息を殺す
気配の殺し方などはよくわからない、ただ静かにし物音をたてず身を潜め相手が現れるのを只ひたすらじっくりと待つ。駐車場には音がない…地下ゆえに風は吹かなく、ここには音が存在していなかった。一分一秒は必要以上に長く感じ、緊張のあまり汗が止まらなかった。荒くなる呼吸を必死に沈め、耳に神経を集中させる

カツーン

かすかに聞こえた音。身体が跳ね上がる。心臓の鼓動は早くなり、呼吸も多少乱れた。敵がここに入ってきた事をしめすその音はカイトをより一層緊張させる。今からすることの失敗は直に死につながり、そしてもう一人の命にも関わってくる。全てをうまく進めていくしか道はない。それしかない

ギイィィィィイッィイ

コツッ
   コツッ
      コツッ


鉄製の扉が開いた音が聞こえる。その後には規則正しく聞こえる足音。手に持っている物の重さが必要以上に重たく感じる。両手で包み込むように持ち、右手の人差し指をゆっくりと引き金の位置に持っていく。頭の中で数を数え、出るタイミングを計る

(三…………ニ…………一…………零!!)

車の物陰から飛び出してカイトは手に持っているベレッタM8000クーガーFの引き金を引いた








機動戦艦ナデシコ〜 The blank of 3years 〜
空白の瞳の中に映る人達


―― 第五話 いつもと違った黄昏時 DEAD OR ALIVE編 ――











銃声が駐車場に響き渡る。その音は地下の床に反射して必要以上に木霊する。渇いた音とはよく聞くが耳に障る嫌な音だった。耳の奥はキンキンと鳴り頭までいたくなる、銃を持っていた腕はあまりの反動の強さにその銃を落としそうになってしまった。敵は容赦が無く、気を抜けばあっというまにこの世界からカイトはいなくなるだろう。そんな恐怖を払いのけるようにカイトは引き金を絞った。自分と彼女が生き残るために

バンッ
   バンッ


弾は相手に吸い込まれるように向かっていく。しかし彼は器用にも身をひねってその弾道を回避する。口には禍々しい笑み…。まるでこの状況を楽しんでいるとでも言いたげな表情だった。幼い子供に玩具を手渡した時の様なその表情。こうやって対峙したことに喜びを感じていることを隠そうともしないそ姿に、カイトに旋律ともう一度恐怖を覚えさせた。
その彼の口が開く。その声を幾分か上げてさも楽しそうに話し出した

「ゲーェム…スタァート♪」

正直その言葉にカチンときた。彼が手に持っている銃をカイトの方に向ける。そこからでた鉛球はカイトにその矛先を向けた。右の車の陰に隠れるように飛ぶ。さきほどの弾丸がカイトの遥か後方にあった壁にあたる音が耳に聞こえる。カイトは避けた勢いをそのまま利用して走り出す。止まれば撃たれる、常に動きながら相手を補足し撃つしかない

バンッ
   バンッ
      バンッ


弾丸は虚しく空を切るばかり、相手には一発もあたらない。それでも撃つしかない

「あたってくれよーーー!!」

バンッ
   バンッ
      バンッ


三発。走りながらだと正確な射撃はできない。せめて相手を威嚇するていどにしかその効力を発揮しない。射撃の腕がいいのなら走りながらでも正確な射撃が可能だろが、生憎カイトは記憶を失ってからこうやって銃を持つのも撃つのも初めてだった
体が覚えている…なんてことはなく、撃つたんびにくる衝撃にはやはり感覚的にも慣れているわけではないらしい。記憶を失う前は一体どんな自分なのかここに来て余計にわからなくなったカイトだった

「くっ!!」

バンッ
   バンッ


二発射撃後柱の裏に隠れて相手の弾をやり過ごす。こっちは結構激しく動いて体力を使っているのに相手はまったくといっていいほど動いていないし体力を使っていない様子だった。こちらの撃った弾を必要最低限の動きで避け、正確な射撃でカイトを狙い打つ。つくづくなんでこんな奴に狙われているのか疑問に思うが今はそんなことはどうでもいい
カイトが持っているベレッタM8000クーガーFは15発の弾が入っている。始めから入っていたマガジン一つと予備のが二つ、計45発の弾を打ち出せることができる。後先を考えてはいられない。今はただ時間を稼げばそれでいい




