機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



―― ふたりで見つける場所へ (前編)――





「あ! "ス−パ−・佐藤" のお肉が、特売になってる♪」


遥家の居間で…特売広告を目にした…カイトは、早速夕食の献立を考える。

冷蔵庫の中身と昨日までの夕食のメニュ−を考慮した結果…


どうやら今日は、"チキンライス" と "卵ス−プ" と "和風サラダ" にしようと決めたようだ。

…ルリの好物でもあるから…と、結論して。


午前中に庭の掃除をして、先程少し遅い昼食…冷や素麺(そうめん)…を済ませて、今は一息ついていた。


「ミナトさんから預かったお金は…よし! なんとかできそうだ♪」


カイトは預かったカ−ドの残額を確認すると、玄関から走り出して…


元気良く…目的地へと向かった。





夏の日差しが眩しい 『オオイソ・シティ』


ルリとカイトは、この街にある "ハルカ・ミナト" の家に居候をしていた。










あの日…空港での悲劇があった後…

家に帰ると…いつもの狭い四畳半の部屋が、いやに広く感じられた。

そして、その空間の中で、二度と帰らない家族を待つのはあまりにもつらかった。


カイトの実家…御統家で葬儀を行い、しばらくはルリも滞在していたが、親愛する人の部屋がある家に居る事もルリにとってはつらかった。


そんな中、かつての 『ナデシコ』 の仲間達に…アキトとユリカの形見分けとして…

二人の名前が入った屋台のドンブリを渡した時に、ミナトがルリに自分の家に来るよう誘ってくれたのだ。


ルリはどうすればよいか迷っていた。


すると、カイトがルリに 「一緒にいこうか?」 と笑顔でいうと……


そのままルリも…不思議と…了解したのである。


環境を変えておたがい気持ちを変えてみようという、カイトの勧めであった。










『オオイソ』 にあるミナトの家に移ると、ルリはユキナに連れられて…早速…地元の学校に通う事となった。

ミナトは、一緒に来てくれたカイトも学校に行くように勧めたのだが、カイトはそれを丁重に断った。

カイトも学校へは行った事がなかった。 だが、戸籍上の彼の年齢は18である。

ユキナに 「だいじょ〜ぶだよ。 アンタ、童顔だから歳をごまかせるって♪」 といわれて誘われたのだが…


カイトは、ミスマル家に自分の場所があるのに、わざわざ無理を言って居候させてもらうのだから、と断ったのだ。

その代わりに…ミスマル家で自分は家事手伝いをしていたので…ハルカ家の家事を任せて欲しいと頼んだのだ。

ミナトは、そこまで気をつかわなくてもいいと断ったのだが、それを聞いたユキナは……


「それって、いいかも。 あたし "仔犬" って好きだし…うちの "番犬" 代わりにもなるかもネ♪」


おもわず "鬼畜発言" をしてしまい…うやむやのうちに…今日に至るのである。

実際…カイトの料理の腕が良かったので…食生活は向上したよん♪…とのユキナの感想である。



…ルリは、大切な家族を失なってしまったのに、カイトはどうしてこうも明るくいられるのか不思議に思っていた。










「たっだいまぁ〜!」


「…ただいま…」


まだ夏の明るい夕刻時に、ユキナとルリが今日も一緒に家に帰って来た。


「おかえり〜♪ 外、暑かったでしょ? 冷たいモノを用意しておくからね。」


台所で夕食の支度をしながら、カイトは玄関の方に向かって返事をする。 …すっかり "主夫" をしていた。

二人が二階へ上がって着替えている間に、カイトは冷蔵庫から良く冷えた麦茶を用意する。



縁側にある風鈴が "リ−ン" と澄んだ音を鳴らす。 夏のそよ風が心地いい。

居間のテ−ブルを拭いていたら、いつの間にか、ルリが先に降りて来たようだ。



「…あの…カイトさん…」



ハルカ家に来てから… まだそう経ってはいなかったが …少しだけ気持ちが落ち着いたようにみえる。





来た当初のルリは、生きる気力を無くしてしまったような表情をしていた。

目を閉じるとあの時の事を思い出してしまい、眠れない夜が続いていた。

それでもルリは涙を流す事はなかった。

そんな自分を…まるで "冷たい機械" のようですね…と寂しそうにカイトに呟くだけだった。



今のルリの表情もいつもの様に見えるが、ずっと側に居たカイトには、彼女の気持ちがよく解った。

ルリの冷淡な声の続きを、優しい仔犬顔をしたカイトは黙って待ってあげていた……

…が、そこに階段を急ぎ足で降りて来たユキナの声が鳴り響く。


「どたどたどたカイトちゃん! "今日のごはん" は、な〜にかな?」


思わず破顔するカイト。

ルリは、冷めた視線をユキナに向けた。

ユキナは、ふたりの様子を特に気にする事もなく、用意された麦茶を一気に飲み干す。

そしてカイトは、ユキナとの密かな約束を思い出して、意味ありげな笑顔をルリにみせた。



「まぁ、それはちょっとお楽しみに。(笑)」










「ただいま〜 ちょっと遅くなっちゃった。 ゴメンねぇ〜」


ミナトが帰って来たのは、それから一時間しか経っていない。

ちょうどルリは、カイトに頼まれたモノを買いに出かけている。


