機動戦艦ナデシコ〜 The blank of 3years 〜
空白の瞳の中に映る人達

―― 第ニ話 空白の中の赤い記憶 ――












 格納庫でも別の意味で戦場だった
 武器の調整から修理、ナデシコに向かってくる敵を倒すために大急ぎで作られている兵器。動いていない整備班の人は一人もいなかった
 たどり着いた彼は辺りを見まわす。視界に入るのは武器と大型の整備用の機械…そして置くに佇む一機の白いエステバリス。これだと彼は思いコックピッドに乗り込む。幸いにも機体は死んではなく、例えるなら眠っている状態だった。IFSを使い眠りから覚ませてやる

 当然機体はさっきまで眠っていたのだ。寝ぼけたままでは出撃はできない。目を覚ませて上げるついでに健康診断を行う
 コンソールの計器をみながら周辺機器の状態を確認していく・・・左腕、右腕、左足、右足、胴体部分、各関節、ジェネレーター、メインカメラ・・・・安全であるということを示すグリーンの色が淡々と現れる…ただ一つバックパックだけはレッドを示した
 彼は舌打ちをする。ブースターの故障はここからでは直らず直接機械を変えなければダメらしい。姿勢制御ができるのは不幸中の幸いだった。大丈夫……これならやれる

「おらぁ!!てめえこんなところで何やってんだ!!」

 前方から聞こえた声に顔を向けると一人の男が居た。整備班班長ウリバタケ・セイヤだった

「なにって出撃するんですよ。黙ってじっとなんかできません」
「だからって修理中のコイツででるな」
「だったら外の人達は見殺しにするんですか!?」

 ウリバタケは彼の胸倉を掴み上げ、睨みつける

んなことたぁコレッぽっちも思っちゃいねえよ!!だがな整備班としては中途半端な機体で死にに行くようなやつを出させる訳にはいかねぇんだよ!!」
死にませんよ!!
「根拠は!?自信は!?んなもんどこにあるんだよ」

 彼はウリバタケの腕を叩き落として今度は逆に胸倉を掴み上げて睨みながら言う。瞳に強い意志を宿して

「根拠なんてないですよ。でも、自分がどこの誰かがわからないまま死ぬつもりは毛頭ないですし、助けられる人を見殺しになんかできないみたいなんで!!」
「…ようし。だったら生きて帰って来い。そんで帰ってきたら、その面一発ぶん殴らせろ!!いいな」

 ウリバタケは言い終わると同時にコックピッドから出て近くにいた連中に声をかける。その間、彼はエステバリスの調整を大急ぎで行う。不思議なことにその一連の動きは体がかってにやるような感じをかれは受けていた。素早い動きでボタンを押す指、無意識にあらゆる計器をおう目……調整はあっというまに終了した
 最後に武器の確認をしようとしたところでウインドウが開いた。その中にはウリバタケの姿が見える

『いいか。お前のその機体のバックパックは出来て姿勢制御ぐらいだ。補助ブースターでもありゃよかったんだが生憎そんなもんなくてな。その代わり遠距離用の武器を沢山装備させたからな』

 見ると装備覧にはラピッド・ライフル四丁、砲戦フレームようの120oカノンがニつにフィールドランサーが一つ映っていた。括りつけたように装備している姿をみると、まるで武蔵弁慶のようだ
 装備を確認した後、エステバリスを動かしカタパルトに行き準備が完了する

『絶対一発殴らせろよ!!絶対だからな」
「了解!!」

 そして彼の乗るエステバリスは宇宙に出た







 宇宙空間はなんとも不思議な感じであった。よく聞く上も下もない場所・・空とは違った空間・・しかしそんな空間にでても彼は不思議と平静を保っていられた
 目線を動かし、敵の位置と仲間の位置を把握する。ブ―スターは故障中のため宇宙空間での素早い行動はできない、突っ込む過ぎるのも困るので必然的に出てすぐのところでなんとか止まらせる。その後エステバリスの体を一番遠い交戦区域に向けた
 彼はイネスの説明で教えてもらったやり方でブリッジとコックピッドを繋ぐウインドウを開く。目の前には一人の少女が映し出された

