機動戦艦ナデシコ

第三部 a castaway




 出会い、別れ、再会、また別れ。

 それは何度もある事。

 でも、こんな再会とまた別れってあるのかな。

 なんで……





 第2話 『ひさしぶりだな』





 カタカタカタカタ

 カイトは1人、薄明かりしかささないコンピュータルームでキーを叩いていた。

 「これでうまく行けば……」

 慎重にエンターキーをカタとおす。

 『       an reeoee

 ざんねんでした。また、がんばってください 』

 ディスプレイには今までの苦労をばかする言葉しか打ち出さなかった。

 「5ヶ所襲って、5ヶ所ともこのメッセージか。セキュリティーが堅いのか、それともばれてるのか……普通に考えればデータを引っこ抜くときのパスワードみたいなのがあるんだろうな。ばれているなら最悪だ」

 座ったまま、疲れを取るために背伸びをする。するとなんとなく背後に人の気配がする。

 「ミナヅキさん、今日はオフでしょ。ちゃんと休まないといけませんよー」

 カイトは背後からの明るい呼び声にそのまま反った姿勢で見る。

 背後に立っていたのは担当主治医のキョーコ・アサクラだった。

 今年の4月から表向きネルガル月面基地の健康管理医になったばかりの新人医者だ。

 SS担当医がイネス1人でさらに、アキトのナノマシン研究、ボソンジャンプの研究とかなりの負担になっているのを懸念したカイトがプロスペクターに医者を1人入れてほしいと頼み、20歳という若さで研修過程までクリアしていた彼女をスカウトしてきた。

 正直なところ、プロスペクターのスカウトの腕は疑ってはいなかったが、20歳という年齢の低さからくる経験の浅さがSSやカイトの不安材料だったが、それは杞憂に終わった。

 SSオペレーションで瀕死の重傷を負った隊員を鮮やかな手腕で救った。

 さすがに不思議に思ったのでプロスペクターに彼女の履歴をたずねたところ、非公式ながら11年もの医師歴がある事がわかった。

 その後の患者との接し方やSS隊員の健康管理や時に怪しい薬などで1ヶ月程でSS全員から信頼とちょっぴり恐怖を勝ち得た才女であった。

 カイトは座り直して、くるっと椅子を回してキョーコの方を向いた。

 「一応、終わりましたから今日は仕事をしませんよ」

 愛想笑いを浮かべるカイトをキョーコは腰に手を当て“そんな事をいっても信用できませんよ”とこまった表情でカイトを見た。

 「う〜ん。今日はお仕事が終わったんですよねー」

 「ど、どーしたんですか。あらたまって」

 「お仕事が終わったのなら、今日は暇ですよね。イネス先生はナノマシン研究でおこもりみたいですし、テンカワさんは訓練に精を出してますし、フィリアさんも会議ですから遊び相手もいませんよねー」

