機動戦艦ナデシコ 異伝 風の行方





あの人は真っ白だった

汚れを知らぬ雪のように

誰もがあの人を慕い

そして誰もがあの人を怖れた

まるで自分が穢れてるようだから

それほど彼は真っ白だった

しかし風は吹き荒れる

嘲笑うように

飲み込んでいく 

全てを

塗りつぶしていく





 第1話 「過ぎ去りし日々、そして・・・」


「どうしても行くのなら私がついて行きます」

不安だった。たまらなく不安だった。
あの人が遠くに行ってしまいそうで、もう会えないような気がして。
だからあんな事を言ってしまった。
少しでも側にに居たかったから。
あの人が遠くに行ってしまっても、自分が側に入れるから。
他に誰もいない、あの人と私だけ。そう・・・だれも。
ユリカも、エリナも、イネスも、リョーコも、ヒカルも、イズミも.
そう思ってしまう自分が堪らなくイヤだった。

プラントの中は荒涼としていた、まさに荒れ地といった所だった。
光が当たらず砂漠化が進み、建物は皆崩れ、歩く道さえなかった。

しかしあなたは迷わず進んでいく。まるで道筋をしっているかのように。

「どこへ行くんですか?」

「そちらであっているのですか?」

「この先に何があるのですか?」

あの人はなにも答えてくれなかった。その間も迷わず進み、中枢部と思われる所にたどり着いた。
そこではいまだにバッタが生産され続けられていた。生産されるバッタに見られているような感覚。そんなはずがない、と否定する。
さらに進むと大きな門のようなものが見えてきた。

ドクンッ

まるで心臓が握りつぶされるような感覚。

ドクンッドクンッ

少しも治まらず逆に強くなっているような気さえする。

ドクンッドクンッドクンッ

あの人が扉に手をかける。

「開けてはダメ。」

ドクンッドクンッドクンッドクンッ

しかし体はまるで動かない。唇はただ震えるだけ。

ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ

まるで世界にその音しか存在しないように、やけにはっきりと自分の鼓動が聞こえる。

ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ

そして・・・扉が開かれた。

ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ

心臓は今にも破裂しそうなほどに脈打っていた。

大きな柱のような物のところに二つのカプセルのような物が見える。

あの人が唐突に口を開いた。それだけで嘘のように心臓の鼓動が聞こえなくなった。

そして知った。あの人がここで生まれたこと。ミカズチの記憶の事。あの人の私への想い。そしてイツキ・カザマへの想い。

私の中に黒い思いが生まれるのを私は感じた。

誰にもわたさない。この人は・・・

ワタシノモノ・・・

そして・・・私は殺された。  

一瞬何が起きたのかわからなかった。

数瞬後、私が貫かれたということがわかった。

崩れゆくなか、かすかに見えたのは長い艶やかな藍色の髪だった。

急速に熱を失っていく体。熱いのか、寒いのか、痛いのか、そうでないのか。何もわからなかった。

薄れいく意識のなかで。かすかに聞こえたような気がした。

「生きて・・・」

あの人の声が・・・



























「私・・・生きてる・・・」

次に私が目覚めたのはナデシコBの医務室だった。

「やっと目覚めたようね、ホシノ・ルリ。気分はどう?」

イネスさんが訪ねてくる。

「私はプラントで・・・」

「そう、プラントから帰ってこないは。プラントはいきなり爆発するは。血だらけのあなたが突然ボソンジャンプしてくるは。私もお手上げのあなたの傷が突然治るは。三日間あなたは目を覚まさないは。とにかくもの凄く大変だったんだから!」

少し乱れた髪と目の下に隅を作った顔を近づけながら半ばやけくそ気味にまくし立てるイネス。

「さあ、『説明』してもらうわよ!」

それと同時に医務室のドアが開き、医務室は一気ににぎやかになった。

「ルリルリ!体、何ともない?」

「ルリ!元気か!」

「ルリルリ〜、心配したんだよ〜」

「心肺停止・・・心配・・・くっくっくっ」

「ルリちゃん、意識もどったの?」

「俺のルリルリが傷物に〜!!!」

「あんたのじゃない!!!」

全員からつっこまれ部屋の端でいじけてるウリバタケさんはほっといてみんなは口々に私の事で話してる。
「でもルリルリの体が突然大きくなったときはどうしようかと思ったわ」

ミナトさんの言葉に私は自分の体がおおきくなっている事に気づいた。

「これはいったい・・・」

私が混乱していると。

「説明しましょう!」

先ほどより遙かに生き生きとしたイネスの説明が始まった。

「今から三日前、プラントが突然爆発したと同時に血だらけのあなたがブリッジにボソンジャンプしてきたのよ。」

びしっ、と私を指さしながらイネスさんは言った。

「傷は左腹部から外へ向かっての刀傷、見事に急所を貫通。相当の使い手による傷だと断言できるわ。医務室に運び込まれた時点で出血が激しくてお手上げの状態だった。私にできるのはせいぜい輸血で長く保たせることだけだった」

イネスさんは悔しそうに唇を噛んだ。医者としてのプライドがそうさせているのだろう。

「じゃあ、私は何で生きてるんですか?」

「それを今から言うところだったのよ。そうね、ここに運び込まれて二時間後くらいだったかしら。脈拍も低下してもうダメだと思ったとき、突然ルリちゃんの体が光り出して傷が塞がっていくのと同時に体が成長を始めたのよ。猛烈なスピードでね。そして今に至る。こんなとこかしら。今私に分かることは」

私は理解できなかった。私の体に起きたことも、私に何があったかも。

怖かった、聞いてしまうのが。しかし聞かなければならなかった。

「あの人はどこですか?」

・・・私は怖かった・・・




「〜〜、〜〜う!〜長!艦長!」

何度も呼ぶハーリー君の声で目が覚めた。

「大丈夫ですか?艦長。ずいぶんうなされてましたよ。」

心配そうにハーリー君が覗き込んでくる。それもそのはずだろう。私が居眠り、それも艦橋でとあってはハーリー君でなくとも心配するだろう。オペレーターの何人かも心配そうに私を見上げている。心配をさせてしまったようだ。私は安心させるために笑顔でハーリー君に答えた。

「大丈夫です。心配してくれてありがとうハーリー君。」

そう答えるとハーリー君は真っ赤になりながら。

「いっ、いえ。かっ艦長の心配をするのは副長補佐としてとっ当然ですから。」

そう答えて自分の席にそそくさと走り去っていった。

自分の席に着いた後もサブロウタさんに遊ばれてるようだ。

そしてふうっとため息をつく。その仕草を見てハーリー君が真っ赤になさらにサブロウタさんに遊ばれていた。

そして再び考える。なぜあの頃の夢を見たのだろう。あの人の事はもう・・・いや、私にあの人の、カイトさんの夢を見る資格など無い。あの頃はしなかった自嘲的な笑みを浮かべながら、呟く。

「私は穢れてしまったのだから・・・」

「ターミナルコロニーアマテラス、見えました。」

オペレーターの報告を聞きながら、今は任務に集中しよう。と考えを中断する。
  















まだ知らない

風が吹き荒れる事を

まだ知らない

これが最後の静かなる時だということを

まだ知らない

過酷なる運命の風の行方を








後書き〜
どもども星風です〜。
初投稿です〜。ついでにss初挑戦です〜。みなさん温かい目で見守ってくれれば嬉しいです〜。感想、ダメだし、カミソリ、何でもメールお待ちしております〜。
ではでは星風でした〜。




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