機動戦艦ナデシコ
                   E I V E   L O V E
〜 The blank of 3years 〜
記憶のかなたで逢った人たち






 第11話 『『ただいま、お帰りなさい』』



 5月16日 仕官大学のとある教室

 「今日の講義はこれまで。次の講義はシミュレータルームで行うので部屋を間違えないように。それじゃ、また来週」

 席に座っていた生徒が終了の礼をする前にカイトは"そんな事いらないよ"といわんばかりに手を振りながら教室を出ていった。

 カイトは今、統合士官学校トーキョー校の臨時講師もしている。

 「さってと、事務所によって司令部に戻るか。2足わらじもなれてきたな」

 カイトは脇に教材を挟んで事務所の方に歩いていく。

 このあとは昼からは連合本部での仕事が待っている。

 「先生、ちょっと待ってくださいよ」

 カイトが後ろを振り返ると3人の女の子がいた。

 マナ、ナツミ、シオリ。カイトが受け持つ授業の生徒の中でもかなり美人に入る3人だ。

 この3人はよくカイトを誘って昼食をともにする。かなりもてるのでときたま男子生徒の視線が強烈にカイトを刺す事もあるがここ最近は沈静化している。

 カイトは時間を考えるとこの3人が、なぜ引き留めたかがわかったが、その誘いにまた誘いに乗るとお姫様の機嫌が悪くなるので断腸の思いで断ろうと思った。

 「先生、お昼まだですよね? 私達、お弁当を作ってきたんですけど一緒にどうですか?」

 「ごめん。午後からの予定が切羽詰まってるから」

 予想通り3人とも残念そうな顔をする。

 そんな顔をしないでよ、一瞬心の針が傾きかけたじゃないか。

 名残惜しいが、カイトは「また今度」と言って手を振りながら足早に帰る事にした。

 「「「絶対ですよ。ミナヅキ先生!!」」」

 次回もあるなら、それでいいかな。





 僕こと、ミスマル・カイト改めミナヅキ・カイトは今、連合宇宙軍大尉兼士官学校臨時教官をしている。

 あの火星での事件で記憶が戻ったのを機会に独り立ちする事にした僕は軍へ戻る事にした。

 新宇宙連合軍からというよりも先に移っているリョーコさんからオファーがあったが、あえて宇宙軍へ入る事にした。

 理由はいくつかあるが、コウイチロウさんが僕のためによしなにしてくれた事が大きな理由だろう。まあ、人も少なく苦労しているから多少の恩返しにはなっているだろうと思っている。

 あとは宇宙軍がスポイルされているので比較的重要な任務がない事。簡単に言えば、戦闘行為に及ぶ事がほとんどない。そういってもニュースになるほどの事も世界的に起こっていない。別に楽したいからじゃないぞ。

 戦うということは好きだが、今はいささか飽きてきている。平和になれたからだろうか。きっといいことなんだろうな。

 臨時教官はたまたま手の空いている人がいなかったのでしている。前期のみの契約だけど、役柄としてあっているのか、結構さまになっている。宇宙軍が廃止されたら教師になるのもいいかなと思っている。

 そうそう、あと1人独り立ちした子がいる。ルリちゃんだ。

 僕が軍に入る(戻るかな?)とアキトとユリカさんに話したときにルリちゃんも「私も軍に入ります」と言うのだから、みんな大慌て。

 アキトとユリカさんは必死にルリちゃんを説得し始め、どこからかこの事を聞いたミナトさんとユキナちゃんも乱入。あとから、ウリバタケさん、ヒカルさん、コウイチロウさんとジュンさんも来てますます混乱に拍車がかかった。最後の方には僕がルリちゃんを強引に誘ったと言う事になっていたが、いつの間にか調停側に回っていたルリちゃんのおかげで事なきを終えた。

 ルリちゃんに今年始め頃から、ネルガルの新造戦艦の艦長にならないかというオファーが入っていたらしい。

 ラーメン対決や火星行きなどもあったため答えを保留していたがそれも終わり、あとはアキトとユリカさんの結婚だけ。これ以上2人の中をおじゃまするのもなんだと思ったからだそうだ。気の回しすぎだと思うけど。

 ただ、ネルガル入りだけは拒んだので宇宙軍経由という形になった。

 ミナトさんが冗談半分に"ルリルリは、アキト君やユリカさんといるよりカイト君の側のほうがいいのよね"と冗談言ってたけど、そのときのユリカさんの目が怖かったな。マジで睨んでたし。

