左手には煌くナイフを、右手に黒い拳銃を俺は握る

心が躍る、僕の心臓が歓喜の鐘のように脈打っているのが手に取るようにわかるんだ

聞いてよ………さん、今日はね記念すべき日なんだ

なんと言っても探し人が生きていたんだよ…ふふっ言わなくても知っているよね

そうアイツだよア・イ・ツ

生きていたんだよやっぱり

ああ…この日を何度夢見たことか…

うん?大丈夫だよ、ヘマなんかしないから安心して見ていてよ

だってこれでやっと約束が果せるんだから

僕は約束を守ってアイツ以外極力殺さないようにしたのは見ていたでしょう?

アイツを殺せばその次の、………さんとの約束ができるんだ

だからアイツには死んでもらわなきゃね

一体どんな声で歌ってくれるかなぁ……

どんな風に踊ってくれるかなぁ…

あ、そうだ!でもね、一つ気になる事があるんだよ

え?何がって………ああ、うんアイツがね

聞く所によるとだけどね

記憶………………無いみたいなんだ

嘘か本当かどうかはまだわからないよぉ

でもね……もし、もし忘れているんだったら












思い出せてあげなきゃぁ……………いけないよねぇ……

















機動戦艦ナデシコ〜 The blank of 3years 〜
空白の瞳の中に映る人達

―― 第四話 いつもと違った黄昏時 襲撃編 ――





















カイトは買い物袋に沢山の工具を入れて店の外に出る

「あ……あ〜あ、雨が降ってるよ」

 店の中で自分専用の工具を揃えていたときには気が付かなかったが、外は雨が降っていた
 生憎天気予報なんぞ見ていなかったし、さっきまでは良く晴れていたからまさか雨なんか降らないだろうと思っていただけに傘なんぞ持ってもいなかったのが今の状況
 といっても空は相変わらず明るい……キツネの嫁入りというやつだろう
 止むまでもう少し待つことにした
 小ぶりの雨がシンシンと音を立てて降り続ける。洗濯物は誰か取り込んでくれたかなぁ…なんてカイトぼんやりと考えていた。さすがに二度洗うのはゴメンだった
 同じ日干し組みの誰かが入れてくれてることを祈るしかない

 上ばかり見ていた視線を下に戻す
 周りの人達も自分と考えることは似ているらしく。お店のなどの下で一時の雨宿りをしていた。雨に濡れた服をハンカチなどで拭いている人、携帯で家族などに連絡を入れている人、色々な人がいる
 ふと、向かいの店に視線を向けた……その中に自分の知っている人がいるのを見つける
 綺麗な瑠璃色をした髪の毛、ナデシコの制服…しかもブリッジ要員の制服、両手に抱えた荷物で顔は見えないが間違いなく自分の知っている少女……ホシノ・ルリがいた
 車道の左右をみて車が来ないか確認する
 片手に工具を抱え、少し濡れてしまったが小走りで彼女の近くに寄っていった

「ルリちゃん」

 声をかける
 ルリはコチラに気が付いたようだが、どうやら荷物が邪魔で姿を確認できない状態らしい
 器用に首を曲げて両手で抱えている荷物の端から顔を覗かせる

「あ、カイトさん。どうしたんですかこんなところで?」
「うん。自分ようの工具を持ちたくてね、ここまで買いに来てその帰り。ルリちゃんは?」
「私は古本屋に本を買いにここまで、古本屋の方が沢山の本が買えるんです……」

 一瞬自分の耳と目を疑った

「え……てことはその手に持っているのは全部…本?」
「アタリです」
「これ全部ルリちゃんが読むの!?」
「はい、最近暇つぶしと言えば本を読むことぐらいしかないもので」

 それに読むならこう言った方が読みやすいですから……と彼女は付け加えた
 今のご時世、インターネットを使えば本をかわずにその内容を知るとは可能だ。それもIFS強化体質のルリとその相棒であるオモイカネの力を持ってすれば目を瞑っていてもできてしまうだろう。その位カンタンなのだ
 しかし、あえてそれをしなかったのはルリなりのコダワリなのだろう

「…重いでしょ?」
「……少し」

 ふぅっとカイトは小さなため息を吐く

「貸して。持ってあげる」
「え?いいですよ、自分の荷物ぐらい自分で持てますし…カイトさんだって自分の荷物があるじゃないですか」
「いいからいいから……あ、じゃあこうしよう。お互いの荷物を取りかえるってことで」

