちを宣言するつもりですかい?」

「なんだと?」

「俺はまだ……まだ負けてないんだよ」

「死ぬ気か、貴様?」

「どうした、獲物は逃げないぜ……殺してみろよ!」

「…………」

ツカツカと靴音を立てて歩み寄る月臣。

こんな勝利に何の意味があるのか。そして目の前の男の死にも。



『………!』

『………!!』

アカツキの差し金か、戦いつづけるふたりの男の声が聞こえる。耳を傾ける月臣。

だが、それは自分の存在とて同じことなのだ。自分はただネルガルの手によって生かされている。そしてこの男は死を望んでいる。

ならば、俺のするべきことは………、

「過ったな、貴様」

右の拳を高々と掲げ、そしてサブロウタの咽喉目掛け……。






戦火を逃れ、安全地帯を探すナデシコの一同。

先程からひっきりなしに響く、アキトと白銀の騎士の声。

「止められないの!?」

ミナトが傍らでハンドルを握るゴートに問う。

「無理だ。勝利を祈っていろ」

「どっちの!?」

「く………知らん!」

前方、市街地が途切れる。

「抜けた!!?」

「ヒカル!! 前!!」

「え!?」

前方、ジャンプアウトするケルビム。

「まだいるの〜?」

「いくよ! ヒカル!!」

「了解!!」

先行するイズミとヒカルのアルストロメリア。

すでに『天使』の弱点は見抜いている。

確かにジャンパーとしての能力、そしてその反応速度は凄まじい。

だが、彼らのほとんどはもともと本職のパイロットではない。

それを補っているのが、彼らに施された制御プログラムと、そしてそれを使った互いの連携機動なのだ。

「つまりは……一機じゃたいした敵じゃないってこと」

「イズミ、行くよ!!」

「あいあい」

二機のアルストロメリアが一列にならんで突進。

「てぇっぇぇぇい!!」

ヒカル機が右のライフルを連射。よろめくケルビム。

『!!』

ケルビムがランサーを振りかぶる。だが遅い。

ケルビムの頭部に左手をつき、背後に回りこむ。

「はいは〜い。お次はこちら〜」

イズミ機が正面でクローを展開。

「せ〜の!!」

「どか〜ん!!」

前後からのクローの挟撃。粉砕されるケルビム。

『『『『おおおおおお〜!!』』』』

ふたりの活躍に沸く一同。

「やった〜!!」

「最終話にしてヘタレ返上………」

「なんか言った、イズミ?」

「別に……」

「ところでリョーコは?」

「………野暮言いっこなし」








「ぐお!!!」

月臣は思わず悲鳴をあげていた。

突き出した彼の右腕。それはサブロウタの両拳によって挟み込まれている。

「おおおおお!!!」

拳に力を込めるサブロウタ。月臣の右手から鈍い音が響いた。

「グ…ァ!!」

「……ど、どうだ!!」

「ぐ、きっ、貴様………」

たまらず右腕を引き戻す月臣。拳の骨が砕けているようだ。

「へへへ……俺にだってな、こんぐらい……」

「………お……おのれ!」

「残念だったな……今度は、俺の勝ちだ」

「………く」

サブロウタを睨む月臣。

残った左腕でサブロウタにとどめをさすことは簡単だ。

だが、圧倒的優位にいたこの状況で右腕をとられたことは、ひとりの武人として完全な敗北といっていい。

「この借り、必ず返す。覚えておけ!!」

背を向け、よろよろと歩き出す月臣。

「はいよ」

倒れたまま、首と右手だけをあげて応えるサブロウタ。

月臣の背が炎に飲み込まれていく。

サブロウタは月臣がその程度で死ぬ男だとも思っていないので、別に心配はしなかった。

「へへへ、これであんたにも、生きる意味ができたな………」

首を戻し、天井を見つめる。

室内は既に火の海だ。痛まない部分を挙げたほうが早い程の身体は、脳の命令を拒否している。

数十メートルほど先にヒカルとリョーコが開けた大穴があるが、その距離がいまのサブロウタにはひどく遠い。

皆が残していってくれたアルストロメリアは、とうに柱の下敷きになっている。