 「ま、まあ。そーなりますね」

 なんとなくはめられつつあるなと思ったカイトの頬には汗が一粒浮かんだ。

 その汗を見たキョーコはにやりと一瞬だけ怪しい笑みを浮かべ、にっこりと微笑んだ。

 「それなら、私も今日はおやすみなんですよー。ですから、一緒に遊びませんかー」

 カイトはため息を少し吐いて困った笑みを向けた。

 「まったく、そのつもりだったんでしょ? そんな事しなくても別に断りませんよ」

 「あははっ。ちょっと回りくどかったですか?」

 悪びれもせずキョーコは笑ったままだった。

 「ええ。イネスさんからの差し金でしょ?」

 「いーえ。これは私の意志ですよー。あはははー」

 「えっ?」

 「今日はカイトさんのおごりですねー」

 「えっえっ?」

 「だって、私は誰かに頼まれたからって、好きでもない人なんか誘いませんよー」

 「え、ええっと。好きになってくれてありがとうございます。そして、侮ってごめんなさい」

 「あははっ。ちょっとだけしか気にしてませんからー」

 キョーコは上機嫌で笑うと「ちょっと着替えてきますねー」と言い残し、部屋から出ていった。

 こうも、どうして。僕の周りには我が強い人ばっかり集まるんだか。

 カイトは頬をかきながら、自分も着替えるために席を立った。





 昼下がりのカフェテラス。

 三時のおやつ休みなのかかなりのOLと少しばかりの学生カップルに紛れて、カイト達もお茶をしていた。

 「よくこんなに買いましたね」

 「あははっ。女の子はこのくらい買い物をするものですよー」

 「いくら何でもそれはないでしょ」

 カイトは困ったように隣の席に高々と座している荷物を見た。

 キョーコは困った顔のカイトを面白そうに見ながら、カップの縁を指でなぞった。

 「これからどうします。あと映画を見て、それからディナーにしますか?」

 「う〜ん。そうですねぇ……」

 くるくるとカップの縁をなで続けるキョーコを見ながらカイトも、コーヒーの入ったカップを手にした。

 不意にキョーコの背後から影が降りる。

 「?」

 不思議に思ったキョーコが背後を振り返る。カイトもつられてキョーコの背後に立った人物を見た。

 「き、君は……」

 「やはり、おまえか。ミナヅキ!」

 「シュバイツァーか。まさかこんなところで会うなんて」

 キョーコの背後にいる男とカイトが見つめ合う。

 「隊長やラビオから生きていると聞いてたけど、まさか本当にそうだったとは。こっちには何時から?」

 「去年の末からだよ」

 「あ、あのぉ。どなたなんですか?」

 事情が全くわからずキョーコがカイトに聞いた。

 「ああ。ごめんごめん。彼はシュバイツァー・ナイトハルト。昔の戦友だよ」

 「そうだったんですか。もし、時間があるなら同席しませんか? カイトさんがナイトハルトさんとお話ししたそうですから」

 キョーコは、にっこりと微笑むと空いていた席を引いてシュバイツァーに勧める。

 「いえいえ。これ以上、デートを邪魔をする気はありませんから」

 シュバイツァーがやんわりと断るがキョーコは引かなかった。

 「そんな事は気にしませんよ。大勢の方が楽しいですからー」

 「キョーコさんもこういっている事だから。座れよ、シュバイツァー」

 「しかたないな」

 シュバイツァーはカイトに言われるよりもキョーコの笑顔が同席するようにと語っていたので座る事にした。

 「ミナヅキ……」

 「どうしたんだい?」

 シュバイツァーは少し目を細めると人なつっこい顔になる。

 「久しぶりだな」

 「そう、だね」





 日が陰り、夜の装いをし始めた頃、シュバイツァーは用があるのでと席を立ち去った。

 「感じのいい人でしたね」

 シュバイツァーの後ろ姿を見送った後、キョーコが口を開いた。

 「昔から彼、もてたから」

 「へぇ。カイトさんをしてそういわせるのですからすごい人なんですね」

 「シュバイツァーは真面目だから。僕は根が不真面目ぶん、結構気があったんですよ」

 カイトは過去を懐かしむように笑った。だが、自分の知らないうちにシュバイツァーにあった“人生が変わるような事”には笑える気がしなかった。

 「時間もいい事ですから、そろそろレストランでディナーを取りませんか?」

 「その前にその荷物を預けてでしょ?」

 キョーコがいぢわるそうにカイトの顔をのぞき込む。

 「まったく。キョーコさんがこんなに買い込むからそーなるんですよ」

 「それは前に説明しましたよー」

 「そりゃ、そーですけど。ちょっと運送屋さんで手続きをしてきますよ」

 そういってカイトが立ち上がろうとするとコミュニケから通信が入る。

 ピッ

 「はい、ミナヅキですけど」

 『カイト君、今どこ?』

 コミュニケには焦った表情のエリナが映し出された。

 カイトはその表情から、外部に聞かれては困る内容だろうと察し、コミュニケからイヤホンを取り出す。

 「今は市内のカフェですけど。どうしたんですか?」

 『どうもこうも、うちの施設を爆破されたのよ!!』

 「それで、被害規模は?」

 カイトの反応は至って冷静だった。

 それなりの規模が爆破されたのなら、市内中の消防車が出動するはずである。サイレンすら聞こえなかったから、大体どこが爆破されたのかは推測はついたからだ。

 『っ。爆破されたのは開発部門の施設の北棟よ。幸い、業務時間が終わっていたからほんどの職員は帰宅していたので人的被害はほとんど無いわ。ただ、施設は半壊ね』

 エリナはカイトの冷静な声にいらだちを感じたが、的確に答えた。

 「わかりました。これから戻ります。ちょうどキョーコさんもいますから、現場へ直行します」

 『そう。入れるように手配しておくわ』

 「おねがいします」

 コミュニケを切り、キョーコを見るとキョーコもまた自分のコミュニケで連絡を取り終え、席を立っていた。

 「それじゃあ、カイトさん、行きましょう」

 「そうですね」

 カイトは荷物を抱え、ハンドバックだけを持ったキョーコの後を追った。





 カイトは1人で構内を飛ばしていた。キョーコは本館の地下のオペルームでオペがあるので正面入り口でおろしてきた。

 何カ所かで検問があったが、顔パスかIDカードを見せるだけで通せてもらえた。ここら辺はいつも仕事が速いエリナに感謝した。

 北棟の近くで車を止める。あたりにはもう人はあまりいなかった。

 「ご苦労様、ミナヅキです。現状はどうなってますか?」

 「ミナヅキさん、休暇中だというのにご苦労様です。今は一応の処理は終わりました。今は現場検証中です」

 入り口前にガードマンとして立っているSSの隊員が答える。

 「で、どこをやられたの?」

 「5階にあるメインコンピュータルームです。爆発の衝撃で天井が抜けて4階と3階まで被害がでています。行方不明は5階にいた警備員1名と内部にいたと思われる開発二課の職員2名。怪我人は4階の開発一課の職員3名。3階は二課の職員2名です」

 「怪我人は大丈夫なのかい?」

 「ええ。幸い救出が早かったので、重傷者はすぐに手術室へ。軽傷者の方は我々で手当てしました」

 いつもの人数比を考えると奇跡とも言える被害の少なさだが、それゆえにメインコンピュータをやられたのが痛い。一応、本館のマスターコンピュータの方にバックアップは取ってあるが、情報量は5〜6割程。あくまで報告できるレベルのものしかない。

