第4話 新しい『家族』と絆 後編
かちゃかちゃかちゃ……
夕食も終わり、皿洗いをする2人がいる。アキトとカイトだ。その姿はまるで主夫を連想する。
2人の女性はと言えば、ちゃぶ台を囲って明日からどうしようか、などとくつろいでいる。
「なあ、アキトちょっといい?」
「あ、なんだ?」
2人とも洗い物をする手をゆるめずに話す。
「明日、コウイチロウさん会いに行こうと思うんだ」
「やっぱり気になるか」
「まあね。何かできるってわけじゃないけど、少しぐらい話しておいた方がいいからね」
「確かにな。たくっ、ああ言った手前だけどユリカも一言相談してくれれば、もう少しはマシだったのにな」
「ははっ。それをユリカさんの行動力に期待するのは間違えでしょ」
「だな」
肩を震わせて笑う2人。
「あと、バイトを探そうと思うんだ。誰か詳しい人を知らないかな?」
アキトは少し悩んだ後、
「セイヤさんかな。ここを紹介してもらったのもセイヤさんだし。何より、ここに長いからな。一番詳しいと思うぞ」
「そっか。なら、帰りによっていくかな」
「なら、俺が連絡を入れておくよ。セイヤさんのとこ行く予定があるからな」
「それじゃ、よろしく」
そういうと、カイトは最後の食器を綺麗に拭き終わらせた。
「はあ、いつものことがより爆発してしまったと。つまりはそういうことですね」
「そ、そうじゃな……」
コウイチロウはばつが悪いのか、カイトから視線をずらす。
「うおっほん、でだな。渡り船とはなんだが、そのままユリカを監視してくれないか?」
「は、はぃ? 監視ですかぁ? そんな必要はないと思いますけど」
「その、あのなんだな。あのような状態ではな……」
コウイチロウが言いよどむが、カイトは何が言いにくいのか想像できない。
「つまりは、男と女がひとつ屋根にいるのが心配なのよ」
いきなりふすまを開けて颯爽と現れるエリナ。
狙っていたのだろうか?
「あの。ルリちゃんもいると思うので大丈夫じゃ……」
カイトがごもっともな意見を言うが、コウイチロウはエリナの一言で妄想が飛んでしまったのか、男泣き状態である。
「頼むよ、カイト君。今頼れるのは君だけなんだぁ!!」
「泣きながら迫らないでください!! ああ、鼻水までぇ!!」
今度はカイトが半泣きになる。
さすがのこの状況にエリナの顔に縦線が入る。
「と、とにかく離れて。これじゃ、話が出来ません!!」
ごすっ
何か鈍い音がしたが気のせいだろう。ようやっと冷静になったコウイチロウが離れる。
「お、おお。すまないな。はっはっはっ」
「笑い事じゃないですよ。たくっ」
ひとまず、第2波を警戒して少し離れてカイトは座り直す。エリナも同じようなところに座る。
「で、なんで僕なんですか? ジュンさんとかいるじゃないですか」
「アオイ君はな、"いい人"過ぎるのだよ。その点、君ならこういうことは任せられる」
「な、なっとく」
頬に大粒の汗が流れる。
「それにね。私としても監視する人間が一カ所に固まってくれるのは歓迎なのよ」
「要するに、僕に断る権利はないわけですね」
はぁ、と溜息をついてうなだれるカイト。もともとアキトの所へ行くつもりだったのでいいのだが、逆にこうまで思われるとジュンほどではないとはいえ、お人好しのカイトはプレッシャーを感じる。
「この家も少し寂しくなるが、これで安心だ。はっはっはっ」
コウイチロウは少し憂いた顔をして笑う。
「コウイチロウさんも少しは意地を張るのをやめたらいいんじゃないですか? それは、ユリカさんが大切なのはわかりますが、ユリカさんの幸せを考えて、引くのも親の器量だと思いますけど」
「理屈では、わかっているつもりだよ。じゃがな、この歳まで男手ひとつで育ててきた娘をどこの馬とも知れない男にやるのはな。それにな、ユリカが君らを連れて帰ってきたときは嬉しかったものだよ。ユリカが君らを弟と娘を見るように見るのでまるで息子と孫が一人ずつ増えたような気がしたものだよ」