「あ〜あ、どうしよっか?」

傍らの柱に亀裂が走る。もう長くはもつまい。

「……クソッタレェ………」

ついに崩れ落ちる柱。破片は狙いすましたようにサブロウタ目掛け、

「!!!!」

差し出される巨大な手。間一髪、サブロウタの身体を破片から守る。

「よう! いいザマだなサブ!!」

そこに立つのは一機のアルストロメリア。

「中尉!! どうして!!?」

「さっきの返事をしてやりに来たんだよ」

両腕でサブロウタを抱えあげるリョーコのアルストロメリア。

「返事?」

ホイール音を響かせ、炎を突っ切る。

「……膝枕の件だよ」

「………プッ」

「て、テメエ!! 笑ったな! 笑っただろいま! ああ、絶対笑った!! 笑いやがった!!」

「でかい声で怒鳴らないでくれよ。あんたの声は体中に響く……痛い」

「ケッ、自業自得だろ」

いくつかの壁の穴を通り抜ける。外の光が眩しい。

「で?」

「お、おお。じゃあ言う。膝枕なんか俺のガラじゃねえ!! だから……訓練付き合え!! これが返事だ」

「ひでえ……怪我人はいたわるもんだろ……」

「うるせぇ。テメエが悪い」

痴話喧嘩にもノロケにもとれる会話をしつつ、仲間達のあとを追う二人。

ひとまず、彼らの戦いは終わった。






ギン!!!

金属音とともに、ナルシサスの刀が真っ二つに折れた。切っ先が鋭く回転し、傍らのビルに突き刺さる。

度重なる戦闘による金属疲労が、限界を超えたのだ。

「死ねぇええ!!!」 

ランサーを振り下ろすアキト。

「まだだ!!!」

左のアクティブスラスターを展開するナルシサス。

それは強力なカウンターとなって“ネメシス”の右腕からランサーを弾き飛ばす。

「うおおお!!!」

右ストレートをそのまま“ネメシス”の頭部に叩き込む。

「く! このォ!!」

“ネメシス”のパンチもナルシサスに炸裂する。激しい衝撃に包まれるコクピット。

機動兵器同士の壮絶な殴り合いだ。互いにただひたすらに相手を痛めつけあう。

「でやッ!!」

「ちぃ!!」

互いのパンチがクロスカウンター気味に入り、両機が弾かれる。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

「ク、グ……ハァ……」

息を切らせながらも、お互いを睨みつけあう。

「何故そこまで……『あいつ』を憎む!!?」

「『あの子』が死んだ!!」

「『あの子』とは誰だ!? 貴様の何なんだ!!?」

「聞きたいか!! ならば教えてやる!!」

「なに!?」

「……ユリカの身に宿っていた小さな命。……俺と……ユリカの、愛の結晶!」

「な!!!」






「そんな!!」

「うそ!!」

「おい、それって!!」

「そんな……アキト君と、ユリカさんの……赤ちゃん?」






「言ってしまったか……ただの悪役でいれば……楽だったものを。そう……僕のようにね」

モニターを見据えるアカツキ。その声は何故か悲しそうだった。






「ユリカが奴らに拉致されたあの日。彼女は既に身ごもっていたんだ。俺達の子を」

「………」

「いなくなった『お前』の生まれ変わりだってユリカは喜んでいたよ……。男の子なら『カイト』、そう名前をつけるってな」

「………!!」

「だから、俺は修羅に堕ちたんだ……ユリカと『お前』を、助けだすために!」

悲壮な声で続けるアキト。その声はまるで泣き声のようだった。

「だが助け出したときには………消えていたよ、もうひとりの『お前』は……綺麗さっぱりな。どこへ行ったのか、ユリカにもわからないってさ。何度もジャンプ実験をさせられたんだ、その余波で飛ばされたんだろう、別の場所か、時間か、それとも次元にか………。だが、まだ生まれてもいない、いや、ひとのカタチだってとっていない状態だったんだ、どこに行ったって、ジャンプアウトした後に待っているのは………」