『記憶喪失さん!!なんでそんな所にいるんですか??』

 普段からポーカーフェイスの顔にも若干驚きの色が表れる

「じっとしてられなくてね!!それより……えーーと、ルリさんでいいのかな?前方の交戦区域の人にカウント3で上昇するように伝えてくれない?」
『……わかりました。それと”さん”付けはできれば止めてください。あなたの方が歳は上そうですから』
「わかった。じゃあ…お願い!!」

 腰に付けていたフィールド―ランサーを取り外し右手に装備する。ゆっくりと目を閉じてもう一度気を落ちつかせるのと同時に集中する……その時






  
ピチャーーーーーン







 耳に確かに聞こえた水の音……はっとなって辺りを見回すが狭いコックピッドの中……水滴などはなかった。頭を左右に振ってさきほえどの音の事を忘れ目の前のことに集中しようとする

『テンカワさんアカツキさん、カウント3でその場から上昇してください』
『え?どういうことルリちゃん??』
『したくても……できないよルリくん』
『わかりましたね…カウント行きます』

 ゆっくりと槍を振りかぶる。構えた槍の切っ先はテンカワ機とアカツキ機がいる方へと向けられる。コックピッドの中に彼の目が自然と細まり、敵包囲網の上部に攻撃するために、切っ先の角度なのど微調整を行う

『3…………』

 ルリの声がウインドウから聞こえ、それと同時に彼のエステバリスが弓なりになる。目線はそのまま、目標である包囲網の上部に固定したまま

『2…………』

 彼の操るエステバリスの右手から槍が飛ぶ。振り抜いた右手から飛び去ったフィールドランサーは物凄い速さで目標部へと突き進んでいった

『1!!』

 ルリのカウント1のよりも、少し速くに辿り付いたフィールドランサーに巻き込まれ、テンカワ機とアカツキ機を包囲していたバッタ軍団の上部が爆音をだしながら消えていく……そしてカウント1の合図で上昇した二機は見事に包囲網から抜け出せたのだった

『おいおい…まさかフィールドランサーを投げ槍として使うなんて…誰だい?こんなやり方した人は?』
「二人とも……援護するんで他の三人のところまでお願いします」
『了解……ってなんでお前がここいるんだよ!!』
「詳しい事は後で!!僕の機体はここから動けないで周りをお願いします!!頼みましたよ」

 彼の気迫に押されて二機はリョ―コ達三人娘のところまで移動する。二機の後を追うようにしてくるバッタを記憶喪失くん・・基彼が本当は砲戦フレーム用の120oカノンを使い見事に打ち落としていく。長距離からの行き成りの射撃によって数十機のバッタが沈んでいった

 追撃のバッタも二機を追う方と彼の方への二通りに分かれて迫る。コックピッドの中で彼は一度深呼吸を行う・・・肺に自分が吐いた酸素と二酸化炭素がいっぱいまで入り込む……。瞬時に右手の120oカノンをラピッド・ライフルに持ち替えて迫りくるバッタの群れを迎え撃つ為にトリガーを引いた


記憶が無くたって…… 武器の威力は変わらないんだーーーー!!! !」


 激しい銃撃に落ちていくバッタ……仲間の犠牲をもろともせず突っ込んでくるバッタ…コックピッドの中で……叫ぶことは無意味と知りつつも、彼は攻撃を繰り返した………自分が生き残るために




「うわあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」













 彼の乱入もあったお陰て戦況は好転した。彼の援護で抜け出したテンカワ機とアカツキ機は囲まれていた三人娘の機体を援護しつつその周辺にいたバッタを殲滅……隊列を崩されたバッタの群れはいくら動きが読めなかったとしても、陣形を組むまでの数瞬の隙にパイロット達に次々と落とされていったのであった
 記憶喪失の彼も彼で頑張った。よってくる敵は片っ端から打ち落とした、長距離の砲撃が可能な120oカノンを駆使し仲間の援護も行った。……ただ動けないということもあり、他の機体よりも目に見えて損傷が激しかったのも事実であった。そんな彼の活躍もあったお陰で戦闘はナデシコがバッタを全滅させた、という結果に終った

