機動戦艦ナデシコ 刻戻りて白銀騎士

                               「ばいばい・・・大切な家族達」

                              それでいいと思ったのに

                                どうして・・・僕は

                                 戻ってきてんだろ

                               だから、やってみるよ





                           悲劇を繰り返してはいけないから


  
                   第0章    時の「冷たい方程式」





月軌道 前線(第四次月攻略戦)


戦火の続く月軌道で一つの戦艦が重力波反応をキャッチした

「チューリップに新たな重力波反応を確認!」

「なに?」

「ヤンマ級以上の戦艦、来ます」

「来るなこい!」

そう言った第二艦隊の船長だろうか、その男がサングラスを光らせて画面を見つめる

「いざと為れば、このブラジオラスをぶつけるまでだ」

「重力波、更に増大」

「なぁぁぁ」

「まさか・・あれは」

「「「ナデシコ〜〜〜」」」

ナデシコ内部ではナデシコクルー全てが気絶しているのか反応はなかった。その中、一人の青年が起きあがった

(いってて・・・ここは、何処?)

青年は辺りを見回した。どうやら展望室らしい。青年は取り敢えず動こうとしようと足を上げる途中で信じられない光景を見た

(えっ?・・・ユリカさん?)

そこには気絶しているのか寝ているのか分からないが青年にとっては忘れられない人が倒れていた。

「どっどうして・・・っ!!」

その奧にはイネス・・・そして青年の兄と言えべき存在だった男、テンカワ・アキトが横たわっていた

「どっどうして、それにここは何処?」

青年は混乱している頭を一旦リセットする為に首を振った。そして考え始めた。自分の成り立ちを・・・

(僕は、たしか遺跡と・・・)

青年が考えている時にいきなり大きなスクリーンに最愛の忘れるはずがない少女が映った

「起きてくださ・・・・・あっ・・どうも」

少女も混乱しているのだろうか。青年にそう告げるとしばらくの間、沈黙がおとずれる。それを先にやぶったのは青年だった

「ルッルリ・・・ちゃん」

青年は微笑んでいるのか、それとも泣いているのか分からない複雑な顔をした

「えっ・・・」

ルリは一瞬、自分の名前を呼ばれてドキっとした。何故ならその青年は自分の知らない人物なのだから

「えっと、貴方は誰ですか?」

「えっ・・・」

青年はそのまま沈黙するしか無かった。忘れられている。そう感じたのだろうかは分からないが青年は少し暗い顔になった

(ルリちゃん。僕の事を忘れたのか?そんなはず、あれ?ルリちゃんってあんなに若かったかな?)

「ルリちゃん、君ってそんなに若かったっけ?」

青年は考えている様な顔をしながらルリに質問した

「何を言ってるんですか?貴方は。それより艦長を起こして頂けますか?外は戦闘中ですし」

「え?艦長?」

「はい。艦長。そこの青い髪の女性です」

(今は彼より艦長を起こして戦闘の指示を貰わないといけない。その後で処置すればいい)

ルリはそんな事を考えながらルリは青年にそう告げる

「えっと・・分かった。あっ!出来れば今の西暦を教えてくれないか?」

「えっ?はい・・・西暦2197年ですけど」

(2197年・・だって!。って事は過去にジャンプしたのか)

青年は考える仕草をやめようとしない。それを見ていたルリは少し焦りながら、もう一度声をかけようとすると

「・・・2197年、戦闘・・現在の位置は?」

青年はいきなり真剣な顔つきになる。まるで情報整理をするように

「えっ?どうしたんですか?」

困惑するルリ。当然と言えば当然である

「戦闘中なんでしょ?。現在の位置を」

青年は考える仕草を変えようとせずに何かを確認するようにブツブツと呟いている

「はい、現在は月軌道。木星蜥蜴と戦闘中です」

「・・・・なるほど。あの時か・・・って僕は居なかったけどね」

青年は少し微笑みながらそう呟いた。

(アキトさんやユリカさんそしてルリちゃんからナデシコの日々を聞いた事があったけどそう考えると今はナデシコが火星でチューリップに潜った時か、そう考えると8ヶ月のロス。それとアキトさんの)

