機動戦艦ナデシコ
                   E I V E   L O V E
〜 The blank of 3years 〜
記憶のかなたで逢った人たち






 第9話 やったら『やりかえせ』  〜 深き闇 〜 後編



 一行は何事もなかったかのように極冠遺跡へと向けて進んでいる。

 石や岩だらけで何も見るところがない荒野をキャラバン一行は走っている。

 何事も起こらず順調に進んでいるので、一行にはだれた雰囲気が漂っていた。

 ミナトをさらった誘拐犯グループからの連絡は手紙が来た以降、何も連絡がないままだった。

 その間のナデシコクルーは昼間はだら〜っとしていたが、夜な夜な来る日のために備えていた。

 ちょうどいいタイミングというか、始めの手紙が来てから3日後。キャラバンがまだ森の残っている長い渓谷の手前にキャンプを張ったときに、2通目の手紙が届いた。





 夕食も終わり、お風呂や個々の趣味に没頭などをする時間。

 そんな中、くじ運の悪いアオイ・ジュンは洗濯をしていた。

 もちろん、男物オンリーである。

 「はぁ。これで出発してから連続3日目か。だいぶなれてきたな……」

 ジュンは器用に絡み合った服を一つ一つ丁寧にほどき乾燥機の中に入れていく。

 洗濯物が乾燥し終わるまで数分。その間にとジュンはトイレに行った。

 乾燥し終わった洗濯物を取り出し丁寧に畳んでいく。その姿は奥さんに尻に引かれた夫と表現するにふさわしかった。

 「……あれ。またウリバタケさんのか。紙とかはちゃんと出してからといっているの……に。これは!?」

 ウリバタケの服に挟まっていたのは3日前見た手紙そっくりだった。

 「アオイさん、服を受け取りに来たのですが……おや、その手紙はとうとう来ましたな」

 いつの間にか後に現れたプロスペクターがのぞき込んでいる。

 「これはみなさんを集めないといけませんね」





 数分後、トレーラの後部貨物室にナデシコクルーは全員そろっていた。

 なぜか、サブロウタもいた。

 「ちょっと、なんでタカスギ君がいるんだい?」

 「べつにいいじゃないですか」

 アカツキの疑問にカイトがぽややんとした表情で答える。

 「そうっすよ。オレは正義の味方なんっすから」

 サブロウタも意見する。

 周りはと言えば、困った顔をしているのはジュン。あとは似たり寄ったり。好意的なのはユキナ、アキトぐらいなものである。

 「でも、君があの誘拐犯とつながっていないとは言い切れない」

 「そうですな。誰にも気付かれずに二度も手紙を送られてきたところを考えるとボソンジャンプをしてきたとも考えられます。その点、タカスギさんは木連優人部隊出身。まことに申し訳ありませんが、疑う要素はそろっています」

