薄暗い部屋の中、一人の女は電話をしていた。

「早速手合わせしてみたのね」

『ああ』

 電話の相手は男のようだ。

「で、感想はどうかしら? わたくしの言ったとおりでしょ」

『そうだな。オレより同等かそれ以上。さらに何かか隠し球がある』

 「……」

『どうしたんだよ?』

「ほくちゃんが素直に認めたからびっくりしちゃって♪」

『……』

「どうしたのかしら?」

『いい加減、ちゃん付け止めろって……』

「いいでしょ、ほくちゃんはほくちゃんなのだから。どう呼ぼうとわたくしのかってでしょ♪」

『……まあいいけどよ。しかし、あれを敵に回すきか? だとしたら、ばっかじゃねぇのか?』

「そうだから敵に回すのでしょ。あ〜あ、遠慮したいわ。楽してるあんたがうらやましいわ」

『まあな、今日から気楽な学生生活だよ』

 男の心底気楽そうな言葉が女のしゃくに障った。

「さっさと用事を済ませて帰ってらっしゃいな。た〜っぷりとこき使ってあげるわ!」

 そう言うと女は一方的に電話を切った。





機動戦艦ナデシコ
〜 lost a person 〜






第三話 オオカミが一匹



 リョーコが廊下を歩いていると前方に同じ服を着た教官がふらふらと歩いていた。あの結い上げた特徴的な髪型はラビオだ。

「おっす、ラビオ。元気ないな」

 ぽんっとラビオの肩をたたくとふらぁっと振り向いた。

「おはよぉございまずぅ、リョーコ教官」

「うわっ。なんて顔してんだよ……」

 ラビオの顔には薄いくまと寝不足が浮かび上がっていた。

「ぁ……はははぁ。教官とルリ艦長、エリナさんが帰ってからほんと大変でしたんですよ……。イツキ先輩は泣きながら絡むし、カイト隊長はずっと説教するし……ほんと今日は仮病を使って休もうかと思いましたよ」

 先日の戦闘後、誰も怪我はなかったのでみんなで飲もうということになった。リョーコ達が帰ったのは酔っていたせいで正確な時間まではわからないが、深夜は回っていたはずである。

「おぃおぃ。ま、まあ、仕方ねぇんじゃねぇのか。表面上冷静だったけど、あの二人も相当心配してたんだよ」

「それはわかるんですけどねぇ」

 まだ今日という日が始まったばかりだというのにかなり遠い目で明日を見るラビオ。

「朝方まで話して、ぐったりしているあたしを後目に『そろそろ仕事の時間だけど、朝ご飯食べてく?』なんて平然に言われると……」

「ヒカルのコミケの原稿を手伝ったときのようなもんか。で、そんな調子で午後からの演習は大丈夫なのか?」

「あたしは2・3コマに時間があるのでその間に寝ておきます。カイト隊長は……心配いらないでしょ。絶対けろっとしていますから」

「げっ。化けもんだな、俺達よりも飲んでたくせに」

 お手上げのように教材を頭の後ろに回す。

「そう言えば、リョーコ教官。今日は転校生がくるって聞いたんですけど、いませんね?」

「ああ、なんだかシャトルの関係で1コマぐらい遅れるらしいんだ」

「どんな子ですか?」

 好奇心の詰まった瞳でリョーコを見るラビオ。リョーコはボードの書類をぺらぺらとめくり手を止める。

「えっとな……あったあった。フワ・ホクシ、歳は21。何だ、オレと一緒か」

 ホクシと言う名を聞いたラビオは歩みを止める。

「おい、ラビオ。どうしたんだよ?」

「あ、いえいえ。単に昔聞いた名前だなって。あはははっ」

「はぁ? そうなのか。でも、こいつ木蓮出身だぞ。それも優人部隊の候補。他人だろ。おまえ、地球出身なんだからよ」

「ふぅん。そーなんですか。なら、勘違いですね」

 きーんこーんかーこん

「おっと。俺達が遅れては示しがつかねぇな。ほら急ぐぞ」

「はい」

 二人は小走りで各教室へ向かう。ラビオの顔は少し曇っていた。





 午後、食後のけだるさの残る中で午後の演習は始まる。

「おっし。おめーら、これから実機を使っての演習だ。気ぃ抜くんじゃねぇぞ。さて、それと今回から演習には特別講師が就くことになった。誰だ、優しい女がいいって言ったやつは!」

