機動戦艦ナデシコ 〜The chronicle of a bond〜 |
なんだかんだあったけど、とりあえずナデシコは火星へ向かうことになった。 クルー達の士気も高くなり、とりあえずは順調、でいいのかな? 記憶喪失だと言っていたあの人。「自分を知りたい」、そう言っていた。 私も、知りたいことがある。 火星で会ったあの人は、どうして私の名前を知っていたのか。 そもそも、ここにいる人は、本当にあの人なのだろうか。 それを知る術は、今は無い。 でも、あの時の笑顔は、火星で見せてくれたものと全く同じ、優しい笑顔だった。 そのことに、何故か安心している自分に気がつく。 なんなんでしょう?この気持ち・・・・。 第参話 『水の星の鎖を断て!』 地球を、木星兵器の侵入から防いでいる第1防衛ライン。 核融合衛星が生み出すビックバリアは、地球からの脱出を願うナデシコにとっても諸刃の剣。 こんなとこで死にたくないわね。いやマジで。 <地球連合作戦本部、総司令部大会議場> 『明けましておめでとうございま〜す!』 「「「「オオォ――――ッ!」」」」 ナデシコ討伐の作戦会議をしていた会議場が、突如入った通信に、にわかに盛り上がる。 モニターにはユリカが映っている。何故か振袖姿で。 『艦長、何か混乱しているようだが・・・・。』 珍しくフクベが慌てている。まぁ、相手が相手だけに無理もない。 『外人さんには日本語分かんないし、愛嬌出した方が・・・・。』 「君はまず、国際的なマナーを学ぶべきだな。」 唯一、正気でいた地球連合総司令官が、ご丁寧にも日本語で答える。 ちなみにその後方では、人々が口々に「フジヤマーッ!」だとか「ハラキリーッ!」だとか「ゲイシャーッ!」だとか叫んでいた。(ところで、外国人が覚える日本語って、どうしてこういうのばかりなのだろうか。) 『え?あら、ご挨拶ど〜も。せっかくですけど時間がありませんの。』 モニターが変わり、地球とそれを囲んでいる防衛ラインの図が出される。 『私達3間後に地球をでたいんですけど〜。このままだとバリア衛星を破壊しなくちゃいけないの。ナデシコも傷ついちゃうしぃ〜。で、悪いけどビックバリア一時開放してくれると、ユリカ感激ぃ!』 会議場の歓声が、一層盛り上がる。 「ビックバリアを開放しろだと!ふざけるな!」 総司令官の怒鳴り声。 『だったら無理やり通っちゃうもんねぇ〜。』 頬を膨らますユリカ。総司令官の額に青筋が浮かんでいく。 「これではっきりしたな・・・・。ナデシコは地球連合軍の敵だ!」 「あらそう。では、お手柔らかに・・・・。」 ユリカの不敵な笑みと共に、通信が切れる。 「ナデシコ・・・・。絶対に、許さん・・・・。」 未だ騒がしい会議場の中、総司令官の背後から黒いオーラ立ち上っていた。 <ナデシコ、ブリッジ> 「と、いうわけで、駄目でしたぁ〜♪ってあれ、みなさん?」 誰もが唖然としている。当たり前だが。 「あれが・・・・交渉ですか?」 「完全に喧嘩売ってたよね。」 「バカ・・・・。」 「っていうか。艦長って、交渉向きの性格してる?」 「まぁ、予想はしていた事だが・・・・。」 「「「「ハァ・・・・。」」」」 結局、当初の予定の強行突破となった。 地球には、木星蜥蜴侵入を警戒するため、各種飛行兵器の活動範囲に合わせた7つの防衛ラインが引かれている。 外から順に 第1防衛ライン(高度35786km)=バリア衛星によって展開される空間歪曲バリア。 第2防衛ライン(高度30000〜500km)=各種無人武装衛星による迎撃。 第3防衛ライン(高度400km)=有人宇宙ステーション、およびそこから発進する宇宙戦闘機部隊による迎撃。 第4防衛ライン(高度200km)=地球発進のミサイルによる迎撃。 第5防衛ライン(高度100km)=地球発進の宇宙船部隊による迎撃。 第6防衛ライン(高度50km)=地球発進のスクラムジェット戦闘機部隊による迎撃。 第7防衛ライン(高度25km)=地球発進のジェット戦闘機による迎撃。 となっている。 「このうち第6、第7防衛ラインは、ナデシコがこのまま上昇すれば、まず間に合わないでしょう。加えて軍がナデシコ討伐のため、大規模な行動を起こしたため、木星蜥蜴がそれに刺激されて、世界各地で戦闘が発生。これにより、第5防衛ラインの妨害もありません。」 「そして、現在第4防衛ラインを突破中、ってわけね。」 カイトの報告にミナトが付け加える。 