 そう言ってカイトはルリの持っていた大きな紙袋を上手に取り上げて、代わりに自分が買ってきた工具類をルリに渡した。ルリが持っていた本の山は中々の重さで、腕の中にずっしりと食い込んだ
 正直…変わって正解だった。少女にはこの重さはちとツライ
 逆にルリはさっきよりも荷物は軽くなった。片手で持てるほどのカイトの工具は本人の財布の中身と相談した挙句、必要最低限のものしかはいっていないため軽かったのだ
 ルリは右手に工具を、左手にウリバタケ製オモイカネ端末を持っている
 二人で雨が止むまでその店の前で雨宿りを続けた。並んでいるとルリの髪についているシャンプーのいい香りがしてきた。どことなく懐かしい感じのする匂いだった




 パラパラと小雨になったと思ったら雨は静かに止んだ。空はもう茜色の空となり、黄昏時…という言葉が似合う時間帯になっていた
 カイトとルリは雨で濡れた道路を並んで歩ていた
 時折交わされる言葉…というかはやっぱりナデシコ長屋の出来事ばかり、それでも話の種は尽きることはなかった。ここからサセボまでは歩いて三十分ほどかかる、普段だったらその三十分はいい思い出になるような時間だったのかもしれない






 けれども……生憎今日は普通の日ではなかった







 どの位歩いただろうか……周りには人が居なくなり、目に映る建物もダンダンと少なくなってきた。カイトとルリは仲良く喋りながら歩いている
 歩幅はカイトの方が大きく、歩調もカイトの方が速い。だからカイトは意識してそのスピードをルリの歩く速度に合わせながら歩いていた。カイトにとっては上からルリを見下ろすように、ルリに取っては下からカイトを見上げるように、そうやって二人はしゃべながら歩いていル

 急に……ふとカイトはピタリと歩みを止める。ルリも話していたカイトが急に立ち止まったので自分も同じように歩みを止めた。不思議そうに彼の顔を覗き込む。前を向いているカイトの視線の先には一人の男が立っていた
 ”赤”のコットンハットを目元まで深く被っているため顔はわからない。両手はズボンのポケットに突っ込んでいて楽な格好をしていた。服は木蓮の優人部隊の制服にどことなく似ていた服を着ている
 しかし色が違っていた。普通……ルリやカイト、ナデシコクルーが知っている優人部隊の制服の色は”白”だ
 けれども彼が着ている服の色は”赤”……それも無理やり何かで染めたような感じがした。所々で色合いが微妙に違っているのだ。得に胸元部分と袖口部分は変色が濃いような気がする

 全身赤ずくめ。言葉どおりだった

 ルリは思う
 色からは様々なものが浮かんでくるものだと。”青”からは煌く”海”を、”白”だったら空を駆ける”雲”を、”緑”だったら”風でざわめく”木々”を、”赤”ならばその日の終わりを示すように輝く”夕日”を思い浮かべるように……
 けれどもルリには目の前にいる人の服の色からは”夕日”を連想することはできなかった
 理由はわからない。理由などない、ただ感じだこと…

 その色から連想できるのは”鮮血”だけだった

 カイトも似たようなことを感じていた
 ただルリと違っていた事は”鮮血”の過程に行なわれた事を……”殺人”を思い描いたこと
 それと同時感じた懐かしさと、全身で感じた恐怖
 そしてカイトの目が少し離れた所にいる彼の表情に変化を捕らえる
 彼は口の端を広げて笑った。禍々しくてそれでいて歪んだ笑みを…

「危ない!!!!」

 無意識で体が反応する
 持っていた本の袋を自分の目の前でばらまき目暗ましにする。左足の筋肉に力をこめ、解放。瞬間的にルリを抱きかかえるような形で右の路地裏に逃げ込む
 避けたすぐ後に自分達が立っていた場所に銃弾が打ち込まれたのが、音と視界の隅で鉛球にあたって飛び散った本によってわかることができた



 頭の中で理解する前に体が動く。まるで理解してからでは遅すぎるとでもいいたげな動きだった
 路地裏にしては比較的拾い道だ。カイトが二人分通れるほどの幅はある。背後に感じる嫌な気配に心の底から恐怖する自分と全力で逃げ出す自分がカイトの中にはいた