 「こまったなぁ。ともかく、中を見てくるよ」

 「A・B階段は爆発の影響で3階から使えないのでC階段を利用してください」

 「ありがと」

 カイトは頬をかきながら北棟に入っていった。





 4階ではエリナが陣頭指揮を執って事態の収拾を行っていた。

 すでに簡易的にではあるが支柱などの補強はしてあるのでこれ以上崩れる心配はない。

 「コンピュータチップなど、あるものは全部回収して。再生可能なものと不可能なものでちゃんと選別もしてちょうだい! こら、アキト。サボらず働きなさい!!」

 エリナの指をさした先にはふてたようにガレキに座っているアキトがいた。

 どうでもいい事だが、この場で黒い長袖のシャツ、長ズボンでははっきり言って怪しい。

 「エリナ……緊急事態だからと言われてきたが、これはどういうことだ?」

 アキトは一応エリナの方を向き、サングラスを拭きながら答えた。

 「これが緊急事態じゃなきゃなんなのよ。ものの見事に爆破されて、ユーチャリスやサイズダウンジャンプ機のデータもあったのよ。ああもう。いいからちゃっちゃと働きなさい!」

 「俺が言いたいのはそういう事じゃない。緊急事態なのはわかる。だが、何故俺が呼ばれたのかと言う事だ」

 「あのね。今、ネルガルは人手不足なのよ。だらだら休んでいる人間がいれば、すぐさま駆り出すのよ!!」

 「な゛!?」

 「さあ、ちゃっちゃと働きなさい!」

 鬼のような形相のエリナに恐れをなしたアキトはすごすごと動き始めた。

 「ふぅ。まったく。ここもあなたのために必要な所なのよ」

 エリナはアキトの背中を見ながらため息をついた。

 じゃりじゃりと足音が聞こえる。

 誰かと思いエリナは振り返った。とか言え、こんな所にくるのはごく少数だ。大体誰かは予想がつく。

 「ご苦労様です、エリナさん」

 「遅いわよ、カイト君」

 エリナの予想通りカイトだった。走ってきたのだろうが息一つ上がっていなかった。

 「すみません。で、現状はどうなんでしょうか?」

 「5階にいた3人は死亡が確認されたわ。後は見ての通り。5階はほとんど廃墟ね」

 そういうと今現在わかっている事の書かれたファイルを手渡す。

 「よくこんな短時間でここまで調べられましたね」

 カイトはファイルを見ながら感嘆の吐息を漏らした。

 「しかし、これはプロの仕業ですね。ここまで膝元の目標を鮮やかにやるなんて。敵さんも本格的になってきたってことですかね?」

 「じょうだんじゃないわ。こっちはまだ準備が出来上がってないのよ」

 「まあまあ、コンピュータが壊れたからってまるっきり何も覚えていないわけじゃないでしょ。開発課の人だって素人じゃないんですから。初期予定からのずれはほとんど無いでしょ」

 楽観的に言っているように聞こえるが、暗にこれ以上遅れる事は許されないと言っているようにも聞こえる。

 「代わりの場所は?」

 「5研に話をしたら時間ごとに使用領域を決めると言う事でコンピュータの方はなんとかなったわ。実務の場所は本館の会議室と開発部の本部長室の二部屋。狭いだろうけど当面はこれで我慢してもらうわ」

 「へぇ。5研にそんな余裕があったなんて知りませんでした。フィリアさんは結構ぎりぎりって言ってたのに」

 不思議そうに訪ねるカイトをエリナは頭を痛そうに押さえた。

 「はあ。それは彼女たちの場合だからよ。1課2課が使うのには十分なスペックなのだけど、彼女たちは自分たちの案を全部コンピュータに詰め込むから即、キャパシティーオーバーになるのよ」

 「普通は吟味してから……ですからね。まあ、ともかく、ことが解決したのはいい事です」

 「何も解決してないでしょ、今回の事件は!!」

 カイトののほほんとした言葉にかちんときたエリナの青筋には怒り筋が浮かんでいた。

 「えっと。そー言えば、犯人がまだでしたよね、犯人が」

 エリナの怒りにおののいたのか、カイトはそのままの姿勢で1メートル下がった。

 「まったく。早く見つけなさいよ。そのためのSSでしょ?」

 「ちょっと待ってくださいよ。こういうことは警察の仕事でしょ。なんでSSを使うんです。それに消防署も使わなかったでしょ。どうしてです? そんなにやばいものはここにはないでしょ」