 さて、本部まで警察に捕まらなかったしお昼からのお仕事に精を出しますか。

 僕は車を本部ビル地下の駐車場へ向けた。





 同時刻 連合宇宙軍本部 

 ルリです、どうも。

 艦が出来ないのに軍に入ってしまったせいか、退屈です。

 暇つぶしに司令部付き特殊部"通称ナデシコ部"の室長をやってます。とかいっても、いる人って私あわせて10人なんですけどね。経験のある軍人さんもカイト兄さんだけですし。まっ、やっぱりナデシコBが完成しない以上暇です。

 カイト兄さんが戻ってくるまでに電子操作のレポートを仕上げておきますか。暇なのをいい事に、どうでもいい仕事ばかり押しつけられて困ります。

 違います、こんな事をしてる場合じゃありません。誰もいないうちにアキトさんとユリカさんの結婚式でのスピーチを考えておきませんと。誰かに見られると恥ずかしいですし、急ぎましょう。

 レポートなど、オモイカネにアクセスできれば一瞬で出来ます。

 しかし、どう書きましょうか……かれこれ悩んで10日目です。案外、思いを言葉にするのは難しいです。

 「そう焦って考えなくて、自然体にならないと。そうすれば、心の奥底にある想いが見えるはずだよ」

 そうですね。あの2人には着飾った言葉は不要ですから。とかいえ、そういう気持ちになるのは難しいです。

 「時間が空いたからじゃなくて、じっくり2人の事を思ったり、ふとした事からわかった事を書いてみたら?」

 一理ありますが思考を妨げます。この声はなんなんでしょ。

 「酷いな。僕ってそんなに存在感がない?」

 「いくらなんでも途中から気付いています。どこから聞いていたんですか?」

 私は椅子を反転させて、後ろにいるカイト兄さんにむきを向けました。

 恥ずかしくて顔から火がでそうです。この調子だと文章を書いていたら覗かれていたかも知れません。

 「スピーチを考えておきませんとからだよ。人の事言えないけど、いつの間にかステレオになる癖は直したほうがいいよ」

 「そうですね。カイト兄さんのろくでもないところが似るのはよくないです」

 「……そういう悪い事を言う口はこの口かな、この口かな?」

 「ほひゃふはいはいひひゃほめくはらい」

 なに私の口を引っ張ってるんですか。それに何で笑ってるんですか!

 「くすくす。ルリちゃんいじめるのはこのくらいにして、時間あるから今日は遠出をして、ホウメイさんの日々平穏に行かない? スピーチは仕事が終わってからゆっくり考えればいいよ。覗きに何か行かないからさ」