〜数分前〜

カイトはルリと共に作戦を考えていた。実力は向こうが数段上…正面からやっては返り討ちになるのが関の山であり、二人がかりでもそれは変わらない。となると残されている手段は”奇襲”か”罠”しかなかった。”奇襲”はこちらの存在が知られているので現時点ではもはや不可能であり、残りは”罠”しか方法はなかった。そのためここのマップが必要不可欠となり、オモイカネ端末を利用しこの地下駐車場の地図を手に入れた

「ここは全部で三階か…」

パソコンのディスプレイに映し出されたマップを見てカイトはうなり声を上げた

「といっても下まで行く通路は三つありますよ。車用のエレベーターが二つと人用の階段です。移動するのなら人用の階段しかありませんね」

ディスプレイの階段の位置を指差ながらルリは言った

「やっぱ罠を張るのなら一番下の階がベストなんだろうけど……」
「へたしたら追い込まれちゃって終わりです」
「う〜ん。そうなんだよね……」

顎に手を乗せカイトはまた思考を巡らす。車もあるからそれに乗ってここを逃げ出そうとも考えた、が車のタイヤは全てパンクさせられてあった。一つ残らず全ての車が。それを見た時にカイトは感じた。自分らはここに逃げ込んだのではなく、ここに逃げ込まされたのだという事に……
しかしそれと同時にもう一つ気が付いた。相手はここで自分らを殺すつもりかもしれないが下手な小細工は仕込まれていないということだ。例えば爆薬を使ってこの下に生き埋めだとか、毒ガスで苦しめて殺すとかそういったことはしない。さっきのようにジワジワと追い詰めてきたのだから殺すときは直接その手でやるつもりであろう。追い詰めることに喜びを感じていたような相手行動からだったら容易く想像できる

「とりあず手持ちの武器を確認してみようよ。…っと僕は拳銃にマガジンと手榴弾だけ」
「私はカイトさんの工具一式とオモイカネ端末、えっと後は…ん?」
「どうしたの?ルリちゃん」
「あ、いえ。後ろのポケットに何か入っているみたいだったので……ちょっと待ってください」

そう言ってルリはポケットの中の何かを出そうと懸命し頑張っている。ピョンピョンと跳ねては中身をだそうとするのだが中々出せないでいる。しばらくポケットの中身を格闘すること数秒、やっと取り出したのは黒い物体だった

「これは……」

カイトの頭の中で”罠”が思い浮かんだ





銃撃戦は未だに続いている。カイトの撃った弾は相手にかすりもしない。中々エステ射撃の腕もいいのでいい所には撃つのだがなにぶん移動しながらのためやはり精度が落ちてしまう。長距離でじっくりと狙うのが得意なカイトは多少連射は苦手だった

「にゃろう!!」

バンッ
   バンッ

カチッ
 カチッ


残弾がなくなり拳銃が虚しい音を出す。カイトは急いで物陰に隠れてマガジンを交換し、再び撃ち直す

「なんでこうもカンタンに避けるかな……」

弾は一向にあたらない。相手も車の陰に隠れたりもするが比較的その身を曝け出して銃を撃ってくる。死ぬのを恐れていなく、また殺すことに喜びを覚えているようなその行動はカイトには理解できなかった。こちらはもう怖くて怖くてしかたがないのに…

「どうしたんだい?まだ一発もあたらないよ??」
(ぐっ…ムカツク)

