機動戦艦ナデシコ

〜時間に抗いし者〜









第三話   秘められし真実《後編》







・・・一時間後・・・


私としては何もやましい事など無く、事実をありのままに説明したのですが

お二人の前ではその説明もむなしく

(いっその事、木星トカゲが今すぐ来てくれないかなぁ)

なんてことを考えた一時間の休憩時間が過ぎ

クルーは艦長も含め、全て所定位置についていました。

そしてナデシコはというと、ビッグバリア突破のために

連合宇宙軍の駆る機動兵器デルフィニウムが守る第3防衛ラインの傍に

まで来ていました。



「まもなく本艦は第3防衛ラインの迎撃範囲に入ります。

エステバリスとパイロットの準備は良いですか?」

先程の振袖を脱いだ艦長が格納庫へと通信を入れています。

しかし通信に出てきたのはウリバタケさんではなく、普通の整備員の人。

『そ、それがパイロットのヤマ『ダイゴウジガイだぁ〜〜〜!!』っと、

その人がワガママ言いだしまして・・・』

「「「「わがままぁ〜〜?」」」」

ブリッジの艦長、ミナトさん、メグミさん、プロスさんが声を揃えていいます

皆に見えるように通信に使っているウィンドウを大きくして映し出したところ

アールナイトのコックピット部分から顔を見せているヤマダさんと

その足元で拡声器を片手に怒鳴っているウリバタケさんが見えます。

『だから、その機体はカイトの専用機だって言ってんだろうが〜〜!!』

『何を言う!この機体こそ正義の味方の俺様に相応しいだろうが!』

『そいつはお前なんかが乗りこなせるもんじゃねぇんだよ!!

とっとと自分のエステバリスに戻れぇ〜〜!!』


『そこまで言うならこの俺が見事敵を打ち倒してくるところをお見せしよう。』

それだけ言うとヤマダさんはコックピットを閉じてしまいました。

『あ、あんにゃろ〜!オイ、カイトはまだ来ねぇのか?』

『それがまだここには、ん!班長、来ました!』

そうこう言ってるうちにカイトさんが格納庫に到着したようです。

『あっ、ウリバタケさん。一体何があったんですか?』

『おお、カイト。実はまずい事になってな

ヤマダの馬鹿がお前の機体に乗り込んじまったんだよ。』

『そうなんですか?でももう大丈夫みたいですよ?』

『あん?』

カイトさんの言葉にウリバタケさんをはじめ、整備班の人は不思議顔。

私を含むブリッジクルーも何が大丈夫なのか分かりません。

『分かりませんか?今ヤマダって言ったのに反論してこなかったでしょ?』

『・・・そういや・・』

いつもはどんな時でもウルサク否定するのに今は無かったですね。

『アールナイトを起動させようとして気絶してると思いますよ。』

そういうとカイトさんは巧みにアールナイトの体を足場にし

二回の跳躍で胸部にあるコックピットに辿り着きました。

そしてコックピットを開けると中からカイトさんの言う通りに

気絶したヤマダさんを担いでウリバタケさんの元に帰ってきました。

『それでは僕は出ますのでどなたかガイさんを医務室まで

運んでくれませんか?』

『そ、そりゃ〜良いけどよ。一体どうなってんだ?

まさかお前以外の奴が中に入ると電流でも流れるようになってんのか?』

ウリバタケさんが若干引き攣った顔でカイトさんに疑問を投げかけています

この焦り具合はもしかしたら近日中に侵入を考えていたのかもしれません。

『そんなわけ無いじゃないですか、今回の事はIFSの処理速度が

追いつかなかった。

つまり処理落ちですよ。』

『処理落ち〜?仮にも奴のIFSは最新型なんだぞ?

そんなこと・・っとこいつならありえるな。』

最新型のIFSが処理落ち?

じゃあカイトさんはどんなIFSをつけているんでしょう?

あっ、そういえばカイトさんは常に両手に手袋をつけていましたね。

今度聞いてみましょうか

『そういう事なんで、医務室に連れて行ってあげてください。

しばらくは起きないと思います。』

『あぁ、分かった。そんじゃお前は準備が出来次第すぐ発進してくれ!

おぉ〜い、テンカワ〜。お前の準備はもういいかぁ〜?

