機動戦艦ナデシコ
〜時間に抗いし者〜








第四話   残る生命、散る生命《後編》











カイトがナデシコを発進してからおよそ1時間と50分


サツキミドリ到着までまだ1時間ほどあり、ついでに食事時というのもあって

ブリッジには今現在ルリとユリカしかいない



「ふにゃ〜〜、ルリちゃんヒマだね〜。」

艦長という身分にも拘らず、艦長席でだらけきっているユリカ

今の彼女を見て誰が戦艦の艦長だと思うだろうか・・・いや、思わない

「レーダーに機影を3機確認

識別信号よりサツキミドリ2号より乗艦予定のエステバリスと判明しました」

そんな時、ナデシコのレーダーに反応する3機の機体を確認

識別信号の出ていたそれらの機体はサツキミドリで合流予定のエステバリスであった

ルリはそれを、すっかりだらけきっているユリカへと報告する

「ふ〜ん、そうなんだ〜・・・・・・えっ!

すぐに頭の回路が繋がらなかったユリカは慌てて立ち上がる

「このままではフィールドに衝突します、どうしますか、艦長?」

「フィ、フィールド解除、ただちに格納庫に誘導して下さい

あっ!それとプロスさんと提督に連絡お願い、至急格納庫に向かうようにって

私も迎えに行くからルリちゃん留守番よろしくね〜」

と指示を出してブリッジを後にするユリカ

1人残されたルリはこの状況を自分なりに推理しはじめた

(到着を目前に控えた今、向こうからやってくるという事は何かあったんでしょうね

そして出て行ってから結構経つにもかかわらず未だ戻らないカイトさん

試験飛行なんて言ってたくせに・・・)


それだけ考えてルリは一言呟いた

「・・ばか・・」

そして連絡事項を伝えるべくオモイカネへと再びアクセスをするのであった


























「「「「サツキミドリに爆弾!?」」」」





収容した3機のエステバリスのパイロット

言うなればサツキミドリからの伝令としての彼女達の報告を聞いてその場の皆は驚いた

サツキミドリで合流予定の彼女達がわざわざこちらに来たことで

サツキミドリに何かがあったのは容易に想像がついた。

しかしまさか爆弾が仕掛けられたとは・・・

「あぁ、それでオレ達がナデシコに助けを呼びにやってきたって訳さ」

そこまで聞いてユリカは自分のコミュニケを操作する

すると2つのウィンドウがユリカの前に表示される

「ミナトさん、急いでブリッジに戻ってください、緊急事態です!