「そんな………」

「お前のせいだ……」

ゆっくりと顔を上げるアキト。

「お前が、いなくならなければ……」

その身から漏れ出す感情の渦。

「お前が、そのまま遺跡に組み込まれていれば……」

噛み締められる唇。滲みでる鮮血。

「お前が、俺の代替品でしかないお前が、人並みの幸せなど望まなければ……」

ガタガタガタ。

極限を超えた感情が、その身を揺さぶる。

「お前のせいでぇぇぇぇっええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ク………」

『彼』は言葉がなかった。

それは、確かに『彼』自身の責任ではないのかもしれない。

アキトのそれは、確かに責任転嫁とか、八つ当たりとでもいったものと、人は言うかもしれない。



だが、アキトは最愛のわが子を奪われたのだ。

アキトが一体なにをしたというのか。なぜこんな不条理をあじあわなければならない。

そこには漆黒の炎に焦がされた、しかし確かにひとつの『愛』があった。

ゆっくり地上に降りるナルシサス。

「殺せ………『僕』を」

全身の力が抜けていくのを感じた。そうだ、すべて自分のせいなのだ。

ナルシサスにつづいて、地上に降りる“ネメシス”。地表に刺さった、ランサーを拾う。

「………そうさせてもらおう」

振りかぶられるランサー。

「だが聞け! 黒き王子!」

「命乞いなど!」

「『僕』を殺せば、あなたは本当に満足なのか!!」

「……!」

「『僕』を殺せば、あなたの大切な人たちは、あなたに向かって微笑んでくれるのか!!」

「……ぐ」

「あなたは、微笑み返すことができるのか!!」

動きを止めるアキト。それは、彼があの日、復讐を誓った日から、幾度となく自問してきた問いだった。

答えはまだ出ていない。いや、出るはずがないのだ。

「だ、だまれぇえええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」

絶叫するアキト。逆上していた。

「お前を殺せば!!! それもわかる!!!!!!!!!」

突き出されるランサー、その先にあるのは『彼』のいるコクピット。

こぼれ落ちる涙。

これですべてが終わる。

そう、『すべて』が。

──そうか、お前も……俺を殺してはくれないのか………。

心をよぎる思念。

だが、それだけだ。

ただこの復讐の槍がふたたび彼の身を貫けば、

「………!!!」

アキトの耳に響く、赤子の鳴き声。

「……な」

ランサーの先。ナルシサスのコクピットに浮かび上がる、赤子のシルエット。

「……ま、まさか………お前………?」

ふと鈍る、アキトの剣先。






「………そんな………」

ナデシコCのブリッジのルリ。

ナデシコ・エックスとラピスを後一歩のところまで追い詰めた彼女は、ひとり茫然自失としていた。

ウィンドウ越しに聞いた衝撃の事実。

「アキトさんと……ユリカさんが………」

目の前が見えなくなる。

「それで、それでアキトさんは……それにユリカさんも……」

何もわからなくなった。彼らのしてきたことは、そして自分達のしてきたことは……だが、それでも………。

『敵艦、レトロスペクト増大』

「は!!」

光を放つナデシコ・エックス。

ボソンジャンプ。

驚くルリの頭上に、漆黒の船体がジャンプアウト。

一瞬の隙を突かれた。いや、むしろ相手──ユリカはこの隙を待っていたのか。




「ターゲットロック。ナデシコCブリッジ」

「いえ、照準変更」

ユリカの声にあわせ、照準がナデシコCのブリッジからエンジンブロックに変更される。

ユリカにルリが殺せるはずがない。

ただ、『すべて』が終わるまでじっとしていて欲しいだけなのだ。

ルリの能力なら、爆発が艦全体に及ぶまでに、ブリッジを切放し脱出できるはずだ。

「グラビティ・ブラスト…・・・発射」




『敵艦、当艦をロックオン。攻撃きます!!!』

「……う!」

オモイカネの報告に、ルリは息を呑んだ。

怖い。

いや。

死にたくない。

あの人と……。

あの人ともう一度……。

逢いたい!!

