機動戦艦ナデシコ
                   E I V E   L O V E
〜 The blank of 3years 〜
記憶のかなたで逢った人たち






 第7話 久しぶりに訪れる『故郷』にて 〜始まりと終わりの地〜



 2099年2月28日 火星の何処かの高級ホテル

 大広間でぶ然としたカイトの後ろの方で女性陣が楽しそうに話をしている。

 「ふぅん。そうなんだ。あのカイト君が昔は……うふっ」

 ミナトは面白そうにカイトの背中を見る。

 「そうそう。"敵を一機落とすのと一緒に女も落としますよ"って、気障な顔をしていったそうよ」

 「きゃ〜〜!! カイトさん、だいた〜ん」

 「不潔ですね……」

 「あんな顔して……以外とやるのね」

 「そうじゃないでしょ、ミナトお姉ちゃん」

 「やはり、無責任に相手にあたえる安心感かしら?」

 女達の黄色い声が客室をしめる。

 「ははっ。カイト、そう落ち込むなよ。同姓同名の他人かも知れないだろ?」

 アキトがフォロをいれようとカイトに話しかけるがその顔は引きつっていた。

 「けど、あのときにイツキから聞いた話とずれがないから……ああ、他人って気がしない。それに、出来るのかって言われると"出来るかもしんない。てへっ"って言いそうな自分がぁぁ!!」

 「そりゃ、おまえが悪いんだろ……」

 さすがにあきれられる。

 「自分が落ち着いたからって。アキトだってかつては、ユリカさんを合わせて5人も口説いたそうじゃないか。ナガレさんから聞いたぞ」

 「そ、それは違うぞ。オレは誰も口説いてない。アカツキ!! カイトに何ふきこんでんだ」

 「アキト……あたしだけじゃなくって、そんなに声かけてたの。アキトの馬鹿ぁ〜〜」

 いつの間にか話を聞いていたユリカが言い捨てて走っていく。その様子に傍観者を決め込んでいたアカツキが笑う。

 「あ、ユリカ。違うって言ってるだろ。くっ、カイト、アカツキ。戻ったら覚えてろよ〜〜」

 アキトはそう言い捨てるとユリカを追いかけていってしまった。

 「さて。僕もそろそろ部屋に……」

 「そうは問屋が降ろすわけないだろ」

 「そうそう。聞きたいって、言ったのはカイト君でしょ。それにみんなが聞きたいって、言ったのを否定もしなかったでしょ」

 アカツキとエリナがカイトに迫る。

 「うっ……そーですけど。とかいって、それで僕をおもちゃにしないで」

 うるうると瞳を潤ませてエリナに迫るカイト。大の大人がすれば嫌悪を抱くものだが、カイトの場合は元が女顔で母性本能をくすぐるのでエリナの顔が赤い。いや、エリナだけでなくリョーコ、ヒカル、イズミ、ユキナすらも赤くしている。