「コウイチロウさん……」
「しんみりしないでくれ、カイト君。これは儂が頼んだことだからな」
「本当にユリカさんが意地を張り出したら聞かないところは、コウイチロウさん似なんですね。ほんと、素直になれば"息子"が増えるのに」
「そうか、増えるか……」
場がさらにしんみりとする。
親になったことのないものには分からない気持ち。
カイトは何となく、親になったらみんなこんな気持ちになるのだろうかなと思う。
「ミスマル提督、カイト君。お話しはよろしいでしょうか」
すっかり2人に忘れられていたエリナが場を変えるように話しかける。
「あ、エリナさん。いたんですね……って、そんな怖い顔しないでくださいよ。ほんの冗談じゃないですか」
「あのね。私だって、こんな話をしているときに話しかけるほど無粋じゃないわよ」
それでもエリナは、眉をつり上げている。
ひとまず、その場はカイトがエリナにパフェをおごることで解決し、2人はミスマル邸を出た。
「エリナさん、お金がない僕にたかりますか? 仮にもネルガル会長秘書でしょ」
「それは関係ないでしょ。けど、バイトならうちにくればいくらでもギャラは保証できるのに」
まだ、未練があるのか少し気を引いてみる。
「だめですよ。事故になる可能性が高い実験は出来ませんよ」
カイトはおどけるように答える。初めてあった頃にはなかった表情だ。
「ふぅん。なら、安全になったらいいのね」
「ええ、もちろん」
このときエリナの眼がきらんっと輝いた。
「それじゃ、私はこっちだから」
「じゃ、また今度。バイトが決まったら連絡しますよ」
「期待しないでまってるわ」
エリナは微笑みながら、去っていった。
その後、カイトはウリバタケの紹介で、Piaキャロットというファミレスでバイトをすることになった。
それから一ヶ月後。
アキトのラーメン屋台も扶養家族が増えたので気合い十分なのか、徐々に軌道に乗りつつあった。
始めの頃は、美人と美少女のいる屋台などという噂に流されたミーハーな客が多かったが、今は屋台の味を好む常連客ぐらいになっている。
「ごちそうさま。おやじさん、また腕を上げたね。カイト君、明日のバイトもよろしく頼むよ」
「ええ、ありがとうございました。また、明日」
「「「ありがとうございました」」」
今夜最後の客であった、Piaキャロの店長を見送った四人は閉店準備を始める。
「たまにきてくれるけど、ほんと感じのいい人だよな。こう、なんていうのか、人の深みがあるというか。ほんと、少し年上の人とは考えられないよなぁ」
「そう言う点では、アキトさんも結構いい線いっていると思いますけど。特にユリカさんのわがままを受け止めれるのはアキトさんぐらいですし」
「そうそう。アキトはあたしの事がだいだいだーい好きなんだもん!! あたしの事ならなんでも叶えてくれる王子様なんだもん」
「ば、ばか。夜中なんだから、大声出すなよ。カイト、呆れて片づけをしない。ああ、ルリちゃんまで」
カイトは上がりを計算して、ルリは伝票を見ながら計算をしていた。
「釣り銭2万円分を引いて……31200円。これであってる?」
「えっと、ちょっとまってください……」
薄明かりのせいで伝票が読みにくく、ルリが四苦八苦していると、
「ラーメン1杯650円で、今日は48杯売れたからそれであってるよ。今日もいっぱい売れて良かったね、アキト♪」
「え、ユリカさん。全部覚えているんですか?」
ユリカは満面の笑みを浮かべながら、
「もちろん。アキトのラーメンを食べに来てくれる人たちだもの。忘れるわけないよ」
「そっか。ありがとな、ユリカ。いつも来てくれてるヒカルちゃんやセイヤさんや常連さんにもっと喜んでもらうために頑張らないとな」
アキトも笑みを浮かべる。
「うんうん。あたし達のためにも頑張ってるんだよね」
「ユリカ」
「アキト(はぁと)」
「あのぉ。お取り込み中悪いんですけど。片づけ終わったんですけどぉ……」
