機動戦艦ナデシコ 時に抗いし者




機動戦艦ナデシコ
〜時間に抗いし者〜








第五話   料理バトル開催!《前編》


















「お集まりの皆様、長らくお待たせいたしました〜!

これより特別イベント

第1回ナデシコ料理バトルを開催いたしまぁ〜す!!」




料理バトル開催宣言に大いに沸き立つナデシコクルー

その中には当然カイトの姿もあった












「どうして僕がここにいるんですかね?」



・・・・・作る側に・・・・・







そのカイトの所に今回5人の審査員の1人として参加しているルリがやってくる


ちなみに審査員はユリカ・ウリバタケ・プロス・ミカコ・ルリの5人である


さらに言うとミカコはホウメイガールズ5人によるジャンケンに勝ったことでここにいる







「カイトさん、すみません、ご迷惑をおかけして・・」


「え?どうして謝るの・・・まさか今回のイベントってルリちゃん絡み?」


突然謝られて訳の分からないカイトはとっさに思いついた予想を訪ねるが・・


「実は先日・・・」


その予想はしっかり当たっていた・・・























今から3日前、サツキミドリ2号を出発して10日が過ぎた日

ルリはカイトに食事を作ってもらって以来利用しているナデシコ食堂へとやってきていた

食堂についたルリの隣には同じブリッジ勤務のミナトとメグミの姿もある



「私はA定食にしよ〜っと、ミナトさんとルリちゃんは何にします?」


「そうね〜、私もそれでいっかな〜?ルリルリもそうしない?」


ミナトはルリに訪ねるが


「私はチキンライスにしておきます」


当の本人は既にボタンを押して食券を獲得していた


「ルリちゃんってチキンライス好きなんだね〜、一昨日も食べてたでしょ?

まぁホウメイさんの料理は何でも美味しいんだけどね♪」


「そうですね」


そうして3人は揃って食券を手にし、それを持って注文にいく


「「お願いしま〜す」」「お願いします」




「「「「「は〜〜い!」」」」」




ホウメイガールズの元気な声が辺りに響き

注文された料理をさっそくホウメイが準備に取り掛かる



3人は出来るまでの間に並びの席を確保し、しばらく雑談をかわす




「そういえばさぁ、メグちゃん。な〜んかこの頃嬉しそうじゃない?

一時はすっごく落ち込んでたのに・・・」


ミナトの言う一時と言うのはサツキミドリ2号での事件の後の事だった

目の前で人が死ぬという事に直面したメグミは酷く落ち込み

その日から4日程、碌に仕事も手に付かない、気落ちした状態だった




が、次の日になってみるとそんな状態はどこへやら・・・

いつも通りに仕事をこなすようになっていた


共に働く周りの者はきっと自力でその状態を脱出したのだと思っていたのだが

日が経つにつれ、段々メグミは見るからに幸せそうになってきた



「えへへ〜、やっぱり分かります〜♪

実は私、最近良いなって思う人が出来て〜、結構上手くいってるんですよ〜♪」


「あぁ、やっぱり。そんな事だろうと思ったわ。」


このメグミの答えをミナトは予想済みだったらしく、案の定といった顔をしている




「はい、A定2つとチキンライス、上がったよ〜!」




近頃のメグミのご機嫌な理由がちょうど判明した所でホウメイから声がかかる

それを受け取り口に取りに向かうと出来上がった料理を運んできたアキトに会う


「ありがと♪」「どうも」


と普通に受け取り席に戻ろうとするルリとミナトだが、メグミがついてこない

ふと振り返るとアキトから受け取ったA定食を手に2人がじっと見つめあっている



・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・5秒、・・・・・10秒、・・・・・・そして30秒と飽きもせず見つめあっている2人に