 その隙を見てか、じりじりと後ろに下がるカイト。目指すは、廊下へ続くドア。

 「アカツキさん、アオイさん、今です。カイトさんを捕縛してください!! 逃がしてはいけません!!」

 「な!?」

 その瞬間にカイトはアカツキとジュンに両側からがっちりと押さえ込まれる。

 「カイト君、悪いと思わないでね」

 「いやぁ。主賓が逃げちゃ駄目じゃないか」

 ほんのり頬を染めている2人はそのままカイトを引きずって女性陣の檻の中に投げ込もうとする。

 「うぅぅ。ルリちゃん、酷いよ。僕の過去をほじくって楽しい?」

 最後の抵抗か、目尻に涙を浮かべる。

 「カイトさん。嘘泣きはやめましょう。ばればれです」

 カイトの頬に大粒の汗が流れる。

 「そうそう。ルリルリの言うとおりだよ。お仕置きとしてこのまま話に参加なさいな」

 ミナトがとどめを刺す。どうやらこの2人にはばれていたようだ。

 それに気付いた他の女性陣も目が険悪になっていく。

 カイトは諦めたようにうなだれる。その姿はF○Iに連れられているエイリアンうり二つである。

 しかし、まあなんだ言いながら一番楽しんでいるのはカイトだったりもする。もしかすると、ただの変な奴なのかも知れない。

 「こんな夜中まで何をやっているの?」

 そこにようやく事前会議から解放されたイネスが現れた。

 「イネスさん。みんなが僕の過去でいじめるんです」

 カイトの必殺うるうる瞳がイネスに襲いかかる。

 「ふ、ふぅん。楽しそうじゃない。私もカイト君の過去には興味があるわ」

 カイトから視線を外して頬を赤らめて言う。嘘ということは見抜いているのだろうが、さすがに直視は出来ないようである。

 ともあれ、完全に逃げ場をなくしたカイトは「ああ、もーなんでも聞いてくださいよ!」と半ばやけになっていた。

 しかし、なぜ今更ナデシコクルーが全員集合、それも火星の高級ホテルになのかの訳は一週間ほど時間を戻す。





 「火星にですか?」

 「そうよ。あなた達ナデシコクルーは火星に行ってもらうわ」

 「来てそうそう、唐突ですね」

 「でも、なんでですか?」

 「僕も行くんですか?」

 ここはぼろアパートの一室、アキトの部屋。アキト・ユリカ・ルリ・カイト4人の住人とその監視役のエリナがいる。

 「少し前に木連との和平が公式発表されたのは知ってるわね?」

 「はい。新聞ぐらい取ってますから」

 「そして、新しい政治体制の"新地球連合"の第1回目の会議が火星で行われるのも知ってるわね?」

 「は〜い。質問です。それにあたし達が関係あるんですか?」

 もっともな質問をユリカが代弁した。

 「その一回目の議題が表向きは戦争の調停会議だけど、実質的に"遺跡"についてだからなのよ」

 「なるほど。だから、"遺跡"の謎に最も近かったナデシコクルーが集められるのですね」

 「そう言うこと。何処かの誰かさんが何処かに飛ばしちゃったおかげでね」

 エリナはちょこっとだけユリカに視線を送る。

 「はにゃ。あはははっ」

 頬に大粒の汗を浮かべたユリカの乾いた笑いが流れる。

 「あの。僕もついて行っちゃ駄目ですか?」

 「もちろん、カイト君にもついてきてもらわなければ困るわ」

 頭の上にはてなマークが浮かぶカイト。もしかしたら、おまけで連れて行ってもらえるかなとは思っていたが、ついてこないと困ると言われるのは予想外だった。

 「わからないかしら? あなたは火星についたときに助けた難民で、ボソンジャンプしていることになってるのよ」

 「ああ、そっか。カイト君は難民って事で登録しちゃったんですよね」

 抜群の記憶力を誇るユリカが1番始めに思い出す。

 「それと、先日のボソンジャンプ実験のことも絡んでるわ」

 「まあともあれ、ついていっていいんですね」

 ほっとした表情のカイト。しかし、相変わらずアバウトな奴である。

 「いいのよ。けど、どうしてそんなに行きたいのかしら?」

 エリナはふと疑問に思ったことを口にする。予想ではおそらくカイトは火星行きに着いてきたいのだが、留守番役と言うと思っていたからだ。普段は多少お茶らけて、ぽややんとしているが、ちゃんと物事を弁える人物である。それが反して、ついてきたいと。