カイトが遠慮がちに2人に割り込む。
本当はルリに頼みたかったのだが、恥ずかしそうにそっぽを向いてうつむいているので頼めるわけもなく、意を決したのだがそれでもばつが悪い。
「んっ、ああ。悪いな」
アキトもばつが悪そうに頭を掻きながら答える。ユリカはトリップしたままだ。
「ルリちゃんもごめんね。じゃあ、そろそろ帰るか。おい、ユリカ。置いてくぞ」
「あぁん、アキトの意地悪ぅ」
そして、4人は帰るために屋台を押し始めた。
しばらく屋台を押しているとルリがふと足を止める。
「あれ、ルリちゃんどうしたの。疲れちゃった?」
ユリカが心配そうにルリの顔を覗き込む。
それにつられて、アキトとカイトも近寄る。
「別に疲れたというわけじゃないんです。ただ、河が綺麗だったもので」
昼間見てみれば何の変哲もない河。だが今は、月明かりと星明かりを浴びて波がきらきらと輝いている。周りに人家の明かりもなく、自然の光できらきらと。
「ならちょっと寒いけど、ここで休んでいくか?」
アキトの提案に誰も異論を出さなかった。
さらさらと流れる河。その波は、月と星の光を浴びて幻想的な雰囲気を出す。
4人は並んで座って、暖かい缶ジュースを握りながら眺める。
「水の音は、命の音。私が覚えている一番昔の記憶です」
唐突にルリが話し出す。
「前に話しましたよね。私とアキトさんがピースランドに行った事を」
誰に話すわけでもない様に河に視線を合わせたまま話す。
3人とも静かに聞いている。
「そこには、いい記憶はありませんでした。でも、私は知って良かったと思います」
ユリカが何かを聞こうとしたが、アキトが口をふさいで黙らせる。
カイトは聞いているのか聞いてないのか、ごろんと寝そべり月を眺めた。
「カイトさんは、もし昔の記憶が良くないものでも、思い出したいですか?」
しばし間を置いて、カイトが重い口を開く。
「どんな記憶でも、思い出したい。それが僕なのだから」
はっきりとした意志のこもった言葉。
「そっか、カイトもそっちを選ぶか」
アキトがポツリとつぶやく。その拍子にユリカの口を押さえていた手の力が緩む。
「ぷはっ。アキトひどい。あたしにもしゃべらせてよ」
「わ、わりい。けど、そんなに強く押さえてたか?」
「もぉ〜〜苦しかったんだからね」
アキトとユリカが夫婦漫才を始める。そして、笑い声が街にこだました。
クリスマスの朝。
珍しく天河家の朝は遅かった。
それもそのはず、先日のクリスマス・イブはなぜかPiaキャロットで4人揃ってバイトをしていたからである。
イブ前日にアキト達がPiaに食事に来たときにカイトがバイトの人手不足で明日は屋台の手伝いに行けないかもと言ったところ、「クリスマス・イブだからな。店長さんも常連さんだし、なんか手伝える事があったら言ってくれよ。どうせイブにラーメンを食いにくるやつなんかいないんだから」と、アキトの一言を聞いていた店長が即座にバイトを頼んだためである。
ユリカは、「ここの制服って一度着てみたかったんだぁ。ルリちゃんもきっと似合うよ」と、即決定。ルリも、「家に1人でいても退屈ですから」と言って4人でバイトをする事になった。
お客も多く、なれない3人は大変そうだったが、ユリカの抜群の記憶力、ルリの冷静な対応、アキトの調理力と即戦力ながら大いに健闘した。
その後、ささやかなクリスマスパーティーをするはずだったのだが、ささやかでなくなり大騒ぎなクリスマスパーティーとなったため帰るが遅くなり、ゆっくりとした朝になっている。
そのゆっくりとした朝の中、ルリが一番に起きた。
「おーい、朝ですよ。起きないと映画が見られませんよ」
今は午前10時。そろそろ起きて準備をしなければ1時開演の映画に遅れてしまう。
「ふぁぁぁぁぁ……おはよ、ルリちゃん」
その言葉に反応したか、ユリカが起き上がる。
「それじゃ、アキトさんを起こして下さい。私はカイトさんを起こしますから」
