機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



――― ただ一人の少女のために歌う詩(うた)―――










―― 連合宇宙軍ビル本館にある、総司令のオフィス内 ――





総司令ミスマル・コウイチロウ…


参謀長ムネタケ・ヨシサダ…


アキヤマ・ゲンパチロウ中将…


アオイ・ジュン中佐…


ホシノ・ルリ少佐…


タカスギ・サブロウタ大尉…


マキビ・ハリ少尉…





そして……

















「……よくぞ、無事に帰ってきてくれた……カイト…(涙)」



連合宇宙軍総司令ミスマル・コウイチロウは、目の前にいる青年に…

上官として … 彼の父親として …感無量といった心境と、今にも親バカを発揮しそうな(笑)喜びを表している。



「『ネルガル』への派遣任務すべて完了につき、ミスマル・カイト中尉……明後日より連合宇宙軍へ復帰致します。(びしっ)


……本当にご心配をおかけしました、お父さん。(微笑み)」



同僚への挨拶も兼ねて、本日カイトは連合宇宙軍本部ビルに出頭したのだった。

少し背が伸びており(笑)以前にも増して穏やかさを身につけたようにもみえる。

だが、軍に入ってから …無意識に… 公私のケジメをつける …クセをつけるようにしていた… 彼にしては、総司令の返答に自分から公私混同の言葉を使っている。



「やはりユリカさんは連合軍に在籍するよりも、アキトさんのお店で働く看板娘のほうが良いかと思いますが…」


「うむ、お前が軍に残ってくれると決めてくれたのでな… それでもう儂は安心したよ …ユリカもアキト君と仲良く暮らせて、とても幸せな顔をしておった…」


「そうですね。 ボクも本当に嬉しいです。 やっぱりユリカ姉さんには笑顔が一番良く似合っています。

アキト兄さんも張切っていたし、『家内安全』『家族円満』が何よりですよ♪」



気の抜けたカイトのペ−スにすっかり狂わされてしまった総司令の親バカ発言。

カイトもカイトで… ほのぼの仔犬顔を見せると …何気に "家族の幸せ" について感想を漏らしていた。



…ここは仮にも "軍本部" である。





… それを言うなら『家庭円満』ですよ、カイトさん …



カイトの隣に立っていたルリも、二人の会話を聞いて思わず "クスッ" と声を漏らしてしまう。

軍本部で見せる事の無い彼女の "妖精の微笑み"


