機動戦艦ナデシコ

〜時間に抗いし者〜





第一話    来訪者再び・・・   《前編》








そこは佐世保ドックからやや離れた海底。

そこにボースの光の輝きが発生し、天使の様な大きな翼を背負った機動兵器が現れる。

「ふぅ、どうやら着いたようだなって、なんだこれは!?

ふと自分の姿に眼を向けると顔には白いバイザー、全身に白を基調とした

戦闘服に、あまつさえ白のマントまで着けている。

その姿は色は違うとはいえ、復讐者となったアキトと同じものだった。

さらに左手には日本刀を持ち、右手にはメモが握られていた。

早速そのメモに目を通すと遺跡からのメッセージだった。

『私からの贈り物は気に入ってもらえたかな?

服装は君が直接戦闘をするために用意したものだ。役立てるといい。

それと刀についてだが、それは直接戦闘の為だけにあるのではないんだ。

それは君に与えた機動兵器が暴走したときに役に立つ

君が使う事でその刀は大きな力を示すだろう。

ちなみに暴走とはウイングを分解や解析しようとしたらそれに反応して

自爆プログラムが作動する事を指している。

そうなるとウイングがオートでフィールドを張るので、それを切り裂くための武器ということだ。

まぁ使う事は無いだろうが万が一という事もあるので一応持っていると良い。

では良い結果を待っている。』

「・・・・・・・・自爆って、いくらなんでも・・・・

・・・ま、まぁ大丈夫だろ・・・・・・・・多分・・・・・・・」

僕はとりあえず機体を起動させ、現在地と時間の検索をした。

「今の時間はちょうどナデシコの初陣の時か・・・

なら今のうちにこの機動兵器のことを調べておくか。」

そして僕は機体にアクセスする、少ししてナデシコのほうから重力波反応を探知した。

ナデシコがグラビティブラストで勝利を飾ったのだろう。



そしてそれと同じ頃、僕は機体の事はほとんど把握していた。

「機体の基本スペックはエステバリスの1・7倍くらいか、凄いな。

これでウイングを使えばどうなる事やら・・・・

武装はゼロ、吸着地雷も無いのか。

互換性も無し、その代わり小型の相転移エンジンが積んであるな。

でもブラックボックスになってるし、あげくの果てにウイングと一部連結してる
・・・・・解析や分解はマズイな・・・・・」

先程のメモを右手に握りながら考えを巡らせる僕

ウリバタケさんには注意しとかないと・・・・

そして僕はふとあることに気付いた。

「名前・・・まだ決めてなかったな・・・」

何にするか考えようとしたが、それはすぐに閃いた。

「僕はルリちゃんを護るんだ。だからお前の名前は《R−KNIGHT(アールナイト)》だ。

これからよろしくな、アールナイト!」

アールナイトは何も答えないが、眼がうっすらと青白く輝く

「良し、お前の名前も決まったし、後はどうやってナデシコに乗せてもらうかなんだけど

うぅ〜ん、難しいなぁ・・・・んっ!救難信号?発信源は・・・

ナデシコ!?

もうすでに僕の影響が出ているのか、クソッ!!」

僕はアールナイトをナデシコのいる佐世保に向けて全速力で加速させた。

(僕は今度こそルリちゃんを必ず護るって誓ったんだ

こんなところで何かあってたまるか!!

ルリちゃん、今行くから・・・)