「あの、それより艦長を」

ルリは顔には出していないが実際は本当に焦り始めていた。別に戦闘中でなければいいが、今は戦闘中でしかも戦局のど真ん中にいるのだ。焦らないはずがない

「ああ、ごめん。Dフィールド展開後、反転、その後グラビティーブラスト広域発射・・・そして後退して下さい。味方戦艦に突っ込まないようにね」

そう告げて青年は微笑んだ。ルリはその微笑みを真っ正面から見たせいかドキっとしたがすぐに機転を変え、指示通りに動くようにした

「じゃあ、僕はユリカさんを起こして格納庫に行きます。エステバリス隊に指示を忘れないように」

そう言って青年はユリカを揺すりながら起こそうしていたが先にアキトが起きたのでアキトにユリカを起こすように指示してすぐに格納庫に走り出した。その時にアキトもさすがに見知らぬ人が居た事に驚いたようだが頷きながらユリカを起こしていた

青年は格納庫に着くと辺りを見回す。どうやら格納庫の従業員達もまだ気絶中のようだった。それを確認もせずに動かせるエステバリスを探す。そうして見つけたヤマダジロウが乗っていたエステバリスに乗り込む。空戦フレームだったがお構いなし

「今は、目の前の事に集中しよう。それからどうして僕が生きているのか。何故飛んだのか。全ては後でいい」

青年はそう言ってエステバリスを起動させる。目を閉じて心を落ち着かせると通信を開き、ルリに連絡を入れる

「エステバリス、発進する。ハッチ開けて下さい」

「・・・・了解」

動揺しながらもハッチを開けるルリ。そうしてGカタパルトを使い発進する青年の乗るエステバリス

「・・・・カイト!行きます」

カイトはそう告げて発進した。



月軌道 戦闘領域


「バッタ・・・懐かしいな。始めての戦闘でも苦戦はしなかったけど」

カイトは懐かしそうに攻撃を避けながらバッタを次々と撃退していく。接近して来るバッタに対してはイミディエットナイフを抜き素早い動作で突き刺すと同時に抜き、蹴りを入れて距離を取る。それと同時に爆破するバッタは他のバッタ達も巻き込む。勿論その間に迫ってくるバッタや新型バッタに対してはラビットライフルで応戦しながらDフィールドのタックルなどを混ぜ合わせて戦う。

「あっ、やっと来てくれた」

カイトはナデシコから出てきたエステバリス達を見つめる。レッドに装飾されたリョーコ機、イエローのヒカル機、グリーンのイズミ機、そしてカイトに取っては懐かしいと思えるピンク色のエステバリスのアキト機

「この頃のみんなの腕ってたしか・・・ダメダメだったかな?」

「いっただき〜」

そんな事を考えるとヒカル機がバッタに攻撃を仕掛けていた

「うっそ〜10機中3機だけぇ?」

「バッタ君のフィールドが強化されてるみたいだね」

「進化するメカ?」

「上等じゃねぇか。どつき合いだったらこっちのもんだ!」

そんな風に思いながらもエステバリス隊のフォーメンションにはスキが無くいい動きをしていた。ただアキト機だけはまるで敵を怖がっているように見えて危ない動きをしていた。しかもバッタにラビットライフルで攻撃をしてもフィールドではね除けなら、突進攻撃を何度も喰らっている

(アキト?そうか。この時は)

「手が・・・動かない・・わぁぁぁぁぁぁぁ」

「くっ・・・アキト」

カイトのエステバリスはアキト機の側まで行き守るように戦いを始めた。包囲してるバッタ達を素早い動作で撃破していく

「どっどうしちゃったんだよ。もう平気になったはずなのに、もう怖くなんか無くなったはずなのに・・・はぁはぁはぁ」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁ」

アキトは震えながら操縦していた。そこにガイのエステバリスが近寄ってきた。当然中の人は違うが。そうして通信が開きカイトが出る

「アキトさん、落ち着いて。援護しますから、ゆっくりナデシコに戻りましょう」

まるで子供をあやす様にカイトはそう告げる

「おっお前は・・・何いってんだよ!そんな事出来る訳ないだろ」

「アキトさん、大丈夫・・・大丈夫ですから、戻りましょう。今の貴方は休んだ方がいいんですよ」

「おっお前・・・」

アキトは何か分からないが安心感がそこにある様な気がした。まるで母が近くにいるようにも感じる

「さあ、戻りましょう」

「・・・ごめん」

カイトは微笑むとエステでアキト機の肩に手を乗せる。そうしてゆっくりナデシコに戻り始める。その間にもバッタからの攻撃があったがカイトは攻撃される前にバッタに攻撃を加えて撃破していく。

そうしてカイトのエステとアキトのエステが格納庫に戻ってくるがカイトはそれを見届けるとすぐに戦闘に戻る。

(そろそろか)

