機動戦艦ナデシコ
〜時間に抗いし者〜








第四話   残る生命、散る生命《中編》
















『ヒマヒマヒマヒマヒマヒマ、暇だ〜!!』

『ちょっと、ちょっと、リョーコまた発作〜?』

『日に日に間隔が短くなっていってるね・・』



ここはサツキミドリ2号コロニー

そこではリョーコ、ヒカル、イズミ達3人のエステバリスを使った訓練が行われていた



『お前らよく平気だな、もう2週間もおんなじ訓練ばっかりしてんのによ〜

しかも敵も全くこね〜し・・・・

まぁ〜、今日ナデシコがくりゃ〜ちったぁマシになるか』

『そうだよ〜、あと2時間半もしない内に到着予定なんだからそれまでガマンだよ〜』

その時、慰めようとしたヒカルの声を遮るほどの勢いで管制室から通信が入る

『おい、お前ら〜!いつまでもしゃべってる場合じゃないぞ!

レーダーに未確認機の反応、こっちに向かって・・・・

なんだこりゃ!!うそだろ?』

報告の途中で管制室側が騒がしくなる

『なんだ、なんだ〜、一体どうしたってんだよ〜。未確認機がどうしたって〜?』

リョーコの問いに管制官は手に入った情報通りの事を3人に伝える

『あぁ・・・未確認の機動兵器が一機急速接近中・・・

あと1分で視認出来ると思われる。各自対応用意してくれ・・』

その報告を聞いてヒマだと騒いでいたリョーコの顔も険しくなる

『1分〜?なんでそんなに近づくまで気づかなかったんだよ、職務怠慢か〜?』

リョーコの嫌味に対して管制官は何も反応せず報告を続ける

『速度が尋常じゃないんだ、たった今速度が落ちたがそれでも・・・・

今の機体の速度はお前らの機体の約1、6倍

さっきまでは2、5倍近くあったんだ

とにかく気をつけてく・・・ん、なんだ?

その機体から通信?・・・ナデシコの?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あ〜・・スマン、お前たち、どうやら未確認機はナデシコ所属の機体だそうだ

その〜、悪かった、こちらも慌てていたもので・・・

と、とりあえずお前たちも訓練はもう良いから帰還してくれ』

それだけ言って管制官は3人への通信を切ってしまった

〜〜〜なんだってんだよ〜!!

コロコロと変わりゆく状況にリョーコはイラ立ちをつのらせていた

そんな中、残りの二人は・・・

『まぁ、未確認機が一機って所で〜』

『こんなこったろうと思ったけどね』

至極冷静であった




『にしてもその機動兵器・・・興味深いね・・・・』

『ナデシコにはうちらと同じタイプのエステが3機+αあるんだっけ?

これから来る機体はαの方かな〜?』

『だろうね、エステにしては速すぎる、ネルガル製じゃ無いのかもね・・・

せっかくだし一目拝んでから帰還するとしようか』

『さ〜んせ〜い、ねぇねぇリョーコはどうする?ってあれ?リョーコ?』

『もうとっくに帰還したよ、多分今頃は管制室に向けて走ってる頃じゃない?

っとどうやらお出ましみたいだよ』


イズミの視線の先にはこちらへと向かってくる機動兵器の姿があった

その機体が視認領域に入った時にパイロットから通信が入る

『サツキミドリ2号の方ですね?僕はナデシコ所属のパイロットのカイトです

早速ですが急いでいるので格納庫に案内お願いできますか?』

『うわぁ〜、何それ!コスプレ!?私も好きなんだよ〜♪』

映像が出た途端、ヒカルが瞳をキラキラさせて過剰ともいえる反応を示す

・・・無理も無いが・・・

『・・・すみませんがその事は後ほど・・・今は急いでいるんです』

すでにカイトの機体は目と鼻の先の所まで来ている

『格納庫はこっちだよ、ついてきな』

カイトの言葉に真剣なものを感じたイズミはいち早く機体を反転させ、格納庫へ向かう

『あぁん、待ってよ、イズミちゃ〜ん』

その後をヒカルが慌てて追いかけ、追いついたカイトも二人に合わせて速度を落とし

3機揃ってサツキミドリの中へと消えていった












「オーケー、そのままじっとしててくれ〜、今足場を持ってくる〜」

そう言ってカートを取りに行く整備員

『お願いします』

それに対してカイトはお礼を言いつつも思考は違うところにあった

(赤外線モニターに切り替え・・・・・あるとすればこの辺りなんだが・・・・・・・・!!