『今回は助けられちゃったな』

 ウインドウからアキトの顔が見えた

「そんな…ことない…ですよ……僕の方も…助けられた……部分が……多かったですし……」

 息も絶え絶えの彼はコックピッドの中で息を整えつつ彼は答えた。戦闘の最中もなんどか危ないめにもあった、今こうして存在しているのが…生きているのが不思議な感じであった
 戦闘中……迫り来る無機質の殺気に恐怖を覚えた。敵の攻撃を一撃一撃を喰らうたんびに発狂しそうになるほど怯えた。その度に銃を打って敵を倒した。また、その度に叫んだ。永遠に続くかもしれないかと思った攻防は今思い返しても身震いがする……
 エステバリスを思うように動かせた事から、自分はもしかしたらパイロットだったのかもしれないと思った。だったとしても戦うのは嫌いなパイロットだっただろう、そうも感じた

『はは…じゃあお互い様だな』
『いやいや、おかげで助かったよ名無し君、ご苦労さん!』

 アカツキも賞賛の言葉を送る。それに続いて残りのパイロット達も次々に声をかけてきた

『でもホンットすっごかったよ、ねえリョーコ?』
『ああ………確かに』
『脳ある名無しは爪隠す……』
「な…なんか……てれ……ますね…」






  
ピチャーーーーーン







 突如…再び水の音が聞こえた
 彼の瞳孔が開かれる。間違いなかった…幻聴などというものではない。はっきりと聞こえた水の音、何か高いところから落ちてくる水滴の音……そしてそれもまた突然だった……言いようの無い激しい頭痛……。彼は頭痛から逃げるように頭を抑えてうずくまった

『??どうしたんだ。おい!!大丈夫か』

 アキトが彼を心配して声をかける。だんだんと頭痛はその痛みをまして行き彼もアキトに心配ないと答えようとしても声がでない…………






  
ピチャーーーーーン







 また聞こえる水の音……そしてさらに強まる頭痛。周りから聞こえる声も徐々に小さくなっていく






  
ピチャーーーーーン







 症状は悪化する。頭痛のみならず、心臓も苦しい。痛みはだんだんと強くなってマジで倒れそうになる







  
ピチャーーーーーン








 何度目かの音によって、何かがはじけた。何かが見えた……
 それは一般的にいう”見る”という行動とは違っていた。一般的に瞳に映るものは光の反射によって目が得た情報を脳が認識するというものである……しかしそれは違った。瞳にはパイロット達の顔が映るウインドウが、煌く宇宙空間が、エステバリスのIFSインターフェースが見えている……でも彼には違うものが見えていた。頭の中の情報であるありえない景色が広がっていた




――何所までも広がる赤い土地……




――自分と共に酒を飲んでいる顔が映らない人達……




――実験動物を見るかのようにカプセルに入った自分を見る一人の男……




――幼い自分ともう一人の男の子を抱きしめて笑う女性……




――コックピッドから見える無数の星々……




――取っ組み合いになってケンカしている幼い自分と男の子……




――シャトルから見た自分が配属される町……





――黙々と量産されるバッタの生産工場を眺める自分……




 それらは言うならば写真だった。動きを持たない記憶の一部…バラバラになったパズルの1ピース、自分の記憶というアルバムを見ている……そんな感じ

 そして現象は写真からビデオに変わる
 
 頭の中の記憶の一部だろうか……一歩一歩動く動作に視界もそれに合わせて揺れる
 どうやら記憶の中では自分は走っているようだった。耳には聞こえることの無いく苦しそうな呼吸音と床に響く足音が聞こえた……
 どこかのドアに辿り付くと視界に手が入った。小さな手はまだ少年の物、その手は慣れた手つきでドアのロックを解除する。音を立てて開くドア……そして視界に入ったのは、その色は……








――赤









 血で…真っ赤に染まった床。元の色が見えなくなるほどに赤く染まったその床には、白衣の服を着た研究員のような人達が倒れている。そしてその中に赤くなった手で銃と短剣を持って立っている一人の……少年…
 不意に少年がこちらを向き話し掛けてくる




――誰だ?

