機動戦艦ナデシコ
〜時間に抗いし者〜








第四話   残る生命、散る生命《前編》




















         時刻  AM 00:00










フィィィィィィィィィィ












ここはナデシコ格納庫

その人気の無い格納庫の1機の機体の中でボース粒子の煌きが起こっていた











フィィィィィィィィィィィイン











そしてその煌きは段々と力を増していき

それを制御している少年の意志の元に一気に・・・















パァン






弾けた・・・・



「フゥ〜、やっぱりダメだ・・・ジャンプぎりぎりまでいっても体が何も反応しない・・

いったいどうなってるんだ・・・」

そしてカイトは力を抜いてシートにもたれかかる

「イメージングには何の問題も無いし、フィールドは安定してる・・・

・・・・まさかジャンプフィールドは張れるけどジャンプ体質じゃなくなってるって事は・・・

・・・・無い・・・よね・・・」

カイトの一人の呟きに答えてくれる人は残念ながらここにはいなかった

「はぁ〜・・・今考えても仕方無いし、明日はサツキミドリ2号への到着だしな

今日はもう寝るとしよう・・・」

そしてハッチを開け、周りに誰もいないのを確認してコックピットから飛び降りる


タンという音と共に危なげなく着地し、自分の部屋へゆっくりと歩き出す


「まさかサツキミドリ2号事件に立ち会えるとは思わなかったな・・・

これで疑問に思っていた答えが分かる・・・全ては明日か・・・」




















『ルリちゃん、その事件の資料はこれで全部なの?』

カイトはナデシコBの副長席から艦長席に座るルリへと問いかける

『? はい、そうです

映像、音声の両方が残っているので資料としては十分だと思いますけど・・』

ルリの方はカイトの質問に少し首を傾げて答える

『あ、うん。確かにそうなんだけどもう少し状況が分かればなぁと思ってね』

『それは仕方ありませんよ、なにせあの時の生存者は

リョーコさん、イズミさん、ヒカルさんの3名だけですから

その3人にしても慌てて抜け出したそうですからね。

何か気になる事でもあったんですか?』

未だに難しい顔をしているカイトにルリが少し不安気に問いかける

『うん、ちょっとね・・・まぁ今更考えても過去の事だから調べようが無いんだけどね・・

よっし!あとちょっとで終わりだし、仕事に戻るとしますか!』

『はぁ・・』



























「「「「え〜、試験飛行を兼ねた先行偵察〜?」」」」

「はい。・・といってもそれは建前で実は試験飛行の方がメインなんですけど

やっぱりそれだけじゃマズイかな〜と思いまして、ははっ。」

カイトは苦笑いしつつ皆の前で目的を説明する

「でもなんでまた試験飛行なの?」

ミナトがいまいちよく分からないといった様子で問いかける

周りもどうやら同意見のようだ

「実は僕、アールナイトのスペックは知っていても実際に全力で動かしたことが無いんですよ

で、今は周りには何も無い宇宙空間でこの辺りは地球の勢力圏でしょ?

だったら今が絶好の機会かな〜と思いまして」

それを聞いて一同各々納得する


プロスも有事の際にカイトが全力を出せる事と

サツキミドリ2号までの道のりにおいて

万一の時に機動兵器を使えなくなる事を天秤にかける・・・・が

「さて、どうしますかな、艦長?」

答えは出なかったらしく、艦長のユリカに決断を任せる事にしたようだ

対してユリカはキョトンとして何の問題があろうかといった感じで

「別にいいんじゃないですか?」

そしてニコニコとした笑顔に変わり

「先行偵察をしてもらえれば敵さんとの遭遇の確率も減りますし

カイト君も試験飛行の目的達成!何も問題ありません♪」

この返事を受けてプロスがメガネを上げながら再び話しかける

「とまぁ艦長の許可も出た事ですし、カイトさんいってらしてください

その代わり、しっかり偵察、お願いしますよ〜」

それを聞いてカイトは軽く微笑み

「はい、分かってます。それじゃ準備が出来次第出発しますね。」



シュン



そう言ってカイトはブリッジを後にする



シュン



そしてドアが閉まった瞬間、カイトの表情が真剣味を帯びたものに変わる


「僕の杞憂だと良いんだけど・・・嫌な予感がする・・・念の為に・・」



カイトの足は自分の部屋へと向かっていた





















             それから30分後



一条の光がナデシコから出て行き

その光は驚くほどの速度でナデシコから離れ、ついに見えなくなった

「ねぇねぇ、メグちゃん」

「なんですか、ミナトさん」

「なんでカイト君はまたあの服着て行ったのかな?」

「そういえば例の刀も持ってるみたいでしたね〜」

「あぁいうパイロットスーツなのかしら?」

「そうは見えませんでしたけど・・・それに刀はいらないでしょ」

「そうよね〜」

「不思議ですね〜」

(不思議で済ませていいんですか?)