艦の外には、地上から発射されたミサイルの群れが見える。 「もっとも、ディストーション・フィールドがありますから、多少の衝撃はありますが、この程度では墜されることはありません。よって問題は、第3防衛ラインより上ってことになりますね。」 「めんどくさいねぇ。一気に宇宙へ出られないの?」 メグミの疑問に、カイトが苦笑いをする。 「そうできればいいんですが・・・・。」 ルリが前に出る。 「地球引力圏脱出速度は、秒速11.2km。そのためには、ナデシコのメイン動力である相転移エンジンを臨界まで持っていく必要があります。」 「ですが、相転移エンジンは、真空をより低位の真空へと相転移することでエネルギーを得る機関なので、より真空に近い状態じゃないと、臨界点には来ません。」 ルリとカイトの説明により、納得するメグミ。ユリカがそれに続ける。 「相転移反応の臨界点は高度2万キロ。だけど、そのためには第3、第2防衛ラインを突破しなければならないから・・・・キャッ!」 ミサイルによる衝撃に、慣れない振袖のせいか、ユリカが派手に転ぶ。 太股まであらわになったその姿に、男一同、揃って顔を赤くするが、ブリッジ三姉妹の冷たい眼差しに、慌てて気を取り直す。 「ゴホンッ。着替えてきたらどうかね。」 「あ、は〜い、分かりました。でもその前に・・アキトにこの姿見せに行こ〜っと♪」 器用に起き上がり、振袖姿とは思えない速さで、ユリカはブリッジを去っていった。 「やれやれ、いつもこんな調子ね、ウチの艦長は。」 「だが、第3、第2防衛ラインは確かに厄介だ。」 むっつり顔のゴートの言葉に、プロスペクターが答える。 「そうですなぁ。第3防衛ラインで時間を食いすぎると、第2防衛ラインの攻撃も相俟って、少々面倒なことになりますし。それに・・・・。」 「それに?」 「気になる情報が入ったんですよ。第2防衛ラインの方で、何か動きがあったのどうの、と。それで、アークさん。」 「はい?」 今まで黙っていたアークに話を振る。 「あなたに、第2防衛ラインの状況を確認し、あわよくば無力化してきてほしいのですが。今、ナデシコにある戦力で、それが可能なのはあなたの機体だけなので。」 「つまり、強行偵察及び、ルートの安全確保ってことですね。了解しました。」 「そんな。たった一機じゃ危険すぎますよ!」 カイトが抗議する。 「カイト、大丈夫だ。」 「しかし・・・・。」 「心配いらない。俺のことより、お前はナデシコの防衛の方を考えろ。プロスさん、その代わり、B型の装備を使わせてもらいます。」 「B型・・・・なるほど、あれの強化型重力波ユニットなら、かなりの距離は持つな。」 「しかし、G・Bの方は、まだ未完成では?」 「今回の任務では、使うことはまずないでしょう。万が一使うことになっても、一発くらいなら大丈夫なはずです。元々、データ収集用の機体とパーツですし。」 「分かりました。あとは艦長の判断を・・。」 「その艦長ですが、テンカワさん達の部屋に着いたようです。」 艦内状況を見ていたルリが口をだす。 「あらまあ、早い。」 「さっきから、2分とたってないよね。」 「理論上は可能です。最短距離を時速18kmで移動すれば。」 「よくやるわねぇ、あの姿で・・。」 「ア〜キ〜ト♪・・・・あれ?」 返事がない。その代わりに奥から嗚咽が聞こえてくる。 「・・・・?」 気になったユリカが様子を身に行くと・・・・そこには、 アキトとガイがいた。ただし、アニメ「ゲキガンガー3」を見ながら、涙を流し、互いに抱き合った状態で・・・・。 「アキト・・・・何やってるの?男同士で・・・・。」 さすがに引くものを感じながら、ユリカが尋ねる。 「ううぅ・・・・。ジョーが・・俺のジョーが・・それにゲキガンガーが・・うぅ、死んじまったんだよー!」 「おおっ!分かってくれるか、同士よ!」 画面の方ではゲキガンガーのパイロット二人が、戦友の亡骸を抱えたまま、彼ら同様豪快に泣いている。 「ありがとう!こんないいもの見せてくれて、本当にありがとう!」 「アキト!」 「ガイ!」 さらにきつく抱き合う二人。 「ハァ、私の方が絶対にいいのに・・・・。」 「・・・・『漢の友情』ってやつか?」 「バカ・・・・。」 呆れるアークとルリの隣で、カイトがボソッとつぶやく。 「でも、このアニメ面白そう・・・・。」 「「・・・・マジ?」」 <ナデシコ、格納庫> 「おう、アーク。B型への換装、終わったぞ。