余裕シャクシャクでいうがまさにそのとおりなので反論はできない。それがまた悔しかった。そのムカツイタ心を落ち着かせるためにカイトはちらりと目線をずらして腕時計の時間を見る。タイマーセットされたその数字は彼女がさってからどのくらいの時間がたったかを確実にしめしていた
二分十七秒………残り二分分四十三秒
全力でここまで防いできたが…やはり正直なところツライ。コチラの射撃は相手に当てることも相手を追い込むこともできていないのに敵の放つ弾丸は確実にカイトを攻めていった
正確な射撃。致命傷とまではいかなくとももう何度も弾にはかすっている。その度に激痛が走り、その度に血を流した。なんども拳銃を落としそうになるがそれを気迫でカバー相手にむかって引き金を引く
。今のカイトの中には『なんとかする!』というルリに教えてもらった呪文のような言葉ががんばれる理由でもあった
二つめのマガジンをベレッタM8000クーガーFの中に入れる。残る弾はこの15発のみ…のこり時間ジャストニ分!”罠”完成まで後ニ分だ




〜数分前2〜

「で、ルリちゃんはこれを解除するのにどのくらいの時間があればできる?」

ディスプレイに移っているある記号のを指しながらカイトは尋ねる

「そうですね…端末用オモイカネを使えば四分三十秒……下に行く時間を含めれば五分あれば可能かと」
「え?手動じゃないの。オノとかでガツーーンって壊したり」
「カイトさんもしかして壊したりするとでもおもってましたか?」
「あ、あは、あはははははは」

渇いた笑いを浮かべるカイトにルリはヤレヤレといった表情をする

「……このご時世機器の全てはコンピュータ制御です。オモイカネと私の実力があればなんとかなります…さすがに設備が揃ってないから何時もよりは時間がかかってしまいますが…」
「ううん。十分だよ。じゃあ設定は五分からそれ以降には”罠”は準備できていると思っていいわけだね。うん、じゃあ僕は五分以上粘ってからここにくるよ」
「無理はしないで下さい」
「O.K。じゃっ、そういうことでルリちゃんお願い」

そう言ってカイトはルリに”罠”の準備を頼んだ
これもほんの数分前の出来事である





バンッ

「どわっ!!」

射撃音と共にカイトが隠れている柱に銃弾があたる。その後ろでカイトは呼吸を整えていた。残り時間一分三十秒……残り弾数十発をすぎてからは只ひたすら逃げていた。もう替えのマガジンは無く残りはこの正真正銘の十発のみ…そしてポケットに入っている手榴弾二つ
密閉された空間に近いこの駐車場ではあまり使いたくはなったがこの場合ケチってられない
カイトはポケットの中の手榴弾を取り出す。

バンッ

背中の柱にまた銃弾があたる。銃声のお陰で大体の位置は掴んだ。二つの手榴弾のピンを抜いてその方向に放り投げる。視界に弧を描きながら落ちていく手榴弾を眺めながらカイトは思った

(爆発したらどうなるんだろう…)と

爆発はすさまじいだろう。そんな中にいたら自分だったら死んでいる。相手だって無事にはすまされないだろう。これで相手が死んでくれればそれで終わりだ。手榴弾の衝撃や爆風で木っ端微塵、部屋は丈夫な作りだとルリちゃんがいっていたから多分大丈夫だろう
そういえば僕はこのままココにいても大丈夫なのだろうか…ふとカイトはそう疑問に思った。後ろで爆発するのだ。この柱のおかげで爆風は防げるだろう。車の後ろだったら吹き飛ばされていたかもしれない

(…………車?)

車→ 車輪の回転によって動く仕掛けのものの総称。現在では自動車を指すことが多い。燃料は電気から水素もあるが一番多いのはガソリン車である

(…………ガソリン?)

ガソリン→沸点範囲がセ氏二五〜二○○度の石油留分および石油製品の総称。ガソリン機関の燃料、溶剤などに用いる。自動車用の高オクタン価ガソリン。火には引火する。引火すると爆発する
つまりはこのままだと爆発→融爆→さらに爆発…となるわけで……当然ここにいるカイトの身も危険極まりないということになる。というか無事どころかただではすまない
さぁ〜〜〜〜っとカイトの顔から血の気が引いて青白くなる。それと同時に脱兎のごとく走り出す、一階と二階を結ぶ階段に向かって、頭を抱え衝撃に供える。それと同時に心の中でよくはしらない念仏を唱えた…南無阿弥陀仏……と。神にでもなんでもすがりたくなるような気分だった
そして轟音と同時に凄まじい爆風が生まれた