それを聞いていたジュンは声には出さず、心の中だけで突っ込んでいた



























「よし、これくらい離れれば大丈夫だ」

今カイトはナデシコからズイブンと離れた場所で停止していた

その場所はナデシコとサツキミドリ2号の間ではなく、若干それた場所であった

停止時間が長引いた時にナデシコに見つからないようにと考えた為だ

「サツキミドリも気になるけどこっちの把握も絶対必要だからな。」

そして周りにこれから行う事の障害となりうるものが無い事を確認すると

若干の緊張のもと、静かに目を閉じて意識を集中する











(シンクロ・・スタート)





自分の意識がアールナイトと1つになる感覚にとらわれる

まるで自分自身が直接宇宙空間に出ているかの様な・・・

しかし自分を包む感覚は暖かいもので

初め緊張していた気持ちも段々と落ち着いてくる







そしてそれは唐突に聞こえた






『こんにちは、カイト』



頭に直接聞こえた声にカイトは驚く事無く、ゆっくりと眼を開く

眼を開けてみた光景は先ほどと同じアールナイトのコックピットである

だがカイトは確かにその存在を近くに感じていた

そしてカイトもまた自分から声をかける



「こんにちは、君がウイング・・遺跡のコピーかな?」



そしてこちらもカイトにしか聞こえない声で語りかける


『大体あっている、それにしても余り驚きが無いようだね

もしかして意思が宿っている事を察していたかな?』



「まぁね、そういう可能性も低くは無いと思ってたから

っと、今はのんびりしてるヒマは無いんだった

君に聞きたいことがあるんだけど、教えてくれるかな?」


『あぁ、それが私の役目だからな』


「ありがとう、それじゃまずウイングの能力とシンクロ率について教えてくれないか?」


『いいだろう、まずウイング・・これは定まった形を持たない

今もただこの形に留まっているだけ

だからシンクロすることにより自由に動かす事が可能だし

イメージによって形を変える事も可能だ』



「イメージか・・」


『そう、そしてシンクロ率を高める事でウイングの力はより大きく、強くなる

ただ現在の君では前に言われた様に50%がいいとこだろう』


「そうか・・・それ以上のシンクロ率を出すためにはどうしたら?」


『シンクロ率を上げたいだけなら簡単だ、やろうと思えばいつでも出来る』


「えっ?でも50%がせいぜいって、今」


『それは制御可能、つまり君の体の安全が確保されているレベルの話だ

その気になれば今すぐ100%にでも出来る

だが、その際どうなるかは聞いているだろう?』


その問いにカイトは遺跡の言葉を思い起こす








『今の君では100%の同調は無理だ。逆に体が浸食を受ける事になるだろう。

今の君ならせいぜい50%程だろうな。それ以上を求めると遺跡に取り込まれた状態

すなわち、浸食を受けた部分は彫刻のように動かなくなるだろうな。』







これを要約すると早い話が50%を超えると侵食を受け始めるのだ

一気に100%のシンクロなどしたらどうなるか・・・

下手をしたらその途端・・・最悪の結果を招く事になるかもしれない・・・








カイトは少し考え込んだ後、再びウイングに問いかける


「じゃあシンクロ率を上げても侵食を受けないためにはどうすればいい?」


『それは難しい質問だな・・・しいていうなら自分をしっかりともつこと・・か』


「自分をしっかりともつ?どういう意味なんだ?」


『そうだな、例えば君を10、そして今、君が制御出来る力も10としよう

そして今、君の制御可能なのは50%まで

よってその時のウイングの力も10と言う事になる。分かるな?』


カイトはその問いに小さく頷く


『この状態ならば何の問題も無い、君の制御は上手くいっている

だがこれよりシンクロ率を上げたらどうなると思う?』



「・・・・ウイングの力が10よりも大きくなり、僕の制御範囲を超える・・」


『そうだ、仮に60%を12としよう、そうすると制御出来ない力が2生じる訳だ