しっかし、あのG・Bってやつ、本当に使えるのか?危険極まりねぇぞ。」 「まだ使うと決まったわけじゃありませんよ。切り札みたいなものです。」 「ちっ、いいとこばっか持っていきやがって・・・・。」 不満たらたらのガイ。待機命令がでたため、彼もこちらに来ていた。 アークは彼を見ると、無言でそちらに歩いていく。 近づいてくるアークに、前回の件のせいか少々逃げ腰になるガイ。アークが彼の前で立ち止まる。 「な、なんだよ・・・・。」 「足の方は大丈夫なのか?」 予想しなかった言葉に、驚くガイ。 「あ、あぁ。痛み止めが効いているから、一回の戦闘くらいなら大丈夫だってよ。」 「そうか。」 ゆっくりと右手を差し出す。身構えるガイ。 「頼みがある。」 「へ?」 「艦を・・・・ナデシコの方を、よろしく頼む。」 呆然と、差し出された手と彼の顔を交互に見るガイ。やがて笑顔になり、 「あったぼうよ!このダイゴウジ・ガイ様にまかせときな!」 そう言って、右手を出してきつく握る。 静かに、アークは笑った。 「こちらアーク。発進許可を。」 カイトのウィンドウが出る。 『了解。発進を許可します。・・アークさん、気をつけて。』 「あぁ。アーク、出る!」 「行っちゃいましたね・・・・。」 ルリがカイトに話しかけた。 「そうだね・・。」 「不安じゃ、ないんですか?」 「そんなことない、確かに不安だよ。でも、信じてるから。」 「信じる・・?」 「そう、あの人を信じてる。あの人は・・強いからね。」 一年。けっして短いとはいえない時間を、カイトはアークと過ごしてきた。だから、信じられる。あの人なら大丈夫だ、と。 「信じる・・。」 二人が再び見るモニターには、上昇していくアーク機の姿があった。 「隊長、ナデシコから上昇していく機体一。」 「かまうな。ナデシコを抑えれば、機動兵器は無力だ。全機、目標・・ナデシコ!」 「「「「了解!」」」」 (ユリカ・・・・。) <ナデシコ、ブリッジ> 「第3防衛ライン、デルフィニウム、九機接近。」 「エステバリス、発進して下さい。」 『よっしゃあ、行くぜ!オラオラオラオラオラー!』 「あれ、ヤマ『ダイゴウジ・ガイだ!』ダ、ダイゴウジさん。アキトさんは?」 『あぁ。あいつなら、まだ部屋でうるうるしてるぜ。ま、無理もねぇわな。』 「うるうる?」 「モニターに出します。」 『うぅ・・・・俺のジョーがぁ・・・・。』 アキトはまだ部屋で泣いていた。アニメを見ながら、膝を抱えて・・。 「・・・・バカ。」 「アキトさん、出撃ですよ。早く格納庫へ。」 『え?あ、あぁ。分かった。』 名残惜しいのか、しきりに画面を気にしながら、アキトは部屋を出て行く。 「僕も出るか・・・・。」 ガイのウィンドウが突然モニターに開く。 『その必要はないぜ!そこで俺様の活躍をじぃ〜くりと見てな!ヒーローの戦い方をたっぷりと見せてやるぜ!』 そう言って、敵機へ突っ込んでいくガイ。 「すごい気合ですね、ヤマダさん。何かあったんですか?」 「さあ?」 「でも、九対一か・・・・大丈夫かなぁ。」 メグミが、九の点に近づきつつある、青い光点を見てつぶやいた。 「オモイカネ。勝てそう?」 《99%無理。》 「残りの1%は?」 《射撃戦。回避運動の多用が条件。》 『艦長大変だ!あのバカ、何にも持たずに出ちまった。』 「「「「・・・・・・・・。」」」」 「残りの1%も消えたみたいですね。」 「僕も出よう・・・・。」 『諸君、心配御無用!』 聞こえていたらしく、またガイから通信が入る。 『うおぉぉぉぉ―――!』 ガイ機が敵機の直前で、いきなり急降下。デルフィニウム全機がそれを追う。 『今だーっ!博士、スペースガンガー重武装タイプを出してくれ!』 『だーれが博士だ。それに、ガンガーなんてものはウチにはねぇよ。』 「多分、B1タイプの事じゃないですか?」 B1タイプ、主に要塞攻略や威力偵察時に使用される重機動フレームである。 『そう、それそれ。頼むぜ博士。』 『仕方ねぇ・・・・。B1タイプ、射出してやれ。』 博士=ウリバタケの指示で、B1タイプが射出されていく。射出されたB1タイプは急降下を続けるガイ機へ真っ直ぐに向かっていく。 『よっしゃあ!来るなら来やがれ、キョアック星人ども!・・・・・・・・今だ、ガンガァァァァ・クロォォォォ・・・・。』 ドカ――ン! キョアック星人=デルフィニウムの攻撃で、B1タイプが木っ端微塵になる。 