「うん。じゃ、ルリちゃんよろしく。ねーねーアキト。朝だよ」
ルリは布団入れの中で眠っているカイトを起こすために布団入れの下にあるメガホンを取り出し、先をカイトの耳に合わせる。
「起きろ」
ルリはたいした声を出してないのだが、カイトの身体が痙攣している。相当声が増幅しているらしい。だが、
「うぅぅ……後5分……」
カイトはそれでも眠りたいのかよほどこの拷問を受けたいのか布団を捲り上げ、寝る体勢に入る。
「カイトさん、いい加減起きないとボリューム最大にしますよ」
ルリは無表情にメガホンのボリュームをゆっくりと「致死量」まで上げる。
「起きます。起きますからそれだけは勘弁をして下さい!」
「なら、さっさと起きて下さい」
これが暗所で寝ているカイトの朝を起こし方。
そのせいか、カイトの朝の感覚は少しずれているが、基本的に寝ぎたない。
確実に起こすなら、食事の匂いと「なくなるぞ」の一言で起きる。毎日これで起こすと慣れてしまって起きなくなってはまずいからと言う理由でメガホンで強制的に起こす事になってしまった。
ともあれ、映画を見に行くために4人は急いで準備を始めた。
今日、見に来ていた映画は、あの伝説のアニメ"ゲキ・ガンガー3"。木連との和平のこともあり、にわかに息を吹き返しているアニメである。コアなファンや親子連れが多いが、ちらほらとカップルもいるようだ。でも、そこのカップル、多少は色気のある映画を見てもらいたいものだ。
「ジャシン大帝か、手強い相手だったなぁ……」
その色気のないカップル彼氏部門の代表とでもなろうか、アキトは映画の余韻に浸っている。
TV版ゲキ・ガンガーの総集編と幻の劇場版の二部構成。ファンには生唾ものである。アキトは劇場版を持っていなかったためどっぷり浸かっていたようだ。
「う〜ん……。アキト、どうしたの?」
「余韻に浸ってるの……」
アキトはまだ、しばらくは浸っているのだろう。ルリとカイトは余韻には浸ってはいなかったが、楽しんだようだ。
「それじゃあ、今のうちに」
ユリカはポシェットから、封筒を取り出して配り出す。
2人とも封筒を受け取り。不思議そうにしている。
「ユリカさん、改まってどうしたんですか?」
「まーまー。開けてみてよ」
カイトが質問している間にルリが封を切る。
「え……」
ルリが、封筒の中身を凝視したまま固まる。
カイトも封を切り中身を見る。
「
あまりの声の大きさに、余韻に浸っていた観客が一斉にカイトの方を睨みつけた。
アキトとユリカが立ち上がって周りに頭を下げていたが、カイトは封の中身、結婚式案内状を見て固まっていた。
「ばか」
「えっと、ひとまずおめでとうございます」
「おめでとう……ございます」
「2人ともありがとな」
「うんうん、2人ともありがと」
2人の祝辞に、アキトは照れるようにコーヒーを飲みながら、ユリカは喜びをいっぱい表現しながら答える。
今は、カイトが映画館での居心地を悪くしたため喫茶店で話をしている。もちろん、支払いはカイトである。
「ほんと、いよいよ。やっと決まったのよ。朝のうちに招待状は送ったんだけど、2人には特別に一番に手渡したんだよ♪」
「ふぅん、通りでアキトの顔色がここ最近治ってるわけだ。ユリカさん、ルリちゃん、知ってた。アキトが夜中ごそごそしてたの」
カイトが紅茶を飲みながら2人に尋ねる。
「えー。あたしはしらなかった」
「私は、知ってましたけど」
「ちょっとまてー。なんでそんなことしってんだ?」
アキトがあせった調子でカイトに詰め寄る。
当のカイトはいけしゃあしゃあと紅茶を飲む手をゆるませずに、
「電気消したあと10分後ぐらいしたら起きあがって、ぶつぶつ言いながら悩んでいれば誰でも気づくよ」
「ですね。始めはラーメンのことを悩んでるのかと思いましたが、プロポーズの言葉だったんですね」
ルリまでもがとどめを刺す。
「な、なんだよ。ふたりそろ……」
「うれしい。アキトはあたしのためにそこまで考えてくれてたなんて……」