そしてアールナイトは海を二つに割りながら低空飛行で急速にナデシコに近づいていった

















少し時間を遡ってここはナデシコ艦内




「目標、敵まとめてぜぇ〜〜んぶ、てぇぇぇ〜〜〜い♪」

ナデシコ艦長ミスマルユリカの掛け声を合図に

ナデシコから放たれたグラビティブラストがジョロとバッタを閃光の渦に包み込んでいく。

「バッタ、ジョロとも残存0、地上軍の被害は甚大だが、戦死者数は5。」

あくまで冷静なルリの声が状況を報告する。

その報告を聞いてブリッジが騒がしくなる。

「偶然よ、偶然だわ!!」

「認めざるを得まい、良くやった艦長!」

「まさに逸材!!」

現実を直視出来ないでいるムネタケ、それを諫めつつ、艦長を労うフクベ提督とプロスさん。

そして先程の真面目振りはどこへやら、暴走を始めるユリカ艦長・・・

「アキト、スゴイ、スゴイ!!やっぱりユリカの王子様だね♪」

かたやこっちはそんなユリカにたじたじのコック

「か、勘違いするな、俺はただお前に会ってだなぁ、そのぉ〜・・・」

そんな時に入るルリの新たな報告、

「敵第2波、機影を確認。敵の数は約80機。」

「えぇ〜、私に会いに来てくれたのぉ〜って、へっ?」

いくらトリップしていても一応は艦長、何とか聞こえていたようだ。

そしてそんな事はお構いなしのルリ。

「どうやら伏兵が存在していたようですね、接触まで後2分です、どうするんですか?」

唐突な事態に焦るユリカ、例え戦術シュミレーションで無敗をほこっていても実戦は初めて

シュミレーションとは違い実戦では真に安全な時間は無いのだ

「えっと、え〜っと、あっ!またグラビティブラストで♪」

「ナデシコは出航直後でエネルギー不足なのに先程使用したばかりなので、しばらくは使用は不可能です。

ちなみにディストーションフィールドの出力も低下していて、現在出力40%まで落ちています。」

「うっ、じゃあミサイルで!」

「敵の奇襲により搬入作業前に発進したため、ミサイルはまだ積んでいません。」

「なんで積んでないのぉ〜?あっ!それじゃ、アキトに♪(はぁと)

「ここは既に海上です、陸戦フレームのエステバリスではタコ殴りが良いとこです。

ましてや、パイロットがコックさんならお話にもなりませんよ。」

ことごとく粉砕されるユリカの提案、緊急事態なのにどこか漫才のようである。





しばし重苦しい静寂がブリッジ内を包み込む、そしてその雰囲気にのまれないのは彼女一人

「敵第2波、あと30秒で接触します。現在のフィールドで敵の攻撃を防げるのは約3分です。」

それまで呆けていたユリカだが、事の重大さに気付いたか、真面目になる。

「直ちに救難信号を出してください、付近の味方が駆けつけてくれるかもしれません。

ナデシコは全速後退、街から出来るだけ離れるように、グラビティブラストはどれぐらいかかりますか?」

それに触発され弾かれるように仕事を再開する通信士のメグミと操舵士のミナト。

先程と変わらず報告を続けるオペレーターのルリ。

「ハ、ハイ、救難信号発信します。」

「りょうか〜い、このまま沖に出るわよぉ〜。」

「あと15分はかかります。」

「グラビティブラストは使えない・・・エステバリスの換装急いで下さい!