さすがに声をかけるべくミナトが近づこうとした途端




「こ〜らテンカワ〜!!仕事はそれで終わりじゃないんだ、さっさと戻ってくる!!」




「は、はいぃ〜!すんません!痛って、ってのわぁ〜〜!」




ドンガラガッシャ〜ン








「ア、アキトさ〜〜ん!」





「何やってんだい、全くもう・・・」






厨房からのホウメイの一喝によりアキトは慌てて戻るが

振り向きざまに引っ掛けた鍋やフライパンが彼へと降り注いでいた

幸いにも怪我が無かった彼はホウメイにお叱りを受け

派手に落っことしてしまった鍋などをひたすらに洗っていた・・・


















「しかし、まさかテンカワくんとはね〜、一体どうやって急接近したのかしらね〜」


「え?えっとですね〜・・」


しばらく心配そうに見ていたメグミを、大した事じゃ無いと言って引っ張って

先に戻っていたルリの待つテーブルへと話しながら戻る2人


そこではテーブルのチキンライスにはまだスプーンをつけず

2人の帰りを待っていたルリの姿があった


「あ〜、ゴメンねルリルリ〜、待たせちゃって」


「ごめんね、ルリちゃん。先に食べ始めててくれても良かったのに」


「はぁ・・・それはともかく、料理が冷めない内にいただきましょう」

少なからず待たせてしまったという自覚の有るミナトはルリと言葉を交わしつつ

それとなく機嫌を窺うが、特に怒った様子が無い事を確認すると



「そうね、それじゃいただきましょっか♪」


「「はい(♪)」」



そうして3人は昼食を食べ始めるのであった




















そして食べ終わった3人は、ただ今テーブルにて食後の一服をしている


ルリがオレンジジュース、メグミがミルクティー、そしてミナトが渋くお茶を啜っている


「お茶もなかなか良いものよ〜ん♪」


フクベ提督と話が合いそうである







「そういえばさぁ、メグちゃん。さっきの質問の応え、なんでか教えてよん」


ミナトの言う質問とは言わずと知れた、アキトとの急接近についてだ

それを聞いて思い出したメグミは先程までの笑顔と違い真面目な顔になる


「それなんですけど、私この間までずっと落ち込んでたじゃないですか?

仕事中はまだ良かったんですけど、部屋で1人でいるのが無性に嫌だったんですよ

なんだかあの時の事ばかり考えちゃって・・・」


これは今まで戦いの無い、平和な環境で暮らしていたのに

突如身近で発生した、人の理不尽な死を目の当たりにした為に起きた

一種のショック状態であった



大抵は時間が解決してくれるものなのだが、生憎、メグミはナデシコの通信士だ

今後、そのような事態がまた起こる可能性は今までの生活に比べて極めて高い


更にそうなった時、その人の精神が弱ければ、精神分裂

最悪の事態として、精神崩壊等にもなりかねない





この例は極端なものでメグミがそうなるとは言わないが、可能性は誰しも含んでいる


早い話、この状態をなんとかしない限り

ナデシコでの仕事に支障をきたすのは確実だという事だ




「だから不安になるといつも大きな空間に出て気持ちを落ち着かせていたんです

広大な空間に1人でいるとモヤモヤしたのがいくらかマシになって楽になるんです」




ミナトとルリは黙って聞いていた




ミナトはそこまでメグミが思い込んでいたとは思っていなかった

しかし元気でニコニコな今の彼女を見れば立ち直ったのは明らかだ

この先に自分の知りたい事柄が待っているのだろうと・・・





ルリの方は根本のミナトの質問の答えはどうでもいいのだが

真剣な顔で話すメグミの言葉をしっかりと聞いていた


こう言っては何だが、自分が何とも思わなかったサツキミドリ職員達の死亡・・

かわいそうとは思ったが、それ以上でも以下でもない

互いに兵器を用いて戦争をやっている以上、人が死ぬのは当然なのだ

今まで知らないところで死んでいた人達が、今回は自分達の目の前で死んだだけ



それに大きなショックを受け、立ち直れるか、否かにまで追い込まれる人もいるのだと











「そして毎日、寝る前に展望室に通っていたある日!そう、その時なんですよ!!」


妙に力の入ったメグミの言葉を受け、彼女の顔を窺うと

今までの真剣な表情はどこへやら、すっかり頬の緩んだ笑顔になる

その顔には興奮とは違う赤みが若干差しており

何かを思い出して照れているのだろうと想像がつく




ちなみにこの時点でミナトはもっとも真剣に!