 プロスペクターの指摘にカイトは首を傾げる。

 「プロスさんらしくないですね。タカスギさんはB級ジャンパーだから、ジンタイプなどの補助装置を使わないとジャンプできないはずです」

 「そうね。その点は信用していいわ」

 ボソンジャンプ第一人者のイネスが保証したのでプロスペクターは引き下がったが、アカツキは渋い顔をしたままだった。

 「大丈夫ですよ。こっちが信用しないと始まりませんよ」

 サブロウタはカイトの横ではうんうんとうなずいている。

 「それで、その信用が裏切られた場合はどうするんだい?」

 「それは、裏切ったときサブロウタさんが想像したことを叶えてあげるだけですよ。蜥蜴戦争で何度もナデシコと戦ったことがある人ですからよくわかるでしょ?」

 「あ、ああ。そりゃ、ナデシコには苦労させられたからな」

 「カイトさん、それじゃまるっきり脅しだよ」

 「あははっ。ごめんごめん」

 ユキナのつっこみに笑いながら答えるカイト。

 だが、そのカイトを見ながらサブロウタは冷や汗をかきながらコクコクうなずいていた。

 おいおい。全く冗談にきこえないぜ。

 それはプロスペクターとアカツキも同様だった。

 「で、ほとんど時間がないですけどどうします?」

 「とりあえずは、計画したとおりに。念のため、タカスギ君はぼくらと同行して貰うよ」

 「ああ、それはかまわないさ」

 「なら、ひとまずここは解散と。あまり我々が長く集まっていると怪しまれますからな」

 プロスペクターがぱんぱんと手を叩きながら解散を促した。

 みんながバラバラと移動していくなか、カイトがウリバタケを呼び止める。

 「セイヤさん。あれ、うまくいきましたか?」

 「あぁん? あったぼうよ。しかしよ、本当にあれで良いのか?」

 ウリバタケは怪訝そうな顔をするが、カイトはまるで悪戯をする前の子供のような表情を浮かべる。

 「多少はしゃれっ気がないと。それに、インパクトがあるでしょ」

 「そりゃま、そうだがよ。あとは、最終設定だけだ。終わったら、あれを手伝って貰うからな」

 「もちろん」

 最後に残っていた2人は怪しい笑みを浮かべながら持ち場へと移動した。





 眠る時間となりトレーラから火が消え、エステバリスやジンが出すサーチライトだけが灯っている。

 そのサーチライトを避けるように辺りを見回しながら宿舎から数人出ていく。

 カイトとイネスとウリバタケとプロスペクターだ。

 「しかし、こんなところで人質交換かよ。ご丁寧にこちらが準備できないようにすぐときてら」

 「まあ、仕方ないですな。事前準備をしておけば、罠や不意打ちなどしやすい地形です」

 「手紙通り"指示通りにすれば警備の目をくぐり抜けられる"って書いてありましたけどその通りでしたね。やっぱり、内通者はいますね」

 「しっ! 無駄話をしない」

 誘拐犯の言うとおりとはいえ、警戒は怠らないべきだ。イネスの注意で3人は黙る。

 ウリバタケは隠し持っていたスターライトスコープをカイトとイネスに手渡す。