 そんなの当たり前です。覗きに来ないつもりなのになんで言うんでしょうか。

 むっ、お見通しという感じで笑ってますね。今日のお昼はカイト兄さんのおごりです。これは決定事項です。

 「ふててないでいこうよ。ホウメイさんの所はいつもこんでるから時間内に戻れなくなるよ」

 「そうですね。今日もカイト兄さんのおごりです」

 「はいはい。可愛い妹のためなら」

 はあ、やっぱりカイト兄さんの側にいると調子が狂います。





 5月28日 静岡県浜松

 「……ほっほっほ。あの2人は仲がよかったのよ」

 「そうですか。今日もありがとうございました」

 「ほっほっほっ。またいらっしゃいな。ばばが育てたビワがそろそろ出来上がるけのぉ」

 「ええ、失礼します」

 モリタケのおばあちゃんはにこにこと手をふった。

 エリナは会釈をしてその場を立ち去る。

 「いろいろ話してくれるのはいいのだけど、時々話の内容が違うのよね。まっ、大まかな裏はとれたし、今度おやすみに遊びに行ってみるのもいいかしらね」

 気楽そうに帰路に就く。

 田舎に感化されたか、最近は角が取れたと評判であるが仕事となるとあまり変わっていない。

 ふと、エリナの足が止まる。

 女の直感とも言うのか視線をカザマ邸のほうに向けると一瞬みた事のある輝きがあった。

 「もしかして、まさかあれってボソンジャンプの!?」

 言いきる前に駆け出していた。





 光のあったカザマ邸では、

 「ちゃんと戻れたみたいだけど、壊れているのね……」

 イツキはあのときの格好、パイロットスーツのままで辺りを見回した。

 昔、そこにあった当たり前の事が壊れているのをみると改めて、あのときから取り残されたのを実感してしまう。

 あの人はどうしているのかしら。ちゃんと生きているのかしら。また逢えるのかしら。

 お父さん、お母さんはここで亡くなったのかしら。

 今は考えても仕方ないわよね。何かしなくちゃ。

 そうよ。あの箱を見つけないと。あの箱の中にはあの人と一緒に行こうって言った場所が書いてあるものがあるのだから。

 私は自分の部屋だった場所の瓦礫を慎重にどける。慌てて瓦礫をどけて箱が押しつぶされたら大変だものね。

 あった。少し汚れていたけど私の大切なものがつまっている小さな箱。

 中身は……ちゃんとあった。あの人からもらったブローチ。取り上げた落書き入りの写真。一緒に行こうって約束の場所が書いてある招待状。

 あのときはゆっくり見る余裕がなかったから、今見てみると面白い招待状ね。

 アキトさんとユリカさんの結婚式ね。確か、あのときのテンカワさんの名前がアキトでナデシコ艦長のミスマル艦長がユリカだったわね。偶然の一致かしら?