 生徒の間で笑いがでる。

「たく。おめえらは。ともかく、紹介するぞ」

 リョーコは軽く手をふってカイトとイツキを促す。

 イツキは真面目に、カイトは愛想をふりながら中央の教卓まで歩いていった。

「みなさん、初めまして。カザマ・イツキ中尉です。実戦形式演習をお教えすることになりました。短い間ですがよろしくお願いします」

 ぺこりと礼をする。だが、その態度が生徒達を増長させる。ましてや、リョーコやラビオと違って明らかに礼儀正しく甘そうに見える。

「俺達はいやらしくお願いしマース」

 げらげらと下品な笑い声が室内をしめる。

「あいつら!」

 あまりの礼儀知らずさにリョーコが立ち上がろうとするが、ラビオが止める。

「だめですってば。そうやっちゃったら、それにカイト隊長が便乗しちゃいますから」

「はぁ? なんでだよ」

「だって、カイト隊長ですよ。止めるふりをしてあおって手を出させて思いっきりぼこぼこにしちゃうんですから」

「……マジか?」

 さすがにリョーコの頬に汗が流れる。

「マジです。ここは黙ってイツキ先輩に任せましょう。あの人なら無難にすませてくれるはず……です……たぶん」

 心配する二人を後目に教卓にはカイトに変わっていた。

「初めまして、ミナヅキ・カイト大尉です。と言っても誰も聞いてないみたいだね。まあ、君らがなめきる訳もわかるけど、相手の実力を正しく認識できないのはこれから先、君たちのためにならないよ。そう言う訳で、これからの演習は中止。代わりに君ら五人ひと組で僕と勝負しよう。試合形式は自由。射撃でも格闘技でもエステを使っての実戦でも何でもかまわないよ。君らが決めていい。勝ったら君らの言うことを一人一つ聞く。どうかな?」

 微笑みながらさりげなくとんでも無い事を言う。

「カイト、こっちにことわりもなく勝手にきめんじゃねぇ!! イツキも黙ってないで止めろよ!」

 さすがに立ち上がって怒鳴るリョーコ。ラビオが肩を押さえているがあまり効果はない。

「あら、大丈夫ですよ。カイトは絶対に負けませんから」

「そうですよ。楽したいから5対1にしてるんですから」

 ざわっ

 さすがに生徒達もかちんとくる。新人とは言ってもほかの学校ならトップクラスにいる者達ばかりだ。泣く泣く帰ってもらおうと思っていたのが、5対1で楽に勝てると言い切ったのだ。さすがにかちんとくる。