「カイトさん!!!!!!!」






「………?」

誰かが呼んだ。

ゆっくり顔を上げる白銀の騎士。

「この声は……」


───『ヨウセイ』ガナイテイル

───『ヨウセイ』ガタスケヲモトメテイル

───『ダレ』ニダロウ

───イッタイ『ダレ』ニダロウ




『決まっているでしょう? 『あなた』によ』

「!!」

振り仰ぐ白銀の騎士。全身を何かが駆け抜ける。

コクピットハッチがランサーで突き破られる。だが、それに怯むことなく、

「妖精…………………………ルリィイイイイイ!!!!!!!」

絶叫。それにあわせ砕け落ちる仮面。白銀の騎士は、いや、カイトは叫んだ。

差し上げられる機体の右腕。目の前の“ネメシス”の頭部を掴み、そして、

「うわああああああああ!!!」

煌き、閃光、いや、光の炎にも見える渦。

『な!!』

光の中、姿を消す“ネメシス”。






「グラビティ・ブラスト発射口に異物、ジャンプアウト」

「!!」

ラピスの報告に身を震わせるユリカ。

ナデシコ・エックスはいままさにグラビティ・ブラストを撃とうしていた。だが、その発射口を塞がれたのだ。

当然、出口を失った重力波エネルギーは別の出口を求め、さまよい、うごめき、そしてその負荷に船体が耐えられなくなったとき、

「ラピス!! ブリッジ切放し!! 脱出よ!!!」

「ブリッジ切放し………。 ……?………作動不能!」

ユリカの迅速な判断すら、僅かに遅かった。既にナデシコ・エックスのAIは逆流した重力波エネルギーの餌食となっていたのだ。

「手動で切放すしか……でも、手動キーは確か……」

「……サブブリッジ。及び機関室」

モニター上のナデシコ・エックスのフレーム図に光点が光る。そこまで行っている時間は既にない。

「……く」

うなだれるユリカ。

「(これが、私に架された罰なの……? でも、せめてラピスだけでも……)」

ブリッジに響く、連続的な爆発音。

「!!」

顔を上げるユリカ。最期の爆発にしては音が軽い。これは、

「……ブリッジ、切放された……」

「え?」

『やあ、間に合ったね』

ウィンドウに開くアカツキの顔。

「アカツキさん!!」






『アカツキさん!! いまどこに!!』

「決まってんでしょ」

アカツキはそういうと、背後を振り向く。そこは既に炎の海。

「君たちのお尻の下さ……」

ナデシコ・エックス機関室。アカツキはたったいま解除したばかりの手動キーを見つめる。

『会長!! 脱出してください!!』

エリナのウィンドウも開く。

「どうやって?」

『………!!』

「いったろ? 『保険』だって。 何故かな、こうなるような気がしてたのさ」

響く爆音。ナデシコ・エックスの相転移エンジンが、最期の時を迎えつつあるようだ。

『会長……。なぜ……なぜそんなことを』

エリナの最期の問い掛け、だが、アカツキはただ微笑むと、

「なあエリナ君、僕……カッコよかったろ?」






「会長!!!!」

轟音。閃光に掻き消えるアカツキ。

「…………ぅうぅぅう……あああ」

泣き崩れるエリナ。

「……なんで……みんな……」

閃光を見つめ続けるイネス。

知っていたのに。

総てわかっていたのに。

何故止められなかったのか。

ただただ、自分の無力さを責めつづけた。






額から滴り落ちる血の滴。

カイトは、ぼんやりとその光景を眺めていた。

「そうだ、結局僕は……血塗られた兵器なんだ」

差し上げた右腕を見つめる。

「この手はもう、血で汚れすぎた……そして、これからも……」

砕けたハッチの向こう。ナルシサスの両腕を見遣る。

「それでも、この僕の……血塗られた手でも………『命』が救えるなら…」

ナルシサスの左右の腕。その上に横たわる気を失った二人の男、アキトと、そしてアカツキ。

「僕はそれだけでもいい……」

そっと視線を落とす。

「ありがとうイツキ。最後まで……君を『利用』してしまった」

ノイズの走るモニター。その中で微笑む、長い髪の女性。






「痛ァ! 痛たたたたた!! 痛い!! ルリちゃん痛い!!!」

轟く誰ぞの悲鳴。シリアスぶち壊し。

天使達の激闘の結果、廃墟となった街並の広場。

やっとの再会を果たした二人だが、やはり甘い展開にはならないようで。

カイトの額の怪我をルリが手当てしてやっているのだが、その手つきは乱暴というか凶暴というか。

「心配させた罰です」

「いや、だから……その………ときにそのドレス、あんまり似合って……」

