機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−
無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ
――― 『ナデシコ』 に集うモノ ―――
―― 連合宇宙軍ビル本館にある、提督のオフィス内 ――
「 『ナデシコ Cぃ〜』 ?」
「そう、三代目の 『ナデシコ』 … "A・B・C" の "C" …現在 『ネルガル』 の月ドッグにおいて、最終チェック中だ。」
「君達は "独立 『ナデシコ』 部隊" として、【 遺跡奪還 】 の極秘任務に当たってほしい。」
ルリ・サブロウタ・ハ−リ−の三人は、ミスマル提督と秋山少将から今回の任務についての説明を受けていた。
「…じゃあ、正規の軍人さんは使わない方がいいですね…」
この時ルリは、ふと昔の 『ナデシコ』 の顔を思い出していた。
―― 公園 ――
「……というわけで、私供がお手伝いすることになりました。」
「 "プロスペクタ−" ??」
「本名ですか?」
「いやいや、"ペンネ−ム" みたいなもんでして…」
サブロウタと名刺を受取ったハ−リ−の質問に、飄々とした感じで答えるプロス。
「……歴史は、また繰り返す。 ま、ちょっとした "同窓会" みたいなもんですかな……」
「……はい……」
プロスの言葉に懐かしさを覚えるルリの返答。
サブロウタとハ−リ−は、二人の会話の流れに気づいて、思わずルリの顔を見てしまう。
「ま〜それにしてもルリさん、お久し振りぶりですね〜」
「…ええ…ホントウに……」
例年よりも早く梅雨明けした、日差しが眩しい6月の青空が広がっている。
「そういえば、プロスペクタ−さん。 『ネルガル』 の "会長室秘書課"
と書いてありますけど…」
もらった名刺にかかれてあるプロスの肩書きを見て、ふとハ−リ−は……
…優しい雰囲気をもった…
…ある人物の事を思い出した。
「 "カイトさん" って、今どうしているんですか?」
「!?」
ドキッ、とするルリ。
サブロウタも、懐かしそうな顔でプロスに尋ねた。
「そういや、あいつ。 元気にやっているンですか?」
「ええ。 相変わらずお元気ですよ。 まぁ、私も最近は御会いしてはいないのですが……」
カイトが 『ナデシコ B』 から離れて、もう一年半が過ぎていた。
離れた最初の頃は、ルリもカイトも連絡を取っていたのだが… 御互いの仕事が忙しくなるにつれて
…いつのまにか疎遠となってしまった。
彼の事を忘れてしまったわけではない。
お互い迷わずに、もう一度進むべき道を確かめようと決めたのだから。
…… あの人とは、必ず逢える …… そう信じているから ……
少し自分の思いに耽ってしまったルリに、プロスが穏やかな笑顔で声をかけた。
「ルリさん、彼からの伝言を御預かりしておりますよ……
『 生きてさえいれば、きっと逢えるから、待っていて欲しい 』 ……と。」
「お〜っ! カイトのヤツも、なかなか洒落た事を言うじゃないか♪ こりゃ、ハ−リ−の負けかな?」
「な・な・なんですか、それはっ!! 僕は……(顔赤)」
サブロウタにからかわれても… 隣にルリが居ては …何を言えばいいか分からず、ハ−リ−は顔を赤くしてしまう。
その様子をみても、ルリはいつも通りの表情であったが、彼女の視線は別のところにあった。
……… カイトさんの伝言は、離れた時の言葉と全く変わっていなかった ………
… それは … あの人が … あの時と同じ "想い" を、今でも失(な)くしてはいない
… と … 私には解る …
……… でも …… やっぱり …… 逢いたいときに逢えないのは ………… 寂しい
……
―― 『日々平穏』 ――
"コ〜ンッ"
かつての仲間との挨拶の音。
「何に乾杯なのかねェ?」
「久し振りの再会と、"ハ−リ−" くんに。(笑)」
そう言った二人はお互いの顔を見て、笑い出した。
ふと、ホウメイは遠くを見ながら、ミナトに話し掛ける。
「あんたも乗るのかい。 『ナデシコ C』 にさ。」
