機動戦艦ナデシコ 〜The chronicle of a bond〜 |
――赤い・・・・。 ――赤い炎に照らされたどこかの廊下に、僕はいる。 ――腕の中に少女がいた。 ――少し藤のかかった銀色の髪に、金色の目。虚ろ気な瞳で、僕を見ている。 ――不意に、少女が言った。「カ・・イ・・ト・・。」と。 ――カイト?それが僕の名前? ――聞き出そうとするが、声が出ない。 ――その後の事は・・・・分からない。 ――これが・・・・僕の。僕に残った、唯一の記憶だった。 第弐話 『宇宙(そら)へ、火星へ』 <ナデシコ、ブリッジ> ―初めまして、オモイカネ。 《初めまして、カイト》 ―これから、いろいろとお世話になると思うけど、よろしく。 《こちらこそ、よろしく。》 ―じゃ、また後で。 《はい、では。》 「どうでした、オモイカネは。」 カイトの隣の席、オペレーター席に座っているルリが尋ねた。 カイトはパイロット兼サブオペレーターとして、ここで働くこととなった。 「うん、なかなかいいコだね。」 「ええ。ただ。キャンセルしたはずのデータを残してしまう変な癖がありますけど。」 「うわ、それはキツイね。下手なこと出来ないな、こりゃ。」 そう言って、カイトは笑った。 その笑顔を見て、思わず顔が綻ぶルリ。 「あれ、ルリちゃん今、笑った?」 メグミがすかさず言う。 「別に・・・・気のせいです。」 うつむくルリ。顔が少し赤い。 「へぇ、ルリルリもかわいいとこあるわね。やるじゃん、カイト君。」 「え?何がです?」 ミナトのからかいに、キョトンとするカイト。 「やめて下さい。でも何です?ルリルリって。」 「ん?ただなんとなくそんな感じがしたから。嫌?」 「別に・・・・嫌ではないですけど・・・・。」 「じゃ、OKね。ルリルリ♪」 そう言ってミナトはウインクした。 ルリはふと、横目でカイトを見る。 先の戦闘のときに言った言葉について、あれ以来、彼は何も言ってこない。 ついさっき自己紹介をしてきた時も、まるで初めて会ったようなしぐさだった。それが、彼女をますます混乱させた。 知りたい。聞きたい。そう思う。 だが、それを聞き出すまでの勇気を、彼女はまだ持てなかった。 ドアがスライドし、プロスペクター、ゴート、フクベ、ウリバタケが入ってきた。 「おや、艦長はどこですかな?」 「ここにはいませんが。」 「呼んでもらえますか、重大な話があるので。あ、あとアークさんの方もお願いします。」 「分かりました。」 カイトがコンソール上に手を置いた。 <艦内廊下> 「ねぇ、アキト。どうしたの?何怒ってるの?」 艦内の廊下をナデシコの制服の上から白いエプロンを付けたアキトが、憮然とした表情で歩いていた。その後ろをユリカがうろちょろとついていく。 「ねぇ、聞いてよお願いだから、アキト〜。」 かまわず歩き続けるアキト。休憩場でくつろいでいた整備班の連中と、自販機の前で飲み物を買っていたアークがそれに気づいて振り向く。 「ねぇ、アキト。ねぇ、アキト!ねぇったらねぇ!!」 苛立ちを感じたユリカは、自販機の横にあったゴミ箱から空き缶を拾ってヒョイヒョイとアキトに投げ、ついでとばかりにアークから缶(中身入り)をひったくって投げつけた。 「あっ。」 コンコンコンッ。 と乾いた音に続いて、 ゴンッ! とえらく重い音が響く。 見ると、アキトが後頭部を押さえて転げまわっている。全てヒットしたらしい。 一頻り転げまわった後、ユリカの前までバッと来て、アキトが抗議する。 「何すんだよ!」 「だって無視するんだもん。」 ((((だからってそこまでやるか?フツー。)))) ちなみにアークは二人の横に立ち、投げられたせいでほとんど気の抜けた火星ソーダを不味そうに飲んでいる。 「ねぇ、教えて。何があったの?何怒ってるの?教えて。」 「・・・・しょーがねぇ、教えてやる。」 「お二人さん、その前に。」 静かな口調で、アークが割り込む。 「ええ。」 「分かってる。」 何故かゴクット唾を飲む、整備班一同。 「空き缶は!」 「くずかごにね♪!」 「よく出来ました。