グイ。

「痛ぁ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ〜い!!!」

「………」

ふと手を止めるルリ。視線を俯かせる。

「今度……」

「え?」

痛みから解放されたカイトは涙目で顔をあげる。

「今度こんなことをしたら……」

カイトの胸にすがりつくルリ。溢れ出す涙。

「絶対許しませんから……許しませんからね……」

「ル、ルリちゃん……」

カイトにはどうしたらいいのかわからない。ただ胸のかなで泣きじゃくる少女をオロオロと見つめ、その両腕は宙をさまよっていた。

ガチャリ。

撃鉄を引き起こす音。

「!!」

弾かれたように視線を向けるルリとカイト。その先には、拳銃を突き出したアキトの姿。

「……」

その身体は既に満身創痍だった。ひび割れたサングラス、ボロ布のようになったマント、そして、全身から滴る紅い液体。



「……ぐ」

震える右手。だが、まっすぐカイトに狙いをつける。

「ダメです!!!」

割って入るルリ。カイトを自分の背後に庇う。

「ルリちゃん!!!」

「そこをどけ!!!」

「どきません!!」

アキトの眼をまっすぐに見据える。

「あなたの気持ちがわかるなんて、そんな勝手なことはいいません! でも、これだけは言わせてください!!」

「なに……?」

「あなたがこの人を殺したら、今度は私が仮面をかぶります!! そしてきっとあなたに復讐します!!」

「………くっ!」

「アキト!!!」

駆け寄るユリカ。アキトにすがるようにその身を抱きしめる。

「もういい! もういいよ!! もう、終わりにしよう……こんなこと……」

「………」

ユリカにつづき現われるラピス。

「アキト、ユリカを、もう泣かせないで……。アキト……もう、『アキト』を泣かせないで」

「………」

ふたりの言葉に、ゆっくりと銃を降ろすアキト。

「アキト………」

安堵するユリカ。だが、その瞬間、後頭部に衝撃を受ける。

「………アキ……ト?」

崩れ落ちるユリカをそっと受け止め、地面に横たえる。

「アキトさん!!!」

「ミスマル・ユリカは!!」

「!!」

「………連続コロニー襲撃犯テンカワ・アキトの手によって、誘拐されていた。だが、2202年1月14日。独立機動ナデシコ部隊によって無事救助された」

「……!」

「………それで……いいな?」

ルリとカイトの方へ顔を向けるアキト。バイザー越しの、血まみれのその顔は、微笑んでるようにも見えた。

「………アキトさん」

ただ、ルリにはうなずくことしかできなかった。

「ありがとう……」

そっと、ユリカの顔からバイザーを取り去るアキト。その顔はあの優しいユリカのままだった。

「……」

よろめく身体で歩き出すアキト。ラピスが慌ててその後を追おうとする。

「来るな!!!」

「!!!」

「これから俺が行くのは………。お前は、お前の道を探せ」

「アキト……」

「今日まで……ありがとう……ラピス・ラズリ」

「…………」

「アキトさん!!!」

アキトの背に声をかけるカイト。懸命に何かを言おうとするが、言葉が続かない。

子を想う親の気持ち、子を失った親の悲しみ。

いまだカイトにも、そしてルリにも達し得ない心境。

だが、わかりたいと思う。たとえそれによって導かれたアキトの正義が、どんなに歪んだものであったとしても。

「忘れるな」

「……え?」

「おまえへの殺意………消えたわけではない」

「………」

「だが、その前に………」

響き渡る轟音。

「………裁きが下るときが来たようだな……」

振り仰ぐアキトの前方に徐々に現われる、無数の艦隊。



「…………」

カイトの眼には、それが宇宙軍の艦艇であることがわかった。

続々と降下を始める揚陸艇。その群へとゆっくり歩き始めるアキト。




「何故あんなものが見えた?」

ランサーがナルシサスのコクピットを貫こうとしたあの瞬間、アキトは確かに見た、『あの子』を。

「………カイト、お前は俺の───」

あるいはそれは、ふたりの『血の絆』が見せた、一つの奇蹟であったのか。

「フ……バカな……」

一笑に付すアキト。

「そんな都合のいい話など……」

ふと、アキトの頬を暖かい雫がつたう。

だが、それがなんであったのか、いまのアキトにはわからなかった。











                機動戦艦ナデシコ

              
              『The knight of chrome』