 足の筋肉はすでに悲鳴を上げている。ギシギシと音がなるような幻聴が耳に聞こえてくるような気がした。正直ナデシコ長屋にいるときはここまで全力で走ったことなど一度もなかった
 息も上り、呼吸するので精一杯。腕の中にいるルリの影響もあって体力の消耗は著しいものがある。ルリを捨てれば幾分かスピードも増して距離は開けられるだろうが、それでも捨て去ることはできない
 だからカイトは自分の体に限界異常の働きができる事を考えながらひたす逃げる事しかできなかった。後ろの敵は待ってくれない

 後ろには常に相手の気配を感じる
 相手がどこの誰なのか、なんで自分達を狙っているのか、一体どっちが狙われているのか。疑問ならば沢山ある
 一つ一つゆっくりと考えたいがそんな事をしている余裕も時間もない
 今この状態は”狩り”なのだ
 自分は”狩られる側”。追ってくる相手は”狩る側”。しかもゆっくりと時間をかけて殺すことにしているらしい。必要以上に距離を開けたり縮めたりしない。つねに一定の距離をとって獲物である自分達を追いかけている。
 相手はまるで殺人快楽者のようなやつだ。獲物が弱まるのを楽しみ、獲物が恐怖を感じることに喜びを感じるようなやり方。逃げているこっちに取っては迷惑極まりない

 しばらく全力で走っていると道が開けた。どうやら少し広い道に出れたらしい。車が何台か置いてあるのは見えたが人の姿は確認できなかった。知らない人を巻き込む気はしなかったので人がいないのは都合が良かった
 路地裏を走り終えて道にでる。開けた道にはさきほど自分が投げ出した本をカイトは見つけた、どうやら路地裏を移動してる時に曲がり過ぎた為もとの場所に出てしまったようだ。それでも止まっている暇はない。向かいに見えた知らない通路に向かって又走り出す


パンッ
   パンッ
 


 乾いた銃声が響き同時に左肩に物凄い激痛がはしる
 痛みは一瞬だったが、皮と肉があったところから血が少量吹き出る。運良くカスッただけだった。しかし、痛みによって肺の中にあった酸素が苦痛の声と同時に出てしまい呼吸が乱れた
 それが今一番の痛手だった
 姿勢がよろけてしまうが何とか踏ん張ってそのまま走り出す


パンッ
   パンッ
 


 また銃声が聞こえたが今回はあたらなかった。そのまま通路に入って走り出す
 しかしそれも長くは続きそうにはない。体力はもはや限界…いやとうに限界は超えている。このまま追いかけっこはコチラに分が悪いことをカイトは感じた

 走っていた道の先にドアを見つけた。考えをめぐらせそれを行動に移す
 勢いはそのまま、ドアの一歩手目で跳躍して空中で体を回転させ、その遠心力とスピードを生かしてドアに蹴りを喰らわせる。予想以上の衝撃が右足に伝わった
 バーーーンという激しい音と共にドアが蹴破られる。そのままドアの中に着地してすぐにルリを下ろしてドアを閉める。電灯の明かりがあり下に通じる階段があるのが確認できた

「ハァッハァッ…先……に………ハァッ……行っ……て……」
「でも……」
「はや……ゼェッハァ……く……」
「…………はい」

 呼吸を落ち着かせながらルリに先に階段下に行くように催促する
 素直にそれに従ったルリが下に下りていくのを確認した後にドアの横に運良く積まれていた荷物を蹴り崩し、ドアの前にバリケード代わりにして置いた
 他にも周辺にあったものを手当たり次第に積み上げる。これならば少しでも時間を稼げるはずだ
 カイトはそう思いながら撃たれた左肩を押さえながらルリの後を追って階段を下りた


 階段を降りて一本道を進んだ先には駐車場があった
 どうやらあそこの入り口は地下駐車場への避難口か何かなのだろう。車の数はそこそこあり、様々な種類の車があった
 酷く嘔吐を覚える嫌な匂いがしてくる。この階に入ってすぐに気が付いたが塗料や薬品の匂いではない。この香り…似たようなものをついさっきも嗅いだ気がする。そしてすぐにその正体に気がついたが今は考えないようにした。ルリを見つけるほうが先決だ

 ルリはカイトが入ってきた出入り口のすぐそこにいた
 手には濡れたハンカチを持っている。水道を見つけたらしく撃たれたカイトのために持ってきてくれたらしい。その好意をありがたく受け取ってそれを自分の左肩にカイトは巻きつける