「・・・・だろうね。」 「引き付けて一気に墜すつもりだったみたいですけど、意図が相手にもバレバレでしたからね。」 「あのー、もしかして作戦失敗ですか?」 『な、なんの!根性〜!』 身を翻し、ガイ機がデルフィニウム達に急接近する。 『ガァイ・スゥゥパァァ・ナッパァァー!』 ディストーション・フィールドで包んだ拳で、デルフィニウムの一機を貫く。 パイロットが脱出し、機体が爆発。 『よっしゃあ!こいつはいけるぜ!なぁーはっはっは・・・・!』 ガイ機の周りを、残ったデルフィニウム達が旋回する。 「ヤマダ機、完全にかこまれました。」 「・・やっぱり出るよ。」 「・・そうして下さい。」 「艦長。デルフィニウムから通信入ります。」 『・・・・ユリカ、僕だ。』 「どういうことだ・・?」 上昇していくアーク機。第2防衛ラインに入っているのだが、ミサイルによる迎撃がない。 【武装衛星確認、数八。】 機体のAIが報告をする。 「八?当初のデータの倍以上だと?一体何が・・・・。」 【エネルギー受信可能エリアを越えました。補助バッテリーに移ります。】 「考えている時間はないか・・。」 武装衛星の一つにライフルを向ける。 【右、デルフィニウム三機。】 「! こんな所に偵察隊!?」 【ミサイル接近。】 「くっ・・・・。」 爆音が響いた。 『ユリカ、最後のチャンスだ。ナデシコを戻して!今なら、僕とミスマル提督で軍部を説得出来る。僕は君とは戦いたくない!』 「ジュン君・・・・。」 「臨界ポイントまで、あと19650km。」 ルリからの報告が入る。 「どうします?艦長。」 ユリカの顔が、凛としたものに変わった。 「ごめん、ジュン君。私、ここを動けない。私、ナデシコで火星に行くって決めちゃったから。それに・・・・ここが、私の居場所。私が、私らしくいられる場所だから。」 (・・・・私の居場所、か。) 胸に手を当てるルリ。 モニターには、愕然とするジュンの顔がある。つらそうに唇を噛んでいる。 『僕と・・戦うって言うのか・・・・。・・・・そんなに、アイツがいいのかい?』 「え?」 『分かったよ・・・・。では、まず、このロボットから破壊する!』 『くそー!離せー!』 そこには四肢を二機のデルフィニウムにがっちりとホールドされたガイ機がいた。 ジュンがそれに向けてロックオンする。 「やめろー!」 ナデシコから一機の空戦フレームが飛び出して来る。 「! テンカワか!」 「・・本命はこっちですよ。」 「何!?」 いつの間にか、ガイ機の背後にカイト機がいた。 カイト機は大型イミディエット・ナイフで、ガイ機を掴んでいるデルフィニウムの腕を切断。ガイ機がそこから抜け出すと、そのまま機体を横に回し、二機のデルフィニウムをそれぞれ水平切りにする。 「アオイさん・・・・。何故、あなたが・・?」 「そうだよ!この間まで仲間だったんだろ、俺たち!」 「くっ・・あくまで僕の前に立ち塞がるというのなら・・・・。僕と戦え!テンカワ・アキト!」 「!!」 「やったか?」 「あれだけのミサイルを撃ち込めば、間違――。」 「? おい、どうした!?」 ガコンッ! 「!!」 一機のデルフィニウムの上に、紺碧色のエステバリスが取り付き、ライフルを構えている。他の機体は既に撃墜されていた。 「相手が悪かったな。」 「こ・・紺碧色の機体・・・・。ま、まさか、D.Pファントム!?」 「・・・・聞きたい事がある。」 「やめろよ!お前絶対勘違いしているって!俺は戦う気はない!」 「うるさい!ユリカを守るナイトは僕だったんだ!それが・・。」 「待てよ!俺はユリカとは、別に何も・・・・。」 「信じられるか!それに、今はそんな事は関係ない!」 「だったら、何故・・・・。そんなに・・そんなに戦争したいのかよ!」 殴りかかるアキト機。ジュンのデルフィニウムの腕がそれを受け止め、そのまま高度を上げていく。 「くぅ〜っ!燃えるぜ!男と男の戦いはこうでなくっちゃな!」 「ダイゴウジさん、よそ見しないで。数ではこっちが不利なんですから。」 そうは言いながらも、この会話の間に二人はそれぞれ一機ずつ撃墜している。 (おかしい・・。敵の戦力はこれだけか?先までの戦闘から、軍の方も正攻法でナデシコに勝てるとは考えていないはずだけど・・・・。ということは!) 『本艦後方、デルフィニウム、五。』 「やっぱり伏兵か!ダイゴウジさん、ここは任せます!」 「おうよ!任せときな!」 