対するルリは興味を失い、話半分に聞いていたりする



そしてそんなギャラリーなどは視界に入っていないのか

ヒートアップしたメグミは両手を胸の前で組み、眼を閉じ、天を仰ぎながら語りだす







『あれ、メグミさん・・・どうしたの、こんな所で?』って・・・

1人、いつものように座り込んでいた私は、ドアが開いたことも

人が近づいている事にも気付けなかったんです

その時はとっさに『何でもないです』って出て行こうと立ち上がったんですが

私が話し出す前にアキトさんが言ったんです」



そこで更に一呼吸置いてメグミは話を続ける




『メグミさんがこの間の事で落ち込んでるのは知ってるし

その今の気持ちを他人の俺が分かるとは思わない』
・・・そこまで聞いて私は

この人は私にお説教をしにきたんだなぁって思ったんです

そう思った瞬間、涙腺が刺激されて・・・・・お説教なんか聞く気になれなかったし

なにより泣く所なんか見せたくなかったんです

だから走り去ろうとしたんですけど、・・・・アキトさんがこう言うんです

『だからさ、辛い事があるなら一緒に悩もうよ・・・

俺たちさ、同じ目的を持って、同じナデシコに乗ってる仲間だろ

俺は頭悪いから答えを出すのは難しいかもしれないけど

一緒に悩む事は出来るしさ・・・ね?』
・・・ってキャ〜〜〜♪



よほどその時のアキトの言葉が嬉しかったんだろう

最高潮に興奮したメグミは顔を両手でおさえてイヤイヤと頭を振っている


またミナトはミナトで「なかなか上手いわね」等と呟いている


しかしこのままでは何時までたってもこの話が終わらない、休憩時間も長くないのだ


そう思ったルリはメグミにさっさと先を促す





「それで、その後どうしたんですか?それで終わりですか?」





ルリにしてみればそこで終わって欲しかったのだが、まぁ当然ながら終わりではなかった




「そしてね♪その言葉に感激した私はまた泣きそうになっちゃったの

でもやっぱり涙は見られたくなかったから・・・その・・・アキトさんの胸に・・・・

それで泣いてる時も優しく背中を撫でていてくれて

泣き終わった後もちゃんと話を聞いてくれて・・・それで・・」



「それですっかり惚れ込んじゃったってわけね?あ〜熱いわね〜、ね〜ルリルリ♪」


「そうですね」



ミナトの言葉にルリは無感動に答えるが、メグミの方は若干、顔を赤くしている

しかしその表情はどこまでも笑顔だ・・・・締まりが無いとも言う



「さて、それじゃメグちゃんの恋のお話も堪能したし、時間も無いから戻りましょうか」


「えっ!もうそんな時間ですか?」


ミナトの言葉にメグミがコミュニケで時間を確認すると、もう休み時間は10分も無い



「そっ、もうこんな時間なの。だから、とりあえずブリッジに戻りましょ♪」




そうして3人は揃って席を立ち、飲んだものを片付けてから食堂を出る









そのブリッジへと向かう道筋の中、ミナトは何気なくルリに尋ねてみた



「そういえばさ、ルリルリってよくチキンライスを食べてるよね〜

ホウメイさんの作るチキンライスってそんなに美味しいの?」



「ミナトさんってチキンライスはまだ食べた事無いんですか?

私も1回だけしか食べた事無いですけど美味しいですよ〜

私が今まで食べてきたチキンライスを使った料理の中で一番じゃないかな〜?