「じゃあ、大尉さんよ。俺達が勝ったらその階級章をよこしな」

「OK〜。じゃ、組み分けしてよ」

「だから、勝手にきめんなって言ってるだろ! カイトもカイトだ、何生徒に喧嘩売ってんだよ!!」

 リョーコはさすがにラビオを振り払ってカイトに詰め寄る。

「ちょっと大人げなかったけど、負けるわけないでしょ。楽勝楽勝」

 カイトはリョーコを落ち着かせるようにリョーコの肩をたたきながら微笑む。

「そう言う問題じゃないだろ。イツキも何ルリに連絡してるんだよ」

「えっ? こんなイベントがあるのにルリちゃん一人じゃ退屈だろうから呼んでるのですけど?」

「リョーコ教官、諦めましょうよ。あの二人がこうなったら、誰も止められません。それに生徒達もやる気満々ですよぉ」

 やる気満々どころか殺気立っている生徒もいる。

「どーなってもしらねえからな!」

「大丈夫、誰も怪我はさせないから」

「ちがうわ!!」

 リョーコの叫びはむなしく部屋に響いた。





「どうもルリです。ナデシコBの艦長をしていますが今日は特別ゲストです。でも、何ですこれ?」

 ルリは肩に掛かってあるたすきを指す。

「しらねぇよ」

「まあまあ、単なる客寄せですから、気にしなくてもいいですよ」

 リョーコとラビオにも同じようにたすきが掛かっている。

「それじゃ、始めましょうか」

 そう言うイツキにもたすきが掛かっている。

「それではお待たせしました。ミナヅキ大尉対パイロット養成場A組B組連合これより開始します。進行は不詳ながら私、カザマが担当します」

「その前にイツキさん。私達のたすきに書いてある豪華副賞、ってなんですか?」

 カイトと生徒が対決するから来てみてとしか言われてないルリには何がなんだかよく分かってない。

「あの人がね、『景品が少ないと燃えないだろう』って勝手に私達も景品に加えちゃったのよ」

「で、副賞ですか」

「ええ、副賞は私達四人とのデート権、予算はこっち持ち。メインの賞品はそれ以外に何か一つ願いを叶えること」

「……だから、ああも欲望にぎらついた目をしているんですね」

 呆れながら、その欲望を叶えるために倒さなければならない男カイトを見た。

 カイトは服装も変えず、武道場の中心部で肩を回したりして身体をほぐしている。生徒達からの殺気をものともせず、気楽そうに首を回していた。

「始めの試合形式は柔道です。それでは挑戦者達は前に」

 五人の生徒がカイトの前に現れる。

「大尉さんよ。その余裕ヅラはブルって見栄はってんのかよ」

「いや。楽しくなってきたなって思ってね。つい表情にでてきてるみたいだね」

 そう言って楽しそうに笑う。その態度がよけい火にガソリンを注ぐ。

「そんじゃ、その余裕面を引っぺがしてやるぜ!」

 ずいっと五人が前に出る。

「それでは試合を開始します。始め!!」

 イツキの宣言で解き放たれた五人の獣は同時にカイトにつかみかかってくる。

「イツキさん、どういう事ですか。これじゃいくら何でも!」

 ルリが悲鳴混じりの非難を言うがイツキ、ラビオは至って平然。リョーコはもうどうにでもなれと半分以上さじを投げていた。

「いくら何でもどうしたの?」

 イツキがきょとんとしながらルリを見ると同時にどたっんという大きな音がする。ルリは視線を音のした方に向けると五人の生徒はカイトの足下に転がっていた。

「えっ!?」

「なにぃ!?」

 ふてていたリョーコも驚いて見ている。

「い、いったい何が……?」

「簡単ですよ、隊長が足で二人、手で二人、最後の一人はこけた生徒を利用して。これで全員ですよ」

 さも当然のことのように真面目に見ていたラビオが答える。

 生徒達は何が起こったのかわからないのかしーんとなる。

「ほら、三人は立たないと。一本取ってないんだからさ」

 カイトは倒れた三人に手をさしのべ、一人一人立たせる。

「それじゃ、続きといこうか」

 この後、全員がこの騒ぎに参加していた訳ではないが、景品が景品だったので“万が一”を期待してでているものもいたので両クラスの大半がでていた。それをカイトは相手をした後、チームごとに長所と短所を言い、こうしたらいいなどとアドバイスした。だが、参加もせずに武道場の壁にもたれかかってカイトの動きの一つ一つを見ているものがいた。今日転属してきたばかりのフワ・ホクシ。