 「理由を聞かれると困りますけど。ただ何となく、火星に行ったら何かわかるんじゃないかなって思うだけですよ」

 少し困ったようにカイトは頬をかきながら答えた。

 「なんかそう言うところは曖昧ね。じゃ、今後の予定なのだけど……」

 しばらく、火星行きまでの日程について話し合う。

 それも終わり、エリナが帰るために立ち上がると、

 「あ、そうだ。エリナさん。確か、まだ僕の過去探しはしてくれてるんですよね? 最近、音沙汰無しですけど手詰まりですか?」

 カイトが、1月から音沙汰無しの"ミナヅキ・カイト"の過去についてたずねる。

 「データバンク関連は全くデータがなかったのだけど、書類関係なら有ったから、今はそれの整理中。今度火星に行く際に教えられると思うわ。それじゃあね」

 これが一週間前の話である。





 2099年3月1日

 急ピッチで復興が進んでいる街を横目に一組の男女が足早に歩いていた。

 女の子は、黄金の瞳と銀色の髪をツインテールにしたルリ。心なしか怒っているように見える。男は、頬に真っ赤でかわいらしい紅葉をつけ、眠そうな雰囲気を振りまいているカイト。時々、痛そうに頬をなでている。

 「カイトさんのせいで遅刻ですよ」

 「……ごめんなさい」

 ルリの絶対零度の言葉にカイトは身をちぢこませる。

 本時刻1005時。今日の和平会議開始時刻は1000時。余裕で遅刻。ルリが怒るのも仕方ないこと。

 当たり前ながら、開始時刻より早く会場入りしていなければならないのだが、カイトが寝過ごしたためこうなっている。まあ、明け方まで婦女子の方々に拉致されていたのが原因といえば原因か。

 とかいえ、婦女子の方々はちゃんと予定時刻までには会場入りしているので言い訳にしかならない。

 ルリがなぜカイトと一緒に走っているのかは、カイトにつき合ったせいである。

 かなりぎりぎりまでの時間までアキト達と部屋の前で待っていたが、一向にでてこないので、アキトとユリカには先に行ってもらいルリが直接カイトを起こそうとしたのだが、そこでハプニングが起きた。

 いつもなら、押入のふすまを開けると日の光の眩しさでカイトははほんの少しだけ起きるのだがここはホテルの寝室。代わりに電気をつけてもだめ。カーテンを開いても、朝日が直接はいらないように窓を調節してあったため、ベッドまで日があたらないから起きる気配はなかった。仕方ないので体を揺すろうと手をのばしたその瞬間、

 「きゃっ!?」

 ルリはカイトにその手を掴まれてそのままベッドに倒れ込む。

 ルリにこんな体験があるわけがない。たまにユリカが寝ぼけて抱きついてきたことはあったが、異性からは初めてだ。そのまま顔を真っ赤にして硬直してしまう。

 そんなことを知ってか知らずか、眠ったままのカイトはそのままルリを抱きしめ頭を優しくなでる。

 しばらくして満足したのか、幸せそうな顔から寝息が立ちはじめる。

 「んっ……イ」

 なぜかこの一言にルリは腹が立った。そして、その思いはすでに体を動かしていた。

 これが朝の一部始終である。

 「そのまだ、怒ってる?」

 おそるおそるカイトがたずねる。本音としては、完全に寝ぼけていたので少しは許してほしいなと言う気持ちと、思春期の女の子は複雑だからこれだけ怒って当たり前かなと二律背反な思いになっている。

