機動戦艦ナデシコ 異伝 風の行方




マスターはとても優しい人です

誰かのために傷つくほど

マスターはとても強い人です

泣けないくらいに

立ち止まれないくらいに

マスターはとても悲しい人です

安らぐこともできないくらいに

そんなマスターを

ミスマル・カイトを

私は

愛しています








第3話「闘うもの、嗤うもの」

「以上がアマテラスにて予想される守備艦隊と第13ゲートに至るまでの経路です」

私はそう締めくくりモニターから目を離した。

「やはり『ナイツ』で突入し一時撤退、ユーチャリスで強襲後、再度突入かな」

マスターの言葉に頷きながら、私は答えた。

「しかし一度目の突入時に『フェザークラック』を使うのは賛成できません」

私は若干表情を硬くし、マスターの返事を待った。返事は聞かなくともわかっていた。

「使った方が被害が少なくて済む、被害は少ない方がいいよ」

のほほんとした顔で当然のように呟くマスター。まったくこの人は自分の事をなんだと思ったいるのだろう。沸々とわき上がる感情を理性で押さえつける。

「しかし使用した場合、マスターの負担が飛躍的に増加します」

「まあ何とかなるよ」

相変わらずのほほんとした表情のマスター。私は理性よりも感情に従うことにした。

「こぉんのバカマスター!!!くらえルナちゃんパ〜ンチ!!!」

「がふっー!」

私の渾身の一撃を食らい吹っ飛ぶマスター。自業自得とはこの事です。反省してなさい。

「ところで僕は何で殴られたの?」

「マスターがご自分の体を大事にしなさ過ぎだからです!」

私が叫ぶ。マスターと話しているとつい叫ぶことが多くなってしまう。良くない傾向です。

「大事にしてるよ?」

「してません!いいですか、今度のアマテラスでは敵の戦力はこれまでで最大の規模になることは間違いないんです。それこそ遺跡の防衛には北辰がつくのは間違いありません。それに『彼女』だって出てくるかもしれないんです。温存できる力は温存するに越したことはありません、何か間違ったことを言いましたか!」

私は早口でまくし立てる。マスターは相変わらずのほほんとしている。まったく、この人は人の話を聞いているんだろうかと疑いたくなってくる。

「それでも可能な限りは被害を減らしたいんだ。後悔は・・・もうしたくない」

のほほんとした表情から一転して思い詰めたような表情になるマスター。

「マスター・・・」

私にはそう呟くことしかできなかった。この人はいつもそうだ。いつも自らを傷つける。いつも・・・

「すまないと思ってるよ、いつも無茶ばかりして心配かけて」

「そう思ってるなら少しは自重してください。もう慣れましたけど」

私は憮然とした表情で答える。

「ありがとう、ルナ」

そう言いながら私に微笑むマスター。うぅ!その笑顔は反則です!マスター。そんな顔をされたら何も言えなくなってしまいます。ゴホンと咳払いを一つして私はマスターの方に向き直った。