 現実の自分は考える



『ア……さんが僕…話かけ…くる…だ』



――声がよく聞き取れない。何を行っているんだ

 相手の顔は見えない……




『…ての物……壊を、全…の…人…死…っ…ね」



――でも…

 声も途切れ途切れでよく聞こえない




『だ…ら』



――僕はこの人を

 背筋に悪寒が駆け巡る




『…にも』



――知っている…

 理由がわからない恐怖に思わず耳を塞いでしまう




『死んでもらうよ』





 向けられた銃から銃声が鳴り響く
 そしてまたアルバムは開かれた。さっきよりも断片的な写真が……


 それは研究所


 それは真っ暗な宇宙


 それは何かのコックピッド


 それは暗い寝室


 それは笑っている女の人


 もう一度少年が映る、さきほどの場面だ。手にはさっきと同じ銃を持ち、それを自分に向けている。顔は見えない、かろうじて見えた口が嫌らしく歪む……そして少年は拳銃の引き金を引いた




 頭の中で響いた銃声と共に彼の意識は消えた……














 目を開ける……見たことない天井がそこにはあった。しばらくの間、彼は何が起こったのか理解できずにボーットしていたが思考回路が平常に戻るにつれて自分が何をしたかを思い出した。出撃と戦闘と混乱……。断片的になぜ自分が気を失ったかは思い出せたが、大事な部分はしっかりと思い出せなかった。目を瞑って嗅覚と聴覚のみ作動させてもあの時の水の音はもう聞こえない……
 取り合えずベットから抜け出すと椅子に座っていたイネスがコチラに気づいて体を向ける

「気が付いたようね。気分はどうかしら??」
「結構いい感じだとは思いますけど……」
「そ、なら大丈夫ね。じゃあ行くわよ」
「は?行くってどこにですか?」
「ブッリジ。艦長からのお呼びよ」

 急な展開に彼は困惑しら表情を浮かべた


 とりあえずブリッジまでの道のりの間に彼はここまでの経緯を教えてもらった。まずは自分が倒れてからもう六日たったということ……あと一日もすれば地球に付くということ……今のところあの後からは戦闘はなかったということ。そんなことを教えてもらいながらブリッジへと歩いていた

 音を立てて開いたドアの向こうは宴会場と化していた。みんなが楽しそうに笑い、語っている。ここは戦艦の中というのを知っている彼にとっては自分の目を疑いたくなる様な光景だった
 まず普通の思考の持ち主ならば戦艦…戦う船の中で宴会などとは思いつかないだろう……しかしこの戦艦に乗っているのは”軍人”でなく”ナデシコクルー”なのである。むしろこの方が彼らクルーに取っては普通なのかもしれない

「あ、記憶喪失君が目を覚ましたよーーーということで仕切り直しだーーー」

 ユリカの声でクルーの視線が一斉に彼の方に向くのと同時に「おおー」とかけ声があがり場の盛り上がりがさらに上る

「あ、あの。この宴会は一体……」
「えっへん、このたびは私、ミスマル・ユリカとテンカワ・アキトとの愛の力、すなわちラブパワーで火星の遺跡さんには宇宙の海に飛んでいってもらちゃったんです。今までのはそのお祝いなのだーーー。ねえねえルリちゃん、これでよかったんだよね?」
「何がよかったんだか」

 しれっ、というルリ

「そして今からは『記憶喪失君助けてもらってありがとう』の宴会にチェンジでーーす」
「それでは皆さんコップをお持ちください」

 何時の間にか司会進行役になっているジュンがカンパイの音頭を上げるために号令をとる。それに答えるように皆がそれぞれのコップを持つ、彼もルリからコップを受け取った

「それじゃ……どうぞユリカ」
「カンパーーーイ」

 ユリカの一声でクルーの皆がそれぞれコップを持ち上げて、その後中身を飲み干す。そしてまた場は宴会へと移っていった
 彼は不思議な気分だった。いきなり現れた自分になんの隔ても無く接してくきてくれるこの人達の中に妙な安らぎを感じているのを感じたからだ…