 「後は任せたよ。じゃ、よろしく」

 「よろしくお願いします」

 ウリバタケとプロスペクターはそう言うとトレーラの方へ戻っていった。





 イネスとカイトはスターライトスコープを装着し、誘拐犯から指定されている場所へ向かう。

 進んでいるうちにカイトはスターライトスコープを取り外す。

 「どうしたの。それじゃ、前が見えないでしょ?」

 「なんだか明るすぎるんですよ。今日は曇ってないですし、星明かりが明るすぎるんですかね?」

 確かに今日は晴れている。それに、スターライトスコープがいかにわずかな光源を関知して、その反射光から周囲の画像を作り上げているのでよく見えるが、裸眼ではほぼ真っ暗でほとんど見えないはずである。

 イネスは試しにスコープを外してみるが、真っ暗で何も見えなかった。

 だが、カイトはスコープを外したまま平然と歩いているので気にしないことにした。

 呼び出された場所に着いた瞬間、闇夜の中から懐中電灯で2人を照らす者が現れた。

 イネスはその光で目を潰しかねないので反射的に視線をずらしたが、カイトは少し目を細めただけだった。

 イネスはスコープの光量を絞る。

 「警備に見つかって困るのはそちらじゃないの?」

 それぞれの忍び装束に身を包み、覆面で顔を隠した女達が現れた。

 ふとカイトはその姿を見て、忍者なのになんで目立つ格好なんだろか? と、疑問に思っていた。

 「貴様ら以外の連中の食事には睡眠薬をしこんだ。今頃、どいつもこいつも高いびきだ」

 「用意周到って訳だ。ミナトさんはどこ?」

 「その前にそこの女のゴーグルをとれ本当にフレサンジュ博士当人だろうな?」

 誘拐犯達の指示に従いイネスはスコープを外す。

 「それとそこの男!」

 「まさか、この場から去れとは言わないだろうな?」

 カイトは少し心配した様子で聞き返す。

 「懐にある物騒なモノをこちらに渡して貰おうか」

 カイトは少し困った顔をして懐から物騒なモノを取り出していく。

 サブマシンガン、手榴弾、ショットガン、リボルバー、投げナイフ、パチンコ、メモ帳、同人誌、麻雀パイ、エトセトラ……

 「も、もういい。ただし、不審な行動はするな」

 切り無く"物騒なモノ"が出てきそうなので誘拐犯は途中で諦めた。

 「遺跡で発見したというプレートは持ってきているだろうな?」

 「物事は順番に。ミナトさんを見せてちょうだい。今度はこちらが人質を確認する番よ」

 「……よかろう」

 女忍者が、左手を振って合図すると、暗闇のなかから、ミナトを連れた男があらわれた。

 ミナトは口にガムテープを貼られ、後で腕を縛られていたが顔色は比較的よかった。

 「ミナトさん、酷いことをされてないようでよかったです」

 「さあ、今度はプレートを出して貰おうか!」

 イネスはカイトと見合ってうなずくと懐からプレートを取り出そうとした瞬間、いきなり、数機の空戦エステバリスが上空に現れ、巨大なサーチライトでその場の全員を照らし出した。