急加速をかけるカイト機。 「全機、ナデシコのエンジン部に攻撃を集中。ただし、破壊はするなよ。」 「「「「了解。」」」」 「させるかー!」 加速状態のまま、頭部バルカンを連射するカイト機、一機を撃ち抜く。 「くっ、散開しろ!」 残ったデルフィニウムが四方に分かれる。 「ちぃっ・・・・。」 「僕は、この手で地球を守ってみせる。正義を貫いてみせる!一時の自由で、その誇りを・・忘れたくない!!」 「くっ・・バッカヤロー!!」 アキト機の渾身のナックルがヒット。引き剥がされるジュンのデルフィニウム。 その直後、アキト機が突如活動を停止する。 「あれっ?あれあれあれっ?・・動かない?」 「こっちもエネルギー切れだぁ・・。」 ガイ機も同様だった。 「テンカワ機、ヤマダ機、共にエネルギーライン有効範囲外です。」 「カイト君は?」 「本艦後方で残ったデルフィニウムと交戦中。」 「第2防衛ライン、射程範囲内に入ります。」 「エンジン臨界ポイントまで、あと15000km。」 「今、ミサイルが来たら避けきれないわね〜。」 「さて、アークさんは上手くやってくれましたかな・・?」 「この状況を説明してもらおうか。当初の配置から、かなり変わっているようだが?」 「そ、総司令部からの命令だ。ナデシコを絶対に逃がすな、と、総司令官直々に。」 「(艦長・・墓穴掘ったな・・。この数じゃ拿捕というより撃墜だぞ。)どうやら、目標をナデシコだけにロックしてあるようだが、発射予定距離は?」 「こ、高度8000km。」 「(まずい、時間がない。)なるほど、協力感謝する。では、機体を捨てて脱出しろ。・・・・死にたくなければな。」 「くっ・・・・。」 パイロット脱出の一瞬後、ライフルがデルフィニウムを撃ち抜く。 【武装衛星に動きあり。】 「何?しまった!」: アークが機体を振り向かせるのと同時に、無数のミサイルが発射されていく。 「くっ、緊急用のブースターを作動!同時にG・B、スタンバイ!」 【ラジャー。グラビティ・バスター、スタンバイ。】 「武装衛星からのミサイル、発射されました!すごい数です!」 「何!?失敗したのか・・・・!?」 「エンジン臨界ポイントまで、あと10000km。」 「回避は?」 「ダメ、出来ない!」 ナデシコの正面に、両腕を広げたジュンのデルフィニウムがはだかる。ただし、その前面は、迫り来るミサイル群の方を向いている。 「アオイさん?!」 残ったデルフィニウムを撃墜したカイト機が振り向く。 「あのヤロー、ミサイルの盾に・・!」 動けないガイ機。 『ジュン!』 ユリカの叫び声。 「やめろー!」 同じく動けないアキト機。 「くっそー!」 カイトが間に合わないと分かっていながらも、機体を加速させる。 「ずっと・・分かってたさ・・。正義の味方なんかになれやしなかった。軍隊と戦争しているだけだって・・。そこに正義なんてあるものか。ユリカ・・僕は最初から、こうなりたかったかもしれない・・。君を守るためなら・・ここが僕の居場所だったんだ・・。」 「だったら、帰って来いよ。ナデシコへ。」 「「「「え?」」」」 「しっかりつかまっていろよ!」 ミサイル群を追い越して、紺碧色のエステが姿を現す。そして、その勢いのままジュンのデルフィニウムを蹴りつける。 「うわあぁぁ――っ!」 ナデシコの方へと飛ばされていくジュン。三機の空戦エステがそれを受け止める。 「き、君達・・・・。二人の方は動けなかったんじゃあ・・?」 「ナデシコの方が追いついて来たんだ。それで、エネルギーが戻ってきてね。」 「そうか・・・・。! それより、ミサイルは!?」 【グラビティ・バスター、スタンバイ完了。】 アーク機の右腕に、腰に装着してあった大型の銃身がある。 「チャージ開始。」 背部重力波ユニットにあるリフレクターがY字型に展開し、中心部にエネルギーが収束していく。そして収束されたエネルギーが、ユニットを通じて銃身へ流れていく。 ミサイルが目前に迫る! 【チャージ完了。】 「いけっ!」 銃口から黒い閃光が放たれた。 それは発射されたミサイルを全て飲み込みつつ上昇。武装衛星までも何機か巻き込み、第1防衛ラインのビックバリアに突き刺さっていく。 「ビックバリア、出力20%減少。」 「すっご〜い。」 「ふぅーっ。危機一髪でしたな。」 「しかし、あれだけの威力があるとは・・。」 (だが、まだまだ改良の余地ありだな・・。) 