・・・・それと・・・全員いつでも退艦出来るように・・・・」

ユリカの消え入るような声、そんな時に再びルリの報告が入る。

「後方より急速接近する機影を1機確認、識別反応無し。」

「敵の増援か!!」

先程より黙って見守っていたフクベ提督の声が一瞬ブリッジ全体に緊張をもたらす。

しかしそれはメグミの報告に打ち消される。

「その機体より通信が入っています、通信繋げます。」

本来なら未確認機との通信など勝手に繋いではいけないのだが、この場合感情が優先した。

そしてナデシコのブリッジに大きなウィンドウが現れる。

そのウィンドウには全身白いスーツに白マント、白いバイザーをつけた金髪の男が映っていた。

「2分だけ耐えてください、すぐに向かいます。」

その男は短くそう言うと、ウィンドウを閉じた。

唖然とするブリッジ、なんといってもその姿は怪しすぎた。

しかし敵のミサイルの一撃によって意識が引き戻される。

「と、とにかくナデシコは防御を最優先に、一応増援とおもえる人と合流後は離脱を最優先にお願いします。」

ちょうどそこに格納庫のウリバタケからのウィンドウが開く。

「ブリッジ、空戦フレームが1機だけ間に合った、コックに発進させるか?」

そのウリバタケの後ろには『俺を出撃させろぉぉ〜〜〜』

と、ほざく骨折した熱血バカが整備員に取り押さえられている。

「その事ですけど、もうすぐ謎の機動兵器が1機応援に来てくれるそうなので、

エステバリスにはとりあえずフィールド内で待機してもらって下さい。」

それを聞いたウリバタケは訝しげな顔をする。

「謎の機動兵器ぃ〜〜、なんだそりゃ〜、味方なのかぁ〜?」

ユリカの顔が少し強張る。

「もしそれが敵なら挟み撃ちでナデシコは確実に沈みます。その為にもアキトにはフィールド内で待機してもらうんです。」

ウリバタケの顔も真剣になる。

「そういうことか、分かった。オォ〜〜イ、お前らエステバリス直ちに発進だ〜!!

それとお前は発進後フィールド内で待機だ、分かったな〜!!



「わ、分かりました。発進します。・・・・・・・せっかく生き残ったんだ、死んでたまるか!!

重力カタパルトによって加速した空戦フレームがナデシコの正面に群がるバッタたちを確認する。

それを見たアキトは先程の命令なんかは忘れていた。

「でやぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」

出会いがしらのパンチで1機のバッタを粉砕、そして持っているライフルを闇雲に撃ちまくる。

しかし、単発ではフィールドに弾かれてしまい、撃墜できたのは3機だけだった。

「あのバカ!もう人の話し忘れてやがるのか、ったく!!」

セイヤの怒声が格納庫に響き渡る。だがアキトはなかば暴走している。

そしてあっという間に囲まれてしまうアキト機、その内正面の5機が突っ込んでくる。

アキトは先程多用したワイヤードフィストで迎撃しようとするが、

「あれ、あれ、うそだろ、なんで腕が飛ばないんだ!?」

これは空戦フレーム、そんなものは付いていない。

そんな中でもバッタは容赦なくアキトの空戦フレーム目掛けて突っ込んでくる。





「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜」




「アキトォ〜〜〜〜!!」





ブリッジにいる全員がアキトの死を予感した時、

高速で飛来した機動兵器がアキトに迫る5機のバッタを含む全体の4割方

の敵をディストーションフィールドによる高速度体当たりにより破壊した。



その機動兵器はエステバリスに酷似しているが、背中には天使の様な大きな翼を背負い

その白銀という機体色とあいかさなって、さながら戦場に降り立つ天使であった。



その天使はわずかにアキトの方を見ると、すぐさま残ったバッタの殲滅を始めた。

バッタはそれでもまだ50機程は残っていたのだが、ある程度固まっていたため

武器を持たない天使にわずか25秒で全て鉄くずと変えられた。



呆然とするナデシコのクルー達、いくら悪い条件が重なっていたとはいえ

自分達が退艦まで考えた敵をモノの30秒ちょっとで殲滅させたのだ。

それも武器は一切使わずに、一番近くで戦闘を見ていたアキトも目を疑ったものだ。

同じ人間にこれほどの事が出来るものなのかと・・・・・・



そして皆が呆然としている所に通信が入り、ブリッジに大きなウィンドウが開く。

先程の通信の際、向こうが回線を閉じただけで、向こうが回線を開けばいつでも繋がる状態だったのだ。


「どうやら無事のようですね、良かったです。先程のエステバリスの人も大丈夫ですか?」

バイザーで細かい表情は分からないが、その声は穏やかで優しいものだった。

それを聞いたユリカが皆を代表して礼を言う。

「えぇ、あなたのおかげで全員無事です。本当にありがとうございました。

私はこのナデシコの艦長のミスマルユリカといいます。

よろしければあなたの名前を教えてもらえませんか?」

「えっ、僕の名前ですか、僕は『艦長、彼にはナデシコを助けていただいたのですし

やはり艦内にて正式にお礼をしたほうがよろしいんじゃないですか?』

カイトの言葉を遮って、正式なお礼をすると言うプロスさん

その眼は獲物を見つけた鷹の様だったとか・・・・

そんな時、カイトに良いアイディアが浮かんだ。それを早速実行に移す。

「えっと、それじゃあ食料を少し分けてもらえませんか?

