機動戦艦ナデシコ
〜The chronicle of a bond〜



第零話  『火の星の炎の中で』





ドオォォォォォン!
通路を走る集団のすぐ横の壁が突然、爆発した。
爆風に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられながらも、ルリはなんとか
目を開けた。

「うっ・・・・・・。」

視界が朦朧としている。頭でも打ったのだろう。
周囲を見渡す。研究員らしき姿が、何ヵ所かに倒れている。どの人
も、ぴくりとも動かない。爆発の直撃を受けたのだろう。最後尾に
いたのが幸を奏したようだ。

そんな中を、何か動くものがある。
人?いや、違う。それは木星蜥蜴の主力でもある「バッタ」と呼ば
れている無人兵器だった。さっきの爆発は、おそらくこれによるも
のだろう。

ルリがそんなことを頭の片隅で考えていると、バッタの4つの赤い
目がルリの方に振り向き、彼女を凝視する。

(ああ、なんだ・・・・死ぬんだ・・・・。)

ルリはそう確信した。
バッタが次第にこちらに近づいて来る。

(人生の幕切れって、意外にあっけないものなんですね・・・・。)

そう思いながら、ルリが目を閉じようとした・・その時!

「やめろ―――――!」

突然、通路の奥から人影が走って来て、その勢いのままバッタに体
当たりを食らわせる。そしてそのまま引っ繰り返って仰向けになっ
たバッタの上にまたがり、腰から大型拳銃を引き出して頭部に数発
撃ち込む。バッタは小さく痙攣し、活動を停止した。

「ハァ、ハァ、ハァ、・・・・ふぅ――。」

その人影は呼吸を整えた後、はっとしてルリを振り向いて駆け寄っ
て来る。

「ルリちゃん、大丈夫?!」

「えっ?」

少年だった。年齢は18歳くらいだろうか。黒目に黒髪、何故か青
いパイロットスーツを着ており、首にネックレスのような物を掛け
ている。不安気な顔で、ルリの様子を見ている。

(誰でしょう?この人。)

自分の名を知っているくらいだから、研究員の誰かだろうか?
いや、もしそうだったら、パイロットスーツを着ているのはおかし
い。

「あの、あなたは「ホントに大丈夫!?怪我とかしてない?!」

彼の素性を聞こうとしたのだが、切羽詰ったような彼の勢いに押さ
れ、ルリは自分の体を点検する。

「頭を打ったみたいですけど、そちらは大丈夫のようです。あとは
・・・・うっ。」

左足に痛みが走る。少年が慌ててそこを診る。

「足の甲が腫れてる!けどよかった、骨に異常はないみたいだ。ま
ってて、すぐに応急手当するから。」

そう言って少年は腰のサイドパックから救急キットを取り出し、ル
リの手当を始める。

「あの。」

「ん?」

「私のことはいいので、あそこにあるトランクを持ってさっさと逃
げちゃって下さい。」

「え?」

少年の手が思わず止まる。

「私の名前を知っているなら、私の素性は知っていますか?私がマ
シンチャイルドなんだって。実験体としてこの研究所にいたんだっ
て。」

「・・・・・・・・。」

少年がうつむく。

「この状況では、もはや一刻も無駄に出来ません。しかし、私はこ
んな状態ですし・・。」

「違う・・・・。」

「あのトランクの中に、この研究所での私の実験データが入ってい
ます。あれさえ持っていけば、なにも無理をして私を連れて行く必
要はありません。」

「違う。」

「あ、私自身のことは気にしなくてけっこうです。どうせ私は・・・・
実験のためのお人形ですし。」

「違う!ルリちゃんは人形なんかじゃない!ルリちゃんは
ルリちゃんだ!」

少年の声に思わずビクッと身を震わすルリ。それを見て我を取り戻
した少年が慌てて言いつくろう。

「あっ、ごめん。その・・・・えっと・・・・。」

何とか気を落ち着け、手当を再開しながら優しい声で言う。

「大声出してごめん。でも、僕は実験体としてのルリちゃんを助け
に来たんじゃない。一人の人として、ホシノ・ルリとしてのルリち
ゃんを助けに来たんだ。だから、あんなトランクなんて、実験デー
タなんて必要ない。ルリちゃんを連れて行かなきゃ、意味がないん
だよ。」

「でも・・・・。」

ルリは戸惑った。
木星蜥蜴の攻撃が未だに続く中、火星から脱出して生き残るために
は、この場合、時間の短縮が最優先事項である。自分はそれの足手
まといになる。だったら切り捨ててしまえばいい。どうせ実験の対
象としか見られていないから。今まで、誰だってそうだった。そう
考えて下した判断だった。
だが、この少年はそれを否定した。ルリを人として、一人の少女と
してとらえ、助けようと一生懸命だった。それが彼女には衝撃的だ
った。