「感謝される程のことではありません」

まだ顔が赤いのが自分でもわかる。

「どうしたの?ルナ、顔が赤いけど」

マスターの朴念仁。と心の中で毒づきながら私は脱線し放題の話を元の話題に戻す。

「とにかく!『フェザークラック』の使用までは認めます。しかしその他の『フェザーウエポン』の使用は認めません。これは譲れません」

「だめ?」

目を潤ませながら上目使いに聞いてくるマスター。これはこれでいいかも、なんて思いながら私はマスターのかわいい?お願いを却下する。

「かわいく聞いてもダメです」

しょんぼりしているマスターは放っておいて、私は『ナイツ』の兵装を『クラック』へと転換するため、格納庫へ移動した。



数時間後。

「ナイツ、出るよ」

マスターの乗るナイツはその純白の翼をはためかせ、ユーチャリスから飛び立った行く。その仕草には優雅ささえ感じられる。

「ルナ。ユーチャリスでの援護よろしく」

マスターの言葉に私は力強くガッツポーズを決めながら、

「まっかせてください。マスターもどうかお気をつけて」

「わかってる。それじゃあ、行ってくる」

そしてマスターを乗せたナイツはボソンの光に消えていった。

マスターの再突入までやることがない私はとりあえずマスターのナイツをトレースする事にした。



アマテラス宙域にボソンアウトするナイツ。

翼をはためかせ、羽をまき散らしながらアマテラスを目指して加速していく。ただ迅く、迅く、迅く。エステバリスのスピードを圧倒的に上回るナイツ。

警備部隊がナイツに気づき、銃口を向けるが既にナイツは部隊を抜き去っている。此処までくると非常識だなぁなんて事を私は考えていた。のんきだなぁ私。

そんな風に私がのほほんとしていると警備部隊最大の難関である「ライオンズシックル」がとうとうナイツに向かってきた。やはりそこいらの雑魚とは桁が違う。機動性で劣るエステバリスで何とかナイツ食らいついてくる。流石、と言った所か。しかしそれもそう長くは続かない。

アマテラスまでわずかという所でナイツは反転、ライオンズシックルを振り切りジャンプアウト地点近くまで来た道を引き返す。

そしてマスターはこれまでまき散らしてきた羽、「フェザービット」を起動させる。

「クラック、開始」

マスターの声と共に「フェザービット」を通して警備艦隊のメインコンピューターに侵入(クラック)を開始する。それと同時に大きく広げられた翼が輝き出す。そしてマスターの顔に浮かび上がるナノマシンの紋様。見る見るうちに艦隊の約半数がマスターのクラックを受けて掌握されていく。

「ダウン!」

マスターのかけ声と共に掌握された艦隊が「暴走」を始める。これが「フェザークラック」、マスターの特殊なナノマシンと『ナイツ』の「フェザービット」があわさって初めて使うことのできる能力。

「ルナ!」

マスターの呼び声に答えるように私はユーチャリスと共に艦隊側面にボソンジャンプする。

ここからは、私の出番!

ユーチャリスと内蔵されているバッタ、そしてマスターが掌握した護衛艦隊。その全てを操る、決して楽な事ではない。だが出来なくはない。限定条件が無ければの話なんだけどなぁ。作戦立案はなるべくシンプルに、それが基本なのだがマスターはそれをことごとく無視してくれる。こうなったら意地の勝負だ、絶対人的被害を0にしてやる!

私は気合いを入れ直しながら支配する。ユーチャリスを、バッタを、護衛艦隊を、この戦場の・・・全てを。

もちろんマスターのトレースも忘れない。マスターが危険な時は躊躇わずに私は禁を犯すだろう。それだけは・・・譲れない。

マスターはアマテラス内部を順調に進んでいるようだ。とその時二機のエステバリスがマスターに追いついた。そのうち一機が交信用のワイヤーをナイツに射出する。それははスバル・リョーコの機体のようです。もう一機は・・・テンカワ・アキト!!