 写真は……やっぱりちゃんと『元気出せ!』って書いてあるのね。

 やっぱり、新しい人を見つけてたらと思うとすこし不安。あれだけいっても浮気する人だから、仕方ないわね。

 けど、6月10日になればわかると思う。そこではっきりさせよう。

 イツキは家の瓦礫の上に座ってこれからの事を考えていると、1人の女性が歩いてくる。

 イツキの記憶で近所にあんな人はいなかった。

 歩いてくる人をよく見て思い出してみると、かつてナデシコにスカウトに来たエリナだった。

 「あ、あなた。イツキ・カザマね! さっきの光はボソンジャンプかしら?」

 「え、ええ。そうですけど、あなたはウォンさんですか?」

 すごい剣幕で迫るエリナにイツキは少し引いて答える。

 「ええ、そうよ。エリナ・キンジョウ・ウォンよ。エリナでいいわ。それよりあなた、戻ってこれたのね……お帰りなさい」

 「ありがとうございます。ただ今帰りました」

 エリナの優しい笑顔にイツキも笑顔で答えた。

 「とりあえず、ネルガルに来ないかしら。その格好もどうにかしなきゃいけないし、一応ボソンジャンプ後の身体検査も必要だと思うの」

 「あ、はい」

 「ここから降りたところに車があるからそれでいくわよ」

 「少し待ってください。まだ、持っていくものがありますから」

 イツキははエリナさんに小箱を預けて瓦礫の中にある"対カイト用"を探した。

 しばらく探すと柄の部分が見つかったのでイツキは引っこ抜いた。所々傷が入っているが十分仕えるみたいだ。

 エリナはその引っこ抜いたものを見て固まってしまった。

 「エリナさん、どうしました?」

 「あ、あのそれってどう見ても"ハンマー"にしか見えないけど、ほんとに持ってくものなの?」

 「ええ、そうですけど」

 イツキはそんなに変ですか、と不思議そうな顔をしながら引き抜いた"対カイト用お仕置きハンマー10t"を見た。

 「そこら辺も込めて車の中でじっくり話を聞かせてもらいますからね。たぶん」

 エリナはこめかみを押さえたまま、さっさと歩いていった。

 「エリナさん待ってくださいよ」

 イツキは遅れないようにと小走りにエリナを追いかけていった。

 このあと、エリナはイツキに小箱の中身や火星での事とかを聞いたが、なぜかあの"ハンマー"については聞かなかった。聞けなかったというのが正解なのかも知れない。

 ただ、イツキはなぜ聞かないのかな? と不思議そうな表情を浮かべていた。





 2199年 6月10日 レストランドラゴン

 パーティー会場の隅では周りの楽しそうな雰囲気をそっちのけで焦りの表情を浮かべた4人がひそひそと話し込んでいる。

 「おいおい、エリナ君。いくらなんでも遅いんじゃないの?」

 「おかしいわね。5分遅れになるぐらいにしてたはずなんだけど」

 「お二方、もしかすると交通状況を忘れておりませんか?」

 「うむ。この近辺はかなり交通量が多く、渋滞はざらです。それに先ほど交通事故が起こったとの連絡がありましたのでもうしばらくかかるかと」

 「いやはや。天の悪戯とはこの事ですかな」

 プロスペクターは苦笑しながらカイトを見た。

 みんなはアキトらのいる中央のテーブルで談笑をしているに対して、カイトは少し離れたところから、楽しそうに話しているのをグラス片手に見ている。

 カイトはしばらくするとグラスをテーブルにおいて会場を出ていく。

 カイトが会場を出るのと同時にアカツキのコミュニケに連絡が入る。

 アカツキは手短にコミュニケを切る。

 「タイミングがいいね。もう1人のお姫様が到着したよ。お〜い、みんな。ちょっと来てくれよ。もう一つ、イベントがあるんだよ!!」

 アカツキは外に聞こえない程度の大きな声で旧ナデシコクルーを集めた。





 カイトは1人心地でロビーの壁にもたれ掛かっていた。

 ふぅ。しかし、ここまでナーバスになるとは思わなかったな。

 行こうって約束はしたけど、渡した日からけっこう年がたってるから、諦められたかも知れないし、呆れられているのかも知れない。

 やめた、1人でいるとどうもろくでもない方ばかりに考えがいってしまう。

 せっかくの結婚パーティーなんだから楽しまないと。

 そうして、会場に戻ろうと振り向いたときカイトは懐かしい気配を感じた。

 えっと、看板は"レストラン・ドラゴン"。やっとついたわ。

 はあはあ……まさか、交通事故が起こるなんて。ついてないわ。まさか30分も走るかと思わなかったし。

 改めて思っても不思議ね。"ナデシコ"に縁があるのかしら。艦長の名前がユリカさん、あのとき艦を下りたアキトさんと名前が一緒。もしかしたら、同一人物かも知れないわね。火星でも一緒にいたのだし。

 入る前に、汗とか大丈夫よね。あ、ちょっと髪が乱れている。

 会場に入る前に化粧室に寄っていきましょ。あの人に逢えるのだから少しでも綺麗でありたいから。

 けど、あれから4年。ちゃんと覚えているとは思うけど、少し不安。

 悩んでいても仕方ないからまずは入りましょう。

 誰か新しい(ひと)連れていたら、ひっぱたいてあげるのだから。

 けど、浮気性なのがそのままで安心するかも。私もやっかいな人に惚れたのね。

 からんころん

 なんだか緊張してきちゃった。

 けど、そんな緊張はすぐに消し飛んだ。

 そこにはあの人がいたから。

 「よかった、間に合ったのね」

 「よかった、間に合ったのね」

 えっ……この声、もしかして。

 カイトは慌てて振り返る。

 さっきの気配は勘違いでない事を証明するかのようにイツキ・カザマはそこにいた。

 あの人のびっくりした顔。なんて間抜けなのかしら。

 そんなに変な事を言ったかしら?

