機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



――― ハ−リ−君 〜運命の出逢い〜 ―――










『ナデシコ C』副長補佐である真備少尉は… 只今大人になるための試練の真っ最中 …いわゆる大きな苦悩を抱えていた。





尊敬する艦長であり、密かな想いを寄せる対象でもある …憬れの女性… ホシノ・ルリ少佐。


そして… 長期間の出張任務を終えて先日宇宙軍に復帰された… ミスマル・カイト中尉。


御家族で …御兄妹でも… あるはずの、おふたりの様子。





…なんかヘンです…


あれは…いやまさか…そんな…ありえない…


でも…やっぱり…どう見ても… "仲の良い兄妹" … というよりも …まるで "恋人同士" !?


ハッキリ確かめようにも確かめることができない、いや確かめたくない!





そんな悩みを抱える姿は、今密かに 『ナデシコ C』 での "談笑の種" となっている事を彼は知る由もなかった…










…そう、彼の不幸は、宇宙連合軍所属 『ナデシコ B』 への初出勤の時の 〜運命の出逢い〜 からはじまっていたのであった…




















『サセボ基地』 の地下ドックに係留されている 『ナデシコ B』



「あれ? ここって、さっきも来たような気が?」



その広い敷地内で、ハ−リ−は目的の場所が分からずに右往左往している。

時間には間に合うよう、充分余裕をもって来たはずなのだが…



「どうしよう… 念願の初出勤だというのに …これじゃあ遅刻になっちゃうよ。

こんなんじゃ…やっぱり子供だから、ダメなんだ〜ってまた言われちゃうよ…トホホ…」



どうやらその呟きの中にコンプレックスを抱えている響きがあった。

そしてなにかを回想するように、ハ−リ−は… 守衛のおじさんの案内を断った事と …それに伴い… 健気にも自立心を見せてしまった事を …後悔してしまう。



「はぁ…『大丈夫ですって、1人で行けますよ! 僕だって今日から、"連合宇宙軍の立派な一員" なんですからね。 えへへっ♪』

…なんて『ネルガル』の施設の人にも大見得を切っちゃうなんて "ばか" なことをするんじゃなかった…」


「はい? …っと、イケナイ!(笑) つい、いつもの癖で…」



ほんわか気分の表情ですれ違っていった幼顔の男性が…彼の "ボヤキ言葉" に反応して振り向くと…照れたようにひとりで弁明する。

どうやら "説明" にこだわるイネスと同じ感応を見せてしまったようだ。

そうして後ろを振り向くと、自分よりも少し背の低いハ−リ−に気付く。



「あれ? 君のその軍服は…」


「え? あ、はい! 連合宇宙軍所属 "マキビ・ハリ少尉" です。 本日付けで 『ナデシコ B』 への配属となりました…

…えっと、貴方は、中尉殿ですね…よろしくお願いします!(びしっ)」



急に声を掛けられて緊張してしまったモノの… 相手の階級章を確認して …敬礼で返答する。



「あははっ♪ これはこれはご丁寧な挨拶をどうも。 そっか、君がそうなんだ。 良かった、善かった♪ では、よろしく…マキビくん♪」



この中尉殿は、予め彼の事を知っていたのだが …写真とは違う髪型のため… 印象が異なるハ−リ−に、まったく気が付けなかったのである。

