機動戦艦ナデシコ

〜時間に抗いし者〜








第二話  火星への旅立ち《前編》




「これから何が起こるか分からないしやっぱり体を鍛えないとな

それにエステバリスの強化、この二つは最優先かな

トレーニングの後にでもウリバタケさんの所に行くとするか・・・」

そして僕は考え事を止め、戦闘班の赤い制服に着替えトレーニングルームへと向かった。








(ふぅ〜、体はまだ小さいのに以前より身体能力が若干上がってる・・・

これも遺跡の力なのかな・・・

それにしてもこの刀・・・こんな風になってたんだ・・・

確かに僕にしか使えないな、これは)

僕は現在の自分の身体能力を正確に判断するためにデータを取っていたが

その数値はミカズチだったときのデータをわずかに上回っていた

(それでも鍛えておかなきゃいけない・・・・

僕の存在がどれほどナデシコにとって苦難となるか分からないからな。

・・・それに・・・大切なものを護るために・・・・ルリちゃん・・・)

こうして体のデータを取った後、部屋に戻りシャワーを浴びて、

ウリバタケさんのいる格納庫に向かった。



5分後、格納庫に着いた僕は唖然とした・・・

(・・・腕・・・脚・・・頭・・・各部装甲・・・)

そこには胴体を固定され、バラバラに分解された無残なアールナイトの姿があった。

僕の姿に気付いたウリバタケさんが作業を中止してこちらにやってくる。

「おぉう、カイトよく来たな、お前との約束通り

ブラックボックスとウイングには手を出してないぜ♪」


そういうウリバタケさんの顔はすこぶる嬉しそうだ・・・

それもそのはず、アールナイトは基本性能だけでも

今あるエステバリスのズイブン先を行っている。

しかし・・・・ここまでやってちゃんと直せるんだろうか・・・・

「ウリバタケさん、これ元通りになるんでしょうね・・・」

アールナイトの残った胴体部分を指差して尋ねる僕

・・・ハッキリ言って心配だ・・・

「あったぼ〜よ、これぐらい、ど〜ってことね〜よ♪」

自分の胸を叩きながら自慢げにそう言うウリバタケさん

やや不安ではあるが、僕は一応信頼することにした

そレから本題である先程のエステ改造計画をウリバタケさんに話した。



「・・とそういう事なんで他のエステバリスの強化をお願いできませんか?

僕のアールナイトを参考にしてくれればいいですから。」

「そりゃ〜願ってもね〜事だな♪

けどよ〜、お前の機体はハッキリ言って今の技術じゃ作れない部品も使ってるし

それに近づける事は出来ても、超える事ができねぇのは悔しいな・・・」

ウリバタケさんは目の前にある機体を超えるものが創れないのを悔やんでいた。

そこへ僕とウリバタケさんのコミュニケが同時に鳴ってメグミさんのウィンドウが現れた。

「カイトさん、ウリバタケさん、重大発表があるそうですから至急ブリッジまで来てください。」

「「重大発表??」」

(なんだろう、重大発表って・・・)

そして僕とウリバタケさんは格納庫を後にしてブリッジに向かった。



「今までナデシコの目的を明らかにしなかったのは妨害者の眼を欺く必要があったためです。」

主要なクルーが全員ブリッジに集まったのを確認してプロスが話を始める。

「我々の目的地は火星だ!!」

隣で沈黙を守っていたフクベ提督がこれからのナデシコの目的地を皆に語る

(重大発表ってこの事だったのか・・・最初は秘密にしてたんだなぁ。)

他のクルーにしてみれば重大発表なのだが、カイトにしてみればなんてことは無い。

むしろ必然である。

「では現在地球が抱えている侵略は見過ごすというのですか!?」

連合軍を抜けてナデシコに乗る事にしたジュンにとっては衝撃だったのだろう。

しかしプロスはそのジュンの物言いにもまったく動じない。

「多くの地球人が火星と月に植民していたというのに、

連合軍はそれらを見捨て地球にのみ防衛線を引きました。

火星に残された人々や資源はどうなってしまったんでしょう? 」

それを聞いたジュンは辛そうな顔を見せる。

けれどそんな事はお構い無しに、誰もが一度は考えた悲痛な言葉をかけるものもいる。

「どうせ、皆死んじゃってるんじゃないの。」

最年少のホシノルリである。

これを聞いたカイトは少し悲しい気持ちになった。

ルリの言葉に何の感情も込められていなかったからである。

(他人に全く興味が無い・・・本当はすごく優しい娘なのに・・・

これからのルリちゃんの為にも、僕はルリちゃんを護るだけじゃなく

色々な事を教えてあげないと・・・・)

「分かりません、しかし確かめる価値は「無いわね、そんなもの。」



プロスの言葉を遮ってブリッジに数人の兵士を引き連れてムネタケが現れる。

「提督、この艦を頂くわ。下手な真似をすると容赦しないわよ。」

「ムネタケ血迷ったか!!」

「その人数で何が出来る。」

真っ先に抗議をするのは上官であったフクベと、軍事経験もあるゴートだった。

「私をなめないで欲しいわね、既に艦内の占拠は終わってるわ。

それにもうすぐ来るわよ。ほら♪」

そう言うと目の前の海が割れ、トビウメ、クロッカス、パンジーが現れる。

それと同時にブリッジに大きなウィンドウが現れる。

「私は連合宇宙軍第三艦隊提督、ミスマルである。ユリカァ、元気にしていたかね? 」

「はい、お父様。」

「「おと〜さま〜?」」

傍観者になりつつあったメグミとミナトが口を揃える。

(ハハハ、あいかわらずだな、おじさんは・・・)