あった!搬入口の脇、・・・・出来れば今すぐ排除したいが・・・そうもいかない・・・・

それに時間も無い・・・聞こえているかい?)

声に出さないカイトの言葉はしっかりと相手に届いていた


『呼んだかね?』


カイトの頭に直接伝わる声

シンクロはしていない・・・にもかかわらず会話は可能なようだ

(うん、実はお願いがあるんだけど、このコロニーの中にある爆発物の場所って分かるかな?

分かるならその場所を教えて欲しいんだ・・・)


『・・・・・君は何か勘違いをしている様だが私は何かが出来るわけではない

私に出来るのは私が知っている事を教える事だけだ』


その答えにカイトはひどく残念そうな顔をする

(そうか・・・そうだよね、ゴメン、自分で何とかしてみるよ)


『・・・だが方法は教えてやる事は出来ると言う事だ』


その声にハッチを開けようとしていた手を止める

(そ、それって!?)


『ウイングを使えば良い・・・センサーを強化すれば探る事も可能なはずだ』


(ありがとう、助かるよ!)

それを聞いて笑顔と共にお礼を言うカイト

そしてすぐさまウイングとのシンクロを開始する

(イメージ・・・爆弾のある場所が知りたい・・・むざむざここを壊させたくない・・・)

パァッと輝くウイング、そうなったのは一瞬でその後は淡い点滅を繰り返す

(!・・・すごい、頭の中にドンドン情報が入ってくる・・・・

爆弾の数は・・・・64・・・65個か・・・・・

ここと動力炉付近は・・・残念ながら探知出来ないな・・・)

一方、その光景を既に機体から降りて見ていたパイロットの二人は・・・

「あれは!!」

「あはは〜、すっご〜い、光ってるよ〜♪

ってまさかその為だけについてるのかな、あのでっかい翼」

「なかなかのパフォーマンス・・・やるわね・・・負けてられないわ」

一人に笑いを、そしてもう一人に対抗意識を与えていた





そうこうしている内に点滅は収まり、機体のハッチが開きカイトが出てくる

足場を持って来たら突然光りだしたので驚いた先程の整備員は

一言文句を言おうとハッチ手前で待っていたのだが、カイトの纏う雰囲気にたじろぐ

そんな整備員が目に入っていないかのようなカイトは

バイザーの上からでは全く分からないが、しっかりと目を閉じ

この騒音溢れる格納庫の中、一人耳を澄ましていた

(爆弾はほぼ間違い無く時限式のはずだ・・・なら僕の耳なら・・・)

カイトはこの一時も音の鳴り止まない格納庫で耳によって爆弾を探そうとしていた

普通の人間なら無理どころか考えもしないような方法・・・

だが人の限界を超えて造られたカイトの聴覚

さらには遺跡化とも言える体組成の変化はそれすらも可能な域に達していた


ガンガンガン     ジジジジジジジ
                     おぉ〜い、そこのスパナとってくれ〜
        ガラガラガラ なにやってんだ〜!!
       ブォォォン    ピッ ピッ


(聞こえた!・・・あっちか)