ルリちゃん、ナデシコの最大船速でサツキミドリ2号までどれくらいかかる?」

片方は食堂での食事を終え、ブリッジに戻ろうとしていたミナトへ

もう片方はブリッジで待機中のルリへと繋がれ双方に指示を出す

「ちょっ、ちょっと、どうしたの!?まさか敵襲?」

「25分で到着可能です」

突然の指示にミナトは困惑気味で歩いていた足も止める

対してルリは計算の必要なそれを即座に答える

それもそのはず、ルリはサツキミドリに急いで向かう事になるのを想定し

リョーコ達の着艦前に既にそれを割り出していたのだ

「ありがとう、ルリちゃん。

ミナトさん、今から全速力でサツキミドリに向かうので、操舵をお願いします」

そうして双方のウィンドウを閉じるユリカ

ウィンドウを閉じた事で事情が分からずとも、ミナトは急いでブリッジに向かうだろう

ルリの反応が早いのは少々意外だったが気にとめる必要も無かった

そしてユリカの目は3人を見据え、口を開く

「爆破の時間は?それと規模を」

話が自分達の方からズレ、ボ〜ッとしてた所への質問だったのでリョーコは意表をつかれた

「うぇ、あっ、えっと〜・・・時間は〜・・・・・」

加えてサツキミドリを出る際に約2時間という事は知っていたが

ナデシコにつくまでにかかった時間をリョーコは全く意識していなかった

そこへ助け舟が出された

「爆破の時間は後63分後、爆弾はサツキミドリ各部に、あわせて65個はあるそうよ

一応もう除去作業をやってるけど間に合うかどうかは分からないね」

そこまで聞いてユリカは笑顔になって敬礼した

「了解です、ご報告感謝します。

3人には向こうに到着したら避難を手伝って貰いますのでそれまで休憩してて下さい」

そしてブリッジへと向かいつつコミュニケを使い、再度ミナトへと通信する

「ミナトさん、準備出来てますか?」

「はいは〜い、大丈夫よ〜ん。もうやっちゃっていいの?」

「はい、全然かまいません。やっちゃってください♪」

「りょ〜か〜い♪」





そしてナデシコはサツキミドリ2号へと急速に近づいていくのであった































そしてこちらはサツキミドリ2号




そこではすでに全ての避難が完了していて

ナデシコ到着と同時に避難民は脱出できる状態になっていた

また、カイトと、フジサキをはじめとするサツキミドリの職員達のおかげで

爆弾の方もすでに7割近くに当たる44個の除去が完了していた


『居住区第1階層、ここの爆弾は全て回収完了しました』

『第3階層、こちらも回収完了しました』

比較的爆弾除去が簡単だった居住区から、たて続けに連絡が入る

これで回収した爆弾の数は46、残りは19になる

だが同時にタイムリミットも迫っている

残り時間は37分、その間に残りの19の爆弾の除去

更には動力炉のほうでも既に小型の爆弾を3つと大型のを1つ確認している

小型は外せば良かったが大型はそうもいかなかった

よって今もって処理作業中である










カイトの後ろについて外した爆弾をカートで運んでいる職員二人は顔を見合わせる

カイトの爆弾を見つける能力は素晴らしい

明らかに視界に入らない場所や換気ダクトの中にある爆弾をピンポイントで見つける

本人曰く、音で見つけているらしいが、人のいない居住区ならともかく

未だ色々な機械が動いていて、音が絶えない場所でもそれを行うのだ

しかもカイトの後ろではガラガラと音を立てて走る2台のカート

さらにその中には今まで回収した沢山の爆弾がピッピッと音を立てている

まさに神業としか言いようが無い

そんな事を考えている時、カイトが不意に高く跳んで頭上をはしっていた太いパイプに登る

そして少しして降りてきたその手にはしっかりと爆弾が握られていた

それを丁寧にカートに入れてエレベーターへと向かう

この階層の爆弾は全て回収し終えたのだ

これで残りは18個、内6個は若干避難が遅れた居住区に仕掛けられたもので

そちらの回収報告も遠からず入ってくるだろう


自分達の回収は残り12個・・・希望が見えてきた






そしてエレベーターで1つ下の階層に向かう途中、2つの報告が入った

「こちら居住区第2階層、手間取ったけど残り2つ回収完了!」

「管制室より各員へ、ナデシコが到着しました。

避難民シャトルはただちに発進してください」

この報告により爆弾は残り16に減り、避難民も安全が確保された。残りは・・

「さぁ、もう少しです。気を抜かずいきましょう!」

そのカイトの言葉に2人はうなずく

ここまでやったのだ、爆発などさせてたまるか!っと・・・



残り時間は33分、残すは16個の爆弾と動力炉の大型爆弾だけだった

































「サツキミドリからの避難民の収容、どれくらい進んでますか?」

艦長席からのユリカの問いに艦内全てを把握してるといってもいいルリが答える

「現在26%といった所です。

けれど避難シャトル全ての受け入れはスペース的にも時間的にも無理です」

「やっぱり・・・・・わかりました

自航機能が十分な大型シャトルはナデシコ後方に待機

最悪の事態を想定して全シャトルをフィールドで守れるようにします

収容可能な小型機は時間に余裕のある限りナデシコに収容してください」

本来なら全部を収容してフィールドで守りたいところだがそうもいかない
                                  フネ
ナデシコは人が暮らしていけるだけの艦とはいえ所詮は艦

