機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−
無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ
――― 信じている 〜守りたいモノ〜 ―――
さん
にぃ
いち
どか―――ん!!
「 なぜなに 『 ナデシコ 』 」
「こんにちは、お久し振り、初めまして…『ナデシコ』 医療班並びに科学班担当の
"イネス・フレサンジュ" です。」
『ナデシコ C』 の会議室にベレ−帽ををかぶって挨拶をする説明お○さんの声が明るく響く。
あまりにも当たり前のようで朗らかに解説するその姿に… 席に着いて観ているクル−達は
…皆、困惑している。
「しつも〜ん。」
イネスの説明を遮るように何気なく手を上げるルリ。 皆を代表して意見を述べる。
「イネスさん… あんた、死んだはずじゃなかったの?」
その言いようは、至って薄情… 生きていてくれて良かった … という気持ちの欠片もなかった。
するとリョ−コや皆もようやく騒ぎ始める。
… どうやら全員 …イネスの事を今は亡き思い出の人として認識しているようだ。
「今度は僕が説明しよう!」
一瞬戸惑った本人に替って、イネスが説明に使っていたボ−ドにウィンドウが現れる。
どうやらメイク中の『ネルガル』会長殿は、登場するタイミングを見計らっていたようだ。
「あ、落ち目の女たらし…」
悪友にもいわれた皮肉の言葉を …つい思い出して… 笑ってしまうアカツキ会長。
「要は、アレだね… "敵を欺くには、先ず味方から" …ってヤツ♪」
実に楽しそうに話を続けるアカツキ。
「ほらほら、テンカワ君も艦長もさらわれちゃったんでねぇ… 一番有効な方法
…という事で、戸籍上死んでもらったワケ。」
… 悪役を呑気に演じるのは、やはり僕の性に合っているのかもしれない …
ミナトはそんなアカツキの口調に不愉快さを顔に出す。
ユキナは、ふとルリの表情を伺ってしまう。
アカツキの … 理屈は解る … 言葉を聞いているうちに、ルリは次第に思い詰めた表情となってゆく。
そして、不意に顔を上げた。
「… ふたつ …質問してもいいですか?」
「何だい?」
ルリは …本当の質問をする前に… 先ず確認をする。
「一体、アカツキさんって…イイ者なんですか? それとも、悪者なんですか?」
「相変わらずキツイなぁ〜君は…あっ、キャッチが入っちゃった…じゃ!」
笑いながらルリの毒舌を流してしまう…そして、アカツキは質問に答える事無く、一方的に通信を切ってしまった。
「あんなヤツの言う事を気にしたらダメよ、ルリルリ!」
ミナトは、悪ふざけの過ぎるアカツキの態度が気に入らなかった。
三回忌に再会したアキトに対してもそうだったが、ルリの気持ちを思い遣る言葉が無いからだった。
「大丈夫です。 ミナトさんの言う通り、この後の任務遂行に集中しましょう。」
「そう…そうね。 ルリルリがそう言えるのなら…成功は間違いないわ♪」
お互いの表情が和らぐ。
「でも、ルリ。 あんた質問がふたつあるって、さっきは言っていたけど?」
ルリの言葉をユキナは注意深く聞いて覚えていたようだ。
「ええ。 でも、もう解りましたから…」
「え… でも…」
「大丈夫ですよ…」
そういうルリの表情にはもう、不安の影色は無くなっていた。
ユキナは… ルリの本当に質問したかったことが何だったのか …凡その見当がついていたので、心配して尋ねたのだが…
今のルリは、あの時と… ミナトの家を離れた時と …同じ顔をしている事に気づいてしまう。
「わかったわ。 じゃあ、必ずあの時の "約束" は果してちょ−だいね!
絶対だよっ!!」
その勢い口調にたじろぐ事無く …ふと… 懐かしさを感じたルリは、優しい表情でユキナに応えた。
「…はい… …そうしますね…」
会議室からブリッジへ向かうルリ。
口では答えて貰えなかったが、疑問は不思議と解決できた。
… 非科学的な事は、あまり認めたくはないけれど …
自分の予感は信じたい…と想っていた。
ほんの一瞬だけ、彼の眼が優しく笑ってくれたから。
その瞳が… あの人と同じだと …教えてくれたから、ルリには解った…
… あの人の言葉 … "本当の想い" … は、確かなモノとなった …
…… 生きてさえいれば、また逢える … と ……
… そう … 貴方は、私が思わず拒否してしまったモノをすべて受け入れて …
…… 今でもどこかで見守ってくれているんですね ……
… だから … 今の私は、迷わずに自分のすべき事に専念します …
……… カイトさん ………
「… ルリちゃん …」
「どうかしましたか? カイト様…」
「あ …いや、何でもないよ。 そのまま処理をつづけてね… "LEDA"
」
「 "Yes、マスタ−♪" 」
『ユ−チャリス』 の格納庫内に収容されている "ウィングライダ−"
コクピットハッチは解放されている。
『ユ−チャリス』 の制御システムには一切接続せずに、"LEDA"
システムだけで情報処理を行なっていた。
結局 "LEDA" がブラックボックス化したデ−タを、すべて解明することはできなかったが…
カイトにとっては…こうして自分に "協力" してくれるだけで最早充分であった。
少しボ−ッとしていたカイト。
すると、艦の主達から声をかけられた。
何時の間にか戻って来たようだ。
「…カイト…イツモノ……ボケボケ…コイヌ…モ−ド……」
コクピットに近づき… カイトの様子を覗き込みながら …無表情な声で呟く薄桃髪の少女。
「ああ… お帰りなさい、ラピスちゃん♪」
「おかえりなさいませ、ラピス様♪」
「…タダイマ…」
穏やかに微笑むカイトと、優しい声で迎える "LEDA"
ラピスは表情を変えることは今はできない。
「カイト… ヤツの動きは、正確に把握できているのか?」
格納庫の床の上に立つ黒装束の男の声。
それは …静かに怒りと憎しみとが… 地の底から響いてくるような声。
「 『ナデシコ C』 の単独でのボソンジャンプが成功した今、目的地点が確実となりました。
アキトさんの望む場所に誘導する事もできます。」
「ならば、ヤツの出現する場所へ行く…」
「…では、追いかけます…」
アキトの言う事に反論する事も無く、適切に対応までするカイト。
カイトの行動は、まるでアキトの "復讐" を忠実にサポ−トする機械のようだった。
そう、カイトの顔は "無表情な機械" となっている。
カイトの専用機は、アキトとは対となる "光輝く純白の機体"
だが、その主はアキトと同じ "黒い闇の機械" と化しているのだろうか。
オペレ−タ−席に着いたラピスは、金色(こんじき)の瞳を閉じながら……
…… 無意識に囁く ……
「……カイト………バカ……」