(ハナマル)」 「「「「だぁ――――っ!」」」」 <ナデシコ食堂> 「俺の親父とお袋は、殺された。」 「えっ?」 食堂の空席に座って、アキトが重々しく口をあける。 そこにはユリカの他に、成り行き上、アークも同席していた。 「お前の一家が、火星を離れた時、死んだんだ。10年前のあの日、空港にお前を見送りに行った日に。」 「10年前・・・・火星クーデターの日か?」 「あぁ。知ってるのか?」 「割と有名な話だからな、それ。だが、クーデター鎮圧後に、テンカワ夫妻は事故死したと報じられたはずだが。」 「違う!事故死なんかじゃない!・・俺は見たんだ。親父とお袋の胸に、銃で撃たれた跡があったのを。」 「・・・・・・。」 「俺は、真相を知りたい。親父とお袋を殺したやつを・・・・。俺は、真相次第では、ユリカ、お前だって・・・・殺すかもしれない。」 「殺す・・・・。」 その言葉を聞いたユリカは何故か次第に顔を赤らめていき、目をうっとりとさせた。どうやら勝手な妄想に走っているらしい。 「「駄目だこりゃ・・・・。」」 呆れるアキトとアーク。 突然、ウィンドウが開き、カイトの姿が映る。 「艦長。あ、アークさんもいたんですか。二人とも、至急ブリッジに来て下さい。重大な発表があるそうです。」 「分かった。・・だが、もうしばらくかかりそうだぞ。・・・・あれじゃあ。」 アークが指した方向には、まだ妄想から抜け出していないユリカがいた。 <ナデシコ、ブリッジ> しばらくして、ユリカとアークがブリッジに入ってくる。それを確認すると、プロスペクターは話を切り出した。 「今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは、妨害者の目を欺く必要があったからです。」 「妨害者?」 「はい。我がネルガル重工が独自に宇宙戦艦を建造した理由は、木星蜥蜴と戦うためではありません。」 「我々の目的地は、火星だ。」 「火星?では、現在地球が抱えている侵略は見過ごすというのですか?」 フクベの言葉に、やや強めの口調でジュンが反論する。 「木星蜥蜴が侵攻を開始した当初、多くの地球人がコロニー、月、火星へと移住していました。しかし、連合宇宙軍はそれら前線ともいうべき人々を見捨て、地球周辺に防衛ラインを引きました。」 アークの顔が僅かに曇る。だが、すぐに元の顔に戻ったため、誰も気づかなかった。 「では、見捨てられた火星の人々は、資源は、どうなったのでしょう?」 「どーせ死んでんでしょ。」 「ル・・・・ルリちゃん。」 「おや、キッツイね。」 いつの間にか、カイトとルリの後ろに。アークが来ていた。 「分かりません。だが、確かめる価値は―「無いわね、そんなもの。」 見上げると、ブリッジ入り口に銃を持ったムネタケがいた。背後に部下らしき軍人を連れており、そのいずれもが、サブマシンガンで武装している。 「血迷ったか、ムネタケ!」 「フフフ・・・・。提督、この艦をいただくわ。」 突如ウィンドウが開かれ、その中でナデシコの重要区画のいずれもが軍人に押さえられていた。 「それに・・・・。そろそろ来るわね。」 正面のモニターの中、海中から軍の戦艦が三隻浮上してくる。 「識別信号確認。連合宇宙軍第三艦隊、旗艦トビウメです。」 ルリの報告の後、トビウメからの通信が入る。アークの顔色が変わった。 「二人とも、耳塞いで身を低くしろ。」 「「え?」」 「早く!・・・・来る!」 そう言ってアークはカイトとルリを席の下に押し込む。カイトと身をぴったりと密着され、ルリの顔が赤くなる。 『ユウゥゥリイィィカアァァ―――!!』 キィ―――――――ィィン。 スタン・グレネード以上の大音量と衝撃が、ブリッジに響き渡る。 危機を回避した三人が顔を出すと、彼らと、これに慣れているユリカを除く全員(ムネタケ、部下の軍人含む)が多大なダメージを受けてうずくまっていた。(中には伸びている者もいた) 『て、提督・・・・。』 『あ、ゴ、ゴホンッ。私は地球連合第三艦隊提督、ミスマルである。』 