彼女を横目で気にしていたらまともにみてしまい… "ドキッ!" …ときめく純情少年ハ−リ−君♪


サブロウタは面白そうに、三人の状況を眺めている。


ジュンは、親友が職場に復帰する事を喜んでいるようだ。


ムネタケ、アキヤマ両名も、この "ノリ" にすっかり馴染んでいるようで…



「…彼には、長い "春" …でしたかな…(しみじみ)」


「…彼の "幸せ" は向うからは歩いては来ませんし…これも大人になるための "試練" というモノでしょうなぁ…(しみじみ)」



…人が良いのか悪いのか、含みのある表情をしながら顔を見合わせてヒソヒソと語り合っている。

そこへいつのまにか近づいていたサブロウタが、その会話に加わった。



「ま、アイツのことだから "淡く儚い夢" がみれただけでも "幸せ" だったンじゃないですかね。」



実に爽やかに答える彼の口元は…性悪そうに歪んでいる。





…ある者の幸福は、ある者にとっては不幸、人の不幸は蜜の味…





…と、どっかの会長さんも呟いていた真実。

三人揃って "うんうん" と頷くと、そのまま一緒に不幸な少年へと視線を注ぐ。



「はぁ? …何をいっているんですか? ねぇ…ちょっと、そこの人達っ!!」



訝しがる表情で抗議するハ−リ−。

自分に向けられた哀れみの視線によって、彼等の話題の人物が自分の事だと…不幸にも…気づいてしまう。



「人間はな…世の中を生きていく上で、知らないでいた方が… "幸せ" …なこともある、ということさ…

つい余計なことを知ったせいで "不幸" になったヤツも大勢いるンだ……だからな、少しも気にするんじゃないぞ! マキビ・ハリ少尉♪」



サブロウタは何も知らない哀れな子羊に …まるで神父のように健やかなる響きで… 人生訓を教授する。

だが… ハ−リ−には、それの意味するところがどうしても理解ができないでいる。

実は… ルリとカイトの関係を彼は良く知らなかったのであった。



… 単にふたりは仲の良い兄妹である …と認識していたからだ。





「心配するな、ハ−リ−。 来年の春に期待しようぜ! なんなら俺も一緒に探してやるから、安心しろ♪」


「だから一体それって、どういう意味なんですか、サブロウタさんっ!! (←無知は罪なり)」


「やはり、イイ人過ぎると理想をつい逃してしまうモンなのでしょうな。(→遠い目をする中将殿)」


「かといえ… 最近の若者は、年下の女性に手玉に取られてしまう …いやいや、実に嘆かわしい事ですなぁ〜(さり気なく中佐の方を…)」


「ボ・僕は、別に、ユキナちゃんには…(赤面)」


「アオイ中佐、見事に墓穴を掘っています。(冷淡なツッコミ)」





「春(玻璃)過ぎて・夢見た妖精・風と去る(byコウちゃん)」





…いつのまにか周りで勝手に盛り上がっていく…



それを見守るカイト。

…今一つ状況が飲み込めていないようで… "ポケ−ッ" としたおとぼけ顔であった。

やはり…つかみどころの無い…天然仔犬の存在は "シビアな空気" を "和やか" にさせてしまう "不思議なモノ" があるのだろう。



…オフィスに浮ぶ "風鈴ウィンドウ" も夏の涼やかな音色を響かせている…




















昨日 "思い出の場所" で、ルリとの "約束" を果したカイト。

そのまま『天河食堂』で家族と仲間達と再会をすると、皆からの厚い歓迎を受けた。

そして『家族の幸せ』を再び実感できたカイトは、改めて連合宇宙軍への復帰を希望したのだった。


想い人であるルリのそばで… ようやく彼女の "白騎士" として… 希望する職務に戻れたのである。

カイト本人は "ルリ(白い小さな姫)に仕える騎士(ナイト)" のつもりでいるのだが…

周りのほとんどの者は "仔犬" が "飼い主" の下へやっと戻ったのだと認識している。(笑)



"電子の妖精" に "迷仔の仔犬"