銃身は融解しており、あちこちがショートしている。機体も同様で、出力が半減していた。 もっとも、機体もパーツも強度には細心の注意を払って設計してあるため、幸いにも爆発までには至らなかった。 「全員、無事のようだな。よし。帰還する。・・アオイもな。」 「えっ?でも、僕は・・・・。」 ジュンはチラリとブリッジのウィンドウを見る。 ウィンドウの中のユリカは、ジュンをじっと見つめた後、微笑む。 「私、ジュン君が来てくれたら、心強いな。」 「ユ、ユリカ!」 こうして、アオイ・ジュンはナデシコへと戻った。 ルリがその様子を見て、「大人って単純・・・・。」とつぶやいていた。 <ナデシコ、ブリッジ> 「相転移エンジン臨界ポイントまで、あと300・・250・・200・・150・・。」 『きたきたきた〜!エンジン回ってきた〜!』 「全機収容を確認。ディストーション・フィールド、最大へ!」 「全員、衝撃に備えて。」 ナデシコがビックバリアにぶつかる。 少しの間、こう着状態になるが、先のアークの射撃の影響もあり、たやすくビックバリアを突破。これにより、地上では大規模のブラック・アウト現象が起こり、軍による追撃は全く不可能となった。 「と、ゆわけで。」 ブリッジにパイロット達が入ってくる。 「アキト、お帰り!」 すかさずアキトの前に走り寄り、その手をとるユリカ。 「ありがとう、アキト。ユリカの友達を傷つけないでいてくれて。」 「い、いや、別に、お前の友達だからって助けたわけじゃ。」 「ううん、分かってる。アキトが優しい男のコだってこと、私、ぜ〜んぶ知ってるんだから。」 「ユ、ユリカ、僕は・・・・。」 いてもたってもいられなくなったのか、ジュンが口を開く。 「ジュン君も、友達として私の事心配して来てくれたんでしょ。やっぱり、持つべきものは心優しき友達よね。」 「友達・・・・。」 「お友達宣言」ここに樹立。なんともシラけた空気が場を漂う。 「ま、まぁ、元気出せよ。副長やっていれば、何か機会があるかもしれんぞ・・な?」 ジュンの肩に手を置くアーク。彼にしては珍しいセリフだ。 隅の方で、カイトがブリッジ三姉妹にささやく。 「(ひそひそ)アークさん、ああ言ってますけど、内心大喜びなはずですよ。プロスさんに、アオイさんの代わりに副長やるよう、頼まれてましたから。」 「えっ?じゃあ、さっきジュンさんを誘ったのって、そのため?」 「意外に、汚いんですね。」 「う〜ん、分からないでもないけどね。あの艦長のサポート役なんて、私だってゴメンだし・・・・。」 「そこ、何か言ったか?」 「「「「いーえ。」」」」 「まぁまぁまぁまぁ!生きてりゃ、そのうちいいことあるって!」 やたら上機嫌でガイが割り込む。 「? 何です、それ?」 ジュンがガイの持っている束に目をやる。 「ん?これか?」 「あ〜っ!ゲキガンシールだ!」 アキトが目を輝かす。 「六機も倒したんだぜ。俺のスペースガンガーに貼らないと。」 「いいなぁ・・・・。」 いつの間にかカイトも近くに来ていた。 「ん?何だ、カイト。お前の興味あるのか?・・よ〜し、お前にゃ助けてもらったし、特別に一枚やる。」 「え!?いいんですか!?」 「特別だぞ、ト・ク・ベ・ツ。」 「ありがとうございます!」 ・・・・伝染者、一名増加。 「じゃ、この後、俺の部屋で上映会でもやるか!」 「「お〜っ!」」 「おい、アーク。お前も・・って、あれ?」 身の危険を感じたのか、ブリッジから去ろうとしているアーク。 「機体の整備があるから、またな・・・・。」 「「待てよ(待って下さいよ)。」」 ガシッ。 アキトとカイトが、瞬時に両側からアークの腕を掴む。 「お、おい・・・・。」 「まあそう言うな。特別に第1話から、俺様の解説つきで見せてやるから。全39話、燃え燃えだぜ〜。」 後ろからガイが取り付き、三人でアークを引きずっていく。 「ちょ、ちょっと待――。」 プシューッ。 ドアが閉まった。 「・・・・ハァ。結局、みぃ〜んなバカばっか・・・・。」 <ナデシコ、格納庫> 「さぁ〜てっと。さっさと貼って、上映会開かないとな。ど〜こに貼ろうかなぁ〜♪・・ん?あれ?おい、ちょっとあんたた――。」 「「!!」」 「? どうした、二人とも?」 「アークさん。」 「ああ、格納庫の方だ。」 二人が走りだす。 「お、おい!」 アキトがそれを追う。 格納庫で三人が見たもの、それは・・・・ 「ガイ!」 「ダイゴウジさん!」 