コロニー全部の人をシャトル付きで収容するほどの規模は到底無い



ちなみにナデシコは到着当初とは違い、今はサツキミドリの反対側

格納庫のある方の真逆の位置に停止している

理由はと言うと、除去した爆弾を格納庫から宇宙に向けて放り出す際

被害を受けないようにする為

せっかく多くの爆弾を除去してもそれでナデシコが傷ついたら目も当てられないからだ・・


「まぁね」




・・・・・・・・・・・

そんな事が行われている最中にも時間は過ぎ去っていく・・・

残り時間は14分、残る爆弾は6個と、動力炉で解体中の大型が1個


どういう結果が待っているにしろ、終わりが近づいていた・・・


































「よし、これでここに残ったのは後1個だけですね」

そういったカイトの手には1つの爆弾が握られている

それを、後ろについてカイトの手伝いをしている職員に手渡す

すでにこの最終階層に来る前に今まで集めた爆弾はもう1人の職員が捨てに行っている

よって残る爆弾はこの階層ですでに回収した4つと、未だ未回収の1つ

それにまだ報告の無い居住区の1つだけである

大型の方も既に停止の目処がついていて、時間までには間に合うだろう

この階層の最後の爆弾の位置もカイトは把握していて既に回収するだけである



そんな時にその報告は入った

「こちら居住区第4階層、ダメです!どれだけ探しても後1つが見つかりません!」

その報告と同時にカイトは、人の目の届かないパイプの裏側へと手を入れ

その手をゆっくりと引き抜く

その手にはこの階層、最後の爆弾が握られていた

そしてそれを職員に手渡すと居住区第4階層担当の職員に自ら連絡を取る

「分かりました、そちらには僕がこれから向かいますのであなたは避難して下さい

もうあまり時間がありません」

「くっ・・・了解です・・・後を頼みます」

悔しそうに歯噛みしながらもカイトが向かうという事で職員は納得、避難を開始した

そしてカイトと職員は移動の為、エレベーターへと向かう

「しかし大丈夫ですか?もう残り時間は6分程しかありませんよ?

この爆弾を捨てに行くのもギリギリなんですから」

職員の言うとおり、時間は極端に少なかった

移動にかかる時間を考えると不可能であるとさえ言える

「えぇ、流石に間に合わないでしょう。

でもあの場合はああ言わないと彼は避難しなかったかもしれませんし・・・」

そう、カイトは居住区の最後の爆弾回収は諦めていた

ここまで来て、という思いも無くは無いが

避難の完了している居住区でなら被害は最小に抑えられる

「彼と爆弾の近くに家のある人には申し訳ないですが・・・」

「なるほど・・・残念ではありますけど、その判断は正しいですよ」








そして2人を乗せたエレベーターは格納庫があるフロアへと到着した

エレベーター到着と同時に走り出す職員とは対称的にカイトは静止していた

気付いた職員が振り向くとエレベーターは再び閉まり、更に上の階層へと向かっていた

まさか最後の爆弾を!? とは思ったが今の彼には何より優先してやる事があった

「無事でいてくれよ・・・」

一言呟いて、彼は再び走り出した























カイトの乗ったエレベーターは連絡のあった居住区ではなく

その1つ下の階層、サツキミドリ全体に酸素を供給している第5階層で停止した

ここは爆弾除去の際に1番初めに、最も注意深くチェックを行った階層だった

ミスなど絶対していない・・・だが何故か第6感が危険だと告げている

(念のために再確認をしてみるか・・・)

その時だった

「!!声が聞こえる・・・女の子の泣き声・・・逃げ遅れた娘がいるのか!?」

普通の人間が耳を澄ませても聞こえる程の泣き声がこの先から聞こえてくる

それを聞いて走り出すカイト、距離が縮まる程に大きくなる泣き声・・・

その娘を見つけるのは簡単だった



「ううぅ・・・ひっく・・・パパぁ・・ママぁ・・・誰かぁ・・・ぐすっ・・・・」

(見つけた!)