慌てて言い直すも、ほとんどの人は聞いちゃいない。 「お父さま?」 『おお、ユリカ。』 ガイゼル髭の提督、ミスマル・コウイチロウの顔が、途端にゆるむ。 『しばらく会わないうちに、大きくなったな。ユリカ。』 「やだ、お父さまったら。一昨日、お会いしたばかりですわ。」 『そ、そうか。そうだったかな。』 ((((親バカだ・・・・。)))) 誰もが、そう確信した。 「お久しぶりですね。ミスマル提督。」 『おや、アーク君。それにカイト君か。君達もこの艦にいたのか。』 『提督。』 『あ、ああ、そうだった。ナデシコに告ぐ!地球連合軍提督として命じる!ただちに停船せよ!』 「困りましたなぁ。連合軍とのお話は済んでいるはずですよ。」 ダメージから回復したプロスペクターが言う。 「残念だが、我々には、強力な戦艦をみすみす手放すほど余裕が無い。」 欲しいからよこせ。つまりはそういうことである。 「いやっ、さすがミスマル提督、分かり易い。これは交渉ですな。」 『よかろう。だが、艦長とマスターキーはこちらで預かる。』 「ほぇ?」 全員からの注目を受け、ユリカは艦長席にあるボタンの一つを押し、中から出てきた鍵、マスターキーをじ〜っと見る。 ブリッジの下の方ではクルーたちが口々に「やめろ!」と叫び、そんな中ジュンただ一人が鍵を渡す方に賛成していた。 それを聞いてか聞かずか、ユリカはマスターキーをさらにじ〜っと見て、 カシャッ! 「抜いちゃいました〜!」 「おお――!」 手間が省けたとばかりに軍人達が拍手をする。あっけにとられるクルー達。 「あ〜あ、相転移エンジンが止まっちゃう。」 「これでナデシコはまったくの無防備ですね。」 着水の衝撃が、艦に走った。 <ナデシコ食堂> 「ハァ・・・・。」 食堂内の席の一つで、カイトはいつになく、暗い表情をしていた。 「そんなに落ち込むな。・・・・と言っても、無理だよな、お前の場合は。」 彼の隣に座るアークが言う。 「どうしたんですか?カイトさん。」 「何か、すっごく落ち込んでるようですけど。」 「悩み事なら、私達でよければ相談にのるわよ。」 二人が顔を上げると、ルリ、メグミ、ミナト、通称「ブリッジ三姉妹」がいた。 「いえ、その・・・・。」 「そんな事言わずに、話してみてよ。ただでさえ、ここ、空気重いんだし。」 現在、ナデシコクルーはユリカとジュン、プロスペクターを除いて監禁状態であった。無論、室内のムードは暗い。それに加え、パイロットのダイゴウジ・ガイ(本名ヤマダ・ジロウ)が持ってきたアニメ「ゲキガンガー3」が一画で放映され、暑苦しくもあった。する事の無いクルーがぼ〜っとそれを見る中、当のガイとアキト(ファンだったらしい)は一番前で画面を食い入るようにして見つめていた。 「黙ってないで、誰かに話した方が、気が軽くなるかもよ。」 メグミが、ミナトの言葉に付け足す。 「・・・・・・。」 「カイト・・・・・・。」 「いえ、いいんです。・・そうですね。別に、秘密にするような事じゃないですし。その前に、三人とも、座って下さい。」 うながされて三人が座ると、カイトはおもむろに話し出した。 「僕・・・・記憶が無いんです。一年前以前の。」 「「「えっ?」」」 「気がついたら、アークさんと共に地球にいたんです。彼の話じゃ、その前まで火星にいたようなんですけど。」 その声が聞こえたのか、アキトがはっとしてこちらを向く。 (一年前・・・・火星!?まさか、俺と同じ・・・・。) 続けてアークが切り出す。 「一年前、俺は火星で、急造の防衛部隊としてエステでシャトル脱出の援護をしていた。最後のシャトルが脱出した後、俺はカイトと、あともう一人と共に、近くのシェルターへ向かった。その後は、俺も覚えていない。カイトが言ったよう、気がついたら地球にいた。」 「その後、ネルガルに保護されて、アークさんと一緒にエステのテストパイロットをやっていたんです。テストといっても、ほとんどは木星蜥蜴相手の実戦ばかりでしたけどね。軍の傭兵となった事もありました。」 「その時、ミスマル提督と何度か会ってな、提督の協軍とネルガルのデータバンクから、カイトのことを調べてもらったんだ。