その2の力はどこへ向かうのか・・言うまでも無いな』



再びカイトは頷く


『この2の力によって君自身は8へと低下してしまう・・

・・まぁこの例は極端な物だがな

実際はこんな算数で表せるような単純なものではない

しかし君に侵食が始まるのは揺ぎ無い事実、けど手が無い訳ではない』


「というと・・・さっき言った?」


『そう、自分をしっかりともつこと

それにより余った力を君自身の意志の力で打ち消す。

と言っても意志の力で何とかなるのはそう大きいものじゃない

今の君で1、鍛えた所で4が良い所だろうな・・・まぁそれでも大分違うか』



「うん、それだけ違えば戦闘に幅が持たせられる、十分だよ」


『そうだな・・・後は慣れか・・・』


「慣れって・・シンクロに?」


『そうだ、慣れることにより少しづつ制御出来る範囲が広がるだろう

これも大きなものでは無いが、いずれハッキリと効果が出る日が来るだろう』


「あ、あともう1つ聞いてもいいかな?」


『何かな?』


「えっと、実はボソンジャンプが出来なくなってるんだ

ジャンプに対して体が全く反応しない、こんな事初めてで・・」


『なるほどな・・それについては私は知らないが、予想はつく

恐らくカイトはまだ遺跡にその存在を認識されていないのだろう』


「えぇ!だって僕を過去に戻してくれたのは」


『まぁ落ち着け、今から説明する』


慌てるカイトに彼は冷静に言葉を続ける


『今の君は時間を戻る前の体と記憶

そして今はまだ幼いこの時の君の肉体との融合によって生まれているんだ

つまり遺跡の方で本来存在しえない今の君をロストしているんだよ

解決策は1つ、遺跡まで直接行って今の君の存在を教えてやればいい』


「それはつまり遺跡に直接接触しないとボソンジャンプは・・」


『ずっと使えないという事になるな』


「やっぱりか・・・・ふぅ、でもこれでスッキリしたなぁ・・・・・・・・

っと、だからのんびりしてる暇は無いんだって、サツキミドリに向かわないと!」



『先ほどから焦っているようだが・・何か気になる事でもあるのか?』



「まぁね、っとそれじゃ早速ウイング、使わせてもらうよ

手始めに30%くらいで・・・」


『あぁ、だがあまり無理はするもんじゃないぞ』


「そうも言ってられないんでね・・」


そしてカイトは目を閉じると意識を集中してイメージングを始める


(速く、遠くまで、持続力のある速さが欲しい・・・・・)


そのカイトの想いはウイングに届き、淡い光を放つ


そしてその光の明滅の中、ウイングはその容貌を徐々に変え


数秒の後、それはアールナイトの背の中央に大きなブースターとして存在した




「すごい・・・」


『長距離移動用の変化か・・・悪くは無いな。

それとウイング自体もこの形は覚えたからな

次は変化に時間がかかることも無いだろう。』



カイトはその言葉を聞きつつも意識を操縦に集中する

「よし、目的地はサツキミドリ・・・行くよ!』

カイトの声に反応するかのようにアールナイトの眼が輝く

そして背部の大型ブースターにエネルギーが収束していき

たっぷり10秒程時間をかけた後

「クッ!!」

まるでカタパルトで撃ち出されたかの様な急加速を行った。


しかし加速はそこで止まらず、グングンと速度を上げ

通常時のアールナイトの瞬間最高速度の約1、37倍

先ほどナデシコからここに最高スピードで来た時の約1、5倍程の速度で安定した




一方カイトは初めこそ急なGに驚かされたが

速度の安定した今はサツキミドリの位置を確認しつつ

眼前に察知した暗礁空域をその速度の為に迂回し

やや月寄りのコースを考え事をしつつ進んでいた



(サツキミドリ2号・・・公式記録では木星トカゲの攻撃によって壊滅・・・

・・・けど・・・

実際に残っている映像、音声を照らし合わせると壊滅の直前まで交信していた

そして突然の爆発・・・

その際の生存者がリョーコさん達エステバリスのパイロットだけ

その彼女達にしても突然の事で何も分からなかったらしい・・・・おっと。)