泣いている女の子を視認したカイトは走る速度を落として近づき、声をかける

「まだ残っている子がいたんだね、もう大丈夫だよ。

僕と一緒に避難しよう。」

自分に語りかける声に、未だ泣きながらも返事を返す少女

「うぅ・・・お・お兄ちゃん、だぁれ?」

「僕? 僕の名前はカイトだよ。君は?」

少女の問いに笑顔で優しく答えるカイト

その優しい声音と1人ぼっちじゃ無くなったという安心から涙が次第に止まっていく

「私はね、サヤカっていうの。

フジサキ サヤカ、よろしくね、カイトお兄ちゃん。」

フジサキという名前を聞いてカイトは少し驚いた顔をする

しかし偶然という事もありうるのでさりげなくサヤカに問いただしてみる

「うん、よろしくね、サヤカちゃん。

ところでサヤカちゃんのお父さんとお母さんは?」

サヤカはカイトが差し出した手を握り、導かれるままエレベーターへと向かいつつ話す

「えっとね、お母さんは今地球にいるの

お父さんはここの偉い人だからお仕事で忙しいんだよ

だからお昼の間はサヤカは1人で何でもしなきゃいけないんだよ。」

そのサヤカの言葉でカイトは確信した

彼女は間違いなく、ここを管理しているフジサキの娘であると

「エライね、サヤカちゃんは。そういえばどうしてこんな所にいたの?

ここは入っちゃいけないところだよ?」

「ん〜、最初はお友達と遊んでたんだけど急に皆お迎えが来たの

だからつまんなくなってこっちに・・・・ごめんなさい」

本当に申し訳なさそうに謝るサヤカにカイトは苦笑してしまった

その後、一応のケジメとばかりにサヤカの頭をコツリと小突く

「今回はこれで許すけど、もう来たらダメだよ。皆心配するんだからね」

そうして小突いた頭を優しく撫でる

頭を撫でられたサヤカはエヘヘと笑いながら両手で撫でられた所をおさえる

その時、サヤカの右手にしっかりと握られている少し大きめのクマのぬいぐるみが見えた


まもなくエレベーターに着く


爆破までの時間も殆ど無いがもはや1つの爆発は覚悟している

よってカイトがそのクマのぬいぐるみの話を持ちかけたのはただの話の繋ぎだった

「大きなクマさんだね、サヤカちゃんのお友達かな?」

対するサヤカは自分のクマのぬいぐるみの話になったのが嬉しいらしく

満面の笑顔でカイトに答えていた

「うん、お父さんにお誕生日に貰ったんだ!名前はね、クマ吉って言うんだよ♪

お話は出来ないけど、ちゃんと生きてるんだよ」

クマ吉の事を嬉しそうに語るサヤカをカイトは微笑ましく見ていた




・・・が、カイトの笑顔も次のサヤカの言葉で凍りついた




「だってついさっきからだけどちゃんと心臓の音が聞こえるもん♪」




そこからのカイトの行動は速かった

さっき爆弾を回収していた時のように耳に全神経を集中

確かに爆弾の音はサヤカの持っているクマのぬいぐるみから聞こえてくる

それを確認するとサヤカの首筋に手刀を当て、意識を失わせる

そしてぬいぐるみの中から爆弾を回収する・・・が残り時間は15秒

とっさに腰の刀を抜き、表面のカバーを切り裂くと中にはありきたりな赤と黒の配線

カイトはサヤカを自分の後ろに寝かせ、エレベーターのドアを開けると

ほんの少し間を置き、ドアが閉まる直前、爆弾をエレベーターの中へ投げ

それが刀の間合いから出る直前に一本の配線を斬る

爆弾はエレベーターの中に投げられ、扉は閉められたが

カイトは50%の割合で来る爆風に最上段の構えを取ったまま動かなかった


そして3秒が経ち、5秒が経ち、10秒が経った時、ようやくカイトは構えを解いた






「ふ〜・・・・危ないところだった・・・寿命が縮んだ気がする・・

道理で最後の爆弾が見つからない訳だよな〜

・・・まぁサヤカちゃんが避難してなかったからこそ被害が出ずに済んだんだけど・・・

もしきちんと避難してたら最悪ナデシコごと・・・・ハハッ、笑えないや」

苦笑しながら独り言を呟き、エレベーターのドアを再び開け、落ちている爆弾を拾うカイト

その手の中の爆弾のカウントは2秒前で停止している

「ともかく、これでセットされた爆弾は残らず回収完了

それに動力炉の方も無事解除成功したみたいだし、ようやく一段落」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




とその時、突如として振動が伝わってきた


突然の揺れにカイトはよろけるもバランスを整える

そして今の振動の原因を頭の中で考える

(まさか解除失敗!?いや、それだとタイムラグがあるし、こんなものでは済まないはず

じゃあもしかして爆弾の見落としか!?)

