機動戦艦ナデシコ 時に抗いし者




  機動戦艦ナデシコ
  〜時間に抗いし者〜








  第六話   解き放たれる力《前編》
















『YOU WIN』


「へっへっへ〜、今日は私の勝ちだね〜

リョーコちゃん、お昼ご飯よろしくね〜♪」


対戦の勝者、ヒカルが笑顔でシュミレーターから顔を覗かせる




「へいへい、わぁ〜ってるよ。ったくもうちょっとだったのによ〜」


対する敗者側のリョーコは若干、不貞腐れながらも了承する


もう1人のパイロット、マキ・イズミは隅のベンチに腰掛けて何やらブツブツと言っている





未だ火星へと到達していない為、と〜っても暇なナデシコのクルー

その中でも、敵襲も無く、待機任務の時はシュミレーター訓練くらいしかやる事の無い

パイロットの面々はナデシコ内で一番暇だった・・・






そして今日も昼食を賭けて、シュミレーターを使った模擬戦闘をしていた時




シュン




ドアが開き、新たにシュミレーターを使うために入ってきた者がいた


「あれ?みなさん珍しいですね、まだお昼に行ってなかったんですか?」


ヒカルとリョーコが振り向くとそこにはカイトの姿があった



「っと、そういやもうそんな時間か・・・それよりなんでお前がここに?」


リョーコの問いにカイトは苦笑いを浮かべて答える


「あの〜、僕もみなさんと同じパイロットなんですが・・・・ハハッ・・・」


「うえっ!そうだったっけか?すっかり忘れてたぜ」


カイトの答えに本当に驚くリョーコ


「でもよ〜、同じパイロットなのに何で今までシュミレーターで会わなかったんだ?