ウリバタケさんが先程からエステバリスの中で待機中のテンカワさんに

問いかけています。

ブリッジのモニターに映るテンカワさんの表情は若干緊張気味。

まぁ元々コックさんなんだから当然ですけどね。

『あっ、はい。後は出撃するだけです。』

『よぉ〜し、ブリッジ!テンカワを先に出すぞぉ、良いな!』

「もっちろんです♪アキト、私のために頑張ってきてね♪」

これがうちの艦長・・・本当に大丈夫なのかな?

「重力カタパルト準備良し、エステバリス出撃してください。」

『テンカワアキト、いきま〜〜す!』

カタパルトによってナデシコからエステバリスが打ち出されます。

でも当然地球連合軍の軍人さん達もナデシコを宇宙に行かせない為に

必死です。

「左30度第3防衛ライン、デルフィニウム9機接近。

プラス60度、距離8000m。」

『カイト、アールナイト出ます。』

少し遅れてカイトさんも出撃しました。

ネルガルが所有するエステバリスとはまた異なるカイトさん専用の機体。

その大きなウイングのために重力カタパルトは使えませんが

ギリギリのスペースしかないカタパルトを危なげなく滑空します。

『アキトさん、相手の機体はミサイルによる攻撃がメインです。

けれどエステバリスの機動力とディストーションフィールドなら

脅威にはなりえません。

油断さえしなければ大丈夫です。』

『分かってる。オレは今の自分に出来る精一杯の事をやる!

油断なんかするもんか。』

この間の戦闘からテンカワさんの心構えが前向きになったみたい。

これもカイトさんのお陰ってやつかな?

「相転移エンジンの臨界ポイントまで後どれ位?」

「後、1万9750km。」

「どうしますか?」

「行きましょう。」

これでナデシコは連合軍と敵対関係に決まりですね。

まぁネルガルのお偉いさんが色々手を打って何とかするんだろうけどね。

そうこうしている間にもデルフィニウムとナデシコとの距離は縮んでいきます


けど・・・


『どういうことだ?なんで攻撃してこないんだ?』

テンカワさんの言うとおり射程に入っても相手は撃ってきません

皆が疑問に思ったその時・・・



『ユリカ、これが最後のチャンスだ。ナデシコを戻して!』

「ジュン君・・」

トビウメに残った副長のアオイさんから通信が入ってきました

どうやらデルフィニウム隊の指揮官として出撃してきたようです

『ユリカ、僕は力づくでも君を連れて帰る。

もし抵抗すればナデシコは第三防衛ラインの主力と闘うことになる。

僕は君と戦いたくない。』

どうやらアオイさんは艦長が連合軍の敵になるのを避けたいみたい

「どうします、艦長。」

「ごめんジュン君。私ここから動けない。」

でも艦長は何の迷いも無く返事を返します。

『あっ!・・・僕と・・・戦うって言うのかい?』

アオイさんはバイザーで表情は分からなくとも

言葉と態度で明らかに動揺を表しています

「ここが私の場所なの、ミスマル家の長女でも、お父様の娘でも無い・・・

・・・私が私でいられるのはここだけなの。」

『・・・・・・・・・・やっぱり・・・あいつが良いのかい』

「へっ?」

『くっ、テンカワアキト!!僕と戦え!1対1の勝負だ。

僕が負ければデルフィニウム部隊は撤退させる!』


「ふ〜む・・・経済的側面からは賛同しかねますなぁ。」

プロスさんが何を計算していたのかは分かりませんが

愛用の計算機を叩いて呟きます

けれどプロスさんの言うことも一理あります

オモイカネの計算上ではこの1対1の戦いよりもカイトさんが一人で全機と

戦った方が成功率も高く、損害も少ないと出ています

『そんな事やれるか!この間まで同じ戦艦の仲間だったんだろ!』

『いくぞぉ〜〜!テンカワアキトォ〜!!』

デルフィニウムから膨大なミサイルがテンカワさんのエステバリスに向けて

打ち出されます

『やめろ〜!俺は戦う気なんてねぇぞ〜〜!』

そのミサイル群をミサイルの前方斜め下を突っ切ることによりロックを外し

再び上昇し、今度は追い掛け回される形で

後ろから来るデルフィニウムと距離を取っています

『『『少尉!』』』

それを見ていた他のデルフィニウム部隊の人たちが後を追おうとしましたが

『悪いですが二人の邪魔をさせるわけにはいきませんね。

どうしてもと言うなら僕が相手をしますよ。』

様子を見ていたカイトさんが間に入ってきて向こうも止まらざるを得なく

なりました

その間にもテンカワさんとアオイさんの会話は絶えず聞こえてきます

『待てって!お前絶対勘違いしてるぞ!