 「それはそうだけど。これだけ鮮やかに侵入されてるのだから多少は警戒するわよ。月だって完璧に安全だとは言い切れないのだもの」

 「なるほど……紛れられる事を警戒してる訳ですね。警備プランを早急に改善します。時間は?」

 「警備の改善プランをこれより3時間後にある会議に提出。何か質問は?」

 2人の顔は支社長と軍人の顔に戻る。

 「了解しました」

 カイトは来た道を戻ろうと思ったが、視界に黒いもそもそと動く物体が見えた。

 「あの、エリナさん。ちょっといいですか?」

 「なによ。ほかに何かあるの?」

 不機嫌そうな目を向けてくるエリナ。

 カイトは困ったように頬をかいた。

 「あの巨大なまっくろくろすけはなんですか?」

 「どう見ても、アキトでしょ。カイト君、ジ○リの見過ぎよ」

 「そんな。あれはささくれた心を癒す最高のアイテムですよ」

 「大人ならもうちいとましなものを探せ!!」

 「デッキブラシは最高なんです」

 「せめて人に萌えなさいよ……」

 エリナの呆れた視線が痛いが、カイトはやれやれと言った態度で真面目な口調に変わる。

 「冗談はこのくらいでいいとして。あのまっくろくろすけを借ります。今回のプランを立てさせたいので」

 「アキトに?」

 「ええ。いつも攻める側にしか立たせてないので守る側も経験させておいた方がいいと思いましたから」

 「そう。なら、カイト君に任せるわ。けど、不始末があった場合、責任はあなたに全部取ってもらうわよ」

 「ええ。わかってますよ。アキトはまだ表に出す訳にはいきませんから」

 「そう……よ。っ」

 エリナははっとして、顔を赤くして後ろを向いた。

 恥ずかしかった。アキトの未熟さを考慮した上でその責任をカイトだけに押しつけようとした。月の表面上は自分の方が地位も権限も上だが、裏側ではカイトの方がはるかに上回る。それもねたましかったし、何よりアキトに関する事は総てカイトの言う事を優先するようにとのアカツキからの命令もあり、それが特にいやだった。だから、今回失敗すれば少しは自分に有利になるのではと思った。だから、一瞬でもそう思った自分が恥ずかしかった。

 万が一、この失敗でアキトの事が問われれば、自分はもちろん、ほとんど実績のないアキトの処遇など想像するに容易い。いやそれよりも、カイトが自分を蔑ろにする事などありえないのに。アカツキからの命令も、暴走しかねない自分のために言った抑止力だと言う事はわかっていた。だからこそ、恥ずかしくカイトの顔を見られなかった。

 「どうしたんです?」

 黙りこくって肩を落としているエリナを心配したカイトは、すぐ手のとどく距離まで近づき声をかけた。

 「なんでもないわよ。今回はアキトに計画立案させるんでしょ、時間無いわよ」

 「そうですね。またあとで。

 お〜い、まっくろくろすけのアキト!! これから、新しい仕事があるからこっちに来てよ」

 カイトはアキトを呼ぶと帰り際、エリナに「焦らないでください。どーにかなりますよ」とぽつりと言い、頭を下げ、アキトは通り過ぎるとき、少し視線を絡めた。

 そして、カイトとアキトはこれからの任務について説明をしながら去っていった。

 「バカ……」

 2人が過ぎ去った後、エリナはこう呟くしかできなかった。不器用な男達の優しさ。ただ、それだけが心に鈍く痛んだ。





 ゆらゆらと揺れるロウソクの光。ここはどこかのホテルのVIPルームだろうか。テーブルを挟んで白衣の男とスーツを着たシュバイツァーがいる以外、他に人はいなかった。

 「ネルガルの警備体制が変更された。これは予想できていた事だぞ。なのになんだったんだ、あの中途半端な任務は」

 「おやおや、それはあなたが詮索する事ではないでしょ。まあ、そうやってわずかでも足止めをしておいてもらわないと我々も困るんですよ。と言う事です」

 「非人道的な研究のためにか?」

 苦労も金も時間もかけて行った爆破任務をあっさりと“時間稼ぎ”と言われ、皮肉るが歯牙にすらかかっていないだろう。

 「人類の進歩のため、“貴い犠牲”の元に成り立っている実験と言ってください」

 いつもへらへらしている顔では、それを本気で思っているなどとは考えられないだろう。どう見ても確信犯だ。

 「娘さん、どうでしたか?」

 「貴様が知る事じゃない」

 「おやおや、ずいぶんと嫌われたみたいですね。まあ、そんな事はどうでもいいです。次のターゲットはこれです」

 白衣のポケットをごそごそと探ると一枚の写真を取りだし、さし渡した。

 男の表情が驚愕に震える。

 「おや、どうかしましたか?」

 「……なんでもない」

 「お引き受けになりますか? いや、あなたは引き受けざるを得ないはずでしたね。愚問でした、娘さんがかかっているのですから。すみませんねぇ」

 射殺すようにな眼孔で睨みつけるが、どの吹く風と言った調子でいつも通り男は笑い顔を貼り付けていた。

 男は写真を手荒く握りつぶし、机の上に投げるとそのまま席を立って出ていった。

 「大切な写真を。手荒ですねぇ」

 白衣の男は写真を広げて、テーブルの中央にあるロウソクの火にかざした。

 「私としてはどちらに転がろうと、結果はどうでもいい事です。過程が必要なのですから。総ては主がために。くっくっくっ」

 白衣の男の手から離れた写真はちろちろと燃えながら、テーブルクロスを舐めていった。





 「これで1週間目か……全く、反応無しというのも困ったなぁ」

 カイトは頬をぽりぽりとかきながら、本館ビルの周囲を歩いていた。

 アキトの発案を元に制作された警備体制はちゃんと機能している。

 だが、月支部のSSメンバーをかなり投入した結果になっているため“火星の後継”という組織に対しての監視、諜報に支障が出始めている。

 それは仕方ない事だというのはわかっている。月支社から月面基地までのネルガル関連施設全部の警備強化という最終決定だったのだから。

 この件に関しては、カイトとエリナが守りに入ればただやられるだけと反論したが、社員の安全確保が最優先、という至極まっとうな意見に引かざるを得なかった。

 「後手に回りすぎてるよな……」

 とか言え、何ら手をこまねいていなかった訳ではない。街での聞き込み。武器の流れ。過去一年までさかのぼり、月へ来た人間を洗うという突拍子もない案も行ったが、さしたる効果はなかった。何しろ、統合政府、クリムゾングループの艦もヒサゴプランのために月へ着艦しているのだ。そのほかの民間シャトルなどを合わせるとその数は膨大になる。それをネルガルとしてでも連合宇宙軍としても、調べるのは無理だ。個人でなど以ての外。履歴などいくらでも改ざんできる。

