機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



――― それぞれ出逢う "風の色" ―――





… "電子の妖精" ホシノ・ルリ …






「… かくして、火星中域のすべての敵は … ルリちゃんによって、システムを掌握された …」



他の追随を許さない彼女の "電子戦能力" によって敵を制圧してゆく状況を眺めると、イネスは説明を漏らした。


極冠遺跡上に 『ナデシコ C』 がボソンアウトした時点で "火星の後継者" の叛乱に、最早勝ち目は無かった。



「… 私は、地球連合軍所属 『ナデシコ C』 艦長の "ホシノ・ルリ" です …… 元木連中将 "クサカベ・ハルキ" …… あなたを逮捕します。」



叛乱の首謀者に向かって淡々と告げるその姿に、かつてプロスペクタ−が懸念した不安要素は少しも見当たらなかった。


そして… 草壁が "己の理想" を潔く断念したことで … 今 … ひとつの戦いが終息を迎える。





「身体の方は、大丈夫か?」

「ええ…でも、やっぱり戦艦一隻を火星まで跳ばすのは堪えたわね…」

「そうか…」



『ナデシコ C』をボソンジャンプさせるための …艦内にある… ナビゲ−ションル−ムでの会話。

A級ジャンパ−であるイネスの力と、整備士であるセイヤの助力が、独立 『ナデシコ』 部隊勝利の "陰(かげ)の功労" となった。



「… "新たなる秩序" か…」



草壁の理想は、イネスが理解する許容範囲内にある。

感銘は受けるモノの、特に彼女の意思を揺るがすモノでもなかった。



「ま、言いたい事は認めてやるが… だからといってそれを一方的に押し付けられるのは、俺はゴメンだな…」

「貴方にしては少し珍しい感想… ねぇ… もしかして、"彼" と逢ったの?」



束縛される事を嫌うセイヤらしい反応でもあるのだが、イネスは彼の言葉の中に別の存在を察した。



「ああ… 相変わらずの "ボケ顔" が見れたンで、一先ず安心したんだが…」



暗黙で彼もそれを認める。 敢えて名前を挙げる必要は無かったようだ。



「知ってたの?」


「いや… 久しぶりに話をしたら、何となくそう見えたのさ… 本来の "飼い主" と離れてまで『ネルガル』にいるのがど〜も引っかかって…

それにどっちかっつ〜と、アイツは裏方作業を好んでやるしな… なにせ、自分よりも周りの事(気持ち)ばかり考える… お人好しの寂しがり屋 …

嬉しい気持ちをすぐ顔に出すから、嘘をつくのが下手なヤツとくれば…(笑)… ま、一応アイツの "父親" としては …不思議と気づいちまうんだよなぁ〜」




セイヤの回答は、カイトの素性を既に見つけている。

彼にとって、カイトがどんなことをやらかしてしまったとしても "可愛い仔犬で息子" のような存在でしかない。



「彼… "生きる" ことに "懸命" になりすぎている… 」



『連合宇宙軍地下ジャンプ実験ド−ム』 で会った時の会話で感じた、今のカイトの印象。



「… 誰だって死にたかないんだし… 家族のためならば! …って、一所懸命になっているのさ…

そういうヤツだから "ルリルリ" を一番大切に想うんだろ… アイツらしくて善い事じゃネ〜か。(笑)」


「どうかしら… 必ずしも良い事では無いと思うの… 過ぎるモノと及ばないモノには紙一重という意味もある。

あまりにも強過ぎてしまうことは… その結果として、彼自身を滅ぼすという危険が伴う事になる… それは存在だけでなく、その想いでさえも…」


「ほう、あんたにしては珍しいな… その心配するような口調 …まるでアイツの "母親" のような言い方みたいだぜ。」



イネスの口振りが普段の彼女らしくないと感じたセイヤ。



「ふふっ… "父親" が3人いるんだもの… "母親" だって3人いても別に可笑しくはないわ。(笑)」


「おいおい… 一体どうゆう理屈なんだよ、それって…」



彼の父親に該当する人物なら解るセイヤ。 … ミスマル提督 … と … 悪友のシゲ …


だが、イネスは穏やかに笑いながらセイヤの問いを誤魔化すのである。





「…あれほど穏やかな気持ちで "人" に影響を与えることができる存在なんて… 本当に不思議な仔 …」




