 「もう怒っていません。明日もまた、起こさなければいけなくなれば話は別ですが……」

 「了解!」

 このときカイトは思った。明日はちゃんと早起きをしよう、早起きしなければ殺られると。

 このときルリは思った。明日までにウリバタケさんにスタンガンを用意してもらおうと。この時点でカイトには信用どころか人権すら危うくなっている。

 「しかし、来たかったからいいんだけど、こんなにすんなり来てよかったのかな?」

 「とりあえずナデシコに乗ってましたからね。べつにいいじゃないですか」

 「そっか。まあいいか」

 ボソンジャンプしてきた頃の多少神経質なカイトが遠い過去と思えるほどアバウトになっている。

 エントランスをくぐり抜けた2人が、ホールからのびた長い回廊を歩き会場に入る。

 カイトは会議のじゃまにならないようにみんなに挨拶をして席に座る。

 「あれ、カイト君。ほっぺに手のあとがあるけど何かしたの?」

 ユリカがめざとくカイトの頬の紅葉に気付く。

 「ふ、ふれないでください……」

 「ホシノ・ルリ。ちょっと手を見せてみなさい」

 イネスは言うはいいがルリの手を掴むとの大きさとカイトの手あとを比べる。

 「……間違えなく、あなたの手のあとね。カイト君、何があったのかしら?」

 「えっとですね。これ……」

 「いつものメガホンもありませんので、ちょっと乱暴な起こし方をしました。強く叩きすぎてごめんなさい」

 そう言って、ぺこっと頭を下げるルリ。

 事実を言ったらどうなるのかという怖さは2人とも重々承知はしている。だが、以外と根が真正直なカイト。適当なことを言わしておくといつぼろが出るかわからない。仕方ないのでルリが適当な理由を付けてごまかした。

 「ふぅ〜ん。けど、な〜んかあやしいなぁ〜」

 にまぁ〜んとした顔でヒカルがルリに迫る。

 「なにがですか?」

 十八番の鉄面皮でかわそうとするが、ほんのり顔が赤くなる。しかし、会場が薄暗かったせいで目立たなかった。

 「おいおいカイトよ。ホントは何かあるんじゃねぇのかぁ?」

 今度はウリバタケが巻き舌でカイトに迫る。

 「な、なにもありませんですよ。ルリちゃんには毎日起こしてもらってるだけなんですから!」

 威張って言えることではないことを思いっ切り威張って言うカイト。駄目駄目じゃん、という空気が流れる。

 「けど、なんかハプニングぐらいあったんじゃないかなぁ?」

 「そうだね。いつもとちがうよ」

 ミナトのつっこみにユリカが余計なつっこみをいれ元の木阿弥になる。

 の退屈な話のせいか、イネスの説明にはいるまでこのネタでずいぶんと楽しんだようだ。

 少女は『これで貸し+5ですね』と言ったかどうだか。





 紛糾した会議の終わったあと、念のために木連側に頼んであったカイトのDNA鑑定の結果を聞いたが、どこにも照合するものはなかった。

 気落ちしたわけではないが、とりあえず気晴らしにぱーっと楽しもうと言うことで、みんなで食事に出かけることにした。

 「あんまり気落ちしてないね。やっぱりあの、"ミナヅキ・カイト"って言う人が君なのかな?」

 のほほんと歩いているカイトの横からジュンが話しかける。

 「う〜ん。あんな女たらしじゃないと思うんですけどね。別れた女性が何も恨んでないところが尊敬できるというかなんか……」

 「カイト君……それは倫理的にまずいと思うよ」

 「あはははっ。けど、僕まで呼ばれるなんてよほど"遺跡"ってすごいものなんですね」

 「なにいってんの。あれが解明されれば宇宙航海から経済まで一変してしまうかも知れないんだよ」

 「とかいってもよ、本体はナデシコごと太陽系の外にとばしちまったからなぁ。あとはあん時オレ達が手に入れたデータだでけってことか」

 アカツキとウリバタケが今日の会議のことを簡潔に説明する。

 「となると、僕は一応"遺跡の本体"を見たって事扱いなんですね」

 「ついでに言えば、君はA級ジャンパー扱いだよ。

 まっ、なんだかんだ言ってもその場にいたことが重要なんだ。だから、特にジャンパーは放っておくわけにもいかないさ」

 「まあ、いいですよ。関連性はよくわかりませんけど、久しぶりにみんなで楽しめる場を公的に用意してくれたんですから」

 「関連性って、2人が言ったことがだいたいの理由ね。いまは"遺跡"に関するデータが圧倒的に不足しているので、少しでも関わりがある人間を集めたいのよ。そして、それ以上に重要なのがこのプレート……」

 急に立ち止まり回想モードにはり説明を始めるイネス。今日の会議のことを思い出しているのだろう。

 プレートというのは、第3次火星会戦時にボソンジャンプして現れた過去のイネス"アイちゃん"から、受け取ったものである。それが故に、現在のプレートの所持者はイネスになってはいる。それも議題の一つにあがっている。