カイトは攻撃を緩めると通信を開きリョーコ達に声をかける

「ナデシコに帰還しましょうか。どうやら来たみたいですから」

「なっ何だ!お前は。来たって何がだよ?」

「ほえ?」

「・・・・・・・」

そうカイトが告げた瞬間にグラビティブラストがナデシコの後方からナデシコの前方に展開していたバッタ、カトンボ達を撃破していく。

「なっなに〜?」

「どうなったの?リョーコちゃん」

「グラビティブラストだね」

「さあ、解りましたか?第二波が来ますし、このままナデシコに戻りましょう」

「おっおう」

リョーコ達は不満を残しながらもナデシコに帰還していく。カイトも敵の消滅を見届けるようにしながらナデシコに戻っていった

(さってと・・・アカツキさんとエリナさん。どうするかな)

カイトは微笑みながらナデシコに戻った

エステを格納庫に戻し、エステから降りるといきなり拘束されるカイト。当然である。いきなりナデシコに現れ戦闘に勝手に飛び出して行ったのだ。そのままゴートとジュンにブリッジまで連れていかれる。ブリッジに着くと椅子に座らせられる。勿論拘束されているが

「えっと、有り難う御座いました。貴方の御陰でピンチになったアキトが救われてとっても感激してます!」

カイトはその言葉を聞いて微笑んだ。昔から変わって居なかったと確信して

「いえ、それより、アキトさんは大丈夫でしたか?」

そう言ってブリッジを見回すとアキトが照れくさそうに頭を掻いてカイトを見ていた

「それより艦長。こいつは敵のスパイかもしれんのだぞ。服装といい、怪しすぎる」

「あっ・・・」

カイトは改めて自分の服装を見た。あの時と同じように血の付いた白いマント、欠けたバイザーは無かったがどう見ても怪しさ爆発の姿には違いない

「それより、何でこのマント、血が付いてるんだ。どっか怪我でもしたのか?」

リョーコが近寄ってきてマントを調べる

「あっ、はい、怪我したのですが治療して、それで洗わないままそのマントを着たせいで、こんな格好に」

カイトは少し気まずそうにそう言った

「怪我?どこ?どこ?。どこ怪我したの?」

「腹部です」

そう言ってマントをゴートに外して貰うようにして腹部を見せる。そこには包帯が巻かれており、未だ少し血が滲んでいる

「ちょっちょっと大丈夫なの?」

ミナトが心配そうに近寄ってくる

「大丈夫です。多少痛みますが」

「そう・・・でも見てて痛々しいわよ・・・それ」

カイトは何とも言えない顔になってしまう

「それより君はどうしてナデシコに乗っていんだい?調べた所、君はナデシコには乗っているはずのない人だよ」

「それはボっ・・いえ、僕にも解りません」

ジュンの問いに答えを詰まらせるカイト。自分の推測が正しければこの時代は自分の知らない時代。自分がナデシコに来る前の時代なのだ。ならばそう簡単に歴史を崩す訳にはいかなかった。