「… あなたは … 誰? … 私は "ルリ" …… これは、お友達の 『オモイカネ』 … あなたは …」


「… "ラピス" …… "ラピス・ラズリ" … 『ネルガル』 の研究所で生まれた ………


… 私は … "アキトの目" … "アキトの耳" … "アキトの手" … "アキトの足" … "アキトの" … "アキト" …」





ルリは、火星中域のシステムを掌握してゆくと、一人の少女と出逢う。



どこか昔の自分と似ているその存在。



昔の自分を鏡で見ている感覚を覚える。





… そして、ふたりは意識を同調させた …





… まるで母親の体内で眠っている赤児のような私 …

… そう此処は "羊水" という名の水の中 …

… 私はそこで無意識に安らぎを感じていた …

… でも、突然それは外から奪われてしまった …

… 暗黒の到来 … 底知れぬ不快なモノ … 突如感じた無(死)への恐怖 …


… 笠を目深くし … 表情を伺い知れない … 七つの影 … 狂気を秘める闇の者が、私の心の扉を壊した …



… ただ … 不気味に笑うモノ … 爬虫類 … の眼に睨まれて … 竦みあがってしまった …





「ククッ … 人の技にて生み出されし "金色(こんじき)の瞳" … "人無らざるモノ" … "人形" よ … 汝は我が栄光ある研究の礎として …」



首領格の男が… 獲物を前にして …舌なめずりを交えて語っていると…


「グッ!!」


右隣に居た部下の一人 … 旋風(せんぷう)… の左腕に、突如 "銃弾" が打ち込まれた!

音も無く唐突に忍び寄っていた新たな影を、各々一斉に散開して確認する。


「!?」

「何奴!」

「 "疾風ッ"!」


― 一人動ずる事無く、首領 "北辰" の号令 ―


「キェェ―――ッ」


― 即座に部下の一人が反応すると、奇声をあげて突如駆け出す ―


… 無言のまま … 半身構えのまま身動きもしない … 具現化した "邪魔モノ" を抹殺するため …


― "疾風(はやて)" のような "暗黒の刃" が、その "黒いモノ" と交差する瞬間 ―


「ガッ!?…ウグッ…」


… 流れを止められた "疾風(しっぷう)" の右脇腹に肘打が突き刺さっていた …










― それは … 神速の如き … 一陣の "風" ―





― まるで … "闇の機械" といえる … 精密な合気 ―












突然現れた "闇を纏うモノ" は… 依然 "北辰" のみに敵意を向けている…





その尋常ならざる動きを見せた "黒装束の男"





… 我を "故意に" 狙わず … 旋風と疾風を殺めず … 虚に動ずることのない見事な手際を魅せる … "人為らざるモノ" …





… 北辰は "男の正体" を見極めていた …




















「… その動き… クククッ…そうか、貴様が "風の旅人" なのだな……いや、『ネルガル』 の "犬" か(皮肉)…」





ようやく逢えた "伝説" と "謎" に、北辰は狂喜する。





「… 今は … お互い "表舞台(光の世界)" に出る必要はない …… いずれ "闇" は … ただ … "無" に帰(き)すべきモノ …」





男はその応えを "感情のない響き" で返した。





それが北辰のもつ "狂喜なる心の琴線" を更に揺らす。





「フンッ… なかなか "賢しい事" をほざくのだな… "小僧" …よかろう… 貴様と逢う楽しみとして … この場は大人しく引いてやろう …」



… "淡き妖精" を預けてみるのも一興 …






暗い愉悦感に浸る北辰。





「 … また逢おう … "風の旅人" … 」







そして、恐怖を齎す影七つ… "暗闇の風" が吹くように音も無く "虚空" へと消えていった…





ただ一つ、その場に残されたモノ…





… 黒いバイザ−に隠れた視線を "虚空" へ向けながら … "男" は "闇の世界" へと囁いた …










……… いずれ解る …… "人の執念" …… それが貴方の "業敵" ………




















「…あ… う… う…」





突然襲った凶事の中 … ただ … 恐怖に脅えて … 震える事しか出来なかった … "淡き妖精"