 おかしくて……おかしくて……嬉しくて……涙が……止まらない。

 何かを考える前に、何かを感じる前にカイトはイツキを抱きしめた。

 イツキの流れる涙をふき取ると彼女はすごく安心した様子で瞳を閉じた。

 そして、カイトは言った。

 「お帰り、イツキ」

 「ただいま、カイト。

 そして、おかえりなさい」

 イツキも言葉を重ねるように言った。

 「うん、ただいま」

 そして、時を超えた恋人は唇を重ねた。





 「うわぁ……すっごぉい……ねぇねぇ、アキト。あたし達もキスしよ」

 「な、何考えてんだよ。場所考えろ、場所!」

 「ほんと。少しは場所を考えてほしいですね」

 「ふぅん……ルリルリ。悔しい?」

 「ミナトお姉ちゃん、ちょっと見えない」

 「あんたにはまだはやいの」

 「ぬぉぉぉぉ……なんってうらやましい事を」

 「うっせーぞ。ちぃったぁ静かにしてろ。ばれるだろうが」

 「リョーコ、かぶり付きだもんね」

 「だぁぁ。うっせーぞ。イズミもだじゃれ考えるんじゃねー」

 「……」

 「いやぁ。感激の対面だとはいえ、大胆だねぇ」

 「そう仕組んだのはあなたでしょ……」

 「いやはや、会長もこのようなときにだけでなく普段にも真面目に成されればこちらも助かるのですが」

 「ミスター、それを望むのは無理というものだろう。会長は趣味の人間だ。それ以外はちゃらんぽらんだ」

 「ゴート君……夏のボーナスは期待してるといいよ」

 会場のドアに隠れているつもりだろうが、見られている2人には全部筒抜けだった。

 「どーする。このまま続ける?」

 カイトのいぢわるな言葉にイツキは顔を赤くさせる。

 「で、でも……恥ずかしいから……それにあそこにいるのはナデシコのみんなでしょ?」

 「そうだけど、気付かない振りをしてもいいと思うけど。どうせわからないだろうし」

 イツキの口を塞ごうと顔を近づけるカイト。

 「だからって、周りの事も考えて、だめだってば」

 「そうです。少しは私達の事も考えてください。ずっと見てますよ」

 カイトの背後にはいつの間にかポーカーフェイスのルリが来ていた。

 「そうだね。イツキもあのときちゃんと挨拶できなかった事を気にしてるみたいだし」

 カイトは抱きしめていたイツキを離すと、軽くぽんっと背中を押す。

 不安そうにイツキが振り向くがカイトは"行って来いよ"と言わんばかりに微笑んだ。

 そして、安心したイツキはナデシコのみんながいるところへ歩いていく。

 その光景を隠れて見ていたみんなもロビーの方に歩いていく。

 皆、それぞれの帰還の歓迎を口にしながら。

 「カイト兄さん。よかったんですか?」

 「ルリちゃん、自分であんな事してて、そう言う事言うかな。まっ、いいけどね。これから喧嘩とかしなければ50年以上は一緒に生きられるんだから、焦らなくてもいいでしょ」