「艦長、記憶喪失さんを避難民ってことで登録したいんですが、名前どうしますか?」

 とたんクルーの皆が急にシンとなる。そりゃあもうびっくりするくらいピタリと会話が止んだ

「確かに……いつまでも名無しじゃあ困るよな。まるでどこかのシニガ………ゴフンゴフン」
「そっかーそれじゃあ困っちゃうので・・・よっし今ここでみんなで決めちゃいましょう!」

 その言葉を聞いてあちこちからさまざまな名前があがる、テツロウ、ヨシハル、カツミ、にシンヤ本当に色々。まとまらないので募集箱を作って投票することになった、とりあえずは出た名前の中から本人に決めてもらおうということらしい

「それでは募集をしめきりたいとおもいます」

 そのまま司会を務めるジュン、彼の手にはいつの間にそんな箱を用意したのか『名無し君の名前箱』なんて書かれている箱がある。そして箱の中から色んな名前の書かれた紙が出てくる

「えーでは、全部いってきます。ジュンジにカズマ、ヨシキ、ジョー、テツロウ、マサヤ、ヨシハル、シンヤ、ヨシコ、アキヒト、カイト、ジン、タジキ、ユウジ、ユウ、っとこんなもんかな」

 いくかの名前の候補が上がった色んな名前が出た中、彼は頭の中でもう一度復唱してみた

(ジュンジ、カズマ、ヨシキ、ジョー、テツロウ、マサヤ、ヨシハル、シンヤ、ヨシコ、アキヒト、カイト、ジン、タジキ、ユウジ、ユウ)

 様々な名前が上った。不思議にも彼にはその中でただ一つだけ妙に印象に残った名前があった。KAITO=カイト……たくさんある中ただそれだけが耳に残った。口の中で何度か復唱して見る。よけいに気に入った

「……じゃあ、『カイト』っていうのでお願いします」
「では、名無し君改め『カイト』君ということとなりましたー」

 クルーの皆が拍手をして歓迎する……口々に新しく決まった彼の名、カイトを口にする。それはそれで彼…カイトはうれしいような、恥ずかしいような、こそばゆい感じを受けて思わず赤くなりながら頭をかいていた
 こうして彼の名前が決まった。そんな中、ユリカがカイトに近ずいてくる

「どう、名前気に入ってくれた?あたしが考えたんだよ『カイト』っていうの」
「あ、ユリカさんが考えてくれたんですか。ありがとうございます」
「うん、うん、そう喜んでくれるとうれしいよ」
「そういえば、艦長この名前の由来って何ですか?」

 ルリが名前の書かれた紙を持って聞いてくる。どうしてそんな名前をおもいついたか気にもなるだろうユリカは「ああそんなことか」とでも言いそうな笑みを浮かべて答えた

「ほえ?小さい頃飼っていた犬の名前だよ。死んじゃったときは悲しくて泣いちゃったなー」

 その一言にカイトは雷を受けたような衝撃を受けた。目の前が真っ暗になるほどの

(い、犬。僕の名前=カイト=犬の名前ってこと・・・は、はやまっちゃたかな、はははははは・・)

 放心したように突っ立てしまったカイト、ルリは「やっぱり」という顔をしている。そして少し同情した目をカイトに向けて呟いた

「ま、人生名前の由来では決まりせんから……」

 その一言が妙にカイトの涙を誘った










 航海は宴会と共に順調に進んだ。もはや修羅場とかしたブリッジでは未だに騒ぐ者もいれば寝ている者、しっかりと仕事をしている者に分かれた……不思議と誰も自分の部屋には帰ろうとはしなかった
 カイトもカイトで楽しんでいた。始めは自分とクルーとの間にある壁……自分は突然現れた者というのに無意識ながらも輪の中に入るのに遠慮していたが、そのクルーの方からカイトを目ざとく見つけて絡まってきたのである。彼が戦ったことに対しての賞賛、一気飲み、一気食いの勝負を持ちかけてくる者。カイトも知らず知らずのうちにすっかりと打ち解けていった