アキトの言葉を遮り、ユリカが抱きつく。こうなると、アキトもこれ以上強く言えない。将来は尻に引かれるのが想像できる。
「けど、よくコウイチロウさんが納得したね。あ、おかわりをお願いします」
「お父様には、まだ話してないよ」
「今度この話をしに行くつもりなんだ」
アキトは晴れやかに言うが、ひいき目に考えてもコウイチロウがすぐさま承諾するとは思えない。
「6月10日と結婚式の日取りまで決めていて、一番の難関を解決していないなんて。どうするんだよ?」
「ですね。ミスマル提督を納得させるのにどれだけ時間がかかると思いますか?」
「それでも、納得してもらうまで根気よくするよ。認めてもらわなくちゃ、お父義さんに悪いしさ」
「だいじょーぶ。アキトなら絶対に出来るから」
「ほぉ、『分からず屋のお父様なんかどうでもいいの』って言ってたのは誰だったけな」
「もぉ! アキトのいぢわる」
アキトとユリカの間から、ピンク色の空気が流れ出す。2人の後ろの客など、コーヒーをこぼしながら固まっている。
カイトは多少慣れたのか、固まりはしなかったが顔が引き攣っていたが、ルリは平然とオレンジジュースを飲み干した。
その後、ヴァーチャルルームやウィンドショッピングなどで楽しんで帰途についていた。
ルリは、アキトとユリカの結婚式の発表にもやもやとしたよく分からない感情に包まれていた。
そのせいか、ヴァーチャルルームやウィンドショッピングはうわの空だった。
アキト達の後ろを歩いているが、歩調が遅れる。
どんっ
何か後ろからぶつかられる。
「あ、ごめん。ルリちゃんの歩調に合わせてるつもりだったんだけど」
ぶつかってきたのはカイトだった。
「どうしたんだ?」
アキトも気がついて振り向く。
「いえ、たいした事ありませんから」
ルリが少し冷ややかに答える。
そして、えも言えぬ不安感が広がる。
アキトとユリカは少し不思議そうな顔をしたが、ルリがこれ以上何も言わないので再び歩き出した。
そして、ルリも歩き出す。半歩遅れてカイトが続く。
それでも、ルリの歩調は次第に遅くなる。
「不安かい?」
「えっ?」
ルリにふと掛けられる声となでられる頭。
「安心していいと思うよ。あの2人はちゃんとルリちゃんの事を"娘"だと思ってるんだから」
「えっ!?」
驚くルリを尻目にカイトは言葉を続ける。
「不安ならさ、幸せを分けてもらえばいいじゃないか。少しぐらい、甘えたって悪くないさ。悩んで疲れても、また歩み出せるならね」
「カイトさん……」
「出来の悪いお兄さんとしては、意地っ張りな妹がもう少し素直になったらなと思うんだけど」
カイトの大きいけれど繊細な手が、ルリの頭をさらにわしわしと撫でる。
「ほんっと。出来の悪い兄ですね」
ルリは顔を真っ赤にしてうつむく。
「それじゃ、甘えといでよ」
カイトはアキトとユリカの間めがけて、ルリの背中をぽんっと押す。
予想外の行動にルリはそのまま2人の間にぶつかる。
「きゃっ。あ、あの……」
「ルリちゃんは疲れたんだってさ。支えようと思ったんだけど、先にこけちゃったみたいなんだ。ごめん。2人で支えてあげてくれないか?」
ルリがうつむいたまま表情を見せないのいいことにカイトが先手を打つ。
「そっか。ルリちゃんごめん。俺達ちょっと浮かれてたみたいだ」
「どこか痛くない。大丈夫?」
「べ、べつにだいじょうぶです……あれは」
「まあまあ、ルリちゃん無理しない方がいいよ。無理して何かあった方がみんな困るよ」
チェックメイト
「そうだよ、カイト君の言うとおりだよ。ほら、あたしがルリちゃんの右手、アキトが左手を握ってあげるから。そうすればもう安心だよ」
「さ、ルリちゃん」
アキトとユリカが同時に手を差し出す。
ルリはおずおずと2人の手を握りしめる。
今日は、カイトさんの"おせっかい"に甘える事にします。そして、私を心配してくれる2人にも。
カイトには2人の手を握ったルリの足が弾んでいるように見えた。