オムライスの専門店とかにも行ったことありますけど、そこよりも美味しいですよ♪

もちろん、ホウメイさんの料理はぜ〜んぶ美味しいですけどね♪」



「へ〜、ルリルリが何度も注文するだけの事はあるって訳だ〜」


それじゃ明日のお昼はそれにしよう♪、等と思っていたミナトにルリから声がかかる



「確かにホウメイさんの作るチキンライスは美味しいです

けど、私があれを頼むのはそれが理由じゃありませんよ」



ルリの意外な意見に2人は立ち止まり、ルリに真意を問いただす



「えっ・・・っていうと何か他の理由があるってことよね?」


「それってどんな?」



ルリは少し考え込むと、再び続きを話し出す



「ホウメイさんの作るチキンライスが・・・似ているんです」


「「似てる??」」



2人はますます分からないといった感じになる



「はい、私が初めて食べたチキンライス・・・その味に似ているんです

その時に食べたのが美味しかったから今もよく頼んでいるんです」



「へぇ〜」


ミナトはこれを聞いて何だか感心していた

これがルリじゃなければ子供の好きな食べ物として聞いていたのだが

ルリが言うと余りそういう風な解釈に結びつかないのだ


「それじゃあさ、やっぱりその初めて食べたチキンライスってのはさ」


「ホウメイさんが作ったものより美味しかったですよ」



ルリはミナトが聞きたいことをしっかりと理解して簡潔に答えた


とそこに何かを思い出したのかメグミが声をかける



「あれ〜、でもルリちゃんって初めて一緒に食事したときに

食堂使うの初めてって言ってなかったっけ?」


そういえばとミナトも思い返す・・・そして1つの結論に結びつく



「って事は初めて食べたチキンライスって・・・ナデシコで?」


「はい」


ルリはコクリと頷く


そう言われ再び考え込む


このナデシコ艦内にホウメイより料理が上手な者などいただろうか・・・

そしていたとしても食堂を使ってないという事はどちらかの部屋で作って食べたのだろう

となるとそれ程ルリとは親しい人物という事になる

ルリの行動範囲を考えると自然とブリッジクルーの誰かと言うことになるのだが・・・


「あっ!」


そこまで考えて1人、ブリッジクルー以外でルリと親しいものがいたのを思い出した

そういえばそれらしい事を言っていたし、あの日からルリは一緒に食事するようになった


予測がほぼ確信に変わった所でミナトはルリに直接聞いてみることにした




まぁ、まず間違いなく


「ねぇ〜、ルリルリ、それってカイト君じゃないのかしら?」

「そうですよ、よく分かりましたね」


当たっていると思っていた




「すご〜い、カイト君って料理も出来るんですね〜」



ピピッ、ピピッ、ピピッ



そうメグミが言った時にミナトのコミュニケがアラーム音を鳴らす



「あらやだ、立ち止まって話してる場合じゃなかったわね」


これはミナトが念の為と、休み時間終了5分前にセットしておいたタイマーだった

歩いても十分間に合う時間だがゆっくり話している時間は無い


「それじゃとりあえず行きましょうか、遅れるとプロスさんに悪いし

続きは向こうでも出来なくは無いしね」


「「はい」」



そうして3人は再びブリッジへと歩き出した




















「ふっふっふっ、こいつぁ面白れぇ事を聞いたぜ

ちょうど退屈で暇してた所だったからな〜」

そこにはT字区画でカップそばを食べつつ、たまたま話を聞いてた整備班長がいた

















そしてこの日より、カイトには内緒で着々と準備は進み

ついに今日、予定されていた全ての準備は完成し

後は2人が勝負するだけとなったのである


















「なるほどね〜、そういうことだったのか」



こうなった要因をルリの知っている範囲で聞いて、納得するカイト


ルリ自身も審査員に選ばれ、この大会のきっかけを聞くまでは

自分が関わっているとは思ってもいなかったのである




もちろん最大の要因はウリバタケなのだが

ルリが話した内容によって、この料理大会が開かれたのも事実


この大会をあっさり認めたプロスもプロスなのだが

今、ナデシコ艦内はと〜〜ってもヒマなのだ

プロスにしてみれば料理大会というコストもあまりかからない(←ここ重要)イベントで

艦内が盛り上がってくれれば大いに助かったりするのだ



故に今回におけるルリの責など至極小さなモノなのだが

それを判断した上でルリは最初にカイトに謝ったのだ



彼女は自分の行動や言動から生じた責任に対して正直である

他人になすりつけるなど、考える所か、選択肢にすら無い

初めから存在していないのだ










一方カイトはこのルリの対応に若干困っていた


ルリの責任ではないと言いたいが、それだとルリの性格上少しこじれるかもしれない

何とかルリの気持ちを持ち上げて、上手くいく返答を考える・・・・




そして、カイトは思いついた



「ありがとう、ルリちゃん」


「え?・・・」


カイトの予想外の返事にあっけに取られるルリ

その間にもカイトの言葉は続く


「だってさ、ルリちゃんはホウメイさんが作ったものよりも

僕が作ったチキンライスの方が美味しいって思ってくれてるんでしょ?

そこまで言ってくれるんだから、自信は無いけど頑張らなきゃね!」


「はぁ・・・」


「それに・・・・この前に言ったしね

次の機会にはもっと美味しく作ってみせるってね♪



そのカイトの言葉に、ルリも先日の事を思い出し、微笑を浮かべる


「そうですね・・・・そういう約束でしたね」


「うん、それじゃあ期待してて!すっごく美味しいのを作ってみせるから!」


その無邪気なカイトの笑顔に微笑を浮かべていたルリは思わず笑みを零す


「ふふ、はい。審査員席で待っています

言っておきますが、私は公平に審査しますからね」


「もっちろん!公平じゃなかったら僕が怒るよ

それじゃあ行ってくるよ、待っててね〜♪」



そうしてカイトは人を掻き分けて進み、その姿はステージの方へと消えていった




















「お礼を言うのはこちらです・・・・ありがとうございます・・・カイトさん」















少女の呟きは多くのギャラリーの喧騒の中に紛れ、誰に聞かれることも無かった

















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