「いえ、ちょうどいいタイミングですよ、ミナトさん♪」

「じゃ、さっそく最後の準備をはじめちゃおうよ。 もうすぐ帰ってきちゃうから。」


予定していた計画を、なんとしてもルリが戻ってくるまでに完了させねばならなかった……










ルリは、ユキナのメモに書かれてあった店で買い物をし終わって、夕暮れの河原道を歩いていた。


もうすぐ家に辿り着く…


川の流れる水の音…


辺りから人の声が聴こえてくる…





最近のルリは以前にもまして、ボ−ッとする事が多かった。

いや、以前にも増して、余計な事を考えるようになっているのかもしれない。

学校で学ぶことは余り多くはなかったし、ユキナの友達ともあまり溶け込むことはできないでいた。

今の自分は、過ぎて行く日々にただ流されているのかもしれない。


時々、この世界には自分一人しかいないのではないか、と思ってしまう事もあった。


ふと気づくと、ルリはいつの間にか立ち止まっていた。

ミナトの家はあとすぐなのに、そこに帰ることにまだためらいがあった。

自分でもよく解らない感情だった。


でも… 穏やかな顔をした彼が、そこで待っていてくれる …と思うと、またルリは家へ向かって歩き出していた…










「…戻りました。」


玄関の扉を開けて家に辿りついたルリは、初めて家の中の様子がおかしいことに気がつく。

帰って来たのに、誰も返事が無い。 しかも家の中の明かりが消えていた。


ルリは…まだ自分が夢の中にいるのではないか? と思ったが…突然ハッとして居間へと駆け込んだ。

自分の周りから大切な人がまたいなくなってしまう事に、ルリは恐怖した。















「パ――ンッ」 「パパ――ンッ」

暗闇の中から突然乾いた音が鳴り響く!!


「きゃっ!!」


ルリは思わず悲鳴をあげる。

すると、同時に部屋の明かりがついた。


「おめでとう!!」

「おめでとう、ルリルリ!!」

「はっぴ−・バ−スデ〜、ルリ!!」


そこには、いつもと違うハルカ家の食卓がルリを待っていた。


"14歳の誕生日おめでとう、ルリちゃん"

という、メッセ−ジチョコがのったバ−スデ−・ケ−キが用意されている。


ルリが、居間の入り口でア然とした顔をしているので、三人は "してやったり" 顔で見合わせて微笑んだ。



そう … 今日は "七月七日" で … ルリの "14歳の誕生日" であった。





ルリは、今日が自分の誕生日であったことをすっかり忘れていた。

予想もしなかったみんなの行動に、すっかりひっかかってしまった事に気づくと……


「…ばか。」


『ナデシコ』 を降りて以来、ほとんど口にしなかった(卒業した)言葉を久しぶりに声に出していたのだった。

ひっかかってしまった自分に対してなのか、それとも呆れるような行動をしたみんなに対してなのかは、ルリには良く分からなかった。


けれど、その言葉を聞いたカイトは … 本当に幸せそうな顔をして … ルリに微笑んでいるのだ。

そんなカイトの顔をまともに見てしまったルリも … 思わず顔をそむけて … 頬を赤くしてしまうのであった。



… ほんと、バカばっか …





ちなみに、この計画の発案をしたのは…当然…毎日暇をもてあそんでいた(笑)カイトだった。





(意外と器用な)カイトの手作りケ−キに、14本のロ−ソクがたっている。

そして、そのロ−ソクの火をルリが … "ふっ" と … 吹き消した。


それぞれが用意してあったプレゼントをルリに渡していく。


カイトが作った夕食も、ルリの好きな物だった。


ユキナは、ルリのために歌を披露する。


ミナトは、自分のプレゼントの中身を説明して、ルリとカイトの顔を真っ赤にさせた。(笑)



カイトは、ミナトと一緒に選んだ "藍色の浴衣(ゆかた)" をルリに着てもらうと……



「想った通り、ルリちゃんによく似合っているよ♪」



と、嬉しそうにルリに微笑むのだった。


ルリは… そんなカイトの明るい笑顔を見て安心したのか …自分は一人ではない事に気づいて微笑み返す。


そして、そのまま庭先で …ルリが買って来た… "花火" をはじめたのだった。










去年の七夕は、『サセボ基地』 での長屋(抑留)生活だったが…整備班の仲間達が企画した…

盛大な "花火大会" を楽しく行った。 でも今年は … 少し … しみじみとした感じがした。


線香花火の灯火が、何故かもの悲しく思えてしまう…ルリだった。





…でも… 今日は、嬉しかったです … 久しぶりに夢を見ないで眠ることができそうです …





「いっけ――っ!! ゲキガンシュ−ト!!」

「なんの、ユキナちゃん! こっちは、ロケット・ファンネル…発射ぁ〜、どわっ!! あちち…」


「あんたたち… 怪我してもしらないわよ…」





ユキナと楽しそうに "ロケット花火" を打ち合うカイトの横顔をみて、穏やかな表情を浮べているルリは…



… 心の中で彼に感謝をしていた …












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