おかしくね〜か?」


そう、リョーコの言う通り、カイトとリョーコ達がここで会うのはこれが初めてだった

でなければ、いくらリョーコでもカイトがパイロットである事を忘れたりはしない



「だって僕は意図的にリョーコさん達と使う時間をずらしてましたから

みなさんが終わった後で使わしてもらってましたよ?」


「ふ〜ん、別に時間ずらさなくても一緒にやりゃ〜良いのによ〜』


「シュミレーターマシン・・・いくつあると思ってるんですか・・・」



「一理あるね」

「今度ウリぴーに頼んで増やしてもらおっか?」


突然リョーコのすぐ後ろに現れたヒカルとイズミがカイトに賛同を示す




その後ろにはポツンと控えた2台のシュミレーターマシンがあった



















「それは分かったけどよ〜、折角こうして滅多に揃わない面子が揃ったんだし

ここらでいっちょ総当たり戦といこうじゃねぇか」


シュン


「おっしゃ〜!今日もいっちょやってやるぜぇ〜!」



そうリョーコが言い終わるかの所で再びドアが開き、ヤマダが顔を見せる


「お?お前らもシュミレーターか?」



「これで5人だな」


「あ?」



周りに了承は取られる事無く、5人での模擬戦闘が始まった























ここで説明しておくと、カイトは対人格闘ならかなりの強さを誇っている




だがこれがエステやアールナイトに乗るとなると話が違ってくる・・・



いくら自分の意思通りに動くといっても、ロボットと鍛えられた人間とでは


その動作が大きく違ってくる


普段の自分の動きをイメージしていると出来ない動きも生じてくるのだ


無論カイトもエステに乗り始めて長い為、その辺は理解している


故にカイトはロボットに乗ったときは自身の普段の動きとは違う戦い方をする




バッタやジョロなどの雑魚相手なら性能差に任せた大雑把な戦いでいいのだが


対エステなどになると、心機一転、後の先を取る戦いを好む


先手を受けてのムダを可能な限り省いた反撃


それが今のカイトに出来る最良で最強の技術であった















アキトを含むエステ隊の総合評価ではカイトが誰より勝るが


純粋な射撃技術ではイズミに劣るし、リョーコの打撃にヒヤッとさせられた事も少なくない


トータルで上回り、決め手にかけるヒカル相手が楽に思われるが

その予想とは裏腹に、トリッキーな動きは時に先読みを裏切る事がある


何だかんだでカイトの被弾率が一番高いのがヒカルであった


アキトに関しては稀にある爆発的な攻撃力が怖いが

3人娘やカイトにはまだ及ばない、というのが正当な評価だった


















が、



「これは古いもの・・・・・アタラ・・・しく・・ナイ・・・アタラ・・・ナイ・・・・・当たらない」
















それもあくまで


「いや〜ん、強すぎるよ〜」


















カイトの知る彼らの場合で


「いい加減に当たりやがれ〜!!」





















今はまだ先の話だったりする


「せ、正義が〜〜」





























プシュ〜〜















カイトとガイのシュミレーターのハッチが開き

中から憔悴したガイと平然としたカイトが現れる




「でぇ〜い、もう1回、もう1回だ〜!!」




憤慨したリョーコが再戦を望むが・・・


「止めといたら〜、データ見たら分かるじゃん

カイトくんの機体の損傷率は0%。1回も本体に当たってないんだよ?」



リョーコ、ヒカル、イズミ、ヤマダ、そしてカイトの5人で行った総当り戦の結果


誰もカイトにダメージを与える事が出来ず、カイトの圧勝に終わった




「わぁ〜ってるよ!!だから1回でもブッ飛ばさねぇと気が済まねぇんだよ!!

ホラ、やるぞ!」




そういってシュミレーターに乗り込むリョーコ


カイトも乗り込み機体を決めると、ランダムに地形が選ばれ、まもなく戦闘が開始される











『READY  GO』



「でやぁ〜〜!!」


地面を蹴ってブーストを使い、垂直に跳び上がったリョーコの空戦フレームが


開始地点に立ったままのカイトの陸戦フレームへとライフルを撃ちつつ突っ込んでいく





対するカイトはバックステップで射撃をよけると本命のリョーコ本人を見つめる


「ウリャ〜〜!」


エステバリスほど、乗り手の正確を反映するものは無く


リョーコのエステは真っ直ぐにカイトへと突き進んできた



加速とフィールドにより真紅の弾丸と化したリョーコ機は


カイトの持つライフルでは止まらない事は誰が見ても明らかだった



ただ、突っ込んでくるだけの単純な攻撃の為、回避も簡単であり


普通なら避ける局面なのだが、カイトは違う方法を選んだ






パラララララララ





「何っ!」



カイトの足元の地面へと放たれる弾丸





今回の地形は荒野という事もあり、着弾は派手に土煙を呼び起こし


瞬く間にそれはカイトの乗る機体を包み隠した



咄嗟にスピードを落としたリョーコ機は膨大な土煙の手前で止まった


瞬間、目の前の土煙の中、動くものを発見


「そこだぁ〜〜!!」



ガキィン



その拳は狙い違わずその動いていた物を捉えた




















が、




「げげっ」






リョーコが捉えた物はカイトの乗るエステではなく、ライフルだけであった









「しまっ・・!!」



そしてそれに気付いたときにはもう遅く


打ち出した腕は掴まれ、関節を逆に折られ


背部に小さな衝撃を受けたかと思うと、蹴り飛ばされてバランスを崩される




「ニャロ〜!!」




それでも諦めず何とか踏みとどまったリョーコだが


その背中にカイトの投げたイミディエットナイフが刺さり




カッ



それにより、すれ違いざまに背中に付けられた吸着地雷が爆発を早められ


ドォォン






『YOU WIN』



カイトの勝ちが決まった







「テッメ〜、大人しく あ・た・り・や・が・れ!!


勢いよく顔を出したリョーコが隣のシュミレーターから出てきたカイトに食ってかかる


「そ、そんなこといったって、手を抜いたら怒るでしょ?」


「ちっ、・・・まぁな」


その言葉にリョーコも渋々矛をおさめる



「しゃ〜ね〜な、んじゃとりあえず飯でも食いにいくか〜」



「さ〜んせ〜い♪」


「ご馳走様〜」


その言葉にギャラリーだったヒカル、イズミが返事を返す






「チェッ、覚えてやがったか。

まぁいいや、カイトにヤマダ〜、お前らも奢ってやるから行こうぜ」





「オレはガイだっての!」


「え〜、どうしたのリョーコちゃん、熱でもあるんじゃないの?」


ヤマダの反論は軽く流され、ヒカルが珍しいリョーコの言葉にやや過剰な反応を示す


「へっ、食堂の飯代位、2人増えた所でどってことねぇよ。

その代わり、食い終わったらもっかいだかんな!」



隠す事すらされなかった真意は苦笑いで受け止められた





































「おぃヤマダ、オメーは食い過ぎなんだよ、ちった〜遠慮しやがれ」


「オレの名前はガイだって言ってるだろ〜が!