胸に銃創を負い、おびただしく出血したまま倒れている、ガイの姿だった・・。 (シャトルが一つ無い?まさか・・・・。) 「ブリッジ、至急、医療班を。それと、営倉の方を調べてみてくれ。」 『了解。・・・・・・。誰もいません。もぬけの殻です。』 「くっ・・・・。」 「ガイ、ガイ!・・・・何か言えよ。・・・・何か言ってくれよ!ガ―――イ!」 数十分後、彼の死亡が確認された・・・・。 2日後。 <テンカワ・アキトの部屋> 「入るぞ・・・・。」 ドアがスライドし、アークとカイトが入ってくる。 部屋ではアキトが、体育座りで呆然とガイの遺品、「ゲキガンガー3」を見ていた。 「・・・・まだ、落ち込んでいるのか。」 「まだ・・・・だって?」 アキトが立ち上がり、怒りの表情でアークを見る。 「ガイは・・ガイは死んだんだぞ!それなのに、誰も・・誰も・・。」 あれから、ガイの葬式が行われ、艦内は平穏を取り戻していた。それが彼には理解できなかった。 「みんな、人が死んでもどうでもいいんだろ!お前たちだって・・・・。!」 突然、アークの拳がアキトの顔に飛ぶ。壁に叩きつけられるアキト。 見ると、殴りつけたアークの手には何故か包帯が巻かれており、傷が開いたのか、血が滲んでいた。 「・・・・そうやって、ずっと一人で甘えてろ。」 そう言い残し、アークは部屋を出て行った。 「・・・・アキトさん。」 「何だよ・・・・訳分かんないよ・・・・。」 戸惑いを見せていたカイトの表情が、何かを決意したよう、急に厳しいものになった。 「アキトさん。アークさんの異名、知っていますか。」 「・・・・D.Pファントムだろ。敵の壁をくぐり抜ける、紺碧の亡霊。軍のニュースでよくやっていたよ。・・それがどうかしたのか?」 「・・あの人が、何でそんな戦い方をするのかは、知っていますか。」 「・・・・・・。」 「昔、あの人に尋ねたことがあるんです。そうしたら、あの人は笑ってこう言いました。『その方が味方の被害が、死人が少なくてすむだろ。』って。」 「!」 「あの人は、本当は、他人の死を誰よりも嫌うんです。あの手だって、葬式の後、トイレで鏡を何度も殴りつけて・・・・。」 「みなさんだって、何気ない振りしてても、本当は心のどこかで病んでるんです。よく、それを繰り返して人は大人になるって軽く言うけど、つらいものはつらい。だから、せめて彼を、ダイゴウジさんのことを忘れないよう、自分の胸に閉まいこむんです。彼が生きたという証、それを、自分自身の大切な思い出として。そうして、みんな、前を向いて生きるんです。」 「カイト・・・・。」 「アキトさん、あなたは何をやっているんです?確かに、彼のことを一番悲しんでいるのはあなたかもしれない。でも、死者は甦らない。例え、どんなに悲しんでも・・・・。生きている僕らが出来ること。それは、彼の分まで生きて、自分が出来る事をすることなんじゃないですか?」 「・・・・・・。」 「あなたは、それすらしようとしない。後ろを向いたままメソメソしているだけだ。それで彼が報われますか?あなたは、ただ甘えているだけにすぎないんですよ!」 うつむくアキト。 カイトは、ゆっくりアキトに近づき、肩に手を置く。アキトが顔を上げる。 「アキトさん。強くなりましょう。戦争をするためじゃない、悲しみを忘れるためでもない。ただ、自分のしたい事、自分が探しているものを見つけるために。強く・・なりましょう。」 「カイト・・・・。」 グウゥゥゥ。 二人の腹が同時に鳴る。 「ハハッ・・。お腹、空きましたね。何か食べに行きましょう。」 苦笑するカイト。つられてアキトも笑顔になる。 「そうだな。食堂に行こう。何か作ってやるよ。」 部屋を出て行く二人。途中で、アキトがカイトに振り返る。 「カイト。俺、パイロットとして頑張ってみるよ。・・ガイのためにも。」 「・・ええ。頑張りましょう、お互いに。」 そう言って、二人は握手をする。 「じゃ、俺、先行ってるから。」 アキトが去る。 (よかった・・・・。) 安堵の表情を浮かべるカイト。 ふと、腰のホルスターを見る。 (ダイゴウジさん・・。あなたの事、忘れませんから・・・・。) そこには、ガイから貰った、ゲキガンシールが貼ってあった・・。 ―あとがき(交霊会)― 参話、お送りしました。Gバードです。 今回はSSでおなじみのゲストとの対談といきます。記念すべき一回目は、故・ヤマダ・ジロウさんこと、ダイゴウジ・ガイさんです。