 唯一動かなかったルリの頭を少し乱暴にカイトはなでた。

 「さあ、いこうか。僕もたっぷり昔話を聞きたいしね」

 「はい」

 2人は遅ればせながら、みんなの輪の中へ入っていった。





 2199年 6月16日 夜の公園近く

 いつもの所にラーメン屋台がある。

 けど、明日から1週間ちょっとの間そこには現れない。

 新婚旅行に行くからだ。

 それを知っている常連客は結婚式に出られなかった変わりにここで祝辞やプレゼントを渡している。

 そのせいか大盛況で閉店予定時間より早く麺のストックが無くなってしまった。

 「ほんとすみません。あと予約分だけなんっすよ。旅行から帰ったときにまたお願いします」

 申し訳なく頭を下げるアキト。

 「しゃあないな。旅行楽しんでこいよ」

 お客は少し残念そうな顔になるが、まあ仕方ないかと思いながら店を出ようとしたが、ユリカが引き留める。

 「あの、申し訳ないので今度来店したときには割引しちゃいます」

 そう言って、ユリカは"ナデシコラーメン半額券 アキト&ユリカ"と書いてある券をお客に手渡す。

 「すまないね。必ず寄らせてもらうよ」

 「「ありがとうございました」」

 アキトはユリカのこういうふとしたところでの気配りに感心した。

 自分ではユリカをフォロしているつもりが、時々反対になっている事がある。

 結婚式では何となく実感がなかったが、改めてこういうところを見ると結婚したんだなと思う。

 「アキト、どうしたの?」

 「い、いやなんだ。その……そうだ、ルリちゃん達が来るの遅いな」

 アキトはいつの間にかユリカをじっと見ていたようだ。

 「えっ。ルリちゃん達、もう少し後に来るんだよ」

 「えっ。そうだったっけ?」

 「そーだよ。アキト、顔赤いけど風邪でもひいた?」

 「ユリカ」

 唐突にアキトはユリカの肩を掴む。

 当のユリカは不思議そうにだが、優しく微笑む。

 2人の距離は段々縮まっていく……が、

 「ちょっと早いけど……来たんだけどお取り込み中かな?」

 「まったく、少しは場所を考えてほしいですね」

 「私達、もう少しそこら辺を回ってきましょうか?」

 来客に固まるアキトとユリカ。

 来客は、会話順にカイトとルリとイツキだ。

 「しかたないか、もう少し公園で話しよっか」

 くるっと後ろを向くカイト達に引きつった笑みを浮かべながらアキトとユリカは言った。

 「「本日予約のミナヅキ様ですね。お待ちしておりました」」





 ぐつぐつと麺が茹でる音がする。

 ゆであがるまで、と言ってもそんなに時間があったわけではないが、結婚式が終わってからの事を5人は話した。

 アキトとユリカの新婚旅行の話。古代火星人、正確にはツァイト人が、どんなだったとか。3人の同居生活はどうしているのとか話した。

 おまけではあるが、相変わらずの女癖の悪さにお仕置きとしてカイトはイツキに指輪を、ルリにネックレスを買わされた。

 そうしているうちに麺はゆであがりラーメンは3人に行き渡る。

 ずずずっ

 3人がラーメンを食べる音だけがする。

 「イツキさん、どうかしました。まずかった?」

 3人が美味しそうにラーメンを食べているのを見ていたアキトがイツキの変化にいち早く気付いた。ドンブリをおいて目元をこすっている。

 「ちがいます、すごく美味しいです。ただ、あのときテンカワさんに言いましたよね。"あなたの料理、食べてみたかったです"って。それから2年近くたって、それが叶って、カイトが隣にいて。幸せなのが幻じゃないのかなって」

 ユリカが白いハンカチをイツキに手渡す。

 「今は幻なんかじゃありません。空白の時間があったかも知れませんがこれからの時間はきっと幸せの時間です。焦らずに幸せな事を感じていけばいいと思います」

 「そうね。ありがと、ルリちゃん」

 ハンカチで目元を拭きながらイツキが感謝を述べる。

 「ほんとはカイト兄さんが言わなければいけない事ですよ。私に言わせないでください」

 ルリは頬を赤く染めてごまかすようにラーメンを食べた。

 「次からはそうするよ。さあ、残りのラーメンが延びないうちにたべよ」

 5人はラーメンを食べ終わったあとも夜遅くまで語り合った。

 

 

 










 雑談会その11

 ひ〜ろ:さて、大団円を向かえそうな"機動戦艦ナデシコ 記憶のかなたで逢った人たち "。残すはエピローグのみとなりました。

     で、今回のゲストは実はヒロインだったイツキ・カザマさんです。

 イツキ:作者さんから紹介がありました、イツキ・カザマです。

 ひ〜ろ:とりあえず、生還おめでとう。そー言えば、ネルガルにいた2週間ほどなにしてたの?

 イツキ:別に普通の検査を受けていただけですけど。あと、ボソンジャンプについて何点かイネスさんから質問を受けました。

 ひ〜ろ:ふぅん・・・カイトの事については聞かなかったの?

 イツキ:聞きましたけど、はぐらかされました。6月10日なればわかるって。

 ひ〜ろ:そっか。

 イツキ:何か素っ気ないですね。いただいたメールの中にカイト×ルリちゃんだと思われていたのが不服だとか。

 ひ〜ろ:いや、それはない。そう勘違いするだろうとは思っていた。そんな事を一番心配していたのは君のはずだ。

 イツキ:そ、それはそうですけど。

 ひ〜ろ:安心してよ。私はセガサターン版The blank of 3yearsの君のエプロン姿に落とされたから。

 イツキ:喜んでいいのか悪いのか・・・

 ひ〜ろ:そのあとどーなったのかを悶々と想像すると・・・くっくっくっ

 イツキ:いやぁぁぁぁ。ふけつ!!!!

 バキィィィ!!!(イツキの拳が容赦なくひ〜ろを捉えた。そして、彼方に飛んでいく)

 ひ〜ろ:うぅぅぅ・・・お茶目なジョークなのに・・・本気でなぐりやがった。なんだか作者の扱いが酷いぞ、登場人物達。

 カイト:それはおまえが悪いからだろ。

 ひ〜ろ:・・・私が悪かったからその後頭部に押しつけている黒光りする筒を下げてもらえませんか?

 カイト:ざんねん。銀色の筒なんだ。ルリちゃん達からいろいろ聞いたよ。さっきイツキからもね。と言うわけで、さようなら。

 ぷすっ

 ひ〜ろ:・・・あ、だんだん眠く・・・すよすよ・・・

 カイト:一応作者だから麻酔で我慢しておくよ。さて、次はエピローグ。前回予告があったとおり、「幸せの扉の向こう側」。情けない作者だけど、期待してね。

 ひ〜ろ:どーじ制作の予定だから・・・待つ必要性は・・・すやすや・・・





 裏切りの後がき

 

 実はこれって一人称だった部分を三人称に変えたバージョンです。一人称をいろいろなキャラでクロスしていくとやっぱ読みにくいと言われたので変えました。

 やっぱ、読みやすくないとこれから先読んでもらえないと思う。レベルをあげて効果的に一人称を使えるようになりたいです。

 その前に三人称も使いこなせるようにならないと。はうはう。








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