もしかすると …カイトにとっても… それ以上でもそれ以下でもない関係なのかもしれない。





…ではルリにとって、カイトの存在とは…




















総指令への任務完了報告を済ませると、カイトはルリを誘って『アトモ社』へと車で向かった。

カイトの通常勤務は明後日からとなっている。

ルリの方は…というと、午後からの執務があったのだが…

彼女を補佐するサブロウタが気を利かせてくれたおかげで、ふたりで抜け出すことができたのだった。





「実は、ルリちゃんに会って欲しい人達がいるんだ。」

「え? それは私がこれまで会った事が無い人…という意味ですよね?」

「う〜ん、どうだろ… 会ったことが無い …ともいえるし、… 会ったことがある …ともいえるかもしれない。(笑)」

「?」

「まぁ、会ってからのお楽しみって事で♪」



そう言うカイトは実に屈託なく、明るい表情である。



カイトが知っていてルリの知らない人物。

ルリにはまったく心当たりが無かった。

車での移動中… カイトの楽しそうな笑顔を横目で気にしながら …ルリは、何故か表情を曇らしてしまう。



実の所、今のカイトに対して内心少し不安があるルリ。

変わらない優しい笑顔を見せてくれた彼と再会できたのはとても嬉しかったのだが…

彼のやさし過ぎる所… 逆に言えば、誰にでもやさしいという事 …に問題があった。

カイトは気づいていなかったようだが、『ナデシコ A』や 『ナデシコ B』の女性クル−の中で密かに彼を慕う者がいる事をルリは知っている。





… 離れていた間に、もしかしたら(私の知らない)カイトさんが… 別の人と… それって、まさか "女性" ? …


… いいえ … 私を "一番大切な存在" と言ってくれたのだから … これは "嘘" ではありません …


… でも … なによりも家族を大切に想う(天然の)彼 …今でも(強敵)ユリカさんを慕っているのは間違い無いでしょう(悩) …


… あっ、でも … ユリカさんはもうアキトさんと夫婦ですから … これは大丈夫ですね(笑)…


… だけど … 昔の私と似ている(業敵)ラピス …


… あの子もカイトさんには必要以上(怒)に懐いていた(怨) …


… なぜか … 彼も、愛しそうな眼差し(怒)を向けて、彼女の頭を優しく撫でていた(衝撃) …


… カイトさんと離れていた時は、ただ逢える事だけを望んでいたのに …


… 彼の "一番" なんだ … と想っていたのに(哀) …


… その願いが叶った今になって、何故 … これまで余り考えることが無かった … 不安要素がどんどんと思い浮んできてしまうのでしょうか(複雑) …


… そもそもカイトさんの方こそ … 私(電子の妖精)が他の男性(ファンの人)と … 絶対ありませんが … 交際してしまうという "不安" はないのでしょうか …





表情には出せないモノの、心中穏やかでない状態に陥っていたのである。




実際アカツキの気掛かりは見事に的中していた。


普段の会話からして、あまり色気の無かったふたり。(笑)

移動中の今も必要以上には言葉を交していない。


離れる前は …ただ側にいてくれただけで… 心安らぐ想いをルリは感じていた。

カイトと離れた事は、自分を見詰め直す良い機会となった…と、ようやく客観視できるようにもなれた。

…だがアキトが戻ってきた時、カイトは帰ってこなかった…

その動揺は、アカツキとの密談を経たことで静まり… "彼への想い" を再確認することができた。

…誰よりもカイトのことを信じる事ができたはず…

ところが、ようやく彼との再会を果たせたことが…

逆にこれまで作ってきたルリのペ−スを大きく乱す結果を齎したのである。


夢が現実のモノとなると… 得てして …人は戸惑い(迷い)を見せる。

人の幸せを求める欲望は… 良くも悪くも …果てしないモノ。


そう… 会長殿が心配した要素を … 感情では完全に理解できてはいなかったのである …


あまりにも平然としている …カイトの… 雰囲気。

それが… 隣に座る "ルリの幸せの願い" にも大きな影響を与えてしまう事に …




















「こんにちは♪」

「おや、カイトさん…ご苦労様です。」



『アトモ社』に車が到着すると、カイトは顔パスで入り口を通る。

…アポもとらず、ルリは初めて来た場所なのに…

軍服姿であったおかげなのか、彼女も特に何も言われずに通過する事ができた。


社内のロビ−から関係者専用の通路〜階段〜フロア〜応対部屋〜専用扉〜秘密通路〜

そして…極秘エレベ−タ−〜


その間… カイトにしては珍しく …進んでルリの手を取ると、行く先へと案内したのである。

そしてルリも… カイトと手を繋いだおかげか …先程まであった不安が嘘のように無くなっていたのだった。



…そうでした… "大切な想い" を危うく見失う所でしたね …



下降するエレベ−タ−の中で… カイトの変わらない横顔を見たルリは …昔の 『ナデシコ』を思い出せたようだ。






























―― 『アトモ社』秘密ブロック最下層 ――





…その広大なる闇の空間に明かりが灯ると…



…そこにあったモノ…



…光輝く純白の機体 "ウィングライダ−" …





…そして今はもう … カイト以外触れる事が出来ない …彼しか扱えない… 彼だけのモノ…





「紹介したい人がこの中で待っているんです。」


「それって、もしかして…」


「うん♪ "二人" ともルリちゃんに会いたいって、やっと許してもらえたんでね… 貴女に我が侭を言ってまで、是非来てもらいたかったから …」





カイト以外、誰もコクピット内に入ったことはなかった。

ルリも機体を近くで見た事はあっても、中には入れなかった。

ラピスでさえ、中には入れなかったのだった。

なぜなら… 稼動停止状態でも …見えないフィ−ルドが常に張られていたからである。





手動でハッチを開けるカイト。

この形態だとコクピットが機体の先端部に位置するので、背が低い者でも容易に乗り込むことができる。

ルリの手を取りながらコクピットに入ったので、フィ−ルドの影響はまったく無かった。

そしてコクピットシ−トにカイトが座り、その横に用意されていた補助シ−トにルリは腰掛けた。

ハッチが閉じると、再び辺りは闇色に包まれた。



そう… そこは … "ふたり" だけの空間となる。










「 "ARU" システム起動… パスワ−ドは … "永遠に見守ってゆく未来" 」










自動起動モ−ドにしていないため、カイトは呼びかけをする。



すると、光点が次々と空間に点滅してゆく。

そこはまるで、宇宙空間を漂っているかのような気分になれる。



「凝ってますね。(笑)」



ルリの素直な感想だった。



「… (夢見る)"LEDA" の趣味です…はい…」



カイトは、なぜか少し恥ずかしい気がしているようだ。










<…音声・声紋・網膜パタ−ン・各種デ−タ照合終了…>


<…マスタ−承認…>


<… カイト・ミスマル …>


<…全機能正常に起動…>


<…異状事態発生…>


<… "LEDA" システム強制休眠…>


<…異状事態解除…>


<…パ−トナ−承認…>



「… ルリ・ホシノ …」


「え? あ、はい…」



ウィンドメッセ−ジの表示を確認していると、突然音声で名前を呼ばれたため、つい返事をしてしまうルリ。(笑)



