「テンカワ君、これは君に対する僕の "復讐" だよ。
あの場所で、君がどれだけ "無様" に "苦しむ" のかを見てみたいからねぇ〜
ま、僕としては君が "すぐに逃げてしまう" 方に期待しているのだが…(笑)」
謀議を行なう 『ネルガル』 会長室での秘密会談。
彼に爽やかな笑顔を見せながら… 実に残酷な言葉を …さも面白そうな口調で語るアカツキのセリフ…
…要するに、彼独特の "嫌味" である。
「なンだと〜!!(怒)よ――し、逃げずにやったろうじゃないかっ!!」
昔の(純情な)アキトならば… その挑発を真に受けて …こういう反応をみせたはずなのだが…
「…俺をからかうのか、アカツキ…」
"黒い王子" である彼は… 静かな怒りと憎悪を向けて …こう答えるだろう。
「…本当に、感謝するよ… アカツキ …」
だが… 穏やかな表情でその言葉を …素直に受け入れたアキト。
今はもう…自分一人だけで意地を張ることもない。
… それは、昔の彼とは少し変わった優しい考え …
最早、今の彼は "黒い衣装" を身に纏ってはいなかった。
そう、アキトはもう一度やり直せることを嬉しく想えたのだった。
「あ、そう。 ならば君の義父親(ちちおや)にきちんと挨拶した上で、行った方がいいよ。
ついでに "ラピス君の面倒" も… 彼女が自立するまでは責任をもって
…ちゃ〜んとみるんだよ。」
アカツキのついでのような言葉を聞いたラピスは、嬉しそうな顔でアキトに視線を向ける。
『ネルガル』 が、彼女を手放すのは …損得利益で考えれば… 明らかに "大損"
なのである…
企業経営者である彼にしては、実に "珍妙" で "粋" な計らいである。
アキト達の喜びの反応を眺めて満足?したのか …薄ら笑いを浮かべた… アカツキは
…眼を閉じて… 呟くのだった…
「… ホント … 彼の 『ナデシコ』 というのは …… "ばか" ……
なんだネェ …」
機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−
無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ
――― かつての 『ナデシコ』 に吹いていた "風" ―――
『クリムゾン』 グル−プのオ−ナ−の娘である "シャロン・ウィ−ドリン"
彼女が起こした陰謀は 『ナデシコ C』 の活躍により潰えたのだった。
彼女と連携して叛乱を起こし、"火星の後継者" の再興を図った今回の首謀者
"南雲・義政" も既に身柄を拘束されている。
残存する敵部隊も "クサカベ" "シンジョウ" に次ぐ実力者であった彼を失っては、降伏せざるをえなかったのである。
実際の所、今回の事件の真相について 『ネルガル』 会長の "アカツキ・ナガレ"
は、既に把握してはいたのだが…
その上で『ナデシコ』 部隊に …彼の思惑通りの… "ピエロ" を演じてもらったのだった。
叛乱鎮定直後のアカツキ会長からの(直通)連絡によって、その事実がクル−に発覚したのである。
「僕たち… 一体 …何をやっていたんでしょうね。」
「そう腐るなよ、ハ−リ−。」
… 『ナデシコ C』 艦橋にある自分の席で、その内容を聞いてしまい …ふてくされている真備少尉を、実の兄貴のように(笑)慰めてあげる高杉大尉。
「あ、そうそう。 "お詫び" と言っては何だけれども、君達が戻ってきたら…
… 一つ "面白い事" を教えてあげるから …
…じゃあ、そう言う訳で… 帰って来るのを楽しみに待っているよ♪」
悪戯そうな含み顔を見せた、アカツキの通信の言葉に… 皆、困惑の表情を浮べる。
ただし …それは… 極一部のクル−を除いて…
… プロス… ゴ−ト… エリナ… イネス… セイヤ…
彼の "決断" が自分たちにとっても喜ばしいモノとなったので… この五人は
…内心、ホッとしたようだった。
"テンカワ・アキト" が 『ナデシコ』 の下(もと)に帰ってきた。
"火星の後継者" の残党も、今は復興の望みを絶たれた。