「いっ…………つうぅぅぅぅ」

 巻きつけるさいに傷口が酷く痛んだ。思わず声をあげてしまう

「大丈夫ですか?」

 ルリは心配そうにカイトの顔を覗き込む。カイトは渇いた笑みと一緒に嘘とバレバレだが「大丈夫…」といって返事をした。傷口はそれほど深くはにのは不幸中の幸いだった。血は思ったよりも流れていない、まだ少しは動けそうだ

「……なんか変な匂いがしませんか?」

 ルリが辺りを見ながら尋ねる。この匂いがひどく嫌らしく、鼻を摘まんでいる

「うん……多分、僕のカンが正しいならコレは……」

 歩き出すと目的の物……匂いの元凶はすぐに見つかった。匂いを頼りにすれば多少広いこの駐車場でも割とカンタンだった。
 近ずくに連れ匂いは険しくなっていきルリの表情にも苦悶の色が強くなるのがわかった。内心カイトもこの場をすぐに離れたくて仕方が無かったが確かめとかなければならない
 カイトはその元凶………地面に貯まっている液体を目の前にして視線を動かす

「君は…………見ないほうがいい」

 そう言ってルリの体を片手で優しく抱きしめた
 床には匂いの元凶を出していた物…………タンパク質の塊が一つ。全身黒ずくめとサングラスから一目で裏の世界の人だとわかった
 両手で首を押さえ、目はサングラスでわからないが口は大きく開かれていた。ルリの様な少女がみるようなものではない
 カイトはルリを自分の体から離し、一言謝罪の言葉を述べてからその死体の懐をあさる。死者に対してこの行為は失礼かもしれないが今は自分達が生き残るためと確認しておきたい事があったので奇麗事はいってられなかった
 胸ポケット、腰のホルスターから拳銃…ベレッタM8000クーガーFとマガジン二つ、手榴弾二つとその人の身分を表すライセンスを見つけた。ライセンス……というIDだろう
 裏面には何も書かれていなったが表には『ネルガルシークレットサービス』という文字が確認できた

 カイトは心配していた最悪の事態になった事を改めて確認した。ネルガルのシークレットサービスの人達が自分たナデシコクルーを監視を含めてて影で護衛していたのは知っていた。だから最初の銃撃の後に何かしら行動がないのに些か疑問を抱いていたがその理由が今わかった
 護衛しなかったのでなく、護衛できなかった。いや、護衛する人が皆殺されたと見て間違いないだろう。現にこの死体の死因も首の動脈にナイフか何かで見事にバッサリだ。争った後もなにもないこの手際のよさ。シークレットサービスは皆腕利きだその人達が反撃する以前に気が付かれずに殺すとなると相手の腕は相当な物だとわかる

 カイトは自分の目を瞑り、右手首の動脈を左手で探し脈を計る
 自分が認めるクセだ
 極度の緊張状態の時や考える時にはこの行動を自然と取る。こうすると何かが思い浮かぶわけでもなくただ単に気を落ち着かせることができる
 トクン……トクン……と左手の親指の下で規則正しく動く脈を肌で感じ取れた
 ゆっくりと目を開ける
 先ほど無断でもらった銃の残り弾数を確認し、安全装置を取り外して自分の右ポケットに入れる。予備のマガジンは胸ポケット、手榴弾は左ポケットに入れる
 一息すってその息を吐く。カイトはルリを真っ直ぐ見つめて言った

「ルリちゃん君はここから急いで逃げろ」
「……どういうことですか?」

 ルリが何を言っているのかわからないと言いたげに聞き返してくる。こんな時でもいつもと変わらない表情でそう言えるルリをみてこの子は強いなと感じた

「僕が時間を稼ぐ。その間に君だけでも逃げるんだ」
「カイトさんはどうするんですか……」
「……………………」
「答えてください」

 珍しく声を上げたルリ。カイトの目を真っ直ぐ見つめて…。カイトは優しく微笑むとゆっくりとその口を開いた

「…………多分無事じゃないだろうね」
「自分から死にいくのは、ただのカッコつけです」
「それでもこうしなきゃ君は生き残れない。僕が君を見捨てるという選択もある……けれどもそんな事は僕にはできない」
「なら二人で生き残れる事を考えればいいじゃないんですか?」