1人懐かしむものもいるが・・・

「お父様、これは一体どういう事ですか?」

「すまないなユリカ、パパも辛いがこれも任務なんだよ。」

「困りますなぁ、ミスマル提督。連合軍とは話がついてるはずですが・・・」

プロスがメガネを上げながら参ったという感じで尋ねる。

ある程度予想済みだったようだ。

「我々が今求めるものは木星トカゲと戦える戦力だ!!それをみすみす民間などに・・」

「いやぁ〜さすがミスマル提督分かりやすい、では交渉ですな。早速そちらに伺います。」

「よかろう、ただし!!艦長と作動キーは本艦が預かる。」

「それはさすがに無理ですね。」

ここで先程まで何も喋らなかった少年が突然話に入ってくる。カイトだ。

「今なんと言った?」

「艦長はともかくマスターキーは渡すわけにはいきません。

それを抜くとナデシコは敵の格好の的ですから・・・」

カイトはコウイチロウに臆する事無く自分の意見を主張する。

「そのことなら心配いらん、我々連合軍がしっかりと護衛するからな。」

胸を張って髭を指でつまみながら答えるコウイチロウ、その余裕は一体どこから・・・

「お言葉ですが、ナデシコは先日も危ない目に会っています。

例えバッタ1機でも、フィールドの張れない、攻撃も出来ないナデシコには危険です。

そんな提案は受けれません。それとも連合軍はナデシコの撃沈が目的なんですか?」

いまだ少年といえるようなカイトにここまで言われてはコウイチロウも黙っていない。

「そんな事は無い!!君は連合軍をバカにしているのか!!」

「火星は落とされ、月も木星トカゲの勢力下になってますよね?

たとえ何と言われようとこれだけは譲れません。命がかかってますから・・・」

こう言われると連合軍の立場としては何も言えなくなる。

「そこまで言うのなら作動キーはそのまま、しかし艦長にはこちらに来てもらうぞ!」

それを聞くとカイトは笑顔を作り、感謝の意を明らかにした。

「了解です、無茶を言ってすみません。感謝します。」

先程までと打って変わったカイトの控えめな態度に驚いたのか、

それを聞いたコウイチロウも少し目を見開き、その後ウィンドウを閉じる。



その後、交渉の為にプロス、ユリカ、ジュンの三人がブリッジから出て行った後、

再びムネタケが話し出した。

「それじゃあ、ここに居る者は全員食堂に集まって頂戴、その方が面倒が無くていいから。

それとあんた、あんたにはその刀を渡して貰おうかしら。」

そういってカイトに命令する。

「この刀は僕の私物なんですがね、それに僕以外の人には使えませんよ」

「さっきの話を聞いてなかったのかしら?

私達が欲しいのは木星トカゲと戦える戦力。

ディストーションフィールドの切れる刀なんて貴重でしょ♪

使えないかどうかはあたしが決めるわ。」

そう言ってカイトにブラスターの銃口を向けるムネタケ。

カイトは仕方ないといった感じでムネタケに持っていた刀を手渡す。

「フン、最初から素直に渡してれば良いのよ。

どれどれ・・・・ って何よこれ!?

刀を鞘から抜いて驚きの声をあげるムネタケ

それをカイトは面白そうに見ている。

「あんたこれ刃が無いじゃないの!!」

そう、カイトの持っていた刀には刃が付いていないのだ。

言うなれば金属の棒である。

「言ったでしょ、僕にしか使えませんって、他の人じゃあ野菜も切れませんよ。」

これを見たミナトとメグミが笑いながら話している。

「ぷっ、カイトくんにしか使えないものを盗っても役に立たないわよねぇ〜。」

「連合軍の新兵器が野菜も切れないんじゃ話にもなりませんもんね。」

皮肉たっぷりにしっかりと聞こえるように言っている辺り確信犯だろう。

「くっ、そこ!うるさいわよ!!」

そこに追い討ちをかけるようにお決まりのセリフが飛んできた。



「ばか?」




ブチッ



その一言で、なめられまくっていたムネタケが切れた。

「なんで機械人形のあんたにまでそんなことを言われなきゃいけないのよ!!」

あろう事か、ムネタケはまだ鞘に納まっている刀をルリの頭に目掛けて振り下ろした。



「「「「!!」」」」



ガツッ!!



その音にミナトとメグミは一瞬目をつぶったが、目を開けると、その光景に驚いた。

ルリとムネタケの間には、いつの間にかカイトが立っており

その頬には殴られた後であろう赤いアザがあり、口からはわずかに血を流していた。

だがカイトはそんな自分の状態など全く気にも留めず

その金色の眼をムネタケに向けると体の奥底に響くような声で忠告した。



「今度、ルリちゃんにこんなことをしたり、さっきのようなことを言ってみろ。

僕は許さないからな・・・



その言葉でムネタケはたじろぎ、ブリッジ内には重い空気が流れるが

カイトがルリの手を取り、ブリッジを出たことにより軍人達は慌てて後を追い

しばらくの後、全員が食堂に集められた。



カイトとルリは軍人達が側にいた事もあり、一言も話さず食堂への廊下を歩いていたが

ルリは優しく握られているその手に、若干の戸惑いを感じつつも

その手から伝わる心地よい暖かさを感じてわずかに頬を赤くしていた。

(カイトさん・・・私を助けてくれた人・・・それに・・・あたたかい・・・)







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