そして 『ネルガル』 が "アキトの犯した罪" をすべて "偽装"
したので、かつての "黒い王子" 事件の真実は、闇に葬られたのだった。
「アキト! アキトなんだね … 本当によかった … 」
「今迄… ごめんな … ユリカ … 」
ユリカは … 店の扉を開けてアキトを確認すると … 真っ先に彼の胸の中へと飛び込んでいった。
そして彼女を優しく受け止める… 艶やかな長い髪を愛(いと)しそうに撫でてあげた
…アキト。
アキトは 『天河食堂』 の店主となって、ユリカ達が 『ナデシコ C』 から戻って来るのを待っていたのだった。
… 待たせてしまった分、帰って来れる場所をオレが作って、待っていてあげなきゃ
…
アキトの瞳は、昔の輝きを取り戻していた。
… そう、失ってしまった五感と共に …
自分が犯した罪を忘れてしまったのではない。
アキトはすべて受け止めた上で、自分の "未来" をもう一度選んだのだ。
… たとえ、世界を間違えてしまったとしても …
これ以上 "悲しみ" や "憎しみ" を増やすことより、残されたみんなが
"幸せ" になれる道を探す事にした。
今の自分ができる力の限り… 愛する "ユリカ" を見失うこと無く…
それを自分の "罰" として、自らの "業" を乗り越えてゆくことに決めたのだ。
…そして 『ナデシコ』 は再び、かつての仲間を取り戻してゆく …
「お前一人で苦しむんじゃないぞ、アキト。 俺は、俺様を必要としてくれる "友"
のためならば、喜んで力を貸すからな!」
昔ながらの男気を、セイヤは熱い口調でアキトに語った。
「アキト… アンタの "腕" が鈍っていないか、今日は確かめさせてもらうからね。」
どうやらホウメイは、久し振りのアキトの手料理が楽しみのようだ。
「まったくオメエってヤツは、"心配" ばかりかけやがって… ホント、しょ〜がねェンだから…」
パイロットの中で、一番アキトを心配していたリョ−コ。
「リョ−コったら、まだ "アキト君" のことあきらめていなかったの?」
ヒカルは、彼女の頬が赤くなっていたことを見逃さなかった。
「サブ(同様者)も "報われない愛" を選んだのね…」
イズミはイズミで、リョ−コをからかう。
二人の態度とセリフを聞いて… 当然 …切れるリョ−コ。
「それって、昔の "誰かさん" のことかしら… うふふっ♪」
少し意地悪そうなお姉さん顔のミナト。
「ミ…ミナトさんっ!!」
彼女の視線が、ユリカと自分に向けられていたので、ジュンは慌てて抗議しようとしたのだが…
「だめよ! ジュンちゃん… もしも "不倫" しようと想ったりなんかしたら
……貴方を殺してアタシも死んでやるんだからっ!!」
怒りを露(あらわ)に見せると、今度は …唐突に… 演技かかったように泣き出すユキナ。
「ばっばか!! ユキナちゃんまで、何をいうんだよ!」
…ジュンの顔は "真っ赤なトマト" と化していた…(笑)
「ホント… この "ノリ" って進歩ないのね。」
その様子を伺ったエリナは、呆れながらも笑ってしまう。
「そうね… "ルリちゃん" がいたら、きっというでしょうね。」
イネスもエリナの意見に賛同している。
「 "バカ" ばっか…か。」
そういうゴ−トの頬は薄く染まっている。
…彼にとっても、密かに "お気に入りの名セリフ" なのだろう。
「そうですなぁ… "昔の良き日々" を時々思い出しながら進んでゆくのも、決して
"悪いモノ" ではないんでしょうな…」
温和な表情で …ゴ−トの呟きに… 同感するプロス。
"望郷の想い" を敢えて捨て去る必要はないのだと語っているようだ。
…アキトの店(居場所)の中で、思い想いに語ってくれている仲間達の会話…
「アキト …シアワセ?」
今はもう… 精神を同調していないアキトの … "優しい横顔" に、ラピスは声をかけた。
彼女のその言葉に思わず微笑んでしまうアキト。
すると隣に並んで立っていたユリカが … ラピスをぎゅっと抱きしめる …