しばらく歩くと、今度はカイトの歩調が遅くなる。
3人の歩調に合わせているつもりなのだが、少しずつ遅れていく。
ふと、胸ポケットに入っているイツキの写真を取り出す。
ミスマル邸に居たときはフォトスタンドに入れていたのだが、テンカワ宅では、飾る場所もなく少々気恥ずかしいので、長屋を出るときに買ったジャケットの胸ポケットに入れている。
出し入れをよくしているせいか、少し角がすれている。
イツキ、君を見てるとなんと言ったらいいのか、落ち着くよ。その反面、それに甘えてる気もする。これって、過去にこだわりすぎてるのかな。これじゃ、さっき言ったことは何なんだって怒られそうだな。やっぱり、わかんないんだよ。このまま、過去を忘れて。それとも、過去を追いかけた方がいいのか……
カイトの思考が深く沈もうとすると、急に強い風が写真を吹き飛ばす。
「あっ!」
「わっ!」
「「きゃっ!!」」
カイトが手を伸ばすより早く目の前には、風でまくれ上がったふたつのスカートがあった。
「「カイト君(さん)。見てないよね(ですね)?」」
顔を赤くして、少しばかり殺気の混じった表情でユリカとルリがじりじりと詰め寄りながら迫ってくる。
「ま、まさか。白とピンクのパンティーが見えたなんて。ボクは絶対に見ていない!!!」
自分でばらしてどうする。
カイトは視線でアキトに助けを求めるが、アキトはすでに他人の振りをしてあらぬほうこうを見ている。
じりじりと下がっていくが、カイトの背中にひんやりとした感触。街灯を背にしてしまいこれ以上、下がれない。
「ちょっとまってください。僕はたまたま見ただけで……」
「「問答無用!!」」
「ぼ、僕は無実だ……がくっ」
「相変わらず何やってるのだか。あとは帰るだけみたいね……あら、これは……」
少し離れたところから、先ほどのやりとりを見ていた人は自分の足下にあったものを拾ってその場を立ち去った。
翌日、カイトは誰もいない家で、あの写真を再び手にしていた。
そこには、「元気だせ!」と、付け加えられていた。
余談だが、カイトの刑罰は一応あのビンタだけですんだようだ。誰もいなかったのはカイトをはぶしたわけではないので。
「僕は無実だ〜〜〜!!
どこまでも、根は正直者らしい。
雑談会その4
ひ〜ろ:やー。長かったな。まさか前後編になるなんて。いやはや。
エリナ:ちょっとまちなさいよ。長い割には私の登場が少ないじゃない!!
ひ〜ろ:仕方ないでしょ、あなたはP−P−・・・あれ、検閲が入ってしまった。
エリナ:・・・しらじらしい。もっとましな嘘をついたらどうなの?
ひ〜ろ:ひ、ひどい。昨日は、あんなに(ぽっ)
エリナ:何が、昨日なのかしら?
ひ〜ろ:微笑みながら、銃を突きつけるのはやめてくださぁい。私が悪うございましたぁ。
エリナ:わかればいいのよ。わかれば。
ひ〜ろ:(覚えてろ。あとでひどいめあわせてやる)
エリナ:何か言った?
ひ〜ろ:いえ何も・・・
エリナ:で。いいことがあったらしいって聞いたのだけど。
ひ〜ろ:そーそー。感想がきました(歓喜)。菅野様、ありがとー。これで、充電120%完了。ほんと、感想って嬉しい。
エリナ:あなた、風邪をひいてたのじゃなかったの?
ひ〜ろ:そーだったらしいけど、まー気にしない。気にしない。
エリナ:(そのうち死ななきゃいいけど)で、次のお話しは?
ひ〜ろ:次は、「現在より、『過去』と未来へ」
エリナ:案外まともなタイトルなのね。
ひ〜ろ:以外は余計だ。ともあれ、次回もがんばります。あと感想もまってます。厳しいご意見でもよろしいのでいただければ嬉しいです。なるべく返事も早めに出します。
エリナ:期待しないで待っていたほうがいいわよ。
ひ〜ろ:やかましい。それじゃ〜〜♪
ルリ:あ、まともな終わり方。
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