「きゃっ……」

天井…というよりも上の階で物凄く大きな音がした。ぐらぐらと建物が揺れるのはなんとも怖いことだがルリには、そんなこと言ってられなかった。先ほどの爆発の張本人は間違いなくカイトである。無茶をしないでとはいったがそんなこと絶対に守ってくれるわけはないと確信していた。おそらくは手榴弾を使用たのだろう。とういことはこkにくるのもあと少しだということだ
もの凄い爆音であったが崩壊しないのをみると、ここの作りは頑丈だったのかもしれない

「オモイカネ急いで…」

ルリはノートパソコン程の端末用オモイカネを開いてハッキングをしていた
会との”罠”の要となる装置をこちらの思いどおりに動かすにはここの所属警備会社にハッキングをしなければならない。オモイカネとルリの腕があればカンタンなことだが生憎ここでは設備が悪すぎた。いつも以上に時間がかかってしまう
警備会社のマザーコンピュターにハッキングをかけシステムのパスワード及び操作系統を密かに乗っ取る。乗っ取るといっても全てでなく必要な部分のみ。方向と出力を微妙に調節するだけでルリの仕事は残る一つになる。それは本番の時に一度だけやるのみなので、失敗すればそれでお終いになる。責任は重大かもいれない。すくなくとも自分の命とカイトの命を握っている事になるのだから
それにしてもこの状況でなんとも博打じみたことをカイトは考えてくれる。こんな手は十回やったら七回ぐらいは失敗するだろう。カイトが考えた事はそのくらい成功率は低くて古典的である。オモイカネを経由して救援のメッセージはすでに送ってあるがいつくるかわからない。ただじっと待っていても殺られるだけだから抵抗ぐらいはしたかった。とりあえずはカイトの作戦にのってはみたものの不安だらけである

「よし……これで後は」

自分の準備が最終段階になったことを確認してルリは手元の時計を見る。残り時間は一分。ジャスト一分だ。後は計画の発案者であるカイトの働きに期待するしかない








爆発の余波で地下一階はほぼ壊滅状態だった。手榴弾の一爆発で起された事態は車の融爆という事態を引き起こしその規模と威力を広げたのだった。そんな中でカイトは自分が生きていることに少しながらの喜びを覚えていた。もう一度神様に祈ってここから無事生き残ったのならば今度から神様を信じてもいいと思ったほどだ

「い、いつつつつ。む、無茶しすぎた…」

頭の上に乗った瓦礫を払いのけながらカイトは立ち上がった。体中は爆風によって吹き飛ばされた瓦礫によって傷つけられてボロボロ。車だったものは今なお燃え続けておりその爆発のすごさを物語っている。あたりを見回すと数分前とガラリと姿が変わってしまった駐車場がカイトの背中に冷汗を流させた

「ははっ、よく僕は生きていたなぁ……」

燃えさかる炎を見ながらカイトは思った。さすがにこれではさっきの人も死んでいるだろうと。爆風による瓦礫の攻撃、燃え盛る炎による火焙り、普通の人なら亡骸も残るかどうかもあやしい。現に咄嗟に隠れたカイトでさえ細かい傷を含めずともボロボロだ。これで生きていられたらこちらが困る
時計を見ると残り時間が四十秒を切っていた。カイトが考えた”罠”は下手すればルリにも危険が及ぶのでできれば実行したくはなかったのも本音だ。それに”罠”が外れた場合は他に打つ手は無くなるから一か八かの賭けなのだ。やらずにすんだのはいい。ルリに余計な手間を取らせたのは誤らなければならないな…とカイトは思った
背を向けて崩れかけている階段に向かって歩き始めた。背中には燃える車の音がはっきりと聞こえてくる。他には物音は聞こえなかった。炎が酸素を喰って二酸化酸素を吐く音だけしか聞こえない…ハズだった