 カイトと手合わせをした一人の生徒が蚊帳の外にいるように見えるホクシに声をかける。

「おい、新入りは参加しないのか。飛び入りもいいんだとよ」

「オレはあまり興味ないな。見れば大体の実力はわかる。オレとはレベルが違いすぎる、来た早々恥をかきたくないさ」

「ふぅん。そういうもんか。別にぼろ負けしたからって誰も恥とは思わないと思うぞ」

「もしかして、全員が負ければみな一緒とか思ってないか?」

「お、鋭いな新入り。その通りだよ。これでもみんなそこそこの自信はあったんだぜ。それをあっさりだからな。まあ、逆にここまでされると気分は悪くないがな」

「だろうな。おまえらが着任したばかりのスバル教官とパトレッタ教官に喧嘩を売ってぼこられたってのも案外ほんとの噂だったのかもな」

「案外詳しいな、新入り」

 ホクシは寄りかかっていた壁から離れる。

「俺の名はフワ・ホクシだ」

 そう言うとそのまま歩いてカイトの元へ行った。

「ミナヅキ大尉、オレとも一手願えないかな?」

 カイトは全員との相手が終わったとばかり思っていてタオルで汗を拭いていたが、唐突な来客のためその手を止める。

「OK。でも、サシかい?」

「そうだよ。今日きたばかり何でぐる組んでくれるやつなんていないんだよ、あんたの挑発もあってね」

「それは悪いことしたなぁ。あはははっ」

 カイトは困ったように頬をかく。

 カザマ中尉をちゃかした時点からばれてんだよ!

 ホクシは声を出せない分、心で叫ぶ。

「それじゃ、なにする?」

 まるで遊ぶように言う。まあ、実際の所その通りなのだが。

「そうだな……剣術でお願いします」

 うってかわって礼儀正しく頭を下げる。

「それじゃ、始めようか。よろしくお願いします」

 二人は軽く木刀の剣先を当てると一歩下がって構える。

 カイトはだらりと右手に木刀を持ったまま両手を下げ、ホクシは正眼の構えを取る。





「ぱりんっ。二人とも構えたまま動きませんね……」

 ルリは葉っぱせんべいを食べながらそうつぶやいた。今までカイトの強さをまざまざと見せつけられていたからだ。

「そうね。このくらい時間がたつと大体相手の癖がわかって攻めるものなんだけど。珍しいわね」

「最後だから疲れてるんじゃねぇか?」

「そんな、絶倫のカイト隊長に限って」

「……ラビオ、それってどういう事かしら。昨日に続いて今日もそう言う発言ってずいぶんあの人と仲がよかったのね。いつも一緒に悪さばっかりして、みんなに迷惑かけていたわよね。何していたか詳しく教えてほしいわね」

「そそそそそっんなことあるわけないじゃないですか。いくら何でも後輩まで手をだすほど節操無しじゃないですってば」

 イツキの雪女より冷たい視線にびっしりと冷や汗をかくラビオ。

「そうやって無理に否定するとバレバレですよ、ラビオさん」

「おまえら……いったい昔何やってたんだ?」

 ルリとリョーコは二人のやりとりを呆れるように見ていた。

「ままままっ。ここはお茶でも飲んでじっくり観戦しましょうよ、教官」

 そう言ってごまかすために全員にお茶を振る舞うラビオ。リョーコはそれを口にするが、なんだか塩っぽい味がした。

「ちょっとしょっぱい気がするけど、お茶の入れ方がうまくなっているので許してあげます……あら、そろそろ二人が動きますよ」

 イツキは湯飲みを持ったまま微笑んだ。





 カイトがゆっくりと木刀を振り上げる。ホクシもその木刀の高さに合わせて振り上げる。

 二人はゆっくりと前に出ると同時に木刀も振り下ろす。だが、刃はふれあわず通り過ぎる。

 一刀の間合いまで行くと振り横凪ぎにふるう。

 かーん

 木と木がぶつかり合う気持ちいい音が響く。

 何となく二人は互いの声を聞いた。カイトはいつも通りに攻めてもよかった。身体が仕上がらない状況で打ち合えば確実に欠点が浮き上がるからだ。ホクシは適度にあしらって体を温めてから打ち合うつもりだった。仕上がらなくても無理せずにやり合える自信はあった。でも、互いの声を聞いた。だけど、その言葉はよく分からない。ただ、思いっきりやろうぜという風だったと思う。だからこそ、相手の実力を知るため演舞のような事が自然と始まった。決められたことを一つ一つ丁寧に行っていく。

 周りからはため息一つすら漏れない。あまりの舞いのために。誰もが見入る。

 でも、そんな状況は何時までも続かない。二人は戦うためにそこにいるのだから。

 あまりにも自然だから、誰も気付かなかった。二人はふわりと舞いながら一番始めの位置へ、構えへもどる。

 それが合図だった。

 それは当事者だけの合図。二人は切り込む。

 ぱぱぱんっ!