「そうかい。取り敢えずイネス先生の所で診察を受けて貰った方がいいね」

「はい。お願いします」

カイトは心配していた。自分にはもう薬はない。それに死ぬはずだったのに生きているのだ。何処かに異常があるはずだと踏んでいた

「なら、誰か彼を」

「俺がいこう」

アキトがそう言ってカイトの側に寄る

「解った。テンカワ君、宜しく頼む」

「ああ」

カイトはアキトの後に着いていくようにしてブリッジから出ていく。ブリッジは謎に包まれた空気が漂う

「彼は一体何者なんだ」

「解りませんねぇ。ただあの戦闘を見る限りかなりの実力者だとは分かります」

「それよさぁ、何であの子の片目、金色なの?」

「さあ?それこそ分かりませんよ。なんせあの瞳はマシンチャイルド特有の瞳ですからねぇ。はい」

「じゃあ、じゃあ、あの人はマシンチャイルドなのかな?」

「それより」

ルリの声が騒ぎを鎮めるように響いた

「あの人は・・・私と艦長とテンカワさんの名前を知っていました」

「「「「え?」」」」

ブリッジは静まりかえる。自分たちの知らない人間が自分の名前を知っている。それこそおかしい話なのだ

「ルリちゃん。あの人の名前知らないよね?」

「はい、会ったこともありません」

「私もないよ。アキトはどうなのかな・・」

「謎の青年だよねぇ。服装は血だらけ、金色の片目」

ヒカルは今持ってる情報を整理した

「こんな事ならドクターの所に連れて行く前に名前だけでも聞けばよかったな」

ゴートはプロスと話込むようにしてそう言う

「そうですねぇ」

そうしてブリッジはやはり謎の青年の話題でコスモスから通信が入るまでその騒ぎは収まらなかった

ブリッジから出てアキトとカイトは喋らないまま歩いていたがふいにアキトがカイトに声をかける

「なあ」

「何ですか?」

「どうして、お前はそんな格好をしてるんだ」

「それは、貴方の・・・いえ、分かりません」

「・・・分からないって事はないだろ?」

「いえ、ちょっと記憶が飛んでるようですから」

「・・そっか」

勿論嘘だがアキトはカイトに質問を続ける

「ならどうして俺の名前を知ってるんだよ」

「それは・・・・」

カイトは言葉に詰まった。言える訳がないのだ。自分が未来からきた者だなんて

もしかして俺の両親の事知ってるのか?!

アキトはそう言ってカイトに詰め寄る。だがカイトは何も言えないまま暗い顔しか出来なかった

「知ってるんだな・・・」

「いえ・・・知りません」

嘘をつくな!

アキトは大声を上げてカイトの襟元を掴んだ

「知ってるんだろ!だから俺の名前も知ってるんだろ」

「・・・ごめんなさい。本当に知らないんです」

「じゃあ、どうして俺の名前知ってるんだよ!」

「・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい」

カイトはそれしか言えなかった

「・・・くっそ」

アキトは悔しさのせいか壁を殴りつけた

「・・・・アキトさん」

「何だよ」

アキトは暗い顔をしながらカイトを見た

「僕は・・・ここには来ない方がよかったんですよ」

「え?」

「僕が来たせいで・・・きっと・・・」

「何いってんだよ。お前」

「・・・ごめんなさい」

カイトはそれだけ告げるとそのままアキトを残して歩きだした。

「なんだってんだよ。・・・くそ」

その頃ナデシコは既にコスモスに収容されていた




医務室

「それで貴方は体の事を徹底的に調べて欲しいって事ね」

「はい。何処に異常があるかもしれませんから」

カイトはイネスと共にお茶を飲みながら話し込んでいた。実際カイトは早く体を調べて貰いたい事この上ないのだ

「分かったわ。取り敢えず出来る限りの事をしましょう」

「有り難う御座います。イっお名前は?」

「イネス・フレサンジュよ。貴方は何て名前かしら?カルテを作らないといけないし」

「カイトです」

「カイト君ね。あら名字はないのかしら」

その言葉を聞いたカイトは少し頭を捻った。今まではカイト、もしくはミカズチと呼ばれていたからだ。実際名字と言えばミスマルかテンカワで名乗っていたのだがここではそうはいかないのだ。

「カイト・カザマ・・カイト・カザマです」

「カイト・カザマ君ね。分かったわ」

カイトはイツキの名字を使う事にした。それは忘れない為に、そして自分の対だった彼女の為を思って選んだ名字だった

「それじゃあ、診察を始めるわね」

「はい」

カイトはその後色々な診察を受けたが結果は腹部の傷以外は異常は見られないと診断された。ナノマシン量に関してはここの設備では調べる事は出来ないのだ。その際にカイトはマントのままでは不気味よと言われたのでナデシコクルーの着ている赤色の服を着た

(異常無し?・・・そんな馬鹿な!既にタイムリミットは過ぎたはずだ。何故?)

カイトが診察が終わる頃に警報は鳴った。木星蜥蜴が攻撃を仕掛けてきたのだ。

「戦闘?」

カイトはイネスに一礼するとすぐにブリッジに向かう。イネスはカイトの事をもっとよく調べる為に血液サンプルを揺らしながらそのまま医務室に閉じこもった

カイトがブリッジに着くと既に警戒態勢が取られていた。カイトはそのまま艦長席の側まで近寄った

「ユリカさん、予備のエステバリス。僕が使ったエステバリスをまた使用してもいいですか?」

「ほえ?」

ユリカは不思議そうな顔をしてカイトを見る

「ダメに決まっているだろうが!貴様はまだ確認の取れていないが捕虜当然なんだ」

ゴートがもっとらしい意見を叩き付ける

「くっ・・・」

カイトは顔を歪めてブリッジから出ていこうとするがプロスに止められる

「勝手な行動はしないで下さいね。何しろ私達に取っては始めての事なんですから」

「しかし・・・このままでは」

(アキトが遭難してしまう!たしかに無事に帰ってきたって聞いたけど、今は現状が違う。僕がこの時代でナデシコに乗っている事自体が既にズレているのにもし何かあったら)

