機動戦艦ナデシコ 異伝 風の行方





俺はそいつに会ったことがない

しかしそいつの噂はよく聞く

曰く連合軍最強のエステバリスライダー

曰くイネス・フレサンジュを越える大天才

曰くロリコン

どれも尾ひれの付いたヨタ話だと思っている

しかしそいつを知る者に共通していることがある 

それは自分の届かぬ者への憧憬  

そして得体の知れぬ者への畏怖

俺はそいつに会ってみたいと思っている

ミスマル・カイトに





第2話「変わりゆくもの」


「しっかし退屈だなー。なぁハーリー」

あんまり退屈なんで隣のハーリーで暇つぶしをすることにした。

「任務中ですよ、いくらする事がないからってサブロウタさんはだらけすぎです」

「んなことを言ってたらコロニーまで持たないぜ、ハーリー。もっと楽にいこうぜ〜」

「サブロウタさんこそもっと緊張感を持って任務にあたってください」

やはりまじめなハーリーは乗ってきた。だからおもしろいんだよなー。ハーリーおちょくるの。なんて事を考えながらハーリーとの掛け合いを続ける。

「まじめだね〜、ハーリー君はそ〜んなに艦長に良いところみせたいのか〜」

「たっ、高杉大尉!ぼっ僕はそんな不純な理由の為ではなく純粋に艦内の風紀を守るためであって決して個人的な理由など無くまして艦長に良いところを見せようなどいう理由〜〜〜〜」

ハーリーは真っ赤になりながら力一杯否定する。

「艦長もそう思いますよねー」

このまま延々とハーリーの理由が続きそうなので、途中で艦長を使ってみる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜」

ハーリー顔が真っ赤のまま言葉が口から出ずパニクってる。そこで艦長の様子がおかしいことに気がついた。

「艦長?」

ハーリーも気がついたようだ。艦長はうつむいたままうなされている。こんなの今まで無かった事だ。艦長が艦橋で居眠り、ましてうなされるなんて。

「カイトさん・・・」

誰にも聞こえないような小さな声で艦長はそう呟いた。俺は正直驚いた。あいつの事はもう吹っ切ったと思っていたからだ。

「艦長?艦長、艦長。艦長!」

気付くとハーリーが艦長の所に駆け寄っていた。あいつ艦長のこととなると速いなー。と感心してしまう程だ。どうやら艦長は目を覚ましたようだ。

「大丈夫です。心配してくれてありがとうハーリー君」

そんな台詞を笑顔で言われたらまた赤くなるんだろーなーと思ったら案の定真っ赤になって。

「いっ、いえ。かっ艦長の心配をするのは副長補佐としてとっ当然ですから。」

なんて言いながらこっちに戻ってきた。またおちょくれそうだ。

「ハーリー君〜、な〜に赤くなってるのかな〜」

「いっ、いえ別に赤くなってなんかないですよ。なっ何言ってるんですか、サブロウタさん」

ハーリーは早口でまくしたてる。それじゃ肯定してるようなもんだってハーリー。そう思っていると。

「かっ艦長だってそう思いますよね?」

そうして艦長に逃げようとした瞬間。

「ふうっ」

艦長が妙に艶めかしいため息なんかするからハーリーは元々赤かった顔がさらに真っ赤になってしまった。このままだと当分は退屈しないですみそうだ。
ハーリーをおちょくりながら、姿形は一緒でもあの頃の艦長はあんなため息はしなかったと思った。
そしてカイトという名前を艦長の口から聞いたのも、あの頃以来だった。

「変われば変わるものだな」

「何のことです?サブロウタさん」

「おまえには関係ないの。お子さまにはな」

「僕はお子さまじゃありません!

ハーリーをおちょくりながらあの頃を、艦長と初めて会った頃の事を俺は思い出していた。




降りしきる雨の中、雨に濡れることも気にせず、ただ惚けたように月を見上げていた。雨に濡れた髪。雪のように白い肌。神秘的な金色の目。その全てが美しかった。それはまさに「女神」だった。

情けない話、一目惚れだった。

それまで女っ気の無い人生を送ってきたのは事実だ。だがこんなに簡単に惚れるとは思わなかった。

しかしその女神様は誰も見ちゃいなかった。何も見ちゃいなかった。

ただ遠くを・・・そいつだけをずっと見ていた・・・

それでわかっちまった。

俺なんかが入る所はどこにもないって事が。隣に立って支えられるのはあいつだけなんだって事が。

だから俺は決めた。この人を守ろうって、誰が何と言おうと守るって決めた。

そいつが、ミスマル・カイトが帰ってくるまで・・・







「サブロウタさん、サブロウタさんまでいったいどうしちゃったんですか?」

ハーリーが怪訝とした顔で聞いてくる。

「だから、お子さまには関係ないっていってるだろ〜」

わざとおちゃらけてハーリーに答える。やめよう、昔の事を思い出すのは。果たせなかった無念を思い出すだけだ。

その時艦橋のドアが突然開いた。入って来たのは奴だった。

「ルリちゃん、アマテラスまで後どのくらい?」

「艦内では艦長でお願いします。テンカワ大尉」

艦長が感情を押し殺した声でそう言う。

「わかったよ、ルリちゃん。それでアマテラスまでどのくらいなの?」

まるで気にしない態度で続ける奴。俺は我慢ならなかった。

「艦長に対して失礼だぞ!テンカワ大尉!」

声を荒げる俺にどこ吹く風といった様子の奴。

「あなたには関係の無いことだ、高杉大尉。これは家族の問題だ、そうだろうルリちゃん」

いかにも心外だと言いたげに肩をすくめる奴。頭に血が上っていくのが自分でもわかった。

「てめぇ!!!」

「やめてください!」

頭に血が上った俺を制したのは艦長だった。艦長は何かに耐えるような様子で、なんとか言葉を紡ぐ。

「やめてください、高杉大尉。テンカワ大尉も今は勤務中です。待機場所に行ってください」

「わかったよ、ルリちゃん。こんな所じゃあ二人っきりになれないもんね」

そう言って舐めるような目で艦長を見る奴。こいつばっかりは許せねぇ。

「ふざけるんじゃねぇ!」

「やめてください!やめてください、サブロウタさん」

艦長は俯いたまま、声を震わしながら俺を制した。

「そうそう、そういうこと。じゃあまた後でね、ルリ」

奴はどこまでも不遜な態度で艦橋から出ていった。いつもそうだ、奴はいつも・・・

「くそっ!」

俺はやりきれぬ思いを隠そうともしなかった。ハーリーはずっと俯いたままの艦長を心配しているようだ。俺だってバカじゃない。艦長のプライベートに口を出す気もないし、奴との関係だって薄々は分かっていた。

だからこそやりきれなかった・・・だからこそ許せなかった・・・
奴を・・・テンカワ・アキトを・・・








俺はミスマル・カイトに会いたいと思っている

会って一発ぶん殴りたいと思っている

なぜ姿をくらましたのか  

なぜ側に居てやらなかったのか

なぜ支えてやらなかったのか

そして頼みたい

女神を助けてくれと

ある者は変わり

またある者は変わらない

そして変わらなければならなかった者

風がそうさせたのか

風がそれを望んだのか

誰にもわからない

しかし風は吹き荒れる

それだけが真実かの如く

荒れ狂う






あとがき〜

どもども星風です〜。
第2話「変わりゆくもの」でした〜。
第2話なのに主役のカイト君の出番は皆無というえらい事になっちゃってます〜。
次こそはカイト君を出したいと思います〜。
ではでは星風でした〜。







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