 何度か刃が交わる音。その音が止んだ時には鍔競り合いをしていた。

 ルリや大半のものには何が起こったのかわからなかっただろう。イツキとラビオはわずかに剣線が見えただけ。かろうじてリョーコだけが三つの剣線が見えただけである。

 大半の見解は互角と目に映っただろう。だが、当事者達にはどちらが勝っているのかはわかっていた。

 迷ったホクシが負けて、まっすぐに打ち込んだカイトが勝った。

「……何をためらっているのか知らないけど、本気で行こうよ」

「いいや。本気でやったらしゃれにならない事になるからやめとくぜ。あんたもわかってる事だろ」

 ホクシは不敵に笑う。それ以上にカイトは不敵な笑みを浮かべる。だが、その笑みを見たホクシは高揚感以上に冷静になった。

「そうだけどさ。たまにはいいかなって。何しろ本気でやり合える人なんて滅多にいないから」
                                                               わけ
 ホクシは正直こうカイトが言ってくるのはわかっていた。自分もそうだからだ。だが、彼にはそうできない理由がある。だから、あの打ち合いで迷った。

 どうにかしてごまかさないとな……

 ホクシが視線をずらすとそこには四人の景品がいる。

 あれを利用させてもらうか。あれぐらいしか逃げ道がねぇや。……逆鱗だな、ありゃ。

 取り敢えず、自分の高揚する感情を抑えながら無理矢理納得させる。

「俺達が本気でやり合えばどちらが勝つにしろ、どれだけ怪我をするかわかったもんじゃねえだろ。後ろのお姫様方が怒らないのか。特に、カザマ中尉とテンカワ少佐あたりはうるさいんじゃないのか?」

 ぴしりとカイトの動きが止まる。

 すっかりどわすれしてた。今止めれば大丈夫だろうけど、このチャンスを逃すと……ここ最近いいところ無しだもんな、それで心配かけてばっかりだったし。やめとくか、たぶんこれっきりじゃないだろうし。

「了解。ここまでにしておこうか」

「助かったよ。大尉に引っ張られてあそこまで出来たんだからな。これ以上はキャパシティーオーバーだ」

 ホクシはカイトに一礼すると生徒の輪の中に入っていく。生徒達は一矢報いるとは行かなかったとは言え、引き分けまでいったので手荒い歓迎をした。

「そーいえば、勝敗はつかなかったけど景品はどうする?」

 思い出したようにホクシの後ろ姿にカイトが声をかける。

「いらねえ。オレはちゃんと女がいるし、何よりそう言う事に乗ると後で秒殺されちまう」

 振り返りもせずに手をひらひらとふりなが断るホクシ。男らしいというか己の身をわきまえているというかともかく潔かったが、周りにいる同級生にとってはうらやましい話である。授業のカリキュラム上、彼女を作る暇など無いからだ。表だってやっかみたかったが、これ以上恥をさらしたくないので手荒に歓迎しているふりをして思いっきり叩くなどしてごまかす事にした。





「あのホクシって人、以外と潔いんですね」

「ルリちゃん、あの人が女ったらしだからて強い人を偏見で見ちゃだめよ」

 イツキはルリをたしなめるが、表情は笑っている。

「それはそうなんですけど、何となくカイト兄さんと同じ雰囲気がしたので、つい」

「似て、ますよ。特に面倒見のいいところとか」

「あの人の面倒見の良さはお節介紙一重だけど、彼もそうなの?」

 イツキは不思議そうにぽつりとつぶやいたラビオを見る。彼女の経歴を思い出してホクシの経歴と合わせてみるがどこにも接点がない。それ以前に彼は木蓮出身だ。

「あのホクシって人と知り合い?」

「え、あ。違いますよ。単にそう言う気がしただけですってば。だって、あの歳であの実力だと普通天狗になるでしょ、それなのにそんな雰囲気なくって。カイト隊長だってそうでしょ? それよりホクシ君は、かなり磨かれた原石ですね。さらに磨くには私達も気合いを入れないと」