その時カイトのコミュニケが着信を知らせる

開いたウィンドウには通信士のメグミの姿が映る

『カイトくん、敵が、サツキミドリの人たちが・・・』

けれどメグミの言う事は要領を得ない

そこにコミュニケが再び鳴る

『カイトさん、無事のようですね』

ウィンドウにルリの顔が映し出される

どうやら冷静さを失ったメグミの代わりをつとめているようだ

「ルリちゃん!この振動は?一体何があったの?」

『現在ナデシコは木星トカゲの襲撃を受けています

敵の数はバッタが6機と大した事は無いんですが

最初にサツキミドリの格納庫付近がやられてしまって・・・

そちらの振動はその時のものだと思います』

ルリからの報告はカイトに衝撃を与えるに十分なものだった

「それじゃあ・・・格納庫にいたサツキミドリの職員の人たちは・・・」

『こちらからは確認出来ませんが恐らく無事では済まないでしょう』


(どうしてもうバッタが・・・動き出すにはまだ早いはずなのに・・・

・・・そういえば格納庫から撤去した1つの爆弾・・・まさかあの爆発が無かったせいで?

くそっ!なんて迂闊だったんだ、僕は!)


ズズズズズズ


その時、カイトをまたもや振動が襲った

その振動はさっきよりも軽く、距離が遠のいていた

そしてハッとなってある事に気付き、ルリに尋ねる

「ルリちゃん、外のバッタ達は?」

『今しがたエステバリスで6機全てを撃墜しました、全滅です』

(やっぱり・・・とすると)

「ルリちゃん、コロニー内にもバッタが侵入したみたいだ

ナデシコはエステバリスで格納庫の救出作業をお願い

僕はバッタを追う!どこへ向かってるかは大体分かるからね

それじゃ、通信終わります」

『カイトさん、キケ』

ルリの言葉の途中で通信を閉じたカイトは

サヤカの背中を壁に預け安全であるのを確認すると

自分はエレベーターに乗って動力炉のあるフロアへと向かう



(恐らく進入したバッタはエネルギー反応に惹かれて動力炉に向かったはず

急がないとみんなが!)