 こうもなってくると相手からのリアクションがない限り、有効な手は打てない。

 「はぁ〜」

 カイトの悩みはつきない。先刻もその件でアキトに絡まれたばかりだったから。

 

 『おまえはよく呑気にしてられるな』

 『そう? 結構、焦ってるんだけど』

 『時間がかかればかかる程……わかってるのか、おまえは!』

 『そりゃね。全容はわからなくても大体の推測ならつくし』

 『なら!!』

 『まあまあ。怒っても何も変わらないよ。今は待つしかないんだから。待つしかね』

 

 一応納得したように去っていったが、納得していない事は明白だろう。

 これくらいで納得するようなら復讐も思いとどまっただろう。

 それに現段階で助ける事が出来たとしても、それで終わるだろうか? 普通の生活に戻れるだろうか?

 おそらくそれは難しいだろう。カイト達のバックボーンのネルガルは先の大戦で権威を失墜させている。事実を公開させても“どうせ作り話”と思われる可能性が高い。それに“マシンチャイルド”を生み出した過去もある。

 電波ジャックをした所、世論が味方に付くより、敵に付く可能性の方がはるかに高いし、実際おこなうとしても技術的にも時間的にも厳しい。何より全世界規模で行うとしたらルリ達の協力は絶対不可欠になる。

 だが、ルリ達に協力を求めれば、自分たちのしている事に巻き込む事になる。それはタブーだ。なんのために、嘘までついて堕ちたのかわからなくなる。

 カイトは思考がループしそうになったので、気分転換に背伸びをした。そのまま背を反らしていくと青い地球が見えた。

 ぼぉっと地球を見ながら歩いていた。本当なら、いや望んでいた未来でならこうやって月から地球を眺めているなんて事はおそらく無かっただろう。

 視線を戻すと本館から別館へつづく回廊になっていた。

 後は別館で見回りの交代をして自分の部屋に戻るだけだ。

 だが、回廊へ足は進まない。本能的な部分が足を進めさせない。

 狙われているって事か……

 カイトは周辺をイメージする。狙える場所は一ヶ所、1キロ先の廃ビル。そこにはSSを配置していたはずだが、すでに排除されているのだろう。となると、狙われる場所は回廊の約2/3。遮蔽物になりそうな木はあるが、そのくらい貫通できるライフルを用意しているだろう。だとすれば。

 即座に3つ案が浮かんだ。ひとつは今すぐ連絡をする。妥当な案だが、敵に逃げられる可能性が高い。ふたつめは引き返し、敵が待機している場所の交代時間まで粘る。これは論外。こちらの交代時間は把握済みだろう。みっつめ……このまま気づかないふりをして回廊を進む。虎穴にはいらずんば虎児を得ずと言うが、あきらかにハイリスクローリターン。相手がどのくらいのやり手かがわかるくらいだ。

 しかし、考えがまとまる前に足を踏み出していた。何故かカイトはそのまま歩く事があたりまえに思えた。

 普段なら、連絡を取りながら歩くと言う妥協案を採っただろう。今はもう、どうでもよかった。ただ“自分を狙うやつ”がどんなやつなのかが知りたかった。

 懐中電灯を何度かつけたり消したりする。

 『ランサー4。何か異常でもあったのか?』

 「いや、なんでもないよ。電灯の調子が悪かったみたいだから、ちょっといじってただけだよ。ごめん」

 『ラジャー』

 カイトの行動が不審に思えたのだろう。同僚が連絡を取ってくるが、当たり障り無い言葉ではぐらかす。

 一歩一歩前に進んでいく。

 後、10m。9m…7m…5m…3m…2m…1m……

 0。ほんのわずか、早く前に出る。

 ボッン!

 ズボンが少し裂け、後ろにあった植え込みがはじける。

 今度は身体をかがめる。電灯に着弾。アルミの焼ける匂いがあたりに漂うが、その匂いをカイトが楽しむ余裕はなかった。

 それよりも、この状況の方が楽しかった。こうやって命の危険にさらされている瞬間が“楽しかった”。

 走った。助かりたいから走った。相手は律儀なのか、これとばかしと正確に命を狙ってくる。

 あと10m。そこでこの狂った世界は終わる。

 『さすがだな、ミナヅキ』

 「!!」

 インカムからはいる声にカイトは一瞬身体を硬直させる。

 昔よく聞いた声。そして……

 その一瞬の硬直が仇となった。

 パシュッ!

 無理矢理硬直した体を動かし、銃弾を避けようとしたが、避けきれず左腕に突き刺さった。

 「ぐっ……」

 反射的に転がるように身をかがめる。予想通り、頭のあった所に銃弾が突き抜けた。

 それはよかったが、撃たれた傷が痛み、転びそうになる。

 “後5mもあるのに。倒れたら殺られる!”