ガララッ……


瓦礫が崩れる音。バランスを崩した瓦礫が音を立てて崩れる音。ただそれだけのハズ…。けれどもカイトは自然とその音の方に顔を向けてしまった。心のどこかに持っていたあってほしくない可能性。心の大半で間違いであってほしいと願いながらも振り返る
燃え盛る炎の中…。ゴオオッ…というが耳にはっきりと聞こえてくる。視界には車の残骸、瓦礫の塊、揺らぐ炎と煙り…………そしてその炎の中に見える人影
自分の目を疑っている自分がそこにいる。目を擦りそれが幻覚でないことを確かめるが…結果は本当にそれが幻覚でないことを証明するだけだった。自分の頬をつねってもみたが痛いだけ、やはりこれは夢でも幻覚でもなく……変え様のない事実だった
影は一歩一歩自分の居る方向に近ずいてくる。自分の表情が強張るのがわかる。渇いた笑いをしてしまう。手に持っている銃を相手の方に向けて撃つ…………が相手はそれを予測してたかのような動きをみせた
ふっ…と急に視界から相手の影が消える。カイトは一瞬戸惑ったが「はっ」と気が付いてその場を動いた。動いたほぼ同時位に右手の方角から自分のいた位置あたりに弾丸がくる。その後弾が来た方角を気にしながら階段の方に向かって走り出す
とりあえずはステージを変えるのが有効、と判断したカイトはそれを実行するために階段に向かった。煙や瓦礫で移動しにくかったが階段の位置は移動する際に覚えていたからすぐにわかった。カイトは飛んでくる銃弾をかわしてやっとのことで階段にたどり着く

「う、嘘。タ、タミ○ーターかなんかか?アイツは」

「う〜〜〜ん。残念ながらアンドロイドとかじゃないんでねぇ…」

背筋がゾッなる。急に聞こえた真後ろからの声を誰からのかと理解するのに数秒の時間がかかり、気が付いた時には背中に痛みを感じていた
体が中を舞い、その後落下する。自分が浮いている事に気が付いて、その後蹴り飛ばされたからこうなっているのがわかるまでにも多少の時間が必要だった。階段を勢い欲転げ落ちる。とっさに体を丸め頭を腕によってガードしたが落ちていく時の衝撃は叫び声をあげたくなるほど辛かった。さらに運が悪い事に嫌な感じに左肩から落ちる

「がっ!!」

ゴキィィッという音ともに痛みという感覚が頭に伝わり、それと同時に意識が飛びそうになる。痛みによって悶え苦しむ暇もないことを頭よりも体が覚えていためか。壁を蹴って地下二階にその身を隠すおとができた
それでもじっとはしていられない。すぐに起き上がって走り出す。地下一階と地下二階を繋ぐ階段がボロボロな今、敵がここまでくるには階段を飛び越えていくか、自分のように転げ落ちなければならないはずだ。ならば、ということで今の内に地下三階まで移動する事にした
地下二階を走って逃げる。一階よりも車の数は少ない
この駐車場は地下三階が一番出にくいためか料金は安く、地下一階は出やすいが二階三階に比べると料金が高くなる。そのため地下二階は他の階に比べると微妙に人が少なくなる…というところのため身を隠すスペースは少ない
ならば、というわけではないが全力疾走でこの階を駆ける。下への階段をみつけ、そこ目掛けて走る。一心不乱という言葉が似合うようにただひたすら走った。
そして地下三階にカチオはたどり着く。ついた同時にカイトはその身を車の影に隠した…待ち伏せである。やはり地下三階は地下一階二階よりも車の数は多いため隠れる場所は多かった
カイトの息は切れ汗は滝のように流し、買ったばかりだった服は爆風やら瓦礫やら銃弾のせいでボロボロとなってしまった。加えて怪我した時にでた血のせいで所々に変な染みまでできてしまった始末
だが全ての勝負はここで終る…相手が勝つか、自分らが勝つか。勝負の結果は多分そのまま生と死を分けることになる