「このままでは、何ですか?」

「いえ・・・」

カイトは納得しないままブリッジの戦闘が見える位置に立った。何か起こらない事を祈りながら。

「深追いはするな」

「「「了解」」」

「フォーメンションは鳳仙花!」

ブリッジから戦闘を食い入る様に見つめるカイト。ルリ、ミナト、メグミはその様子を不思議そうに見つめていた。だがやはりアキトの様子がおかしいのかは分からないがまるで素人の動きをしていた。そして歴史と同じ流れが起こる

「テンカワ機、月の影に入ります。重力波ビーム切断」

「テンカワ機応答して下さい。テンカワ機!」

「遭難か・・」

「遭難・・・・」

その戦闘でやはりアキトは遭難してしまう。そしてカイトが居ることでコスモスより出遅れたアカツキ・ナガレがリョーコ達をアキトを追うのを止めるというカイトは知らない出来事が起こってしまった

(くっそ・・・何も出来ないなんて・・どうすればいい・・・どうしたらいいんだ!)

既にカイトの頭の中では聞いた事とは似ているが違う事が起き始めている。それがカイトに取って不安を募らせる要素になってしまった。ブリッジではナデシコクルーの面々が揃いテンカワ救出の話をし始めた

「何とか、自力で戻ってくる事は出来るのか?」

「無理です」

ゴートの問いにルリが言い放つ

「ナデシコからの重力波ビームが切れるって事は予備バッテリで飛ぶしかないが・・・5分も飛んで終わりだ」

「遭難した時は一カ所で助けを待った方がいいって言うし。彼だってそうしてるよ、きっと」

「「
うん」」

ミナトがメグミとリョーコを慰めるようにしてそう言う

「こっちから少しでも近づければ、それだけ帰還の可能性大ね」

「しかしナデシコは修理中でして・・・この状態で出ては格好の的です」

辺りが沈黙を包む。

「・・・迎えか。シャトルとかで迎えにいければ・・・」

カイトがそう言うがそれを自分から破棄する

「でも二重遭難って事ある・・・しかも危険すぎる」

しかしユリカはそれを聞いた時にカイトに近寄り手を握った

「そうよ。それだわ」

カイトはその手を離すとまた同じ事をユリカに言った

「言ったでしょ。二重遭難、シャトルとは言え木星蜥蜴が彷徨ってるんですよ」

「しかし、それしか提案がないようだけどねぇ」

「アカ・・誰ですか?貴方」

「おや、君が噂を捕虜君かい。僕はアカツキ・ナガレ。コスモスから来た男さ」

「はあ?」

カイトはあえて何も触れないでおく事にした。

「アカツキさん。コスモスにノーマル戦闘機ありますか?」

カイトが危険と言う提案を本当に実行しようとしているユリカ。カイトは少し溜息をついた

(だけど・・・それでアキトさんは帰ってくるし。・・・分からない)

カイトはブリッジの席に座って手に顔を乗せて悩んでいた。その間にもユリカとメグミはコスモスに向かって歩きだしていた

「・・・・・はぁ」

「あの・・・カイトさん」

溜息をついている時にプロスから名前を呼ばれる。イネスが教えたのだろう

「今の内に貴方の事を処理したいと思いまして」

「処理ですか?」

「はい、どうですか?お話できるでしょうか?」

「・・・はい」

カイトとプロスはその場で話合いを始めた。それを気にしてる居るのかルリやミナト、アカツキにゴートなどが近くに寄ってきた

「で、僕を雇うって事ですか?」

「はい。身元不明ですが、あの戦闘能力などは目を見張るものがありますから。勿論お給料や退職金、そして貴方のエステバリスをご用意します」

そう言ってプロスは書類を渡す。さすがプロスペクター、不審者でも敵意が無ければ仲間に誘いこむと言う所がある意味カイトには笑える事だった

「ですが僕はまだ不審者ですし、木星蜥蜴のスパイかも知れませんよ」

「その点については心配ありません」

ルリが横から話に加わる

「第一、木星蜥蜴のスパイなら始めて現れた時に木星蜥蜴と交戦する訳がありません。それに・・・」

「それに?」

「私やアキトさん、そして艦長の名前を知っている時点で貴方はナデシコを知っている者だと言い切れます」

「えっ?・・あっ」

(そういえば、あの時に、迂闊だった)