だが、結局分かったのは、地球と月の人ではない、ってことだけだった。」 「残っていたのは、カイトって名前。でも、これも本名か分からない。それと・・・・。」 そう言ってカイトは右手の甲をかざす。そこには、パイロット用ともオペレーター用とも違う、特殊な形のIFSの模様があった。 「調べてもらったところ、テラフォーミングの時期に火星にいた人達が使っていたものらしいんです。人体への副作用が強いとかで、すぐ使用禁止になりましたけど。」 いつの間にか、全員がそれを聞いていたらしく、室内はシンット静まり返っている。 「僕は、自分を知りたい。自分が誰なのか、何者なのかを知りたい。もちろん、火星にいる人達も助けたいですけど・・・・。」 カイトの話が終わると、話の途中からずっと下を向いていたルリが立ち上がり、カイトの前まで歩いていく。そして服の下から瑠璃石を取り出し、カイトに差し出した。 「あなたの物です。」 「え?」 「私も、一年前に火星にいたんです。研究所で私が死にかけたとき、あなたが救ってくれて、そしてこれを私にくれたんです。」 「じゃあ、やっぱり、君は・・・・。」 「残念ながら、あなたの質問にはお答え出来ません。私もよく覚えていないんです。」 「そう・・・・。」 「この石は、幸運の石だと、あなたから教えてもらいました。私なんかより、今のあなたが持つべきです。だから、お返しします。」 そう言って、改めて石をカイトの前にさしだす。 カイトはしばらくそれをじーっと見ていたが、やがて笑顔をルリに向ける。 「いらないよ。」 「え?」 驚くルリ。 「この石が、僕の物だという証拠は、どこにもない。」 「でも・・・・。」 「うーん。じゃあ、改めて僕からのプレゼント。貰ってくれるかな。それに・・・・。」 カイトはルリの手から石を取ると、そのままルリの首に掛け、再び笑顔になる。 「それにこれ、ルリちゃんにすっごくよく似合うから。・・貰ってくれる?」 「は、はい・・・・。あ、ありがとうございます。」 顔を真っ赤にしてうつむくルリ。その様子をみて、室内にいるクルー達がニヤァ、とチェシャ笑いを浮かべる。(中には悔しがっている者もいたが。) 「でも、火星か・・・・行きたいな。」 「俺も、行きたい。」 突然、アキトが言った。 「俺も、一年前、火星にいたんだ。それで、気がついたら地球にいた。・・火星に行って、俺が、何を出来るのかは分からない。でも俺、火星を助けたい。たとえ、世界中が戦争しか考えてなくても・・。」 再び静まり返る室内。だが、その空気は変化しつつあった。 「反論はないようだな。よし、決まり。」 「「「「え?」」」」 アークが突然立ち上がり、入り口の方へ歩いていく。 「ミナトさん。ちょっと、協力してくれますか?」 「へ?私?」 ドアがスライドする。 歩哨役の軍人二人が振り向く。 「ハァイ♪」 いきなりのミナトの明るいあいさつに、驚く二人。(片方は鼻の下を伸ばしてまでいた。) 「ふっ!」 その隙をついてアークが二人の間に入り込み、両肘を突き出して、それぞれのみぞおちに肘打ちを食らわし、続けて顎に掌底を叩き込む。のけぞり返って気絶する二人。 彼らを縛り上げ、取り上げたマシンガンをゴートに渡しながら、アークはクルー達に言う。 「みんな、それぞれ思惑があって・・何かを見つけようって思って、ここまで来たんだろ。自分の、自分だけの何かを・・・・。それを見つけるためにも、行ってみないか?火星へ。」 最初は呆然としていたクルー達の表情が、しだいに変化していく。答えは、決まった。 その反応に、アークは満足したよう、大きく頷く。 「さ〜てっと・・・・派手に行きますか!」 <ナデシコ、ブリッジ> 『こちら格納庫、敵の侵攻を防げそうに―『ここは押さえた。覚悟したまえ。』 突如入ったゴートの顔のどアップに、思わずビビるムネタケ。他の区画も同様に押さえられていく。 「そういうことだ。」 振り返ると、アークがいた。 「あ、あんたいつの間に!?兵士達は!?・・・・!」 