 反射的に右腕を前に出し、地面をはねとばす。

 カイトの身体がふわりと宙に舞う。

 重力に逆らわず、一回転し、腕を伸ばして綺麗に着地した。

 「10点、10点、10点、10点、10点、50点満点。うまく着地できました」

 と、そのときさらに一発の銃弾が放たれる。

 無論、当たらない場所まで跳躍しているので当たりはしなかったが、無論、衝撃は伝わってきた。そう、ぽんと背中を押されるぐらいの。

 べちっ

 「むぎゃっ!」

 カイトはものの見事にこけた。

 

 カイトが襲撃された回廊より1km程離れたビルの屋上。ロングレンジスナイパーライフルを構えていた男が立ち上がった。

 「さすがにすごいな。敵に回すとよくわかる……」

 側に立てかけてあったヴァイオリンケースを拾うと素早くライフルを片付けてその場を去った。

 SSが到着したのはそれよりわずか30秒後だった。





 「全く、もぉ。しかたない人ですね。それじゃ……あ〜ん」

 「あ〜ん。……ん〜、やっぱり、病院では人に食べさせてもらうに限りますね」

 カイトはにっこり笑うとキョーコがむいでくれたりんごをしゃりしゃりと食べた。

 ここは月ネルガル支社から一番近場の総合病院の一室。ちなみに、個室である。

 昼下がりの中、さらさらと風が流れてきて、カーテンが踊った。

 「……ふふっ」

 「あら、どうしたんですか?」

 カイトは風に舞う自分の髪を押さえて外を見た。

 「ただ、昨日の事が幻のような感じがしたんですよ」

 「幻だったらどれだけいい事か。私達がどれだけ心配したか知ってますか?」

 キョーコは怒った表情でりんごの皮をむいでいたメスをカイトに突きつける。

 カイトはちょっとだけ困った顔を向けてまた、外を見た。

 「知ってますよ。だから、こうも穏やかだと幻っぽく思えるんです」

 カイトの横顔は元が女顔というのもあるせいか、すごく幼く見えた。昨日、真っ青になってまでも陣頭指揮をふるっていた人と同一人物とはとても思えなかった。

 昨日(今日の未明が正確)の狙撃事件の痕跡は懸命な復旧作業によって元通りに直している。無論、狙撃者の追跡も行ったが、途中カイトが大量出血で倒れたため、指揮系統が一時的に混乱してしまい(プロスペクターとゴートは地球、月臣はミッション中のため、代わりをとれるものが不在だった)、頓挫してしまった。

 それから苦労したのはエリナ達女性陣だった。エリナ、キョーコは眠っている所を起こされ、イネスは研究を中断して現場へ直行した。

 エリナとキョーコが手術室についた頃、ちょうど手術は終わっていた。

 オペ事態はイネスの腕を持ってすればさほど難しいものではなかったが、さすがに出血量が多く、予断を許さない状態だった。

 万全を期するために徹夜のイネスはキョーコと代わり、エリナはカイトの代わりとして現場の指示と後始末を行った。

 というのが昨日のあらましである。

 「大事に至らなくてよかったですね。神経もほとんど切れてなくって。けど、どういった回復力をしてるんですか? 朝はすごく真っ青な顔をしてたのに、今はこんなに血行がいいなんて」

 「う〜ん。ここはやはり、人の神秘だからじゃないですか?」

 「それで済めば医者はいりませんよ」

 あきれた風にしながらキョーコもりんごをしゃりと食べた。

 「まあ、ひとえにイネスさんの腕とキョーコさんの看護のおかげでしょ」

 「そういってもらえるとうれしいですねー」

 「あははっ」

 こんこん!

 「誰だろ? はい、開いてますよ!!」

 カイトの呼びかけに答えて、ドアをスライドさせて現れたのは一週間前にあったシュバイツァーだった。

 「元気そうだな、ミナヅキ」

 「まあ、それが取り柄だし。ともかく、きてくれてありがと」

 キョーコはりんごを切っている手を止めて、会釈し、シュバイツァーは安心して花束を抱えたまま微笑んだ。

 「そうそう、お見舞いの花束を持ってきたのだけど、飾る花瓶はないかな?」

 「あ、それなら私がやりますよ。シュバイツァーさんは座っててくださいな」

 キョーコは素早くりんごを切り終えると自分の座っていたいすを片づけ、立てかけてあった折りたたみ椅子を広げてシュバイツァーに勧めた。

 「それではお願いします」

 花束を渡すとすんなりと席に座った。

 キョーコはシュバイツァーが座ったのを確認して、窓際にあった花瓶をとって部屋を出て行った。

 「珍しいね。君がそーゆーことを女性に任せるなんて」

 「彼女の場合、こういうことは任せた方がいいだろ? 下手に互いが強情を張るよりは」

 「そのとーりだね」

 二人して苦笑した。

 「まっ、改めてお見舞いありがとう。でも、忙しいんじゃなかったの?」

 「友達がけがをして入院したんだ。少しぐらいの時間ならつくれるさ」

 「そっか。迷惑かけたな。そういえば入院といえば、君の娘さんも入院してるって聞いたけど?」

 一瞬シュバイツァーが顔をしかめる。

 「わ、わるい。聞いちゃいけないことだったかな?」

 ばつの悪いカイトはほほをかいた。

 「いや、そんなことないさ。まさか、君が知ってるとは思わなかったからね」

 「よかったじゃない、大変だね。よかったら何か力になれることはないかな?」

 「今は大丈夫さ。それより今の君の方が大変だろ。新型のテストパイロットだろ?」

 「ああ。まっ、念願かなってだけどね。そのせいか、今回の事故で周りの風当たりが強くて」

 「とうぜんだろ。しかし、らしくないな。どんなドライブをしても事故一つしなかったのに、わずか40q/hほどで事故だなんて。カザマさんあたりが怖い顔をしてるんじゃないか?」