「俺じゃなくてこの子が通信したいっていうんでな」

渋々と言った感じでそう言うスバル・リョーコ。

「そうそうルリちゃんの頼みだからね」

好色な下卑た笑みを浮かべるテンカワ・アキト。下衆がっ、と私は吐き捨てた。

そしてホシノ・ルリの顔がコミュニケに現れる。マスターは無表情のままだ。

「すみません、どうしてもあなたとお話ししたかったのでそこにいるテンカワ大尉とリョーコさんにお願いしました」

コミュニケの中のホシノ・ルリはその金色の目で真っ直ぐにマスターを見つめている。

「あなたは・・・誰ですか?」その声は僅か震えていた。

マスターはまったく反応せずに第五隔壁のパスワードを入力していく。

「覚悟は・・・あるか?」

マスターが重々しく口を開く。ホシノ・ルリは驚きに目を見開きながら答える。

「何に・・・対してですか?」

「これから起こる全てに・・・だ」

マスターの声と同時に隔壁が開いていく。そして現れる「遺跡」。息をのむ音が聞こえる。

「なんだよ!なんなんだよ!!これは!!!」

スバル・リョーコが何とか声を絞り出すように叫ぶ。

「これじゃあ、これじゃああいつが浮かばれねえよ、あいつとユリカが・・・」

スバル・リョーコはそれきり俯いたまま口を閉ざした。テンカワ・アキトとホシノ・ルリは押し黙ったままだ。

「ユリカさん・・・」

マスターがぽつん一言呟いた。なにかその一言にはとても色々なものが含まれている気がした。

チリィィン、チリィィン、静寂を破るように鈴の音があたりに響いた。

「来たか・・・」

緊張を増していく、マスター。

ボソンの煌めきと共に現れる夜天光。

「久しいな、跳躍戦士」

まるで旧知の知人に会うように話す北辰。おかしい、北辰の側には常に六人衆がいるはず。なぜ?

「今日はいつものお供は無しか?」

マスターもそれに答える。

「貴様相手に六人衆など何の役にも立たんわ」

確かにそうですけど、それでも何かおかしい。北辰独りではマスターには敵わない事は北辰自身が一番よく知っているはず。

「いったい何なんだよおまえら!」

その時テンカワ・アキトがまるで怯えているように叫んだ。

「貴様は・・・ほう、臆病者がなにようだ?」

北辰は嘲るようにそう言う。

「臆病者?」

スバル・リョーコは何のことかわからず呟く。

「違う!違う違う違う!!!あれはしょうがなかったんだ、あいつが悪いんだ。俺は悪くない、悪くないんだっ!!!」

テンカワ・アキトは狂ったように叫びながら夜天光に向かっていく。

「アキトさん!」

マスターが叫ぶ、しかし夜天光放ったの錫杖に簡単に貫かれ機能を停止するテンカワ・アキトのエステバリス。

「未熟なり、このような臆病者など殺す価値もない」

北辰は嘲りを込めてそう吐き捨てて錫杖に貫かれたエステバリスを投げ捨てる。そのことに関しては私も賛成です。

その時、私が支配しているはずの戦場に変化があった。これは・・・どうやら火星の後継者が動き出したようですね。それまでばらばらだった艦隊の一部が組織だった行動を始める。どうやら本格的に動き出したようです。

「マスター、時間がありません。早く遺跡の確保を」

私がそう言った瞬間、遺跡が咲き誇るように開きだした。そして、現れるミスマル・ユリカ。おかしい、これではマスターに遺跡を奪還してくれと言っているようなものです。そして彼女は一体どこに?
いまだに混乱している警備艦隊。火星の後継者の艦隊。そして・・・孤立するナデシコB・・・!!!

「マスター!緊急事態です、遺跡はおとりです!敵の本命は・・・「電子の女神」!!!」

「すでに手遅れよ!!」

そう叫び遺跡付近を爆破する北辰。マスターだけならば何の問題もない、しかしそこにはスバル・リョーコとテンカワ・アキトのエステバリスがある。マスターに見捨てられる訳がない。

全て計算されていた・・・アマテラス強襲も、警備艦隊の混乱も、遺跡での時間稼ぎも、マスターの甘さも、全て彼女に・・・

私は悔しさで唇を噛んだ。ナデシコBまでは火星の後継者の艦隊を突っ切っていくしかない。どちらにしろ間に合いそうにない。それでも、今できることを私はやるだけです。

・・・そして彼女がナデシコBに現れた・・・








マスターはとても悲しい人です

マスターの時間は止まってしまっているから

あの日、あの時に

私は支えたい

マスターが笑っていられるように

それが私の全てだから

人の想い

それは紡がれていくもの

時の流れ

それは残酷なもの

風の行方

それは誰にもわからぬもの

だれにもわからぬもの





あとがき〜
どもども星風です〜。
第三話お送りしました〜。今回はとても疲れました〜。
感想、ダメだし、カミソリ、何でも受け付けますので感想よろしく〜。
ではでは星風でした〜。






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