だから、自分のボケ癖によるミスを笑って誤魔化したのだった。


「ボクは "ミスマル・カイト" 君と同じ 『ナデシコ B』 で、エステバリスのパイロットをしています。」


カイトは極上(?)の微笑みをみせながら、下士官に対して敬語を使っている。

仲間とアットホ−ムな雰囲気を目指す、ほのぼのカイトの可笑しな性格。

こうした彼の態度は、単に上官としての自覚に乏しいだけなのかもしれない。


「え! そうなんですか? よかった〜これでなんとか遅刻せずに間に合いそうだ。」


ハ−リ−も彼の優しい対応に乗せられて、つい安心してしまう。


「じゃあ早速艦長に着任の挨拶をしないといけないね。 良かったら案内するよ。」

「はい、ありがとうございます!」


見た目とは違うその頼もしい口振りに、上官として、また先輩としての尊敬の念を彼は抱くのだった。

こうしてマキビ・ハリは、本日第一弾の "不幸" に見舞われるのである。




















随分と歩き回った割には、一向に目的地に近づく気配がない。

また、奇跡的(?)に知り合いとすれ違うこともなく彷徨い続けている二人。

時間を気にしていることもあって、ハ−リ−の表情に不安の色が浮ぶ。



「あの〜ここって、さっきも来たような気が?」


「多分、君の推測は間違ってはいないよ。 …ボクも同感だから…」



結構あっさりと肯定するカイト。

だが… 二重遭難の予感を恐れているかのように …その表情は険しく(=無表情で)額に汗と縦線が浮んでいた。

その様子から、先程まであったはずの信頼感が薄れてしまったハ−リ−は、カイトに自分の疑問を投げかけてしまう。



「失礼ですが… もしかすると、カイト中尉って …方向音痴なんですか?」


「それも特に否定はしないよ。 なにせ、自分でも呆れるくらい "迷仔の体質" だから… 当たり外れが大きくて …実は困っているんです。(笑)」



これまた結構あっさりと肯定してしまうカイトであった。

実にお茶目な言い方である。


「そ、そんな〜」

「大丈夫だよ、なんとかなります。 いつかは辿りつけるでしょうから気楽に生きましょう♪」


こうした "お気楽極楽能天気" なところは …彼自慢の… 姉ゆずりであって、そこから更に一層磨きがかかっている。

人類皆このような呑気さがあれば、間違いなく衰退の一途を辿るのだろう。


「こちらからは "連絡" とかはできないのですか?」


ふとした提案。

新参者の彼には、まだ "通信機" が支給されていない。

だが、流石にこのままではラチがあかないと適切に判断したハ−リ−は、建設的な意見を述べると…



「あっ…そうだった…その手があったっけ?」



その言葉で、カイトの頭に "ピッカリマ−ク" が灯された。

毎度お馴染みのボケ行為。

こういう所は、ホント "進歩ないよね"

そして回線が繋がると、二人の目の前にウィンドウが開く。



「カイトさん、遅いです! …やはり…また "コミュニケ" の存在を忘れていましたね…(怒)」



そこに… 少し眉を吊り上げながらも …無表情で怒る女性の顔が映し出された。

金色の瞳を携えて、瑠璃色の髪をツインテ−ルにしている白い肌の "美少女"



