目覚まし時計











「カイトさん、今日の報告書、書き終わりましたか?」




「うぅ〜ん、何とか〜・・・・ルリちゃ〜ん、やっぱり僕こういうの苦手だよ〜・・・・」






艦長席からのルリの問いかけにカイトがやや憔悴しながらも応える


応えたカイトは今日の分の報告を何とかまとめ終わった所であった







「なにを今更・・・ナデシコBの副長になってからズイブン経つんですから


これ位は軽くやっていただかないと困ります」







ルリの言う事は至極最もなのだが、試験戦艦という名目で動いているナデシコBは


その目的のためか、乗組員も非常に少なく、パイロットもカイト意外にいない


その為、カイトの肩書きは、一応副長兼パイロットとなってはいるが


副長の方の仕事は全くといって良いほど無く、ほぼパイロットとしてのみ活動しており


まさにお飾りの副長となりさがっていた












まぁ、ルリの処理能力を考えればそれでも十分お釣りが出るのだが












「大体カイトさんの方から手伝うと言ってくれたんじゃありませんでしたか?」







今回の様に、たまに使命感に燃え、カイト本人からルリの手伝いを買って出ることがあるのである








「ん〜、だってルリちゃん1人に任せっきりだとあれだし・・・やっぱり2人の方が早く終わるだろうし・・・


それに僕はそれを手伝える場所にいるしね」









答えつつ、ルリに笑顔を向けるカイト



無邪気に微笑むカイトを見つつ、小さくフゥッと息を吐くルリ



その顔には穏やかな微笑が浮かべられている







実際手伝ってもらった方が、幾分かは早く終わるが、それでも時間にしてみれば些細なものである



ルリにとってみれば、時間よりも、心配して手伝ってくれるカイトの気持ちの方が何十倍も嬉しいのだ



だからカイトに聞こえるかどうかの小さな声で呟く





「・・・ありがとうございます・・・カイトさん・・・」





「ん、ルリちゃん、今何か言った?」





「さぁ、何の事ですか?それより早く部屋に戻って眠らないと明日がつらいですよ?


特にカイトさんなんか、エステバリスの中で眠ったりするんですから・・・」





カイトの質問に意地悪っぽく返された返事は、実はカイトの痛い所をついていたりする





「えっ、あぁ!もうこんな時間か〜・・・


そ、それよりあれは僕なりの精神集中の1つだって言ったじゃないか」






数日前、エステバリスのコックピットにて待機中にうっかり熟睡をしてしまったカイト


帰還後、こってりルリに絞られたのだが、その場は自分なりの精神集中と何とか誤魔化していた








「どう見ても眠ってましたよ、カイトさん


なんなら今度エステバリスのコックピットを改造して電流が流れるようにしてもらいましょうか?」





カイトの脳裏に1人の怪しい整備士の顔が思い浮かぶ



きっと彼なら快く承諾し、嬉々として率先して依頼に当たってくれることだろう



更にルリの期待以上の成果(電圧?)を出してくれる事も容易に想像出来る



もっと言えば、それだけで終わらない可能性も大いに、大いに考えられる









「あの時はちょっと夜更かししてたのでうっかり居眠りしちゃいました


もう居眠りはしません、ゴメンナサイ!!」





結果、カイトはあっさりと自分の非を認め、降伏の意をあらわにする





「はい、分かっていただければ、それで良いです


さて、それじゃ部屋に戻りましょうか?」




ルリの許しの言葉に、カイト自身も満足し、笑みを浮かべつつルリの座る艦長席へと向かう





「そうだね、それじゃ行こっか」




そうして2人並んでブリッジのドアの前に立つと、1度振り返り




「「お休み、オモイカネ」」




この後も、休む事無く仕事を続ける彼に一言、告げていく




『お休みなさい』 『良い夢を』 『また明日』




それに対し、オモイカネもいくつものウィンドウで返事をしてくれる




それを確認して、ルリとカイトの2人は笑顔でブリッジを後にした


























「あっ、ルリちゃん、そういえばさ〜」




ブリッジを出てから少しして、通路を歩いている時に、カイトが思い出したように声をかける




「まだナデシコBに乗るようになったばっかりの時の事、覚えてるよね?」



カイトの問いかけにルリは間を置かずスグに答える



「当たり前じゃないですか、もちろん覚えてますよ。それがどうかしたんですか?」




ルリの言葉を確認しつつ、カイトはそのまま言葉を繋げる




「うん、その頃にさ、ナデシコBで副長も兼ねる為って言う事で僕、2週間の研修にいったでしょ?