「…『オモイカネ』を通じて貴女とコンタクトを取った事はありましたが、こうして直接お会いできた事は誠に光栄であります。」



コクピット前方中央に固定された球体形…そこから男性の声で呼びかけられた。



「カイトさん… "ARU" って双方向の音声認識機能があるんですか?」



最新鋭のコンピュ−タである『オモイカネ』の返答は、ウィンドウ表示で音声はない。

以前 "ARU" とリンクした時、ルリとの交信も …音声のない… 文字によるコミュニケ−トであった。

ただし "ARU" の性能は戦闘補助と機体制御に特化されているため『オモイカネ』ほど多機能でもなく、また情報処理能力も劣っている。



「うん、そうだよ。 …でも今は、極一部の人以外 … 誰も知らない事なんだ。」



そう言いながら、少し寂し気な表情を見せてしまう。



… "風の旅人" だけの "最強の鎧" …

…そして "α" 開発スタッフはすべて過去の人となっていたから…



「では、改めてご挨拶させていただきます。

…初めまして、ホシノ・ルリさん… 私(わたし)は "AWX−06" 通称 "α" …その専用制御コンピュ−タ− "ARU" …以後、よろしくお見知りおきを…」



懇切丁寧な口調で自己紹介をする紳士…もとい、"ARU" なのだが…



「初めましてルリ様! 私(わたくし) "LEDA" と申します♪」



ルリの目の前にウィンドウが開いて… まったく別人格の少女が、明るい声で挨拶する。


…それは、まるで "鏡" のような…


「!!!」





突然現れた "ARU" 以上の機能を有した "LEDA" の顔… 彼女は、自分とは違う反応を見せている …

『アトモ社』に来るまで不安のあったルリにとって、これは一番ショックな出来事だった。





「また、マスタ−の許可無く勝手に起きてしまうとは………貴女は、もっと制御システムとしての自覚を持つべきです!」


「あら、ごめんあそばせ♪ …私はいつだって、カイト様のためを想って行動しているんですよ〜だ♪」



…主(あるじ)のために、恋敵を模倣?する機能を身につけるまでに進化した "LEDA" …

… まさにカイトにとっては、主冥利に尽きるのだろう …










「カイトさん…ずるいです。」



思わず俯いてしまい…怒ったような悲しい口調でのコメント。

自分とは似ても似つかない表情と性格を目の当たりにしたというのもあったが…

なによりも …離れている間… ルリは、カイトの笑顔を頭の中でしか作る事ができなかったからだった。



だが、カイトはそんな彼女の反応に臆する事無く、穏やかな声で彼女の耳元へと囁いてあげたのだった…





「…ボクにとって… "ルリ" ちゃんは "ルリ" ちゃんだよ…」





これはカイトにとって、迷いの無い気持ち。


… "ラピス" は "ラピス" で "LEDA" は "LEDA" …


…決して "ホシノ・ルリ" とは同じ存在ではないのだという真心…


ルリと離れていた時、迷ってしまったことも確かにあったのだが…


カイトにとって "ほのぼの幸せな気持ち" は、自分の心の中にある "一人の少女" だけが生み出してくれるモノなのだと確信できている。





「…はぁ…やっぱりダメでしたか… せっかくカイト様好みで迫ってみたんですけれど ……とても残念です……逆効果でしたわ…」



カイトの誠実な態度を目の当たりにして、実に残念そうな表情と溜息をつく "LEDA"



「な? …なんですと!? 貴女はマスタ−を励ますため… ではなく …実は "誘惑" を狙っていたのですか?

その結果、おふたりの仲を破局させる事を目的とし… ルリさんの搭乗を漸く認めて …故意に計った…と?」



マスタ−に対する献身的な行為として今迄認識していたので、彼女の真意を知って驚愕の声をあげてしまう。

機体の防衛本能は "LEDA" の支配下にあるため、今回のパ−トナ−登録を許可した彼女に敬意さえ覚えていたのであったのだが…



「はぁ…それでもホントに私の進化型システムなのですか?