 会話をそらすように苦笑しながら言った。

 悪意はない。事実、イツキがいたのなら間違えなくそういう顔をしているのはカイトにとって容易に想像つく。容易に想像がつくからこそ、ちょっとした会話に“イツキ・カザマ”の名が出るのは痛かった。

 だが、それを表に出すことは許されない。これ以上、誰かを巻き込みたくないから。

 「どうかしたか。何か難しそうな顔をしているが? 傷が痛いのか?」

 「いやいや。イツキの顔を想像すると……ちょっとブルーが入ったかな。あははっ」

 カイトはごまかすように笑うしかなかった。

 「あれ、雰囲気が暗いですねー。病院だからって辛気くさくしてたらもっと悪くなりますよー」

 暗い雰囲気を一掃するかのような笑顔と大量の花が入った花瓶を持ってキョーコが帰ってきた。

 「あ、キョーコさん。お帰りなさい。シュバイツァーの花の選びがうまいのもあるんだろうけど、その生け方絶妙ですね」

 「そうだな。やはり私の判断は正しかっただろ?」

 「そーだね。相変わらずそーゆー勘は君の方が上だなぁ。はははっ」

 「おいおい。それは君に言われたくないよ。はっはっはっ」

 「なんだかよくわからないですけど、褒められてるんですよね? あははっ」

 なんだかよくわからないが、二人の暗い雰囲気がなくなったことを喜んでキョーコも二人につられて笑った。





 しばらく三人で談笑した後、キョーコは自分の仕事に戻り、シュバイツァーも帰途につきカイト一人になった。

 朝、一人でいたときは別に広くもない病室だと思ったが、二人と別れた後の病室はひどく広く、寒い思った。

 そんな思いを振り払うようにカイトはベッドから降り、カーテンを開け、窓を開いた。

 冷たい夜風が入ってくる。

 pipipipi

 花瓶の隣に置いてあるコミュニケが鳴る。

 「あ、僕だよ。……うん、うん。……………いや、何でもないよ。わかった。時間がない中これだけ調べてくれてありがとう。それじゃ、ご苦労様」

 pi

 コミュニケを切るとカイトはまたベッドの中へ戻った。





 プシュー

 深夜、カイトのいる病室の扉が開く。むろん、面会時間は過ぎ、看護士の巡回時間でもない。

 闇夜に紛れて病室に入る。静かに足音もたてずにベッドに近寄る。

 圧迫式の注射器を取り出し、慎重にシーツに手をかけようとしたがそこに誰もいないことに気づいた。

 唐突に開かれたままだった窓から強い風が入ってくる。

 めくれるカーテン。その音の中にほかの何かが揺れる音がした。

 その音は窓の近くにある花瓶に挟まれていた紙だった。

 侵入者はその紙を見ると握りつぶし、窓の外を見て病室を出た。

 病室に残された紙くずはかさかさと風に翻弄された。





 カチャッ……キィィィ

 少しさびた音を立てて屋上へつながる扉は開いた。

 「やぁ。おそかったじゃないか……」

 「そういうな。これでもいろいろ準備があるんだ」

 地球を背にしたカイトは扉を開いて現れた男、シュバイツァーに話しかけた。

 「来るのは解っていたか」

 「まあね。調査した結果、僕を撃てる実力があるのは君だけだったからね」

 そういうとカイトはフェンスによかかった。その姿はまるで地球に寄りかかっているようだった。

 「というと、今僕がどういう状況か知っているの?」

 「私の依頼された“組織の敵”というぐらいしか知らない」

 「その組織が何を……」

 「それは知っている!」

 シュバイツァーの顔が渋面になる。

 「娘がいるって話したな」

 「ああ」

 「その入院費には多額の金が必要になる。そのためさ」

 「だったら、僕は無理だっただろうけど、ラビオやアラン達に相談したらよかっただろ。必ず何とかなったはずだ!」

 「トモカが死んで……戦争というものから離れようと思って離れて、今更頼れるか!!」

 「だったら、今してることがなんだかわかるのか!!」

 地球の光で陰になっていて表情までは読みとれないが、カイトの肩は震えていた。

 「解っている。トモカが子供を宿しているなど知らずに戦わせて、あいつが自分の命の代わりに産んだ子供のために破壊工作を請け負っているんだ。私は、私はもっとも愚かな男だ!!」