 その中の1機のマイクから男の声が聞こえた。

 『貴様ら木星トカゲにフレサンジュ博士を渡すわけにはいかん。遺跡の秘密を独占させてたまるか!』

 「その声は、始めに襲ってきた間抜け集団! すっかり忘れていた」

 

『うるさい!!』

 この状況で律儀に怒鳴り返してくるところを見ると間抜け集団には間違えないだろう。

 本当に怒ったのかどうか、喋ってきたエステバリスがラピットライフルを撃ったのを機に、後で控えていたエステバリスもラピットライフルを発砲する。

 「イネスさん、伏せて!」

 カイトはイネスを庇いながら、エステバリスの死角に隠れる。

 素早い判断でミナトを連れて逃げようとするに誘拐犯達。

 「しまった。ミナトさん!!」

 カイトは叫ぶが遅い。銃撃により誘拐犯との間が離れすぎていた。

 と、そのとき、崖の上から3機の陸戦エステバリスが登場し、地球側の空戦エステバリスを攻撃しつつ、谷側へと崖を滑り降りてくる。

 『くっそ〜人質交換の最中に割ってはいるはずが、飛び入りの性で台無しだぜ。ヒカル! イズミ! 説明おばさんを空戦エステの連中から守るのだが最優先だからな』

 『了解!』

 『えっ! でも、ミナトさんは?』

 リョーコ、イズミ、ヒカルの3人のコミュニケが開く。

 『仕方ねーだろ。この状況じゃ、あっちはアキト達に任せるしかねーだろ!』

 そう言いつつも、空戦エステバリスをばたばたと撃墜していく。腕の差は歴然だ。

 その下を逃げていこうとする誘拐犯達。

 カイトはイネスから離れるわけにいかないのでオートマチックを構え、足止めぐらいはと誘拐犯達を狙うが、その視界に隠密行動をしているゴートたちを捉える。

 「リョーコさん、手が空いたらイネスさんを回収してください。ミナトさんはゴートさんがどうにかするようです」

 『りょーかい。よっ、甘い!』

 また1機空戦エステバリスはリョーコに落とされた。

 「この混乱を利用してミナトを奪回する!」

 隠密部隊を指揮しているゴートが宣言する。

 とかいえ、いるのはジュンとプロスペクターだけ。

 ジュンは緊張した表情で光学迷彩をまとう。

 「アオイさん。この混乱です、大丈夫。うまくいきます」

 ジュンの緊張を見抜いたプロスペクターが声をかける。

 ジュンはこくりとうなずくとゴートに続いて前進する。

 焦るな、落ち着いてやれば大丈夫だ……

 混乱のせいか、誘拐犯達も思うように進めていないので容易に追いついた。

 誘拐犯達の逃げる方向に、突然、1機のエステバリスが崖の上から飛び降りてくる。

 そして、誘拐犯達の前にふさがった。

 アキトの月面エステバリスだ。

 「おっと、ここから先には進ませない!」

 「くっ。人質がどうなっても良いのか!?」

 驚いたように誘拐犯達は立ち止まる。

 追いついたジュン達はその隙を見逃さない。

 「そのことなら、ご心配なく」

 光学迷彩を解いて現れるジュン達。

 ジュンが日頃頼りないとはいえ、一応軍人だ。緊張していたとはいえ、本番になると以外と落ち着いていた。

 声をかけると同時にミナトを抱えている誘拐犯にジュンは後から左の拳で昏倒させる。

 その拳の以外な強さにゴートは一瞬驚いたが、ミナトを抱きかかえて後方に下がりながらコミュニケに向かって怒鳴る。

 「人質奪還に成功。援護を頼む!! くりかえす、人質奪還に成功。援護を頼む!!」

 「おのれぇ!!!」

 誘拐犯のリーダーらしい女忍者が怒鳴るがもう遅い。

 ここぞとばかりに逃げ出すゴート、ミナト、ジュン、カイト、イネス、プロスペクター。

 誘拐犯達はゴートたちを追おうとするがアキトの月面エステバリスの弾幕とカイトの煙幕手榴弾の前に行く手を遮られる。

 「カイト。いったいどれだけの武器を持っているのだ?」

 「秘密です。けど、あとでプロスさんに聞いてください」

 カイトはゴートの質問にも答えながら、サブマシンガンを取り出してそこら辺に乱射する。

 「ええぃ! かくなる上は!!」

 女忍者が懐の中に手を入れ、取り出した何かのスイッチを押しながら叫んだ。

 

「いでよ!ダイマジーーーーーーーン!!!」

 すさまじい轟音とともに地面が割れて、その下からダイマジンが姿を現した。

 女忍者は素早くジャンプをしてダイマジンに乗り込む。

 「あんなのありですか?」

 「うだうだ言っている場合か。援護はどうした!?」

 ダイマジンに対してサブマシンガンは豆鉄砲にしか過ぎない。カイトはサブマシンガンを投げ捨てて走り出す。

 『致し方ない。“都市”の秘密もろとも、そろって消えてもらうぞ』

 ダイマジンの攻撃をよけながら必死に走る。

 「何コミュニケをいじっているの?」

 「月面フレームを呼んでるんですよ。こっちも叫んでやる。

 

来い! げつめ〜〜んフレーム!!!