DEAD OR ALIVE――生か死か

言葉にすればカンタンで些細なことに聞こえるかもしれないが今まさにその状態である自分にとっては重くのしかかる言葉だった。手元の時計を見る。のこり時間十五秒。あと十五秒をこの階で凌がなければならない。そうすればこの階にいるルリの方の準備も完了することになる。あとは誘導とタイミングのみ…
呼吸を落ち着かせる。手に持っている銃の重みを確認してかゆっくりとそれを持ち上げる。右手の人差し指をトリガーにかけ、顔の前に持っていき銃口をみつめる。戦闘体制を作り相手が階段おり、射程内に入ったと同時に撃つことを頭の中でシュミレーションする
ふいに足音が聞こえる。静寂な地下に聞こえるその音はカイトの緊張を急激にあげるがそれでも取り乱したりはしない…
ゆっくりと相手が来るのをただ待つ。茂みに隠れて相手を狙うトラのようにただ待つ
コツコツ…という彼が近ずいてくる音のみが聴覚で感じ取れる、姿は見えない。しかしその音を聞くたびに心臓の鼓動は確かに速さをます
視界に彼の姿を捉えた。後四歩で銃の射程内
身を低くして飛び出す準備をする。銃のグリップをもう一度握り締めた
そして飛び出す
車の陰から出る。それと同時に銃口を相手の方に向けて引き金を引――
こううとしたが急に目の前に黒い塊が現れた
それが彼がさっきまで持っていた銃だと気づき…
それを自分の方に投げたのだと気が付くのが遅すぎた
慌てて飛んできた物体を手で払い落とし、もう一度銃をあいての方に向けようとする
それでも手で払い落としたのでタイミングをずらされた事が仇となり、彼の接近を許してしまう

「ぐつっっ!!!」

鉄の球を腹部に投げつけられたかのような蹴りを一発くらう。カイトは人形のように蹴り飛ばされ、背後にあった壁にその背中を強く打ち付けてしまった
苦痛で顔が歪む。持っていた銃も不覚にも落としてしまった
お昼に食べたおにぎりが戻ってきそうな嘔吐を覚え、蹴リ飛ばされた衝撃で背中を強く打ったためか目も霞んだ
痛みで体が動けなくなり、そんなカイトを見下すように彼はゆっくりと近づいてくる

「ここまで…だねぇ…」

ポケットからバタフライナイフを取り出してカイトにその切っ先を向ける。衣服も帽子もボロボロなのに身体には傷一ついていなさそうな彼はその口で禍々しい笑いを浮かべた

「はっ…はははははっはっはは」

空ろな瞳でカイトは笑った
その笑みは全てを諦めたかのような笑みだった。彼はそれをみてさらに満足そうに笑う
けれどもカイトは…

「…まだ終わりじゃない。”罠”にはまったのはアンタだ」

さきほどの空ろな瞳はそこには存在していなく。変わりにあったのは諦める事をしらないような真っ直ぐな瞳だった
密かに後ろに回していた手。カイトは後ろポケットにあった”黒い何か”を彼に向かって投げつける
急にカイトが投げつけたそれを彼は首だけ動かしてなんなく避ける
が、カイトもその隙を見逃していなかった
すぐさま壁を蹴ってその場離れる
彼の真横を低い姿勢で通り抜けようとするカイト。そんな彼は若干バランスを崩しつつもバタフライナイフを振り上げて…カイト目掛けて下につき下ろす
突き出されたナイフによって肩を多少切られる。そこは前に銃弾を受けた左肩の傷口なだけにそのダメージは酷い
顔が激痛によって歪む
それでもカイトは前へと出た
そして”罠”が発動する

ここで彼らの位置を一言で説明しておくならば

射程内と射程外

射程外の位置にいるカイトは叫んだ


「今だ!!ルリちゃん!!」

「なっ……!!」

カイトが叫んだのほぼ同時に水が攻めてくる
消火管から物凄い量と勢いの水が一気に押し寄せて”赤い人”を飲み込む
バランスを崩し避けることは不可能だった彼は思いっきり直撃を受け、流される
流れにのった彼は勢いのまま少し進んだ先にある背後の壁に背中から打ちつけられる