オレとユリカは何の関係も無いんだ!』

『信じられるか!大体そんな個人的なことは関係ない!』

『だったらどうしてこんな事・・・そんなに戦争したいのかよぉ〜〜!!

突如180度反転して真っ向からぶつかる両機

お互いが打ち出したパンチをもう片方の手で受ける事で

再び膠着状態になります

『僕は子供の頃から地球を護りたかった・・・

連合宇宙軍こそその夢を叶える場所だと信じてるんだ。』

『オレだって信じてたさ・・・信じれば正義の味方になれるって・・

・・それでいい気になって・・・でもなれなかった・・』

『僕は違う!!』

『でも!!それでも今は自分に出来る精一杯の事をしようって

夢だけにとらわれて目先の大切なものや自分に出来る事を放棄したり

しないって・・・

あいつに・・・カイトに言われてそう思ったんだ。』

『ぅ・・・・・・』

『今お前がユリカの為に出来る事はあいつの事を側で支えてやる事じゃな

いのか?』

『・・・・・・・僕に・・・・ナデシコに戻って来いって言うのか・・・』

『どうするかはお前が決めることだ。

何が自分にとって大切か、それが分かってれば答えは出るはずだろ?』



『・・・・・・・・・ユリカ・・・・僕は戻ってもいいのかな・・・』

アオイさんのセリフにブリッジの皆は艦長に目を向けます

そして艦長の返事は

「ユリカはジュン君に戻ってきて欲しいな。

一緒に火星に行って残された人たちを救出しに行こうよ。ネッ♪」

『ユ、ユリカ〜〜〜』

バイザー越しに涙を流すアオイさん、バカ?

「第二防衛ライン、武装衛星がナデシコをとらえました。」

『もう時間がありませんよ、あなたたちはどうするんですか?』

『チッ!これだから青二才の我侭には付き合いたくなかったんだ!

仕方ない、全機ステーションに引き返るぞ。』

おそらくアオイさんが来る前のデルフィニウムの指揮官の人が

他のデルフィニウムのパイロットに号令をかけます

それを受けてカイトさんにミサイルを撃っていた他の機体も攻撃を中止し

ナデシコから少しずつ離れていきます

『そこの機動兵器のパイロット、一つ聞きたい。』

『僕ですか?なんでしょう。』

『君の腕なら私たち全員を墜とすのも簡単だったはずだ。

それなのに何故攻撃してこなかった。』

カイトさんは8機のデルフィニウムとの戦いの最中

一度も攻撃する事がありませんでした

にもかかわらず被弾どころかカスリもしていません

『同じ地球人同士、争う必要なんか無いでしょう。

それに僕らが火星に行っている間、地球を守ってもらわなければいけませ

んからね。』

『はっ?・・・・フフフ、ハッ〜ハッハッハ!違いない。

確かに今は出ていく者より入ってくる者を叩かねばならんからな。』

そして最後まで残っていた指揮官の人も離れていきました

『君とはまた会いたいものだな、今度は仲間としてな。』

『そうですね、その時はよろしくお願いしますよ。では』

最後に一言ずつ言葉を交わして



こうゆうシーン、ヤマダさんがいたら騒ぎ立てていたんでしょうね

・・・・なんでそう思うのかって?

・・・・・勘です。



・・・同じ地球人同士・・・か・・・

・・・?

今カイトさん何か言いませんでしたか?

・・・・・・

まぁそれはともかく

「相転移エンジン臨界点まであと300km」

「きたきた〜!エンジン廻ってきた〜!!」

「ディストーションフィールド出力最大へ」

「3人を収容、全員バリア突破に備えて。」

「・・50・・エンジン臨界点へ到達。」

相転移エンジンをフル稼働させたナデシコは速度も上がり

フィールド出力も先程より随分上がっています

武装衛星のミサイル位では足止めにもなりません

そしてまもなくしてナデシコはバリア衛星に接触



ジジジジジジジジ・・ジジ・・・カッ・・チュド〜〜ン!!