「これからだよ、ラピスちゃん。 ユリカとアキトとみんな一緒で "幸せ"
になるの♪」
いきなり抱き着かれて、きょとん… としてしまうラピス。
不思議と悪い気持ちはしなかったようだ。
… "瑠璃色の微笑み" を "彼女" は浮べている …
アキトは、決して自分一人ではないと気づいてくれた …
彼の存在は、すべて 『ナデシコ』 の仲間達が今も認めている。
彼の想いを、みんなですくってあげることもできるのだから …
『ナデシコ C』 艦長 "ホシノ・ルリ" 少佐。
先の "事件" の処理を済ませて、これからようやく会いに行く事ができた。
副長補佐の "マキビ・ハリ" 少尉が、事件の詳細を "報告書"
として既にまとめていたおかげである。
ミスマル提督への口頭報告を済ませるだけで、すぐに外出許可がでたのだった。
以前 "黒い王子" 事件の後にも、彼はこうした気遣いを "健気"
にみせたのだが…
この時の文章内容は "報告書" ではなく、なぜか "恋文"
となってしまったのである。(笑)
「ハ−リ−君 … ありがとう …」
ルリの …滅多に見ることができない… 満面の微笑み。
「い…いえ、ボ・僕は… 艦長 …を補佐するのが役目なので… と…当〜然のことをしたまでの事ですから…
あはっ♪… あはははっ…」
こんなにも "憧れの女性" に喜ばれて …体温上昇…顔面赤化…動悸…息切れ…目眩…気が動転…
照れる想いを慌てたように言い繕うハ−リ−君♪
実の所、今回に限っては "艦長(新人の候補生) を補佐する役目"
は "ルリ" の方であった。
だが、彼女をあまりにも "艦長" として …盲目的に… 捕らえすぎていたハ−リ−は、その事実をすっかり忘れていたのだ。
「ハ−リ− … 艦長なら、もういないぞ!」
どうやらルリは、ハ−リ−の言葉を待たずに立ち去ってしまったようだ。
隣にいたサブロウタは、彼のうろたえぶりがあまりも滑稽にみえたのだろう。
そんな真備少尉へ …少し哀れむような顔をしながら… 実に面白そうに状況を教える高杉大尉。
「えっ!? あ、あれ? か・艦長〜〜!!」
その言葉で、ようやく現実に戻れたようだ。 … 慌てて周囲を確認する。
やれやれ… といった表情で、ハ−リ−の背中を叩くサブロウタ。
「ほら、俺達も急いでいくぞ! しっかり "艦長" の後を追っかけなきゃな、ハ〜リ−君!(笑)」
二人と合流し 『天河食堂』 へ向かう車の中で、ルリは、よく晴れた夕空(そら)を見つめていた。
彼女の "金色(きんいろ)の瞳" も、その輝きを増している。
… あの人は私の大切な人だから …
… 今迄生きていてくれたのだから …
… 大丈夫 … あの人とは また 必ず逢える … と信じていたのだから …
逸る気持ちと高ぶる期待感で、張り裂けそうになる心を、ルリは落ち着かせようとしていた…
ルリは … 店の扉を開けてアキトを確認すると … 真っ先に彼の胸の中へと飛び込んでいった。
「アキトさん!」
「お帰り、ルリちゃん … それから、本当にゴメン …」
「いえ…私の方こそごめんなさい…」
二人とも、先程のユリカと同じ反応をみせたのであった。
ユリカは …その姿をみて… 心からの笑顔を見せると、思わず涙ぐんでしまう。
そして、周りにいる 『ナデシコ』 のメンツは、それを見て一斉に囃(はや)し立てたのだった。
… ただ一人 … 入り口の所で … 呆然と石化している … ハ−リ−を除いて …
少し落ち着いて冷静さを取り戻したルリ。
安心したものの、なぜか "違和感" を感じた。
彼女の視線は、店内を見渡しているようだった。
不意に、ルリの笑顔が曇る。
そして、アキトに尋ねる。
「…あの…… "カイト" さんは …」
その人物の所在をアキトに確認する。
すると… ルリを見下ろすアキトの瞳が …不意に曇る。
…周りの者は二人の会話に気づかず… 相変わらず賑やかな盛り上がりをみせて
…騒いでいるのだが…
アキトの応える響きだけに重苦しさが漂う。
「… ゴメンね …… ルリちゃん …」