泣き顔の道化師




12月24日、この日、ホシノ・ルリはうきうきしていた。なぜなら、明日は自分の恋人、ミスマル・カイトとの初めてのクリスマスデートなのだ。ここ数年のクリスマスは忙しくて、クリスマスにデートすることなんてできなかった。だからルリは楽しみでしょうがなかった。
 プルルルルルル
その時、電話が鳴った。
「はい、もしもし。」
ルリが受話器をとると、
「もしもし、ルリちゃん?カイトだけど。」
電話の相手は自分の恋人であった。
「どうしたんですか、カイトさん。あ、明日の事なら大丈夫ですよ。」
「そのことなんだけど、・・・じつは急な仕事が入っちゃったんだ。」
「え。」
「だから、その、明日は無理なんだ。」
「そんな!約束してたじゃないですか。」
「本当にごめん。そのかわりまた別の日にデートしようよ。」
カイトはこの時、ルリちゃんならすぐわかってくれると思っていた。しかし、
「いやです。」
「え?」
「いやです!明日は絶対デートにいきます。」
「いや、だから仕事があって」
「そんなの知りません!だいたい、カイトさんはいつもそうじゃないですか!私よりも仕事を大切にして。」
楽しみにしていたデートを中止にされ、ルリは切れてしまった。
そして、言ってはいけない事を言ってしまった。
「第一、本当に仕事なんですか?」
「え、どういう意味?」
「クリスマスに他の人との約束があるんじゃないかってことです!」
この言葉にカイトも切れた。
「なんだよ、それじゃ僕が浮気してるって言いたいのかい!」
「さあ、平気で約束をやぶるような人のことは信用できませんから。」
「僕は本当に仕事なのに、その言い方はないじゃないか!」
「熱くなって、しゃべってるのが、あやしいんです。」
「ルリちゃんのわからずや!」
「嘘つきにそんな事言われたくありません!」
「もういいよ!じゃあね、ばいばい!」
  ガチャン!!
乱暴に電話を切るカイト。
電話を切られたルリは目に涙をためていた。
そして
「・・・カイトさんのバカ・・・」
ルリはその日、一晩中泣いた。

一方そのころ
カイトは街にいた。宇宙軍から帰る途中にルリに電話していたのだ。
「ルリちゃんのばか。あんな言い方ないじゃないか。」
「何、ひとり言しゃべってんの。」
急に後ろから、声がした。カイトがふり返ると、そこにはイズミがいた。
「あ、イズミさんこんばんわ。」
「こんばんわ。で何を一人でぶつくさ言ってたの。」
「それは・・・」
回答に困るカイト。それを見てイズミが一言いった。
「ルリちゃんとケンカでもした?」
「え!」
何でわかるんですかといった表情でイズミを見るカイト。
「図星か。」
そして、「ふぅ」と一息つくと、
「うちの店に来なよ。相談にのってあげるからさ。」
「え、でも迷惑じゃ。」
「大丈夫、まだ開けるには早いから。」
「え、でも。」
「いいから、ついておいで。」
そう言って、イズミは無理矢理カイトを店に連れて行った。

イズミの店はよくわからない物で飾られていた。
「飲み物はジュースでいいかい。」
「あ、そんな気を使わなくても」
「大丈夫。お金取るから。」
そういって、カイトと自分の前にそれぞれ飲み物を置くイズミ。
「で、ケンカの原因はない?」
「え、あの、その」
言うかどうか迷ったが、カイトは全部話した。
デートが中止になったこと、ルリの言葉、そして自分の言葉。
「約束をやぶったのは、確かにぼくが悪いです。でも、だからってあんな事言わなくてもいいじゃないですか。」
「確かにルリちゃんも言いすぎだね。」
「そうですよね。」
「でも、カイトくんはルリちゃんが本気でそんな事言ってると思ってるの。」
「え。」
「どうなの。」
「・・・思ってません。」
「だろうね。あの子もなんだかんだ言ったってまだ子供なんだから、頭にきて、つい言っちゃったんだろうね。ま、たまにはワガママもいいたいだろうしね。」
うつむくカイト。
「僕、最近わからないんです。」
「なにが?」
「ルリちゃんの気持ちです。」
それを聞くとイズミは自分のグラスの水を一口飲み、
「わかるわけないじゃない。」
顔を上げて、イズミの顔を見るカイト。
「わからないから、苦労するんだよ。わからないから、がんばるんだよ。それに。」
急に暗くなるイズミ。
「わかる時が来るとすれば、相手がいなくなった時さ。」
イズミの言葉を聞いてカイトは思い出した。イズミには二人の婚約者がいたが、二人とも死んでしまったことを。
「・・・ごめんなさい。」
重い空気が店を包んだ。
しばしの時間のあと、イズミが口を開けた。
「相手のことを理解する前に自分の気持ちをぶつけてみなよ。」
イズミの顔を見るカイト。そしてカイトは自分のジュースを一気に飲み干し、
「今から軍に戻ります。寝なければ、明日の分の仕事を終わらせれるかもしれません。」
「そう、がんばりなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってカイトは店を出て行った。
残ったイズミは従業員用の出入り口にむかって、
「出てきていいよ。」と言った。
「ありゃ、バレてたか。」と笑顔のエンが出てきた。
「まあね。ま、カイト君は気づいてなかったみたいだけど。」
「あいつはルリの事となると周りが見えなくなるからな。」
「ふふ」と少し笑うイズミ。
「エン、悪いけど店の前に臨時休業の紙はっといて。」
「今日は休みにするの?」
「ああ、何だか、酒を飲みたくてね。」
「そうか。じゃ、付き合うよ。」
「ありがとう。でも酒は飲ませないよ。」
「わかってるよ。」
その日、店では一日早い、二人だけの静かなクリスマスが行われた。

翌日、街中には、何組かのカップルがいた。そのうちの一組に徹夜あけでしんどそうだが、楽しそうに歩く少年と顔には出さないが、こちらも楽しそうに歩く少女の姿があった。


あとがき
 Rinさん、一周年おめでとうございます。さて、みなさん、今回のSS,どうですか。イズミの性格にたいして、色々あると思いますが、私のなかのイズミはこんな感じです。それではまた。



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