さっきの話で、その時の事を思い出したんだ♪」




すごく嬉しそうに、楽しそうに話すカイト


対するルリは少し気恥ずかしそうにしている































「明日からですね、カイトさんの研修」




そこはカイトにあてがわれた宿舎の一室



そこで一緒に食事を取っていたルリが、食後の一服の後、カイトに話しかける






「・・・・うん・・・・でも本当に大丈夫かな〜、やっぱり研修に行くのやめとこうかな・・・」





「今更何を言ってるんですか


せっかくミスマル提督の口利きで特別研修を受ける事を許可して貰ったんですから


ナデシコBの副長として相応しくなってから帰ってきてください」





「ん〜、そう思ってたんだけどね・・・やっぱりいざ行くとなると・・・ちょっと不安が・・・ねぇ?」





気弱そうな表情でルリに同意を取ろうとするカイト




これで、ナデシコが誇るエースパイロットであり



これから副長となるための研修を受けようとしているのだから驚きである





「はぁ、じゃあ折角私が、研修に必要と思ってカイトさんの為に用意したものは無駄になりましたね」




そのルリの言葉にカイトがピクリと反応すると


ルリはカバンの中からそれほど大きくないラッピングされた箱を取り出す





「・・・・これを・・・僕の為に?」





「でも研修・・・行かないんですよね?」





カイトがその包みを前に、ルリに問いかけるが、ルリはそっぽを向いたまま答える





「ううん、行くよ!だってルリちゃんがここまでしてくれてるんだもん!


行くに決まってるじゃん!」





「あっ・・・べ、別にそんなに大した物でも無いんですけど・・・・・あの・・・」





ルリが予想した通りの反応をカイトは返したのだが



にもかかわらず、ルリはカイトのあまりの喜び様に、照れて頬を赤らめる




その間も、カイトはキラキラと目を輝かせて、目の前の箱を観察する





「ねぇ、ルリちゃん、これ開けても良いかな?」





「えっ?あっ、まだダメです!」





少し自分の世界に入っていたルリは、カイトの言葉に意識を取り戻す



ルリの【待て】宣言に、オアズケをくらった状態のカイト


心なしかションボリして見えるカイトは、自分で【待て】の理由を突き止めたのかすぐにまた笑顔になる




「そっか、明日のお楽しみってことだね?