…… 辺りは一面 "血の海" と化していた ……



不意に … ゆっくりと歩み寄って来る "黒い男" …



彼が羽織っていた闇色のマントが … 身体を包み込んだ。



… 不思議と恐くはなかった …



… バイザ−を取ると温和な幼顔 …



彼は膝をついて私(ラピス)と同じ目線となる。



… そして … 柔らかな視線と穏やかな声で … ラピス(ルリ)に囁く …















「 … 大丈夫だよ … 貴女は … 無事ですよ … 生きているんです … 」

















それは … あの時と少しも変わらない … "少年" の底知れぬ優しさ …





…… その微笑みは …… "生命への賛歌" と "喜び" の顔 ……





「!?」







… その時、心に浮んだ "感覚" …





… 不思議な "暖かさ" が感じられた "モノ" …





… 私達は、そのまま "意識" が "闇" へと落ちていく事に … なぜか … "不安" を感じる事はなかった …















―――― "KAITO" ――――

















「…決着をつける…」


「…ラピスの事は気にしないでください…」


「…余計な世話だ…もう…何も言う必要は無い…」





"ブラックサレナ" に乗り込むアキト。

今の彼は …怒りと憎しみの力… 命を賭けた己の執念 … によって "業敵" を倒す。

おそらく、艦に帰る事など考えてもいないのだろう。


たとえ、己の身を滅ぼしても… 相打ちになろうとも… 捨て身となって "北辰" を滅する信念。


『アマテラス』での奪還に失敗した事で、"火星の後継者" の蜂起を見す見す許してしまい、草壁の大攻勢も早める事となってしまった。

すでに自分の墓前で …改めて… 自分自身の別れを告げたアキト。

北辰をおびき寄せる事ができたものの、そこでも決着をつける事はできなかった。

計画通りとはいえ、『ナデシコ C』によって叛乱を鎮圧した(ユリカを救う望みが叶った)事が …皮肉にも… アキトの執念を確固たるモノとしてしまったのだった。





復讐の想いに支配されたアキトを、過去の自分と重ねるカイト。

それを無理に止める事は、彼の存在(自我)をすべて否定してしまうことだから…


… 今のカイトにできる事は …ただ… 見送り … 見守り … 願い … アキトの "本当の願い" を信じること …


… だから … アキトの背中へ … カイトは囁く …





「…いってらっしゃい……… アキト兄さん …」










「ジャンプによる奇襲は "諸刃の剣" 『アマテラス』 がやられた時… 我々の勝ちは "五分と五分"


地球側に… いや… あの "小賢しきモノ" の "挑発" に見事に惑わされてしまった時点で我々の勝ちは…」





"夜天光" コクピット内で …無表情に… 前を見据える北辰。





…彼の狂気が求めたモノは …冷静にて残酷なる機械…



… 人である事を捨て去り死モノ…



… 人形 …



突如前方に現れてくれた "待ち人達"





「復讐人…いや "人の執念" … 結着をつけよう…」



『ユ−チャリス』 先頭部より断ち放たれた… アキトの "ブラックサレナ(黒百合)" と 『 清らかな心 』





―― 互いが己の信ずる道と、それを妨げるモノ ――










―― 現し世に残され死モノは、どちらなのだろうか ――










―― 無に帰すべき闇は、果してどちらなのだろうか ――



































「… 見事だ …」











"夜天光" 地に墜ち、北辰は無に帰る。



復讐は見事に果された…

そして "黒百合の花" が散ってゆく …

彼の黒い心を守る鎧は最早無かった…

生まれ育った "火星の大地" に立ちつくすアキト…



… 彼が求めた狂気 … その果てに残ったモノとは何だったのだろうか …





… アキトが本当に望んだモノとは何だったのだろうか …










……… そして "白百合の花" が開く ………







幸せな夢を見ていた彼女…





明るい "夢の世界" から …暗い… 哀しい "現実の世界" へと戻されてしまう。





「…あれぇ… みんな … フケたね ……… ねぇ …… アキトは … どこ? …」





…ユリカの望んでいた幸せの王子様は、彼女が意識を取り戻す前にその場から立ち去ってしまった…



"黒い王子" は、幸せに眠る "白雪姫" を目覚めさせたくはなかったのかもしれない…



そう… 彼女に "闇の現実" を見せ付ける事ができなかった…










… そして … 『ユ−チャリス』 は… 火星上空へと起(た)ちあがり … "時空跳躍" で消え去った …





「これからどうすんだよ… あいつ …」





上空を見上げながら、アキトをせつなげに見送ったリョ−コ。





… もう、オレたちの下(もと)には帰ってこないのかよ …





「 帰ってきますよ。」







『ナデシコ』 の仲間と少し離れた所に立っていたルリは… リョ−コの想いを汲み取るように …呟いた。





「 帰ってこなかったら、追いかけるまでです … だって、あの人は … 」





"ルリ" の "大切な思い出"





… あの人たちは …





"ルリ" との "大切な約束"







… "信じる想い" を表情に浮べた … ルリは … 立ち止まる人たちへと振り向いた …










「 あの人は "大切な人" だから!(微笑み)」














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