若干持ちこたえたものの、過負荷に耐え切れずバリア衛星は大きな爆発を

起こしました











と、いうわけで


「今頃地球では核融合炉の爆発に伴う大規模なブラックアウトが起こってる

でしょうな。

ま、自業自得ですが。」

ブリッジの上の方では私以外のブリッジクルーとテンカワさんが集まって

います

そのブリッジクルーの中には先程出戻りしたアオイさんも含まれています

「ユリカ、ごめん」

「謝る事なんてな〜んも無い、ジュン君は友達として・・・」

「ルリちゃん。」

え、私?

振り返るとそこには赤いナデシコの制服に身を包んだカイトさんが

立っていました

さすがに普段はあの刀は持っていないようです

「あのさ、今日は仕事何時に終わるかな?

あっ、ほら。さっきの約束の事で。」

「はい、今日はおそらくもうやることもないと思いますから後1時間位です。

あの、ところで《何でも言う事を聞いてくれる》でしたよね?」

先程カイトさんからのメールも見直したので間違いありません

「うん、僕に出来る事なら何でも。」

「それではカイトさん、私は貴方の事が聞きたいです。」

その言葉を聞いた瞬間、カイトさんはなんとも言えない

複雑な表情を浮かべましたが

すぐにまた元の笑顔に戻り

「うん、分かった。それじゃ1時間後に僕の部屋でいいかな?」

「はい、私は構いません。」

「オッケー、じゃあまた後でね、ルリちゃん。」

それだけ言うとブリッジから出て行きました

カイトさんが出て行ってふと上に注意を向けるといつの間にやら艦長とテン

カワさんの痴話ゲンカ(一方的な意見と反論?)に発展しています

ふ〜バカばっか、早くやることやって時間まで何を聞くか考えを

まとめとかないと・・・

聞きたいことは沢山あるんだしね
















そして一時間が経過してここはカイトの部屋の前


コンコンコン




「カイトさん、ルリです。お約束通りお伺いしました」

コミュニケまであるのに・・・またはコミュニケがあるためか

ナデシコ艦内にはインターホンというものが存在しない

よって部屋の中の人を呼ぶときはノックが基本である


シ〜〜ン


しかしノックの返事は返ってこない・・・

(?おかしいですね、聞こえないのかな?)



コンコンコン



「カイトさん?」

「はーい、ちょっと待ってね〜」

シュン

声が聞こえてすぐに開くカイトの部屋のドア

「お待たせ、ルリちゃん。ゴメンネちょっと火を使ってたから」

「火・・・ですか?」

ドアを開けて出てきたカイトの姿はTシャツにエプロンという

普段とは明らかに違う格好であった

「そう、火。今料理作ってたんだ。

それで良かったらなんだけどルリちゃんも一緒にどうかな?

気に入ってくれればいいんだけど・・・」

奥からは美味しそうな匂いが漂ってきている

「はぁ、それは構いませんが・・・」

何を聞こうかとこの一時間真剣に考えていたルリは思いがけない対応に

すっかり肩の力を抜かれた感じである

「あっ、ゴメンネ立たせちゃって、どうぞ中に入ってよ。」

「はい、それでは失礼します」

カイトの言葉を受け、一礼して部屋の中に入るルリ

今現在、一番興味のある人の部屋に入るため若干緊張もある

「あはは、なんにもない部屋だけどね・・・」

カイトの言葉通り、そこには備え付けの家具以外は何も無い空間があった

しいて言うならベッドの上に例の白い衣服類と刀が置かれている位である

「いえ、私の部屋も似た様なものですから」

「あっ、それじゃイスに座って待っててよ、料理持ってくるからさ」

「はい、わかりました」

そしてカイトはルリの返事を聞くと軽く微笑みパタパタとキッチンの方に

走っていった

(ふぅ、なんだか意外・・・カイトさんって料理できたんだ・・・)

ルリがそんなことを考えているうちに料理を二つ持ったカイトが戻ってくる

「お待たせ、ルリちゃん。さぁ冷めないうちにどうぞ」

そうしてルリの前に出されたのは一皿のチキンライス・・・・

「これはなんて料理なんですか?」

「これはね、チキンライスっていって料理の苦手な僕が唯一美味しいって言

われたことがある料理なんだ・・・」

「え?料理・・・苦手なんですか?」

ルリが疑問の声を上げる

「うん、二人の人に教えてもらったんだけどね、なかなか上達しなくてさ・・

でもこれだけは一生懸命練習して『美味しい』って言ってくれるまでになっ

たんだ・・」

カイトは何かを思い出したのか、懐かしそうな微笑を浮かべていたが

その後、悔しそうな、悲しそうな表情に変わっていった

「あの・・・どうかしたんですか?」

見かねたルリはカイトに声をかけたのだが・・

「えっ?あっ、なんでもないんだ。

それより折角だから温かいうちに食べてよ、ね?」

カイトの方は少しつらそうな笑顔を見せるだけだった・・・

(・・・一体今までどんなことを体験してきたんでしょう・・・

・・聞いてもいいのかな・・)