それより次に最初にやるのはオレだからな!」


食事が終わって再びシュミレータールームへと戻る道すがら

リョーコとヤマダの大きな声が響きわたる


「最初に2人で戦って勝ったほうからやれば〜?」


睨み合う2人にヒカルが妥当な案を提供するがどうにも聞いていないようである





その時・・



「おわぁ〜、なんだ〜?」


突然の振動がナデシコを襲う





ヒカルだけがこけて尻餅をついた揺れが収まった後

5人の前にウィンドウが開き、ルリの報告が入る


「敵の攻撃です、パイロットの方は至急出撃をお願いします」


用件だけを簡潔に告げると最後にカイトをチラッと横目で見てからウィンドウを閉じる


「オッシャ〜、ようやく敵さんのおでましって奴か〜」


「フフフ、ついにこのダイゴウジ・ガイ様の見せ場がやってきたわけだ

よかろう、ならば諸君らにも真のヒーローというものをとくとお見せしようではないか!」



幸いにも敵襲の報告により、そのルリの動作に気付いたものは誰もおらず

5人は迎撃の為、格納庫への路を走り始めた



















「艦長、エステバリス、テンカワ機を含め、全機発進しました」

「了解しました、アキトファイト!」


握りこぶしを作りながら応援の意を露にするユリカ


そのユリカの視線の先にはナデシコより飛び出し、敵中へと突き進む6つの光があった










「そういえばさ〜、正規のパイロットも配属されて、更にカイトくんまでいるんだから

何時までもアキトくんにパイロットやらせなくても良いんじゃないの?」







「やはり予備のエステを余らせるより誰かに乗ってもらったほうが良いですしね

それに敵はいつも大群で来ますし、パイロットは少しでも多い方が良いんですよ

本人にもやる気があるようですしね」






プロスの言葉になかば納得した皆を尻目に舞台は戦場へと移っていった







































「ゲキガンパ〜〜ンチ!!



ドガァァン






「ゲキガンキ〜〜〜ック!!!



チュド〜〜ン






「行くぜ〜、必殺〜!!

ガ〜イ、スーパーッナッパーー!!!!!




チュドガァ〜ン








「ナ〜ハハハハッ!!どうだどうだ〜、オレ様の力を思い知ったか〜

っとわぁ!!あっぶね〜」



仁王立ちで高笑いをしているガイの元に


数機のバッタが突っ込んできたのをギリギリかわす




「こ〜ら、ヤマダ〜!バッタ倒すのにんな時間かけてんじゃねぇよ!!」


「敵さんはい〜っぱいいるんだから一体づつ相手してたら終わんないよ〜?」


「・・・タイマンを挑むあなたは怠慢、・・・働きな」




「うっ・・・・、わぁってるよ、本番はこれからさ!!」


3人のツッコミに言葉を詰まらせながらも強気なガイ


そしてバッタの群れへと突き進み




「ゲキガ〜〜ンフレア〜〜〜!!!