 しかしそれは起こった

 その時カイトは散らかっていた空き瓶などを拾いながら片付けをしていた。距離的に地球の近くにきたためそろそろどこかのコロニーなどに収容されるだろうからいいかげんに片付けを始めようとのことからだ
 両手一杯に空き瓶を持ちながらもそれを入れるゴミ袋まで移動する。そしてまた両手一杯に空き瓶を持つ、ただそれだけをカイトは繰り返していた
 そしてそれが彼の不幸だった

 通信士のメグミが声を上げた

「艦長。前方の艦、トビウメから通信が入りました」

 トビウメ、その戦艦の名前を聞いた瞬間にカイトを覗くクルーの顔にある種の恐怖が生まれた。急に慌て出す者、ポケットの中の何かを探す者、とりあえずティッシュを手にとって耳に詰める者
 普段ならカイトも訳がわからずとも周りに合わせてまねをしていただろう。しかし残念なこと彼は片付けのために両手が塞がっていた

「ねえルリちゃん。なんで皆そんなに慌てているんだい?」

 とりあえず一緒になって掃除をしていたルリに周りの行動を問う

「超音波が来るからですよ。カイトさんも耳は塞いだほうが良いですよ」

 そう言うとさっさと何所から出したのか耳栓を自分の耳に入れる。カイトは頭の上にクエッションマークを出しながらも困っていた。一端両手一杯の空き瓶を床に置いて耳を塞ぐことはできるが、いままで集めた瓶を一々下に置くのはどうしたものか、と悩んだのである

 何が悪かったのだろうか

 ナデシコが地球に戻ってきたのがいけなかったから?

 カイトがルリの忠告を聞かなかったから?

 迎えに来たのがトビウメだったから?

 カイトにこの事を教えなかったクルーが悪いのか?

 知らなかったカイトが悪いのだろうか?

 あの人が親ばかだからか?

 タイミング悪く掃除をしていたのが悪かったのか?

 あの人の声が大きいのが悪かったのだろうか………

 そして無情にもウインドウは開く。大声と共に………



「ユゥゥゥゥリィィィィィカァァァァァァァァァッッ!!!」



 その通信の極大サイズのウィンドウが開くのと同時に、警報音よりもデカい声がおたけんだ。ウィンドウに映っているのは………簡単に言えば、ガタイのゴツいサリーちゃんのパパである。ユリカのお父様………軍一の……いや世界一の親バカ、ミスマル・コウイチロウ

 残念ながらカイトはその人の顔を見ることは無かった
 顔を見る前にそのその超音波によって気絶したためだ……
 こうして彼はすぐに医務室へと逆戻りしたのである……………
 そしてある少女は呟く

「バカ………」と


追伸
 次にカイトが目を覚ました時にはそこはもう宇宙ではなかったという
 そして彼はこの後数日間、”あるもの”に恐怖を抱く
 急に現れるウインドウと大声………それと髭
ちゃんちゃん♪





















後書き

ブチ:今回はゲスト付きでーーす。名前が決まったカイト君

カイト:ども、名前が決まったカイトです

ブチ:第一話のみならず第二話でも運の無いお人

カイト:あんたのせいだろう

ブチ:「………」←耳を塞いで聞かザル

カイト:大体なんでここでコウイチロウさんが出て来るんだよ

ブチ:あ、それは単に君にコウイチロウさんの大声を聞かせて上げたかっただけ

カイト:なんで?

ブチ:思いつき

カイト:「…………」←無言で棍棒を掲げる

ブチ:「ま、まあ人生、谷ありさらに谷ありさ」

カイト:「釘バットの方がいい?」

ブチ:「ごめんなさい」←土下座

カイト:「まったく。それで僕の過去はどうなるの?」

ブチ:「さすがにそれは秘密だ。カンのいい人は多少わかるかもしれないけど」

カイト:「それは残念…あ、もう時間だ。そろそろ戻らなきゃ」

ブチ:「ではでは最後にここまで読んで読んでくれた方、ありがとうございました」

カイト:「ありがとうございました。それでは次回で〜〜〜〜」

チャンチャン♪













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