ブリッジの下に、気絶した軍人たちを縛るカイト、そしてフライパンと鍋で武装したミナトとナデシコの料理長、ホウメイがいた。 「ひっ!」 「一年前の木星蜥蜴火星襲来時、あんたら軍人は、火星の人達を残してさっさと撤退した。」 アークがムネタケに一歩ずつ近づく。その手には、イタリア製の特殊拳銃、マテバ・リボルバーが握られている。 「そればかりではなく、俺達エステ防衛部隊が護衛した民間シャトルの大半が、軍が民間から強奪したものだった。そうするよう指示したのが、あんただったとはな・・・・。」 「ひっ、ひい!」 「あんた達軍が、早期撤退さえしなければ、火星の人達をもっと救えた。あんたが、あんな命令さえしなければ、火星に人達はもっと脱出出来た!」 アークから発せられる冷たい殺気に、身動き出来ないムネタケ。 「あんたがぁ――!!」 「ひいぃぃぃぃぃ!」 ドンッ! 次の瞬間、アークの拳がムネタケのみぞおちに深く食い込んでいた。 「安心しろ。あんたみたいなクズなど、殺す価値もない。」 「あ・・・・が・・・・。」 「俺達は火星へ行く。軍などに・・・・邪魔はさせない。」 口をパクパクし、ムネタケは昏倒した。 ドオンッ! 突如、艦が振動する。 モニターには、海中からチュ−リップが浮上する映像が映し出されていた。 チュ−リップの正面が開き、トビウメの護衛艦、バンジーとクロッカスを吸い込む。そしてその代わりに、二十機近くのバッタをはきだした。 <トビウメ、ブリッジ> 「やはり生きていたか。ユリカ、マスターキーを・・・・ユリカ?」 コウウチロウが辺りを見回すがユリカの姿がない。 ウィンドウが開く。 『ここですわ、お父さま。』 彼女はプロスペクターと共に、ヘリの中にいた。 「ユリカ!何故そこに・・・・早く戻ってきなさい!」 『艦長たる者、たとえどんな時でも、艦を見捨てるような事はいたしません。そう教えて下さったのはお父さまです。それに・・・・あの艦には私の好きな人がいるんです!』 「なぁ―――――――!!」 大ショックを受けるコウイチロウ。何気なく出ている鼻水がお茶目だったりする。 「だあぁぁぁっ!・・・・うわあぁぁぁっ!・・・・くっそー、何で飛ばないんだ!?」 迎撃に意気込んで出撃したアキトだが、陸戦フレームのままなので苦戦している。 陸戦フレームには、元々飛行維持能力は無い、一定距離まで跳んだら、落ちるしかないのである。もっとも、その変則的な動きで、囮役を十分に果たしてはいるのだが。 <ナデシコ、ブリッジ> 「あら〜。ピョンピョンピョンピョン、元気よね〜。」 モニターには空中と海中を行ったり来たりして、敵の攻撃を回避しているアキト機の姿。 その跳ね具合は、どことなく任○堂のヒゲおじさんを連想させる。 間もなく、入り口のドアがスライドし、 「超特急でお待たせ〜!」 ゴートに抱えられたルリ、メグミと 「ヤッホ〜!」 ユリカとプロスペクターが到着した。 ユリカがマスターキーを挿入する。 「電圧回復。相転移エンジン、再起動開始。」 「システム回復。」 「オールキャスト完璧〜♪」 「では、ナデシコ、全速前進!」 「「「「えっ?」」」」 <ナデシコ、格納庫> 「ウリさん、機体の方は?」 「おうよ!カイトの方は空戦フレームに換装したし、お前さんの方は空戦用にスラスターを増やしたぜ。」 「さっすが、ウリバタケさん。」 「あったぼうよ!さ、さっさと出撃してく「ちょっと待ったー!」 三人が振り返ると、そこにはガイがいた。 「俺も出撃するぜ!」 「ヤ、ヤマダさん。あなた、骨折中じゃ・・・・。」 「ダイゴウジ・ガイだってーの!こんなもん、根性でなんとかな「ならねーよ。」 ぷすっ! 「あうっ・・・・。」 ガイの背後に回ったアークが、注射器をガイの首筋に打つ。床に崩れ落ち、気持ちよさそうに大いびきをかくガイ。 「まったく、バカは黙ってケガ治せ。厄介事増やすな。」 ・・・・全員、追及はしないことにした。 「カイト、発進します。発進許可を。」 ルリのウィンドウが出る。 『了解。発進を許可します。・・・・あの。』 「ん?」 