途端、目を開けて格納庫の隅にあるコンテナへ向かって走り出すカイト

「あれれ、急に走り出しちゃったよ・・・大丈夫かな、彼・・・」

対してイズミの方はヒカルが気付かなかったカイトの真剣さに気付いた様で

無言でカイトの後を追いかけていた

「あぁ〜ん、イズミちゃんまで、ちょっと待ってよ〜」


イズミがカイトに追いついた時、カイトはコンテナの裏で静止していた

「あんた、一体どうしたってんだい、さっきから変な行動ばか・・」

 ピッ ピッ

不振な音に気付いたイズミは何気なくそちらに視線を向ける

バイザーの下のカイトの目も同じ物を見ていた

「こ、これは!!」

そこには長方形の形をした、上3分の1がデジタルタイマー

残りが12個のプッシュキーという造りの物がコンテナの背部中央にくっつけられていた









それは誰の目から見ても爆弾以外の何物でも無かった・・・






その爆弾を丁寧にはずし、丁度ヒカルが追いついた時、カイトが口を開いた

「ここの最高責任者のいる所に案内して下さい、一刻を争います」




















「なんだって!!爆弾だと!」



「はい・・・そうです」

ここは管制室

そこではカイトがサツキミドリの責任者であるフジサキに現状を伝えていた

「突然連絡も無しに来て何を言い出すかと思えば爆弾だと?

バカも休み休み言いたまえ」

それを聞いたカイトは先程回収したばかりの時限式の爆弾を見せる

「これが証拠です・・・

これは僕がここに到着する前から格納庫の隅のコンテナに取り付けられていたものです」

それは確かに爆弾にしか見えず、いまだカウントを続けていた

「今サツキミドリにはこれと同じと思われるものが65個以上設置されています

タイマーを見ても分かる通り、もはや時間が無いんです」

カイトの言うとおり、デジタルタイマーには『2:07』の数字が浮かんでいた

「むぅ・・・だがこんなもの貴様が持ってきたという可能性もあるじゃないか・・

それにどうして貴様は爆弾の事や数についてまで詳しく知って・」




ダンッ





「ひっ!」

カイトは力任せに近くの壁を叩いた

叩かれた壁は大きな音をたて、その音に驚いたフジサキは悲鳴すらあげた


「今大切なのはここに住んでいる人たちを避難させ、爆弾を何とかする事でしょう!

もし今僕が言ってる事が嘘だった場合は射殺でもなんでもしたら良い!!