僕、今帰る家も無い状態でして・・・・・」

そのカイトの発言にメガネを光らせるお方が一人

云わずと知れたミスタープロス!

「それは、それは、それならばこのナデシコにパイロットとして乗艦なさるというのはどうでしょう?

もちろんお部屋は用意しますし、お給料も良いですよ♪」

カイトは内心うまくいったことを喜びながら、それを表情に出さず、交渉を続けた。

「それは助かりますね、けれどそうなると僕の方にも少し条件があるんですけどよろしいですかね?」

「えぇ、それはある程度までなら聞かせてもらいますよ、あなたの様な凄腕のパイロットは貴重ですからね。」

プロスの方も交渉が成功したことが嬉しそうだ。

けれど不機嫌な方が1人、

「ちょっと、私はそんなどこの誰かも分からないような怪しい奴の乗艦は認めないわよ!!」

ナデシコに生えた菌糸類、歩くキノコのムネタケさん。

が、もちろん構う人はだぁ〜れもいません、ご愁傷様〜♪「誰か私の話を聞きなさいよ、ねぇ、ちょっと!!」




そんな事をしている内にプロスさんはカイトを迎えに格納庫へ、

当のカイトはちょうどアールナイトを固定して、コクピットから降りたところだった。その右手には刀が握られている。

「ウオォォォォォ〜〜〜〜〜!!」

そして詰め寄ってくるのはウリバタケさん、目が血走ってます・・・・・(汗)

「スンバラシィ〜〜、このパワー、機動性、フィールド出力、どれを取っても超極上品だぜ!!

おい、あんた、これは一体どうやって手に入れたんだ?ネルガルの新型機か?」

むなぐらを掴まんばかりの勢いでカイトに詰め寄るウリバタケ、

カイトはというと、昔取った杵柄とでもいうのか、全く動じず自己紹介をする。

「初めまして、僕の名前はカイトと言います。よろしくお願いします。」

バイザーを付けているが、口元を綻ばせ、笑顔で自己紹介をするカイト。

礼儀正しいあいさつにウリバタケも少し正気を取り戻す。

「おぉ、そういや紹介がまだだったな、俺は整備主任のウリバタケセイヤってんだ、よろしくな。

っと、それはともかくあれの事を教えてくれ!!」

そう言ってカイトの後ろのアールナイトを指差す。

「あの機体の名前は《R−KNIGHT》、僕の愛機です。友人から貰ったものです。」

「貰ったものって、機動兵器をか?冗談だろう?」

ウリバタケの突っ込みももっともだが、カイトの言葉にウソは無い。

確かに遺跡に貰ったものである。(友人というのはどうかとおもうが・・・・)

「ウソじゃありませんよ、あっ、それとウリバタケさんに言っておかなければいけないことがあるんです。

アールナイトを整備する上で絶対にウイングとブラックボックスの部分は分解や解析はしないで下さいね。

そんなことすると自爆しちゃいますから。」

とんでもない事をサラッと言うカイト。

しかしそれを聞いたウリバタケは何故か一瞬眼を輝かせたような・・・・

そこへプロスさんがタイミングよくカイトを連れに現れた。

「おぉ、初めまして、私はこのナデシコの経理を担当しているプロスペクターという者です。」

そう言って名刺を差し出すプロスさん。

「カイトといいます、これからお世話になります。それでは先程の話をしましょうか。」

「おぉ、話が早い、それでは私の部屋に参りましょうか。」

そして二人は格納庫を後にした。












そしてブツブツと危険なことを呟く男が1人。

「フッフッフッフッ、自爆こそ男のロマン。それに少しぐらいバレやしねぇだろう♪クックックックックッ」






・・・・・ナデシコはとってもピンチだった・・・・・




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