「カイトさん!」

何所からかルリが姿を表しカイトに駆け寄ってくる。そばに寄って来るルリを見つけたカイトは親指をグッとだして微笑んだ

「大丈夫ですか?」
「なんとか…ね」
「無理しないでといったはずです」
「ゴメン……」

ルリは自分の服の一部を破いてカイトの肩に結び血止めをする

「さ…早く逃げましょう」
「うん……痛つつつ」

肩を押さえながら立ち上がるカイト。ルリはそんなカイトを横で微力ながらささえている

「まったく…無理し…すぎで…」

言葉を最後まで言い切れずルリの目が開かれる。信じられないといった風にだ
カイトはカイトでその男をじっと睨みつけていた

「よくも……やって…くれたねぇ……」

水浸しになりながらも男は立ち上った。あのくらいの水の勢いなら普通の人なら一撃で気絶しているはずである。なぜならそういう風に水の勢いを設定したからだ。それなのにルリはこうやって立ってくる彼を目にしている

「チェックメイトには甘かった。その甘さがこうやって君達の命を消す事になる…」

さっきとはまるで違う雰囲気
追い詰める事を楽しんでいた狩人はすでにいなく。全身から殺気を撒き散らす狩人がここにはいた
ルリは思わずカイトの服を握り締める

「確かに…これではアンタを倒すことはできなかった」

急にカイトが喋り出す。目を瞑り、意味ありげに笑う

「それでも僕はこれをチェックメイトだとは一言もいっていない」

”赤い人”の足がピタリと止まる

「言ったはずだ…。『”罠”にはまったのはアンタだ』って」

カイトはあるものを指差す

「僕がさっき投げたものは何かわかるか?」

カイトの指の先にあるのはさきほどカイトが投げた”黒い何か”

「こういうのは二手三手先を読むもんだ」

ルリは気が付く。カイトが指差しているのが”何か”と言う事に、そして位置をざっと見渡す。自分らの下には水はない。しかし”黒い何か”と”赤い人”の下には水がある

「どうやら僕の読み勝ちみたいだね」

カイトが指差している物。それはカイトがルリにプレゼントしたもの
『ゾウも一撃で気絶』がコンセプトで作った対人用スタンガン

「これで……………」

特徴…防水使用、タイマー式、対ショック機能

「チェックメイトだ」

そして電流は流れる

「ぐわあぁぁぁあぁぁぁあっぁ」























「が、はぁっつ、はぁあ、はぁっはぁ」

「………『ゾウも一撃で気絶』がコンセプトだったんだけどね」

やっぱバケモンだ………と口にしてカイトはスパナを握る。あれだけの電流を食らわしたのに意識を保っているどころか立っている”赤い人”にせめて抵抗するために。それと同時にルリだけでも逃がす方法がないかを模索する
しかし彼は右手を前に差し出して戦うことを止めるかのような動作にでた

「今回は…これ以上は無理そうだから帰らしてもらうよ」
「……なんでまた」
「今日は様子と事実をみにきただけだ。最後の方は少し本気になったけど今日ここで君は殺さない」
「なんなんだよ。様子見って」

カイトとルリは怪訝そうな顔をする。その顔をみながら”赤い人”は呟いた

「君…記憶ないだろう?」
「な…どうしてそれを…」

驚くカイトを尻目に彼は人の悪そうな笑みを浮かべた

「僕からは何も言えないねぇ…。ただ」

帽子を深く被り直し、彼は歩き出す

「君が全てを思い出した時…その時にまた合おう」

口を禍々しく歪めて笑う


「その時に君を僕が殺してあげるから……………」


彼の姿が暗くなった地下駐車場の影に混ざったかと思うとその姿は急に闇の中へと消えた
カイトは追わない。今回は逃がしてくれたようなものだから
多分あのままもう一度やっていれば自分もルリも無事どころでは済まなかっただろう。だからやらない

DEAD OR ALIVE――生か死か

今回はなんとか生の方を掴み取った。いわば勝負には勝ったことになる
けれども、自分の過去。正体不明の彼
なにやら疑問を残していった今日の勝ちは…
カイトにとってあまり気持ちのいい勝ちではなかった
そんなことを意識が遠のいていく中に思ったりもした記憶喪失のカイト君であった









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