 しかし、それ以上の議題にこのプレートの再生方法がある。何らかの記憶媒体であることは確実なのだが、地球側も極秘入手した木連側の技術でも再生不可能。お手上げ状態である。

 こんな訳で、初日の会議はなんの進展もないまま閉幕していた。

 「あの、イネスさん。みんなもう先に行ってるんですけど……」

 「……であるからして、再生方法はって。せっかくこれからいいところなのに」

 一応説明を聞いていたカイトがイネスに注意するが、しなかったらこのまま説明終わるまで話し続けていただろう。

 「いいも何も、こんなところでしなくても」

 「説明は私の魂なのだからいいでしょ」

 「……りょ、了解」

 少しひきながらカイトは答え、前を見るとすでにみんなは角を曲がったあとで姿が見えなかった。

 「カイトく〜ん、イネスさ〜ん、こっちこっちー。早く来ないと先に食べちゃいますよー」

 「さ、呼んでますから急ぎましょ」

 ユリカの声が聞こえた路地の方を指さしてカイトが促す。

 (けど、こっちだったかな。店って、もう一つ先の路地だったと思うんだけど)

 「全く。艦長は来たら脳に行くはずの栄養まで全部胸にいってんじゃないの?」

 「はははっ……」

 (けど、やっぱりもう一つ先の路地だよな……)

 カイトは妙な違和感を抱いたまま、声の聞こえた方の路地に入っていく。

 そうすると突然、目の前に2人の黒い影が現れた。

 フルフェイスのヘルメットと、黒い戦闘服で身を包んだ彼らは、マシンガンをこちらに向けている。

 「イネスさん、お知り合いですか?」

 「私にはこんな失礼な知り合いはいないわ」

 そんなやりとりをしながらもカイトは退路を得るために後ろを見るが、同じような格好をした男に挟まれていた。

 「ストーカーですかね?」

 「イネス・フレサンジュ博士だな」

 黒服の男はカイトのぼけを無視するようにイネスに問いかける。

 「だとしたら?」

 カイトのぼけにつっこみ返せるようなイネスは一つもひるまず答える。

 「大人しく、こちらに同行してもらおう」

 「地球連合の方かしら? それとも木連? どちらにしても、私1人捕まえたところで遺跡の謎は解明できないわよ」

 「僕は論外ですか?」

 「そうね。訂正するわ。2人捕まえたところで変わりないわ」

 2人で思いっ切り相手を挑発する。

 「うるさい!! 逆らおうとするなら……」

 案の定相手は逆上し、マシンガンを2人に向ける。

 「撃ちますか? けど、僕はともかくイネスさんを撃ったら問題ですよね。一番"遺跡"に近い人なんだから」

 カイトが大胆不敵な笑みを浮かべ一歩前に踏み出す。その笑みに前にいる二人は一歩下がる。

 「あら、以外と大胆ね」

 「なめるなぁ!!!」

 その一言に切れた男達は実力行使にでる。カイトもイネスの盾になるように位置を取り、懐から銃を取り出し引き金を引こうとするが、その間を割るように、いずこからとも無く銃撃の火線が走った。