やはり会長殿がおっしゃっていた通り… 悪知恵に於いて …貴女は "電子の妖魔" の名に相応(ふさわ)しいのでしょうね…


…イヤハヤ… これ以上、私は貴女の行動に関して……補足説明も、コメントする気も …ホント… 失せましたよ…」





実は、カイトと "LEDA" と "ARU" との対話(文字)記録の一部が『ネルガル』に提供したデ−タの中に混在していたのである。

…この "頭隠して尻隠さず" のようなデ−タを見てしまったアカツキは "LEDA" の事が大変気に入ったようで…

当然アカツキ会長殿は、レディ(?)である "LEDA" のこの行動をすでに見越した上で、彼女に "呼び名" を与えていたのである。



そして "ARU" は… ここまで異常な成長を遂げてしまった彼女に対して …最早、保護者としての責務を放棄するような発言をしてしまう。



「あら、カイト様なら、これくらい笑って許してくれますよ♪ 気にしなくても大丈夫ですわ♪」



すっかりカイトの口癖が移っている。(笑)

この二人(?)のやり取りは、カイトにとってお馴染みのモノなのだが…



「…う〜ん… "ARU" も "LEDA" もボクの大切な "家族" だから…ルリちゃんにはきちんと紹介したかったんだけれど…」



だが、今の彼女には …カイトが言う "家族" の意味が… 何故か "皮肉" にしか聞こえない。



「ユリカさんやラピスにも…ですか?」


「…う〜ん… "LEDA" とラピスちゃんは、もうお友達になっているけど…

でも、こうして二人を … "ボクの家族" として紹介するのは… やっぱり "一番" 最初は…ルリちゃんに…」



カイトの態度は、依然と変わらない。


そして…この "一番" という単語の意味は、彼女にとって最も理解しやすい言葉。


この言葉が耳に入ると …彼女の心の中に届いたおかげで… 少し落ち着きを取り戻せたルリは…



… カイトの瞳を見つめ直す …










… 黒い瞳の輝きは、あの時と少しも変わらない …










…彼の想いは、本当に揺るぎ無いモノなのだと理解(わか)ったルリ。










嫉妬の感情が薄れると、彼女も素直な気持ちになれたようだ。















そしてルリは… 自分のために、カイトが果して来てくれた姿を …ふと思い出す。















… 彼にすくわれた想い …










… ふたりだけの "約束" …










… 大切なモノを教えてくれた …










… だから … 私も彼に教えてあげたい …






















「ごめんなさい… よく考えたら… 私も… ずるい …です…ね…」



「そんなことないと思うけど… ルリちゃんがいるおかげで、ボクは生きてゆけるのだから …」



例え自分がアキトの代わりであっても少しも気になる事はなかった…

カイトにとって… ルリの存在が唯一の希望 …それは、彼女が "自分の存在" を忘れないと伝えてくれたから…



だがそれも、自分だけの想い込みに過ぎないモノだとカイトはどこかで自覚している。

… "諸刃の剣" を意識しながら自分の感情を抑制する "無表情な機械" となる術を、彼はすでに身につけてしまったから …


なぜなら… 記憶喪失のカイトという存在 …彼の無意識の行動… は … 相手に好意をもってもらうためのモノではなく …

… "無表情の機械" ではなく …人の優しさを忘れずに… 自分が人であることを忘れずに …己が "生死の狭間" で生き抜く事を強く願ってきたのだ。




















「いえ… 私 …まだ… カイトさんに …きちんと言葉で伝えていないから…」



ルリが不安になったのは、自分の感情を言葉にしていなかったから…

カイトの迷いはルリの不安でもあるからだった。



「… 言葉は誤解も生みますよ …」



"自分の存在" が、良くも悪くも "人を迷い惑わせてしまうモノ" であるとカイト自身が認識しているから出て来るセリフ。



だから、彼は "永遠の迷題" … 自分が "あるじに忠実な迷仔の仔犬" …であることを、哀しいことに否定することができないのである。



… "人" が望む "幸せの風" は何処へ吹くのかわからないモノ …



… だからそれを "束縛" する事はできないモノ …






























ルリは座席の場所を変えて … ゆっくりと座り直すと … 意を決したように、カイトの黒い瞳を見据える …













































「私… 私も … 貴方が "一番大切な存在" です …」

















カイトと同じ言葉での "告白"