掛け声一閃、バッタを粉砕していく
















「ちっ、最初からそうしてろってんだよ、ったくよ〜」


勢いに乗ってフィールド全開で縦横無尽に飛び回るヤマダを横目に

リョーコ、ヒカル、イズミも3人揃っての飛行により、バッタ程度はまるで寄せ付けない




「にしてもバッタちゃんばっか相手しててもしょうがないよね?」


「そうね、狙うは中央、大型艦、彼みたいにね・・・」


「「かれ〜〜?」」





イズミの言う中央の大型艦の元では光点が1つ、今まさに攻撃を仕掛けていた




「でやぁ〜〜!!」




アキトの乗るエステバリスの拳がヤンマのフィールドを深く突き進む

しかし戦艦のフィールドは厚く、その攻撃はむなしくも届かず、機体ごとはね返される




「クッソ〜、負けるか!!」




「おいコック〜、ムリすんなよな〜」


「そうそう、死んだら終わりだよ〜」



ヤンマのフィールドに弾き返されたアキトの元に、リョーコ達3人が集まる



「そんなこと言っても、これを落とさないとナデシコは火星に降りられないんだろ?」


「・・・まぁな、けど良く分かったな、んなこと」


辺りの状況を再確認しながら頷くリョーコ


確かにアキトの言うとおり、これを落とさないと火星へは降りれそうもない


「あぁ、カイトが教えてくれたんだ、この戦艦が要だって」


その名前にピクリと反応しつつも本人の姿を見てない事に気付く


「そういやアイツはどこにいんだ?一緒に出たのによ〜」




そう言った瞬間、例のヤンマにライフルの銃撃がくわえられる




それはヤンマだけでなく、周囲に陣取るカトンボの群れにも与えられた


当然フィールドによってその攻撃は阻まれる










「・・・・・・良い腕してるわね・・・」



「腕が良いのは認めるけどよ〜、それだけじゃないんだよな〜

戦ったら分かるけど、なんつ〜か、先を読んで動いてやがるんだよ」





呟いたイズミ、そして散々シュミレーターでカイトと戦ったリョーコの言うとおり


カイトの力量が凄い事は彼女らにはスグに伝わった










何も知らないものから見れば、ただ弾をばら撒いて、全部フィールドで防がれている


闇雲で無意味な攻撃に見えるが、真意は違う






確かに結果としてダメージは与えていないが、銃弾は確実に敵の機先を制し


それゆえに敵も攻撃が出来ず


エステバリス、そしてナデシコにはバッタが向かってくるか


その数ゆえに、カイトが御しきれなかった数少ないカトンボからの散発的な攻撃しかなく


戦況をナデシコ優勢へと導いていた






「よ〜し、もう1回いってやる!!」



「オィオィ、何か方法考えねぇと同じことだぜ」




「アキト〜〜〜!!