でもこれは現実に起こっている事なんです!」


彼、フジサキとて馬鹿ではない

カイトが爆弾を持ち込むメリットが無く、またどうしてそれを知らせにこようか・・

頭では分かっていたがカイトに嘘だと言って欲しかった

自分の管理するコロニーに爆弾が仕掛けられたなど信じたくなかったのだ





数秒の沈黙・・・恐らく彼にはズイブンと長いものに感じられた筈だ

その沈黙を彼自らが破った





「全員に・・・避難命令を・・・ゆっくりと、落ち着いて避難させるんだ

機械に詳しいものには爆弾を撤去してもらう・・・ここは私達の家だ、壊させるものか

そして君、君にはナデシコへの救援連絡をお願いしたい、行ってくれるな?」

当然、行ってくれると思っていたフジサキの意に反し、カイトは首を横に振った

「その役目はここにいる3人のパイロットの方々にお願いするつもりです

僕は爆弾の除去にあたります」

オレ達が〜!?つってもナデシコの場所なんてわかんねぇぞ〜」

カイト達が来る前から管制室にいたリョーコが抗議の声を上げる

「方角は教えます、まっすぐ進んでいけばナデシコに合流できます

後は事情を説明して急いで来てもらうだけです」

「てめぇの機体の方が速く飛べるんだろ〜、だったらお前が行けよ」

「確かにその方が確実だよね〜、私達だとエネルギー持たないかもしれないし」

同じくパイロットのヒカルはリョーコに賛成らしく、カイトが行くように薦める

イズミは黙って静観している・・と言うよりはカイトの真意を探っている

「確かに僕が連絡に行った方がナデシコは早く到着出来るでしょう

しかしサツキミドリの安全は保障できません・・・

まだここに来て日の浅いあなた達には分らないかもしれませんが

ここに住んでいる人たちにとってはここはかけがえの無い場所なんです」


静かな沈黙が辺りを包む・・・

カイトは自分ならサツキミドリに仕掛けられた爆弾を除去出来ると言っているのだ


「確かにここは私達住人にとってかけがえの無い故郷だ・・・

だが本当に君に出来るのか・・・数多くの爆弾を外し、ここを救うことが・・」

フジサキの言葉に答えるよう、彼の目と視線を合わせる

「やります・・・でも一人では無理です・・・先ほども言ったように時間が足りません

幸い僕の機体の特殊なセンサーによって動力炉付近以外の爆弾の場所は把握してます

ここのMAPを見せて貰えば大体の場所を記す事が出来ます

よって動力炉には最初から多くの人員を爆弾除去に派遣してもらいます

そして残りの人は各ブロックに分かれてもらい、避難する人を誘導してください

そして避難完了後にそのままそのブロックの爆弾の除去に当たってもらいます」

カイトの立案した作戦はこの状況において、これ以外無いと思えるものだった

ゆえに反対するものは誰もいなかった

だがこの作戦にも不安要素は当然ある

「しかしそれで間に合うのか?時間は後2時間しか無いんだぞ・・・」

そう、サツキミドリ2号はコロニー・・・

地球からもっとも近い補給地点として知られているが、一般人も多く住んでいる

その為、その規模は小さな街など軽く飲み込んでしまうほどある・・・

そのような場所で、隠された多数の爆弾を、限りある人員で除去せねばならない

動力炉に派遣する人数も考えるとフジサキの頭の中での成功率は0%であった

「時間が足りないのは分かっています

だからこそ、連携して皆の力を合わせないとこの作戦は成功しません

さぁ、印をつけるのでMAPを僕に。」

それでもカイトから感じる強い意志はそこにいる彼らに希望を与えていた

彼ならここを救えるかも・・・そう思わせるだけのものがあった・・・


「すごいな・・・・君は・・・」




そう言ったフジサキは2、3秒の間、目を閉じると弾かれた様に指示をとばした


「アマノ、スバル、マキの3名は急いでナデシコに向かえ!

事情を説明してすぐに来てもらうんだ、バッテリーは持てるだけ持っていけ!

避難の誘導は各ブロック4名ずつで行え、無理に急がせるのは危険だ

落ち着いて、事故の無いようにするんだぞ、いいな!

メインスクリーンと私のウィンドウにここのMAPを表示しろ!

記入が済み次第、各端末にデータを送る。

爆弾を1つ残らず回収するんだ、抜かるなよ!

さぁ、返事はどうした!!」

「「「「はい、了解しました!」」」」

フジサキの指示の下、一斉に管制室をあとにするサツキミドリの職員達・・・

パイロット3人の方もイズミを先頭に格納庫へと向かっていく

そしてあっという間に管制室に残るのはカイト、フジサキを含めわずか4人となる




カイトの方に振り向いたフジサキは少し意表をつかれた

彼はバイザーを外し、フジサキに対し優しく微笑んでいた

「見事な指示です。でも・・・・本番はこれからです」

微笑んでいたのも束の間、途端にMAPの表示されたウィンドウに厳しい視線を向ける

そのカイトを見て、齢30にしてコロニー1つの管理を任されたフジサキは

初めて自分が絶対に敵わないと思える存在を目の当たりにした

そしてまた、この状況下で彼がこの場にいてくれる事を心から感謝した










これよりここで歴史の表舞台に決して出る事の無い静かな戦いが繰り広げられる
















[戻る][SS小ネタBBS]

※EXE さんに感想を書こう! メールはこちら[exe_0805@hotmail.com]! SS小ネタ掲示板はこちら

<感想アンケートにご協力をお願いします>  [今までの結果]

■読後の印象は?(必須)
気に入った! まぁまぁ面白い ふつう いまいち もっと精進してください

■ご意見・ご感想を一言お願いします(任意:無記入でも送信できます)
ハンドル ひとこと