どうぞ。 ダイゴウジ(以下ダ):・・・・・・。 Gバード(以下G):おーい、ダイゴウジさーん。 ダ:・・・・何故、殺した。 G:おや、戦慄のブルーですか? ダ:違う!せっかくこれから俺様がバリバリに活躍する機会が増え・・・・って、何じゃこりゃー!? G:おおっ、これまた懐かしい。 ダ:だから違うってーの!な・ん・だ・こ・の・カ・ラ・ダ・は!? G:どこからどう見ても、かわいいクマちゃん人形です。小説なのでみなさんに御覧出来ないのが残念ですねー。 ダ:どーいうことだ!?説明しろ! (説明?・・・・。) G:(ビクッ)その言葉はタブーですっ!発言しないで!・・・・・・・・。ふぅ〜、助かった。(ま ぁ、本編にまだ出てないから登場のしようが無いですけど。)いや、だってあなた死んでるし、何か依代が必要だったから。 ダ:だからってこんなジャ○プの死神マンガみたいなことするなよ。(ギロッ) G:その姿で睨んでも迫力無いです。話が続かないんで、何か質問を。 ダ:ぐっ・・。じゃあ改めて聞くが、何で俺を殺した。TV版SSだと大抵生き残るだろ。 G:それはカイト君やアキト君の成長のためです。本編では立派なこと言っているカイト君ですが、本心では、かなり傷ついているんです。彼の言葉を借りると、「心のどこかで病んでいる。」ですからね。私は、主人公級の中心人物は成長するものだと考えているので。 ダ:それにしちゃあ、アークの活躍が多くないか? G:そりゃあ、彼はキーパーソンですから。ぶっちゃけると、全体を通しての話ではカイト×ルリが中心になりますが、今は言わば「アーク編」です。まぁ、彼は影の主役ってとこですか。しかし彼はあくまで導き役なので、成長株であるカイト君やルリちゃん、アキト君あたりが主役級となるわけです。なので、あなたの死は彼らのターニング・ポイントとなる栄誉あるものなのです。 ダ:ほぅ、栄誉ある死ねぇ。悪くねぇな。・・・・んで本音は? G:あんたの存在はどんどん薄くなりそうだし、生きていると後がめんどくさい!・・・・はっ! ダ:・・・・・・。(チキチキチキチキ) G:ど、どこからカッターを・・・・。 ダ:言い残すことはあるか・・・・? G:か、感想は甘口辛口、ダメ出しや質問など、何でもどうぞ!では! ダ:待てー!せめてこの体なんとかしろー! (長いあとがきでスイマセン・・・・・・。) 〜次回予告〜 新たなパイロットを迎え、一路火星へと向かうナデシコ。激戦を前にした休息の中、クルー達はそれぞれの日々を過ごす。 次回、機動戦艦ナデシコ 〜The chronicle of a bond〜 第肆話 『ARKの航海日誌』 カイト「同じだね・・・・僕達。」 ―機体解説― アーク専用エステバリスB型 アークのエステのオプションパーツバリエーションの一つ。Bは「バスター」の略。「エステによる重力波兵器の使用」がコンセプト。背後にリフレクターを三基取り付けた、改良型の重力波ユニットを装備している。このリフレクターにより、中心の重力波アンテナにエネルギーを集中することで、グラビコン・システムとの併用により、理論上は∞とされているも、その供給範囲に限りがあるナデシコからの重力波ビームを、より長距離まで受信することを可能としている。だが、これの本来の利用は機体腰部にある小型(といってもエステから見れば大型だが)グラビティ・ブラスト、G・B(Gravity・Buster)を使用するためにある。G・Bは、発射時は銃身が腰部から横に回転して右腕で固定し、リフレクターで収束した重力波をユニットを通じてそのまま放出する兵器である。 その威力は絶大だが、その分問題も多く、実用化までには至っていない。また、機体自身も、重力波ユニットのせいで運動性は低く(アーク曰く、「デカくて重いランドセルをしょっているようなもの」)、G・B発射後の緊急離脱用のブースターを装備しているものの、総合的に見て、その性能は低いものとされている。 ―補足(お詫び)― 「零話のカイト君は誰?」の言葉が多いですが、これはこの話の根幹の一つになるので、今はまだ明かせません。もちろん伏線ははるつもりですが。こんな駄文ですが、最終的には劇場afterまでを予定しております。根気強くお付き合いしてくれたら、大変嬉しいです。 |
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