「従ってスパイと言う可能性はありません。それに木星蜥蜴は無人兵器のはずです。人間が関係してるとはさすがに言い切れませんがそれでも今は無人兵器なんですから」

「たしか・・・僕は木星蜥蜴のスパイではないよ。だけどどうしてそれで不審者じゃないって言い切れるのかな?」

カイトはルリに冷たい視線を浴びせる。実際カイトはこんな事をしたくてしてい訳ではない。自分と関われば何れルリを危険な目に遭わせるかもしれないと言う危険性があるのだ。自分はこの歴史では異端児だからだと言う理由で

「貴方の瞳です」

「・・・金色の瞳?」

「はい、貴方はマシンチャイルドなのかも知れません・・・ですから」

ルリは思っているのだ。自分と同じ人間が居る。それが彼女の記憶を知っているかもしれないと、それと同時に同じだから少しでも信用したい。ルリにとっては始めての心の心境だった

(ルリちゃん・・・君は昔はこんなはずじゃないはずだよ。誰にも感心を持たない子って聞いたし、僕が現れた時だって・・・どうして僕を信用するんだよ・・危険な目に遭わせちゃうかも知れないのに)

カイトはルリの目の前に行くと優しく頭を撫でた。ルリは一瞬驚いたが気持ちいいのか、ゆっくりと瞳を閉じてその撫でられる感触を味わっているように思える

「あら〜ルリルリったら」

ミナトはそれを嬉しそうに見つめていた

「プロスさん。そのお話、いいですよ」

「では、契約をして頂けると?」

「はい。ただ条件がありますがいいですか?」

「条件ですか?」

「はい、一、僕のエステバリスの装飾は白・・いえ白銀を手配して下さい。二、僕の部屋は個室でお願いします。三、この契約書の男女交際の所は破棄して下さい。四、僕はパイロットもしますが臨時用オペレータとしても手配をお願いします」

「はあ?・・・最後の臨時オペレータ何ですが何故です?」

カイトは手袋を外すと両手のISFを見せる

「これは・・・また以外な・・」

その両手には一つの手にはパイロット用、もう一つにはオペレータ用のISF特有の紋章があった

それを見たルリやミナト達もありえない様な顔をする。実際こんな事は出来ないのだ。ISFはパイロット用とオペレータ用で分けられて登録される。パイロット用は実際火星でも一般で使われてる反面、オペレータ用のISFは許可がおりない限り投与する事はできない。しかもどちらか一方と言う形で投与される為に二つもISFを持つ事は不可能なのだ。実際にルリのオペレータ用のISF紋章は両手にあるようにオペレータ用のISFは両手のみしか確認されない

「そう言う事です。ご理解頂けましたか?」

「はい、分かりました。ではその用に登録をしておきましょう」

「給料はパイロット用だけでいいです。オペレータは趣味な様なものですから、無料にしといて下さい」

なっ!宜しいのですか?それで登録しちゃいますよ。しちゃいましたからね

言うが早い素早く契約書にそう記すプロス。カイトは苦笑いするしかなかった

「では、カイトさん。貴方はこれでナデシコクルーです」

(契約の三に男女交際の事を破棄するとは・・なかなか目がありますねぇ)

内心ではプロスはそう思いながら契約書にサインするカイトを見ていた

「それでは自己紹介でもして来て下さい。私はこの契約書をネルガルの方に出しますので」

「はい」

カイトはすぐ横に居たルリの顔まで腰を低くして挨拶する

「カイト・カザマです。宜しく、ルリちゃん」

既に名前を知ってる居る上にばらして居るので何の違和感も無しに挨拶するカイト

「ホシノ・ルリです。オペレータ担当してます。宜しく」

無愛想ながらも挨拶するルリだがカイトは微笑みながら握手の代わりに頭を撫でてミナトの所に向かう。

ルリは貴方を撫でられて少し微笑みながら小声でカイトに取っては懐かしい言葉を呟いていた

・・・ばか

ミナトの前に行くと普通通りに微笑みながら挨拶を交わすカイト、ミナトは少し頬を染めながら挨拶を交わした。

カイトはその後にジュン、ゴート、アカツキ、リョーコ、ヒカル、イズミ、イネスの順に挨拶を交わしていく。取り敢えずブリッジに居た全員には挨拶を交わした。既にユリカとメグミはシャトルで発進しているので挨拶は保留となる。勿論アキトもそうだが

カイトはそのまま挨拶回りをしようブリッジを出ようとするがジュンに一言だけ助言をする

「今は艦長が居ないから副艦長のジュンさんに全ての全権があるんですよね。行動起こすなら付き合いますよ」

「えっ?カイト君?」

カイトはそう言い残してブリッジから出ていった。

「カイト君・・・」

カイトはブリッジから格納庫、食堂と色々な所を回る。勿論昔とは違いナデシコの構造をよく知っているのだ。迷うはすがない

(なんてたって、一時はナデシコの警備員してたからねぇ)