分かった、それじゃあ向こうについてから開けさせてもらうね♪」




ニコニコと笑顔を浮かべるカイトは、最初研修を嫌がっていた事などもう忘れているだろう



その嬉しそうなカイトを見て、ルリもまぁいいかと微笑を浮かべる






その夜は、明日からの研修の準備が未だ整っていなかったカイトを


今更ながら慌てて準備したりと、慌ただしかったが、なんとか次の日の朝、カイトは出発していった

























「ふ〜、やっと着いた〜・・・・・けど直ぐに研修始まっちゃうんだよな〜


・・・・・ハードだな〜・・・・・」



車に乗って移動する事、約1時間


ようやくカイトは研修を受ける2週間の間、寝泊りする宿舎へと到着した


しかし、一息ついたのも束の間、もう15分もすれば研修が始まる時間となる



「これから2週間・・・・・2週間か〜・・・・・長いな〜・・・・・」



その研修を受ける予定のカイトは始まる前から既にホームシック気味だったりして・・・


そして部屋に荷物を置いた時に例の物の事を思い出す




「あっ、そうだ!ルリちゃんから貰った箱・・・・何が入ってるんだろう・・・・」



そしてラッピングを丁寧に外し、中の物を確認する


その中には



「目覚まし時計だ・・・・流石ルリちゃん・・・しっかりしてるな〜・・・


あっ、メッセージカードもついてる!」



そこにはネコ型の目覚まし時計があった



『         カイトさんへ 


恐らく1人だと中々起きられないと思いましたので、これを使ってください


つらいかもしれませんが、カイトさんが立派になって帰ってくるのを待っています

                                   ルリ        』




共にあったメッセージには、カイトの事を良く知る、いかにもルリらしいコメントが記されていた









「・・・・・・へへっ♪・・・・」



中身とメッセージを確認したカイトは、カードを眺めて楽しそうに笑みを浮かべる



そして早速明日の朝の時間にタイマーをセットすると



さっきまでとは違い、とても楽しそうに研修へと向かっていった



































シュン













ツカツカツカ












シュン










ツカツカツカ











ポフッ












初日の研修が終わり、部屋へと帰ってき、即座にベッドに倒れこむカイト



その様は、完全に疲れきっており、部屋を出て行った時の元気は欠片も見受けられなかった




「フゥ〜・・・・・・・・・疲れた・・・・・」





今回の副長研修



とりあえず間に合わせの為に、最低限必要なことを教えるのだが、それでも2週間では足りない



なので、今回の研修は、1日の時間を可能な限り使い切った多忙な凝縮プログラムになっていた




「うぅ・・・そうだ・・・ルリちゃんに連絡しない・・・・・と・・・・・」


















「・・・・・・・・・・・・クー・・・・・・・・・・・・・クー・・・・・」




が、コミュニケに手を伸ばそうとした所で力尽きてそのまま深い眠りについてしまう












































「・・トさん、カイトさん、起きてください、朝ですよ、起きてください」




自分を起こす声を聞き、珍しく直ぐに起きるカイト



まだ寝ぼけ眼をこすりながらではあるが、一応意識は覚醒したようだ




「ん〜、ふわぁ〜い、今起きるよ、アリガト、ルリちゃ・・・・・・」




そこまで言って、その声を発しているのが、渡された目覚まし時計だと気付く





「・・・・・ありがとう・・・・ルリちゃん・・・」



それがとても嬉しくて、今ここにいないルリに感謝の言葉を紡ぐ

























「・・・・・・・・別に・・・それほどでも・・・・」













だから、意外なその答えに、思わず声のした方を振り向く



そこには変わらず、先日渡された目覚まし時計があり、再び音声がリピートされている















カイトがポスッと目覚ましのスイッチを押すと、アラームの音声が止まる









「・・・・・・・・プッ・・」





カイトは少しの間、うつむいていたかと思うと




「アハハハハハハハハハ」




朝という事にも関わらず、結構な大声で笑い出す





























「あの時は流石ルリちゃんだなぁって思ったなぁ♪」





楽しそうに話すカイト




対するルリは頬をほんのりと赤く染める




「・・・は、恥ずかしい記憶を一々掘り起こさないで下さい!?」





その目覚まし時計のお陰で、カイトは研修に行ってる間、一度も寝坊する事が無かった





「え〜、僕はスッゴク嬉しかったんだけどなぁ〜」






「もういいです!大体そういう事を言うならカイトさんだって・・・・・・・・」





「えぇ〜、だったらルリちゃんも・・・・・・・」















そして2人の楽しそうな声は、部屋へと辿り着くまでの間




ナデシコBの通路に響きわたっていた
































どうも、ご無沙汰のEXEです

本編書かずに何書いてんだ〜って感じですが、咄嗟に思いついてしまいました(笑)

朝早く起きちゃってベッドでゴロゴロしてる時にキュピ〜ンって来ましたね

まぁ本編の方は展開の都合上、ちっと停滞してたりします

次話ぐらいなら時間があれば、出そうと思えば出せるんですが・・・

先の展開の事もありますので、もうしばらくお待ちをm(_ _)m




それでは、読んでくださった方々、ありがとうございました♪

今後もよろしくお願いします m(_ _)m









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