そんな時、バッタを蹴散らしていたガイがこちらに気付き、合流する







「ガイ!?」


「アキト〜!1人で駄目ならオレ達が力をあわせれば良いじゃないか!!」


「そうか!?同時攻撃なら・・・・ガイ!!」


「オゥ、行くぞアキト〜!ゲキガンシュ〜トだ!!」


「あぁ、ウワァァァァ!!」



そして2人ぴったり並んでヤンマへと向かい



「「ダ〜ブルゲキガンシュート!!!」」



2人の突き出した拳が、先程アキトが弾かれた時よりも深くヤンマのフィールドを突き進み




ズガガスッ




2人の攻撃はフィールドを突き抜け、ヤンマに致命的なダメージを与える



攻撃の成功を確認すると、2人は爆発に巻き込まれないよう、それぞれ別方向に離れる



その後まもなく、ヤンマは周囲のバッタやカトンボを巻き込んで大爆発を起こす






「イヨッシャ〜〜!!」


「やったな、ガイ!」


「あぁ、オレ達2人の合体技の勝利だぜ!!」




そしてエステ同士で腕を組む2人















そんな2人を見ていた女性3人は


「暑苦しい・・・」


「うんうん、燃える展開だね〜♪」


「熱血担当は2人で決ま〜り〜」





といった感じであった
















「艦長、前方の敵8割方消滅、火星降下軌道取れます」


「直ちにエステバリス隊を回収、その後火星へと突入します」



「「「了解」」」






殆どの敵の消滅を確認したブリッジでは火星へと降りるため


ユリカの指示の元、命令が飛び交う


もはや火星へと向かうナデシコを妨げるものは一切なくなったのだ




























シュン





「艦長、エステバリス隊、全機帰還しました」


ブリッジのドアが開き、帰還したカイトが報告に入ってくる


「あ、報告ご苦労様です

それよりカイトくん、グッドタイミング!!今から火星に降りるところだよ♪」


入ってきたカイトに気付くと笑顔で話しかけるユリカ


確かに現在のナデシコはユリカの言うとおり、今まさに大気圏に突入するところであった




「へぇ〜、そうなんですか、じゃあもう火星に着くんですね?」


「うん、もう着いたようなもんだよ♪」



「そうなんですか〜、あっ!そうだアキトさんにも教えてあげないと」



ユリカの言葉にカイトはコミュニケをアキトへと繋げる




「あ、アキトさん、もう火星に降りるみたいですよ、これから降下だそうです」



コミュニケに映るアキトはガイと共にジュースで一服しているところだった


しかしカイトの言葉にコミュニケの画面に飛びつく




「本当か?ついに火星に着いたんだな?」



「えぇ、後は大気圏を越えるだけですよ」



「そうか〜、ついに火星か〜・・・」



アキトが火星への感慨に耽っているとき、同じく思考の渦の中にいる者がいた



(アキトに私のカッコイイ姿を見てもらわなくっちゃ・・・そしてそれを見たアキトは・・・〈妄想〉)



自分の想像に締まりの無い顔を浮かべるユリカ


そして唐突に顔を引き締め指示を出す



「地上に第2派がいるはずです、艦首を下に向け、グラビティブラストをフルパワーで!」



(さぁアキト、私の凛々しい艦長姿を見て〜♪)







そして・・・・






「格納庫の重力制御がされていませんが宜しいですか?」



「はい?」



「了解しました」



艦長のユリカの指示に一応確認を取るルリ


それにユリカが了承(?)を返すと、すぐさま指令を実行する






つまり・・・・













「ノオォォォワアアァァァア〜〜!!」



「ぎゃ〜!!」



「ス、スパナが、工具が〜〜〜!!」



「離せ〜〜、オレまで落ちるだろ〜が〜!!」



「イヤだ〜、どうせ落ちるなら道連れにしてやる〜〜!!」



「「ウワアアアァァアァ〜〜!!」」



「こ〜〜の〜〜馬鹿ユリ《ブツッ》」







艦体が傾き始めた瞬間から、阿鼻叫喚の地獄へと変わる格納庫


しかもリアルタイムでコミュニケが繋がっていたりするので気まずさも倍増・・・


直接コミュニケを繋いでいたアキトも、もちろん抗議を叫ぶが


残念ながらその叫びは最後まで聞かれる事無く、唐突にコミュニケが切断される












「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」





・・・・・・・ブリッジに漂う静かな沈黙










「グラビティブラスト発射」



ややあってルリの声の元、発射されるグラビティブラスト


その攻撃によって


「地上の敵影、全て消滅しました」





そして少しして、無言で船体を水平へ戻すミナト










「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


















ナデシコは無事に火星に到着する事が出来た


































「これより地上班を編成し、上陸艇ヒナギクで地上に降りる」


格納庫の騒ぎも一段落し、ブリッジでミーティングを行う主要クルー達


その中には額に絆創膏をつけたアキトの姿もある





フクベ、ゴート、プロス、ジュンが真面目に今後の行動を話し合っている、その時


「あの、オレにエステを貸して欲しいんですけど・・・

ユートピアコロニーを見に行きたいんです!!」


アキトは強い意志を持って、ゴートに頼み込む


「あそこにはもう何もありませんよ・・・チューリップの勢力圏ですから」


「今更行っても、辛い思いをするだけだぞ」


しかし、大体の火星の状況を知るだけに、プロスやゴートの反応は渋い


やはりといった感じで俯くアキト、あくまでこれは自分の我侭なのだから・・・





そんな中・・・・


「行ってきたまえ、誰しも故郷を見る権利はある、それが若者なら尚更な」


「あ、ありがとうございます!!」


その言葉にアキトは笑顔を浮かべ、プロスとゴートは驚きを返す


慌てて言葉を返そうとするが、


「お飾りとはいえ、戦闘指揮権は私にある筈だね?」


そう言われ、咄嗟の反論もままならない二人




そこに更に誰も予想しなかった者が声を上げる











「すみません、僕も外出を許可していただけないでしょうか?

どうしてもこの火星でやらなくてはいけない事があるんです」


皆が振り向いた先に居たのはカイトの姿だった


「カイトさん!あなたまで何をおっしゃるんですか!

現在は周囲に敵影が無いとはいえ、いつ敵襲があってもおかしくないんですよ!

