第3話:ハンターは獲物を前に

 

最早レストランは戦場と化していた。
噎せる程の硝煙。
飛び交う弾丸の嵐。
意識(あたま)を狂わす火薬の匂い。
カイトの体力はもう限界だった。
彼を動かしているのは、意地から生まれる気力。
そして―――。
傍らに居る、少女の存在だった。
ルリは衰弱しきっていた。
度重なる敵との遭遇戦は、戦場に慣れていない彼女の体力を確実に削ぎ取っていた。

―――残る敵は、二人。
カイトはリボルバーに弾丸を込めながらあらゆる可能性を考えた。
残弾数も少ない。 敵に対抗する手段は限られている。
先刻、此方の戦力の要であったジュンが敗れた。
援軍は、ありえない。
遮蔽物に隠れているのも時間の問題だ。
空撃ちも交えた応戦をしているカイト。 戦力の差は一目瞭然である。
肩で息をしているルリに、カイトは問う。
―――地獄を見る覚悟はあるか?
この状況でルリを守りつつ戦いを制するには捨て身しかない。当然、失敗すれば二人ともゲームオーバーだ。
返答を、待つ。 さほど時間はかからなかった。
ルリの意思を受け取ったカイトは、次の行動に移る準備をした。
捨て身と言っても、ただ突っ込むわけではない。
素早く近づいて、撃つ。 それだけではルリの安全は保障されないからだ。
それからカイトは、この状況内で許す限りの万全な状態を築いた。
保険は多い方が良い。

昂ぶった気分を沈めるために深呼吸をした。
吸い、そして吐く一呼吸。
次で最後だ。
―――どうせなら。
カイトの思考をルリの言葉が遮る。
―――地獄より、天国の方が良いです。
呑気な言葉に思わず苦笑した。
そうだな。 僕もそっちの方が良いよ。 イメージが悪いからな、地獄って。
敵の注意を引き付けるために、二人はその場で別れた。


 


ターゲットが動いたことに男は気付いた。
―――前線を前に作るつもりか?
一階に向かって、弾丸の雨を放つ。 角度で視認できないが、確かにカウンターの傍のテーブルに移動した。
緩急をつけてマシンガンを乱射する。 恐らくヤツは、弾丸を装填する隙の一刻に動くはずだ。
二階に上がるための階段は四個所に存在し、いずれも段数は少ない。
一度登り切られてしまうと、今度は男が不利になる。カイトのスピードは既に、大人のそれを遥かに超えていた。
だから男はこうして弾幕を張っている。 カイトを近づかせない為に。
なのにどうして、このような結果になっているのだろう。
―――チェックメイトだ、アキト。
一階に居た筈のカイトがアキトの背後で囁いた。
カイトのリボルバーの銃口はアキトの頭を捉えている。
引き金を引けば問答無用で終りだ。
アキトはようやく気付いた。
自分が今まで狙っていたのはカイトではない。 動くことすらままならぬ筈のルリだった。
カイトは負傷した彼女に無理をさせたワケだ。 アキトを欺く為に身体の痛みを堪えながら疾走したルリ。
肉体への負担は、地獄を見るほど重かったであろう。
―――ひとつ訊く。作戦の提案者は誰だ。
訊くまでもないだろ…こんな無茶な計画、あいつ以外の人間には思い付かない。
心の内で呟くアキト。
さあ、さっさと殺れよ。 でなきゃ、ルリちゃんの努力が無駄になってしまう。
―――言われるまでも無い。
そして、乾いた銃撃音が辺り一面に反響した。



―――甘かったね、カイト。
『躊躇い』。
カイトの敗因はそれだった。
躊躇せずに素早くアキトを始末できていれば、今みたいにユリカの攻撃を食らうことは無かったのだ。
弾丸に込められたエネルギーはカイトの利き腕を易々と貫いた。
リボルバーが、床に落ちる。 勝機が失われた瞬間だった。
―――恨まないでね。 私達には、こうするしか無かったの。
ユリカの言葉がコダマする。 カイトは己れの無智さを呪った。




次の瞬間、頭に強い衝撃を感じたのを最後に、カイトは意識を失った。









「……何が体感シューティングゲームだよ。 マジになりやがって…」
「あはは、ゴメンゴメン♪ つい、本気になっちゃったのよねー」
カイトの黒い双眸には苛立たしげな光があった。 
不機嫌な弟に対し、平謝りするユリカ。 とはいっても、全然気持ちがこもっていないのだが。
「ああいいさ、所詮ゲームだ。 だけどな…なんで僕まで参加するハメになったんだよ。
ルリに聞けば、当初は旧ナデシコクルーでやる予定だったって言うじゃないか」
ユリカに対し、厳しい視線と共に疑惑を投げかける。 助け船を出したのはアキトだった。
カイトの逆鱗に触れないよう、ゴートの代わりが必要だったことを優しく丁寧に説明した。
あの人物がゲームに参加したら、大きく戦局が傾いてしまう。
勝手な理由ではあるが、カイトは納得せずにはいられなかった。 正論である。
「今回だけだぞ。 次があったら絶対に許さない」
自分にも色々と予定があるのだ。それを姉さんの思い付きでブチ壊されるなんて、たまったもんじゃない。
「でも、結構リアルで楽しかったでしょ?」
笑顔で問い掛けられる。
確かに、有意義な時間ではあった。
ゲームスタート前の作戦会議。 味方の数が減ってからの読み合い。
あの状況を楽しんでいたことは認めざるをえない。
カイトはコクリと頷いた。
その反応を見たユリカは嬉しくなったのか、再び笑顔を見せた。
「それじゃっ、もう一件行ってみよ〜♪」


「…勘弁しろ」「…勘弁して」
黒髪の少年と銀髪の少女。
何の打ち合わせも無しに二人の意見は見事に一致していた。







▼△▼△▼△後書き〜貴方を、犯人です〜▼△▼△▼△

――私事に追われて、気がつけば一年経っていた。
ええと、時に直したら365×24=8760、分に直したら8760×60=525600、
秒じゃあ525600×60=31536000。 あれ? 計算合ってるかな。
数字で見ると一年って短いですね…いや本当に。
で、何が言いたいのかと言うと、別に言うことは何も無くてですね、
えっとあの、その、取り敢えずゴメンナサイ。
文、前よりはレベルアップしたと思いますが……五十歩百歩ですかね。

正直この「なで学」、もう黒歴史にしようかとも思いました。
いえ、文が拙いとかそーゆうのは良いんです。 それは今も同じですし。
ですけどアレ、なんですか? オリキャラ?
いま冷静に考えたら要らねえ… 出す必要性が全くねぇ…orz
昔はどうかしてたんです。 気が狂っていたに違いない。

……。
というわけで、ヤツら、もう封印します。(ちゅーか、出すことを望む人など居ない)
考えてみれば、話の主旨はカイト×ルリな訳ですし。
無理にオリキャラ目立たせるぐらいなら二人の話を進めましょう、うんそれが良い。

あと今回、非常に読み辛かったと思われますがご勘弁を。
もう此れで練習する気満々です。いわば、試作品。
色んな書き方を試してみるつもりなんで、そこらへんはご了承下さい。

因みに話のネタ、暴露。
・カイトと人外の死闘
・The blank of 3years FIVE LOVEのあのキャラ、登場
・カイトが女子にもてる秘密 そしてルリは
・妹(娘)キターッ!!

次回、どれかやります……きっと、恐らく、多分。


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