 その火線に黒服達は足を止め辺りを見回そうとするが、足下に銃弾が撃ち込まれ、動きを封じられる。

 「動くな!!」

 カイト達の聞き覚えのある声とともに黒服達の背後から3人の人影が現れ出す。

 光学迷彩を解除して現れたのは、アキト、イズミ、木連の白い制服を着たサブロウタだった。

 3人+1人が隙無く黒服達に銃の照準を合わせている。

 「やっぱり、でてきたな!」

 アキトが路地の隙間から。

 「何処かの強硬派がはねっかえるのは予測済みだぜ」

 サブロウタは正面にいる黒服の後ろから。

 「説明おばさんは渡さないよ」

 背面からは珍しくハードボイルドモードのイズミ。

 「だーれが"説明おばさん"かっ!」

 怒ったイネスがイズミの方に向かおうとする。

 「一応危ない状況なので動かないでください」

 カイトはそれに反応したイネスの腰を引き寄せる。

 そのまま4人で油断無く、細い路地に黒服達を追いつめていく。

 カイトが安心したように銃を懐に収めようとすると、それを隙だと思ったのか黒服達は素早く路地に逃げ出していった。

 アキト達はそのまま見送る。

 「ほっといていいんですか?」

 「やめときな。あんたもほっておくつもりなんだろ」

 カイトの質問にサブロウタが答える。

 「う〜ん、追いかけるのも面倒ですしね」

 「おいおい、違うだろ。下手に捕まえたらやっかいになるだけさ。それに今は和平交渉の真っ最中だろ。どっちかが抜け駆けしようとしたのが明るみになったら、また戦争さ」

 「それにどちらの陣営かはもう見えたしね。しかも、こんなものまで用意して」

 歩み寄りながらイズミが言う。その手には変声機が握られている。これでユリカの声を出し、イネスを誘ったのだろう。

 皆銃は降ろしているが、周りへの警戒は怠っていない。

 「あの身のこなし……火星の低重力になれていない。地球側ですね」

 「さすが、火星出身者」

 「お見事」

 二者二様の賞賛をアキトに送る。

 「けど、よくここまで都合よく護衛してましたね?」

 「カイトが寝坊している間に決めたんだよ。タカスギさんは、木連側から代表されて俺達の護衛。セイヤさんじゃないけど、こんな事もあろうかってね」

 苦笑しながらアキトが説明をする。

 「しっかし、おまえさんの身のこなし。いつ撃つんじゃないかとはらはらしたぜ。さて、もう今晩は襲ってこないだろ。皆さんを追いかけてメシにしようぜ、メシメシ」

 サブロウタは言いたいことを言って、先頭を歩き出す。

 「僕の身元証明の説明の時から何となく思ってましたが、すっかりなじんでますね、サブロウタさん」

 「類は友を呼ぶって事じゃないかしら? で、いつまで手を回しているのかしら?」

 そのイネスの一言で思い出したのか、すっとカイトはイネスから離れた。

 「様になっているわね……」

 イネスは白い目でにらむが、頬が赤い。

 「その、あの……非常事態でしたし。早く行かないとみんなに全部食べられちゃいますよ」

 「お〜い。なにしてるんっすか?」

 サブロウタの呼びかけにカイトは助け船に乗り遅れんと走って追いかけ、アキトは苦笑し、イネスはやれやれと肩をすくめた。





 その現場より500mほどはなれたビルの上。

 数人の人影がカイト達のいた場所を見ている。

 「今が好機かと思われますが……」

 「焦って地球人の猿どものまねをする必要はない」

 「ですが、ナデシコの連中も今の襲撃で油断しているはず」

 「甘いな。未だ警戒心は解いておらんよ」

 「……わかりました。ならば、いかなる策を?」

 その言葉に納得しないような口調でたずねる。

 「やつらは度がしがたいお人好しよ……今は機をうかがう。それまでに奴らと猿たちの監視を怠るな。散っ」

 その一言で隊長格の1人を残し気配が消えた。

 「……」

 しばらくその場を見ていたがすぐにその気配も消えた。





 「くっくっくっくっ。"都市"に関して何かわかるかと思えば……作られしモノか……」

 闇はそう呟くと、闇の奥に消えた。





 その後、退屈な会議は進展もなく2日続いた。

 その間ナデシコクルーといえば、退屈に任せて寝るものや、同人誌を書き出すもの、なんだかわからないマシンを取り出して改造し始めるなどやりたい放題。ついでに"朱交われば、赤くなる"のいい例か、サブロウタも居心地の良さを感じ、一緒にさわいでいた。

 それもそのはず、双方自己の主張ばかり。地球代表ミスマル提督と木連代表のアキヤマ・ゲンパチロウらが必死に冷静さを保って会議を進めようとするが混迷を極めていた。

 それに業を煮やしたのか、理性的判断なのか、それとも冷静に会議を進めるのを諦めたのか、ミスマル・アキヤマ両名の発案でナデシコクルーには新地球連語の名の下に調査団の一員として火星極冠遺跡へ向かいプレートの謎を解明せよと命令が下された。












 雑談会その7

 ひ〜ろ:驚異的なペースで完成した第7話。これからもこのペースで行けばいいですね。

 イネス:それは無理ね。たまたまでしょう。

 ひ〜ろ:現れたな。魂の説明おばさん!!