                  CAST


                ホシノ・ルリ

                カイト
                (ミカズチ・カザマ)




                マキビ・ハリ

                タカスギ・サブロウタ

                アオイ・ジュン

                ハルカ・ミナト

                ウリバタケ・セイヤ

                ゴート・ホーリー

                プロスペクター

                スバル・リョーコ

                アマノ・ヒカル

                マキ・イズミ






トントントン。






                イツキ・カザマ

                ゴンドウ・ユキマロ

                フィフス・エンジェル






コンコン。






                アカツキ・ナガレ

                エリナ・キンジョウ・ウォン

                イネス・フレサンジュ

                月臣元一朗

                白鳥ユキナ

                ミスマル・コウイチロウ

                秋山源八郎

                ムネタケ・ヨシサダ








「カイトさん」






                メグミ・レイナード

                テラサキ・サユリ

                タナカ・ハルミ

                サトウ・ミカコ

                ウエムラ・エリ

                ミズハラ・ジュンコ






「カイトさん。起きてください」






                テンカワ・アキト

                ミスマル・ユリカ

                ラピス・ラズリ








「ほら、おはようございます」




「あ……おはよう……。ルリちゃん」



























午前零時。

「………」

端末に向かうイネス・フレサンジュ。

モニターに浮ぶ、ふたりの男女のシルエットを凝視する。

跳躍戦士試作一号。遺伝子提供者なし。詳細不明。遺跡との同調を目的として、まったくの無から創られたとも、プラント中枢コンピュータに残された古代火星人の遺伝子のひとかけらを元に再生されたとも言われる。

跳躍戦士試作二号。試作一号の量産計画の一環として製造。一号製作時の多大なコスト削減のため、『素材』を使用。素材となる人間の出自は不明。研究スタッフの一員であったヤマサキ・ヨシオ博士曰く『飛んできた』。

「………」

遺跡に融合させられたユリカ。その生命活動は強制的に仮死状態に陥った。

母体の助けなくして胎児は生きられない。

『母』は『子』を助けようとしたのではないか?

『母』はどんな形であれ、『子』の生を望んだのではないのか?

だから『飛』ばしたのか、遺跡に取り込まれ、薄れゆく最後の意志で。


木連プラント、跳躍戦士研究施設。ある種の狂気に執りつかれた科学者達。彼らはボソンジャンプで現れた胎児という絶好の研究素材を見逃しはしないだろう。

多分、ユリカ自身にも自覚はなかったはずだ。

ただ、わが子の生をのみを望んだ母の……。

「…………」

イネスは考えるのを止めた。

すべては状況証拠ですらない。

すべては推測だ。ifにifを重ねることの愚かしさはよくわかっている。

第一、それが事実であったとして、それがなんになる。

誰が救われるというのだ。

真実を知ること、それがいつも幸福であるとは限らない。

「………ふぅ」

データ消去。

席を立つ。

もう寝よう。そう思った。

部屋の電気を落とす。

軽いドアの開閉音とともに部屋は無人となる。

ディスプレイの脇、簡素な花瓶にさされた『水仙』。

カタリ。

揺れる花弁。

咎人の名を持つ花は、しかし、静かに花びらを散らしていった。





                THE END












           あとがき(チャット明けはねむねむ)