『その・・・・気を、つけて。』 「・・・・了解!ありがと、ルリちゃん。」 カイトが見せた笑顔にルリの顔が綻ぶ。両隣にいるミナトとメグミがニヤーっと笑う。 「カイト、出ます!」 出撃するカイト。 「やれやれ。やるねぇ、アイツも。アーク、出る!」 続いて、アークが出撃した。 「カイト。バッタは俺にまかせて、お前はアキトを救出してチューリップの方へ向かえ。」 「了解、アークさん。」 アーク機が海面にいるバッタ達に向け、ラピッド・ライフルを撃つ。 バッタが爆発する中、海中からアキト機が飛び出してくる。カイト機がそれをキャッチ。 「カイトか、サンキュ。」 「アキトさん。このままチューリップの方へ突撃します。ディストーション・フィールドを前面に最大出力で。」 「分かった。」 アーク機からの援護射撃をうける中、真っ直ぐチューリップへ突撃するカイト機とアキト機。チューリップの触手が襲いかかるが、持ち前の運動性でそれを難なく回避。 「狙うは触手の付け根。行きます!」 「うおぉぉぉぉ!」 『ゲキガン・フレアだ!』 「え?」 「ゲキガン・フレアー!」 ディストーション・フィールドによる高速突撃。チューリップの触手を次々に断裁していく。 「魂の叫びさ、レッツゴ〜パッション〜!・・・・ムニャムニャ。」 「寝てても五月蠅ぇな、コイツ。」 「あの、ヤマダさんのコミュニケ、送信状態みたいですよ。」 「切っとけ切っとけ、ったく。」 <ナデシコ、ブリッジ> 『こちらアーク。バッタを全て撃破。チューリップの触手も無力化。』 「了解。では、こちらも前進!」 「ホントにやるの・・・・?」 チューリップに向かって前進するナデシコ。 チューリップの前面が開き、ナデシコを吸い込んでいく。 「おいっ!何やってんだ!やめろ、引き返せ!」 「落ち着いて、アキトさん。艦長のことだから、何か考えがあるんでしょう・・・・ホラ。」 チューリップが膨らんだかと思うと、突然、破裂した。その中からグラビティ・ブラストを撃っている状態のナデシコが姿を現す。 「内側から大砲かよ・・・・。何考えてんだ?アイツ。」 「こういう奇抜な発想が出来るから、艦長なんじゃないですか?プロスさんも言っていたでしょう、『性格に問題があるが腕は一流』って。」 <トビウメ、ブリッジ> 「ユリカ・・・・。」 モニターの中、高度を上げていくナデシコの姿がある。 「提督。」 「この艦にナデシコと戦うだけの力は無い。残念だがな。」 「! 提督、秘話回線で通信が入っています。」 「繋いでくれたまえ。」 『どーも、こんにちは。』 「アーク君か。」 『そろそろ届かなくなるので、単刀直入に言います。娘さんに何か伝言は?』 「・・・・無事に帰って来てくれ。それだけだ。」 『・・・・了解。では。』 通信が切れた。 「本当に・・・・本当に、無事に帰って来てくれよ、ユゥリィカァー!」 目の幅涙を流すコウイチロウ。 ナデシコは飛び立つ。いつの間にか忘れ去られたジュンを置いて・・・・。 ―あとがき― 弐話、お送りしました。Gバードです。 TV版とほとんど変わりませんね・・・・・(汗)。何か、次回もそうなりそう・・・・。先行き不安です。 感想は甘口辛口、ダメ出しや質問など、何でもどうぞ。 短いですが、では! 〜次回予告〜 火星へ向かうため、ビックバリアの突破を試みるナデシコ。だが、第2防衛ラインで、何か動きが?偵察に出るアーク。一方、ナデシコではジュンが突破を阻止しようと、前に立ちはばかっていた。かつての仲間に、アキトは、カイトはどう立ち向かうのか。 次回、機動戦艦ナデシコ 〜The chronicle of a bond〜 第参話 『水の星の鎖を断て!』 ルリ「結局、みぃ〜んなバカばっか。」 ―補足― 前回の機体解説、アークのエステのカラーを書き忘れておりました。本文にはありましたが。カラーはディープ・ブルー(紺碧色)。彼の異名、D.Pファントムの由来にもなっています。 |
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