そんな事を考えているうちにエレベーターは目的地に到着する

そして降りてすぐにカイトが目にしたのは

扉が破壊され、未だ散らばった破片からは白煙を上げている隣のエレベーターだった

「やっぱり・・クッ、間に合ってくれ!」

それを見たカイトはバッタが通った後なのであろう、若干壁等が破損している通路を走る




動力炉まで残り少しの距離まで来た時、カイトは血を流し倒れている3人の人を見つけた

壁にも穿たれた銃創はバッタのものだとすぐに分かった

カイトはすぐさま3人の状態を確認するが

床にうつぶせに倒れている年配の2人は傷の位置、流れている血の量から絶望的だった

只一人、壁に背を預け腹部を手で押さえている青年だけは息があった

その青年はカイトに気付くと腹部を押さえていた手を外し

血塗れになった手で通路を指差して言った

「バッタが・・・まだ中には・・フジサキさん達が・・ウッ・・・はぁはぁ、早く・・グゥッ・・」

自分が大怪我をして死ぬかもしれない状況で他人の心配が出来る人間はそういない

「すぐ医師を呼びます、それまで頑張ってください」

そんな人をすぐ手当て出来ない事を悔みつつもカイトは再び走り出した
















そして通路の終わりであり動力室への入り口が見える所まで来た





しかしそこにあったのは半壊したドアとそこを超えようとしているバッタ、そして・・・




ガルルルルルルルルル





動力室の中へと撃たれるバッタのガトリングの音と中から聞こえる悲鳴だった



「やめろぉぉぉぉ〜〜!!」




弾かれるように走り出すカイト

バッタは自分に近づくものをセンサーで認識すると射撃を一時中断

振り返り、再度射撃の姿勢をとる


が、バッタの相手は不幸にもカイト

振り返ったバッタには既に頭は付いてなく、ゴトリと床に落ち

射撃体勢をとった体は崩れ落ち、そのまま機能を停止した



動力室へと入ったカイトは悲惨な光景を目にした

先ほどのガトリングを受けて、数名の職員が動力炉を

そして憎むべき爆弾を守るように倒れている光景を・・・


その倒れている人達の所に傷が浅い者、また避難していた者達がかけよる

既に事切れている者もいれば、重傷ではあるが重体ではないものもいる

そして一際多くの人が集まった所に彼の姿があった

「フジサキさん!」

ここの管理責任者であり、今回皆を先導してくれたフジサキであった

彼はドアから一番近く、皆の先頭にたってバッタからここを護ったのだ

彼の怪我は酷く、もはや助かるものでは無かった

「・・カイト・・・くんか・・・・」

そんな状態にもかかわらず、彼はカイトの声を聞き分け、返事をした

「ふふ・・流石だな・・・あのバッタを生身で倒したのか・・・すまない・・助かったよ・・

ここも・・なんとか無事にすんだか・・・君のおかげだな・・・ありがとう・・ゴホッゴホッ」

カイトは急いでフジサキに近寄り、彼の手を両手で握る

「そんな、ここを救ったのは皆さんの力です!

ボクはそれを少し手伝っただけ、それより喋ってはダメです、今医者を」

「いや・・いい、自分の事だ・・もう長くない事は分かる・・

ただ気がかりと言えば残した家族の事だろうか・・・

妻は私なんかには勿体無い、よく出来た奴だった・・

娘も、妻に似て可愛くてな・・・親バカと言われそうだがな・・ウッ、ゴホッゴホッ!」

「いえ、先程会いましたが、可愛らしい良い子でしたよ、サヤカちゃん

将来はきっと綺麗になりますよ、きっと」

「・・ふふふ・・・そう・・か・・・君が言うならそうに違いないな・・

・・この目で見れないのが残念だよ・・・願わくば・・妻と娘が幸せに・・・

シズク・・・サヤ・・カ・・・」

カイトの握っていた手からは完全に力が抜け、瞳もゆっくりと閉じられる


「フジサキさん!・・・クッ、ウ、ウアァァァァ!!


動力室にカイトの雄叫びの様な声がこだまする

それに続くように多くの人がすすり泣く声が聞こえる



その場の皆が見守る中、フジサキは30歳という若さでその人生を終えた
































フジサキの死より3時間・・・・

サツキミドリから避難していた人々は自分の家へと帰り

救助に当たっていたナデシコは未だ宇宙空間で警戒態勢にあった


「今回の事件・・・後味の悪い結果になりましたね・・」


そんな中、雑務処理担当とも言える2人が人気の無い通路を話しながら歩いていた

内容はもちろん今回のサツキミドリ2号での事だった


「えぇ、避難民は全員無事ですが、木星トカゲの襲撃で職員の方たちが・・・」

「死者17名、負傷者24名、しかも管理責任者の方もお亡くなりになったんですよね?」

「はい、優秀な方だったのですが・・・惜しい人を亡くしました」

「それで、どこの仕業か分かったんですか?」

「あいにく・・・データでは月からの補給船が爆弾騒ぎの直前に出航したらしいのですが

確認を取った所、それは民間船で帰還もして無いそうなんです、ハイ」

そこでジュンが驚きをあらわにする

「えぇ〜、月って・・・確か木星トカゲの勢力下じゃないですか!」

それに対してプロスはメガネを上げながら説明する

「アオイさん、月は地球の衛星、いわば子供の様なものです

そんな近くに拠点を構えられて大軍勢で押しかけられたら地球だって危険です

よって月を獲られる訳にはいかない、つまり今もって小競り合いが行われているのですよ」

プロスの言うことはもっともだ、だがジュンは納得いかない

「だったらどうして木星トカゲの勢力下って事になってるんですか?

今もって防衛中なんでしょう?」

「アオイさん、それが多くの民間の方の知る所になったらどうなりますか?