「たくっ、そうだな。腕が鳴るぜ。あれだけのものを見せられちゃあ教える側として俄然意欲がわくってもんだ。いくら、カイトが実力以上を引き出していたとしてもな」

 リョーコは先ほどの戦いに触発されたのか気合い全開のように腕まくりして立ち上がる。

「おい、カイト。これからまだ、何かやるのか?」

「いいえ。大体みんなの実力はわかりましたから。まあ、強いて言えばこの後リョーコさんも一緒に4人まとめてデートするぐらいかな」

「おまえなぁ……」

 リョーコは気がそがれ呆れた顔をする。ただ、そんなにいやな感じはしなかった。

 カイトの後ろでは生徒達が『ざけんな』とか『うらやましすぎる』など騒いでいるがカイトは気にした風もなく振り返り、

「残念だね。勝てればよかったのに」

 と、肩をすくめながら笑った。生徒達も別に怒った風もなく逆にリベンジしてやるという気が満々になっていた。だが、そんなカイトの人徳でもそれを許さないものがいる。

「カイト兄さん……私を景品扱いしたどころかさらにまとめてデートですか。いいご身分ですね。よほど私達が寛大だと思っているんですね」

「そうね。仏の顔も三度まで。ルリちゃん、修行の成果見せてね」

 カイトの背後には“お仕置きハンマー1tルリ専用”と書かれた物体を持ったルリがいた。

「いや、その……別に手を抜く分けじゃないって。みんなちゃんとって。ねえ、話聞いてる? ラビオもリョーコさんも見てないでルリちゃんを止めてよ」

 手を振りながら必死にルリを止めようとしているが腰が引けてじりじりと後ろに下がる。

「あたしは別にみんなと一緒でもいいんですけどお年頃の女の子にそう言うのはちょっと」

「よしっ。おめーら、カイトをふんじばってルリに差し出せ!!」

「「「「「「「イー!!!」」」」」」」

 リョーコの死刑宣告を聞いた生徒達はショッカーの怪人のごとくカイトに殺到する。

「ひぃぃ!!」

 逃げ場の無いカイトは早々に生徒達に捕まりルリの前に差し出される。

「テンカワ少佐、この男いかがしましょうか?」

 生徒の一人が敬礼しながらルリに聞いた。

「その前にありがとうございます、カイト兄さんを捕まえてくれて。そのまま押さえていてください」

 ルリは天使さながらの笑顔を生徒向けて感謝する。カイトには死に神が死の契約書を受け取ったときの笑みに見えた。

「ルリちゃん、ちょっと待って」

「イ、イツキぃ、たすかったぁ〜」

 情けない声を出しつつもカイトにはルリに駆け寄ってくるイツキは救いの女神に見えた。

「何ですかイツキさん?」

「ほら、グローブを忘れているでしょ。ちゃんとグローブをして手を保護しておかないと」

「すみません。怒りですっかり忘れていました」

「……あの、その。やっぱおこってます?」

「いつの間にか景品にされた事は怒っています」

 イツキは素っ気なく言うとルリにグローブを渡す。

 ルリはイツキから渡されたグローブをきゅっと慣れた手つきではめる。グローブの一部が赤黒いのは気のせいだろう。

「それではがんばってね」

「はい!」

「とほほほっ」

「それではカイト兄さん、覚悟は出来ましたか? 神様へのお祈りは? この後、部屋の隅でがたがた震える準備もOK?」

「こんな状況で出来ないってば!」

 半泣きになりながら訴えるが怒れる乙女には聞こえない。

「往生際の悪い……ふんっ!」

 ごきゅっ

「ちゃんと特訓の成果が出ていたわ。合格よ、ルリちゃん」

「ありがとうございます、イツキさん。これも指導の賜です」

 生徒達もルリの見事なお仕置きに拍手をする。

 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