 イネス:だれがおばさんじゃ!

 ひ〜ろ:まあまあ。せっかく出てきてなんですが。イネス・フレサンジュ博士、カイトの過去についてわかってることを説明してもらえませんか?

 イネス:よろしい。説明しましょう。

 ひ〜ろ:(猫にマタタビならぬ、イネスに説明だな・・・)

 イネス:これから説明するのは、今いるカイト君の過去と思われる人物『ミナヅキ・カイト』について。

 出身地は一応地球、2178年生まれと言うことになっているけど、七歳より前の記録は皆無。データバンクどころか、お役所の紙の記録にもなかったわ。

 このころ祖母のいる横浜浜松市に引っ越してきているわ。証言によればこのころイツキ・カザマとも知り合ったようね。

 無口無愛想を絵に描いたような性格だったそうよ。不思議と祖母とイツキ・カザマには愛想が良かったそうだけど。

 ひ〜ろ:質問。同一人物とは思えないほど現在のカイトは明るいのですけどどうなんでしょうか?

 イネス:それは今から説明するから黙ってなさい。

 詳細は不明だけど2年ほどたったある日から、不思議と人付き合いを始めたらしいの。そのあと本来の性格か、明るく真面目な子になったようね。

 ひ〜ろ:女たらしはどうしてなんですか?

 イネス:中学時代の交友関係にあったようよ。某先輩(当人の希望で名前を伏せる)の誘いで街へナンパをしに行ってから人生が変わったようよ。それから、中学3年の時に祖母が亡くなり、学校卒業とともに連合宇宙軍に入隊。これからが伝説の始まりね。半年ほどの研修の後、南米の方に機動兵器隊の見習いとして配属。配属当日、そこでたまたま起こった内乱を実質1人で解決。ついでに市民を盾にしようとした上官を殴って全治一ヶ月の怪我を負わせてるわ。

 ひ〜ろ:こわぁ〜

 イネス:その功績を認められたのか、何かトラブルが起きるとたらい回しに戦場を駆けめぐったらしいわ。

 ひ〜ろ:それだけの功績があったならば、軍上層部から危険視されたんじゃないですか?

 イネス:そこら辺は不明です。推測では、あくまで部隊が片付けたことになって、ミナヅキ・カイトの名は一つも出てきていない。当人もそういった権力には興味がなかった。配属がシュトゥールにたどりつくまで長くて一ヶ月、早いときには一週間で異動を繰り返して人脈を作らせないようにしたなどいろいろ想像できるわ。けど、その短い期間でも女性関係はお盛んだったらしいわ。まあ、それもシュトゥールにつくまでの話。シュトゥールに着任して一週間後、新人として入ってきたイツキ・カザマとラビオ・パトレッタ両名によりなりを潜めたらしいわ。一説には尻に引かれたと言うのがあるのだけど、まず間違えないでしょう。

 ひ〜ろ:しかし、それ以前は外道ですか?

 イネス:そうでもないみたいね。全員とはいかないでもかなりの人数の女性からアンケートを取った結果、冒頭にあるように誰も恨んでないのよ。

 ひ〜ろ:男の敵じゃん。

 イネス:ひがみね・・・

 ひ〜ろ:ち、ちくしょぉ〜〜〜。自分の作ったキャラとはいえ、むかつく〜〜〜。ばっきゃろ〜〜〜!!!(泣きながら走り去っていく)

 イネス:仕方ないわね・・・次回は「忘れ物の『ある』出発」よ。次回も私が詳しく丁寧にわかりやすく説明するわ。










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