(こんな人、初めて・・・・。)

ルリの無言を迷いと受け止めたのか、少年は「ハァ。」とため息を
つき、自分の首の後ろに手を回した。そして自分の首にかかってい
たネックレスを外し、ルリの首につけてやる。

「これは?」

「お守りさ。」

その先端には濃い青色に白い斑点がついた、不思議な輝きのする石
がついていた。

「これは、確か・・・・。」

「そう、ルリちゃんと同じ名の、瑠璃石だ。瑠璃石はね、幸運の石
とも呼ばれていて、心の曇りや邪念、不安を払い、あらゆる幸運を
引き寄せる力があるんだ。きっとルリちゃんの力になってくれる。
だから・・・・。」

ポンッとルリの肩に手を置く。

「だからね、ルリちゃん。もう二度と自分のことを、人形や、実験
体だなんて言ったり、思ったりしちゃいけない。さっきも言ったけ
ど、ルリちゃんはルリちゃんなんだから。ね?」

そう言って少年は笑った。
それは見るだけで心が安らぐような、優しい笑顔だった。

「よし、手当終了。ん?どうしたの、ルリちゃん?」

しばらく少年の顔をボーッ見ていたルリは、はっと気を取り戻し、
顔を赤らめてうつむいてしまう。

「あっ・・・・・・。」

不意にまた視界がぼやけてきた。頭を打った影響だろうか。
倒れかかったルリを少年が支える。

(あったかい・・・・。)

少年の温もりに、安らぎを覚える。

けど、これだけは、せめてこれだけは聞かなくちゃいけない。

「あなたの・・・・名前は?」

「少年は一瞬、驚いたような顔をしたがすぐに先程と同じ笑顔に
なって言った。

「カイト・・・・カイトだよ。」

「カ・・イ・・ト・・。」

カイトの温もりを感じながら、ルリが気を失う直前、カイトが言
った。

「ルリちゃん。次は『ナデシコ』で会おう。」


<2196年、地球、ネルガル人間開発センター>

「突然ですがホシノ・ルリさん。私達は新しい宇宙戦艦のオペレ
ーターとして、あなたのスカウトに来ました。」

「・・・・・・はぁ。」

身元引受のホシノ夫妻に呼ばれ、プロスペクターと名乗るネルガ
ルの社員にいきなり言われたのがコレである。どうは反応すれば
いいのか分からない。
金縁のメガネに、口の上に小さくたくわえたヒゲ。クリーム色の
シャツの上から、赤いベスト。年齢(43)の割には少々派手で
ある。
ふと彼の後ろを見ると、身長2メートル以上のスーツの男が立っ
ていた。名はゴート・ホーリー。むっつりとした顔をくずさず、
小さくルリに頭を下げる。

「戦艦ってことは、私、軍人になるんですか?」

「いえいえ。あくまでルリさんは、わがネルガルの社員というこ
とで。」

ちなみにホシノ夫妻とは「大人の話」でカタがついたという。

「名前・・・・なんですか?」

「は?」

「戦艦の名前です。」

「あ、ああ。まだ正式には決まっていませんが、ナデシコと言い
ます。」

「ナデシコ?!」

「?どうかしましたか?」

「あ、いえ・・・・。」

――ルリちゃん。次は『ナデシコ』で会おう。――

「ナデシコ・・・・。」

あれから目を覚ましたら、すでに地球にいた。聞いたところによ、
ると、シャトルで脱出してきたという。
火星でのことはあまり覚えていない。
覚えているのは、おぼろげなカイトのイメージ、カイトの声、カイ
トの温もり、そして・・・・。

ルリは服の下から、あの石を取り出す。ネックレスの先端について
いる、濃い青色に白い斑点のついた石、瑠璃石を・・・・。

(また・・・・あの人に会えるんでしょうか?)

瑠璃石は何も言わず、ただ静かに輝いていた。


―あとがき(懺悔)―
あー、えー・・・・。ぶっちゃけて申し上げますと、ここまでがプ
ロローグだったんです。あまりにも長すぎたので、第零話とい
う、苦し紛れの方法をとることに・・・・。
その結果、プロローグが半端になってしまい・・・・。
本当にスミマセン。神よ、私を許したまえ。(←家は仏教)
次回からはいよいよTV版に突入!オリキャラも出ます。
感想は甘口辛口、ダメ出しや質問など、なんでもけっこうです。
では!

〜次回予告〜
サセボドックに木星蜥蜴が襲来!囮役として出撃するアキトのエ
ステバリス。ナデシコという舞台に「亡霊」と呼ばれた男、そし
て記憶喪失の男が現れる時、物語は静かに動き出す。

次回、機動戦艦ナデシコ 〜The chronicle of a bond〜
第壱話 『「出会い」の集う方舟』

??「君は・・・・僕を知ってるの?」 







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