 てなわけで、こんなんでました異界です。チャット楽しかったです。
いちおう、これでおしまい。あ、ハーリー君とアカツキさんはちゃんと医療班に保護されましたのでご心配なく(笑)。
 エピローグを書こうかどうか迷ったんですが、まあ最終回と宣言した以上、終わらせるのが礼儀かなと。星風さん相談にのってくださってありがとうございます。
 しかし、まあ、全12話。よく書いたもんだ我ながら。本来なら、もっと長くなりそうだったんですが、あまりズルズル続けてもみなさんに飽きられそうなのと、私自身そういうのあんまり好きじゃないので。
 で、何とか終わらせようと軌道修正したのが第十話。かなり無理に詰め込んだ記憶があるんですが、『スピード感があって面白い』というメールいただいて思わず苦笑い、ハハハ……。
 でまあ、謎解きとしてはこんなもんでしょうか。完璧に明快というよりは、秘すれば花の方が好きなもんでって、そんなたいしたもんでもないですが。Rinさんや休まんさんにワリと早い時期に少なからぬ謎を解かれてしまって、あわてたのも懐かしく。
 当初やる予定でできなかったこともいくつかありまして、ひとつ挙げますと南雲しゃん登場。オマエはそればっかかいといわれそうですが、おおむねその通りです。
 まあ、初の長連載だったり、途中でカイト君ぶっ殺しちゃったり、いろいろあったこのナイクロ編。では、こんな異界と拙作に最後までお付き合いいただいた皆様に、心よりの感謝を……。







思いつきの設定集



キャラ編


白銀の騎士

 カイト君のパワーアップ状態。性格についてはよりミカズチが強く顕在化しているが、基本的にカイト君であることにかわりはない。十二連をはじめS級ジャンパー以上のスペックが出せてるのは、イツキのバックアップ+ナビゲートを受けてるからです(名づけて逆転イッ○ツマンシステム(爆))。休まんさん正確には6×2=12じゃなくって6+6=12でしたすみません(再爆)。
 しかし、なんか世界観をぶっ壊してしまったような観の強いキャラですな。サブタイにもなってることから登場するのは決めてたんですが、正体をカイト君本人にしてしまうかどうかは未定でした。もちょっと痛めの正体も考えていなくもなかったんですが(ニヤリ)。 ま、これは結末についても言えるわけで、正体謎のまんまで何処かへ去っていくなんてラストも考えていたり、今度は本当死……ゲフゲフなんてラストとかもうウフフ。
 まあ、それはさて置き、『ハッピーエンド』をという皆様の声に、(もちろんいい意味で)負けてしまったような観も無きにしも非ず。でも実際問題、やっぱり彼はルリちゃんに返してあげないといけないのかなぁというのが正直な感想ですって何様なんだ私は。




メカ編


ナルシサス

 地球側のエステバリスの対抗兵器として、前大戦末期に木星プラントにて設計されていた機体。積巳気・夜天光のプロトタイプに当たる。正式名は『極光』。動力はジェネレータ式。
 終戦後、プラントに帰還したイツキ・カザマの手によって跳躍戦士専用機として改良・完成されていた。
 が、設計思想としての旧式感は否めず、現行機と比較しても飛びぬけたスペックは持っていない。そのためとられた改良方法は、操縦性・機体バランスの意図的な『悪化』であった。
 改良はある意味で大成功を収め、特定のレンジ、出力、制御下においては多大な性能を発揮しできるようになったが、その機体は跳躍戦士ですら単独で扱えるものではなくなってしまった。かといって、複座式とするスペースも確保できず、事実上、改良は棚上げとなっていた。
 だが、皮肉にもイツキがプラント中枢コンピュータに取り込まれることによって、結果的に改良プランは進展を遂げる。イツキとのリンクユニットを機体各部に取り付けることによって、バックアップ体制は完全となり、図らずも『ナルシサス』は完成をみた。
 戦闘終了後、半壊した機体を接収した軍の技術スタッフを驚かせたのは、その基本性能の意外な『低さ』だった。

 外観はぶっちゃけナイト○ンダムみたいなノリです。ナイトエステ? バーサルナイトがカコイイでしょうか? ナイトつながり。
 ネルガルの機体じゃないんで別に花の名前じゃなくてもいいんですが、花言葉が気にいたのとアキトの“ネメシス”との絡みを考えてみました。

 背中のアクティブスラスターは、閉じた状態だとマント、開いた状態だと花びらみたいに見えるのがいいかなとか。











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