世間の皆さんが月では未だ防衛戦が行われていると知ったら?」

「そうなったら・・・当然、月を守ろうっていう風に考える人が・・」

「出て来ますよね、それも大勢。そうなるとどうなりますか?」

そう聞かれ、ジュンは握りこぶしを作り、胸を張って答える

「もちろん!連合軍が総攻撃を仕掛けて月を奪還してみせます!」

それを聞いてプロスはがっくりと肩を落とす

「それが出来れば苦労はありません」

今度はジュンの力が抜ける番だった

「どうしてですか?今でも防衛には成功してるんでしょう?だったら!」

「良いですか?こっちの戦力が小さいからこそ小競り合いで済んでるんです

こっちが本格的に動いたら敵も動きます

そうなると今の連合軍だと消耗戦、物量では圧倒的にこちらが不利!

例え勝ったとしても地球も守らないといけませんし

万が一地球が落ちたらそれこそ本末転倒です

ですから、今はまだ木星トカゲの勢力下で良いんですよ

という事で、この事は他の皆さんにはご内密に」

そしてクルッと背を向けるプロスにジュンは渋い顔をして再度問いかける

「で、でも・・それで本当に良いんですか!」

それを聞き、プロスは再び振り返り笑顔で答える

「えぇ、良いんです。これから連合軍の方々は力を溜める段階ですからね

木星トカゲに対抗できる、この・・・ナデシコのように♪」

そして今度は振り返らず、通路の向こうへと消えていった

































ここはサツキミドリ2号の一室

この部屋の中にはもう目覚める事の無いフジサキの遺体がベッドに横たわっている


シュン


その部屋のドアが開いて中からはサヤカを抱いたカイトが出てくる

カイトに抱かれているサヤカはすぅすぅと寝息を立てている


シュン


「ん?あなたは・・・もう大丈夫なんですか?」

ドアが閉まり歩き出そうとしたカイトの前には

動力室へと向かう途中に出会った青年の姿があった

「はい。ご覧の通り、元気とまでは言えませんが動けるだけマシって所です」

青年の姿は左腕を吊るし、頭には包帯、右手には松葉杖を持っていた

幸い腹部への弾丸は内臓を避けていたようで、重傷ではあるものの

血を補給した今は顔色も良く、命に別状はないようだった


青年は松葉杖を使い、カイトの側まで歩み寄り、使える右手でサヤカの涙の跡をなぞった

「かわいそうに・・・こんなに瞼を腫らせて・・・

サヤカちゃん、お父さんの事大好きだったからなぁ・・・」

「サヤカちゃんの事、知ってるんですか?」

カイトの質問に青年は軽く頷いた

「えぇ、結構フジサキさんの家に行ってて、その時に一緒に遊んでいました

フジサキさん、こんな俺にも良くしてくれて・・・なのにこんなに早く・・・」

それを聞いてカイトはサヤカを抱いたまま、深く頭を下げる

「すいません、ボクが間に合わなかったせいで・・・」

そのカイトの言葉に青年は大きく首を振って答えた

「とんでもないです、あなたは十分よくやってくれました

正直あなたが来てくれなければ、今頃は爆弾に気づくことも無く

俺もサヤカちゃんも皆、サツキミドリ共々宇宙の塵になっていたはずです

あなたにはどれだけ感謝をしてもしたりません

これはここに住む皆の総意です」

青年の言葉にカイトは若干うつむく

確かにこの青年の言うとおり、カイトが来なければサツキミドリは壊滅していた

カイトが救った生命の数は多い・・・

が、それを理解していても今回の事をカイトは納得していなかった



自分がもっと注意出来ていれば・・・



なぜ最初にバッタの入ったコンテナを処理しなかったのか・・・



だがそれは結果が出た今だからこそ言える事でカイトの取った行動に悪い事など無かった

そこまで考えても、まだカイトは自分の事を許しきれなかった


護ることの出来た生命を失う・・・


これは最早カイトにとってトラウマに近いものになっていた









だからこそ彼は想う・・・・


この想いを胸に、同じ過ちを繰り返さぬ様にしようと・・・・














そしてカイトはうつむいていた顔を上げ、青年に軽く微笑みかける

「そういってもらえると助かります

あの・・あなたにお願いしたい事があるんですけど・・・よろしいですか?」

「お願い・・ですか、何でしょう?」

青年の返事にカイトは腕の中のサヤカを一瞥して青年に話しかける

「えぇ、実はサヤカちゃんを少しの間、預かって貰えないでしょうか?