それが分からぬカイトさんでは無いでしょう!?」


アキトの時とは違い、即座にカイトに不許可を出すプロス



同じパイロットとはいえ、アキトとカイトとではかなり実力に開きがある


また、機動兵器戦に限らず、有事の際の的確な判断力、行動力、決断力


そのどれをとってもかなりの高水準にあるカイトが、一時的にとはいえ


この敵地の中、手元を離れるのは、ナデシコの生存確率を著しく低下させる事になる


プロスがNOと言うのも当然のことである




しかしそんな事が分からないカイトではない




今、当初の歴史とは違いが出てきている中、


カイトがいなくても、彼の知る歴史道理に


ナデシコが無事に火星を脱出できる等と楽観視してはいない


だが、その考えを踏まえても、カイトはどうしてもやらなければいけない事があった



「分かってます・・・・それでも僕にはやらなければいけない事があるんです!!」


プロスの言葉に一歩も引かず、自分の意思を告げるカイト


負けじとプロスも言い返そうとするが・・






「良かろう、行ってきたまえ」


プロスの後ろから、フクベが許可を出す


これには、いくらフクベ提督が戦闘指揮権を持っていると言っても、二人は反論した


「なぁ!?提督、何を仰るのですか!

いくら提督といえど、そんなに軽々しく決めて頂いては困ります!!」


「提督・・・流石に今回は承服しかねます」


プロスとゴートは、ここは譲れないというプレッシャーを出す


パイロット一人が抜けるのと、カイトが抜けるのでは話がまるで違うのだ


そんな二人のプレッシャー等、お構いなしとばかりに平静を保つフクベ提督


その眼は深く被った帽子とスッカリ白くなっているが、未だ貫禄を保つ長い眉に隠され真意が窺えない


「一人だけ許可して、もう一人の外出を許可しないわけにはいくまい

それに・・・」


フクベは少し顔を上げ、先程から隠されていた眼を光らせる


<簡単に止まらぬ覚悟がある>・・・・・違うかね?」


フクベの眼はそのまま問いかけの相手、カイトへと向けられる


フクベの醸し出す雰囲気、そしてその瞳に周囲がゴクリと息を飲む


歴戦の兵のみが持つ迫力、真実を引き出す威圧感


ナデシコに来てからは牙を収め、穏やかになっていたが


それ以前は連合提督として多くの部下を従え、数多の戦いを経験している


能力は高くても、所詮少し前までは民間人として、


普通の生活をしていたナデシコのクルーとはメンタル面で大きな違いがある




数人を除く殆どが萎縮する中、直接対話をしているカイトは・・・




「仰るとおり、今回だけはどうしても譲れない事情があるのです

許可を頂き感謝します、フクベ提督」


予想外のあっさりとした許可に驚きこそしたものの、フクベに対し、萎縮することなく


素直に礼を述べる



「・・・分かりました・・・そうまで仰るなら私もこれ以上引止めはしません・・・

ただし!なるべく早く、遅くても12時間以内に帰還していただく!

これが条件です、守っていただけますか?」


一連の流れを隣で見ていたプロスもカイトの決意の固さを知り


また、戦闘指揮を任せてある提督のフクベが許可を出した以上


この先の交渉はカイトの説得では無く、フクベを説得しなければいけない


しかし、それも難しいと見るや、いち早く譲歩案を提示する


この辺りの見切りの早さと、頭の回転の速さは、まさに交渉人に相応しいと言える



「はい、それは守らせていただきます

僕も帰還時間までは予測はつきませんが、長い時間ナデシコを離れるつもりもありません

早く用事が済めば、その分早く帰ってくるつもりです」



カイトの返事に満足し、ここでようやく笑顔を見せるプロス


「それではこれより作戦行動を開始する

カイト、テンカワの両名も迅速な行動を心がけるようにな」



「「ハイ!」」


プロスの表情を見て、行動開始を宣言し、併せて別行動の二人に声をかけるゴート


それに二人は元気な声で返事を返す







そして数十分後、ナデシコからは


調査の為のヒナギク、メグミまで同乗してしまったアキトのエステ


そして、カイトが乗るアールナイトがそれぞれ発進していった


















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