「タイミングいいな。よし、おまえら今日の授業は終わりだ。HRはこれの処理があるなら無し。各自解散」

「それじゃ、みんなまた明日ね」

 リョーコは手を叩きながら、ラビオは手を振りながら生徒達に帰ってもいい事を伝える。

 生徒達もそれぞれ挨拶をして道場を去っていく。

「あのぉ。カイト隊長はどーするんですか?」

 生徒達が全員立ち去っても道場の真ん中で撃沈しているカイトを木刀でつんつんとしながらラビオが尋ねた。

「ほっておけば自然復活します」

「それより、これからみんなで晩ご飯はどうかしら?」

「夜間部がここを使う予定だけど、ほっておいていいか」

 三者三様の言い方だが、どうやらほっておくのは決定らしい。

「じゃあ、もらって帰っていいですか?」

「だめです」

「認められません」

 ラビオの要求はルリ、イツキに容赦なく却下される。さらに二人の目が若干怖い。

「諦めろって、ラビオ。まあ、食事ってのはいいかもな。ちょうどいいドイツ料理の店を知ってるんだがいかないか?」

 リョーコの提案にみんなうなずく。

「服装とかこだわるところですか?」

「別にこだわらないと思いますよ」

「ドイツの家庭料理がメインだからな」

「それじゃ、着替えたらいきましょ」

 ばたんっ

 道場の扉が閉められる。

 ハンマーとともに埋め込まれたカイトが助け出されるのは三時間後の夜間部の人たちが来るのを待たなければならなかった。












 あとがき

 ひ〜ろ:案外早く完成、第三話!!!

 ルーシア:わ〜、ぱちぱちぱち。やればちゃんとできるじゃないですか。

 ひ〜ろ:えっへん

 ルーシア:それじゃ、その勢いで次もがんばってくださいね。

 ひ〜ろ:そりゃもちろん。

 ルーシア:それでは時間もあるので登場人物が使っている武術を教えてください。

 ひ〜ろ:OK。それじゃ、まずリョーコ。流派は北辰一刀流。体術はとくなし。

 ルーシア:だから、あの二人の剣線が見えたんですね。

 ひ〜ろ:その通り。ラビオは一応風間流。

 ルーシア:一応って?

 ひ〜ろ:特別に何かを習っていた分けじゃないから。強いてそう言う事を教えたのはカイトだけだったしね。まあ取り敢えずと言う事。次はイツキ。イツキは風間流護身術免許皆伝。

 ルーシア:ほぇぇぇ。人は見かけによらないんですね。

 ひ〜ろ:まあね。おじーさんが痴漢対策に教えたらしい。

 ルーシア:……ちょっと過激な気がしますね。

 ひ〜ろ:ルリは風間流お仕置き術槌。

 ルーシア:そんなのないでしょ。

 ひ〜ろ:もちろん。即興で考えました(笑)。では、カイト君。風間流守護術。

 ルーシア:あれ、免許皆伝じゃないんですか?

 ひ〜ろ:その通り。カイトは免許皆伝ではない。

 ルーシア:でも、それに匹敵するほど強いんでしょ?

 ひ〜ろ:そりゃね。力だけなら十分に。でないと風間流守護術は会得できないから。

 ルーシア:どういう意味ですか?

 ひ〜ろ:守護術は風間流の頂点に立つ武術。だから、ほかの術は全部会得しておかないと守護術は学べない。

 ルーシア:でも、会得しているんでしょ? 風間流剣術を使ってたし。

 ひ〜ろ:まあ、その理由はおいおい。

 ルーシア:それじゃぁ、また今度ですね。

 ひ〜ろ:そうなるね。それでは読んでくださったみなさんありがとうございました。次も早めに出せるようにがんばります。

 ルーシア:ありがとうございました

 (二人でぺこっと礼をして幕が下りる)








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