フジサキさんの奥さん、シズクさんに先程連絡を取ったんですが

どう急いでも帰りが明後日になってしまうらしいので・・・

それでサヤカちゃんも面識のある優しい人と一緒の方が良いと思いまして・・・

・・・・あなたも怪我をしているのに大変な役目を頼んで申し訳ないのですが・・・」

申し訳なくなんか無いです!是非やらせて下さい

あいにくこんな有様なんで逆にサヤカちゃんに心配かけてしまうかもしれませんが

シズクさんが帰って来るまでしっかりと面倒を見ます

それに・・・俺は2人に今回の事を・・・

フジサキさんが如何に立派だったかを伝えなきゃいけませんからね

だからあなたは心配せずに行ってきてください・・・応援してますから!」


「・・・・ありがとうございます・・・

いつか必ず、戦争の無い平和な世の中にしてみせますから・・・必ず・・・」




そのカイトの決意を込めた言葉は広く響き渡った・・・


























どうも、やっとこさ4話を書き上げる事が出来たEXEです

言われるまでもなく今回はシリアス一辺倒になってしまいました

「ナデシコらしく」を心情に書いてる私としては書いてて若干違和感ありましたが

このサツキミドリ2号に関してだけは以前からずっと書きたかったので書き通しました



さて、皆さんはサツキミドリに関してどうお考えでしょうか?

やはり木星トカゲの襲撃によって壊滅したと思われますか?

今回それについて多少記したのですが私はこれが真実だったのではないかと思っています

実際似たような結論に達している人もいると私は思うのですがSSには書かれない・・・

それは何故か・・・恐らくは先入観でしょうね

サツキミドリを助ける様なSSだと必ず木星トカゲに襲われていますよね

だからそれが当然だと疑っていないからだと思います



とまぁこれくらいにして、実際今回の話はかなり手こずりました(汗)

大筋でどうするかは決めていたんですが書いていると修正修正の嵐で・・・

最初なんかはフジサキに妻もいなかったしサヤカちゃんも亡くなる予定でしたから

書き進めるごとにさらに先の話が変わっていって・・・もう大変でした

その結果が前・中・後編に分かれた上、長さの比率が1:1:2になりましたからね

わたしとしても完璧に想定外でした


後は余談になりますがここサツキミドリ2号でムネタケさん方が下船されてます

最初はそれも描写するつもりでしたが

フジサキの死亡関連で書くような流れじゃなくなったので今回は省きました

それについては再登場時にスペースを取ろうと思っています



さて、中・後編の爆弾騒ぎのせいで忘れられがちですが

今回アールナイトの目玉、ウイングが初使用になってます

それに伴い若干設定を公開しますのでもう少しお付き合いを♪





ウイング

遺跡のコピーでありカイトとのシンクロによってアールナイトを強化する事が可能

シンクロ率の高さによって強化の度合いも変化し

一定以上のシンクロ率でないと強化できない箇所もある

また高シンクロによって強化以外の2つの能力も持つ

ウイング自体はカイトのイメージの元、自在に動かす事が出来るが

未シンクロ状態では動かせない








という事で本当に若干の設定公開も終了

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます m(_ _)m

ってか後書き読んでない人がいたら「キノコはどうしたの?」とか言われそうです(笑)

だってあの流れで書けないもんよ〜 (T▽T)


ま、まぁとりあえず今回は長々と失礼しました

次回は今回よりは・・・早く出来るはずなので・・・・多分(汗)

とりあえずお待ち下さいませ

次回はちゃんとルリが出ますから、絡み入れますから (≧▽≦)/


では読んでくださった方々、ありがとうございました♪

今後もよろしくお願いします m(_ _)m









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