「…うそ?」



初めて自分の想い人の口から零れたモノに、夢ではないかと想ってしまう…


「嘘じゃありません…」


夢を否定する…現実の言葉。



「でも…」



思わず視線を逸らすカイト。


過ぎた想いは無きモノに等しいと言っていたイネス。





「本当です。」





その言葉には力強い響きがあった。



黒い瞳を閉じて、想いを馳せているような無表情。



ルリが伝えたい水色の想い。



戦いの中、迷う想いを余りにも抑制しすぎてしまったため… "ルリが望む本当の想い" も …いつしか見失ってしまっていたのかもしれない…



カイトの軍服に添えて… 胸元を握るルリの手にも力が入った…





「………」





ユリカとアキトとルリとカイト… 再び家族になれて …それが "ルリの幸せ" だと想っていた…



そしてカイトは… もう一度冷静に自分の "予感" を確かめている …










「信じて下さい!」










そしてルリは… 金色の瞳に涙とともに想いを浮べてしまう …










"再会の約束" を果たした時に感じられた "想い" と "予感" が "確信" へと変わる。










"増長" でも "誤解" でも… そして、自分の "天然ボケ" でも無いと …カイトは信じた。


















































「そう… そっか … そうなんだ … ルリちゃんはボクが好き …で… ボクもルリちゃんが大好き …なんだね…」










カイトの懐かしい笑顔と "甘い呼びかけ" に … ゆっくりと頷くルリ。










「…やっぱり、カイトさんって……本当に…… ばか ……なんですね…」










ルリの "一番好きな表情" を見せてくれたカイト。










瞳の中にお互いの "笑顔" が映っている。




















「… ボクの事と大切な想いを覚えていてくれて …… ありがとう …… そのお返しとして、貴女の想いへの感謝の気持ちを …



… 以前ルリちゃんが不思議に想っていたボクなりの応え …… 大人になったら解るって、イネスさんが言っていたから …」




















カイトの囁きは "思い出の詩(うた)"










… ルリを決して忘れることはしない …












詩を思い出せたルリは…










… 白く柔らかな微笑みを浮べてくれた …










… そしてふたりは …






























… 瞳(め)を閉じる …































<私の記録と照合すると… この状況は "あの時と類似させた展開" …と判断いたしますが…>



<仕方ありませんよ… だって、カイト様は… ずっとアキト様とユリカ様の背中を見ていらっしゃったのですから…

ルリ様も異性として、アキト様に憧れていましたし… カイト様も御自身の事を …真面目すぎるほど… "迷仔の仔犬" の存在として悩んでいましたし…>



<貴女が以前、マスタ−の行動を表示した "滅私奉好" の事ですか?>



<ええ…貴方は字が違うと言っていましたが…その表現の方が適切です。

…でも… これでようやく、おふたりは "次のステップ" へと進まれたのですね …… 家族から "次の関係" へ …>



<…それはおかしいですね。 おふたりは既に家族であり、それ以上の関係というのは…>



<そうなんですよ。(笑) アキト様とユリカ様の御結婚で… 本当の家族となれた時点で …カイト様は …

… ルリ様とも … もう結婚されたモノだとお考えになっていたのですよ…>



< "結婚" とは "家族" になる事… 家族となって一緒に …幸せに… 暮らしてゆく事… という意味だけを認識されたのですか…>



<はい♪ "天然" であるカイト様らしい "素敵な結論" です …だから、ようやくこれから…>



<… "恋愛" …ですか… いずれにせよ、私には "理解不能な問題" ですね…>





<これもおそらく …カイト様おひとりでは… "永遠の迷題" …


… でも … ルリ様もカイト様の "想い" を忘れなければ …… いつかはきっと … おふたりで一緒に解いてゆかれるのでしょうね…♪>


















































… "風" は人の想いを運ぶモノ …





… それは … 心の中に浮ぶ "波の音" …





… 彼の表情は … 見る者によって … 異なる色を彩る …





… それは … 眼には見えない "風の色" …





… だから … 彼の "言葉" は "自然" と後からついてくる …
















… そう … "ルリ" だけが "カイト" を知っている …















… "白騎士" が見守る "詩" は "小さな姫" との "祈り" …





… そして … "妖精" と "仔犬" … これからふたりで一緒に歌う "未来" …






























… 『 "Sweet Call" 』 …














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