 「馬鹿やっている場合じゃないでしょ!」

 イネスはあきれた顔で真っ赤になっているカイトを見られたのはレアだろうと思っていた。

 キャラバンのあるあたりから月面エステバリスがこちらにやってくる。

 「ゴートさん、急いで!」

 アキトは弾幕を張りながらこちらに向かおうとするが、運動性で劣る分上手く前に進めていない。

 ゴート達はリョーコ達の陸戦エステバリスの方へ向かっていく。

 すでに地球側の空戦エステバリスは撤退している。

 ゴートとミナトとプロスペクターはリョーコのエステバリスに、ジュンとイネスはヒカルのエステバリスに保護されて撤退し始めた。

 それらを確認してカイトも月面エステバリスに乗り込む。

 コックピットに収まると自然に気が研ぎ澄まされる。

 素早く標準をダイマジンに合わせトリガーを引こうと思った瞬間、ダイマジンの姿が光り輝いた。

 「ボソンジャンプ!? ヒカルさん、リョーコさんの方へ。イズミさん、どこに出るかわかりませんけど援護を頼みます!」

 『おっけー!』

 『了解』

 カイトの指示に素早く反応する2人。

 カイトも神経をとぎすませ、ボソンアウト場所を予想する。

 と、そのとき耳鳴りがしたかと思うと聞いたことのある声が聞こえた。

 『近づいては……駄目』

 「……まさか! でも……はっ」

 カイトが現実に戻るとリョーコ機とヒカル機の間にボース粒子が見える。

 「いけない! ヒカルさん止まって!!」

 『えっ!?』

 驚きつつも停止するヒカル機。ちょうどその間にボース粒子が目に見えるほど輝きだした。

 そして、ボソンアウト。

 だが、その向こうには、まだボソンジャンプにはいっていない、女忍者のダイマジンの姿がある。

 「新手……?」

 『ボソンジャンプが過去にずれ……』

 2機にダイマジンは、ちかちかと消えたり現れたりを交合に何回か繰り返すと、両方とも姿を消してしまった。

 個々にいる全員が呆然としてしまう。

 「今のはいったい……」

 ゴートの呟きが静寂に消えたかと思うやいなや、いきなり照明弾がいくつも打ち出され、昼間のようにあたりを明るくし始めた。

 おそらくは後方支援のアカツキ達だろう。

 照明弾のおかげで忍者の1人が崖の向こう側に消えていくのが見える。

 「いた! ちょっと追いかけてきます」

 言うはいいが、返事を待たず月面エステバリスを飛ばすカイト。

 あっという間にアキト機を越していく。

 『おい。カイト、どこに?』

 「すぐ戻るから!」

 カイト機は崖の向こう側に消えた。





 崖の向こう側は深い森になっていた。

 照明弾の明かりが残っているので視界にはさして苦労しなかったが、これだけ鬱そうとしていると探すのも事だ。

 追いかけると言った手前、手ぶらで帰るのもなんだと思いながらすぐ返ると言ったことも思い出して戻ろうとしたそのとき、木の陰から人影が見える。

 カイトは直感的に誘っていると思ったが、このまま帰るのもなんだと思い、合えてその誘いに乗った。

 月面エステバリスからワイヤーで降りると、あたりの気配を探る。

 すでに照明弾の光は落ちている。

 とかいえ、視界に困ることは特になかった。それより困ることは殺気。降りてくるまでは感じなかったものだ。

 「ぎんぎんに殺気を放つのは忍者としては失格では?」

 「あのような三下と同じにしないでもらおう」

 声の主は闇より現れカイトの前に姿を現す。

 編み笠に隠れて表情はよく見えないが、本能が"こいつは危険"だと最大の警戒を呼びかける。

 「作られしモノ、我と一緒に来てもらおう……」

 「断ると言ったら?」

 「……無理矢理でも来てもらおう」

 編み笠の男は言うが否や、間合いを詰めてくる。

 あまりに素早いのでカイトは反応しきれず、拳を腹に食らう。

 「ぐっ……くそっ!!」

 裾に隠していた投げナイフを投げ、間を取ろうとするが、あっさりとかわされ逆に間を詰められてしまう。

 「このようなものか、作られしモノ!」

 「なに訳のわからないことを!」

 かろうじて急所こそは外しているが、蹴りや拳を存分に食らう。

 苦し紛れに攻撃をするが、軽く受け流され転がされる。

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 口内を歯で切ったのか、カイトは唇に付いている血を乱暴にふき取る。

 強い……けど、疲れてるのか? だんだんあっちの速度が遅くなってる気がする。

 カイトはだんだん頭が澄んでくるのと身体が熱くなっていることを自覚した。

 「……ふっ。その顔。いい顔だ」

 そう言うと歪んだ笑みを浮かべ編み笠の男は刀を抜き放ち、鞘を投げ捨てる。

 「巌流島なら敗れたりと言うところだけど……そんな、言葉が通用するわけないよね」

 カイトは覚悟を決め、格闘用ナイフを2本持つ。

 もう持つ武器はない。

 常人では立っていられないくらいのすさまじい殺気。

 「作られしモノよ、名を聞こう。我が名は北辰」

 「ミスマル・カイト」

 

ギンッ!!


 一度だけ刃が交わる。

 カイトの左頬と右肩が薄く切れる。

 「ふっ……なにっ!?」

 完全にかわしたと思っていた北辰の編み笠が真っ二つに割れ、足下に落ちる。

 「そんなんじゃ、見えにくいだろ?」

 にやりと笑うカイト。

 再び対峙する2人。

 北辰から笑みは消え、カイトには暗い笑みが浮かぶ。

 数度刃を交えるが、どちらも決定打にならず、浅い傷ばかり増えていく。

 ちっ。こっちの刃が持たない、どういった強度をしてるんだ、あっちの刀は。だいぶ手も痺れてきたし、そろそろけりをつけないと。

 初めてカイトは構えを取る。身体を少し低くし、刃を地面の水平にする。

 「ほぉ。これで決めるか?」

 「そろそろ帰らないと大怒られするんでね」

 枯れ葉が2人のちょうど中央に舞い降りる。

 その刹那、

 

ガキーン!!