その姿を見たハ−リ−は、一瞬にして意識と身体を硬直させてしまう。





〜ハ−リ−君、運命の出逢い〜





「はは…ごめんね、ルリちゃん。 …でも、ちゃんと "マキビ少尉の保護" はしました♪ …これから向かいますので、彼の遅刻はカンベンして上げて下さい。」

「それは構いませんが、貴方はダメですよ。いつもの "天然ミス" なので、許してあげません!」

「仕方ありませんので了解しております。 自分でまいた種ですから反論はしないよ。」

「せっかくカイトさん用のコミュニケをセイヤさんに作ってもらったんですから、これからはきちんと使うように注意して下さい。」

「自動起動モ−ドでも付いていれば、いくらなんでも忘れないとは思うんだけど… なるべくボケずに心掛けるようにします。(笑)」


「あ、それといつも言っていますが… ここでは …ちゃんと私のことを "艦長" と呼ぶようにしてください… いいですね、"カイト中尉" !」

「う〜っそれはずるいですねぇ。 先に "呼び方" を崩したのは "ルリ艦長" ですよ!」

「ふふっ♪ これは、"艦長命令" です。」





業務連絡のわりには… 秘守回線のためか …ふたりの会話にどことなく親しみの感がみえる。


ころころと表情を変えるカイトと至って無表情なルリ。


だが、ふたりのやり取りとその声には …明らかに… 仲の良い抑揚があった。





そしてしばらくしてから、ルリは新参の士官に目線を移す。





「あっ、マキビ少尉ですね。 私は 『ナデシコ B』 艦長の "ホシノ・ルリ少佐" です。

通信での挨拶となりましたが… そのまま艦橋の方へ来て下さい …改めてお待ちします。」


「は・は・はいっ…よ・よ・よろしくおねが…」


「…では…」





ハ−リ−の言葉を聞き終える前に、ルリは微笑を残して通信を切ってしまった。





そこに残されたものは…放心状態の少年と、コミュニケで目的地を再確認をする少年。

そして、迷仔の仔犬専用機器を作動させたカイトは、保護対象者のステ−タス異常にようやく気付き、彼の目の前で手を振ってみる。



「お〜い…やっほ−、起きているかい? マキビくん。」



しばらくトロンとしていた瞳がハッとなり、現実に戻されてしまったハ−リ−。

夢の中で見た妖精と、実際目の前に居る仔犬。

当然彼の頭に疑問が浮ぶ。



「あの… と、カイト中尉は… どのような…」


「それはいわゆる、彼女とボクの "間柄" の事…だね?」



カイトの勘は御都合主義的に良くもなるのだ。



「はい…あ、すみません! 上官に対して馴れ馴れしくこんな事を聞くなんて…」


「気にしなくても大丈夫ですよ♪ 実は… 艦長とボクは "家族" なんです。

まぁ確かに彼女とは名字が違うし、一般社会でも職場上でも "別姓" で登記されていますが…(笑)

おまけに軍での立場は逆だけど… それでもボクにとって …彼女は "大切な義妹" なんですよ…」



小さい事をあまり気にしない彼。


けれど、大切な想いだけは決して忘れない。


今は亡き義姉のユリカと義兄のアキト。


血の繋がりはなくても、"家族の絆" を四人で結ぶ事はできたから…





…それがカイトにとって、かけがえのない大切なモノ…





「 "妹さん" …なんですか? …はぁ… それはそれは、なにやら複雑なご関係みたいで…カイト中尉は大変なのですね。」


「そうかな? 特にそう思ったことはないけれどね。」





普段はルリに保護されている "忠犬カイト"

でもルリが迷うと、カイトは彼女の "義兄" にもなれるのである。

しかし残念ながら、現時点ではその "中間" が無い。

これが後になって、ホシノ・ルリの不幸(?)となるのだった。





「僕は一人っ子なんで、よく解りませんが… 艦長と中尉のように仲の良い御兄妹って …なんだか羨ましいです。」



寂しそうな口調とは裏腹に… "一目ボレ" した女性と仲良く話せる事に …彼はしたたかにも(笑)羨望の念を抱いている。

すると、カイトは穏やかな表情とやさしい声で… こう …ハ−リ−に語りかける。



「マキビくんの経歴を見せてもらったけれど、ウチの艦長殿(笑)と似ていたから、なんだか君も "ボクの弟" のような気がしてね。」



…それはまるで、彼の気持ちをすくいあげたように…



「それって、僕が "ホシノ少佐の弟" ということですか?」



カイトの意外な言葉を聞いて途端に元気な顔となったハ−リ−君。





「え… あ… そうとも言えるのかな? …でもまぁ、おそらく彼女もそう想ってくれると思うよ。」





ハ−リ−の素っ頓狂な声に一瞬驚いてしまうカイト。

自分で言っておきながら、そこまでは考えていなかったようだ。

しかも、いい加減なフォロ−までつい口にしてしまう。





「僕がホシノ少佐の…」





再び放心してゆくような笑顔。

仲良く手を繋ぐシ−ンを想像で思い描いたのだろう… 恍惚な微笑みを浮べてしまう …



実際には、カイトが(いつのまにか)彼の手をとって、目的地に案内をしているのだが…

そんな自分の発言で予想以上の好反応を見せてくれたハ−リ−に、カイトは爽快な笑顔を見せると…



「もし良かったら …プライベ−トでは気兼ねする必要はないし… ボクのことは階級をつけて呼ぶ必要もないからね… では改めてよろしく "ハ−リ−くん" ♪」



連合宇宙軍独自のアットホ−ムな雰囲気で彼にトドメをさしたのだった。

実際の所、カイトのこうした発言は、年少な新人くんの緊張を緩和させようとする "気遣い" からきていたのだが…



「はいっ!ありがとうございます、"カイトさん" ♪」



どうやら彼は、これらすべてを真に受けてしまったようだった。



人を迷い惑わせて、勘違いな想いを誘発させるカイトの能力。










…こうして、ハ−リ−は… カイトの …悪意のまったく無い… やさしさに …不幸にも惑わされてしまったのである…









… 恐るべし! "迷仔の仔犬" の資質♪ …













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