少し微笑んでその後に他の者達と挨拶をするカイト。余談であるがその挨拶の中でホウメイガールズの面々が頬を紅く染めたのは言うまでもない

カイトはブリッジ戻ると自分の席と言える場所に座る。丁度ミナトの席から離れている席である

「挨拶終了。さってとナデシコは・・・やっぱり」

挨拶回りしていたせいか、コミュニケがまだ配備されてないせいか、ナデシコはいつの間にか宇宙に出ていた。アキトとユリカとメグミを迎えに行く為に

(これからか)

カイトは少し瞳を閉じて睡魔に体を預ける。




ユーチャリスの中

「カイト」

「どうしてんだラピスちゃん」

「ずっとに一緒に居てね」

「・・・・・」

約束が出来なかった。

一緒に居られる可能性が無かった

この子を一人しまう様な気がした

だから僕は・・・彼女の頭を撫でる事しか出来なかった。

誤魔化そうと思ったから・・・誤魔化そうと




ナデシコブリッジ



「カイトさん、ちょっと宜しいですか?」

その声でカイトは目を覚ました。

「何ですか?プロスさん」

「はい、お部屋の事と丁度コスモスに予備のエステバリスが在りまして、それをカイトさんに見て貰おうと思いまして」

「はい、分かりました」

カイトはそう言って起きあがる。

(忘れちゃいけない。あの子も・・・あの子の約束を・・・今度こそ約束をしよう)

(一緒に居るって)

カイトは夢を忘れないようにゆっくりと瞳を閉じてプロスの後を着いていく

「カイトさん、こちらが貴方のお部屋です」

「ここですか・・・」

別にパッと見た感じでは普通の部屋だった。しかしカイトには分かる、盗聴器が仕掛けられている事に、当然と言えば当然である。身元不明の不審者なのだ。警戒する事に越したことはない。だが別にカイトはその事に触れずにそのままプロスの後に着いて行く。そして自分の機体を見つける。普通の0G戦フレームのエステバリス、そしてそのカラーは白とは違い、銀色とまではいかない白銀と呼べる色だった。だがまだ装飾の途中なのだろうか、細かい所には金色が少し見える

「これですか」

「はい、これが貴方の機体です」

「わざわざ有り難う御座いました」

「いえいえ、では私はこれで」

そのまま去って行くプロス。カイトは自分のエステバリスを見つめて少しブルーな気分になる

「少しは・・・前に進みたいんだ。ごめん」

カイトが何故白の色にしなかったと言うと前に進む為、かつての白色のエステバリスでは足踏みにしか為らないと思ったからだろう。そしてこの色はカイトに取って罪の色。シルバーエステバリスの色である。罪を背負って歩く。それがカイトの願いだった

(戻るか・・・此処にいても仕方ない)

カイトは歩き出してもう一度白銀色のエステバリスを見つめるとそのまま歩きだした

そうして居る間にナデシコにはユリカとメグミ、そしてアキトが帰還したとの話を戻っている途中で聞いた。ブリッジに戻ったカイトはその時に始めて自分のコミュニケを渡される。

そしてユリカとアキト、メグミに挨拶を交わす。ユリカはカイトがナデシコに乗る事に為り、嬉しいのだろうか、喜んで握手をしてきた。メグミもカイトの微笑みで撃沈されたのだろうか。もじもじしながら挨拶を交わす。そして

「カイト・カザマです。宜しく」

「・・・テンカワ・アキトだ」

微笑みを浮かべるカイトに対してアキトは睨みつけるようにカイトを見る。廊下での話をまだ引きずっているのだろう。

「アキトさんはコックなんですよね?」

「ああ、そうだけど」

ムスっとしてアキトはカイトに答える

「今度、料理食べさせて下さい」

その態度を内心ではがっかりしながらもカイトは笑みを絶やさなかった

「・・・・気が向いたらな」

「はい」

そうしてアキトとカイトの挨拶は終わる。アキトはカイトに聞きたいことが山ほどあるが今聞くのは得策ではないと思いそのままブリッジの席に座る

「・・・・アキトさん」

カイトも自分の席に座って何も言えない辛さを耐えるしかなかった












な〜んて終わって貰っちゃ困るよねぇ〜

「「「「「「
ええ〜」」」」」」

「え〜、今日から我が社に派遣された新しい提督さんです」

「宜しく〜うふふ」

嬉しそうにピースしているキノコもといムネヌケ、カイトとは始めて会う人物だった。写真は見たことはあると思うがカイトには虚ろに覚えている程度だった。

「エリナ・キンジョウ・ウォン。副操舵手として新たに任務に就きます」

「ですか、はい」

たっく、何で会長秘書が乗ってくるの

プロスはそっぽを向いて愚痴をこぼしている

カイトは素直に一礼するとエリナを見た。

(さってと・・・ネルガルとパイプを繋ぎますか。・・・あの子の為に)