ルリはそう考えつつもカイトの作ったチキンライスに向き直ると

「それではいただきます」

早速食べ始めた

そして一口食べてルリから出た言葉は

「あの・・・・よく分かりませんがあたたかいって感じます・・・・・

とっても美味しいです」

それを聞いたカイトは満面の笑みに変わって

「ほんと?良かった〜、喜んでもらって僕も嬉しいよ。

あっ、おかわりもあるから欲しかったらいってね。」

「はい、わかりました」

そういってスプーンをチキンライスに持っていくルリ

カイトもそれを見て自分も食べ始める



この食事の間、二人の会話はルリの『おかわり』の一言しかなかったが

それでも二人の間には終始穏やかな暖かい空気が流れていた



「「ごちそうさまでした」」

そして二人の食事も終わり、カイトが食器を片付け

食後の温かいお茶を持ってきた時

二人の空気は先ほどの和やかなものとはまた違うものとなっていた

かといってそれは気まずいものでは無く、適度な緊張感を伴った

いわゆるこれからの話に対する真剣さが分かるような空気であった

そして二人が軽く一服した後、先に口を開いたのはカイトの方だった



「さて、食事も終わったし、もう夜も遅い・・そろそろ本題かな?」

「はい、あまり遅くなると明日に差し支えますしね」

そしてルリが手に持っていた湯呑みをテーブルに置く・・・

「単刀直入に聞きます。カイトさん貴方は何者ですか?

貴方がナデシコに乗艦して約1週間

私はオモイカネを使って貴方について調べました

名前・年齢・容姿・使用言語やアールナイトの目撃情報に至るまで・・・

それでも手に入った情報は一切ありませんでした

今の時代に置いて人が生まれ

そして生き続けているのなら何らかの手がかりが残っている筈なんです

なのにカイトさんに関しては全くの『NO DATA』・・どうしてなんですか?」


カイトはテーブルの上で組んだ手を崩さず、静かに眼を閉じている

その表情からは何も窺うことが出来ない

しかし心の中ではこの質問にどう答えようかと必死に考えていた

(本当のことを言うわけにはいかない・・・

かといって口から出任せでルリちゃんをどこまで誤魔化せる?

言えないというのは簡単だ

でも初めからそれじゃルリちゃんの気持ちを踏みにじることになる・・・

どうすれば・・・・!!そうか、なにも全てを言うことは無い

言える範囲の真実を言えば・・)