 2人が交錯し、金属の壊れる音がする。

 「くそっ……肝心なところで」

 カイトが握っている2本のナイフは半ばより折れていた。

 「惜しかったな。その技の名を聞こうか」

 「風間流剣術 蓮華。本来はこんなナイフでする技じゃない」

 蓮華、始めの2撃で相手の武器または攻撃能力を奪い、懐に入り連撃を加える技である。その相手の血の飛びざまが華のようなのでこういう名前が付いている。

 が、決まらなかった以上、所詮言い訳。

 「ほお。まだ諦めぬか……」

 「あきらめは悪い方でね」

 三度対峙する2人。

 今回は圧倒的にカイトが不利だ。

 だが、先に動いたのはカイトだった。

 「死ぬか、作られしモノよ」

 北辰の斬撃がカイトを襲う。

 だが、カイトは足を止めず踏み込み、右肩で刃を受け止める。鍔もととはいえかなりの衝撃がくるが、気にせず左拳を放つ。

 驚愕する北辰。当然よけるものだと思っていたのが身体で受け止めたのだ。

 素早く、刀から手を放し、カイトの拳を受け止める。

 が、しかし。

 「ぐがぁぁぁ!!!」

 びくびくと痙攣して、ふらふらと後ろに下がる北辰。カイトもダメージが大きく近くの木に寄りかかる。

 カイトの手にはスタンガンが握られていた。

 そう、ルリからの贈り物のウリバタケ特性のである。

 「ちょっと威力強すぎ……」

 カイトは左手の中で未だに火花を散らしているスタンガンを見ながら他人事のように言う。

 そのとき、強い光があたりを照らす。

 『カイト。いたら返事しろ!!』

 『カイト君。ど〜こ〜』

 アキトとヒカルのエステバリスから声がする。

 あまりに帰ってくるのが遅いので心配したのだろう。

 「まだ、やる?」

 右肩を押さえながら、北辰に尋ねる。

 「ここは退くとしよう」

 「忘れ物だよ」

 カイトは足下に転がっている刀を北辰に向かって蹴り飛ばす。

 北辰はその刀を拾い上げる。

 「また会おう、作られしモノよ。跳躍」

 「僕は二度と会いたくないね」

 北辰がボソンジャンプしていくのを確認したカイトは木にもたれ掛かったままずるずると座り込んだ。

 光が強くなる。どうやら見つかったようだ。

 アキトが怒鳴っていて、ヒカルさんが心配そうな声をかけてくれてるけど、何より疲れた。

 カイトはその声を聞きながら、後が怖いなと思いながら疲れた身体を休めた。












 雑談会その9

 ひ〜ろ:前回の執筆ペースをはるかに下回るペースで完成した第9話。配分を考えたときに9・10とするか悩みました。

 ミナト:今回のゲスト、ハルカ・ミナトと。

 ユキナ:白鳥・ユキナで〜す。

 ひ〜ろ:今回は2人?

 ユキナ:ミナトお姉ちゃんと一緒でもいいでしょ。

 ひ〜ろ:別に良いけどね。

 ミナト:あんたのとこって地震があったんですってね。

 ひ〜ろ:震度6−だったらしいけど、別になにもなかったけどね。

 ユキナ:まじまじ? じー

 ひ〜ろ:かなり揺れたけどね。

 ミナト:けど、これは遅れた理由にならないわね。

 ユキナ:そーそー。なんでこんなに遅くなったのよ?

 ひ〜ろ:(ぎくっ。先手を取られたか。開き直ろう)単に書けなかっただけだ!

 ミナト:・・・

 ユキナ:・・・

 ひ〜ろ:あきれないでよ・・・ユキナちゃんとジュンのをどうするかとか、カイト対北辰をどうするかとか悩んだんだから。

 ユキナ:ぽぽぽっ(真っ赤)

 ミナト:けっこういい雰囲気だったみたいね。あ〜あ。現場にいられなかったのが残念ね。

 ユキナ:ミ、ミナトおねーちゃん!!

 ミナト:あたしなりに心配なのだけどなぁ。ジュン君って奥手だし、あんたもけっこう奥手だものね。

 ユキナ:ななななっっ・・・こほんっ。ともかく、カイトさんすごかったわね。

 ひ〜ろ:無理矢理変えたな・・・完全に記憶が戻らなくてあれだからね。

 ミナト:あ、『風間流剣術』って、言ったから少しは戻ってるの?

 ひ〜ろ:少しはね。肝心なところはまだまだだけど。

 ユキナ:早く戻ると良いね。

 ミナト:それなら、早く続きを書いて貰わないと。

 ひ〜ろ:え〜、次回は虚空の遺産編最終話 また、「会える」日を だ!

 ミナト:それじゃあ、みんな。

 ユキナ:また次回で会おうね〜

 ひ〜ろ:ああ、人のセリフとるな〜〜〜










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