そうしてブリッジで一段落したのかナデシコクルーはそのまま移動して行く。カイトはエリナとアカツキを尾行しながら着いていく。

ある一室に来ると中ではエリナとアカツキが話ているのが分かる

「で?どう?」

「これが火星からのからボソンジャンプするテンカワ君と展望室の様子」

「おやおや」

「うっふふ、いいわ。彼ら」

エリナとアカツキどうやら火星からのボソンジャンプの瞬間をモニターで見ているようだ。カイトは少し気を引き締めて扉を開けようとするがロックが掛かっているせいか開かない。

(当然と言えば当然か)

そこでカイトはその扉のノックするがやはり中から反応はない。

「・・・・どうしようかな〜」

カイトはちょっと冷たい笑みを浮かべる。

「中に居るのは分かってるし、出てきてくれると有り難いんだけどね。ネルガル会長アカツキ・ナガレさんと会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンさん」

そう言うと扉が開く。当然警戒の為かアカツキの手には銃が握られている

「おや、捕虜君じゃないか」

「わざとらしいですよ。アカツキさん」

そう言いながらそのまま部屋に入るカイト。部屋に入った瞬間に後ろにはアカツキ、前にはエリナと言う形になった

「捕虜君。貴方・・・何を知ってるのかしら」

「別に、それと僕の名前はカイトです」

「失礼したわ。でカイト君、貴方・・・木星からスパイかしら」

「いえ、もっと凄い所から来た人物ですけど」

「もっと凄い?何の事を言っているんだ」

アカツキは銃をカイトの背中に押しつける。

「ボソンジャンプで未来からです」

「「
!!!」」

「勿論、証拠はありませんが、木星蜥蜴が人間で100年前に追放された地球人、それと貴方達がナデシコ、コスモス、カキツバタ、シャクヤクを所持している事、ネルガルがボソンジャンプの実験をしてボソンジャンプ実権を握ろうとしようとしている事、そのモルモットにテンカワ・アキト。そして僕、カイト・カザマを欲しがっている事ですかね。他にもナデシコの真の目的は火星の極冠遺跡とも付け加えておきましょうか」

「きっ君は・・・」

銃を降ろして唖然としているアカツキと全てを見透かされた気分になって気持ち悪いエリナ

「貴方・・・未来から来たって言ったわね」

「信じてくれるようですね。なら銃を締まうようにアカツキさんに言って下さい。敵対はしないですから、むしろ協力的です」

アカツキは銃を懐にしまうとカイトの正面に回って椅子に座る。カイトも側にあった椅子に座る

「で、君が未来人って言うことはたしかに信じられそうだ。なんせネルガルのトップシークレットの情報まで知っている・・・このトップシークレットを知るには2種類の可能性が考えられる。一つはスパイだがネルガル全ての情報を手に入れる事なんざ出来ない。ボソンジャンプも最高機密の事だし、木星蜥蜴の正体だって同じだし、なら考えられるのはもう一つ、全て知っている未来から来たって事しかないからね」

アカツキが解説を終了するとエリナが詰め寄る

「では、貴方はボソンジャンプが何なのか知っているって事?」

「ええ、ボソンジャンプは・・・おっと」

含みを持たせるようにして言葉を止めるカイト

「どうしたの?」

「情報をただで教えるほど僕も善人じゃないんです」

「・・・・くっ」

エリナが睨みつける。真実が目の前にあるのにそれに近寄れないのが悔しいようだ

「何が望みだい。カイト君」

アカツキが不適に笑うがカイトも冷たい笑みを絶やさない

「では、取引といきましょう。アカツキ会長」

カイトはまるでブリッジに居る時はまったく違う顔をしていた。それは復讐者だった頃の顔だった





どうも闇光で〜す。実は続編はずっと考えていたんですよ!。どうしても書きたくて・・・

未熟なのにごめんなさい(カイト風

って事で新続連載?、機動戦艦ナデシコ 刻戻りて白銀騎士。是非読んでくださいm(__)m

では、今日はこの辺で〜〜

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