考え事をしつつも目の前に迫っていた隕石をよけるカイト


(そして爆発から約1時間後

補給を終えて最後のエステを取りに入った先で敵バッタに乗っ取られたエステを発見

これを止む無く撃墜・・・・この際にいた敵兵器はバッタが7機・・・少なすぎる・・

以上がサツキミドリ2号での全て・・・そう言われてるけど・・こんなのおかしい。)


暗礁空域を迂回したアールナイトはサツキミドリとの直線コースに入り

さらに機体を若干加速させる


(この話、整理して考えるとおかしな所が最低でも3ヵ所ある

まず1つ目・・突然のサツキミドリの爆発・・・

この際メグミさんと交信した通信士は敵に襲われているなんて一言もいっていない

爆発の直前まで普通に交信していたんだ

そしてサツキミドリもそれまであそこに存在していたんだ・・

過去に襲撃は受けた事もあるだろうし、レーダーだってついてる、それにあの大きさ

例えどんな大群が来てもSOSも出せずに一瞬でやられるはずが無い)



(そして2つ目・・ナデシコは例のバッタ付きのエステ以外の敵を感知していない

仮に敵の攻撃で最初にサツキミドリの通信室がやられたのだとする

でもその後、ナデシコが全く敵を感知しないなんてありえない

もし本当にサツキミドリが敵に落とされたのだとしたら、かなりの大群だったろうから

最後に3つ目・・なんでリョーコさんとイズミさんは無事だったのか

ヒカルさんは分かる、救難ポッドでの脱出のタイミングが良かったんだろう・・

でも何で2人が生きてるのか・・・爆発前に外に出たなら衝撃波でやられてるはず

つまりリョーコさんは爆発の後に脱出したんだ

それでもエステにツールボックス、これらは無傷に近かった・・・何故か・・・

あれだけの爆発の中、格納庫だけが爆発による被害が少なかったんだ・・・

そしてエステとツールボックスの中で無事だった2人はナデシコへ・・・か



・・ふぅ・・・何度考えても僕の中の答えはこれになっちゃうんだよな・・)



『サツキミドリの爆発は内部から、

格納庫にはあらかじめバッタを恐らくはコンテナか何かで送り込んでいた』



(こう考えると全てがうまく繋がる・・・でもこの予想にも穴があるんだよな・・・)




カイトはふぅ〜っと1つ大きな溜息をつく








(・・・・優人部隊・・・早い話がボソンジャンプ出来る木星人、まだいないんだよな・・)







ここまで考えてカイトはシートにもたれかかる

その顔はバイザーに覆われてはいるが複雑な表情を浮かべていた


(これ以上考えても同じか・・・百聞は一見にしかずって言うし

その機会もあるんだし、やっぱり行くしか・・・なんだ!)


視界の端に映った僅かな光、見間違いでなければそれは確かに爆発だった

それを見た瞬間、カイトはアールナイトをそちらへと向けていた

そして見る見るうちに距離はつまり、カイトが煙を吹いているシャトルを確認した瞬間

それは一際大きな爆発を起こし宇宙の塵となった



その時、カイトは目の前の爆発に大きな違和感を抱いていた

ここは周りにぶつかるような隕石も無ければ敵の姿も無い

そしてシャトルはコースから見てどうやらサツキミドリから月へと向かっていた様だった




数秒の思索・・・


そこでカイトの中で1つの答えが出た

それと同時にアールナイトはサツキミドリ2号への進路を取っていた

それがまだ予想の段階だとしても一番可能性が高い事には変わらない今

カイトは全速力でサツキミドリへの道を急ぐしかなかった

「・・・予想外だったな、まさかこんな事が・・・

でもこれが当たってるとすると・・・少し大変な事になるかも・・・」

カイトの顔にはハッキリと焦りの色が出ていた



















その頃ナデシコでは・・・・



「ふわぁ〜、ルリちゃんすごい!パーフェクトだってさ!」

「このゲーム簡単ですから・・・それより艦長、上にいなくて良いんですか?」

「うん、良いの良いの!どうせヒマなんだしルリちゃんだってゲームしてるし♪」

「はぁ、そうですか」

対CPU戦で『右』を15連コンボで完勝したルリにユリカがちょっかいを出していた







ナデシコ艦内はとても平和だった・・・

























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