 カイトは無言で首を横に振る

「二人共生き残れる確立は極めて低い…今回は相手が悪すぎるんだよ。僕達の護衛として来ていたネルガルのシークレットサービスの人達は多分全滅だ……。定期連絡がどの位の時間間隔でやっていたのかは知らないからいつ応援が来るのかはわからない。応援が来たとしてもそれまで二人が生き残れるかどうかもわからない。もう道はこれしかない」
「…………」

 カイトはハンカチを巻き直すために腰を降ろして背後の車に寄りかかる。さっきよりも左肩のハンカチを強く結び直し、そのままの姿勢で再びルリに話し出す

「極端に低い可能性に賭けることはない……二人共死ぬよりもどちらかが生き残る確実な方法をとる方がいい」
「それでも……無いわけではないんですね?」
「確かに、ゼロじゃない。けれどもゼロに近い」
「ならそれに賭けてみるべきです」
「ルリちゃん…奇跡に頼っちゃいけない。起きないから奇跡っていうんだ。時には犠牲を出してでも確実な選択肢を選ぶことも必要だ」
「それだとカイトさんが……」
「いいんだよ。元々僕は密航者みたいなものだ。いなかった人が元通りいなくなるだけなんだから…」
「ナデシコクルーの皆はそんなこと言いません」

 カイトは再び首を横に振った

「もし僕が死んでもそれは一時の悲しみなだけだ。皆と一緒に時間は短いからね。時間がたてば皆きっと忘れてくれる。それでいいし、その方がいい。けれども僕より長く皆と一緒にいたルリちゃんだったらきっと皆は忘れられない……ならば僕がその役目になればいい」

 カイトの言葉を聞いたルリの目がすぅっ…と鋭さを増した













「………………それ、本気で言っていますか」














「……本気だよ」










 そう言ってカイトは目を閉じる
 ナデシコに現れてから今日までの短い時間………アキトの朝飯を始めてたべて感動した日。日のあたる太陽のしたで初めて洗濯物を干して日。ユキナと一発勝負をやり始めた始めの時はいつも蹴られていた。リョーコ達パイロットと自分の腕を競った日々。機械をいじる事に楽しみを覚えたあの時。

 合間をぬって自分の過去探しもしたけれども、自分は何者なのかはわからずじまいだった
 現れてすぐに襲ってきたバッタの群れにクルーが苦戦している時に見るに見かねて出撃した時にウリバタケに「自分がどこの誰かがわからないまま死ぬつもりは毛頭ない」なんて大きなこと言ってしまったけれど結局は嘘をついてしまった

 けれどもこれでいい。誰かのために死ぬんだ…。死に方としてはカッコいいもんだ。
 心残りがないといえば嘘になる。せめて自分の本当の名前ぐらい知りたかった
 そんな事を……カイトは考えていた。でもその考えは唐突に感じた痛みと共に消えた
















パシン……














 駐車場に渇いた音が響く
 その音共にカイトは左頬に痛みを覚えた。頭の中が一瞬クリーンになる。さっきまで考えていたことを忘れて左頬にかんじた痛みの原因はなんなのか考えていた。その正体に気が付くのには案外時間が掛かってしまった
 目を開けて上を向くとルリがいる。自分の頬を叩いた手をきつく握り締め、それと同じくらいきつい目でカイトを睨みつけるように見ていた

「ルリちゃん……」
「…………手を挙げてしまったことはあやまります。けれども、カイトさんが言っていることは間違いです」

 ルリは拳を握り締めたままカイトに話し掛ける

「あなたがどうやって現れたとか、どんな人なんていうのは関係ありません。カイトさんはもうナデシコクルーの一員で……私達の家族なんです。一緒にいた時間の多さなんて関係ありません。もしここであなたが死んでしまっても私達はあなたをずっと忘れません。もう家族が死ぬところを見たくもありません…」

 その口調には様々な感情が混じっているのがわかる
 沢山の優しさ、ほんの少しの怒り、見え隠れする悲しみ……
 家族を失うのを見たくない、といったルリの脳裏には先の大戦でいなくなってしまった人達の顔が思い浮かんでいた
 その人達が死んで悲しんだ…その人達が死んで悲しんでいる家族をみてまた悲しんだ……。あんな思い二度とゴメンだとルリは思っていた

「カイトさんが一緒に逃げるなら私も一緒に逃げます。もし戦うのなら足手まといでも私も一緒に戦います」
「それだと君も死ぬかもしれない」
「死なないかもしれません」
「そんなことはわからない!!」
「それだってわかりません」