ミナトもホウメイと同じように、遠くを見ていた。
「…そうだね。 プロスさんから連絡をもらった時は… ルリルリの様子だけ見て、帰っちゃおうかと思ったけど……」
そう言ってから、ミナトの表情は曇ってしまう。
「…あの子見てたら、そうも言ってらんない……」
「……そうだね……」
ホウメイも気づいてはいた。 ルリが店に来た時から。
「かなり無理してる。 ……顔には出してないけどね……
… "艦長としての責任" … "任務の遂行" …そして… "敵は、強い"
……」
ルリが表情に出さなくても、ホウメイにはよく解っていた。
「こういう時に、あの子も "ほげ−っ" とできればねぇ……」
ミナトは、今はいない女性の顔を思い浮かべている。
「艦長かい? …それとも…?」
「あはっ(笑) … "あの仔も" そうだったわね♪…」
昔の 『ナデシコ』 の艦長と…
その後を元気に追いかけていた… "可愛い義弟" を二人は思い浮かべていた。
「そうそう。 あの仔って、ウチに来てもあんな感じだったのよ。 …まぁ、追っかける対象が
"ルリルリ" になってはいたけど。(笑)」
それを聞いたホウメイは、さもおかしそうに笑い出してしまう。
「あっははははっ! まったく、あの仔らしいよ…ホントに…」
「私やユキナにも、甘えて欲しかったんだけど… やっぱり "飼い主"
の方がいいんでしょうねぇ〜 ふふふっ♪」
ミナトも、彼のことを思い出すと面白くてたまらないようだ。
あの時一番つらかったのは間違いなく、ルリと彼だった。 …二人の心の支えを同時に失ってしまったから…
けれども、その悲しみに立ち止まってしまったルリを、再び前に歩かせたのは……迷仔の彼だった。
「…プロスさんから聞いたんだけど…彼…ルリルリの側には、今はいないんだって……
… ルリルリが一番大変な時だっていうのに …ホント、なにをやっているのかしら……」
ミナトのその言い方は、今のルリにとって一番 "大切なモノ" が何であるかが、良く解っているようだった。
それを聞いたホウメイは、昔の自分が彼に言ってやった言葉を思い出す。
「あの仔はきっと、ルリのことを見守ってやっているんだよ。 …あの仔がルリの側に居ないのは、お互いに信じあっているからさ。」
突然のホウメイの言葉に、ふと…ミナトも、納得したような柔らかな顔になった。
「そっか…… あの仔たちも、信じあっているのね……」
かつて愛する者を失った彼女だから、解る事ができたのかもしれない。
――― … あの人が捜し続けて、いつか見つける答えを …… 私は待っているのかもしれない
… ―――
――― … あの人が捜し続けて、きっと見つかる答えが …… 私が望む "大切な想い"
と同じモノだと … ―――
ルリは、カイトを信じている自分の心にそう理由をつけていた。
「…かんちょお…」
ルリの左肩にもたれながら安らかな寝息をたてている弟を見て、微笑んだ。
… あの時の自分は … 彼の優しさに頼ることしかできなかった …
… 彼は … いつも自分が進む方向に迷っていた …
… そんな彼を私が導いてあげようと思ったこともあった …
… そうすれば … 彼といつまでも一緒にいられると思ったから …
… でも … それは私の思い違い … あの人は … そんなことを望んではいなかった
…
… あの人は … 自分が迷仔になってしまっても … 必ず自分で見つけていたから
…
… 自分の大切なモノを …
… いつかあの人と … 一緒に大切なモノを … 見守り続けたい …
… そのためには … 私も自分で前に進んでいきたい …
…… 守られるだけでなく … 誰かに頼られた時に … その望みをすくってあげることができれば
……
カイトの事を思い出すと、ルリは不思議と勇気が出て来る。
少なくとも今の自分は、ハ−リ−には頼られていたから………
「 !? 」
不意に正面の窓に黒い人影を捕らえる。
…男は自分を見て、確かに笑った…
その微笑みは、昔の彼とは違っている。
――― ……ていたの?…… ―――