 「っ!!」

 シュバイツァーの罪の告白はカイトの肺腑を容赦なく剔った。していることは自分とさして“変わらない”。

 ガシャリ

 カイトがフェンスから離れる。

 「解ってるなら。変われるだろ。まだ、その子は生きているんだから……」

 「……だから、おまえを殺す。殺されてもあの子をすぐに迎えに行ける」

 カイトは目がくらむ思いだった。

 シュバイツァーはもう限界なのだろう。連れ合いを亡くし、一人で病気で苦しむ娘を矛盾して育て続けたから。

 「もう、やり直せないのかな?」

 一抹の希望を込めて訪ねる。

 「もう無理だよ、ミナヅキ」

 二人とも音もなく銃を構える。

 ドォォォォンッ………

 カイトは銃を投げ捨てると崩れるように倒れるシュバイツァーを抱き留めた。

 「何で撃たなかったんだ、シュバイツァー!!」

 「……ミ、ミナヅキ……おま の方がよほど射撃のせいせ、ごほっ はよかったじゃないか……だからだよ」

 カイトはシュバイツァーを支える左腕が痛んだが、止め処ころなく流れる血を受け止めている右手の方が痛かった。

 「ミナヅキ……き みにおねがい  がある……娘を……メリルを…………たのめ、ごほっごほっ」

 「解ってる、解ってるよ。これ以上しゃべるな! ここ、病院なんだから」

 抱きかかえて立ち上がろうとするカイトを制して、シュバイツァーは言葉を続けた。

 「もう 私は助からない……げほっげほっ…………」

 シュバイツァーは体を起こし、ポケットの中から一枚のディスクをとりだした。

 「このディスクには……“火星の後継者”の重要なプランの情報が…………記録してある」

 「なっ!?」

 「……君 なら調べられるは、がはっかはっ……私みたいに……なるなよ」

 カイトは差し出されたディスクと一緒にても握りしめた。

 「わかってるって、だから、だから」

 「……カザマさんを必ず助け出せよ」

 「知ってたのか……だから」

 「うすうすはあや……しい組織だとは思っていたからな。ぐっ……なぁ、ミナヅキ……トモカ、怒ってるだろうなぁ」

 「怒ってるよ、馬鹿。でも、僕は……」

 涙と徐々に体温の失われていく友人の重さがカイトの言葉をふるわせた。

 「メリル……だめなとおさんだったなぁ。でも、私の親友は……とおさんの……おかあさんの親友はとっても誇れるやつだから…………あんしんだなぁ……」

 シュバイツァーの目の光がどんどん失われていく様をカイトは涙がたまった目で見続けていた。

 何を見ているのか。シュバイツァーの光が失われつつある瞳は、ただ一転を見ていた。

 「トモカぁ……おこって…ないんだ…………ばかいうなよ。……ミナヅキに任せ……た。……だいじょうぶさ……カザマさんがいる……それはちょっと心配かもな。ははっ……あぁ、もういかなくてはいけ……な…い………のか……………じゃぁなぁ………」

 そして、光の失われた瞳は閉じた。

 「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 シュバイツァーの手を握ったままのカイトの周りに青い光が舞った。





 「ああ、あのこと? で、どうなったの? やっぱり死んじゃった。だって、当然でしょう。ただの人間では。まあ、いい結果になったようですから、十分でしょう。……そんなことあなた達が気にする必要はないでしょう。知る必要はないのですよ。あと、彼の娘さんですけど、予想以上の結果なのでサービスでネルガルにでもくれてやって結構ですよ。このままおいておいても元手がとれませんからねぇ」

 今回のことをすべて画策した白衣の男、ヤマザキはにんまりと笑った。





 あの青い光……すでに目覚めつつあるのか……





 to be continue……

 娘達の雑談会

 

 ルーシア:……あの、のっけから不機嫌そーですね、ルリさん。

 ルリ:前回の倍以上かかってるじゃないですか。約四ヶ月ですよ。これを怒らずにいられますか。

 ルーシア:あわわわっ。

 ルリ:だいたい12月末には5割以上は完成していて何で残りの5割にこんなにかかるんですか?

 ルーシア:えっと……「GジェネNEOが〜」だそうです。だめだめですね。

 ルリ:……まあ、これ以上怒っても仕方ありません。次は早く書き上げるように念を押さないといけませんね。

 ルーシア:そう、そうです。怒ってやる気を萎えさせるよりはずっといいです。ルリさんはちょっとは大人になったんですね♪

 ルリ:どういう目で私を見てたんですか?

 ルーシア:ちょっと大人になりきれない子供かな?

 ルリ:……………ま、まあ、まだ14歳ですから、当然でしょう。

 ルーシア:うーん。そういうんじゃなくってね。どういったらいいんだろ。背伸びしてるってことかな?

 ルリ:くっ

 ルーシア:だいじょーぶ、だいじょーぶ。ルリさんなら立派な大人になれるから。焦らない焦らない。(なでなで)

 ルリ:こ、子供扱いしないでください。と、ともかく、今回はなんて言うのか、かける言葉もありません。

 ルーシア:そうだねぇ……

 ルリ:あなたでもそうですか。

 ルーシア:うん。どれだけ多くの人を見てきても、こういった時ってかける言葉って無いんだよ。

 ルリ:だったら、早くユリカさんとイツキさんと一緒に帰ってくるのを願うだけです。

 ルーシア:あとは新キャラのキョーコ・アサクラさん。

 ルリ:新しいお医者さんですね。早速粉をかけているみたいですけど……節操なしですか、カイト兄さんは。

 ルーシア:別に粉をかけた訳じゃないと思うんだけど……

 ルリ:万年フェロモンばらまき男な分、たちが悪いです。

 ルーシア:まあまあ。優秀そうなお医者様みたいだからいいじゃないですか。

 ルリ:その辺は心配ないんですけど……積極的そうな人ですから。

 ルーシア:心配ないですって。それじゃあ次回にいってみましょう。

 ルリ:少しは光が見えそうなタイトルですね。

 ルーシア:次回、機動戦艦ナデシコ  〜 acastaway 〜  第3話

 ルリ・ルーシア:『アナタハ、ダレ?』

 ルリ:まだ新キャラが増えるんですか?

 ルーシア:こらこら(汗)







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