 思わず叫んでしまったカイトにルリは落ち着いて言葉を返す。カイトはルリを真っ直ぐ見つめ、ルリもまたカイトを真っ直ぐ見つめていた
 しばらくお互いににらみ合った状態が続いた…そんな中でルリがそっと呟く




















「私は………………あなたを見捨てて行きたくありません」




















 目を伏せそっと呟いたルリの言葉はカイトには聞こえていた。その言葉に隠されている意味の深い内容はわからない…。けれどもルリの決意は固い事だけはよく……理解できた

「二人共無事じゃすまないかもしれないよ」

 頭を掻きながらカイトは視線をルリに合わせず言う。そしてその言葉を聞いたルリは表情を和らげた

「その時はその時です」
「怖い思いだってするかもしれない」
「ナデシコで何度もしました」
「大けがだってするかもしれない」
「乙女の肌に傷がついたらカイトさんが責任とって下さい」
「…………(汗)」
「冗談です」

 額に汗をダラダラ流すカイトをみてルリは満足そうに笑みを浮かべる

「…………本当に奇跡にすがるようなもんだよ?それでもいいならなんとかしてみるけど…」
「少し違いますね…ナデシコクルーとしては今の答えは五十点ですよ」






 カイトの言っていることは不正解とでも言いたげにルリは苦笑する






「奇跡になんて頼りません。こういうのは勝ち取る物です」






 座っているカイトは見上げた形でみているルリがいつもより大きく見えていた
 そんなルリは微笑んでカイトを見ている







「『なんとかしよう!』『なんとかしなくちゃ…』『なんとくしてみる!』『なんとかならない!?』ではなくて…………………ナデシコクルーなら」







 自分の右手を座っているカイトに向けて差し出す







「『なんとかする!!』…です」







 カイトはキョトン…とする。目をパチクリしてルリを見上げた









「………ぷっ、ククク………あ、あっつははっはっはっはっはっははははは ……。そ、そりゃあ、いいや。あっつはっはっははは








 途端に声を上げてカイトは笑い出した。目じりに涙を浮かべ、とても愉快そうに、とても楽しそうに笑い出した。さっきまでの死を覚悟していたカイトはすでにそこにはいなかった






「た、確かに………あのメンツじゃあそうなるよね。…………うん、その方が”ナデシコらしい”」






「ええっ」







 カイトは差し出されているルリの手を握って立ち上がる。目じりに溜まった涙を拭って柔らかになったその表情のままルリを見て言う






「それじゃ………『なんとかする』か!!」
「はいっ」









 カイトは死ぬ覚悟を捨て、生きる覚悟を今この場でした
 隣で微笑んでいる命の恩人と一緒に












後書き

ブチ:いつもと違った黄昏時 襲撃編 終了!!様々な疑問を生み出した第四話、”赤い人”は一体誰なのか。カイトとの関係は!?カイトの覚悟にルリの覚悟!!そしてルリとカイトの運命やいかに…
次回いつもと違った黄昏……痛てぇぇ

???:勝手に話をすすめんなよ♪

ブチ:おお、あなたは今回初登場の”赤い人”

赤い人:せめて本名ぐらいだせよ

ブチ:いや…それはさすがに

赤い人:まあいい。んでズバリ俺と彼の関係は??

ブチ:だぁ〜〜〜それも言えるか!!!ていうか知ってて聞いてるだろう!?

赤い人:ピンポンピンポン正〜〜解

ブチ:むっ!

赤い人:はいはいそう熱くならな〜〜〜い

ブチ:むむっ!!くそう、やな奴だなお前!!

赤い人:だってあんたがそういう設定にしたじゃん。所で俺モデルといんの?

ブチ:まあ一応いるといえばいるけど…性格やしゃべりかた

赤い人:誰だよ?

ブチ:最近はまっているゲームに出てきた奴。時間枠がそのゲーム本編の前っていう設定のアニメでも登場している本人曰く芭蕉と一緒にショコクマンユーした人からとった名前っていうやつがモデル」

赤い人:じゃあおれも言うのか?イックナーイとか?

ブチ:作中じゃ言わせるかどうかはまだ不明

赤い人:言わせたら殺すよ♪

ブチ:さりげなく怖い事いうな!!

赤い人:あははは〜まあそういうことで次回 いつもと違った黄昏時 反撃編 にてお会いしましょう。俺とアイツの関係が少しだけわかるかもよ?

ブチ:あ、てめ俺のセリフを!!!






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