そしてカイトはゆっくりと眼を開くと、穏やかな視線でルリを見据えて

語りはじめた

「ルリちゃん、僕のデータが無いのはおかしい事じゃないんだ

僕はある非合法の実験施設で生まれたからね・・・

そこは外部とは完全に隔離された世界

だからその中での事は決して明るみに出ることは無い

それが僕のデータが無い理由だよ」

それを聞いてピクリと反応するルリ

彼女自身も程度の差は大きいとはいえ似たような境遇にいた身である

カイトの言葉がどういうことを意味するのかは的確に理解していた

「そう・・だったんですか・・・・あの、もしかしてその非合法の実験って・・」

「残念だけど僕がいた施設はネルガルの物じゃないんだ

だから僕はマシンチャイルドじゃあない・・・」

「でもカイトさんのその瞳の色は・」

「確かに、この金色の瞳は現時点でマシンチャイルドにしか確認されていな

い色だ・・

じゃあルリちゃんはなんで金色になると思う?」

「え?それはIFS強化体質を生み出す過程での影響で・」

「僕の瞳と髪の色は後天的なものなんだ・・・

以前は茶色の瞳にこげ茶色の髪だった

その頃と今との違いは・・・ここまで言ったらルリちゃんは分かったかな?」

カイトはそっとテーブルに置かれたお茶に手を伸ばし、それを啜る

ルリのほうは数秒考え込んで自分の中の考えをカイトに伝えた

「ナノマシン・・・ですか?」

「正解、と言っても僕の意見に過ぎないんだけどね

仮説としては、体内に存在するナノマシンの量がある一定を超えると

瞳の色に作用する

さらにそれを超えると今度は髪の色にまで作用するようになる

そして更にナノマシンの量が増えると、こうなる」

そうしてカイトは右手の甲をルリに見せる

それをじっと見つめるルリだが、カイトの手の甲には何の変化も無い

からかわれたのかとカイトに少しきつめの抗議の視線を向けるがその前に

カイトが口を開く

「僕はパイロットなんだよ、ルリちゃん」

言われて慌ててカイトの手に視線を戻す・・・

しかしそこにあるはずのものがカイトの手には無い

念のため左手も見せてもらう、がそこにはやはり何も無い

自分の手で直にカイトの両手の甲を触ってみるが何かカモフラージュしてい

る訳でもない

「一体・・これはどういう事なんですか、カイトさん」

そう、カイトには本来エステバリスのパイロットなら誰しも持っているもの

IFSタトゥーが存在しなかった・・・

「そもそもどうしてタトゥーが現れるかルリちゃんは知ってる?」

それに対してルリは小さくうなずく

「私であればオモイカネ、パイロットの方ならエステバリスといった

機械部分との連結

つまりは自分の意思をダイレクトに機械に伝える為の翻訳機のようなもの

そのためには他の部位よりも多くのナノマシンを必要とする

そこでナノマシンが集合したものが肉眼でも確認する事が出来る

タトゥーという訳です」

その的確な答えを聞いてカイトは軽く微笑む

「うん、その通り

じゃあもし集合させる必要が無いとしたら?

集合させなくても何も問題ないとナノマシンが判断したらどうなるかな?」

ルリは驚きに眼を見開く

「それって・・」

カイトは自分の手の甲を見つめながら話す

「出来ればみんなには内緒にしてもらえないかな?

あまり自慢するような事でもないしね・・・」

「はい、大丈夫です・・・誰にも言いませんから」

それを聞いてカイトは顔をルリに向け、優しく微笑む

「ありがとう」

それを見たルリは顔を少し赤らめ、下を向くのであった


「それじゃあ今日はもう遅いし、ルリちゃんも部屋に帰らないとね

送っていくよ・・・といっても隣だけどね」



そして二人は揃って部屋を出て、ルリの部屋の前まで来る

「今日は色々ありがとうございました。あっ、料理、美味しかったです」

それを聞いてカイトはまた笑顔になる

「喜んでもらえて本当に嬉しいよ

また機会が有ったらご馳走するよ、その時にはもっと美味しく作って見せる」

そしてルリも笑顔を見せる

「ふふっ、期待しています」

「うん、それじゃまた明日ね」

「はい、おやすみなさい」

そしてルリが中に入ってドアが閉まる直前、カイトの声が聞こえてきた

「ルリちゃんは笑った顔が良く似合うよ、すっごく可愛かった。

それじゃ、おやすみ」


プシュ〜


そしてドアが閉まった後、中では一人顔を赤くした少女が呟いていた



「・・・・ばか・・・」


















こんにちは、次回(第4話)に激しくてこずっているEXEです

さて、今回カイト君が料理を作ってますが・・・

彼には料理が苦手になってもらいました

といってもそれは教えた人のレベルが高いのとルリの辛口評価のせいで

とりあえず人並み以上には作れるって設定です

それとIFSですが無くしちゃいました(爆)

はっきりいって個人的な意見入りまくりですが

突き詰めたら多分こうなるんじゃないかな〜っと思いまして

それとヤマダくんに関してですが・・・

どうしよう、生き残っちゃったよ(笑)

なんだか書いてる内に極めてスムーズに死なない流れになってしまって

まぁヤマダならあぁするな〜って事で医務室行きに・・・

今後の彼についてはまだ未定ですがせっかくいるんで何かやってもらい

ましょう(爆)

それとルリとカイトの甘々な展開を望んでおられる方々

残念ながらその日はかなり遠いかもしれません (涙)

とりあえず当面の目標は『blank of 3 years』のルリに近づけるつもりです

これ自体はそう遠くない内、そうですね火星から戻って

白くま助けに行く頃までにはその状態に持っていくつもりです

その状態が最終目標では無いので (ニヤリ

まぁちっと時間がかかるかもしれませんが気長に待ってください

では今回はこの辺で!

それでは、読んで下さってありがとうございます

今後もよろしくお願いしますm(_ _)m







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